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博士学位論文審査報告書

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Academic year: 2021

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2015年1月3日

博士学位論文審査報告書

大学名 早稲田大学

研究科名 スポーツ科学研究科 申請者氏名 岡田 悠佑

学位の種類 博士(スポーツ科学)

論文題目 中村敏雄の学校体育論に関する教育思想史的研究

A Study of historic Educational thought on the Theory of Physical Education in school by Toshio Nakamura

論文審査員 主査 早稲田大学教授 友添 秀則 博士(人間科学)早稲田大学 副査 早稲田大学教授 寒川 恒夫 (学術博士)筑波大学

副査 早稲田大学教授 トンプソン・リー 学術博士(大阪大学)

本論文は、戦前の「身体の教育」論に依拠した学校体育が、戦後その根幹から大きく変貌し「民 主体育」を標榜する過程で、その正当性を如何に担保したのかを、戦後の学校体育のオピニオン リーダーであり、民主体育の代表的実践者であった中村敏雄氏(以下、「中村」と表記する。)の 学校体育論を教育思想史の方法論を用いて解明することで、論証しようとしたものである。

本論文の構成は序章と第Ⅰ部(1~3章)、第Ⅱ部(4~7章)、第Ⅲ部(8~10 章)及び結 章に分かれた3部構成となっている。

第Ⅰ部では1950年代半ばから1970年代前半にかけての中村の学校体育論の理論構築の時期 を対象にしている。

第1章では、戦後日本における教育の民主化運動が58年体制の能力主義教育政策の展開のも と、体力主義体育が隆盛になっていく中で中村の初期の学校体育論がどのように構築されるのか が明らかにされる。第2章では、中村の学校体育の中核的思想となった「運動文化論」を中村の 恩師であった丹下保夫氏からどのようにして批判的に継承したかが解明される。第3章では、中 村の初期学校体育論の教科構想であった、いわゆる「中村試案」の形成過程が述べられる。

第Ⅱ部では、1970 年代半ばから 1990 年代半ばにかけて「中村試案」が学校体育論としてど のように深化、発展していったのかに焦点が当てられる。具体的には中村の学校体育論の目標論、

指導方法論、学習評価論がどのような理論的背景で形成されたのかについて解明される。

第4章では運動文化の主体者形成の意味と意義について、第5章では「中村―円田論争」を取 り上げ、学校体育におけるスポーツ権と身体形成の位置付けをめぐる問題、第6章では、学習者

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の学習権を担保する学習活動の対象化が考察される。第7章では、伝統的評価観を批判すること によって中村がエヴァリュエーションとしての学習評価論を構想することが考察、言及される。

第Ⅲ部では、冷戦終焉後の 1990年代後半から晩年の2011年までの中村の学校体育論の理論 的変容が考察、解明される。

第8章では、「58年体制」が新自由主義教育改革によってどのように転換されたかを考察し、

第9章では90年代以降活発化した中村の「スポーツ文化論」研究が中村の学校体育論の理論を どのように変容させたかが考察され、第10章では、理論的変容の具体的事例として中村の「水 泳」研究が総括される。

本論文での考察の結果、中村の学校体育論の基底には、いわゆる「逆コース」史観や「教育的 価値の自律性」の尊重理念に加えて,「マルクス主義教育学」,「国民の教育権」論等が存在する ことを明らかとなった。さらに,これらの思想の原理として,中村の学校体育論の基底には、戦 後民主主義教育に高い価値を付与し、国家の教育に対抗することにとって、平和と民主主義の擁 護を求める「国民」主義があることが明らかにされた。また、「新自由主義教育改革」で中村の 学校体育論の前提にあった「58 年体制」が修正されていく中で,中村の学校体育論の基底であ る「国民」主義の前提となる「国家―国民」という対立図式も融解されることを明らかにしてい る。この融解によって、反権力的な二項対立図式を前提としていた中村の学校体育論に修正が求 められようになるが、中村は「国家」を「西洋」に読み替えることが慎重な考察を経て明らかと なる。中村にとっての1980年代以降の「スポーツの大衆化」現象は「西洋中心主義」の世界的 伝播であり、ユーロセントリズムに抗するには,日本における「土着の運動文化」に着目するこ と、そしてその具体的な例証として、「水泳」研究を位置付けることが解明される。

これらの考察を通して、90 年代の冷戦構造の終焉以降、中村は「保守―革新」構造の崩壊の 中で,「国家―国民」という対立図式を「西洋(人)―日本(人)」へと修正することを明らかに し、加えて「国民」の立場を無前提に善とする「国民」主義が中村の内にあっては連続すること が明らかとなる。そして、中村の学校体育論の基底にある「国民」主義が,「排他性・差別性」

という問題を孕んでいたことも本論文での考察によって解明される。

本論文は、研究の目的、方法及び結論の論理的一貫性があり、論文の構成及び文献および資料 の点でも、博士論文として申し分ない。また中村敏雄氏の学校体育論の解明を通して、戦後日本 の民主体育の正当性を考察するという問題意識及びその着眼点も優れており、論文自体のオリジ ナリティーも極めて高い。これらの諸点を勘案して、本論文は博士(スポーツ科学)の学位を授 与するに十分値するものと認めることができる。

岡田悠佑,・友添秀則(2013)中村敏雄の学校体育論における理論的出発点に関する一考察.体 育学研究,58(1):122 -133.

以 上

参照

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