岡山大学環境理工学 部研 究報告
第11巻,第1号,pplO3‑106,2006年3月
ポ リアスパ ラギン酸系温度応答性 ゲル の創製
上原広樹● 谷元史明● ] 休r 吉朗● 吉滞秀和
S
yn the s i so f No v e l T e m
pe ra hm‑ r e qDn S i v eP o l y m e r Ge l o f Po l y ( a q d ca c i d わ
Hi mk i UEHA RA , F
mia k i nl NI MOTO Yo
shiro帆
,Hi d e k z m YOS
Im WA
( Rec ei vedNoven l ber 30,2005)
Ra
xndy,叫i v e
pbTW g e l sh a v eb e
n dud i e
di nV 血 r
ese a r c h丘e
khs u c h a s
血J g血l i v e r y
印 加 m触 o fr
qr
esendv e
叫i v e
pbn w g e l s
isFDbt N‑ 軸 叩 k K X yk m i d e )g e l 叩
Am)dd hsa
ra
pkl arKIrever s l l ) k : v o I m
dus
e細 i血札 Ho we v
er,PNI
払 Am
isndb
kKkgd le
,readhlgi n血
n触 10 f
itstJSeh md血l
Gekh No v e l
叫s i v er
K)br r 肝 g e
lwas叩 印】d ty c l 鵬s
lhkingo f
血 叩 町 血血em xliGed tDb(RKChhitb)OF A‑
PSI)Po
b【 α ,β
イDL‑a甲 tab
軸 叩 Ia m id
eh叫sL mh
mi de)]) wi dl hexand y l
erd iam i R
触o f
門地 t x) r K
hin t泊Ckbm ,血耶 fm ,辻
isexrdt oド) 父だS Sb
軸 血姐
吋 arKlb叫
血iu y.
Tl溺eg e l sc h a n g e
d廿血 v o h m
ei nr
esFXnSeb dqg eo f
en血 tsLKh
asは ITPerd Jre , P Ha n d
0
0 血
1 0 f
sakh
vd er・ C r
(粘hk a g e
de
nsiyarKIsubsdhJh d
egrt : eo fI P A‑ PS I
仙v o l u
m ,Puse廿肌血 仇 tdnvk mf
伽 geLK
q 肌肌血 :Tl叩i v ef
X)1叩℃r g e tB
軸血b l e
rK)bT k g, Po
Maqd c
拡軌I ・ o
w erCridc
alSo h J d 0 0
叫 (LCS
T),nⅥgd e l i v
町 野deIIIPDS )
1
緒言近年、温度・pH・光な どの外部刺激に対 して体積や物 性が可逆的に変化す る刺激応答性 ゲルに関す る研究が活 発に行われている。温度応答性ゲルはこれ ら刺激応答性ゲ ルの1つであ り、下限臨界共溶温度
( Lo we rCr i t i c a l S o l u t i o n T e mp er a t u r e
以後LCS T)
以下では膨潤、LCS T
以上では収 縮 とい う可逆的体積相転移を示す。この性質を利用 して ドラッグデ リバ リーシステムな ど‑の応用が活発 に研究 さ れているO しか しなが らポ リp‑イ ソプロピルアク リルア ミ ド)ゲルな どの既存の温度応答性 ゲルは完全生分解性 を もたないために医薬分野での応用に制限がある。
そこで本研究では生分解性高分子であるポ リアスパ ラ ギン酸誘導体に注 目した。 これまでに本研究室において、
ポ リアスパ ラギン酸誘導体の一つであるポ リコハ ク酸イ ミド(以後
PS I )
の側鎖にイ ソプロピルア ミンを導入 したイ岡山大学帝境理工学部乗境物質工学科
103
ソプロピルア ミン導入
PSI (
以後I P A‑ PSI )
を合成 し、温度応 答性 を示す ことを明 らかに した( Fi g.1 )
。本研究ではこの温 度応答性高分子I P A‑ PSI
の分子内に残 されたイ ミド環にジ ア ミンを反応 させて架橋することによって、ポ リアスパラ ギン酸系温度応答性 ゲルの調製を 目指 した。このゲルは構 造 中にペプチ ド結合 を持つ ことか ら高い生分解性及び生 体適合性 を有すると考えられ、医薬分野での応用が期待で きる。本報告では、生分解性 を有す る温度応答性ゲルの調製 と 体積相転移に及ぼすゲルの構造の影響、およびpH・塩濃 度に対する応答性の評価結果を報告す る。
2
実 験 方 法2 . 11 P A ‑ P S
lの合成 と評価104 岡山大学環境理工学部研究報告,ll(1)2006年
psIは リン酸を触媒 とした しアスパ ラギン酸の重縮合 により合成 した。重合終了後生成物をDMFに溶解 し、蒸 留水で再沈殿,洗浄後にろ過により生成物を回収 し、減圧 乾燥 した。得 られたPSIはIH‑NMR(溶媒DMSO‑d6)によ り 構造を確認 し、ゲル浸透 クロマ トグラフィー(GPC)により 分子量を測定 した。GPCは溶離液にDMF、基準物質にポ
リスチ レンを用いた。
得 られたpsIを蒸留DMFに溶解 し、窒素雰囲気下でイ ソプロピルア ミンと任意の時間反応 させた。反応終了後、
アセ トニ トリルに反応溶液を投入 し再沈殿,洗浄後、遠心 分離により回収 し、減圧乾燥 させた。生成 したIFA・PSIは IH‑NMR(溶媒DMSO・d6)により構造を確認 し、側鎖導入率 (Fig.2中m/(m+1)×100)を算出 した。また温度応答性の評 価 として電子冷熱式セル温度 コン トローラーを搭載 した 吸光光度計を用いて、温度 を連続的に変化(昇温‑降温)さ せて水溶液の濁度の変化を測定 した。
2.2 IPA‑PSI系ゲルの調製
高 導 入 率 IPAIPSI(側 釣 導 入 率 :70‑ 80%, 以 後 high‑IPA‑Pst)と架橋点補助物質 としてPSl、または低導入 率IPA‑PST(側鎖導入率 :20%,以後low‑IPA‑PST)を任意の 割合で溶解 したDMF溶液に所定量の‑キサメチ レンジア ミン(以後HMDA)を添加 し室温で充分反応 させた。調製 し たゲルはDMfを除去するため純水中で約1週間洗浄 した。
なお洗浄に用いた純水は所定時間ごとに交換 した。
また、架橋密度はポ リマー内の全イ ミ ド環のモル数に 対する添加 したHMDAのア ミン基のモル数の割合 と定義
した。ゲルの基本調製条件をTablelに示す0
2.3ゲルの温度応答性評価
約5m の厚 さに切断 したゲルを純水中に浸 して4℃
か ら70℃まで段階的に加熱後、再び4℃まで段階的に冷 却 した。各温度で1時間保温 した後、水を含んだゲルの質 量を測定 した。また、ゲル を加熱 ・冷却後に減圧乾燥 し、
乾燥質量を測定 した。これ らの測定値 よ り各温度における ゲルの膨潤度(swellingratio;SR)を以下の(1)か ら算出 した.
W‑
W(1) 0
ここでWはゲルの膨潤質量【g】、W。はゲルの乾燥質量tg】
を表 している。
また、pHの異なる緩衝液あるいはNaCl水溶液中でも 同様の実験を行 った。
更にpHや塩濃度に対する応答性 を評価す るため、ゲル を浸 した水溶液のpH・塩濃度を段階的に変化 させ、膨潤 度の変化を観察 した。
3
実験結果と考察;
一
■Fig.1 Thermo‑responsivepolym er(IPA‑PSl).
凄 当
機
Isopropylamine
L‑Aspar(icacid Poly(succinimidc)
IPA‑PSI ThcTmO‑rCSPOnSivcpolym ergel Fig・2 Syntheticschemeofthcrmo‑responsivepolym ergel
Tab)eI PreparationconditionofIPAIPSIgel.
En
1
tq hibb‑1[
:..00A‑PSI lw.Bpsi芸Ⅰ . g l
HMDAk】C0.0815 d認em98.諾1 2 0.90 0.50PSr) 0.0601 15.1 3 0.90 0.50(low‑rPA‑PST) 0.1065 37.13.1lPA‑PSIの合成 と評価
IH‑NMR によ りPSIの合成 を確認 し、GPC測定結果 よ り重量平均分子量Mw‑Ca.30,000であることを確認 した。
また、IPA‑PSIの IH̲NMR スペ ク トル において 1.l‑ l.2ppm、3.8ppm、4.5ppmにイ ソプロピルア ミンの導入に 起因す るピークが現れたことか らIPA‑PSIの合成を確認 し た。4.5ppmのイ ミ ド環の閉環に起因す るピークの積分値
① と5.Oppmのイ ミド環に起因す るピークの積分値②の比 より側鎖導入率を(2)か ら算出 した。m及び 1はFig.2に示 した IPA‑PSIの分子構造 中の各セ グメン ト数 で あ るO
吉揮 秀和 ら /ポ リアスパ ラギ ン酸系温度応答性 ゲルの創成
substitutiondegreel%,‑エm +I×・00‑面覧 ×100 (2, 合成 した highllPA‑PSIは水 に易溶 でそ の水溶液 は温度 変化に対 して可逆的 に相転移 を示す こ とが確認 され た。こ のhlgh‑lPA‑PSIを主 に ゲル調製 に用 いたO/ow‑TPA‑PSIは 水 に ほ とん ど溶 解 せ ず 温 度 応 答 性 も示 さ な い 。 この /ow‑IpA‑PSIは、架橋 点 を補 う物 質 と して使 用 した。
3.2 岬A‑PSl系ゲルの調 製 と評価
hLgh‑IPA‑PSIのみ を用 いて調製 した ゲル(EntTT1)は洗浄 後強度がかな り小 さく、温度応 答性 評価 は行 えなか った。
この原 因 をイ ミ ド環(架橋 点)の不足 と考 えた。
不足 して い るイ ミ ド環 を補 うた め hLgh‑IPA‑PSlと共に PSIをDMFに溶解 させ 、ゲルの調製 を行 った(Entry2)とこ ろ、架橋点 となるイ ミ ド環 の増加 に よ りゲルの強度 は向上 したが、調製 したゲル は 白濁 し、ほ とん ど水 と馴染 まなか った。これ はPSIの疎水性 が高 く、調製 した ゲル と水 の親 和性 が低 か ったため と考 え られ る。
そ こで架橋点 を補 う物 質 を psIよ り若干親水性 の高い low‑JPA‑PSIに換 えゲル の調製 を行 った(Entry3)。そ の結果 ht'gh‑IPA‑PSf:low‑IPA‑PSI‑ 1.8:1(重量比)、架橋密度37.1% にお いて適度 な強度 と親 水性 を持 つ ゲル を調製す る こ と に成功 した(Fig.3)Oこの調製 条件 を基 準 に して架橋密度が 高いゲル と低 いゲル を調製 した。
それ ぞれ の ゲル の膨 潤度 の温度 依 存性 を調べ た結 果 を Fig.4に示す。 なお 、架橋密度 が高いゲル ほ ど高強度 なゲ ル が得 られた。図 よ り架橋密度 の上昇 に伴 って、同 じ温度 での膨潤度 は低 下す るこ とがわか る。また、架橋密度 が高 くな る と加 熱過程 にお け る収縮 率 は小 さ くな る こ とがわ か る。これ は架橋 点 の増加 に よ り高分子鎖 の運動 が抑制 さ れ るため と考 え られ る。また架橋密度 が27.8%の ゲル では 60℃ 以上の加熱 に よ り膨潤度 が増加 した。これ は架橋密度 が小 さいためゲル 中に残基イ ミ ド環 の割合 が多 く、加 熱 に よ りこのイ ミ ド環 が 開環す る こ とで 高分 子鎖 の親 水性 が 増加 し、大 き く膨 潤 した と考 え られ る。架橋密度 が37.1%
の ゲル で は冷却過 程 で膨 潤度 の復 元 が不 完全 で あ ったが 44.8%の ゲル ではほぼ完全 に復元 した。架橋密度37.1%に お いて、この よ うな ヒステ リシスが あ る原 因 と して、加熱 時 にイ ミ ド環 同士の相互作用 に よる安 定化効果 に よ り、収 縮 した状 態 で ゲル の構 造 が安 定化 して しま ったた め と考 え られ る。そのため、残 基イ ミ ド環 の多いゲル ではその安 定化作用 に よ り相転移 が不可逆 とな り、残基 イ ミ ド環 の少 ないゲル では相転移 が可逆的 に進 行 した と考 え られ る.こ れ はIPA‑PSlが側鎖 導入率の低 い ときに相転移 が不可逆 に な ることと同 じ理 由 とい える。
また 44.8%の ゲル を繰 り返 し加 熱 ・冷却 し相転移 の再 現性 を調べた結果 をFig.5に示す。 これ よ り、架橋密度が 大 きいゲル では、体積相転移 が再現 よ く繰 り返 し起 こるこ
0505
0
つJ22‑‑[・]o!Jt!t
[BU≡aきSFig・3 AppearanceorlPA‑PSIge一.
○
■
○ ○
○
●
●
▲ ▲
A A
▲A●▲ A ● ○
A▲●0 ● 去 ○ ● A ▲
0 27.8%
△ 37.1%
[コ 44.8%
10 20 30 40 50 60 70 Temperature[oC】
Fig.4 EffectofcrossHnkagedensjty on thermo‑induced volumephasetranSition・Closedkey:Heatingprocess,Open key:Coolingprocess.
5
050 0
00ノqノ
[
・
]o!)。t)BU!tt等r S
○ I
〇 〇 〇
0
4℃● 6 0
℃0
1 2 3 4HeatingaJldcoolingcycle s
Fig.5 Swelling ratio change ofIPA‑PSJgelin repeated temperaturestimuli.
5 0 5 0 5 0 2 2 ■・1 1l
o!tqぎ!HaJVtS
ob 0 ○ 0 ○ ○
10 20 30 40 50 60 70 TemperatureloC]
Fig.6 EfrectorpH on thermo‑induced volume phase transition.Closedkey:Heatmgprocess,Openkey:Cooling PrOCeSS・
105
1〔)6 岡山大学環境理工学部研究報告,ll(1)2006年
とがわか る。
基準 とした架橋密度 37.1%のゲル を用 いて、pHの異な る緩衝液 中で温度応答性 評価 を行 った結果 をFi8.6に示す。
ただ しpH5.5の溶液はNaCl水溶液 である。 いずれ の場合 も4℃ の時点では純水の場合 よ りも膨潤度 は小 さか った。
また、 この図か ら溶液 のpHが低 いほ ど膨潤度 は小 さく、
加熱による収縮 が大 きくなる傾 向が見 られ た。これ は後 に 示すpHの影響で、水溶液 中に存在す る水素イオンが関連 してい る と考 え られ るopH6.86において加熱 によ り膨潤 が起 こる原因は、イ ミ ド環 の閉環 による もの と考え られ る。
架 橋 密 度 44.8%の ゲ ル の親 水性 を増 加 させ るた め hL'gh‑IPA‑PST:/owlIPA‑PSIの混合比 を3:1としてゲル の 調 製 を行 った。 なお ゲル の 強度 を保 つ た め架 橋 密 度 は 60.0%まで増加 させ た。その結果Fig.7に示す よ うに混合 比 1.8:1のゲル に比べ膨潤度 ・収縮率が大 きく、可逆的 体積相転移 を示すゲルの調製 に成功 した。
このゲル を用いてpH・塩濃度 に対す る応答性 をそれ ぞ れHCl水溶液中、NaCl水溶液 中で観察 した。す る とpH が小 さくなるにつれ ゲルの体積が減少 した(Fig,8)Oこれ は 溶液中に存在す る水素イオ ンが増加す るにつれ 、ゲル分子 内の解離基(カルボキシル基)のプ ロ トン化が進行 し、高分 子鎖間の電荷反発 が抑制 され収縮 が起 こ りや す くな った とため考 え られ る。また塩濃度 の増加 に伴いゲルの体積 は 減少 した(Fig.9)。これ は塩 の添加 に よ りゲル に水和 してい る水分子 が脱水和 され 、ゲルが疎水的にな ることで収縮 が 起 きた と考 えられ る。しか し、可逆性や再現性 の確認 な ど は今後の検討課題 である。
4 結言
zpA‑PSIにジア ミンを反応 させ ることに よるゲルの調製 に成功 した。また側鎖導入率の異 なる2種の1PA‑PSIを用 いることで可逆的 な体積相転移 を示すlPA‑PSI複合ゲルの 調製に成功 したo Lか し、高温時の収縮 率は既往の温度応 答性 ゲル に比べ小 さいため、今後更なる検討が必要であ るQ
hL'g/Z‑IPA‑Pst//OWIJPA‑PSl複合 ゲルの収縮率は架橋密度 、 ht'gJトIPA‑PST:/OwIIPAIPSl混合比 に影響 を受 けた。温度以 外の外部環境(pH,イオン強度)の変化 に よって もゲルの体 積 は大 き く変化 した。
参考文献
Ⅹue・Yong Liu et al. (2004): Fabrication of Temperature‑Sensitive Imprinted Polymer Hydrogel,MacT10RI01B)osc1.,4,pp.4121415 吉滞 ら,(2003):熱誘起相転移 を示す新規 な生分解性
水溶性 高分子 の創製,化学 工学会第 68年会要 旨集
Ⅰ107,pp.303
20
00 ′
042022‑
‑‑‑1・o!tt2tt仙u!TTaJVLS
▲ bl ●t ] I I I
● 9 9
JILgh:/ow=
0 3:1 ロ 1.8・1
10 20 30 40 50 60 70 TemperatureloC]
Fig.7 Efrectofhigh‑JPA‑PSI/low‑IPA‑PSIratioonsweJHng ratio.C一osedkey:Heatingprocess,Openkey:Coolingprocess・
05
0 5
2‑‑
[・]o!‑dtlSu≡ a
LVLS[・]o!tt!tISu≡aJus 0∠U2・・‑12
l 一 l♂ ♂ー ●●
C o
♂
3.0 3.5 4.0 4.5 5.0
pH
Fig.8 EffectofpHonswellingratioinHCIsolution・
〇 〇 〇 〇
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8
1 . 0
Concentration【mol/1】
Fig.9 Effectof‑concentrationofsaltonsweHingratio inNaClsolution.