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(特集) グローバ リゼー ションは世界 に何 をもた らすか*
グローバル ・インバランスとアメリカ経済
鳴 瀬 成 洋
目次 は じめに
1. グ ローバ ノレ・イ ンバ ラ ンスの特徴 2. 貯蓄 ・投 資バ ラ ンス論
3.法外 な特権 ‑ 評価効果 と対外 資産 ・負債 の収益 の非対称性 ‑ 4. 世界 的貯蓄過剰
5.
復活 した ブ レ トンウ ッズ体制6 .
グ ローバル ・イ ンバ ラ ンスか ら世界金融危機 ,世界不況 ‑は じめに
アメ l)カ中央 情報局 (CIA)は,2008年 の経常収支 の国別 ラ ンキ ングを発表 してい る。 それ に よる と, 第1位 中国3,682億 ドル,第2位 ドイ ツ2,671億 ドル,第3位 日本1,878億 ドル,第4位 サ ウ ジア ラ ビア 1,410億 ドル,第5位 ロシア976億 ドル, と続 き, アメ リカは最下位 の第188位 で, その額‑5,688億 ドル は第186位 イギ リスの‑725億 ドル,第187位 スペ イ ンの ‑1,525億 ドル を大 き く引 き離 し群 を抜いてい る1)0
アメ リカの経 常収支赤字 は, レーガ ノ ミクスの本格化 を受 けて1983年代以 降顕著 に拡大 した。経 常収 支 の累積 は対外純 資産 (負債) で あ り, ア メ リカは1983年 には2,574億 ドノレとい う最 大 の対 外純 資産額 を記録 してい たが, その わずか6年後 の89年 には債務 国 に転落 す る とともに,1980年代 には経常収 支赤 字 の持続可能性 が問題 とな った。 しか し, プ ラザ合意 に基づ く各 国の協調介入 に よる ドル安誘導 が効果 を 発揮 して,1980年代 の終 わ りか ら経常収支赤字 が大幅 に減少 し,91年 には湾岸戦 争平和拠 出金 の受取 り もあ りわず か に黒字 を記録 し, また,1987年 の ブ ラ ック ・マ ンデ ー後 も, 日本 が低 金利政 策 を採 り続 け アメ リカに資本 を供給 す る役割 を果 た した こ とか ら,経 常収支赤字 の持続可能性 とい う問題 は後景 に退い た。1993年 頃 か らア メ リカの経 常収支赤字 は膨 らむが, それ を懸念 す る声 は,赤字 の増加 は これ まで に ない長期 の好況 に随伴 す る現象 だ とい う強気 にか き消 された。
その持続 可能性 に再 び焦点 が当て られ る よ うにな った のは, アメ リカが2001年 のIT バ ブルの崩壊 か ら 急速 に立 ち直 り, 同年
1
1月か ら景気 が拡 大す る中で,経常収 支赤字 が増加 す る過程 におい てで あ った。この とき注 目 された の は,何 よ りも,対名 目
GDP
比 で5‑ 6%に上 る経 常収 支赤 字 の大 きさで あ った。しか し, よ り重要 な こ とが あ る。 それ は,2000年代 におい て は,世界 の経 常収 支不 均衡 の構 造 は, グ ロ
*
2008年10月4日から11月1日にかけて,神奈川大学経済貿易研究所の主催により 「グローバ リゼーションは世界に何 をもたらすか」 とい うテーマで,生涯学習エクステンション講座を開催 したO以下に掲載する論説は,同講座での各講師 の講演をもとにまとめたものである.1) httDS://W .cia.govnibrarv/I)ublications/the‑world‑factbook/rankorder/2187rank.hbnl ただ し,アメリカ商務省発表の 数字とは異なる。
‑ 80‑ グローバノレ・インバ ランスとアメ リカ経済
図1 アメリカの経常収支とドルの実質実効為替レート
21 0
‑1
‑ 2
‑ ‑ ‑ ‑ ‑ 3 4 5 6 7
(%)ト ( ⊂ =
ー〉 )
148) . 120
I ‑ ド ‑ ‑
‑ ‑ ‑
‑ 川6 2 4 0 8
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oN
一‑ 経常収支 (対名 目GDP比)左 目盛 (%) 瓜 実質実効為替 レー ト(REER)右 目盛 (1973年3月 ‑100)
(資料)
U. S. De p a r t me n to fCo mme r c e , Bu r e a uo fEc o n o m icAn a ly s i s , W e b
si t
eよ り作成‑バ リゼ ‑シ ョンが
1 9 9 0
年代 に もた ら した事 態,す なわち, 巨額 の国際 資本移動 を原 因 とす る一 連 の通 貨危機 , ロシアや東 アジア等 の新興諸 国 の世界 市場へ の参入, そ して, 中国の経済大 国化 とい った事態 に よって,1 9 8 0
年代 とは大 き く異 な る ものに な った, とい うこ とで あ る。各 国 ご とに経 常収 支 と同義 で あ る貯 蓄 と投 資 のバ ラ ンスが とれてい ない とい うだ けで な く,1 9 9 0
年代 以 降 の グ ローバ リゼ ーシ ョンに よ って生 み出 された,8 0
年代 とは異 な る2 0 0 0
年代 にお け る世界 の経 常収 支不均衡 の構 造 が, グ ローバ ル ・ イ ンバ ラ ンス( Gl o ba l l mba l a nc e s )
とい われ る もので あ り,現在 は, アメ リカの経常収支赤字 の持続 可能 性 が, グ ローバル ・イ ンバ ラ ンス とい う構造 の中で, 問 われてい るので あ る。本稿 で は, グローバ ル ・イ ンバ ランスの特徴 を明 らか にす る とともに, アメ リカの経常収支赤字 の持続可能性 に関す る代 表的見解 に つい て検討 す る。1. グローバル ・イ ンバ ランスの特徴
グ ローバ )L,・イ ンバ ラ ンスの特 徴 と して まず挙 げ られ るの は, ア メ リカの経 常収 支赤字 の大 きさで あ る
。1 9 9 0
年代 末 か らアメ リカの経 常収 支 は急激 に悪化 し,2 0 0 6
年 には,‑7 , 8 8 1
億 ドル,対名 目GDP
比‑6 . 0%
と過去最 大 の赤字 を記録 した (景気減速 の影響 を受 け,経常収 支赤字 は2 0 07
年 には7 , 3 1 2
億 ドノレ, 対 名 目GDP
比5 . 3%,2 0 0 8
年 に は6 , 7 3 3
億 ドル, 同4 . 7%
に縮 小)。対 名 目GDP
比 で 見 て これ まで の最も高い値 で あ る
一3 . 4% ( 1 9 8 7
年) と比較 す れ ば, その大 きさは桁 はず れで あ り,持続可能性 が問題 とな るの も当然 で あ る。 また,経 常収 支赤字 の9
割 以上 を占め る貿易 ・サ ー ビス収 支赤字 も,2 0 0 6
年 には ‑7 , 5 3 2
億 ドル (対名 目GDP
比‑5 . 7%)
と過 去最 高 を記録 した。経 常収 支 の黒字要 因で あ る所 得収 支 は,2 0 0 4
年 の8 4 4
億 ドル を ピークに,0 5
年4 8 1
億 ドル,0 6
年3 6 6
億 ドル と2
年連続 で減 少 してい る2)。2 ) 2 0 0 5・ 0 6
年 に所得収支 の黒字が減少 したのは,米 国債 や米 国政府機 関債 へ の海外か らの投 資が年 々拡大 し,2 0 0 4
年以降 短期金利 が,2 0 05
年以 降 は長期金利 も上昇基調 とな り, それ に よる利 払いが増加 してい るこ とに よる (経済産業省2 0 0 7 ,
2 2
ペ ージ).グローバノレ・インバランスとアメリカ経済
表 1 アメリカの主要国 ・地域別経常収支
‑ 81‑
(単位:100万 ドル)
午 日本 中国 NⅠEs ヨーロッパ 中南米 OPEC アメ リカ
EU
1999 ‑80,569 ‑72,743 ‑25,125 ‑54,193 ‑40,306 ‑20,004 ‑14,256 ‑310,630 2000 ‑90,705 ‑88,041 ‑24,137 ‑74,922 ‑54,093 ‑32,997 ‑42,495 ‑417,426 2001 ‑77,544 ‑88,657 ‑17,085 ‑65,847 ‑51,852 ‑41,061 ‑35,259 ‑384,699 2002 ‑80,618 ‑109,902 ‑16,990 ‑92,573 ‑73,962 ‑61,904 ‑32,294 ‑461,275 2003 ‑74,597 ‑131,830 ‑15,010 ‑104,748 ‑89,587 ‑70,349 ‑51,042 ‑523,472 2004 ‑90,197 ‑172,029 ‑14,392 ‑99,944 ‑86,258 ‑81,265 ‑72,898 ‑624,993 2005 ‑95,797 ‑218,468 ‑1,231 ‑120,984 ‑107,259 ‑96,407 ‑100,023 ‑728,993 2006 ‑111,141 ‑257,895 3,746 ‑105,824 ‑86,877 ‑115,492 ‑111,383 ‑788,117
(注)NIEsは韓国,台湾,香港, シンガポール
(資料) U.S.DepartmentofCommerce,BureauofEconomicAnalys上s,Websiteより作成
実 質 実 効 為 替 レー ト(REER)との関係 で見 る と,1980年代 か ら90年 代 初 め の期 間 は,REERが上 昇 (下 落) す る と経 常収 支赤 字 が増 加 (減 少) す る とい う関係 が見 られた が,1990年代 以 降,両者 の この よ うな明瞭 な関係 は失 われ た。1992‑ 98年 に はREERは横 ばい で あ るが,経 常収 支赤 字 は着 実 に増 加 し, 1998‑ 2002年 に はREERは10ポ イ ン ト程 度 上 昇 す るが,経 常 収 支 赤 字 は急 激 に増 加 した。 そ して, 2002年以 降 はREERが下 落 す るに もか か わ らず,経 常収 支赤字 は著 し く増加 した (図1) 0 1990年代以 降, REERと経 常収 支 の間 の関係 が失 われた原 因 の一 つ と して, 国際 資本移動 の増加 を挙 げ るこ とが で きる。
世界 の経 常収 支 の不 均衡 で アメ リカの赤 字 と並 んで 目を惹 くのが 中国 の大幅 な黒字 で あ る。 中国 の経 常収 支 黒 字 は,2007年 に は対 名 目GDP比11.3%に達 して お り, これ は1986年 の 日本 (4.5%)の2倍 以 上 で あ る。対 米 関係 につ い て も, 日欧 に対 す るア メ リカ の経 常 収 支 赤 字 が頭 打 ち に な る中で,2001年 以 降, 中国 は 日本 を抜 い て ア メ リカの最 大 の経 常 収 支 赤 字 国 に な ってい る。 また, 中南 米 とOPECに対 す るア メ リカの赤 字 も倍 加 してい る (表1)。1980年代 は, 日本 の経 常収 支 黒 字 とア メ リカの赤 字 が鏡像 をな し てい たが,2000年以 降 は,赤字 が ア メ リカに集 中す る一 方 ,黒字 国 は多 くの国 ・地域 に分散 してい る。
次 に,経 常収 支 赤 字 の フ ァイ ナ ンスにつ い て見 よ う。2000年 以 降 の ア メ リカの経 常収 支 赤 字 の フ ァイ ナ ンスにおい て大 きな役割 を果 た した の は, 中国,束 ア ジア,産 油 国 とい った経 常収 支 黒字 国 ・地域 の通 貨 当局 で あ る。 これ らの国 ・地域 は,為 替 市場 に介入 して ドル を買い支 えてい る。 その結果 ,外 貨準備 は 増加 し, その多 くは米 国債 で運 用 されてい る。 この よ うな対 米投 資 は,経 常収 支赤字 を フ ァイ ナ ンスす る と同時 に, ア メ リカの長 期 金 利 の低 位 安 定 を もた ら してい る (図2)o そ して,長 期 金 利 の低 位 安 定 は住 宅価 格 の上昇 を もた ら し, それ は消費 を拡 大 して景気拡 大 を支 え,輸 入 の増加 を もた らす。 こ うして ア メ リカの経 常収 支赤字 と途上 国 の黒 字 が持続 し,途上 国 が ア メ リカの赤 字 を フ ァイ ナ ンスす る奇形 的構 造 が 出来上 が る3)0
3) ァメリカの経常収支赤字をファイナンスするうえで,アジアや産油国の比重が大きくなっているとはいえ,最 も大 きな 比重を占めるのは,欧州からアメリカ‑の資金の流れである。2005年においてアメリカに向か う資金フローを地域別に見 ると,次のようになっている。7,548億 ドルのアメリカの経常収支赤字に対 し,中国から1,833ドル,日本から71億 ドル, 産油国か ら190億 ドル,ASEAN4,NIEsか ら604億 ドル,イギリス ・ユーロ圏から3,592億 ドル,その他諸国 ・地域から 1,302億 ドルの流入 となっている。経常収支が赤字であるイギリスやユーロ圏がアメリカに資金を供給 しているのは,産油 国からオイルマネーを受け入れていることによる (経済産業省2007,25ぺ‑ジ)O
‑8 2‑
グ ロ ーバ ノレ ・イ ンバ ラ ンス とア メ リカ経 済 図2
アメリカの短期金利と長期金利の推移(注) 短期金利はFFレー ト 長期金利は 10年 もの財務省証券金利
(資料)BoardofGovernoroftheFederalReserveSystem,Websiteより作成
2
.貯蓄 ・投資バランス論経 常収支 (Ⅹ ‑M)は民 間 の貯 蓄 ・投 資バ ラ ンス (S‑Ⅰ) と財政収支 (T ‑ G)の合計,す なわち,
‑ 国全体 の貯蓄 ・投資バ ランスに等 しい とい う恒等式が成 り立つo正統派 は この恒等式 に基づいて, アメ リカの経常収支赤字 を次 の ように説明す る。
2 0 0
1年 に発足 した ブ ッシュ政権 は,財政黒字 を国民 に還元すべ く,減税 を経済政策 の最優先課題 に位 置付 け,景気後退で税収 が減少す る中で,「 2 0 0
1年経済成長 ・減税 リコンシ リェ‑シ ョン法」,「 2 0 0 2
年雇 用創 出 ・勤労者支援法」等 を成立 させ,大幅 な減税 を実施 した。 その内容 は,最高税率 の引下 げ( 3 9 . 6%
か ら
3 5%
‑),高額所得層 向けの税率引下げ,低所得層へ の減税 を意味す る1 0%
の最低税率 の新設 な どの 個人所得税 の大幅減税,個人所得課税へ の加速度償却制度 の導入,配 当減税, キャ ピタルゲイ ン減税 な ど で ある。 また,9 . 1
1同時多発 テ ロ後 のア フガニスタ ン戦争, イ ラク戦争 に よ り,2 0 0 1‑0 8
年 の累計で, 戦費 は8 , 0 0 0
億 ドル,軍事費総額 は3
兆8 , 0 0 0
億 ドル に膨 らん だ (河音2 0 0 8 )
。 その結果,財政収支 は, 対名 目GDP
比 で2 0 0 0
年 の2
.4%か ら2 0 0 4
年 には‑3 . 6%
へ と悪化 した。他方,金融面 では
,I T
バ ブルの崩壊 を契機 とす る景気後退 に対処 す るために,政策金利 が2 0 0 1
年 か ら0 3
年 にか けて6 . 5%
か ら1%
に引下 げ られ低金利政策 が実施 された こ とや,海外か らの資本流入 の増加 な どを背景 に して,長期金利,住宅 ローン金利 も低下 し,住宅バ ブルが生 じた。家計部 門は,低金利 と住宅 価格 の上昇 を背景 に, キャッシュ ・アウ ト (担保 である住宅価格 の上昇分 を利用 した増額借換 えを行い, その一部 を現金化 す る方法)や ホーム ・エ クイテ ィ ・ローン (保有す る住宅 資産価値 が既存 の ロー ン残高 を上 回 る部分 を担保 に借入 れ を行 うこ と) を利用 して借入 を増大 させ,消費 を拡大 した。その結果,家計 貯蓄率 は2 0 0 0
年 の2 . 3%
か ら0 6
年 には0
.4%に低下 した。減税 と財政支 出の拡大 に よる財政収支 の悪化 と, 家計貯蓄率 の低下 に よる民間の貯蓄 ・投資バ ランスの悪化 の結果,経常収支赤字 は拡大 した。以上 の貯蓄 ・投資バ ランス論 が立脚す る (Ⅹ ‑M)‑ (S‑Ⅰ
)+
(T ‑ G)とい う恒等式 は,様 々の取 引が様 々の変数 に媒介 されて行 われた結果 として成立す る関係 を示 してい る。 この式 は,貯蓄不足 と経常 収支赤字が対応 してい るこ とを示 していて も, それは前者 が後者 の原 因であるこ とを意味す る ものではなグローバル ・インバランスとアメリカ経済 8 3
い が,正統 派 は アメ リカの経 常収支赤字 の原 因 を貯蓄不足 に求 め る。 また,正統派 は,世界 的 に統合 され た金融市場 の問題 を明示的 に取 り入 れ るこ とな く,経常収支赤字 の調整 に直面 した場合 に,財 市場 の均衡 が維持 され るた めに必要 な相対価格 の動 きに焦 点 を当て るこ とに よ り,経常収支不均衡 が調整 され る とし た場 合 の コス トを求 めてい る。例 えば
,Obs t f e l d,Ro go f f( 2 00 7)
は, アメ リカの経 常収支不 均衡 が解消 す るた めには,パ ススル ー率 (名 目為替 レー トの変化 が価格 に転嫁 され る比率) が1 0 00
/Oで あ る場合 には ドルがREER
で1 2‑ 35%
,パ ススル ー率 が5 0%
で あ る場合 には2 3‑71%
低下 す るこ とが必要 だ とした4)。 以上 よ り,正統 派 の見解 の特徴 は次 の3
点 に ま とめ られ る。 (1)経常収支赤字 をフ ァイナ ンスす る統合 さ れた金融市場 の役割 を考慮 してい ない。 これ を考慮 に入 れ るな らば,経常収支不均衡 の持続 可能性 の意味 は変 わ って くる。 (2)アメ リカの経 常収支赤字 の原 因 を財政収支 の悪化 ,家計貯蓄率 の低下 とい う国内要 因に求 め る。(3)アメ リカの経 常収 支赤字 は持続不 可能 で あ る とす る。 これ らは貯蓄 ・投 資バ ラ ンス論 の 特徴 で あ る とともに, その妥 当性 が問 われ る論 点で もあ る。以下 で は, これ らの点つい て論 じ,正統 派 に 対 して一定 の留保 を要求す る, あ るい は,批判 的立場 に立つ見解 を取 り上 げ る。3.法外 な特権‑ 評価効果 と対外資産 ・負債 の収益 の非対称性‑
経 常収支赤字 が拡大 して も, それ を ファイナ ンスす る資本 を海外 か ら取 り入 れ るこ とがで きれば, その 調整圧 力 を回避 す るこ とがで きる。 この よ うな役割 を果 たす統合化 された金融市場 の役割 を考慮 に入 れ る な らば,経 常収 支赤字 の持続 可能性 の意 味 は次 の よ うにな る。経 常収 支赤字 が持続 し対名 目
GDP
比 で見 た対外純債務 が増加 す る と,海外 の債権者 は元利返済 の リス クに備 えて プ レミアムの引上 げ を要求す る。これが あ る限度 を超 える と,海外へ の利子 ・酉己当 の支払い が対外 資産 か ら生 まれ る収益 を上 回 り,経常収 支赤字 を海外 資本 に よ りフ ァイナ ンスす ればす るほ ど経常収支赤字 が拡大 し,赤字 を縮小 させ る諸力 が積 み上 が ってい く。
この よ うな観 点か らその持続可能性 につい て考 える場合, アメ リカの経常収支 に関す る次 の
2
つ の謎 が 生 じる。経 常収 支 の積 み上 が りが対 外純 資産 (負債) で あ るが, アメ リカの対外純 負債 は2 0 0 2
年 に2
兆 ドル を超 え, その後 も大 幅 な経 常収支赤字 が持続 してい るに もかか わ らず,対外純 負債 は2
兆1 , 0 0 0
億 ‑2
兆2, 0 0 0
億 ドル と比較 的安定 してい る。 これが第‑ の謎 で あ る。第二 の謎 は,2 0 06
年 におい て, アメ リ カは1 3. 8
兆 ドル の対外 資産,1 6. 3
兆 ドル の対外負債 を持 ち, したが って2
兆5 , 0 0 0
億 ドル とい う膨大 な対 外純債務 を抱 えるに もかか わ らず,所得収支 は受取超過 を記録 してい るこ とで あ る。これ らの謎 は次 の二 つ の要 因 に よって説 明 され る。第一 は評価効 果 で あ る。 アメ リカの対外 資産 の約7 割 が外貨 (現地通 貨)建 てで あ るので, その分為替 レー ト変動 の影響 を受 け る。 しか し,基軸通貨 国で あ るアメ リカは対外負債 のほ とん どを ドル建 てで受 け入 れ るこ とがで き,対外 負債 につい ては為替 レー ト変 動 の影響 をほ とん ど受 けない。 したが って, ドル安 ・外貨高 にな る と,対外 資産 の ドル建 て再評価額 が増 加 す るが対 外負債 は変化 せず,対外純 負債残 高 が 目減 りす る。 また, ドル安 に よ り対外債務 に対す る所得 の支払い は ドル建 てで変 わ らない が,対外 資産 か ら生 じる所得 の受取 り (現地通 貨建 て) は ドル建 てで増 加 し,所得収支 が増加 す る。例 えば
,20 0 2‑ 0 4
年 の ドル高期 で は,対外債務 の悪化 要 因で あ る資本 フ ロ ー (ほぼ経 常収 支 に相 当) は4. 9%
(対名 目GDP
比) で あ ったが, ドル安 に よる調 整 が1 . 9%
, その他調4) Nを名 目対外純負嵐 Yを名 目GDP,gを名 目GDP成長率,Cを経常収支赤字,C‑ C/Yを経常収支赤字の対名 目 GDP比,n‑N/Yを名 目対外純負債の対名 目GDP比 とする。経常収支赤字が対外純負債の増分 となるので,』 N ‑ C‑cY,∠Y=gYとなる。 したがって,』 N/』Y ‑cY/gY ‑N/Y ‑nとなる。すなわち,ng‑Cとい う関係が成 り立つ。
名目GDP成長率が
5 %
,経常収支赤字の対名目GDP比が2 . 5 %
であるならば,名目対外純負債の対名目GDP比は5 0 %
と なり,この比率はアメリカのように対外借入のほとんどを自国通貨で行 うことのできる国にとっては,維持可能な水準で ある。01)S也 l°,Rogoff( 2 0 0 7 )
はアメリカの経常収支赤字が解消するとい う前提でそのコストを求めたが,アメリカが対 外負債を管理可能な水準に維持するためには経常収支赤字が現状の5 %
から2 . 5 %
に減少すれば十分であるとするならば, それに必要な ドル相場の下落率も,パススルー率が1 0 0 0
/Oの場合は6‑1 8
0/0,パススルー率が5 0 0
/Oの場合は1 2‑3 5
0/Oと, 半分になる(Forbes2 0 0 7 ,p p. 3 7 2‑3 7 3 )
0‑ 84‑ グローバル ・インバ ランスとアメリカ経済
整 が1.6%な ど,評価効果 が合計で3.6%とな り,対外純債務 の悪化 は1.3%に とどまった5)0
も う一つ の要 因 は,対外 資産 と対外 負債 か ら生 まれ る収益 の相違 で あ る。かつて アメ リカは 「短期借 り ・長期貸 し」 とい う業務 を行 ってい る とい う意味 で世界 の銀行家 で あ ったが,次第 にその資産 を長期 の銀行貸付 けか ら高収益 の直接投 資へ, さらに,1990年代以 降 は直接投 資 と株式へ とシフ トさせ る一方 で,負債側 で は,依然 として,銀行貸付 けや債券 とい った低収益 の安全資産 の占める割合が相対的 に高か った。 アメ リカは伝統的 な世界 の銀行 か ら,安価 な資金 を取 り入れ高収益 の資産 に投資す る世界的 ヴェン チ ャー ・キャ ピタ リス トにな った と言 うこ とがで きる (Gourinchas,Rey2007,p.24)。 アメ リカの場合, 対外負債 では米財務省証券 な どの低利 の確定利付 き証券 の割合 が高い のに対 して,対外資産 では高収益 の 直接投 資や株式 の割合 が高い。 その結果,対外資産か ら生 まれ る所得 の受取 りは対外負債か ら生 じる所得 の支払い よ り大 き くなる。
アメ リカは,負債決済 が可能で あるこ とか ら, ドル相場 の低下 に よ り対外資産価値 が増加す る とい う評 価効果 を受 け るこ とがで き, また,安価 な資金 を取 り入 れ高収益 の資産 に投資す るヴ ェンチ ャー ・キャ ピ
タ リス トとして行動 してい る。Goulinchas,Rey (2007)は, これ らの こ とを 「法外 な特権」(exorbitant privilege)と呼んでお り, これ らはアメ リカの対外純負債 の増加 に一定 の抑制 をかけ,所得収支 の黒字 を 支 え,経常収支不均衡 が持続す る一 因 とな ってい る。
しか し,以上 の分析 は, アメ リカの経 常収支赤字 の持続 可能性 について楽観論 に導 くもので はない。
2005年以 降, ドル の名 目実効為替 レー トは横 ばい に転 じ評価効果 は薄 れてい るこ と,貿易収支 は引 き続 き悪化 してい るこ と, アメ リカの対外資産 の中で相対的 に高い シェアを占める株式か ら高収益 が生み出 さ れ続 け る保証 はない こ と,2005年 か ら2年連続 で所得収支 の黒字 幅が減少 してい るこ とか ら,対外純債 務 の対名 目
GDP
が上昇す る と,海外 の投資家 は よ り高い リス クプ レミアムを要求 し, またユ ーロな どの 資産へ逃避す るよ うにな り, アメ リカは経常収支赤字 の縮小 を迫 られ るようになる可能性が ある。A,Lをアメ リカの対外総 資産,対外総負債,ra,rlを1952‑ 2004年 におけるアメ リカの対外資産 ・負 債 に対す る名 目収益率 とす る と,ra‑9.15%,r1‑7.04%とな る。 これに基づいて,投資収益 が受取 り超 過か ら支払い超過へ転 じる臨界点 を求 める と, それは
, L/ A>
ra/r1‑1.30となる点で あ り (Gourinchas, Rey2007,p.20),2006年 では この値 は1.18で ある6)04.
世界的貯蓄過剰Bernanke (2005)は, アメ リカの対外 イ ンバ ランスの深刻 さを訴 え, その原 因で あ り解決 に もつ なが る財政政策 の役割 を強調す る正統派 の見解 に真 っ向か ら対立す る議論 を展開 した。バ ーナ ンキは, アメ リ カの経常収支赤字が アメ リカの経済政策や国内の経済事情 の反映で ある とい う正統派 の見解 を否定 し,過 去10年 間 に生 じた世界 的貯蓄過剰 (globalsavingglut)が アメ l)カの経常収支赤字 と世界 の低 い長期 実 質利子率 を説明す る と考 える。正統派 の見解で経常収支赤字 の原 因 とされ る貯蓄不足 も, アメ リカの外部 の諸事情 に対す る リアクシ ョンで ある とされ る。世界的過剰貯蓄 をもた らした一つの要因は,高齢化 しつ つ ある富裕 国の強い貯蓄動機 で あるが, それ以上 に重要 なのが,開発途上 国が経常収支赤字 国か ら黒字国 へ と, したが って,貯蓄不足国か ら貯蓄過剰 国へ と変 わ り,国際金融市場 で資金 の利用者か ら供給者へ変 貌 を遂 げた こ とで ある。1996年か ら2003年 にか けて, アメ リカの経常収支赤字 は1,200億 ドルか ら53,00 億 ドル‑ と4,100億 ドル拡大 したが, その主要 なカ ウ ンターパ ー トは途上 国で あ り,途上国の経常収支 は 880億 ドル の赤字 か ら2050億 ドル の黒字へ と転換 し, ネ ッ トの変化 は2,930億 ドルで あ った。 この よ う
5)谷村真 「ドル安で借金が減 る米国」『ェ コノ ミス ト』2006年8月14日,27ペ ージ
6) Gourinchas,Reyと同様 の観 点か らアメ リカ経常収支赤字 の持続可能性 について論 じた もの として,石 山嘉英 ・白川浩 道 「米へ の資本流入 の可能性 所得収支 の動 向カギ」『日本経済新聞』2008年6月27日,がある。
グ ロ ーバ ル ・イ ンバ ラ ンス とア メ リカ経 済 ‑ 8 5 ‑
な途上 国の変化 を もた ら したのは,東 アジア ・ロシア
( 1 9 97・9 8
年), ブラジル ( 9 9
年), アルゼ ンチ ン( 20 01・0 2
年) を襲 った通 貨危機 で ある。通 貨危機 に襲 われた途上 国は,経常収支黒字 (す なわち貯蓄過刺
) を実現 し,将来 の金融危機 に備 えるために外貨準備 を蓄積 した。途上 国の中で も東 アジア諸 国は,国 内投 資が低下す る中で高い貯蓄率 を維持 し,経常収支黒字 を増加 させ る一方で,輸 出主導型成長 を促進す るために為替 レー トの上昇 を抑 える目的で為替市場へ介入 した結果,外貨準備 を蓄積 した。また,世界的過剰貯蓄 は国際金融市場 を介 して アメ リカに流入 しアメ リカの長期金利 を低下 させ,住宅 ブームを もた ら した。 そ して,住 宅価格 の上昇 に よ り, アメ リカの家計 の富 ・所得比率
( we a l t h‑t o ‑ i nc omer a t io)
は, ピークで あ る1 99 9
年 の6. 2
には及 ばないが,1 9 6 0‑ 2 0 0 3
年 の平均であ る4. 8
か ら5. 4
へ と上昇 してい る。「アメ リカ経常収支 の近年 の動 向 をもた らしてい る諸要因の一つは,開発途上 国 と新興市場 国におけ る経 常収支 の劇的 な転換 で あ り, その転換 は, それ らの諸 国 を国際資本市場 における借手 か ら大 きな貸手へ と 変貌 させてい る。 この よ うな開発途上 国の転換 は, ドイツ, 日本, そ して他 の主要工業諸 国の高い貯蓄性 向 とともに,世界的過剰貯蓄 を もた らした。 この貯蓄供給 の増加 は,株式市場 の ブーム期 においでは,秩 主資本価値 を押 し上 げ, より最近では,住宅価値 を上昇 させ, アメ リカの国民貯蓄 を低下 させ,経常収支 赤字 の拡大 をもた らしてい る。
」( Be r na nke2 005 , p. 8 )
以上 の認識 は次 の ような政策的対応へ とバ ーナ ンキを導 く。途上国が経常収支黒字 と同義で ある過剰貯 蓄 を,貯蓄不足 と同義 である経常収支赤字 を抱 えるアメ リカに貸 し付 けてい る状態 は望 ましくない。資本 は収益率 の低 い先進 国か ら収益率 の高い途上 国へ と向か うのが 自然であるか らで ある。 しか し, アメ リカ の経常収支赤字 の根本的原 因が国外 にある以上,国内的政策では問題 は解決 しない。財政赤字改善 の経常 収支 に及 ぼす効果 について も,財政赤字 の1ドルの削減 に よって もた らされ る経常収支赤字 の減少 は
2 0
セ ン ト以下 に過 ぎず,財政収支が均衡 して も経常収支赤字 の減少 は1%以下 で ある とい う計量分析 が示すよ うに,財政政策 の効果 はそれほ ど大 きい ものではない。問題 の解決 のためには,途上 国 を支援 して投 資 環境 を改善 し,国際資本市場 で途上国が貸手 ではな く借手 として登場す るように仕 向けるこ と,言い換 え れば,世界 の貯蓄 が アメ リカか ら途上 国へ向か う状況 をつ くり出す こ とが必要である。
アメ リカの経常収支赤字 の原 因 を外部 の事情 に求 め るバ ーナ ンキの主張 は, アメ リカの経常収支赤字, す なわち貯蓄不足 の原 因は,途上 国の経常収支黒字,す なわち貯蓄過剰 である, とい うこ とに帰着す る。
経常収支黒字国があれば赤字 国がある。黒字 国は一 国全体 で見て貯蓄過剰 であ り,赤字国は貯蓄不足で あ る。 また,誤差脱漏 がない とすれば,経常収支 +資本収支 +外貨準備増減
‑0
で あるか ら,経常収支黒字 国は,黒字 を資本輸 出や外貨準備増 とい う形で海外 に還元 し, その額 は貯蓄過剰額 に一致す る。経常収支 赤字 国は,赤字 を資本輸入 や外貨準備減 とい う形 で埋 め合 わせ, その額 は貯蓄不足額 に一致す る。統計上 の不突合 がなければ,経常収支 の黒字 と赤字 は一致 し, したが って黒字国の貯蓄過剰額 (資本輸 出 と外貨 準備増) と赤字 国の貯蓄不足額 (資本輸入 と外貨準備減) も一致す る。 これは,因果関係ではな く様 々の 取引が行 われた結果成立す る自明の関係 を示 してい る。バ ーナ ンキの議論 は この よ うな自明の関係 を踏 ま えた もので ある とい う意味で,真理 を含んでい る。 しか し, この 自明の関係 に因果関係 を読 み取 り, アメ リカの経常収支赤字 の原 因,す なわちアメ リカの貯蓄不足 を途上 国の貯蓄過剰 (倹約) に帰す こ とは説得 的で はない。 自明 の関係 か ら言 えるこ とは,2 0 0 0
年以 降の アメ リカの巨額 の経常収 支赤字 は,赤字拡大 の リスクに敏感 にな った民間部 門か らの十分 な資本 の還流 がない状況 の中で,公的部 門に よって ファイナンス された, とい うこ とで ある。
通 貨危機 に見舞 われた途上 国の貯蓄過剰 が アメ リカの貯蓄不足 をもた ら した とい うバ ーナ ンキの主張 は,因果 関係 としては成 り立たない し,成 り立つ として も実証的には支持 Lがたい
。NI Es
(韓 国,台湾, 香港, シンガポール),AS EAN4
(イ ン ドネ シア, マ レーシア, フィ リピン, タイ), ラテ ンアメ リカ (以‑ 86‑ グローバル ・イ ンバ ランス とアメ リカ経済
下
,NAL )
を通 貨 危機 国 とす る と,1997年 に は,対 名 目GDP比 で見 て (以下 同 じ)NA
Lの貯 蓄 は24.6%,投 資 は27.9%で,3.3%の貯蓄不 足 で あ ったが,2004年 には,貯 蓄 は24.9%と変 わ らない けれ ども, 投 資が21.7%と落 ち込 んだため,3.3%の貯蓄過剰 とな った。1997年 か ら2004年 にか けてNALは6.6%の 過剰 貯 蓄 を生 み 出 した。2004年 のNALのGDPは36.6億 ドル なので,6.6%過剰 貯 蓄 は2.56億 ドル とな る。 また
,NA
L以外 の地域 のGDPは36.8兆 ドル なので,NALの生 み出 した過剰貯 蓄 は他 の地域 のGDP に対 して0.7%に相 当す る。以上 の こ とは,NALの過剰 貯蓄 が他 の地域 に均等 に散布 された とす る と, そ れ はアメ リカの貯蓄不足 を0.7%増加 させた こ とを意味す る。 しか るに, アメ リカの貯蓄不足 は1997年 の 2.2% (貯蓄17.6%,投 資19.8%)か ら2004年6.0% (貯蓄13.6%,投 資19.6%)へ と,3,8%増加 してい る。NALの過剰貯 蓄 は アメ リカの3.8%の貯蓄不 足 の増加 の0.7%しか説 明 し得 ない ので あ る。バ ーナ ンキは 投 資先 としての魅力 か ら,途上 国 の貯蓄 が ます ます アメ リカに流 れ る よ うにな った と言 うが, アメ リカが 世界 平均 の2倍 の過剰貯 蓄 を吸収 した として も, それ に よって もた らされた貯蓄不 足 の増加 は3.8%の う ちの1.4%に とどまる (Cline2005,pp.205‑ 207)。低 い為替 レー トや投 資 の減 退 に よ り通 貨危機 国 の輸 出が増加 し,経 常収 支 の黒字 が拡 大 して も,財政赤字 な どの アメ リカ国内の要因が なければ,途上 国の経 常収支黒字 の拡 大 が, アメ リカの 巨額 の対外 イ ンバ ラ ンス とな って集 中的 に現 れ るこ とはない。
バ ーナ ンキの も う一 つ の主張 は,世 界 的過剰 貯蓄 が アメ リカに流入 した結 果,長期 金利 が低 く維 持 さ れ住宅 バ ブルが生 じ,消費 が拡 大 した, とい うもので あ る。 この主 張 は,2006年 か ら米連邦 準備 理事 会 (FRB)議長 を務 め るバ ーナ ンキの前任者 で あ るグ リー ンスパ ンが振起 した 「謎
」( c o nu nd r um)
に通底す る。FRB は2004年6月に4年ぶ りに政策金利 の引上 げ に乗 り出すが,長期 金利 は上昇 す る どころか低下 した。 グ リー ンスパ ンは この現 象 を 「謎 」 と呼 び, その原 因 を (1) 旧社 会主義 圏 が世界経 済 に組 み込 ま れ,低賃 金労働力 が世界市場 に参入 し,賃金 の伸 びが抑 え られた結果 ,予想 イ ンフ レ率 が低 下 した こ と, (2)途上 国 を中心 に膨 らん だ過剰貯蓄 が金融市場 に流 れ込 み金利 を低 下 させ た こ と, に求 めた。 イ ンフ レ 期待 の低 下 と日本, 中国 をは じめ とす る諸 国が米 国債 を買い支 えてい るこ とが,長期金利 を低位安定 させ た要 因 で あ る こ とは否定 で きない。 しか し, この こ とは,FRB の政策 的責任 を免 罪 す る もので はない。2004年 以 降,FRB は住宅 ブーム を緩和 すべ く政策金利 を引 き上 げ るが,問題 はその政策 が実際 に タイ ト で あ ったか ど うか で あ る。 図3は, アメ リカの名 目GDP成 長率 の2カ年 平均 とFFレー トを示 した もの で あ る。 これに よる と,1970年代 と同 じよ うに,2001年か ら05年 にか けて,政策金利 は経済成長率 よ り もか な り低 く維 持 されてい る。急 ピッチで金利 が引 き上 げ られ る2005,06年 の名 目GDPの平均成 長率 は6.3%で あ る。歴史 的 に見 て,政策金利 の名 目成長率 よ り0.5%程度低 い とき金利 は中立的で ある とい わ れ るが, この時期 の政策金利 は最 も高い ときで も5.250/Oで あ り中立 的 とは言 えない。
世界的貯蓄過剰論 の政策 的含意 の問題 点 も明 らかで あ るOバ ーナ ンキが,経 常収支 に及 ぼす財政政策 の 効果 を否定 しない まで もそれ に第二義 的意義 しか与 えず,途上 国の投 資環境 を整備 し,途上 国 を従来 の資 本受入 国 に戻す こ とをその解決策 とす るこ とは, アメ リカ国内の経済政策 に対す る責任 を回避 してい る と い う点 で,benignneglect政 策 の系譜 に属 す る もので あ る。 グ リー ンスパ ンについ て も同様 で あ る.「世 界 的 な力 が イ ンフ レ期待 を押 し下 げ,長期金利 を低下 させ,不動産 や株 の価格 を押 し上 げてい るのな ら, それ に立 ち向か うのは非常 に難 しい」7)と言 うのは,「グ リー ンスパ ン議長 は 自由に金融政策 を決 め る立場 にはな く,市場 の力 で決 ま った政策 を とったにす ぎない」(MorriS2008,訳135ペ ージ) と言 うに等 しい。
5.復活 したブレ トンウッズ体制
ア メ リカの経 常収支赤字 が再 び拡 大 し始 めた2000年 以 降,正統 派 はその持続不 可能性 を強調 し, ドル
7)ア ラ ン ・グ リー ンスパ ン 「私 の履 歴 書 」⑳ 『日本 経 済 新 聞』2008年 1月28日
グ ロ ‑バ IE,・イ ンバ ラ ンス と ア メ リカ経 済
図 3 アメリカの名目GDP成長率の2力年平均とFFレート
‑
8 7 ‑20
16
12
8
4
0
1960 1965 1970 1975 1!お0 19$ 1990 1995 2000 2005 2010 (資料) U.S.DepartmentofCommerce,BureauofEconomicAnalysis,Boardof
GovernorsofFederalReserveSystem (出所) EconomicCommentary,August82007
暴落 の危険 に警鐘 を鳴 ら し続 けた。 しか し,対外不均衡 が拡大 が る一方, ドル レー トは緩 やか に低下 す る に とどま った。2002年以 降,民 間資本 の流 入 が滞 る中で, アメ リカの経 常収支赤 字 の フ ァイナ ンスにお いて大 きな役割 を果 た したのは公 的部 門で あ り,公 的部 門 に よる経常収支赤字 の フ ァイナ ンスは外貨準備 の増加 とな って表 われ る。 そ して, この時期,外貨準備 を増加 させた のは アジアの新興市場諸 国で あ る。
以上 の こ とか ら, アジア諸 国 の外貨準備 の増加 とい う形 で の公 的部 門 の資本輸 出に よ りアメ リカの経常収 支赤字 は安定的 に フ ァイナ ンス され る とい う見解 が登場 した。Dooley,Folkerts‑I.andau,Garber(2004) (以下,DFG)に よる 「復 活 した ブ レ トンウ ッズ体 制 (revivedBre仕onWoodsSystem)」論 で あ る。戦 後 の ブ レ トンウ ッズ体制 が アメ リカ を中心 とし欧州 ・日本 を周辺 とす る固定相場制 で あ った のに対 して,覗 在 の国際金融体制 は, アメ リカ (中心) とアジア諸 国 (周辺) の間 の事実上 の固定相場制 に支 え られてい
るこ とか ら,「復活 した ブ レ トンウ ッズ体制」 あ るい はBW2と呼 ばれ る。
DFGに よれ ば, アメ リカの周 囲 に貿易収 支地域 (ア ジア :中国,NIEs, マ レー シア, 日本) と資本収 支地蟻 (ヨー ロッパ, カナダ, オ ース トラ リア, ラテ ンアメ リカ) が位置 してい る。貿易収支地域 は アメ リカ‑ の輸 出に,資本収 支地域 は国際資本投 資 に強い 関心 を持つ地域 で ある。 そ して,貿易収 支 国 は通 貨 当局 に よる対米投 資 に よって,資本収 支国 は民間部 門 に よる対米投 資に よって, アメ リカの経 常収支赤字 を フ ァイ ナ ンス してい る。「復活 した ブ レ トンウ ッズ体制」 の下 で は, アメ リカの経常収支赤字 の拡 大 に よる リス クのた めに, 資本収支 国か らの民 間投 資が減少 して も, それは貿易収支 国 の通貨当局 に よる対米 投 資に よって補 われ る。 とい うのは, アジアの通 貨当局 は アメ リカ との間で暗黙 の合意 を交 わ してい るか らで あ る。周辺 は為替市場 に介入 して ドル準備 を蓄積 し, 自国通 貨 を低位 に保 ち, それ と引 き換 えに, ア メ リカは周辺 の工業製 品 の輸 出 を吸収す る。 それ に よ り周辺 は輸 出主導型成長 を持続 し, と りわけ中国 は 無制 限労働供給 を吸収 す るこ とがで きるo他方, アメ リカに とって は, ドル レー トはユ ーロな どの フロー
ト制 を採用 してい る通貨 に対 して低下す るか も しれない が,経常収支赤字 は ファイナ ンス され る。
しか し, この よ うな合意 には コス トが伴 う。東 アジアに とっては不胎化 に伴 うコス トが問題 とな る。外 貨準備 の蓄積 が マネ タ リーベ ースの増加 を もた らさない よ うにす るた めに,東 アジアの中央銀行 は債券 を 発行 して それ を吸収 し,為 替市場 へ の介入 を不胎化 しなければ な らない。不胎化 を行 うこ とは,東 ア ジア
‑ 88‑ グ ロ ーバ ル ・イ ンバ ラ ン ス とア メ リカ 経 済
は高い収益 を生 む債 券 を発行 して低 い収益 しか生 まない膨 大 な ドル資産 を購入 してい るこ とを意味 し, 中 央銀行 が債券 に支払 う高い金利 と ドル資産 か ら受 け取 る低 い金利 の差 は財政的 コス トとな る。 また, 自国 通貨 が上昇 す る と ドル資産 の価値 に損失 が生 じる。 さらに, 中央銀行 が不胎化 のた めに大量 の国債 や債券 を市場 に売 る と,供給過剰 か らそれ らの価格 が低下 し利子率 が上昇 して資本流入 を招 き,為 替 レー トの上 昇 を防 ぐた めに介入 す る と外貨準備 とマネ タ リーベ ースが再 び増加 して しま う。他方, アメ リカに とって の コス トは, ア ジア通 貨 が割安 に維持 され るこ とに よ り,輸入競合産業 が打撃 を受 け るこ とで あ る。 この よ うな コス トに もかか わ らず アメ リカ ・東 アジア枢軸 が維持 されてい るこ とは,東 アジアは, ドル を買い 支 える財政上 の負担 や キ ャ ピタル ロスの危険 よ りも輸 出主導型成 長 を持続 す るこ とに関心が あ り, アメ リ
カは国内産業 の被 る打撃 よ りも低 い利 払い で経 常収支赤字 をフ ァイナ ンスで きる利 点 を高 く評価 してい る こ とを意味す る。
東 ア ジアの通 貨 当局 が外 貨準備 を蓄積 しアメ リカの経 常収 支赤字 を支 えてい る とい う関係 は存在 す る が
,
「復活 した ブ レ トンウ ッズ体制」 の安定性 につい ては議論 が対立 してい る。DFG
は, 中国 は2
億人 と もい われ る過剰人 口を吸収 す るまで は輸 出主導型成長 を継続 しなければな らず,その期 間 (20年)は,「復 活 した ブ レ トンウ ッズ体 制」 は機能 す る と考 える。 これ に対 して批判 者 は,「復活 した ブ レ トンウ ッズ体 制」 にお け る東 ア ジアに よる ドノレの買い支 えは,戦後 の ブ レ トンウ ッズ体制 におけ る 日欧 に よる ドル の買 い支 えの よ うに制度化 された もので はない こ と, ア ジア通 貨 の切上 げ を迫 った り為替操作 に対 して罰則 的 関税 を課 した りす るな どの保護主義 の圧力 が,先進 国か ら生 じるで あ ろ うこ とな どを理 由に, この体制 は 安定 的で ない と判 断す る。 しか し,最 も現実的 な問題 は東 アジアが 巨額 の外貨準備 を蓄積す るこ との ジ レ ンマで あ り,東 ア ジアが負 う不胎化 の コス トで あ ろ う。 これ らの問題 は束 ア ジアの中で も,外貨準備 高 に おい て世界一 で あ り,不胎化 に必要 な十分 な国債 を持 たない 中国 におい て, とりわけ顕著 に表 われ る。中国 は経 常収 支,資本 ・金 融収 支 ともに黒字 を記録 してい る。 そのた め人民元 レー トを維 持 す るた め に は大 量 の人 民 元 売 り ドル買 い の介 入 を行 わね ば な らず,外 貨準備 が急増 してい る。 中国 の外 貨準備 は2006年2月 に8,537億 ドル を記 録 し, 日本 の8,501億 ドル を抜 い て世 界 一 とな り,2007年末 には 1兆 5,303億 ドル,2008年末 には1兆9,460億 ドル に達 した。(2009年1月末 は1兆9,000億 ドル)。米 国債 の 保 有 につい て は,2007年末 は, 中国 の米 国債保有残高 は4,776億 ドルで, 日本 の5,800億 ドル に次い で第 二位 で あ ったが,2008年末 には,中国 は6,962億 ドル とな り, 日本 の5,783億 ドル を抜 いて首位 に立 った。
海外投 資家 に よる米 国債 保 有残 高 が3兆 ドルで あ るか ら, 中国 と日本 で その 40%を占めてい るこ とに な る。元 レー トを維持す るた めに為 替市場 に介入 して2兆 ドル近い外 貨準備 を蓄積 し, その 3分 の 2に も上 る額 を低収益 で価値 の不安定 な米 国債 をは じめ とす る ドル資産 で保有 してい るこ とは, 中国 に とって大 き な ジ レンマで あ る。 中国銀行業 監督管 理委 員会長 官 のLuoPing(羅平) が次 の よ うに述 べ た の はその表 われで あ る。「米 国債 以外 に何 を保有 しろ と言 うのです か。金 だ って ? 日本 や イギ リスの国債 なん て持 ち ませ ん よ。米 国債 こそが安全 な避 難場所 です。 中国 を含 め誰 に とって も米 国債 が唯一 の オ プ シ ョンで す。 だけ ど, アメ リカには手 を焼 い てい るのです が,
1 , 2
兆 ドル も国債 が発行 され る と, ドルが下 が り始 め るこ とは百 も承知 してい ます。 だか らアメ リカにはほ とほ と困 ってい るのですが,仕 方 ない のです。
8)」
(2009年2月11日, ニ ュー ヨ‑クにて)中国が 巨額 の ドル建 て資産保 有 してい るこ とは,米 中関係 に変化 を もた ら してい る。2008年 に ブ ッシ ュ政権 が,FannieMae(連邦住宅抵 当公庫) とFreddieMac(連邦住宅金融抵 当金庫) の資本増強 に踏 み 切 った理 由の一つ は, 中国が米 国債 を選好 して これ らの政府機 関債 を売却 し始 めた こ とにあ る。 しか し, 中国が アメ リカの政策 に影響 を及 ぼす よ うにな ってい る とはい え, それ は, アメ リカが基軸通貨 国で あ り
8) FinancialT∫mes,February122009
グローバル・インバランスとアメリカ経済
‑ 8 9‑
負債決済 を行い うるこ とや,元 レー トの上昇 を防 ぐた めには中国 は ドル を買い支 え ざるを得 ない立場 にあ るこ とに よって制約 を受 け る。 また,従来 の米 中関係 は, アメ リカが人民元 の過小評価 や閉鎖 的金融市場 について説教 を垂 れ る とい う一方的 な もので あ ったが,現在 は, 中国が アメ リカの イ ンフ レや ドル の脆弱 性 に対 して警告 を発 す る とい う関係 を含 む よ うにな ってい る。 その一例 として最近 で は次 の事実 が あ る。
中国 は
20 07
年初 めか ら外 貨準備運用 の多角化 を図 り, 国家外貨管理局( SAFE)
は外 国株式 を大量 に購入 す る よ うにな った。 この動 きはサ ブ プ ライ ム危機 に よって減速 す るので はな く,Fa nni eMa e
とFr e dd i e Ma c
が破綻 す る2 0 08
年7
月 まで続 い た。 この ときまで にSAFE
は1
兆8 , 0 0 0
億 ドル の外貨準備 の1 5%
以 上 を株式や社債 を含 む リス ク資産 に移 してお り, これが災い して,世界金融危機 に よ り8 00
億 ドル以上 の 損失 が生 じた。SAFE
の外 国株 式保 有額 は1 , 6 0 0
億 ドルで あ るか ら, その半 分 が株 式市場 の低 迷 に よって 失 われた こ とにな る。 この よ うな事態 が発生 した こ とを意識 して,2 0 0 9
年3
月1
3日,温家宝首相 は,金 融危機 に対処 す るた めに アメ リカが大量 の国債 を増発 し,米 国債 の価格下 落 の リス クが高 まる中で,「中 国の在米 資産 の安全 を保証 す る よ う求 め る」 と牽制 し,3
月1 8
日にFR
Bが連邦公 開市場委 員会( FOMC)
で,長期 国債 を向 こ う半年 で最 大3, 0 0 0
億 ドル購入 す るこ とを決定 した際 には, 中国へ の政治 的配慮 が背 景 にあ るので はない か, との観測 が流 れたほ どで あ る9)0次 に中国 の不 胎化 政策 につい て見 よ う
。DFG
は, 中国 の不胎化政 策 につい て,預 金準備 率 の引上 げ に よ りマネ ーサ プライの増加 は押 さえ られてい る と言 うが, その実態 は ど うで あ ろ うか10)。 中国人民銀行 は ドル買い介入 に よる リザ ーブマネ ー (中国で はマネ タ リーベ ース をこ う呼ぶ) の増加 を防 ぐために,国債 を売却 して不胎化 政策 を行 って きた が,売却 可能 な国債 が少 な くな ったた め,2 00 2
年9
月か ら中央 銀行 手形 を発行 す る よ うに な った。 さ らに,20 0 3
年9
月以 降 は,預 金準備 率 を引 き上 げ るこ とに よって, リ ザ ー ブマ ネ ーの増加 が銀行貸 出の増加 につ なが る こ とを防 ぐよ うにな り,05
年末 に7. 5%
で あ った預金準 備率 は06
年 には9. 0%,0 7
年 には1 4. 5%,0 8
年 には1 7. 5%
に引 き上 げ られた。 これ に よ り,2 0 0 4‑ 06
年 には外貨準備 が急増 したが, リザ ーブマネ ーの伸 びは平均以下 に抑 え られた。 中国 におけ るマネ ーサ プラ イの増加 は信用乗数 の上昇 に よる もので あ る。しか し,以上 の政策 には次 の よ うな問題 が あ る。 (1)不胎化介入 に用 い られ る人民銀行手形 の発行残 高 は
20 05
年 末2. 1
兆元,0 6
年 末3. 2
兆元,0 7
年6
月末4. 0
兆元 と増加 す る中で,人 民 銀行手 形 の金利 (1 年 もの) は,2 00 5
年末1 . 910
/0,06
年末2. 8 0%,0 7
年6
月末3. 0 9
0/Oと上昇 し, 中国 の金融政 策 が前提 と し てい る金利 の安定 を脅 かす よ うにな ってい る。 (2)中央銀行手形 は比較的流動性 が高い 資産 で あ るた め, 商業銀行 は超過準備 の規模 を減 らす こ とがで きる。 また,金融機 関は これ を担保 とす るこ とで信用規模 を 拡大す るこ とがで きる。 そのた め, リザ ーブマネ ーが適切 に調整 された として もイ ンフ レを助長す る恐 れ が あ る。 (3)中央銀行手形 を用 いた不胎化 の コス トは米 車金利差 と元 ・ドル レー トで決 まるが, 中央銀 行 手形金利 が上昇 し,元 レー トも高 くな ってい る状況 で は,外貨運用 の逆鞘 が拡大す る。 また,預 金準備 率 の引上 げは,貸 出 しか ら得 られ る収益 の機会 を民 間金融機 関か ら奪 うもので あ り,民 間金融機 関の負担 と な る。 これ らの コス トは, マネ ーサ プライの増加 を抑制 す るた めに よ り強力 な不胎化政策 を行 うこ とを妨 げ る もの とな る。 この よ うな困難 か ら,批判者 は,金融抑圧 と為替相場 の過小評価 に基づい た重商主義 的 発展戦 略 を改 め,金融改革 と為替相場 の弾力化 を進 め るべ きで あ る と主張す る11)09) FinancialTimes
, Fe b r u a r y2 32 0 0 9 , Ma r c h1 62 0 0 9
1 0)
中国の不胎化政策については,深尾( 2 0 0 8 )
,夏 ・陳( 2 0 0 7 )
,みずほ総合研究所( 2 0 0 7 )
,育 ( 2 0 0 7 )
などを参照した。ll) 批判者は
,BW2
仮説の中国に関する事実認識が間違っているとして,次の点を指摘 している。(∋中国の鴇出政争力に とって重要なのは貿易量で加重 した実質為替 レ‑トであるが,それは1 9 9 4‑2 0 0 2
年の間はおよそ3 0 %
増価 して した。BW2
仮説は,人民元は1 0
年にわた り過小評価 されていたとするが,人民元の過小評価は2 0 0 2
年以降のことである。(令BW2
仮説は,人民元を過小評価することによる利益 として,直接投資を誘致することを挙げるが,中国では固定資本投資 に占める直接投資の比率は5%にも満たないo中国の開発戦略を 「外資誘致型」 とするのは量的実感に乏 しい (Go l d s t e i n
,L a r d y2 0 0 5 )
o‑ 9 0‑
グ ロ ーバ ル ・イ ンバ ラ ンス とア メ リカ経 済6.
グローバル ・イ ンバ ラ ンス か ら世界金融危機 ,世界不況へドルが 国際通 貨 で あ る とは, ア メ リカ を一方 の相手 国 とす る取 引 だ けで な く,第三 国間 の取 引 の決済 が,諸外 国が アメ リカに保有 す る ドル預 金 の振替 を通 じて行 われ るこ とを意味す る。 この よ うな国際決済 の構造 のために,基軸通 貨 国 ア メ リカは負債決済 を行 うこ とがで きる。 アメ リカの経常収支 の赤字 は,黒 字 国 の銀行 が アメ リカの銀行 に ドル預金 とい う形 で対外流動性債権 (アメ リカか ら見 れば対外債務) を積 み上 げ るこ とに よ って決 済 され る。 ドル残 高 が作 り出 され るのは ア メ リカの銀行 システム内部 で あ り, その増加 に直接制 限 を加 える ものはない. しか し, ドル残高 が大 き くな る と,黒字 国 の銀行 は持高調整 や 資金調整 を行 い銀行 間市場 で ドル を売 る よ うにな る。 この とき, ドル売 りに見合 う需要 が なければ ドル レ
ー トは下落す る。 ドル売 りに対 して,直接投 資や証券投 資 な どの形 で民 間部 門か ら ドル需要 が生 じるな ら ば, あ るい は,通貨当局 が為替 市場 に介入 して ドル を買い支 えるな らば, ドル レー トは維持 され る。 そ し て,黒字 国の通 貨当局 が ドル レー トを維持す るために為 替市場 に介入す る と, それは黒字 国 のマネ タ リー べ ‑スの増加 につ なが るOす なわ ち, アメ リカの 「経 常収支赤字 は一種 の信用創造 に よって ドル取得 国 に 資金 を積 み上 げ, 同時 に米 国内金融 市場 に も資金 を供給 してい るので あ る」 (木下2007,24ペ ージ)。 こ の よ うな負債決済 の構 造 のゆ えに, アメ リカは対外債務 のほ とん どを ドル建 てで受 け入 れ るこ とがで き, したが って, ドル レー トの低下 に よって対外 資産 は増加 す るが対外負債 は影響 を受 けず,対外純 負債 が減 少す る とい う 「特権」 を行使 す るこ とがで きる。
2000年以 降 ア メ リカの経 常収 支赤 字 が拡 大 す る中で, その持続 不 可能性, ドル暴落,金利 上昇 とい う 憂管 な予想 が繰 り返 されて きたが, それ は実現 には至 らなか った。 その理 由は,海外か ら資本 が還流す る こ とに よ り経 常収支 の赤字 が フ ァイナ ンス されたか らで あ るが,「経常収支赤字 を ファイナ ンスす る資本 が還流 す る」 とは,上述 の よ うに,黒字 国の対外 資産 が持 ち手 を変 えなが ら,流動性預金 の形 で維持 され,
ドル建 て証券 や米 国債 な どで運用 され るこ とで あ る。 そ して,2000年 以 降 にお け るアメ リカの経 常収 支 赤字 の フ ァイ ナ ンスの特徴 は,拡 大 す る経 常収 支赤字 に対 す る リス クが高 ま り, また,ITバ ブル の崩壊 に よ り対 米投 資 の収益 が低 下 したた めに,2002年 頃 か ら経 常収 支赤字 を フ ァイ ナ ンスす るの に十分 な民 間資本 の対米投 資が望 めない 中で,通 貨危機後,輸 出主導型成 長 を維持 す るために為替市場 に介入 して外 貨準備 を蓄積 した東 ア ジア諸 国 の通 貨当局 に よる対 米投 資が それ を補 った, とい う点 に あ る。2002年 か ら2007年第2四半期 まで の期 間,外 国政府 は16.4兆 ドル をアメ リカに投 資 し, その81%が米 国債 に向か った。外 国政府 は ネ ッ トベ ースで は, ア メ リカの経 常収 支赤字 の48%をフ ァイ ナ ンス し, グ ロスベ ース で も,対外 ファイナ ンスの24%を供給 した (図4)(Wolf2008,p.123)。
アメ リカの経 常収 支赤字 の拡大,途上 国 の経常収 支黒字 国へ の移行,低い長期金利 とい うグ ローバ ル ・ イ ンバ ラ ンスの特徴 を示す事態 は,伝統 的見解 で は ア ノマ リーな こ とで あ るが,通 貨危機後 の新 た な事 態 や グ ローバ ル な資本移動 を考慮 すれ ば, それ は存続 可能で あ る。 しか し, この よ うな形 で アメ リカの経 常 収支赤字 が維持 された こ とは, アメ リカ,東 ア ジアの双方 に大 きな影響 を もた ら した。東 アジア, と りわ け中国 に とって は不胎化 の コス トが大 きな負担 とな った。 その コス トの重荷 で不胎化 が限界 に達 す る と, 対外 イ ンバ ラ ンスを縮小 しなけれ ばな らず, そのた めには, アメ リカが マ クロ経済バ ランス回復 す るこ と 並 んで,東 ア ジアは通 貨調整 を迫 られ る よ うにな る。 アメ リカが対外 イ ンバ ラ ンス を解消す るた めには, ドル は30%切 り下 げ られね ば な らない とい うObstfeld,Rogoffの見解 を受 け入 れて み よ う。東 ア ジアの すべ て の通 貨 が ドル に対 して30%切 り上 が るこ とは,東 ア ジアに とって大 きす ぎ る負担 の よ うに思 われ る。 しか し,東 ア ジアで は域 内貿易 比 率 が50%を超 えてお り, この こ とは,通 貨切上 げ の半分 は域 内貿 易 で相殺 され,実効 為 替 レー トで は15%の切 上 げで済 む こ とを意味す る。 この程度 の切 上 げで あれ ば十 分 に対応可能 で あ る。 また,為替相場制度 につい て は,貿易依存度 の高い東 アジアに とって は固定相場制
グ ロ ーバ ル ・イ ンバ ラ ン ス と ア メ リカ経 済
図4 アメリカ経常収支のファイナンス millionsof
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・亘、(資料) U.S.DepartmentofCommerce,BureauofEconomicAnalysis (出所) Wolf(2008)p.128
が望 ま しい こ とは言 うまで もない が, それには大 きな コス トがかか る。 か とい って,金融 ・資本市場 が未 発達 で‑ ッジ ング機 能 が弱 い東 ア ジアが完全変動相場制 を採用す るこ とは無理 で あ る。 そ こで,政策 の 自 律性,為替相場 の安定 , 国際 資本移動 の 自由の三者 を少 しずつ犠牲 に した, 固定相場制 と変動相場制 の間 にあ る中間的為替制度 ,‑ 例 えば,(D為替相場安定化 の基準 として通 貨バ スケ ッ トを採用 し,(∋基準 レ ー トを中心 に ±10%程度 の ワイ ドな変動 幅 (バ ン ド) を設 け,③ 基準 レー トと変動 幅 を小刻 みに調整 (ク ロール)す るBBC方式 ‑ を採用す るこ とが,束 ア ジアの現実的選択 とな る。
東 ア ジアの通 貨 当局 に よる対 米投 資 の アメ リカ‑ の影 響 は, それ に よ り米 国債 が買い支 え られ,2004 年以 降政策金利 が引 き上 げ られ る中で長期金利 は低位安定 を保 った こ とで あ る。 それ は住宅バ ブル を加速
し,住宅価格 の上昇 はサ ブプ ライム ロー ンの拡大 を招 い た。 サ ブプ ライム ロー ンをは じめ とす る住宅 ロー ンは,証券化 技術 の発展 に よ り,住宅 ロー ン担保証券
( R MBS )
として証券化 され, さらに,RMBS
を他 の証 券化 商 品 と組 み合 わせ組成 された債務担 保証 券 (CDO)がつ くられ,世界 中に売 り捌 か れた。 そ し て, これ を支 えた のが, レバ レッジや会 計上 の別 組織 で あ るS
Ⅳ を駆 使 した投 資銀 行,格 付 け機 関, デ フ ォル トリス クを売 買 の対 象 と した ク レジ ッ ト・デ フ ォル ト ・ス ワ ップ( Cos )
な どで あ る。R MBS
や CDOな どの証券化 商 品 は健全 な ものに仮装 されて も,低所 得層 へ の貸付 けが原債権 で あ る限 り,2006年 を ピークに住 宅価格 が低下 し, ロー ン借換 えのマ ジ ックが きか な くな り返済 が滞 る と,証券化商 品 の健 全 性 の仮 装 ははげ落 ち, これ らを購 入 したS
Ⅳ や ‑ ッジ フ ァン ドは大 きな損 失 を被 った。 そ して, その影 響 はS
Ⅳ に ク レジ ッ トライ ンを提供 してい る金融機 関 に も及 んだ。 こ うして金融機 関が経 営危機 陥 る と,‑ 92‑ グローバル ・イ ンバ ランスとアメ リカ経済
図5 外貨準備に占めるドルとユーロの比率
…
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カ国でユーロ紙幣. キプロスとマルタが30
硬貨流通開始( 02
年) 採用015
カ国に( 08
年)… ≡薫
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芸 才‑=議 表 Iし1 5
(資料) IMF
(出所) 『日本 経 済 新 聞
』2 0 0 8
年8
月2 3日
どの金融機 関 も現金 を退蔵 しよ うとす るため, イ ンターバ ンク市場取 引は麻挿 した。 サ ブプライム ロー ン の返済不能 は, アメ リカの住宅金融市場 の問題 に過 ぎないが, それに よ り崩壊 したのは複雑 に組 み上 げ ら れた金融市場 の構造 その もので あ り,証券化 に よ りその影響 は世界 に波及 し世界金融危機へ と発展 した。
さらに実体経済 も収縮 し,事態 は世界不況 の様相 を呈 してい る。
この よ うな中で ドル離 れが起 きてい る。 円 ・ドル レー トは
2 0 0 8
年3
月1 3
日には1 0
年ぶ りに1
ドル ‑1 0 0
円 を割 り込 み,J P
モル ガ ン ・チ ェースに よるベ ア ー ・ス ター ンズの買収 が発表 された翌 日の3
月1 7
には1
ドル‑95
円 とな った。 この よ うな事態 を受 け, 日米欧の通貨当局 は20 00
年9
月以降協調介入 を実 施 してい なか ったが,3
月中旬 に ドル買い協調介入 を実施す る との秘密合意 を行 っていた こ とが明 らか と な った12)。 また,外貨準備 に占め る ドル の比率 を見 る と, ユ ーロが発足 した1 9 9 9
年 当時 は7 0%
で あ った が,2 00
1年6
月の73%
を ピークに下落 に転 じ,2 00 8
年3
月には6 3%
まで下 が ってい る。 この間, ユ ーロ の比率 は1 8%
か ら27%
へ と上昇 してい る (円の比率 は6%
か ら3%
に半減)(図5 )
。 そ して,国際金融市 場 におけ る ドル建 て取 引の割合 は, ドルの名 目実効為替 レー トと相 関 を示 してお り,1 9 8 3
年 の7 9%
か ら2 0 08
年3
月末 には5 4%
に低下 してい る (図6 )
。 さらに, ドルペ ッグ制 を採用 してい るサ ウジアラ ビアは,ドル安で イ ンフ レが進行す るこ とか ら, ドル連動制 を見直す こ とを検討 したが, ドル レー トの急落 を避 け るために, ドノレペ ッグ制 を維持す るこ とにな った13)0
東 アジアに 目を向ける と,通貨切上 げの負担 を半減 させ るな どの効果 を持つ域 内貿易 の拡大が東 アジア の強 みで あ ったが,域 内貿易 が世界不況 の影響 で縮小 してい る
。2 0 08
年1 2
月の 日本 の輸 出は, アメ リカ 向け( 3 6. 9%
減) だけで な く輸 出 シェアの半分 を占め るアジア向け( 3 6. 5%
減) が減少 した こ とが響 き, 前年 同 月比 で35. 1%
減少 した。 ア ジア向けで は特 に台湾( 48%
減),韓 国( 39. 8%
減) 向けの悪化 が 目立 つ。韓 国,台湾 の1 2
月輸 出 もそれぞれ2
割,4
割減少 してお り,その最 大 の原 因 は,最大 の輸 出先 で あ る中国の1 2
月の輸入 が21%
減少 した こ とに よる( 20 0 9
年1
月の中国の輸入 は前年 同 月比4 3. 1%
減)。 こ1 2)
『日本経 済新 聞』2 0 0 8
年8
月2 8
日1 3)
『日本経 済新 聞』2 0 0 8
年3
月4日グローバル ・インバランスとアメリカ産済
図6 国際金融市場におけるドル建て取引の割合とドルの名目実効為替レート
(%) 2000年‑100
‑ 9 3 ‑
(資料) BIS,Website
(出所) 高安健一 「国際金融市場 における新興成長地域 (BRICsお よび資源輸 出国) の資金調達活動 (2002年〜 2008年3月)」『環 太平洋 ビジネス情報 RIM』 2008 Vol.8No31,64ペ ージ
の よ うな ドミノ現 象 の背 景 に は,internationalproduct血・agmentationが あ るC 東 ア ジ アで は, 素 材 , 部 品 の生産 拠 点 が 国境 を越 えて配 置 され, それ が 中国 な どで最 終 財 へ と組 み立 て られ る とい う工程 間分 業 が発 展 して い る。 そ の結 果 , 域 内 貿 易 比 率 は1980年 代 の30%台 か ら2005年 に は56%に上 昇 した が,最 終 財 で み る と,域 内へ の輸 出比 率 は35%に とど ま って い る (EU は67%)。 東 ア ジア域 内 に分 散 した生 産 ネ ッ トワ ー クを形 成 しなが ら最終 財 需 要 の大 半 は欧 米 に依 存 してい る とい う構 造 の た め, 欧 米 の不 況 の影 響 が 増 幅 され て東 ア ジアに伝 搬 してい るので あ る。 そ の た め, 部 品 の域 内で の相 互 供 給 が減 少 す る と ともに, 束 ア ジ アの鉱 工 業 生産 の落 ち込 み は欧 米 よ りも大 きい もの に な ってい る
1
4)0ア メ リカ の経 常 収 支 赤 字 の 限 界 と して , 投 資 収 益 が 受 取 り超 過 か ら支 払 い 超 過 へ 転 じる点 (
L/ A>
r ソr
l) を設 定 す る こ とはで きる。 リス ク プ レ ミア ムが上 昇 す れ ば, そ の天 井 は低 くな る。 しか し, それ は 形 式 的 限界 で あ る。 重 要 な の は,形 式 的 限界 に達 す る以 前 に現 れ る現 実 的 限界 で あ ろ う。 現 実 的 限界 は, ア メ リカの経 常 収 支 赤 字 が維 持 され る こ と自体 , 言 い換 えれ ば,経 常収 支 黒 字 国 と赤 字 国 ア メ リカの双 方 に ドル流 動 性 の供 給 の増 加 を もた らす とい う負債 決 済 の構 造 か ら生 み 出 され る事 態 に見 出 され るべ きで あ り, そ れ は, 中国 にお け る不 胎 化 の コ ス トで あ り, ア メ リカの長期 金 利 が低 位 安 定 的 に維 持 され た こ とに よる住 宅 バ ブル の発 生後 の一 連 の事 態 で あ る。また, ア メ リカ が 負 債 決 済 を行 い うる こ とは, ドノレ離 れ の可 能 性 を排 除 す る もの で は ない。 ドノレレ‑
14) 2008年1月〜11月の各国 ・地域の鉱工業生産の落込みは,アメ リカ5.8%,ユーロ圏4.6%であるのに対 して,台湾 24.9%,韓国14.3%, 日本13.4%, シンガポール12.6%,タイ8.7%である (ユ‑ロ圏は10月まで)。杉浦哲郎 「景気はな ぜか くも急激に悪化 しているのか ?」『みずほ .)サーチ』February,20090また,「東アジア貿易,米欧需要減で縮小」『日 本経済新聞』2009年1月28日を参照。