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平成24年 1 月20日
抗菌性繊維の多剤耐性 Acinetobacter baumannii complex に対する抗菌効果
1)アルケア株式会社医工学研究所,2)東邦大学医学部看護学科感染制御学
野中 栄治
1)2)赤岩 裕士
1)岩嵜 徹治
1)小林 寅喆
2)(平成 23 年 6 月 21 日受付)
(平成 23 年 10 月 4 日受理)
Key words : Zinc, Cethylpyridinium chloride,Acinetobacter baumannii
序 文
院内感染対策を目的に多くの抗菌性繊維材料が開発 されており,マスク,ガウン,ナース衣,シーツなど に利用されている.
我々は,院内感染対策のための医療素材として,と くに医療環境,ならびに健常皮膚に適用するための抗 菌性繊維 Repulse を開発し,代表的な院内感染原因 菌であるグラム陰性菌,陽性菌の各臨床分離株に対す る抗菌性について報告してきた1).
今 回 新 た に,抗 菌 剤 と し て 亜 鉛 を 結 合 さ せ た Repulse-Zn(以下,R-Zn)と塩化セチルピリジニウ ムと亜鉛を複合化させた Repulse-CP!Zn(以下,R-CP!
Zn)繊維の多剤耐性Acinetobacter baumannii complex に対する抗菌性を評価した.
方 法
R-Zn 繊維は綿布を原材料として,無機系抗菌物質 である亜鉛を化学修飾させることで作製した(カルボ キシメチルセルロース―亜鉛).亜鉛結合量は,0.11 mmol!布 1g とした.R-CP!Zn 繊維は,同様に綿布を 原材料として,塩化セチルピリジニウムと亜鉛両方を 化学修飾させることで作製した(カルボキシメチルセ ルロース―セチルピリジニウム!亜鉛).塩化セチルピ リジニウムの結合量は 0.015mmol!布 1g,亜鉛の結合 量は 0.10mmol!布 1g とした.
使用した菌株は 2009 年 5 月から 8 月に関東及び中 国地区の異なる医療機関の患者から得られた喀痰およ び尿材料から分離され VITEK 2(シスメックス・ビ オメリュー)にてAcinetobacter baumannii complex と 同定された 4 株を用いた.菌株の患者背景は入院 3 名,
外来 1 名,男性,女性各 2 名で年齢は 55 歳から 78 歳
であった.各 MDRA は JANIS の基準に従い,MIC 値 が IPM あ る い は MEPM:≧16μg!mL,AMK:≧32 μg!mL および CPFX:≧4μg!mL の条件を満たした ものとした.これら 4 株と ATCC15308 の計 5 株を試 験菌とした.各保存菌株を Heart infusion Agar(HIA 栄研)に接種し,35℃,18 時間培養し発育した集落 を滅菌生理食塩液に懸濁させ,McFarland No. 1 に調 製した.24well マイクロプレート(SUMILON 住友 ベークライト)の各 well の内にエチレンオキサイド ガス滅菌(残留 EO 除去日数 7 日間)した繊維布(16 mmφ)を入れ,調製した菌液を約 106cfu!布になるよ うに接種した.それぞれ室温に静置し,30 分,60 分,
120 分,180 分,360 分,24 時間後の生菌数を HIA 平 板を用い測定した.
結 果
R-Zn 繊維と R-CP!Zn 繊維共に,標準株,薬剤耐性 臨床分離株に対しての抗菌性に差はなかった.R-Zn 繊維では,いずれの試験菌株に対して経過時間ととも に緩やかな殺菌作用を認め,24 時間で検出限界以下 まで殺菌した(Fig. 1(a)).一方,R-CP!Zn 繊維で は,R-Zn 繊維に比べ殺菌作用は強く,作用 30 分で検 出限界以下まで殺菌し,その後試験した 24 時間まで 継続して生菌は認められなかった(Fig. 1(b)).
考 察
A. baumanniicomplex に 対 し て,R-Zn,R-CP!Zn 繊維共に強い抗菌性を示した.特に亜鉛が単独で結合 された R-Zn 繊維と比較して,塩化セチルピリジニウ ムと亜鉛複合化した R-CP!Zn 繊維では,短時間で殺 菌し顕著な効果が見られた.これは消毒剤として一般 的に用いられている塩化セチルピリジニウムの抗菌性 に依存していることが考えられた.塩化セチルピリジ ニウムなどの第 4 級アンモニウム塩の抗菌メカニズム 短 報
別刷請求先:(〒131―0046)東京都墨田区京島 1―21―10 アルケア株式会社医工学研究所 野中 栄治
野中 栄治 他 32
感染症学雑誌 第86巻 第 1 号 Fig. 1 Antibacterial effect of Repulse
(a) The symbol shows the strain used for the examination. A. baumannii ATCC15308 is standard strain. The strain shown with TF are a multidrug-resistant A. baumannii complex. Antibiotic effect against A. baumannii ATCC15308 of non-antibacterial fabrics were measured as a control ( ● ).
(b)The symbol shows the strain used for the examination. A. baumannii ATCC15308 is standard strain. The strain shown with TF are a multidrug-resistant A. baumannii complex. Antibiotic effect against A. baumannii ATCC15308 of non-antibacterial fabrics were measured as a control ( ● ).
は,アンモニウム分子のカチオンが細菌の細胞表面の アニオン部位と結合し,細胞表層構造を疎水的相互作 用により物理化学的に破壊し,死滅させると報告され ている2).A. baumanniicomplex に対する短時間殺菌 作用もこれに起因することが考えられた.
R-Zn 繊維のA. baumanniicomplex に対する抗菌性 は,Escherichia coli,Pseudomonas aeruginosa,Serratia
marcescensなどの他のグラム陰性桿菌と比較して弱い
傾向を示した1).その抗菌性は,グラム陽性球菌であ るEnterococcus faecalisに対する作用と類似した傾向を 示した1).A. baumanniiは,グラム陰性桿菌であるが,
患者材料中では双球菌状を呈する場合があることが知 られている.また,A. baumanniiは,グラム陽性菌に 抗菌スペクトラムが強い抗菌薬に,より感受性を示す ことが知られている3).R-Zn 繊維が,A. baumanniicom- plex に対してグラム陽性球菌と類似の抗菌性を示し たのは,このようなA. baumanniiの有する球菌状を 呈する細胞表層構造に起因していることが考えられ た.
一 方,R-CP!Zn 繊 維 のA. baumanniicomplex に 対 する抗菌効果は,P. aeruginosaに対する効果と類似し ていた1).
また R-CP!Zn,R-Zn 繊維共に,多剤耐性臨床分離 株,標準株に対する抗菌性に差はなかった.このこと はA. baumanniicomplex の薬剤耐性が,R-Zn,R-CP!
Zn 繊維の抗菌性能に影響を及ぼさないことを意味す る.R-CP!Zn 繊維,R-Zn 繊維共にグラム陽性菌,グ ラム陰性菌だけではなく,薬剤耐性株に対しても広く 抗菌効果を発揮できることが示唆された.さらに今回
の検討において,R-CP!Zn 繊維は短時間殺菌も然る ことながら,作用 24 時間までの持続的な抗菌性を示 した.このことは実際の抗菌繊維の臨床における利用 として,継続的な殺菌効果が維持されるものと思われ た.
R-Zn,R-CP!Zn 繊維については生物学的安全性試 験にて,皮膚刺激,感作性を有さないことを確認して いる.また R-Zn 繊維はすでにカテーテル関連血流感 染症を予防する目的で,中心静脈カテーテル被覆保護 ドレッシングの抗菌性パッドとして製品化されてい る.
R-Zn,R-CP!Zn 繊維は近年問題となっている薬剤 耐性菌を含む病院感染原因菌に対して強い殺菌作用を 有し,院内感染予防のための医療素材として期待され る.
文 献
1)野中栄治,中村博昭,岩嵜徹治,小林寅喆,辻
明 良:Carboxymethylcellulose-cethylpyridinium
!zinc 繊維の抗菌効果.日本環境 感 染 学 会 誌 2009;24(2):93―9.
2)Kourai H, Hasegawa Y, Nakagawa K:Antimi- crobial activities of Alkylallyldimethylammo- nium Iodides and Alkylallyldiethylammonium Iodides. J antibact Antifung Agents 1995;23
(5):271―80.
3)Credito K, Kosowska-Shick K, Appelbaum PC:
Mutant Prevention Concentrations of Four Carbapenems against Gram-Negative Rods. An- timicrobial Agents and Chemotherapy 2010;54
(6):2692―5.
抗菌性繊維の MDRA に対する抗菌効果 33
平成24年 1 月20日
Antibacterial Effect of Antibacterial Fabrics Against Multidrug-resistantAcinetobacter baumanniiComplex Eiji NONAKA1)2), Yuji AKAIWA1), Tetsuji IWASAKI1)& Intetsu KOBAYASHI2)
1)ALCARE Co. Ltd. Medical Engineering Laboratory,
2)Department of Infection Control and Prevention, School of Nursing, Faculty of Medicine, Toho University
〔J.J.A. Inf. D. 86:31〜33, 2012〕