序
道が出来て,人が往き交い物が往き交い,やがて道沿いに町が形成される。あるいは,先ず,人 が往き交い,道が出来て物が往き交う場合もあるであろう。しかるに,かかる町が都市への発展化 の一途を辿るばかりとは限らない。突然の何らかの要因によって町が歪められたり,町自体が消滅 する場合も,歴史上,決して稀な事態ではない。(楼蘭(Kroraina),Pompei,Itil,Easter 島(Isla de Rapa Nui),……。) もし,発展化に立阻る要因が外生的パラメータの突然の不連続的変化であるとしたら,かかる変 化の影響を調べることは,動学的な比較分析が妥当する場合である。静学的比較分析の結果は,安 定条件から引き出し得るとする対応原理(correspondence principle)が唱えられた。対応原理の妥 当性は,体系の安定性を当然視し得るか否かに懸かっている。経済分析は,安定性を受容すること で自然科学の発展に歩調を合わせてきた。自然科学は,動的体系の分析を有意のものにするために 安定性を必要としてきた。 しかしながら,かかる安定性に対する信認は変更を余儀なくされる。パラメータの僅かな変化が 動学体系に構造的変化をもたらし,非線型の不安定な系の特徴であるカオス(chaos)現象が普遍 的なものとして認識されてくる。都市システムも,不連続性,構造変化,カオス的現象によって特 徴づけられる経済システムの1つの系として位置づけられてくる。 Beckmann[3],[4]は,2次元空間経済における流れ(flow)を位置座標の連続函数としての 方向と量とをもつ連続ベクトル場と捉える市場交換モデルを提示した。さらに,Puu[14],[15]は,
Beckmann モデルにおいて構造安定性(structural stability)の意義を吟味し,構造安定性が妥当し
ないところでのカタストロフィの類型の発生可能性を示唆した。Mees[10]は,都市の興亡の要
因を交易の出現とそれに伴なう交通体系の改善化と捉える Piremnne 仮説を踏まえ,交易地域を特 定化する類型の突然の変化の影響を分析した。Andersson[1]は,かかる突然の変化の要因を兵 站システムの構造変化によって生ずる循環を後にみる van der Pol 方程式の適用によって説明しよ うと試みた。(Andersson=Batten[2]をも参照。)
雑把に言って,元となる函数 f の小さな摂動がフローの質的性質を変化させないならば,動的体系 は構造安定的である,とみなせることは冒頭に示唆したごとくである。 さて,空間経済学の文脈で輸送活動のあり方を見るために,ベクトル空間における数学的基本概 念を確認しておこう。3) いま,x y z−空間の領域 D において連続であり,かつ連続1次偏導函数をもつ函数 f w=f( x,y,z) (1)
を想定し,さらに,x=x(u,v),y= y(u,v),z=z(u,v)を uv−平面における領域 B において,連続
であり,かつ連続1次偏導函数をもつ函数とするとき,すべての(u,v)⊂B に対し,対応する点
[x(u,v),y(u,v),z(u,v)]が D に存在するものとする。したがって,
w=f( x(u,v),y(u,v),z(u,v)) (2)
が B に定義される。(図−1参照。4))
いま,直交座標系 x y z において,ベクトル a は,初期点 P:( x1,y1,z1)と終点 Q:( x2,y2,z2)をも
つベクトルであるとすると,3つの座標差 a1=x2−x1,a2=y2−y1,a3=z2−z1を成分(component)
とするベクトル a=(a1,a2,a3)で表わされ,また,点 A:( x,y,z)の位置ベクトル(positon vector)
rは初期点(0,0,0),終点 A をもつベクトルであり,r=( x,y,z)で表わされる。(図−2参照。5)) 2つのベクトルの a,bが非ゼロで角度ν をもつときノルム(norm)|a|=!a・a,|b|=!b・bに対 し内積から cosν= a・b |a||b| (3) がしたがう。a・b=0のとき,cosν=0となり,a と b は直交する。ここで,b の方向へのベクト ル a の正射影(orthogonal projection)p p=|a|cosν (4) v z D
が定義される。(図−3参照。6))(4)式の両辺に|b|/|b|=1を乗じ,(3)式を考慮すると p=a・b |b| (5) がしたがい,|b|が単位ベクトルならば p=a・b,(|b|=1) (6) がしたがう。(6)式は,p が b の方向への a の正射影であることを表わす。
いま,a=(a1,a2,a3)"!0,r=(x,y,z)とするとき,平面を内積 a・r=c(const)として表わす。a
で表わされる。内積 a・r を|a|で除すると
n・r=p,where p= c
|a| (8)
がしたがう。(6)式から,p は n の方向へ r の射影となり,n が平面に垂直であれば,n は平面の
単位法線ベクトル(unit normal vector)と呼ばれる。(図−4参照。7))
さて,スカラー函数 f( x,y,z)の勾配(gradient)はベクトル函数であり
grad f =!#!x ,!f !y ,!f !f!z"$=!f!xi+!f
!yj+!f!zk (9)
で定義される。ただし,i=(1,0,0),j=(0,1,0),k=(0,0,1)である。
Dbf = d f d s= !f !xx′+!y!fy′+!z!fz′ (12) を得る。ただし,x′=!x/!s であり,y′,z′も,これに準ずる。 しかるに, r′=x′i+y′j+z′k=b (13) がしたがうから, Dbf =!f !s =b・grad f (14) がしたがう。ここで,射影の定義式((4)式)を想起すれば,
Dbf =|b||grad f|cosν=|grad f|cosν (15)
を得る。ただし,ν は,b と grad f の間の角度である。しかるに,ν=0,したがって cosν=1のと
き,Dbf は最大値をとり,Dbf =|grad f|がしたがう。すなわち,ある点 P において,grad f(P )"!0
ならば,grad f(P )は,P において最大増加の方向をもつことが帰結される。
微分可能な f に対して,f( x,y,z)=c=const で表わされる面 S は等位面(level surface)と呼ば れ,定数 c の値毎に異なる等位面が得られる。いま,S の点 P を通る S 上の曲線を C とすれば, C はベクトル表現 r(t)=( x(t),y(t),z(t))をもち,S 上に存在するとき, f( x(t),y(t),z(t))=c (16) を満たさなければならない。いま,曲線 C の接ベクトルを r′(t)=( x′(t),y′(t),z′(t))とするとき, P を通る S 上のすべての曲線は,P における S の接平面(tangent plane)と呼ばれる平面を形成 する。この接平面の法線は,P における S に対する面法線(surface normal)と呼ばれ,その面法 線の方向のベクトルは,P における S の面法線ベクトル(surface normal vector)と呼ばれる。か
で表わされる。したがって,grad f が接平面においてすべてのベクトル r′と直交し,P における S の法線ベクトルとなる。(図−6参照。10))
ところで,スカラー場(scalar field)から勾配(gradient)によってベクトル場(vector field) を導くことができる。逆に,ベクトル場からベクトル場の発散(divergence)によってスカラー場 を導くことができる。 いま,微分可能ベクトル函数 v( x,y,z)を想定し,その v の成分を v1,v2,v3とするとき v の発散 は div v=!v1 !x +!v!y +2 !v!z3 (18) で表わせる。別の表現法によれば div v=!#!x ,! !y ,! !z!$(" v1,v2,v3) =!#!x i+! !y j+! !z k! "$(v1i+v2j+v3k) =!v1 !x +!v!y +2 !v!z3 (19) で表わされる。このとき,スカラー函数 f は,ポテンシャル函数(potential function),あるいは v のポテンシャルと呼ばれる。 ここで,f( x,y,z)が2回微分可能なスカラー函数であるとすれば,勾配が存在し, v=grad f =!#!f!x ,!f!y ,!f!z"$=!x!fi+!f!yj+!f!zk (20) で表わされる。さらに,第1成分,第2成分,第3成分のそれぞれを x,y,z に関して微分すれば,
div v=div( grad f )=!
がしたがう。(25)式は,勾配の発散を表わし,この表現は,Laplacian と呼ばれる。
しかるに,grad と div の間の関係を示すいくつかの公式が導かれている。以下の議論に適用され
る筈の2式
div( f v)=f div v+v grad f (21)
div!#p!f !t"$=pdiv!f!t+ !f !tgrad p (22) に言及するに留めよう。 2.ベクトル場 本項では,空間における面の積分とベクトル場の発散のあり方をみる。 いま,x y z−空間における面 S は, z= f( x,y) (23) or g( x,y,z)=0 (24) で表現される。面積分に際しては,面 S のパラメータ表現(parametric presentation)の適用が有 効である。すなわち
r(u,v)=( x(u,v),y(u,v),z(u,v))
=x(u,v)i+y(u,v)j+z(u,v)k (25)
有限多数の平滑部分が構成されているならば,S は区分的に平滑(piecewise smooth)であると呼 ばれる。 ところで,上の(25)式で表現される S が区分的に平滑であるものとすると,すべての点で S が 法線ベクトル N=ru×rv (31) と単位法線ベクトル n= N |N| (32) をもつ。 いま,ベクトル函数 F が与えられるとき,S にまたがる面積分(surface integral)は, !!
"F・ndA=!!!F(r(u,v))N(u,v)d u d v (33)
で定義される。しかるに,xy―平面の領域 R の面積(area)A は,2重積分(double integral)
V ="" !f( x,y)d x d y (35) で与えられる。(図−9参照。13))したがって,(31)式から|N|=|ru×rv|となり,ru,rvを2辺とす る平行四辺形の面積となる。したがって,(32)式を考慮すれば nd A=n|N|d u d v=Nd u d v (36) を得る。 いま,F =[ F1,F2,F3],N=[ N1,N2,N3]かつ n=[cosα,cosβ,cosγ]と成分表示し,|a|=!a・a, |b|=!b・bを想起すれば cosα= a・b |a||b| (37) がしたがうから cosα= n・i |n||i|=n・i と変形される。したがって,(33)式は ""
"F・ndA="""(F1cosα+F2cosβ+F3cosγ)dA
式は,さらに, !!!F・ndA=!! ! (F1d y d z+F2d z d x+F3d x d y) (40) と表現し直される。 さて,領域Τ にまたがる函数 f(x,y,z)の3重積分(tripple integral)を考える。ただし,f は Τ を含む領域において連続であり,Τ は有限多数の平滑面によって有界となっているものとする。3 重積分は,空間の領域の有界面にまたがる面積分に変換可能である。かかる変換は,ベクトル函数 F=[ F1,F2,F3]=F1i+F2j+F3kの発散,すなわち div F ="F"x +1 "F"y +2 "F"z3 (41) を含む発散定理によってなされる。次の[Gauss 発散定理](Gauss’s divergence theorem)がそれ である。 [Gauss 発散定理]14) 区分的平滑面 S をその境界とする閉有界領域をΤ とし,Τ を含む領域において連続で,か つ連続1次偏導函数をもつ函数を F( x,y,z)とするとき, !!!!div FdV =!! !F・ndA (42) が成立する。成分表示すれば,F =[ F1,F2,F3],かつ外向き単位法線ベクトル n=[cosα,cosβ, cosγ]に対し,(42)式は !!! ! ! #"F"x +1 "F"y +2 "F"z3"$d x d y d z =!! !
(F1cosα+F2cosβ+F3cosγ)dA
=!! !F1d y d z+F2d z d x+F3d x d y (43) で表現される。 すでに示唆したごとく,発散は,フローの流出分から流入分を減じた純流出フローないし超過流 出フローを意味する。 また,上の発散定理は,3重積分を平面上の面積分に変換させる。後にみるごとく,くさびカタ ストロフィ(cusp catastrophe)の表現に有効性を発揮する。
1) 構造安定性(structural stability)に関する議論として,Hirsch=Smale[ 6 ]( Chap .16),Varian[18], Demazure[5](Chap.9),Poston=Stewart[12](Chap.6)等参照。
2) C1ノルム(C1
4) Kreyszig, op. cit., Fig.211(p.400)に準ずる。
5) Kreyszig, op. cit., Fig.166,および Fig.167(p.366)に準ずる。 6) Kreyszig, op. cit., Fig.179(p.374)に準ずる。
7) Kreyszig, op. cit., Fig.182(p.375)に準ずる。 8) Kreyszig, op. cit., Fig.213(p.404)に準ずる。
9) 有界の曲線 C を r(t)(a!t !b)で表わし,n 分割からしたがう端点 r(to),…,(tr n)をもつ弦 l1,…,lnの長さ は Pythagoras 定理からしたがう。n→∞のとき,r(t)が導函数 r′(t)をもつとき列 l1,…,lnは極限をもち,l ="!"!r・r′′dt で表わされる。曲線 C の上限 b を変数 t で置換するとき,積分値は t の函数となり,s(t)= " ! #
!r・r′′dτ(r′=dr/dτ)で表わされ,s(t)は C の弧長(arc length)と呼ばれる。(Kreyszig, op. cit.,(p.393) 参照。)
10) Kreyszig, op. cit., Fig.214(p.406)に準ずる。 11) Kreyszig, op. cit., Fig.239(p.445)に準ずる。 12) Kreyszig, op. cit., Fig.242(p.447)に準ずる。 13) Kreyszig, op. cit., Fig.229(p.435)に準ずる。 14) 証明として,Kreyszig, op. cit.,(pp.460‐1)参照。
一般的線型振動子(linear oscillator) ! x ¨+kx+x=F cosΩt,k>0 (45) へと通ずる。ただし,F ,Ω は,それぞれドライバーの振幅(amplitude)と振動数(frequency)で ある。(45)式の減衰振動解は x=e− kt
2( Asinαt+B cosαt)+ Fcos(Ωt−φ)
!(1−Ω2)2+k2Ω2, where α="1−1 4k 2,φ=tan−1" $1−kΩ2#% (46) で表わされることが知られている。16) しかるに,t→∞とすると,(46)式の右辺第1項は,無視し得るサイズとなり,したがって,振 動の振幅は,初期振動ではなくドライバーの F ,Ω に依存することになり,所与の F に対し,振動 はΩ2 =1−1 2k 2 のとき最大化される。ここで,k が十分小さければ,この振幅は,F に比べて極め て大きな値となる,いわゆる共振(resonance)現象が現出する。 最も簡単な非線型振動子の例として,Duffing 方程式がある。17)すなわち ! x ¨+kx+x+ax3=F cosΩt,k>0 (47) で与えられる。いま, Ω=1+ω (48) で表わすものとし,さらに,k,a,ω をすべて小さな値に設定すれば,(47)式の左辺の3乗項は, 復元力(restoring force)の非線型部分を表わす。もし,a>0ならば,変位(displacement)につ れ,線型の場合以上に急速に復元力が増加する強バネ(hard spring)の場合が,逆に,a<0の場 合は弱バネ(soft spring)のそれがしたがう。a の値が小さいものと想定すれば,Duffing 方程式は,
上の(45)式の線型振動子のそれに接近してくる。いま,解として
x=Acos(Ωt−φ) (49)
を試みる。(49)式を(47)式に代入し,2次項,cos3Ωt 項を無視し,cosΩt と sinΩt の係数を均等 化させれば, tanφ=4k/(3aA2−8ω) (50) A2" $34aA 2−2ω# % 2 =F2−k2A2 (51) がしたがう。
しかるに,(51)式は,A2に関して3次となるから,A2を状態変数,a,ω を制御変数とするく!さ!
び
!
(a,ω)=
±
"$32k2 !3/27F2,k "32#% (52) がしたがう。2つのく ! さ ! び ! カタストロフィがしたがう。 図−10において18),a=0のとき,線型振動子となり,ω=0のとき,A の最大値を得る。ドライ バーの振動数と体系の自然振動数が均等化するときに生ずる共振効果がもたらされる。しかるに, バネが十分強力であれば,また負のω からスタートして,増加させていくと A は最大値までゆっ くり増加し,やがて減少に転じ,一気に急落する。このとき,振動子の相(phase)にも変化が生 ずる。まず,ゆっくりω を減少させると,やがて振幅と相にもう一つの別の個所でも激変が生じ,2 つのく!さ!び!が現出する。同様の効果はバネが十分柔軟なときでも,見ることができる。かかる Duffing 方程式は,物理学においては広い応用を誇っているごとくであるが,勾配動学(gradient dynamics) に拠らないカタストロフィの発生可能性を窺わせる。 ところで,分岐する振動子のすべてが,いわゆる初等カタストロフィ(elementary catastrophe) のパターンにしたがうとは限らない。したがって,そのリストに載らない分岐もあり得よう。そう した分岐をもたらす振動子の一例が,van der Pol 方程式であり,!
ここで,y=x と変数変換を行えば,上の van der Pol 方程式は,2つの1次微分方程式として書 き直すことができる。すなわち, ! x=y (54) ! y=−k( x2−b)y−x (55) がしたがう。b<0のとき,原点に向かうら!せ!ん!軌道がしたがう。b>0のとき,リミット・サイク ルがしたがい,さらに,k が大きいとき,リミット・サイクルは平方波(square wave)に似た形状 をとる。(図−11(a),(b),(c)参照。19))
ところで,van der Pol 方程式は,Hopf 分岐(Hopf bifurcation)をともなう,すなわち,不安定
均衡点が安定リミット・サイクルに囲まれる。しかるに,減衰が大きいとき,van der Pol 振動子と ! カタストロフィ論との関連性を築くことができる。このためには,別の相平面を用いればよい。x が極めて大きくなるから取扱いに適した変数とならなくなる難点が生じるからであり,z=!x が 適用される。 ! ! ! いま,x,x の初期値を x(0)=x0,x(0)=x0とし, z(t)=z0− 1 K !! ! x(τ)dτ (56) と設定する。ただし,z0は, ! z0= 1 3x0 3 −bx0−x0/K (57) である。大文字 K は,減衰係数で,大きな一定値をとるものとする。(56)式から ! z(t)=−x(t)/K (58) がしたがう。(58)式を元の方程式((53)式)に代入すると ! ! ! x ¨(t)+K( x(t)2 x(t)−bx(t)−z(t))=0 (59)
を得る。ここで,積分を施せば,van der Pol 方程式の代替型
した。上の多項式が1次元の場合には4つの普遍的開折が,2次元の場合は,3つのそれが,それ ぞれ存在する。かかる帰結は,Thom の分類定理(classification theorem)が主張するそれであり, これらの普遍的開折は,初等カタストロフィ(elementary catastrophes)と呼ばれる。 いま,動学体系 ! z(t)=g(z(t)),z(t)∈Rn (65) を想定し,速い変数を z1とし,残りの変数 z2,…,znは変化の極く遅いパ ! ラ!メ!ー!タ!とみなすことが できるものとする。このとき,z1は,不均衡状態に対し速やかに反応し,無限大の速度で均衡値に 移動する。したがって, ! z1=0=g(z1 1,…,zn) A t (66) がしたがう。方程式 g(z1 1,…,zn)=0は Rnにおける n−1次元多様体(manifold)を表わし,均衡 ! 曲面(equilibrium surface)M と呼ばれる。z1=−Fz1≡f(z1,α)なる函数 F(z1,α)が構成する動学体 系は,勾配系(gradient system)と呼ばれる。このとき, S ={(z1,α)∈R ×Rn−1|Vz1z1=0} (67) なる集合,すなわち,普遍的解折の2次導函数がゼロとなるようなすべての(z1,α)の集合は特異点 集合(singularity set)と呼ばれ,特異点集合をパラメータ空間に射影したもの,すなわち B={α∈Rn−1|Vz 1z1=0} (68) は,分岐集合(bifurcation set)と呼ばれる。 しかるに,く!さ!び!カタストロフィは,z1=x と記号変換をすれば,普遍的解折 V( x)=x4+α 1x2+α2x (69) が均衡曲面M M:4x3+2α 1x+α2=0 (70) かつ,特異的集合S S :12x2+2α 1=0 (71) をもつ体系である。このとき,分岐集合B は,M とS から x を消去すれば得られ B:8α13+27α22=0 (72) で表わされる。しかるに,(72)式左辺は,均衡曲面方程式((70)式)の判別式(discriminant)を与 える。
上の van der Pol 体系の均衡式((62)式)は,均衡曲面M に相当し,同様の手続を適用すれば,
2.空間経済の構造安定性とカタストロフィ
本項では,構造安定性の意義とカタストロフィの可能性を空間経済の文脈の中で検討する。 Beckmann[3],[4]は,連続ベクトル場における方向と空間的密度(spatial density)をもつフ ロー(flow)によって,2地区間の財の輸送活動を記述すべく連続2次元空間経済モデルを提示し た。23)
いま,ベクトル空間において,財はいずれの方向にも自由に輸送可能(traversible)であり,そ こでの輸送費用は輸送方向から独立で,位置のみに依存するものとする。すなわち,モデルは,等 方的輸送モデル(isotropic transportation model)の性格をもつそれとなる。24)
さて,ベクトル空間において,n 種類の財とフローの集合を, φi=(φ
1( x,i y),φ2( x,i y)),i=1,……,n, (73)
される取引方向が,勾配(gradient)の方向であり,φi"!0のとき,常に,(78)式が満たされなけれ ばならない。(78)式の関係は,勾配法則(gradient law)と呼ばれる。 さらに,(78)式は,フローが最も険しい価格の増加への方向にある,すなわち,フロー線とポテ ンシャル線が直交することを意味している。いま,(78)式の両辺のノルムをとれば |gradλi|=fi,i=1,……,n, (79) がしたがう。(79)式において,右辺は,既知の函数であり,(79)式を解くためには,左辺のフロー 密度函数の集合を知る必要がある。 しかるに,Gauss 発散定理が同函数の確定に有効性を発揮する。ユークリッド空間の領域 S の 境界!S 上のフローの外向き法線ベクトルの成分を(φi) nとするとき,Gauss 発散定理は,方向θi に関する等方性の想定を想起すれば, "" !divφ i d x d y=" !!(φ i) nd s,i=1,……,n, (80) を主張する。(80)式は,境界上のフローの発散の面積分は,地区からの純流出に均等化することを 示唆している。いま,地区の財超過供給をδ( x,i y)で表わせば, divφi=δi (81) がしたがう。(81)式の関係は,財の発散法則(divergence law)と呼ばれる。上の(79)式の勾配法 則は,空間的市場における価格均等条件に,(81)式の発散法則は,数量均等条件に,それぞれ対比 し得る。 ここで,r=!x2+y2と設定し,φi /|φi|=grad r がしたがうとき,フローが放射状に外向きである ものとする。しかるに,発散に関する公式
div( xy)=x div y+y grad x (82)
を適用すれば
divφi=div|φi|grad r+|φi|div(grad r) (83)
がしたがう。しかるに,勾配の発散 div(grad r)は,Laplacian 式
がしたがう。 さらに,財の移動が展開される局所は閉じた系を成すものとすれば,n は,境界!A に対して垂 直な法線の方向を指し,!A において φni=0となり,境界条件を成す。28) また,発散に対して !! ! ! #λidivdφ i dt+gradλ idφ i dt"$d x d y =!! !divλ idφ i dt d x d y (95) がしたがう。しかるに,Gauss 定理より !!!divλi! #dφ i dt"$d x d y=!!"λn iφ nids=0 (96) がしたがう。(96)式の右辺は,領域 A が面であるのに対し!A は線となり,したがって,面積 A を 囲む境界の長さ S に関して積分すればよく,! "φ nids で表わされ,dφi/dt をλidφi/dt に置きかえる とき! !"λ niφnids と書き換えられることから,したがう。 以上から dCi dt =!!! % 'fi!#φidφ i dt "$/|φ i |−dλ i dt(divφ i−δi) +λidivdφ i dt+gradλ idφ i dt −gradλ idφ i dt &(d x d y =!! ! % ')+fi!#φidφ i dt"$/|φ i |−gradλidφ i dt*,+)+ dλi dt(divφ i−δi)* ,&(d x d y =!! ! % '−)+gradλi−fi φ i |φi|*, dφi dt −)+ dφi dt(divφ i−δi)* ,&(d x d y (97) がしたがう。ここで,(97)式に(91),(92)式を代入すれば, dCi dt =−!!! ! #gradλi−fi φ i |φi|"$ 2 +(divφi−δi)2 d x d y(
!
0) (98) がしたがう。(98)式は,均衡点以外では負となる。いま,輸送総費用の最小値を Ci minで表わせば, 函数 Ci (φi ,λi )−Ciminは,Liapounov 函数に相当し,体系は,漸近安定的(asymptotically stable)と
が満たされることと同値である。ただし,添字0は,臨界点が原点となることが仮定されているこ とを意味している。 しかるに,構造安定性の仮定が満たされないとき,1個以上のパラメータの緩慢な僅かな変化に 対し,( x,y)の均衡点は,状態変数の突然の跳躍(catastrophe),最初の点から異なる或る点に復 帰する経路(hysteresis),そしてく ! さ ! び ! の点に向かう発散(divergence)のあり方による上部曲面 と下部曲面における異なった状態の発生,という3種類の型の挙動が現出する可能性をカタストロ フィ理論は,結論づける。 例えば,3つのパラメータ,u,v,w のあり方が輸送費用のあり方に影響をもたらす例として,勾 配系が,それぞれ2つのポテンシャル函数
λ(x,y)=x3−3xy2+w( x2+y2)−ux−vy (108)
および
λ(x,y)=x3+y3+wxy−ux−vy (109)
をもつとき,それぞれ,楕円型臍点曲面(elliptic umbilic surface),双曲型臍点曲面(hyperbolic umbilic surface)を導くごとくである。この2式は,それぞれ,Thom の7つの初等カタストロフィ
の分類の5,6番目に位置する類型に他ならない。32)
15) 本項の議論の多くを Saunders[16](Chap.5)に負う。また,Rosser, Jr.[15](Chap.2),Poston=Stewart, op.
cit.,(Chap.12)をも参照。 16) Saunders, op. cit.,(p.66)参照。
17) Zeeman[21],Holmes=Rand[7]は,同方程式とカタストロフィの類型との関連性を示唆する。 18) Saunders, op. cit., Fig.5.3(p.67)に準ずる。
19) Saunders, op. cit., Fig.5.4(p.69)に準ずる。
20) 速い変数と遅い変数の差の経済史的および経済学史的意義について,Zhang[21](Chap.9)参照。 21) Saunders, op. cit., Fig.5.5(p.71)に準ずる。
22) 以下の議論に関して,Saunders, op. cit.,(Chap.3),Lorenz[9](Chap.7),Poston=Stewart, op. cit.,(Chap.9), Zhang, op. cit.,(Chap.4)参照。
23) Puu[13],[14]は,Beckmann モデルの発展化を図った。本項の議論の多くを両者に負う。
24) 本項の記号法は,重複部分も含めて,前項までのそれとは独立したそれである。
25) 第1節第1項の図−1参照。
26) 極座標における半径1の円を想定すれば十分である。
27) 以下の議論における手続きについて,Zhang, op. cit.,(Chap.8)参照。 28) 財のインデックスと混同無用である。
29) 漸近安定性(asymptotical stability)に関して Hirsch=Smale, op. cit.,(Chap.9),Varian[18]参照。
30) 孤立的特異点(isolated singular points)について,例えば,Kreyszig, op. cit.,(Chap.16),Puu[14]Fig.3. (p.984)参照。直観的には,三角函数の tangent± π
2,± 3π
2,……を想起されたい。 31) Hirsch=Smale, op. cit.,(Chap.16),Zhang, op. cit.,(Chap.8)をも参照。
結びにかえて
土星の不規則形状をもつ第7衛星ヒペリオン(Hyperion)の予測し得ない回転運動が,天体力 学において最初に確認されたカオス運動であったごとくである。その後,カオス運動の発生を可能 にするタイプのモデルが物理学の振動論の議論の中から生まれた。かかる振動論の一般型の最初の
ものが,ラジオ技術絡みの問題に取組んだロシア学派によって,1936年には,開発されていた。
しかるに,ロシア学派の一般化作業に先立って,2つの非線型強制振動子(nonlinear forced oscil-lators)の実例が,1918年に Duffing モデルとして,1927年に van der Pol モデルとして提示されて いた。van der Pol は,電話受話器の周波数率の調整中に,周波数が次の低水準にジャンプして切 り変わる前に,バグ・パイプの音を強く想起させる不規則ノイズが受話器に聞こえる領域が存在す ることに気がついた,と回想している。 上では,2地域間の財の流れを位置座標をもつベクトル場と捉える空間経済における市場交換の 過程が展望的に検討された。経済体系が安定的なそれに留まり得るか否かの基準として,伝統的な 安定条件に代わって構造的安定性が援用された。 しかるに,構造安定性が妥当しない体系には,伝統的経済分析には現われてこない型の挙動が現 出する可能性があり,突然の跳躍であるカタストロフィがその1つの可能性である。上の空間経済 において,いかなる類型のカタスロフィが現出するかは,財の価格ポテンシャルの形状に依存する ことが確認された。 上の議論は,より具体的な経済系にカタストロフィが現出する可能性を探るための方法的基礎を 与える筈である。 References
[1] Å. E. Andersson, “The Four Logistical Revolutions,” Papers of Regional Science Association,59,1986. [2] , and D. F. Batten, “Creative Nodes, Logistical Network, and the Future of the Metropolis,”
Trans-portation,14,1988.
[3] M. J. Beckmann, “A Continuous Model of Transportation,” Econometrica,20,1952.
[4] , “The Partial Equilibrium of Continuous Space Market,” Weltwirtschaftliches Archiv,71,1953. [5] M. Demazure, Bifurcations and Catastrophes, Springer2000(originally published in French, in1989) [6] M. W. Hirsch and S. Smale, Differential Equations, Dynamical Systems, and Linear Algebra, Academic Press,
1974.
[7] P. J. Holmes and D. A. Rand, “The Bifurcations of Duffing’s Equation : An Application of Catastrophe The-ory,” Journal of Sound and Vibration,44,1976.
[8] E. Kreyszig, Advanced Engineering Mathematics,9th Edition, John Wiley & Sons,2006.
[9] H. W. Lorenz, Nonlinear Dynamical Economics and Chaotic Motion,2nd Edition, Spring−Verlag,1993. [10] A. Mees. “The Revival of Cities in Medieval Europe : An Application of Catastrophe Theory,” Regional
Sci-ence and Urban Economics,5,1975.
[11] M. M. Peixoto, “Generic Properties of Ordinary Differential Equations,” in J. Hale(ed.), Studies in Ordinary
[12] T. Poston and I. Stewart, Catastrophe Theory and Its Applications, Dover Publications,1978. [13] T. Puu, “Regional Modelling and Structural Stability,” Environment and Planning A,11,1979.
[14] , “Structural Stability and Change in Geographical Space,” Environment and Planning A,13,1981. [15] J. B. Rosser, Jr., From Catastrophe to Chaos : A General Theory of Economic Discontinuities, 2nd Edition,
Klu-wer Academic Publishers,2000.
[16] P. T. Saunders, An Introduction to Catastrophe Theory, Cambridge University Press,1980.
[17] R. Thom, “What is Catastrophe Theory about?”in H. Haken(ed.), Synergetics, A Workshop, Springer−Verlag, 1977.
[18] H. R. Varian, “Dynamical Systems with Applications to Economics,” in K. J. Arrow and M. D. Intriligator (eds.), Handbook of Mathematical Economics, Volume 1, North Holland,1981.
[19] A. E. R. Woodcock and T. Poston, A Geometrical Study of the Elementary Catastrophes, Springer,1974. [20] E. C. Zeeman, “Duffing’s Equation in Brain Modelling,” Bulletin of the Institute of Mathematics and Its
Appli-cations,12,1976.