1 .はじめに
我々は,地域子育て支援センターの現状と課題―熊谷市内の地域子育て支援センターの調 査を中心に―というテーマで,プロジェクト・チームを立ち上げ, 1 ~ 2 か月に 1 度の頻度 で会合を持ち,研究に取り組んだ。
本研究は立正大学社会福祉学部20周年プロジェクト研究の一環としてアンケート調査を行っ たものである1)。筆者は,立正大学社会福祉学部子育て支援センター「ベアリス」(以下,ベア リスという)のセンター長として,地域子育て支援センターの運営に携わってきた。
本学のベアリスは「地域子育て支援拠点」として運営されているものであり,地域子育て 支援拠点とは,「子育て中の親子が気軽に集い,相互交流や子育ての不安・悩みを相談できる 場であり,主に 0 才から 2 才の子どもとその保護者が気軽に利用できる交流スペースで,市 町村やその助成を受けた社会福祉法人・NPO 法人などが運営している。『子育て支援セン ター』や『つどいの広場』,その他いろいろな愛称で呼ばれている。地域子育て支援拠点に は,子育て経験者などのスタッフが常駐しており,スタッフは,親子が安全に遊べるよう手 助けしたり,本の読み聞かせ・手遊び・エプロンシアターなど親子で楽しめるイベントを行っ ている。また,子育てに関する悩み相談を受けている。そのほか,子育てサークルの育成・
支援や地域の保育資源の情報の提供なども行っており,子育てに関する様々な援助をしてい る。(埼玉県,2016)」2)。
地域子育て支援拠点事業は,子育て支援の効果を上げてきていると考えられる。例えば,
中谷(2014)は,全国の地域子育て拠点事業に協力を求め,地域子育て支援拠点利用を通し て生じる母親の変化を分析し,「拠点事業を利用することによって,身体的な疲労や精神的負 担軽減を図り,育児情報の取得や活用,仲間作りなどを行う母親が多いこと」等を報告し,
さらに母親の変化については,「母親の変化」15項目の調査結果を用いて因子分析を行った結
熊谷市内の子育て支援センターの現状と課題
―アンケート調査を中心に―
Current Status and Issues of Child Rearing Support Centers in Kumagaya City
村尾 泰弘*
Yasuhiro Murao
さて,本学のベアリスは2011年 4 月からオープンした。その年は東日本大震災があった年 である。当時,筆者はベアリスの運営に直接関与していなかったが,震災の影響もあって,
オープンに至るまでに多大な苦労があったと聞いている。
熊谷市内の子育て支援センターは19か所あるが,大学のなかに設置されたものはベアリス だけである。ベアリスでは,大学ならではの特色を出すために,発達障害を有する子を持つ 親の学習会(ペアレントトレーニング・グループ)や日本人と外国人の夫婦の子育てを考え るサークルから発展した MCC(多文化コミュニケーション・グループ),ノーバディズ・パー フェクトプログラムなどの取り組みを展開してきた。
それらの取り組みを通して感じることは,熊谷市内の子育て支援センターは,それぞれど のような特色を出そうと努力し,どのような課題を抱えているか,という疑問である。その 実情と課題を明らかにすることで,本学部の子育て支援センターの進むべき方向性も見えて くるのではないかと考えたのである。
熊谷市内には,「くまっしぇ」という熊谷市内の子育て支援センター(地域子育て支援拠 点)の連絡会である。支援者,拠点同志の連携を図ると共に,支援の質を高めるための研修 等も行っている。
「くまっしぇ」は,現在の子育て支援センターの活動や,これからの活動に大きな影響と役 割を持つものといえる。
そこで,本研究では,熊谷市内の子育て支援センターの実情と課題を明らかにするととも に,この「くまっしぇ」の実情と課題を明らかにすることも調査研究に加えることにした。
2 .調査研究の目的
熊谷市内の子育て支援センターの実情と課題を明らかにする。また,熊谷市内の子育て支 援センターの連絡調整組織「くまっしぇ」の実情と課題を明らかにする。
3 .方 法
2015年12月に,市内19カ所の子育て支援センター(地域子育て支援拠点)に,それぞれ 1 通,アンケート用紙を送付し,回答を郵送で求めた。
4 .結 果
2016年 2 月末日までの間に,15カ所の子育て支援センターから回答があった。
アンケート項目ごとに結果を記す。
項目 1 次の 5 つ項目のうち,貴センターで特に力をいれているものにひとつ○をつけてく ださい。
(各項目に○を付けたセンタの数(~カ所と表記)とパーセンテージを以下に示した。)
① 子育て親子の交流の場の提供と交流の促進 11カ所 73.3%
② 子育て等に関する相談・援助の実施 3 カ所 20.0%
③ 地域の子育て関連情報の提供 0 カ所 0%
④ 子育て及び子育て支援に関する講習等の実施 1 カ所 6.7%
⑤ その他( ) 0 カ所 0%
項目 2 貴センターが実施している独自の取り組みをお書きください。(自由記載)
・ 支援センター以外でもつながりを続けるお手伝い。月に 1 度子連れで外食ランチ
・ 花見やバーベキューなどの野外活動。動物園やアンパンマンミュージアム・ディズニーラ ンド。ママたちとスタッフが家族のように話せる関係作り
・ 園行事に参加している。(夏祭り・運動会・十日夜祭・総合避難訓練・○○っこ祭・お遊戯 会・プール遊び)
・ ママさんリーダーによるサークル立ち上げ育成の支援。専門の資格をもったママが講師の セミナーの企画開催。ママのリラックスタイムのためにもカフェの開催
・ 親子体験保育(同学年のクラスに入り,半日生活します)。給食,離乳食体験
・ 親教育プログラムの実施。発達障害をもつ子の親に対する学習会(ピアサポートグループ)。
・ 体操教室・スイミング参加。公民館活動・サークルサポート・エアロビクス・読み聞かせ ボランティア。誕生日会。
・ 保育園行事との協働(伝承行事活動等)
・ 事業や講座の中に子育ての相談の時間を作り,グループトーキングをしている
・ 地域で活躍しているおやじ会との連携
・ 支援室(支援拠点)独自の歌,季節の歌を必ず歌う
・ 絵本の読みきかせ。工作・セラピューティックケア。お誕生日会。ミニ講座。
・ 熊谷市の企業や病院とのコラボ事業,セミナー等。
項目 3 次の 5 つ項目のうち,貴センターで,今後もっと力を入れなくてはならないと考え
③ 地域の子育て関連情報の提供 1 カ所 6.7%
④ 子育て及び子育て支援に関する講習等の実施 4 カ所 26.7%
⑤ その他 1 カ所(訪問支援・託児)6.7%
項目 4 貴センターにおける今後の課題は何ですか。ご自由にご記入ください。
・ 地方出身の核家族が多いので,ママが体調を崩した時など本当に助けが必要な時に,家事 や育児の手伝いをしてあげたい。
・ 祖父母がお子さんを見ている方がいると思う。そういう方の参加を希望。
・ 午後の利用者を増やしていけるようにする。
・ 来園しなくなった親子のフォロー。遊びに来続けられるような働きかけ。
・ 市のはずれに位置しているため,なかなか足を運びづらい環境ですが,ホームページ等を 通して様々な情報を発信していきたいと思っています。又,専門機関との横のつながりを しっかり持ちたいと思います。
・ 他機関(子育て支援拠点)以外との連携。
・ 保護者のマナー向上。
・ 妊婦さん・お父さんの利用促進。カウンセリングマインドの習得。
・ 幼稚園,小学校への子どもを通わせ,仕事に出ずに家にいるお母さん方が,ひとりでも立 ち寄り,後輩ママと話をしたり,事業に協力する事のできる場所になるよう,働きかけて いきたい。
・ 初めて来所した親子に次回へつなげるためのサポート。
・ 父親支援。
・ 月一度,講習の充実。
・ 子育て支援(相談・援助)を関係機関へスムーズにつなげること。
・ 出産前後の妊婦・母親のケア。年令に応じた子育ての支援。
項目 5 貴センターには子育て相談のための(プライバシーが守られる)専用スペースはあ りますか。(○をつけてください。)
① はい 11カ所 73.3%
② いいえ 4 カ所 26.7%
項目 6 利用者のニーズとセンターの提供するサービスでフィットしていないところがある とすれば,それは何だと考えますか。
・ 公民館の小さな和室のため,保育に適していない。危険も多く,また,利用の時間制限が あり,充分な相談時間が確保できない。
・ 授乳室とオムツ交換スペースがないところ。(簡易的な間仕切り有り)。
・ 開始時間がもう少し早いと嬉しいと言う方が多い多いので来年度から実施していきたい。
又,土曜日毎週開放してほしいという要望もありますが今のところ難しい状況です。
・ 他利用者との交流の促進を望んでいるかの見極め。一時預かり。
・ 土日の開放。
・ 利用者の交流の場ではあるが(利用者が自分の)子どもに目がいかず,支援センターの職 員が保育士(が見てくれる)と思っているところ。
・ (フィットしないところは)特に考えられません
項目 7 「くまっしぇ」についてお尋ねいたします。貴センターが特に重要視している「く まっしぇ」の機能は何ですか。ひとつ○をつけてください。
① 子育て支援センター間の情報の交換 5 カ所 33.3%
② 子育て支援センター間の相談の場 2 カ所 13.3%
③ 共同のイベント開催 3 カ所 20.0%
④ 行政上の改善点の検討 0 カ所 0%
⑤ 熊谷市の子育て支援のレベルの向上 4 カ所 26.7%
⑥ 支援者の悩みの共有 1 カ所 6.7%
⑦ その他( ) 0 カ所 0%
項目 8 「くまっしぇ」に今後,特に期待される役割は何だと考えますか。
ご自由にお書きください。
・ 支援スタッフのケアをする。業務のほとんどがボランティアなので改善してほしい。
・ 各拠点と専門機関の連携の橋渡し。
・ 互いの連携と情報交換。
・ 団体としての市内での地位向上と他機関とのスムーズな情報交流連携。
・ 支援拠点の更なる連携。利用者情報の共有。
・ 支援職者の研修等を行い精神上の支えとなること。他機関との連携を深めていくこと。親 となる対象者,親と子との成長を見守り支援を行っていくこと。
・ 他の職員同士の交流や研修の場になる事と,熊谷子育て支援を考える場になると良いと考 える。
・ 職員の資質の向上をはかる(研修等)。問題点などの共有,解決。イベント等の実施(くま さんフェスタ)。
・ イベントの充実。
・ 妊婦から子育て中の母親に対する切れ目のない支援。父親にも積極的に子育てに参加して もらえるようにする為の支援。
5 .考 察
⑴ 熊谷市内の子育て支援センターの現状と課題
まず,項目 1 各センターが「特に力をいれているものは」との質問に,11カ所のセンター
(73.3%)が「子育て親子の交流の場の提供と交流の促進」を挙げ,次に 3 カ所(20.0%)が
「子育て等に関する相談・援助の実施」を挙げている。すなわち,多くのセンターが「子育て 親子の交流の場の提供と交流の促進」に力を入れていることがわかる。これが,現状の子育 て支援センターの主たる機能といえるだろう。
一方,項目 3 「今後もっと力を入れなくてはならないと考えるものは」との質問に 6 カ所
(40.0%)のセンターが「子育て等に関する相談・援助の実施」を挙げている。児童虐待を未 然に防ぐためにも「子育て相談」は重要であり,今後の大きな課題といえる。
そこで,相談する環境についてだが,項目 5 「貴センターには子育て相談のための(プラ イバシーが守られる)専用スペースはありますか」との質問に11カ所(73.3%)のセンター が,「はい」と回答しており,「いいえ」の回答は 4 カ所(26.7%)であった。
多くのセンターが専用スペースを有していることがわかる。
これらの回答から読み取れることは,二つの観点からの課題である。ひとつは子育て相談 の方法である。積極的に相談を求める人もいるが,問題を抱えていても相談の場に来ない場 合もある。子どもへの対応がぎこちない,あるいは問題のある対応をしている等,課題を抱 えた保護者がいる。しかし,それらの人を相談の場にのせるのが難しい場合もある。例えば,
椎山(2016)は,「信愛つどいの広場」の現状と課題を報告する中で,「会話する中で相談を 行うことで来館者の悩みをスムーズに聞き出せるようになった」と報告している。このよう な利用者との自然な会話の中で相談にのる,あるいは,これを一歩進めて,自然な会話を通 して相談に導入していく方法は今後,注目されなければならないだろう。
もう一つの観点は,相談者(相談に対応する者)についてである。相談の内容も様々であ
ろうし,保育士が返答できる一般的な子育ての相談と臨床心理士などの専門家の相談を分け て相談場面を設定する必要もあろう。そして,それらをどのように活動の中に位置づけてい くかが今後の課題となろう。
子育て相談の次に今後力を入れなくてはならないものとして, 4 カ所(26.7%)が「子育 て及び子育て支援に関する講習等の実施」を挙げている。これも今後の大きな課題である。
いわゆる啓発活動の必要性を感じているものと理解される。
講演については,むろん専門家を呼んで講演を実施するのも良いが,それぞれのセンター には多彩な人材もいることから,センター同士,連携して,それぞれのセンター所属の人材 活用による講演も良いだろう。
また, 1 カ所だけだが,その他として,訪問支援・託児が挙げられている。育児に深刻な 問題を抱えている親は,はたして子育て支援センターに足を運ぶだろうか。子育て支援セン ターにまで足を運ぶのは,ある程度の子育てへの前向きな姿勢を有する親ではないだろうか。
同様に,育て相談を自ら求める者もそうであろう。本当に子育て支援を必要とする深刻な親 はむしろ子育て支援センターに足を運ぶ姿勢を有しないのではないか。そう考えると,今後 訪問支援の必要性がクローズアップされる。
さて,今後の課題については,項目 4 の自由記載に,さまざまなものが挙げられていて興 味深い。
簡単に整理すると,①母親以外の人(父・祖父母)の利用,②妊婦の利用,③関係機関(他 機関)との連携,④その他,に分類できる。
「父親の利用促進」「父親支援」は,父親の子育て参加の必要性や昨今のイクメン(育児す る父親)問題などを考えると,重要な課題であろう。「祖母の参加促進」も検討されるべき課 題である。母親が働きに出ている間,祖母が子どもの面倒を見ている家庭も少なくないから である。また,「妊婦の子育て支援」も現場ならではの着目点である。現在,どこのセンター も母親の利用が主流である。同じような年齢層の母親が集まるのも意義があるが,様々な人 間が子育て支援センターに集まってくるというのも今後の子育て支援センターの未来像とも いえる。様々な人が利用しやすいセンターを考えていくことも重要である。
⑵ 「くまっしぇ」の現状と課題
「くまっしぇ」とは,前述したように,熊谷市内の子育て支援センター(地域子育て支援拠 点)の連絡会である。
各センターが重要視している「くまっしぇ」の機能については,「子育て支援センター間の
手探りで機能し始めた子育て支援センターは,このような集まりの場があって,お互いに 支えあい,助け合い,情報交換をし,レベルアップを目指しながら発展してきたといえるだ ろう。
また,今後,期待される役割(自由記載)を整理すると,おおまかに,①専門機関との連 携,②各センターの連携,③スキルアップのための研修の提供,④その他,に分類できる。
特に,互いの連携と情報交換や,各拠点と専門機関の連携の橋渡し。団体としての市内での 地位向上と他機関とのスムーズな情報交流連携などが,注目される。
月に 1 度ほど,各センターの代表が集まって「くまっしぇ」として会合を持っているが,
このような集いの場が熊谷市内の子育て支援センターの発展に重要な機能を果たしているこ とは疑いを得ない。「くまっしぇ」は,これからの熊谷市内の子育て支援センターの活動に大 いに寄与することであろう。
注
1 )立正大学社会福祉学部20周年研究プロジェクトの研究費の助成を受けて行ったものであ る。
2 )表現を「ですます調」から「である調」に変え,整理して表記した。
文 献
日下慈・笠原正洋(2016):「地域子育て支援施策の変遷-支援者の専門性を中心に-」中村 学園大学・中村学園大学短期大学部研究紀要,48,pp.7-22.
中谷奈津子(2014):「地域子育て拠点事業利用による母親の変化-支援者の母親規範意識と 母親のエンパワメントに着目して」保育学研究,52( 3 ),pp.319-331.
埼玉県(2016):「子育て支援拠点」 https://www.pref.saitama.lg.jp/a0607/kyoten.html
(2016年 7 月19日,掲載)
椎山克己(2016):「地域子育て支援拠点事業『信愛つどいの広場』の現状と課題」久留米信 愛女学院短期大学紀要,39,pp.45-50.