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しき玩具』しき玩具』しき玩具』

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(1)

しき玩具﹄

(2)
(3)

77  『悲しき玩具』

  い き

  むね  うち    な   おと  ︵1呼吸すれば︑

胸の中にて鳴る音あり︒

  こがらし      おと

よりもさびしきその音!

  め と

  こころ        なに  ︵2眼閉つれど︑

      め うかぶ何もなし︒

さびしくも︑また︑眼をあけるかな︒

  とちゆう       き   かは

     さき  やす      け ふ  ︵3途中にてふと気が変り︑

とめ先を休みて︑今日も︑

  か し

さまよへり︒

  の ど

    お       くだものや  さが   ゆ  ︵4咽喉がかわき︑

まだ起きてゐる果物屋を探しに行きぬ︒

  あき   よ

夜ふけに︒   あそ   で   こ ども

  と    だ  ︵5遊びに出て子供かへらず︑

り出して

  はし     み   おもちや  きくわんしや

らせて見る玩具の機関車︒

  ほん  か        ほん  か

 ︵6本を買ひたし︑本を買ひたしと︑

あてつけのつもりではなけれど︑

  つま  い

言ひてみる︒

  たび  おも  をつと こころ

  しか    な     つまこ   こころ  ︵7旅を思ふ夫の心!

り︑泣く︑妻子の心!

  あさ  しよくたく

朝の食卓!

  いへ 

  よう       ひと  ︵8家を出て五町ばかりは︑

用のある人のごとくに

  ある

歩いてみたれどー

(4)

78

  いた  は

  ひ   あかあか  ︵9痛む歯をおさへつつ︑

日が赤赤と︑

  ふゆ  もや  なか      み

冬の露の中にのぼるを見たり︒

      ある

  おも  わ   き  ︵10いつまでも歩いてゐねばならぬごとき

湧き来ぬ︑

  しんや   まちまち

夜の町町︒

       ふゆ  あさ

︵ゆ11なつかしき冬の朝かな︒

ば︑

  ゆ げ       かほ

はらかに︑顔にかかれり︒

  なん

12何となく︑

 ︵  けさ すこ    ごころあか

朝は少しく︑わが心明るきごとし︒

  て   つめ  き

手の爪を切る︒   

  ほん  さしゑ   なが  い  ︵13うつとりと

本の挿絵に眺め入り︑

  たばこ    けむりふ

きかけてみる︒

  とちゆう    のりかへ  でんしや

  な         おも  ︵14途中にて乗換の電車なくなりしに︑

うかと思ひき︒

  あめ  ふ

雨も降りてゐき︒

  ふたぱん

  よ   いちじ ごろ  きりどほし さか  のぼ  ︵15二晩おきに︑

夜の一時頃に切通の坂を上りしもー

  つと

勤めなればかな︒

  

︵さけ16しつとりと 酒のかをりにひたりたる

  なう 

も   かん   かへ

を感じて帰る︒

(5)

79  『悲しき玩具』

  け ふ      さけ

17今日もまた酒のめるかな!

︵さけ めば

  むね      くせ  し

 胸のむかつく癖を知りつつ︒

  なにごと  いまわれ

    おも  ︵18何事か今我つぶやけり︒

く思ひ︑

  め      ゑ     あぢは

目をうちつぶり︑酔ひを味ふ︒

       ゑ       ここち

  よ なか  お  ︵5⑲19すつきりと酔ひのさめたる心地よさよ!

中に起きて︑

  すみ  す

磨るかな︒

  まよなか でまど い

  らんかん  しも  ︵20真夜中の出窓に出でて︑

欄干の霜に

  て さき   ひ

先を冷やしけるかな︒

       かつて

 ︵m21どうなりと勝手になれといふごとき      おそ わがこのごろを

とり恐るる︒

  て   あし

      ね ざめ  ︵η手も足もはなればなれにあるごとき ものうき寝覚!

      ね ざめ

なしき寝覚!

  あさ  あさ

︵な23朝な朝な なしむ︑

  した      ね   はう  もも

して寝た方の腿のかろきしびれを︒

  あらの    き しや

 ︵24瞳野ゆく汽車のごとくに︑

 このなやみ︑

      われ  こころ とほ

ときどき我の心を通る︒

(6)

80

       く に   しんぶん

  こしよく  ︵25みすぼらしき郷里の新聞ひろげつつ︑

誤植ひろへり︒

  け さ

なしみ︒

  たれ  われ

  おも  ぞんぶんしか       ひと     おも  ︵26誰か我を

りつくる人あれと思ふ︒

  なん  こころ

何の心ぞ︒

  なに

  はっこひびと      まう  ︵27何がなく

初恋人のおくつきに詣つるごとし︒

  かうぐわい き

外に来ぬ︒

  

  こきやう        おも  ︵28なつかしき

かへる思ひあり︑

  ひさ  ぶ       き しゃ  の

 久し振りにて汽車に乗りしに︒

  あたら あす きた  しん

  じ ぶん  ことば  ︵29新しき明日の来るを信ずといふ

自分の言葉に

  うそ

なけれどー

  かんが

     ほ     おも      あ         な  ︵30考へれば︑

  ほんとに欲しと思ふこと有るやうで無し︒

  きせる

く︒

  け ふ       やま  こひ

  やま  き  ︵31今日ひよいと山が恋しくて 山に来ぬ︒

  きよねんこしか    いし

けし石をさがすかな︒

  あさね     しんぶんよ   ま

  ふ さい  ︵32朝寝して新聞読む間なかりしを 負債のごとく

  け ふ   かん

今日も感ずる︒

(7)

81 『悲しき玩具』

      て

 ︵田よごれたる手をみるー

ちやうど

    ごろ  じ ぶん  こころ むか

この頃の自分の心に対ふがごとし︒

      て   あら    とき

       まんぞく  ︵糾よごれたる手を洗ひし時の なる満足が

  け ふ   まんぞく

今日の満足なりき︒

  としあ       こころ

 ︵箔年明けてゆるめる心!

うつとりと

  こ   かた        わす

来し方をすべて忘れしごとし︒

  きのふ     あさ    ばん    は

  あのこころもち  ︵36昨日まで朝から晩まで張りつめし

  わす      おも

じと思へど︒

  と も  

おと

  わら  こゑ  ︵37戸の面には羽子突く音す︒

笑ふ声す︒

  きよねん  しやうぐわつ

月にかへれるごとし︒

  なん

  ことし        こと  ︵38何となく︑

今年はよい事あるごとし︒

  ぐわんじつ あさ  に     かぜな

日の朝︑晴れて風無し︒

  にら  そこ   あくび

       あくび  ︵39腹の底より欠伸もよほし  ながながと欠伸してみぬ︑

  こ とし  ぐわんじつ

年の元日︒

        とし

  に      うた  ふた  み  ︵40いつの年も︑

似たよな歌を二2二つ

  ねんが   ふみ  か         とも

年賀の文に書いてよこす友︒

(8)

82

  しやうぐわつ  よつか

    ひと  ︵41正月の四日になりて

あの人の

  ねん  いちど   は がき  き

に一度の葉書も来にけり︒

  よ      こと    かんが

     あたま  ︵42世におこなひがたき事のみ考へる よ!

  こ  とし

もしかるか︒

  ひと

  おな  はうがく  む    ゆ  ︵43人がみな

 同じ方角に向いて行く︒

     よこ   み      こころ

を横より見てゐる心︒

  

    み あ       かけがく  ︵44いつまでか︑

      か この見飽きたる懸額を

このまま懸けておくことやらむ︒   

  らふそく  も  ︵96菊ちりぢりと︑

燭の燃えつくるごとく︑

  よる      おほみそか

となりたる大晦日かな︒

  あをぬり せと ひばち

  め と     め   あ  ︵46青塗の瀬戸の火鉢によりかかり︑

閉ぢ︑眼を開け︑

  とき  をし

時を惜めり︒

  なん     あ す      ニと

  おも  こころ  ︵47何となく明日はよき事あるごとく

  しか    ねむ

りて眠る︒

  す        いちねん       で

  ぐわんじつ  ︵48過ぎゆける一年のつかれ出しものか︑

      ねむ 日といふに うとうと眠し︒

(9)

88  『悲しき玩具』

  

    よ         かな  ︵49それとなく

由るところ悲しまる︑

  ぐわんじつ こ ご   ねむ    こころ

日の午後の眠たき心︒

  

  み かん       そ        つめ  み  ︵50ぢつとして︑

蜜柑のつゆに染まりたる爪を見つむる

  こころ

もとなさ!

  て   う

  ねむけ   へんじ  ︵51手を打ちて

      に きくまでの そのもどかしさに似たるもどかしさ!

       よう  わす  き

  とちゆう    くち  い  ︵皿やみがたき用を忘れ来ぬー

途中にて口に入れたる めなりし︒

      ふ とん

53すつぼりと蒲団をかぶり︑

︵あし

ちぢめ︑

  した  だ       たれ

出してみぬ︑誰にともなしに︒

       しやうぐわつ  す

    くらし  ︵図いつしかに正月も過ぎて︑

 わが生活が

       みち       きた

またもとの道にはまり来れり︒

  かみさま  ぎ うん   な

    ゆめ  ︵品神様と議論して泣きしー あの夢よ!

  よつか         まへ  あさ

四日ばかりも前の朝なりし︒

  いへ       じ かん

    ひと     ま  ︵60品家にかへる時間となるを︑

だ一つの待つことにして︑

  け ふ   にたら

今日も働けり︒

(10)

84

       ひと  おも

 ︵57いろいろの人の思はく りかねて︑

  け ふ       く

今日もおとなしく暮らしたるかな︒

       も      しんぶん  しゆひつ

       おも  ︵58おれが若しこの新聞の主筆ならば︑

らむーと思ひし

       こと

ろいろの事!

  いしかり  そらちこほり

  ぼくぢやう   よめ        おく  き  ︵59石狩の空知郡の

場のお嫁さんより送り来し  バタかな︒

  ぐわいたう えり  あご  うつ

  よ       たち        き  ︵60外套の襟に頸を埋め︑

 夜ふけに立どまりて聞く︒

    に   こゑ

よく似た声かな︒   ワィ     ふ てふ

  ふるにつき   しよしよ  ︵61Yといふ符牒︑

古日記の処処にありー

  ワィ         ひと  こと

 Yとはあの人の事なりしかな︒

  ひやくせう おほ    さけ

     こま  ︵62百姓の多くは酒をやめしといふ︒

 もつと困らば︑

  なに

るらむ︒

  め        す    

  とし      いへで   き じ  ︵63目さまして直ぐの心よ!

よりの家出の記事にも

  なみだい

出でたり︒

  ひと       こと

︵てき人とともに事をはかるに ざる︑

    せいかく おも ねざめ

 わが性格を思ふ寝覚かな︒

(11)

85  『悲しき玩具』

 ︶なに砧何となく︑ ︵  あんぐわい おほ  き

案外に多き気もせらる︑

  じ ぶん  おな     おも  ひと

 自分と同じこと思ふ人︒

  じ ぷん      としわか  ひと研〃・o自分よりも年若き人に︑  はんにち  き えん  は

半日も気焔を吐きて︑

      こころ

 つかれし心!

  めづ       け ふ

  ぎくわい  ののし     なみだい  ︵翻珍らしく︑今日は︑

      おも 罵りつつ涙出でたり︒

うれしと思ふ︒

      ばん  さ

  うめ  はち  ひ   あぶ  ︵68ひと晩に咲かせてみむと︑

梅の鉢を火に焙りしが︑

  さ

ざりしかな︒        ちやわん

  もり        き もち  ︵69あやまちて茶碗をこはし︑

こはす気持のよさを︑

  け さ   おも

朝も思へる︒

  ねこ みみ  ひ

     な  ︵70猫の耳を引つばりてみて︑

と哺けば︑

        よろこ こ ども  かほ

くりして喜ぶ子供の顔かな︒

  な ぜ

  よわ  こころ なんど   しか  ︵71何故かうかとなさけなくなり︑

弱い心を何度も叱り︑

  かね     ゆ

りに行く︒

  ま     ま

  く   はず  ひと  こ   ひ  ︵72待てど待てど︑

来る筈の人の来ぬ日なりき︑

  つくゑゐち  ここ  か

位置を此処に変へしは︒

(12)

86

  ふるしんぶん

         らた  こと  に     か  ︵04乃古新聞!

 おやここにおれの歌の事を賞めて書いてあり︑

  にさんぎやう

 二三行なれど︒

  ひつこ    あさ  あし     お

  をんな しやしん  ︵74引越しの朝の足もとに落ちてゐぬ︑

女の写真1

  わす      しやしん

忘れゐし写真!

       ころ  き

  か な         おほ  ︵75その頃は気もつかざりし

名ちがひの多きことかな︑

  むかし こひぷみ

昔の恋文!

  はちねんぜん

  いま      つま  てがみ   たぱ  ︵76八年前の

今のわが妻の手紙の束!

  ど こ   しま        き

何処に蔵ひしかと気にかかるかな︒

  ねむ     くせ

 ︵刀眠られぬ癖のかなしさよ!

すこしでも

  ねむけ      ね

させば︑うろたへて寝る︒

  わら      わら

  なが      さが  ︵78笑ふにも笑はれざりきー

こと捜したナイフの

  て   うち

手の中にありしに︒

      し ご ねん

  そら  あふ       いちど  ︵79この四五年︑

空を仰ぐといふことが一度もなかりき︒

うもなるものか?

  げんかうし

  じ   か  ︵80原稿紙にでなくては 字を書かぬものと︑

     しん    わ   こ

く信ずる我が児のあどけなさ!

(13)

87  『悲しき玩具』

     

こんげつぶじく

  ほか  よく  ︵81どうかかうか︑今月も無事に暮らしたりと︑

外に欲もなき

  みそか   ばん

晦日の晩かな︒

      ころ     うそ  い

  へいき         うそ  い  ︵82あの頃はよく嘘を言ひき︒

よく嘘を言ひき︒

  あせ  い

出つるかな︒

  ふるて がみ

    をとこ     ご ねんまへ  ︵83古手紙よ!

あの男とも︑五年前は︑

     した    まじ

ど親しく交はりしかな︒

  な   なん  い

  せい  すずき  ︵餌名は何と言ひけむ︒

鈴木なりき︒

  いま         ど こ

はどうして何処にゐるらむ︒   うま        に がき

 ︵邸生れたといふ葉書みて︑

としきり︑

  かほ

顔をはれやかにしてゐたるかな︒

  

    ひと  こ  ︵品そうれみろ︑

  なにきすここちね あの人も子をこしらへたと︑

寝る︒

   いしかは        やつ

       じ ぶん  い  ︵田﹃石川はふびんな奴だ︒﹄

ときにかう自分で言ひて︑

なしみてみる︒

      お       あしで

  びやうにん め  ︵6988ドア推してひと足出れば︑

目にはてもなき

  ながらうか

な︒

(14)

88

  おも  に   おろ

  き もち  ︵田重い荷を下したやうな︑

なりき︑

    ね だい  うへ  き

 この寝台の上に来ていねしとき︒

       いのち   ほ

  い しや  い  ︵90そんならば生命が欲しくないのかと︑

医者に言はれて︑

      こころ

まりし心!

  ま よ なか      め

      な  ︵91真夜中にふと目がさめて︑

けもなく泣きたくなりて︑

  ふ とん

蒲団をかぶれる︒

  はな       へんじ

    み  ︵92話しかけて返事のなきに よく見れば︑

  な       となり くわんじや

泣いてゐたりき︑隣の患者︒   ぴやうしつ まど

  ひさ       じゆんさ  み  ︵93病室の窓にもたれて︑

 久しぶりに巡査を見たりと︑

よろこべるかな︒

  は    ひ       ひと

  びやうしつ まど  ︵94晴れし日のかなしみの一つ!

もたれて

  たばこ   あぢに

味ふ︒

  よる  どこ   へや さわ   ひと  し  ︵%夜おそく何処やらの室の騒がしきは 死にたらむと︑

  いき

 息をひそむる︒

  みゃく    かんご ふ   て

       ひ  ︵ω96腺をとる看護婦の手の︑

あたたかき日あり︑

      かた  ひ

く堅き日もあり︒

(15)

89  『悲しき玩具』

  びやうゐん い     はじ      よ

    ね い  ︵卯病院に入りて初めての夜といふに︑

すぐ寝入りしが︑

  ものた

物足らぬかな︒

  なに     じ ぷん       ひと

%何となく自分をえらい人のやうに ︵おも ゐたりき︒

  こ ども

なりしかな︒

       はら  な

  びやうゐん ね だい  ︵99ふくれたる腹を撫でつつ︑

 病院の寝台に︑ひとり︑

なしみてあり︒

  め      いた

︵うご目さませば︑からだ痛くて 動かれず︒

  な       よ あ        ま

泣きたくなりて︑夜明くるを待つ︒

 ︶         ねあせで

 ︵しよりと盗汗出てゐる あけがたの

    さ      おも

まだ覚めやらぬ重きかなしみ︒

      かな

りとした悲しみが︑

︵よ

夜となれば︑

  ね だい  うへ       き   の

寝台の上にそつと来て乗る︒

  びやうゐん まど

院の窓によりつつ︑

 ︵       ひと

ろいろの人の

  げんき   ある    なが

気に歩くを眺む︒

     まへ  しんてい     み とど  

  ゆめ  ははき  ︵もうお前の心底をよく見届けたと︑

夢に母来て

  な

泣いてゆきしかな︒

(16)

90

  おも     ぬす        ごと

66

    むね  ひ  ︵こと盗みきかるる如くにて︑

 つと胸を引きぬー

  ちやうしんき

より︒

  かんご ふ  てつや

    やま  ︵婦の徹夜するまで︑

       ねが わが病ひ︑

わるくなれとも︑ひそかに願へる︒

  びやうゐん き

W

  つま  こ  ︵院に来て︑

      われ 妻や子をいつくしむ まことの我にかへりけるかな︒

      うそ         おも

     け さ  ︵もう嘘をいはじと思ひきー は今朝ー

  いま    ひと  うそ

また一つ嘘をいへるかな︒   なん

  じぶん うそ     ごと おも  ︵となく︑

自分を嘘のかたまりの如く思ひて︑

  め

目をばつぶれる︒

  いま

m

    うそ  ︵までのことを 嘘にしてみれど︑

  こころ      なぐさ

すこしも慰まざ19き︒

  ぐんじん       い   だ

m

  ちちはは  ︵なると言ひ出して︑

  くらう   

しわれ

させたる昔の我かな︒

  

  けん       うま         ︵mうつとりとなりて︑

剣をさげ︑馬にのれる己が姿を

  むね  ゑが

胸に描ける︒

(17)

91 『悲しき玩具』

  ふちさは  

ぎし

  おとうと        おも  ︵藤沢といふ代議士を

ごとく思ひて︑

  な

泣いてやりしかな︒

  なに  ひと

66 何か一つ

 ︵  おほ      あくじ

大いなる悪事しておいて︑

  し     かほ         き もち

知らぬ顔してゐたき気持かな︒

       ね

   こ ども  ︵ぢつとして寝ていらつしやいと

もいふがごとくに

   い しや      ひ

医者のいふ日かな︒

  ひようなう した

     ひか  ︵嚢の下より まなこ光らせて︑

   ね       よる  ひと

寝られぬ夜は人をにくめる︒   はる  ゆき       ふ

   ねつ      め  ︵

W

春の雪みだれて降るを 熱のある目に

        なが  い

なしくも眺め入りたる︒

  にんげん     さいだい

 ︵間のその最大のかなしみが      め これかと と目をばつぶれる︒

  くわいしん い しゃ  おそ

  いた      むね  て  ︵m回診の医者の遅さよ!

      め 痛みある胸に手をおきて く眼をとづ︒

  い しや  かほいう      

  ほか

  なに  み  ︵医者の顔色をぢつと見し外に

も見ざりきー

   むね  いた  つの  ひ

胸の痛み募る日︒

(18)

92

    や         こころ よわ

m

  さまざまの  ︵あれば心も弱るらむ!

  な      むね

泣きたきことが胸にあつまる︒

  ね     よ   ほん  おも

 ︵寝つつ読む本の重さに

  て   やす        もの  おも

は︑物を思へり︒

  け ふ

   に ど     さんど  ︵今日はなぜか︑

も︑三度も︑

   きんがは とけい ひと ほ  おも

側の時計を一つ欲しと思へり︒

     ぜひ だ   おも ほん

︵へうし非︑出さんと思ふ本のこと︑

ことなど︑

   つま  かた

妻に語れる︒   むね

  はる  みぞれ ふ   ひ  ︵胸いたみ︑

 春の巽の降る日なり︒

   くすり む       ふ     め

 薬に喧せて︑伏して眼をとづ︒

       いろ

 ︵あたらしきサラドの色の うれしさに︑

  はし      み   み

箸とりあげて見は見つれどもー

  こ   しか      こころ

   ねつたか  ひ   くせ  ︵る︑あはれ︑この心よ︒

き日の癖とのみ

   つま    おも

妻よ︑思ふな︒

  うんめい  き   の

 ︵命の来て乗れるかと

うたがひぬー

  ふ とん  おも  よ は   ね ざ

団の重き夜半の寝覚めに︒

(19)

93  『悲しき玩具』

      かわ  おぽ

き渇き覚ゆれど ︵ て をのべて

   りんご       ひ

とるだにものうき日かな︒

  ひようなう     ぬく

氷嚢のとけて温めば︑

 ︵       め       きた

      いた ら目がさめ来り︑

らだ痛める︒

        ゆめ  かんこ どり  き

m

   かんこ どり  わす  ︵ま︑夢に閑古鳥を聞けり︒

閑古鳥を忘れざりしが なしくあるかな︒

      い     いつとせ

   やまひ  ︵るさとを出でて五年︑

  病をえて︑

    かんこ どり  ゆめ

 かの閑古鳥を夢にきけるかな︒   かんこ どり

   しぶたみむら  さんさう       はやし  ︵閑古鳥ー

村の山荘をめぐる林の あかつきなつかし︒

      てら  ほとウ

      き  ︵るさとの寺の畔の

木の

       き   な     かんこ どり

きに来て隔きし閑古鳥!

  みやく    て

 ︵とる手のふるひこそ

なしけれー

   い しや  しか     わか  かんご ふ

 医者に叱られし若き看護婦1・

      き おく  のこ

   エフ      かんご ム   て  ︵となく記憶に残りぬー

 Fといふ看護婦の手の  つめたさなども︒

(20)

       いちど

   おも  ︵Wはつれまで一度ゆきたしと ゐし

    びやうゐん ながらうか

院の長廊下かな︒

  お

きてみて︑

 ︵    す   ね         とき

また直ぐ寝たくなる時の

   ちから   め   め

 力なき眼に愛でしチユリツプ!

  かた  にぎ       ちから な

     わ   て  ︵く握るだけの力も無くなりし

し我が手の  いとほしさかな︒

      やまひ

     よ       ふか  か   とほ   おも  ︵わが病の

因るところ深く且つ遠きを思ふ︒

   め         おも

目をとちて思ふ︒   

W

かなしくも︑

 ︵   やまひ      わが     こころわれ あ

 病いゆるを願はざる心我に在り︒

  なん  こころ

ぞ︒

  あたら       ほ     おも

新しきからだを欲しと思ひけり︑

 ︵   しゆじゆつ きず

術の傷の

   あと  な

撫でつつ︒

  くすり        わす

 ︵薬のむことを忘るるを︑

となく︑

       おも  ながやまひ

しみに思ふ長病かな︒

      う し あ な

W

   な ぜ  ︵ といふ露西亜名が︑

ともなく︑

  いくど   おも  だ        ひ

幾度も思ひ出さるる日なり︒

(21)

95  『悲しき玩具』

      われ        よ

   て   にぎ  ︵となく我にあゆみ寄り︑

手を握り︑

         さ       ひとびと

またいつとなく去りゆく人人!

  とも  つま      おも

   や        なほ  ︵も妻もかなしと思ふらしー

病みても猶︑

   かくめい      くち  た

命のこと口に絶たねば︒

      とほ        おも

W

        かな    こころ  ︵きものに思ひし

リストの悲しき心もー

   ちか    ひ

く日のあり︒

        め

      いくたびあ  ︵る目に  すでに幾度会へることそ!

  な       な     いま  おも

成るがままに成れと今は思ふなり︒

  つき  さんじふゑん         ゐ なか

  らく   くら  ︵月に三十円もあれば︑田舎にては︑

       おも 楽に暮せるとー

よつと思へる︒

  け ふ      むね  いた

今日もまた胸に痛みあり︒

 ︵ し ならば︑

        ゆ      し        おも

るさとに行きて死なむと思ふ︒

       なつ

m

         め  ︵しかに夏となれりけり︒

あがりの目にこころよき

   あめ  あか

雨の明るさ!

  や    しぐわつ

      かは  ︵病みて四月1

       あぢ ときどきに変りたる くすりの味もなつかしきかな︒

参照

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