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ドイツ新貸借対照表法 と経済的観察法

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(1)

ドイツ新貸借対照表法 と経済的観察法

佐 藤 誠 二

は じめ に

ドイツ貸借対照表法の領域 において、 しばしば論議の対象 となっているもの に経済的観察法 (wirtschaftliche Betrachtungsweisё)をめ ぐる問題がある。

今 日、経済的観察法 は、法規範の解釈 と法規範が適用 され るべ き事実関係 の判 断のための一般 に容認 された法的方法 (eine allgemein anerkarlnte rechtliche

Methode)。

と理解 されている。 この法の解釈・適用の「法的方法」 としての経 済的観察法が、純粋 に経営経済学的視点 にたつ経営経済的観察法 との対比 にお いて、 どちらが貸借対照表法 における法解釈原理の主導的地位 を獲得 しうるか について従来、論議が繰 り広 げられてきた。

こうした論議 として、H・バ イゼ とD・ シュナイダーの最近の論争のは記憶 に あた らしい。 シュナイダーは、正規の簿記の諸原則が貸借対照表の法 目的に合 致す る規定であるとした連邦財政裁判所やバイゼのテーゼに対 して、経営経済 学者の立場か ら、法 には演繹可能 な年度決算書 目的が欠 けてお り、む しろ、法 に拘束 されない経験科学たる経営経済学が演繹能力 ある貸借対照表 目的 と正規 の簿記の諸原則 の法発見 を生み出す ことが可能であると論 じた。これに対 して、

連邦財政裁判所判事であるバイゼは、このシュナイダー説 に反論 し、「経営経済 学の正規の簿記の諸原則 を含 めた貸借対照表法上の諸規定 に対す る望 ましい協 力 は、それが法律的解釈の容認 されたルールに基づ きなされ るときに常 に成功 す る。」とい う経営経済学 と貸借対照表法学 との「学際的協働

(interdisziplinare

Zusammenarbeit)の」の視点か ら、正規 の簿記の諸原則 の法発見 に対す る経済 的観察法の重要性 を唱 えた。 この二人 の論争の焦点 は、貸借対照表法 (と りわ け正規の簿記の諸原則)の法発見 に とって法的方法たる経済的観察法の是非 を 問 うことであった。

ところで、1985年新商法典貸借対照表法

(以

下、新貸借対照表法)成 立以降、

f354)I

(2)

法経研究 (1994年

経済的観察法 をめ ぐる論議 は新たな展開に入 っているといえる。経済的観察法 の問題 は貸借対照表法の計上能力・ 評価規定の具体的な解釈問題 として、論議 が一層進展 して きている。 とくに、経済的観察法に基づ く貸借対照表能力の新 しい問題領域 として、諸論者 はリース(Leasing)、 信託関係 (Treuhandverhalt̲

nisse)、

委託取 引 (Kommissionsgeschate)、 所有権 留保 (Eigentulnsvorbe‐

halt)、 譲 渡 担 保 (Sicherungstibereigung)、 ペ ン ジオ ン取 引 (Pensionsges‐

chafte)、

引当金(Ruckstellungsbildung)、 用役権(Nie3brauch)、 ファクタ リ ング (Factoring)等々 を列挙す る。。これ らはいずれ もがその処理の不確定な 現代会計実務の緊要な解決課題である。ただ し、T・ グルーバー も述べるよう に、経済的観察法 と貸借対照表能力問題 との関係 については、新貸借対照表法 における演繹的正規の簿記の諸原則 の導入 によって、 この関係 を繋 ぐ法発見の 目的論的方法の前提が高め られたにせ よ、両者の関係の解明はまだ端緒 につい たにす ぎない

6、

経済的観察法 は今 日、現代貸借対照表法の法解釈・ 適用の方法 として重要な 地位 を有 していると同時 に、なお、解決すべ き問題 を含んでいるといえよう。

そこで、以下では、 まず、経済的観察法の法的地位 について素描 し、その上 で新貸借対照表法 と経済的観察法の関係が1985年の ドイツ商法改正 を経 て ど の ように取 り扱われ るか を論 じることによって、 ドイツ会計制度の現代的課題 にアプローチすることにしたい。

1)Thomas Gruber,Der Bilanzansatz in der neueren BFH‐ Redltsprechung,

1991,S.5‐

6.

2)Heinrich Beisse,Zunl Verhaltnis vOn Bilanzrecht und Betriebswirt schaftlehre, in: Steuer und Wirtschaft,1984/Die Wirtschaftliche

Betrachtungsweise bei der Auslegung der Steuergesetz in der neuem deutschen Rechtsprechung,in: Steuer und Wirtschaft,1981/Tenden̲

zen der Rechtsprechung des Bundesfinarlzhof zurn Bilarlzrecht,Deuts‐

ches Steuerrecht,1980.

Dieter Schneider,Bilarlzrechtsprechung und wirtschaftliche Betrach―

tungsweise,in:Betriebs‐ Berater,1980/Rechtsfindung durch Deduk‐

tion von Gnmdsatze OrdnungsFrla3iger Buchfmung aus gesetzlichen Jahresabschlu3zwecken P,in:Steuer und Wiltschaft,1983.

2 (353)

(3)

ドイツ新貸借対照表法 と経済的観察法 3)Heirlrich Beisse,Zum Verhaltnis von Bilanzrecht und Betriebswirt

schaftlehre,a.a.0。

,S.14.

4)Ebd.,S。13.

5)Welf Muller,Die Gmndsatz6 0rdnungsma3iger Bilanzierung und ihre Kodifizierung nach neuem Bilanzrecht,in:Mellwig/Moxter/Ordel‐

heide lhrsg。

),Eirlzelabschlu3 und Konzernabschlu3,1988,S.,23‐

24.

Harald Schnlidt,Handels‐ und Steuerbilanz,1991,S.,12‐17.

Rudolf Fedellllann,Bilanzierung nach Handelsrecht und Steuerrecht,8.

Auflage,1990,S。,184‐ 185。

6)Thorrlas Gruber,a.a.0。 ,S.5 Ш

ld 7.

I.経済的観察法の現代的意味

経済的観察法が はじめて法律上、成文化 されたのは1919年ライヒ租税通則法 (Reichsabgabenordnung)に おいてである。経済的観察法 は、1919年ライ ヒ租 税通則法第

4条

における「税法 を解釈す る場合、その目的、その経済的意義及 び諸関係の展開 を考慮 しなければならない」の規定 を根拠 とした、税法の解釈、

適用の方法であった。この規定 は1931年改正 のライ ヒ租税通則法第

9条

にもそ の まま引 き継がれ、その後、1934年租税調整法(Steueranpassmggesetz)の 定 をもって、第

1条

において、新たに次の規定 に置 き換 えられた。

「税法 は国家社会主義的世界観 に従い、解釈 されなければな らない。その

場合

(Dabei)、

民族観、税法の目的 と経済的意義、及び諸関係の展開を考

慮 しなければならない。

構成要件 の判断 (Beurteilung von Tatbestanden)│こ ついて も同様 に妥当 す る。」

上の第

1条

規定のうち第

1項

は、第二次大戦後の 1945年 9月20日付管理委 員会法によって、ナチス立法の失効 を目的に削除されたが、同条第

2項

及び第

3項

はそのまま維持され、1977年 のライヒ租税通則法の全文改正によって新た な租税通則法の制定されるまで、祖税法の解釈・ 適用の基軸的条文 としての地 位 を有 した。つ

しかし、新たに制定された 1977年租税通則法では経済的観察法を根拠付ける 規定は削除されるに至った。したがって、1977年租税通則法は、税法の解釈及 び事実要件の判断に関 して、何 ら原則規定を設けていない。ただし、その場合

(4)

法経研究 (1994年)

で も、経済的観察法が今後 も原則上、規準 となることについては疑 いはない と される。財政委員会 は削除の理由について次のように述べ る。「 こうした解釈原 則が将来、 もはや妥当 しない ことを意味するものではない。む しろ、本委員会 は、租税法 において も、他の法領域 と同様 に、法典化する必要のない一般 に適 用 され る解釈原則 として理解 している幼。」

したがって、グルーバーによれば、今 日、経済的観察法 は税法に特有の方法 ではない。経済的観察法 はむ しろ、立法者が経済的事態 に対 して規制 ないし把 握 のために法律上の事実要件 を生み出す、すべての法領域 において必要である。

た しか に、経済的観察法の発展史 はその特有の法律上の規範化 に基づ き、主に 税法の領域 のなかで深 められて きた。 しか し、同時 に、法発見の目的論的方法 の適用形態 として、経済的観察法 は商事貸借対照表法 において も必要である。

折 に触れて、経済的観察法 は独立 した商法上の正規の簿記の諸原則 として もま た論 じられ る。 それ以外の適用領域 は、その他の商法ならびに民法、会社法、

経済法のなかにみ られ る3)と されるのである。

こうして、経済的観察法 は今 日、すべての法領域 において法解釈 と適用に際 し採用 され る一般 に容認 された法的方法であると解釈 されている。 しか し一方 で、経済的観察法の具体的内容 をどのように捉 えるか とい うことに関 して一義 的定義 を欠いていた。経済的観察法の具体的内容 はきわめて不明確であ り、税 法の解釈 に とっての成句

(Fo.11lel)と

して経済的観察法 は、多 くの法学者 によっ てむしろ、無用の もの として もみなされた という。。

しか るに、新貸借対照表法の成立の前後、連邦財政裁判所判決 と経営経済学

(貸

借対照表論)では、貸借対照表法領域 において この経済的観察法 を基礎 に 活発な論議がなされて きているの も事実であろう。それは何故か。

次 に

A・

モクスターの所論りを素材 に、1985年新貸借対照表法 との関連で この 経済的観察法がいかに考察 され るのか について検討 してみよう。

1)Helmut Urbas,Die wirtschaftliche Betrachtungsweise im Steuerrecht,

1987,S。 ,14.

2)Deutscher Bundestag,Bericht urld Antrag des Finarlzausschusses(7.

Ausschus),D■lcksache 7/4292,S.15。

3)4)Thomas Gmber,a.a.0。,S.8.

5)Adolf Moxter,Zur wirtschaftlichen Betrachtungsweise im Bilarlzrecht, 4 (351)

(5)

ドイツ新貸借対照表法 と経済的観察法 in:Steuer und Wirtschaft,1989,232‐

241.

.新貸借対照表法の原則構造 と規範 目的

モ クスターは、経済的観察法 を目的論 的解釈 の変種 (eine Spielart der teleologischen lnterpretation)1)と しての法的観察法 とみなすのであって、そ れ故、法律遊離の純粋 な経営経済的観察法 とは考 えない。 ここで彼のい う経済 的観察法 に基づ く貸借対照表法規範の解釈 とは、貸借対照表法規範の経済的意 義 を考慮す るのこと、貸借対照表法規範 をその経済的意味 に基づいて、ない し経 済的現実 を指向 したその意義 に基づいて

3)理

解 す る こ とを意味 してい る とい

4)。

そこで、貸借対照表法が「経済的観察法のひ とつの専門領域 (eine Domane der wirtschaftlichen Betrachtungsweise)D」 であるな ら、それは貸借対照表 法規定が経済的規範 目的 を もつか らであ る。経済的観察法 は現実 の規範 目的 (NollllZWeCk)を めざしてお り、したがって、貸借対照表法規範か らして経済 的観察法が何 を意味するかは現実の規範 目的 と一体 になってのみ具体的な もの となる。しか も、この現実の規範 目的 とは、貸借対照表法の原則構造(Prirlzipien‐

geftlge)と その意味関係 を認識可能 とさせ るような貸借対照表法規範の構造分 析 をな しえて、 はじめて明確 になるとしている6)。

モクスターは1985年貸借対照表指令法

(以

下、新貸借対照表法)の成立の意 義 を、貸借対照表法の中核 において「すべての商人 に適用 され る利益算定法」

とい う狭 い意味 において、原則構造 を明確 に保証 し、法的安定性

(Rechtssicher‐

heit)を繋 ぎ止めた点 にみているつ。そして、彼 は、実現原則・不均等原則並び にそれ らの原則 と関連す る客観化原則 にみ られる原則構造か ら、新貸借対照表 法の規範 目的が明 らかであるという。

それでは、新貸借対照表法 における原則構造 と規範 目的 との関連 はどう捉 え られ るのだ ろうか。

まず、モクスターは年度決算書の情報提供任務 と貸借対照表法の規範 目的 と の関係 について こう論 じる。商法典第242条

1項

、第246条

1項

における、

商人が年度決算書 を通 じて「 自己の財産 と自己の負債」並びに「費用 と収益」

との関係 について毎年、情報 を伝達 しなければな らない とする規定か らす ると、

財産、負債、費用及び収益 という法概念が年度決算書 に対するこの法律上の情 報任務 を考慮 した場合 にのみ、十分、解釈 され うることは明 らかである。 しか

(6)

法経研究 (1994年)

し、モクスターは、年度決算書の情報任務か ら直接的に、財産、負債、費用及 び収益 という法概念の解釈 を推論 しようとす る種類の経済的観察法 は、いつい かなるときにも用いない という。彼 は法が実際に意図す る年度決算書の情報任 務 は法規範 自体か らのみ認識可能であるとい う。個別規範 は常 に、それが貸借 対照表法原則 の

(開

かれた)システムのなかに秩序づ けるように規定 されるの であ り、今 日その大筋 において貸借対照表指令法 に対 して明確 になっているシ ステム と規範 目的の と規範内容 を同時に確定することが重要だ、 と説 くのであ 8)。

(1)新貸借対照表法 における原則構造

さて、 こうした観点か らモクスターは現行 の貸借対照表法の原則構造 を取 り 上 げる。 その場合、貸借対照表法 を構成する第一番 目の基本原則が実現原則で

ある。

a.新貸借対照表法 における実現原則

モクスターは、貸借対照表法では数世紀 にわたって財産算定 と利 益算定 とい うふたつの基本的に異なる規範 目的が相互 に戦わ されてきたが、我々はこの対 立 を正 し く理解 しなければな らない、 とい う

0。

1884年株式法 は、株式会社 に対 して、調達価値 もし くは製造価値 を上回る時 価での評価 とい う意味での財産決定 を排除 したが、 その他の法形態 を採用す る 企業 に対 してはそうした時価評価の可能性 は最近 まで重要な注釈のなかで擁護 されて きた。 しか し、 この種 の会計上の財産算定 は貸借対照表指令法で終止符 が打たれた。実現原則 と財産対象物の価値上限

(負

債の価値下限

)と

しての調 達価値 ない し製造価値 は、いまやすべての商人が考慮 しなければな らない。法 律上 の貸借対照表 目的 としての財産算定 は最終的 に利益算定 によって排除 され たのだ とい う1° )。

ただ し、モクスターによる と、法律上の貸借対照表 目的 としての利益算定 も 正 し く理解 されなければならない。た しかに、 この貸借対照表法上の利益 は相 変わ らず、純財産増加である。 それ は、所得税法第

5条

1項

では、当該経済 年度末の経営財産 と前経済年度末の経営財産 との差額 に払込額 を加算 し払出額 を減算 した もの と規定 され る。 しか し、 この経営財産の算定の性質 を支配する 基本的貸借対照表法原則である実現原則 は、貸借対照表法上の利益 を、 もはや

δ (349)

(7)

ドイツ新貸借対照表法と経済的観察法 純財産ではな く、販売 によって生ず る余剰 た る売上利益

(Umsatzgewim)と

てみなしている。 そうした販売 によって生ず る余剰 もまた、た しかに純財産 を 増加 させ、 それ故純財産増加 として結果す るが、それ は純財産増加 と等価 され えない。現実の会計上の純財産増加 は時価 を指向 した財産算定 に基づいている。

これに対 して、現行法 に特徴づ ける実現原則 よつて支配 され る経営財産の算定 は、財産算定 を目指す ものではな く売上利益算定 とい う意味での利益算定 を目 指 している。貸借対照表法の基本原則 の理解 にとっては、(時価指向的)財産算 定 と

(売

上指向的)利益算定の この区別 は決定的である11ヽ

モクスターはこのように、現行の貸借対照表法の規範 目的は売上指向的な利 益算定 にあるとして、その場合、実現原則か らは調達価値原則 のほかに、売上 依存的な収益実現原則 (Das Prillzip der urrlsatzabhangigen Ertragsrealisie‐

rung)と

売上依存的な費用の期間帰属原則 (Das Prinzip der umsatzabhan‐

gigen Aufwandsperiodisierung)が導出 され るとい う。

まず、売上依存的収益実現原則 に関 して、モクスターは営業年度利益 はふた つの構成要素、積極側要素の収益 と消極側 の要素たる費用

(商

法典第246条

1項

)のうち、収益 は会計上、財産増加 ない しは負債減少 として現われ るが、

それ は基本的には貸借対照表法上の意味での売上 を前提 とするという。例外的 な場合、収益 は過去の営業年度 において過多 に見積 もられた費用の修正 として もあ らわれ る。例 えばヽ もはや必要でない引当金の取崩や財産対象物の価値低 下 によってそれは生ず る。ただ し、 そ うした費用の修正 によ り生 じた貸借対照 表利益 は、現行法 に基づ く純財産増加 を売上利益 としてみなす ことを変更 させ ものではない という。過多の費用評価 によって前営業年度 に獲得 された売上利 益 は低 く表示 され るが、 この欠陥は次営業年度 において修正 されなければな ら ない。次営業年度 にあ らわれ る帳簿収益 は前営業年度 において獲得 された売上 利益の一部 にほかな らないか らである

10。

次 に、売上依存的費用の期間帰属原則 に関 しては、モクスターは、費用 は会 計上、財産減少ない し負債増加 として現われ るが、貸借対照表法上の利益の基 礎構想〜販売時 に生ず る余剰

(売

上利益)〜は、費用が収益 と同様、売上高に 依存 して計上 され ることに合致 している とい う。費用 は原則的に、 その費用が 帰属す る収益の実現 した営業年度の年度決算書 において把握 される。費用はそ れ故年度決算書 における相応の支払の有無 に関わ りな く計上 されなければな ら ない (商法典第252条

1項 5号

)。 支払

(支

)は

別の営業年度 において費用

(8)

として生ず ることもで きる。売上年度 よりも以前の営業年度 に支出が存在する な らば、それは売上年度 までは財産対象物 ない し計算限定項 目として積極側計 上 され、売上年度 においてはじめて費用が計上 されなければならない。売上年 度以降に生ずる支出 (例えば保証給付 に対する支出のように)は、 これに対 し て、既 に売上年度 に消極側計上 され る。つ まり、売上年度 に費用 として計上 さ れ るという13)。

b。 実現原則 を具体化する客観化原則

以上みた実現原則 は客観化原則 を通 じてより具体化 され る。 まず、積極側計 上に関わ る客観化原則 について、モクスターは次のように述べ る。

「貸借対照表法上の積極側 は基本原則

(実

現原則

)と

それに関連す る客観化 原則の協同か らのみ十分説明することがで きる。基本原則 とそのふたつの下位 原則

(売

上依存的収益実現、売上依存的費用期間帰属)から、利益作用的項 目

(財

産価値ある利点 《ve.11lёgenswerter Vorteil》

)と

いう一般的意味で、財産 対象物ないし(積極側

)計

算限定項 目としてなにを形成するかが明 らかである。

この広い積極側概念は、

(客

観化制限 として作用する

)客

観化原則 (財産対象物 の把握 可能性 《Greifbarkeit》、分 離 可能性 《

Isolierbarkeit》

、引渡 可能性

ertragbarkeit》、固定資産たる有償取得の無形財産対象物 《商法典第248 条第

2項

》、計算限定項 目の一定期間 《商法典第 250条 第

1項

1文 》)│こより制 限される。財産対象物の概念に潜んでいる「財産価値ある利点」の構成要素 と 積極側計算限定項 目の概念に潜んでいる将来「費用」の構成要素は実現原則に 基づいてはじめて決定できる。実現原則は例えば、把握可能で、分離可能、引 渡可能な物件 もしくは債権が、この物件及び債権が上述の意味で利益作用的で ない限 り、積極側計上 しうることを妨げるのである10。

モクスターは、勿論、消極側でもまた、実現原則から直接的に生ずる売上依 存的費用期間帰属の原則 を重要な客観化諸原則が制限しているという。彼はこ

う述べている。

「負債は、財産対象物 と同様に、分離可能 (独立 した評価能力)且つ、把握 可能でなければならない。消極側計上義務ある負債は、法の発生史から説明す べきふたつの例外 (商法典第 249条 第

1項 2文 1号

維持補修費引当金 と廃石 物除去費引当金》)はあるが、商人の外部義務の存在 という形態での把握可能性 を前提にしている

(そ

の場合、純粋 に事実上の外部義務でも十分である。商法 θ (347)

(9)

̲

ドイツ新貸借対照表法 と経済的観察法 典第249条

1項 2文 2号

法的義務 を伴わない保証給付引当金》)。

しか し、将来支出が外部義務 として示 され るな ら、商人 は特別の配慮 をもっ て、それが決算 日に既 に経済的に発生 しているか どうか吟味 しなければな らな い。経済的発生 を原則か ら導いて法解釈 を行 なうな らば、それは売上高依存的 費用期間帰属の意味 においてのみ把握 され うる。経済的発生のいかなる、それ に替わる解釈 も、売上依存的費用期間帰属の原則 に明 らかに遡及 しないし、 も しくは法か らの根拠 を欠いている。一般的な法律上の客観化要請 に とって、い ついかなる場合 も、営業年度売上高

(す

でに計上 された収益

)と

将来の支出 と の関係 は、 この支出が ここの売上行為の直接的結果 としてみなされないように 把握可能 な らば満たされ るのである (例えば、保証給付義務 に対する引当金)。

商人 はしか るに、個別の経過営業年度 に実現 された売上活動の直接的結果 を 形成 しない、従 って、む しろ営業年度売上高の負担 として総 じて生ず るような 外部債務 もまた消極側計上 しなければな らない

(例

えば年金債務、記念報奨金 支払い義務、年度決算書作成義務)。 その ような消極側項 目はその計上が直接、

法か らは指示 されない限 りには、 しばしば、特別の もの として、 まさに客観化 局面の もとで問題視 され る。こうした思考 は保証給付引当金の場合 とは異な り、

相応の支出の一定年度の売上高への帰属計算がその まま、押 しつけることのな い限 りには至当である15、

C.新貸借対照表法 における不均等原則

モクスターにあって、第二の基本原則 となるのが不均等原則である。 この不 均等原則 に関 して、彼 は次のように述べている。

すなわち、彼 によると、現行法 に基づ けば、時価 は原則上、それが財産対象 物の調達価値 ない し製造価値 を下回る場合

(低

価原則 《Niederswertprirlzip》)、

ない し負債 の調達価値 ない し製造価値 を上 回 る場合 (最高価値原則 《ch‐

stwertprinzip》 )に規準 となっている。法 はその限 りで、慎重 に、利益の売上結 合 をゆるめている。一定の費用 は収益の場合 とは異 な り、 それが法の意味 にお いて「実現 している」場合ではな く、法の意味において「発生 している」場合 に認識 され る。 この費用 は財産対象物の時価減少ない し負債の時価増加 にによ

り発生す るのである (商法典第252条

1項 4号

)10。

この場合、モクスターによると、現行法では、不均等原則 は主に、時価ない し時価 によ り具象化 される財産 を写像す るとい う任務 を有 していない とい う。

(10)

法経研究 (1994年

不均等原則 はむしろ、損失見越 しに役立つ。財産対象物の場合 はよ り低 い時価、

負債 の場合 はより高い時価が もちい られ ことによって、その費用の計上 は関連 売上高が実現す る将来の営業年度か ら、その費用の発生 した営業年度 に早 めら れなければな らない とい うのである1つ

d.不均等原則 を限定する客観化原則

ところで、モクスターは以上のような不均等原則 も客観化諸原則 によって、

貸借対照表法ではよ り具体的な もの となるという。

そうした不均等原則 に関連する最 も重要な客観化原則が、商法典第252条

1項 3号

に規定 される決算 日原則(Abschlu3stichtagsprirlzip)である。 この決 算 日原則 によると、商人 に とっては、決算 日に既 に具体化 されているような、

将来実現す ることになる損失が期待 され る。 また、第252条

1項 4号

におけ る価値解明原則 (Wertauttebungsprinzip)は 、決算 日以降に生ずる情報が決算 日に与 えられた価値関係 に対 して どの程度、認識 され るべ きかを明 らかにす る。

252条

1項 3号

の個別評価原則 (Einzelbewertungsprirlzip)に よれば、財 産対象物 と負債 とがその都度、個別 に評価 されなければな らない。それ故、一 定の財産対象物 と負債の場合 に予想 され る損失が、その他の財産対象物 と負債 の場合の

(未

実現)利益 によって相殺 され ることを禁 じている。第252条1

2号

における企業継続性原則 (Fortfih田嘔sprinzip)は 、財産対象物 と負債 の決算 日価値が原則的に企業継続性の仮定の もとで考慮 されなければな らず、

従 って

(旧

学説 とは異 な り)特別 に価値 を決定す る企業破産への影響 は考慮 さ れ ない ままで あ る と規 定 す る。 さ らに、第252条

1項 6号

の継 続 性 原則

(Stetigkeitsprirlzip)に基づいて、一度選択 された評価方法 は客観化の要請か ら、慎重性原則(Vorsichtsprirlzip)と の コンフリク トを生 じないか ぎり維持 さ れなければな らない18p。

(2)新貸借対照表法の規範 目的

さて、モクスターは、上 にみた ような現行 の計上及び評価原則の構造が実現 原則 と不均等原貝

Jと

い う二つの基本原貝J、 並びにこれ ら原則 とその都度関連づ けられ る客観化諸原則 によって決定 され るな らば、貸借対照表法の計上及び評 価規範 の規準的意味 と目的についてはほ とん ど疑 いは生 じない とい う。 それ ら の規範 は徹底 して支配的見解 に合致 しているように、「慎重 に算定 された、分配

 (345)

(11)

ドイツ新貸借対照表法と経済的観察法 可能及び配当可能利益を決定する (den vorsichtigemittelten,verteilungsfa‐

higen tlnd ausschuttbaren Gewim zu bestimmen)」 ことに役立っているとい う。 しか も、モクスターにあっては、法律上の計上 と評価の規定、つまり、法 律上の利益算定規定の意味 と目的は「利益 としての引出可能額を決定すること (einen als Gewinn entziehbaren Betrag zu ermittein)」 にみなければなら ず、そのことは収益税法においても直接的にみることができる (所得税法第5 条以下

)と

している。 しか も、収益税法がその計上 と評価規範のなかで、実質 的に商法 との結びつ きを可能 とす るな ら、それはまさに、商法 において もまた

「利益 としての引出可能額」の規定が存在 していることに基づいているという のである。商法上の利益の売上利益への限定、すなわち純財産増加 の排除は、

配当可能性 にとって重要な流動性構成要素だけを認識 させ るのでな く、不均等 原則 に合致 した損失見越 とまった く同様 に、引出可能額が とりわけ慎重 に算定 され るとい う思考 に基づいている。法 は責任意識 ある商人 に対 して、かれに とっ て債権者保護利害 を代理す る引出額 に関する起点 を提供す る。会社関係ない し 利益分配協定な らびに債務保証制限の場合、貸借対照表法上の利益 はさらにそ れ を上回 り、支払請求権 の根拠 ないし配 当制限の測定 にも役だて られ るとする のである10。

1)Heinrich Beisse,Ztlm Verhaltnis vOn Bilanzrecht lmd Betriebswirt‐

schaftlehre,a.a.0.,S.l und 12.

2)ders。 ,HandelsbilaFIZreCht in der Rechtsprechung des Bundesfinarlzhofs,

Betriebs¨

lBerater, 1980,S.637u.645.

3)ders。,Die wirtschaftliche Betrachtungsweise bei der Auslegung der Steuergesetz in der neuern deutschen Rechtsprechung,a.a.0。 ,S.1.

4)A.MIoxter,a.a.0。,S。

232.

5)Heinrich Beisse,Die wirtschaftliche Betrachtungsweise bei der Aus‐

legung der Steuergesetz in der neuern deutschen Rechtsprechung,

a.a.0。

,S.l und 12.

6)A.Moxter,a.a.0.,S.232u.241.

7)Ebd。

,S.241.

8)9)10)11)Ebd.,S.233。

12)13)Ebd。

,S.234.

(12)

法経研究42巻 (1994年)

14))Ebd.,S。

235.

16)17)18) Ebd。,S.236。

19)なお、モクスターがかかる貸借対照表法上の目的を今 日、貸借対照表 目的 とし てよ く引 き合いに出される負債補瞑統制や E.シ ュマーレンバ ッハの意味での 動的貸借対照表観 とは明確に区別 している点には注意なければならない。モク スターは、法の発展において、負債補填統制は、実現原則がなお撤回される場 合 に限 り、商法上の貸借対照表の意味 と目的 として支配的ではある。しかし、

われわれが貸借対照表 を介 して、積極側財産価値 を消極側負債 によって補填す るか どうかを経験するなら、その場合、実現原則 を誤用 して慎重な見積 もりを お こない、市場価格 を通 じて具体化 された時価 を計上する思考は存在 しない と い う。他方、モクスターは引出可能額 として利益 を規定することによって、貸 借対照表法 と今 日支配的な貸借対照表学説 はシュマーンンバ ッハの意味での 動的貸借対照表か らもまた隔たっているという。たしかに、そこでは利益算定 が存在するが、しか し、引出可能額 としての利益ではな く、企業発展の指標 と

して、またそうした意味での比較可能利益だか らである。この貸借対照表任務 は本質的に現行法 に認 め られるもの とは異なる、計上及び評価規定 を要請す る。従 って、どんな状況の もとで も、われわれは今 日、現行貸借対照表法に対 する経済的観察法 と動的貸借対照表観 とを等値 してはならない とするのであ る。

 Ebd。

,S.236‐

237.

Ⅲ 。経済 的観察法 に依 る貸借対 照表計上 と評 価

既 にみて きた よ うに、経済 的観察法 は現実 の規範 目的 を考慮 す る。モ クスター は貸借対 照表法 にお ける この規範 目的 を「慎重 な る利益算定」 にみてい る。 そ れ に よって、経済的観察法 は法形式的観察法 とは異 な る貸借対照表計上・ 評価 規 定 の解釈 を得 る ことにな る。 モ クス ター は法形式的観察法 と経済 的観察法 と の相違 について以下 の ように述 べ てい る。

「法形式的観察法 において、債権 と負債 は、 それ らが法的 に発生 してい る と きに貸借対 照表計上 され、価値額 も法形式 的観察法 の もとで は民法構造 に基 づ き決定 され る。経済 的観察法 の場合 、民法構造 は貸借対 照表計上時点 と価値額 に影響 を及 ぼす一要因 にす ぎない。従 って、経済 的観察法 において決定 的であ るの は、法律上 の貸借対 照表原則 が明確 に してい る財産対 象物 と負債 の経済 的 存在 ない し財産対 象物 と負債 の経済 的価値 で あ る1ヽ

12 (343)

(13)

ドイツ新貸借対照表法 と経済的観察法 この相違 は法形式的観察法が現実の規範 目的を遮 る法構造

(民

法構造)を 向す るために生ず る。 それでは、新貸借対照表法 における計上・ 評価規定 はこ の経済的観察法 と法形式的観察法 との対比の中で どう解釈 され るのだろうか。

い くつかの事例 をもって説明 してみよう。

(1)積極側計上

a)債権 の積極側計上

法形式的観察法 によれば債権 は民法上の請求の発生 をもって、積極側計上が 認 め られ る。 これに対 して、経済的観察法 においては、債権が「十分具体的で

(hirlreichend konkretisiert)」

「経済的 に把握可能

(wirtschaftlich greifbar)」

な ときに、 はじめて、貸借対照表上、積極側計上 され る。 というの も、その と きはじめて、この債権 は実現原則 に合致 して、「 ほぼ確実で

(so gut wie sicher)」

あるか らである。 この点 をモクスターは売上税保証請求権、損害保証請求権、

法的請求権 を伴わない売上報酬、配当請求権等 を例示 して説明 している。 とく に、法的請求権 を伴わない売上報酬 については法形式的観察法 を採用する場合、

請求権が存在 しないために、そ もそ も債権 として積極側計上す ることはできな いが、経済的観察法 によると貸借対照表計上 しなければならない。というのは、

実現原則 に基づいて、経過営業年度 において「経済的に発生 した将来の支出」

もまた積極側計上義務があるか らである。将来発生す る法的請求権 は経過営業 年度 において、それが利益実現の基準か ら、ほぼ確実 となる場合 には経済的に 発生 しているか らだ とい う2)。

b)固定資産たる無形財産対象物

有償でない固定資産たる無形財産対象物 の積極側計上禁止 (商法典第248条

2項

)は、客観性 に限定 されて、民法構造 を指向 している。 ここで有償 とは 獲得利点 に対す る契約上の反対給付 を意味す る。有償の この理解 は経済的観察 法 に も合致 し、実際の規範 目的にも適合す る、 とい うの。

C)積極側計算限定項 目

逆打歩 (Disagio)は 法形式的観察法 によれば、狭義の民法上の利子概念の 意味 において利子見越給付が肯定 され る場合 にのみ、積極側計上 される。 これ に対 して、経済的観察法、つ まり実現原則 に基づ けば、経済的な実効利子構想 (EffektivzinskOrlzeption)が決定的であるという。とい うは、民法上の利子 と はみなされない、そうした債務の返還支払額 と支出額 との差額の構成要素 は「決 算 日以降の一定期間に対す る費用」(商法典第250条

1項

1文)を形成するか

(14)

法経研究 (1994年)

らであるの。

いわゆる リース契約 における前払 リース料 は、法形式的観察法の場合、それ が法的に独立 した請求権 として形成 され るならば積極側計上 されない。 これに 対 して、経済的観察法の場合、つ まり実現原則 に基づけば、積極側計上 され る べ き賃貸借前払が問題 とされ る。 この種の費用はリース期間にわたって予想 さ れ る売上高 に帰属 しない という理由は存在 しないか らであるう。

信用仲介手数料 は判決 によると積極側計上 されない。信用提供者 に対する前 給付 は問題 とはな らない。 これは法形式的観察法 に合致す る。 これに対 して、

経済的観察法においては、未決取引の枠内で、前給付、つ まり将来の売上高 に 関連 し厳密 な客観化要請の もとで も帰属 され うる支出が存在する。 この場合、

決定的なのは未決

(信

)取引の限定可能性 である。 それは信用仲介手数料の 一義的な帰属計算 を可能 にす る。。

モクスターは、その他の積極側計算限定項 目について、判決がそれ らが民法 構造 を指向するように厳密 に定義 され るな らば、 ここでは経済的観察法 に対す る違反 は生 じない という。 それは、商法典第250条

1項

1文の現実の規範 目 (計算限定項 目規定)は明 らかに、客観化要請 によって特徴づ けられている か らである。従 って、信用仲介手数料の場合のような例外 を除いて、原則的に は積極側計算限定項 目の場合 には民法構造 を目指す ことが適当である、 として いる7)。

(2)消極側計上

a)消極側計上時点

法形式的観察法 において、義務 は遅 くともそれが法的に既 に十分効果的に発 生す る場合、消極側計上 される。実現原則、従 つて経済的観察法 に とって、 こ れに対 して、法的に既 に十分効果 をもって発生 した義務 に対 し、それ と直接帰 属す ることがで き、ほぼ確実である収益が追従するか どうかが 目指 され る。 こ

うした場合、義務の消極側計上 は、 それが経済的負担 を形成 しないために

(そ

れは時間的に後追いす る収益 によって相殺 される)、 なされてはな らない。従 っ て、代理商 に対する負担調整義務

(商

法典第89b条)は法形式的観察法 におい てのみ契約関係の終了時 をもって消極側計上 されなければならない。 これに対 して、経済的観察法では、負担調整請求権の収益依存性が考慮 されなければな らないの。

Iイ (341)

(15)

ドイツ新貸借対照表法 と経済的観察法 法的に既 に十分発生 した義務 は経済的観察法 においては、それが対応する収 益 を時間的に追 う場合 には消極側計上 されない。逆 に、既 に実現 した収益が存 在 していて、義務が時間的に後追いす る場合 には、経済的観察法の場合、消極 計上義務が存在す る。 こうした理由か ら、例 えば、実現 した売上高 に負担 され る保証給付義務 は消極側計上 される。 その場合、経済的観察法 においては、将 来完全 に効果的 に発生す るだろう義務 と一定の売上行為の間に直接的関連があ るか どうかは、何 ら重要ではない。将来 において発生す る義務 と一定の法取引

(売

上行為

)と

の直接的関係の要請 はまさに法形式的観察法 に基づいている。

実現原則 によれば、将来発生す る義務 は過去の営業年度の売上高 に総 じて帰属 計算 され ることが重要である。 そうでなければ、例 えば、一括製品保証引当金 に対 して も、年金引当金 もしくは年度決算書原価引当金 にして も消極側計上義 務 は存在 しない ことになって しまうか らである9)。

b)未決取引の貸借対照表非計上

判決 は商取引に基づいて保証給付

(そ

の自己の顧客 に対 してだけでない)を

義務付 けられ る自動車卸商 は製品保証引当金 を形成 してはらない とい う見解 を 擁護 している。 ここでは、

(相

殺的)未決取引の貸借対照表非計上の原則が適用 され る。 ここで もまた、民法構造が現実の規範 目的 を考慮 している。経済的観 察法では、 自動車卸商の

(売

上高依存的)収益 とその (将来の)保証給付 との 関係が問題 となる。予想 される保証給付 は従 って、卸商が十分な配慮 を払わな いな らば消極側計上 されなければならない

10。

C)偶発損失引当金

偶発損失引当金 は不均等原則 に基づいて計上 され る。それは、未決取引 (収 )から予想損失 を見越 しす る。法形式的観察法 によれば、その場合、個々の 未決取引が 目指 され る。経済的観察法の場合、複数の未決取引の間に、損失発 生が現実 に存在 していない とい う意味で、経済的一体 (eine wirtschaftliche Einheit)が 存在 していることを考慮 しなければならない。経済的観察法はここ で は確かに個別評価原則のなかに表現 され る慎重性原則のために、念入 りに適 用 されなければな らない。例 えば利子スワップに該当す るような損失発生 は、

排除 されなければならない

11ヽ

(3)評

調達原価 は法形式的観察法の場合、純粋な獲得原価 を形成す る。経済的観察

(16)

法経研究 (1994年)

法 においては「財産対象物 を直ちに操業 に使用で きる状態 に置 くためにお こな われ、それが個別 に財産対象物 に帰属 され うる費用」(商法典第255条1項

1

)も

調達原価のなかに含 め られる。我々が財産対象物 を直ちに操業状態 に投 入するため生ず る費用 を積極側計上 しない、つ まり将来の売上高に負担 させな ければ、実現原則か ら生ず る売上高依存的費用期間帰属の原則 に対す る違反 を 意味 している。調達 に不随的な費用 は法形式的考察法では積極側計上 されえな い。例 えば、獲得後の建物補修 は「調達事象か ら経済的に分離 して考察すべき 決定」だか らである。 これに対 して、経済的観察法では、客観的に操業可能な 状態が規準ではな く、主観的に操業可能な状態が規準 となる。獲得後の建物補 修 のための費用 はしたが って、売上高依存的に配分 され るように原則上、積極 側計上 されなければな らない1幼

製造原価の算定の場合、法形式的観察法 によれば、別の法規範、例 えば「全 部原価 に基づ く価格算定指導原理 (LSP)│こよる製造原価計算」に遡れば推測 はつ く。 これに対 して、経済的観察法 によれば、製造原価の帰属計算可能性の みが、 したがって、特別の貸借対照表法上の規範 目的が重要である

10。

調達原価 もしくは製造原価 に対 して、経済的観察法の場合、不均等原則の意 味で損失が発生 しそうであれば、 よ り低 い付 され るべ き価値ない しより低い部 分価値が設定 されなければな らない。 この種の減額記入 は、偶発損失の実質的 指標 を形成す る場合 にのみ強制 されるとする10。

(4)経済的観察法 と法的安定性

ところで、モクスターは、経済的観察法が無制限に適用 されることを説いて いない。 しか し彼 は、現実の規範 目的に照 らして経済的観察法 と法形式的観察 法 との間に相違がでる場合、法的安定性のみを求めて民法構造 を保持 して法形 式的観察法 を適用することも否定す る。彼 にあっては、 こうした場合、経済的 観察法の貸借対照表法 目的 に照 らした適用 こそが法的安定性 の要請 をも達成 し

うることを論 じるのである。

モクスターは経済的観察法 と法的安定性 との関係 について こう述べている。

「経済的観察法 をもって法律遊離的観察法 と解釈 しうるな らば、経済的観察 法 と法的安定性 との間の堪 え難 いほどの諸々の対立が生ず る。法的で現実の規 範 目的 をめざす観察法 としての経済的観察法 はこれに対 して、法のなかにその 都度認識可能 な要請 され る程度 において、法的安定性 を考慮する。とい うのは、

コδ (339)

(17)

ドイツ新貸借対照表法 と経済的観察法 かかる経済的観察法 は法律上の貸借対照表法原則の特徴 を通 じて初 めて具体化 され、原則 もしくは規則安定性 として把握 され るべ き法的安定性 をまさにもた らす ことがで きるか らである15)。

モクスターはこの ことを、例 えば次のように説明す る。

利益実現原則及 びそれ を規制する慎重性原則 は、我々が債務 を通常、その法 的発生ない し完全 な発生 をもって消極側計上するというように取 り扱われては な らない。確かに、法的安定性 を考慮すれば、 こうした消極側計上時点が是 と され るが、 しか し、規範 目的は一方でかな り損 なわれ る。商法典第252条1

4号

は利益がその実現 をもってはじめて考慮 され ると規定 している。利益 は 周知のように収益

(積

極側の増加 もしくは消極側減少

)と

費用 (積極側 の減少 もし くは消極側の増加

)と

の差額 を形成する。利益実現原則 は収益計上 に対す る規制 をそこに包摂す るだけでな く、費用の計上 に対す る規制すなわち消極側 計上原則 をも包摂するのである。 したが って、個々において、収益 と費用 とを 相互 に関連づける、つ まり認識 された収益 と一定の費用 とを帰属計算す ること は困難だろうし、法律上の利益実現原則 はこうした帰属 を強制する。 しか し、

われわれが法的安定性の観点か らこうした帰属 を簡便 にす るために消極側計上 を債務の法的生成 に結びつけようとるな ら、そうした費用の部分帰属 をもって しては、法律上の慎重性原則の意味 における引出可能額 とみなされ る利益 を算 定 しない ことになる10。

1)Adolf M[oxter,a.a.0。

,S.241.

3)4)5)6)7)Ebd.,S.238.

9)10)11)12) Ebd。

,S.239.

16) Ebd.,S.240‐

241.

むす び にか えて

2)Ebd。,S.237‐ 238。

8)Ebd。,S.238‐

239.

13)14)15)Ebd。

,S.240.

以上、 モ クスターの論功 を素材 に、現行 の貸借対 照表法 において経済的観察 法 が どの よ うに取 り扱 われ てい るのか をみて きた。モ クスターの論功 は、結局、

新 貸借対 照表法 にお ける貸借対 照表能力・ 評価規定 について経済的観察法 にた つ解釈論理 を提供 した もので あ る。彼 は まず、 目的論 的解釈 の法的方法 として の経済的観察法 に依拠 す るな ら、貸借対 照表法 の規範 目的が辿 られ な けれ ばな

(338)17

(18)

らない とし、新貸借対照表法

(貸

借対照表指令法)の規範 目的 として「慎重な 利益算定」 を指示する。それは実現原則・ 不均等原則 とそれを具体化する客観 化諸原則か らなる貸借対照表法の原則構造か ら明 らかだ とする。 こうして、モ クスターは新貸借対照表法 における実現・ 不均等・ 決算 日・ 企業継続性・ 慎重 性 。継続性等の正規 の簿記の諸原則 を経済的観察法 に依拠 しなが ら相互 に関連 づ け、貸借対照表計上能力 と評価 に対する解釈論理 を説示 し、新貸借対照表の 法的安定性 にむけての理論構築 を試みたのである。

かか るモクスターの論功 は現行貸借対照表法 における現代版、正規の簿記の 諸原貝

Jに

他 ならない。かって、

U・

ンフソンはその主著「正規の簿記の諸原則」1) を中心 に正規の簿記の諸原則のいわゆる演繹的決定、 目的論的解釈の学説 を説 示 した。 また、 レフソン門下 による一連の「正規の貸借対照表作成の諸原則」

叢書幼は固定資産・ 債権・債務・ 引当金・ 未決取引等の具体的貸借対照表項 目に 対す る正規 の簿記の諸原則論 を展開 した。これ らは、1985年新貸借対照表法の 成立経過 において、正規の簿記の諸原則の再構成

(法

典化)に論理基盤 を付与 した1965年旧株式法下の支配的学説である。つしか し、旧株式法 を経て1985年 に新貸借対照表法が成立 した今、 まさに新貸借対照表法その ものを支 える解釈 論理、正規の簿記の諸原則論の新たな展開が要請 されているといえよう。

ところで、モクスターの力説する経済的観察法 は、今 日、 ドイツ貸借対照表 法 における解釈 と適用 に関わ る一般原則 にも似た地位 を有 している。そして ま た、モクスターにみ られ るように、経済的観察法 は貸借対照表計上 と評価 に関 わ る具体的解釈・ 適用の問題 として展開 して きている。 しか も、その展開は貸 借対照表計上能力・ 評価 をめ ぐる税法

(判

)と

商法 との相互交渉の問題 とし

て も顕在化 してきている点 は留意すべ きである。

例 えば、1977年租税通則法第

39条

では貸借対照表計上 の帰属問題 について 次の ように規定 している。

(1)経

済財 は所有者 に帰属す るもの とす る。

(2)次

に掲 げる場合 には、第

1項

の規定 と異な り、次の諸規定 を適用する。

1.所有者以外 の者が通常の場合 に通常の利用期間につ き経済財 に対する 作用 を所有者か ら経済的に除することがで きるように経済財 に対す る事 実上 の支配 をなす ときは、当該経済財 は当該所有者以外の者 に帰属す る。

信託関係の場合 には、当該経済財 は、信託者 に、譲渡担保 の場合 には、

担保権者 に、自己占有の場合 は、 自己占有者 に帰属するもの とす る。

8 (337)

(19)

ドイツ新貸借対照表法 と経済的観察法

2.多数の者の総有 に属す る経済財 は、分割 された帰属が課税 に とって必 要である限 り、関与者 に持分 に従 って、帰属す る。」

1997年租税通則法第

39条

についての個別理 由は次のように言及する。

2項 1号 1段

は、 リースの判例 の範囲において連邦財政裁判所 により展開 された見 解 にい う『経済的所有権』の定義 を定 めている4、」また、第

39条

と同 じく規定 を提示 した1974年租税通則法草案第

42条

に付 された個別理由は次のように言 及す る。「本条 は、いかなる場合 に経済財 は、その法的所有者以外の者 に帰属 さ れ得 るかの問題 を取 り扱 っている

(従

来の租税調整法11条参照)。 本条 は、課 税 に対 しては、外的法形式ではな く、事実上の関係が、経済的観察 においてあ らわれ るごとく、基準 になる とい う税法 を支配 す る原則 の適用の一場合 であ る●。」従 って、租税通則法第39条は従来 の1934年租税調整法第11条を改正 し、 リース・ 信託関係・ 譲渡担保・ 自己占有 とい う新 しい取引形態の帰属 に関 して経済的観察法の適用 を改 めて明記 した もので あることは疑 いないであろ う。そして、バイゼ も述べ るように税法領域 における経済的観察法の再強化の 傾 向 は

60年

代半 ば以降 の連邦財政裁判所 の貸借対 照表計上 と評価 に対 す る 諸々の判決の方法上の根拠 として現われている。。

しか し他方で、 ドイツ会計制度では所得税法第

5条

1項

に基づ き「商事貸 借対照表の税務貸借対照表 に対す る基準性原則」が存在す る。従 つて、かかる 税法領域 における経済的観察法 とそれに依拠 した貸借対照表計上 は、商法への 適法性 を優先する ドイツ制度の形式 として商法領域 における認証 を得なければ な らない。経済的観察法 に依拠 し税務判決主導に展開 され る貸借対照表問題 に 対 して商法上の規定内容 を確定 し、法的安定性 を確保することが不可避 の課題 である。 ここに、モクスターが商法上の貸借対照表計上・ 評価規定 に対 して、

主 に税法 に採用 され る経済的観察法 に依拠 した解釈論理 を説示 した積極的な意 味があるといえよう。冒頭 に述べた ように諸論者が こぞって、 リース、信託、

ペ ンジオ ン取引、譲渡担保等の新貸借対照表法下 における経済的帰属の問題 を 重要視す るの もそのためである。 また、そこにおいて、新 しい会計取引の進展 に提起 された、経済的観察法 をめ ぐる貸借対照表法の解釈 と適用の現実的な課 題 を読み取 ることがで きるのである。

1)Ulrich Leffson,Gmndsatze Ordnungslrla3iger Buchfmung,6。 Aun。

,1982.

2)『正規の貸借対照表作成の諸原則』叢書の内容については、宮上一男編『現代の

(20)

(1994年)

会計 Ⅱ 正規の貸借対照表作成の諸原則J世界書院 1984年を参照。

3)こ

の点については、拙書「現代会計の構図』森山書店

 1993年

の第1章及び第 3章を参照。

4)5)日本税法学会運営委員会、「西 ドイツの 1977年 AOの邦訳及び研究5)」、税法 3080309号7〜 8頁の中川一郎訳 を参照。

6)Heinrich Beisse,Tenderlzen der R∝ htspr∝hmg des Bundesfinanzhof zurn Bilanzr∝ht,a.a.0。 ,S.250‐

251.

(335)

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