長崎大学工学部研究報告第1
4
号 昭 和55
年1
月スポットダンシング状態にあるピーム波の波形歪み
立 居 場 光 生 *
Waveform D i s t o r t i o n o f Wave Beams i n t h e S t a t e o f Spot Dancing
by
Mitsuo T A TEIBA ( D e p a r t m e n t o f E l e c t r o n i c s )
A g e n e r a l s o l u t i o n o f t h e 2 n t h o r d e r moment e q u a t i o n i s e x p r e s s e d i n t h e form o f an i n f i n i t e s e r i e s w i t h a d i f f e r e n t i a l o p e r a t o r
,s t a r t i n g w i t h wave f u n c t i o n s i n t h e s t a t e o f s p o t d a n c i n g . The f i r s t a p p r o x i m a t i o n o f t h e s o l u t i o n i s a n a l Y p e d f o r a g a u s s i a n wave beam and a s p e c i f i c s t r u c t u r e f u n c t i o n o f random m e d i a . The a n a l y s i s l e a d s t o t h e r e s u 1 t t h a t t h e r e a r e t w o t y p e s o f waveform d i s t o r t i o n i n t h e beam wave: t h e d o m i n a n t d i s t o r t i o n i n d e p e n d e n t o f t h e beam p a r a m e t e r s and t h e s u b o r d i n a t e d e p e n d e n t on t h e m . T h i s r e s u l t p r o v e s t h a t t h e c o n d i t i o n s f o r s p o t d a n c i n g t o b e o b s e r v a b l e c a n b e s a t i s f a c t o r i l y o b t a i n e d by c 1 0 s e i n v e s t i g a t i o n o f i n t e n s i t y f
1u c t u a t i o n o f p l a n e w a v e s .
5 7
1. まえがき
波の到達点が不規則に変動する現象は,スポットダ ンシング
(SD)
と呼ばれ,大気中を伝撮する光ビー ム波において容易に観察される。このSD
の性質や機 構を正確に把握することは,光や電波を用いた通信系 の設計や対流圏,電離層といった地球を取り巻く媒質 の遠隔探査を行う上で,不可欠なととである。そのた め,実験的及び理論的に多くの試みが成されてきた。理想的な
SD
の成立条件は,入射平面波の強度分散 が充分小さければ波形はあまり歪まない,という一般 的な考え方に基づいて導かれたものである。従って,本稿の解析は,ビーム波の歪み具合を具体的に与える ことから,先に求めた理想的な
SD
の成立条件をより 直接的に保証するととになろう。特に理論的には,波形は歪まず到達点が変動すると いう理想的な
SD
を設定し,乙のSD
について,その 機構,そのときの波の性質及び測定条件を検討し,一 応の解決を得た1)。しかし,実際には,理想的なSD
lと近い状態のものが測定されるため,波形は多少歪ん でいる。本稿では,乙の歪みが媒質の構造とどのよう に関係しているかを,実用上重要なビーム波に対して 解析する。昭和田年
9
月2 1
日受理*電子工学科
解析はモーメント方程式を基礎とし,摂動法 lとより 行われる。そのため,特定の媒質構造に対してモーメ ント方程式の解を,形式的ではあるが,徴分作用素を 含む無限級数で表す。乙の表現は,平面波入射の場合,
その特殊構造に対するモーメント方程式の厳密解を導 くのに有用である2)。
以下の解析では,時間因子を
exp(
ーj ω t )
と仮定 し,省略する。2 .
基礎方程式58 スポットダンシング状態にあるビーム波の波形歪み 媒質定数ε,μ,σが次式で与えられるランダム媒
質を取扱う。
ε=ε。(1+δε(r,乞))1/2,μ一μ。,σ一〇 (1)
ここで,r=ε遥+ら鮎ε。,μ・は定数,δε(ア,乞)は一
様ガウス過程に従い,その平均値及び相関関数は
〈δε(r,乞)〉冨0{
(2)
〈δε(r十rノ,1と十Zノ)δε(r,2ノ)〉=B(r,乞)
で表されるとする。〈・〉は集合平均を示す。更に,
B(0,0)《1,々♂》1
を仮定する。々は自由空間(ε。,μ。)中の波数,Z・は
β(r,z)から定まる媒質の相関長である。この仮定の 下では,電磁波の偏波の効果を無視することができ,
最初から,スカラー場を考えればよい。その上,前方 散乱の仮定と近軸近似がこのランダム媒質中の伝搬を 論ずるのに有効である。
前方散乱を繰返しながら伝搬する波π(r,2:)の任意
次数モーメント.Mμ.を次式で定義する。
ツ
ル「μレ=〈π駕(εm,乞)π麗*(ま。,2)〉 (3)
m=! n富1
但し,上記号*は複素共役を示す。このMμッは三軸近 似の範囲内でいわゆるモーメント方程式を満足する。
ここでは,以下の議論に必要なμ雪ツに限りその方程 式を示す。特に混乱の恐れがない場合には.MμレをM
と書くことにする。[霧ブ影.(7い塩)]M
m需1
一{書∫:嘘1匝概1歪D倫一
ち,ガ)十D(㌔一 、,zノ)一D(8瓜一8.,z!)一D(㌔一
ち…))〕M
M}。。。一触L。 (4)
但し,
D(7。,z)=・2(B(o,τ)rB(r,乞)) (5)
ク,一ε。∂/∂¢+〜,∂/∂ダ
嶋一画(隔(・。,繍㌔1→ ⑥
m孟1
である。π童。(r,z)は媒質に揺らぎがない(δε(r,の華
0)とき伝搬するであろう波,すなわち,入射波を表
す。
3.モーメント方程式の形式解
変数変換
rm=(εm十rm)/2, r_m=3m一重m (7)
を行って,式(4)を書直せば,次式を得る。
〔霧ニノナ諺1(7。。・・。.m)〕M一」{芽∫:認
ン リ
[訊D(㌦・の九国(D(害㌦+…・の
.+D(乳m
魔肢鼇j+・・…)一D(耽mぎしn+㌔(9}
と書ける。ここで,.B2亀ん(オ=0,1)はそれぞれ D(r,ののβとr 項による媒質の影響を表わしてお
り,次式で与えられる。
滝2 z
{1①
4 0一㌦・の一D侮二一噛・の)]}M(4,)
特に,Z)ぴ,2)を近似的に.
D(r,21)謂う。(乞)ド+62(乞)r4 (8}
で表すことができる場合置)には,式(4!)は
〔器づ圭誰,(・ぺ7耽m)〕M一(恥)施)
+B・(・)孟(晦・L・))M
β・・(・)一二ー∫う・・(の4・1・・一・・1
ゐ㈲一(塩誹 α1)
m=1
施,?{続姫・・蝋帰㌦)
ツ
+4Σ[(r.皿・r.u)(㌔一へ)・+2(耽。・(㌦一へ))ロ〉皿
(r.。・(rバア㌔))]} . α2
rα={r1, r2,…,㍉}β稽.α={r.1,「r.2,…, r.。}
ろ・・(・)一〔・チ朔)Dα・・)].』。/[2(.+1)(ψ+・)璽]2
(13 rに関するフーリエ変換とその逆変換を次式で定義す
る。
⑦(・)一∫ψ(・)・湖4・
ψω一(2・)ザ⑦(・)ノκず4・
式⑨の両辺にフーリエ変換を施し,その方程式に
〔霧+去髪(κ。・・。.m)〕倉ω一瑞(・)路㈲
m=足
倉(o),.。一盒,。(。。,。一。,0)
立 の解倉(o)を初項として反復法を繰返し適用すれば,
ム
式(9)の解のフーリエ変換Mは次式で与えられる1)。
倉(κα・「.α・乞)一篇の(κ。,㌃。,・)・α萄
n驕0
盒(o)=盒!n(κ。,r一α,乞)IA(竃) ⑮
M④一A@)∫:画…∫ひ一1西
〔(A−1(・・)B・(・・)孔(ブ・。。・死。一乞…z1κ。)A(・1))
…(、4−1(2a)B・(㍉)丑(ブ・。1・死。一堵ヂκ・)
A(%)〉〕酌M∴(・。・し。,・)
〈 α⑤
但し,
且(21)一意〔∫1咄(・一α一乞葦ガκ・)認〕
働
である・式α⑤において・丑(ブ・・。∴α一乞qκ・)の・・α
はその中のκαには作用せずに,渥σクκ.,r.α一
乞子κ・)の後に続くκ。の麟A(・・),A(・…)及
砿(ブ隔㌃ゲ≒用κ。)(ブー・・2・…・・一f)などに作用すると仮定している。
4.ビーム波の波形歪み
入射ビーム波は堵=一20に最小スポットサイズω。
をもつガウスビーム波とする。従って,,M曇.及び
・M!nはム
ツ ン 臨(・。・・.α・・)一i箒)卿〔一審「∴鑑
+ブU1(塩・r。m)一包釦⑱
盒・・(κ,r,乞α 一α)一五・exp〔一誓5κ蓋
皿零重
ン レ
+をΣ(・∴。)一鎖5・亀・] (19
皿==1
m=乳
で表される。但し,Aは定数τ砂=ωoV 1十ρ2,1り=2(2:十τo)/(んω2) 〔2①
0
である。光 生 59 式㈲から,M(o)は一般磁で与えられる?
M(o)i㌔,ち。,・)一(2・)憎2り 轤Sκ・…∫4κ。
砿(κα・「一α・乞)・卿{∫逸)[義(㌔
+のκ調]齪一伽・㌦
一∫鵡二一%か倫ゆ{一÷[ト ブ穿)蟻死』2−T(2)(蒙ゴ}鋤
但し,
選書∫1画灘)既丁(1)一蓄
丁(2)=皿 ⑫
4乞2
である。
緕ョに式(19を代入すれば,ビ」ム波のモーメ
(0)を得る。
ントMM(0)i・ぬ・・)一M、。(…㌃…)、+寒心/ω・)
・御
o T/21+レ(T/㎜2)[(景一罫(つ)
・翫。ネブが㌔]2
孤=! m=1
一(T(2) Z)(矯。)2}⑳
強度に関するモーメントは,上式においてr噸駆0 と置くことにより,
M(o)(・ご・・)一M,。(・…)、+。モT/ω・)
・ゆ〔、+。轡輪)・舞(μ,Σ7● 皿)2〕 ⑳ m=1
で表される。観測点(r;のにおける強度のソ次モー
メントは次式となる。ハ4(o)iち・)一(器ブ、+。(券/ω,)
・卿〔 11+ン.(T/ω2)・審・・2〕 ㈲ 以上のM(o)はD(r,の=う(のr2に対するモーメント 0
方程式(4}の厳密解である。従って,.M(o)は理想的
なスポーットダンシング状態にあるビーム波のッ次モ
ーメントを表しており,その状態にある波の統計的性
質はこのM(o)によって完全に定められる3)。 更に,60 スポットダンシング状態にあるビーム波の波形歪み 理想的スポットダンシングを惹き起こす媒質の構造は
D(r,2:)の中に〆項に限られ,高次項72n(π≧2)
は波形を歪ませることも知られている3)。しかも,式
(8)が近似的に成立する場合は,波形の歪みが小さく,
スポットダンシングが観測されることが,入射平面波 に対する解析から,求まっている1)。そこで,式⑧で 与えられる媒質の構造を考え,〆項による波形歪みの 効果を調べることにする。
式α③のM(1)はr4項による一次摂動解であるから,
それを求めれば,波形の歪み具合とビームパラメータ
ω。,2。との関係が明らかになる。強度に関するモーメントに注目すれば,すなわち,r_α甥0とすれば,
M(1)(㌔・・)一 i券∫4喧・・個∫。幽
吻〔一春(T(・)一丁(・1))(ムげ
ツ+ゴΣ・。・κ。〕B・(・・)・ろ(ブ・梅・乞デ1κ。)
m=1
卿〔一辺・毒κ・一丁(・・ 8 .皿 8)(当弟
m=1
皿==1を得る。、7κに関する演算などを行って,上式を整理
すれば,.次式を得る。M(1)笈黶i2詞西…∫4一
興( レブ・Σr・κ =o
m)
m留1
・{(一28々・∫=(・一のV)認)
ま〔 ンκ4+ヨ(κm・κ.m)(・二+や〕
m頓重 瓢>m
+(去∫τ(・一・ )36,(・・ 0)認))甑〔(ぞプ
(一4(κ[ロ●κo)2+3(…塩)(・も+・芸)一2・塩・り
一2鞭の一げ)8幅)〕}
(κα,乞)〈(0)
・M
ビ ン
ー{(一翻:@一の5姻肱〔7鑑
ン
+Σ(7r ●7r m 口)(〆㌔+へ)〕+
n>m
レ ツ
(去∫1(一・ )36・(・ )d♂)ΣΣ
〔(
0
ぜ4
)2(一4(7r ●7r m n)
皿=1n>皿
2 十3(7, ・7,)
・(7r2十7r 2)一27r27r2
M n mn)一8(誓)
・(7r ●7r m
n)〕}Mω)(㌔・め
㈲ 式㈲から観測点(r,τ)における強度のモーメント を計算でき,波形歪みの程度を知ることができる。こ こでは,簡単のため,点(0,2)において強度のモー メントを計算し,波形歪みとビームパラメーターの関 係を検討する。式⑳に式㈱を代入して,微分演算を行 い,㌔=0,彿謬1,…,ツと置けば,次式を得る。
鍔器専一〔書(翻(1撫器が))
・( 11+レ(T/測3))〃+ゆ一・)乃〕
但し,
ん一一
・逅F一・ )3あ(・ )4・0
h 一一 ・辜[・(・一・・)・う・(の4ガ
0
Z》」のとき,
Zo≧Oのとき,
ゐ窪h
(27)
e8)
⑳
⑳
箭・≦蓋 61)
である。式6①はD(r,のの性質から導かれる。式侶1)は
付録で与えられている。
式伽の右辺がD(r,21)のr4項による波形歪みの効 果を示している。その内,第一項はビーム波のスポッ
トサイズの有限性に依るが,第二項はビームパラメ
ータに全く関係なく波が等しく受ける波形歪みの効果を表す。第一項のッん に掛かる項は全て1より小
さいので,式6①及び(31)を考慮すれば,ツ≧2では第二項〉第一項の関係が成立し,りが大きくなるに従って,
第一項を無視することができる。平面波入射(ω0→◎O)
の場合,第一項醤0となり,第二項だけが効く。以上 のことから,平面波に対する波形歪みの解析が重要で
あるといえよう。式⑧の近似が有効である場合には,
h《 11 132>)
が成立するので,式(3①の関係から,ン雲1,2に対し
(0)
(0)
, M22=M
(鋤
M11=M
11 22
立居場光 生
となる。つまり,ビーム波の強度が理想的スポットダ ンシングに近い状態で分布する。条件働が入射平面波 に対する解析から導かれたものであることから,平面 波強度の解析により先に求めた理想的スポットダンシ ングの成立条件1)は,一般の波に対して有効である ことが定量的に明らかになった。
5.むすび
モーメント方程式の一般解を,形式的ではあるが,
理想的スポットダンシング状態の解を初項とする無限 級数で表示した。従って,この表現の第二項は,理想 的スポットダンシングに近い状態にあり,波形の歪み を伴う波の挙動を示す。この第二項をビーム波入射の 場合に解析し,波形歪みとビームパラメータとの関係 を中心軸上で検討した結果,次のことが明らかとなっ た。ビーム波のスポットサイズが有限であるために受 ける波形歪みよりも,波が空間的に一様に被る波形歪 みの方が大きい。このことは,先に平面波強度の解析 から得た理想的スポットダンシングの成立条件が一般 の波に対して充分有効であることを具体的に裏付けた
ことになる。謝辞本研究は一部昭和54年度放送文化基金(代
表者九州大学青木和男教授)による助成を受けて行っ たものである。日頃御指導御忌豪いただく安浦亀之助 九州大学教授に感謝する。
文 献
1)M.Tateiba, An exact solution of the
follrth−order moment equation for a plane wave in a particular case , Summaries of
Papers,19781SAP,419−422(Aug.1978).2)M.Tateiba, An intensity probability−den−
s量ty function of plane waves propagated through random media , URSI−Symposium,
Seattle,72(Jun.1979).
3)M.Tateiba, Mechanism of spot dancing IEEE Trans.,AP−23,493−497(Ju1.1975).
付 録
¢=22/(々ω1),¢。露2Zo/(々ω1)と置けば,
ユ
券一(22ゐω20)〔・+(2(誹))〕
の=1+(必十諾。)・メ≧0
と書ける。上式を∫(のと書き,¢について微分すれ
ば、
ア(諾)一〔罐聯]・
となり,∫(¢)は¢=v!1+エ2。で最大値ん。。=
壱V 1+必2。 [1+τ。+謬2。〉!1+π2。}1をもつ。
従って,¢。≧0のときん。.≦%,すなわち,
2乞/@ω2。)≦ろうとなる。