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消費者の廃棄行動とモノ供養祭・感謝祭について

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(1)

消費者の廃棄行動とモノ供養祭・感謝祭について

寳 多 國 弘

はじめに

消費者行動における廃棄行動の位置と性格

モノ供養祭・感謝祭の実態

1.名古屋市内の寺社で執り行われているモノ供養祭・感謝祭 2.全国的規模で展開されているモノ供養祭・感謝祭

モノ供養祭・感謝祭にみる消費者の廃棄意識と行動 むすびにかえて

モノ的に豊かな消費生活の実現は,私たちの長年の夢であったとはいえ,現実化して みると必ずしも手放しで喜べるものではない。有り余るモノに囲まれた使い捨て生活ス タイル(throw−away lifestyle)の浸透は,モノを大切に使い尽くす(使い切る)習慣を 捨てさせ,モノの有り難みを希薄化させ,果てはモノに対する敬虔な感謝の気持ちを忘 れさせさえしている。

ごみの最終処分場に捨てられたモノのなかには,少しばかり修理・補修をすれば,ま だまだ使用できるものや,大量見込み生産の宿命ともいえる売れ残った真っ新な処分品 などが含まれている。使用されないまま,すなわち期待された使命を全うしないで,不 用品として捨てられたモノたちの悔しさや悲鳴が聞こえてくるようである。

ところが,環境問題の深刻化やグリーン・コンシューマー(green consumer,環境に 優しい生活行動に目覚め,積極的に実践している消費者)の登場などを受けて,バブル 経済の崩壊以降,これまでの使い捨て生活スタイルの見直し(restyle)が強く迫られて いる。消費生活の成熟化につれて,モノ的な豊かさから心の豊かさへ,モノの所有から モノの利用へ,使い捨て社会から循環型社会の構築へ,自然や異文化との「共生の思 想」の浸透など,私たちの求める生活充実の力点や方向が,いよいよ鮮明になってきて いる。

こうした新しい時代の到来を前にして,過去の反省を踏まえ,あらゆる面で新時代に 相応しい発想の転換や生き方が求められるようになってきた。こうした動きのなかで,

消費者行動(consumer behavior)のうち廃棄行動(disposition behavior)のフェイズに焦 点を当てて,モノと人との調和的な関係づくり(モノとの納得のいく付き合い方)を改

0(704

(2)

めて考え直してみたい。消費者の廃棄行動に焦点を当てるのは,人と関わるモノの生涯 のうち出会いよりも別れの局面(モノを手放す)において,人のモノに対する付き合い の姿勢や心情をより理解することができると考えたからに他ならない。

そこで考察の手掛かりを提供してくれる素材として,所定の役目(ないしは使命)を 終えたモノ(used physical products)に対して,全国各地で執り行われているモノ供養 祭・感謝祭を取り上げることにした。本小稿では,名古屋市およびその周辺で執り行わ れているモノ供養祭・感謝祭のなかから,代表的な

8

例をピックアップして,その実態 を眺め,そこで見られる消費者のモノ廃棄(product disposition)の意識と行動を分析・

整理することに主眼を置いている。

モノ供養祭・感謝祭における消費者の廃棄行動の分析が,モノと人との調和的関係づ くりへのヒントを提供することはもちろん,モノに対する日本人の精神文化や行動様式 を把握する一助になることを期待している。

消費者行動における廃棄行動の位置と性格

今日の高度分業社会においては,生活必需品(生活手段)のほとんどすべてが,他人 によって商品生産され,自己消費のためにはそれらを商品という形態で購入しなければ ならない。他人の商品生産に全面的に依存するといった商品経済社会では,商品との関 わりなしに生きていくことはできない。しかも商品を購入することによってのみ生活を 営むことができることからして,まさに「現代の消費生活は,商品の購入そのものであ

1

る」といっても過言ではない。商品購入の巧拙によって,消費生活の内容とレベルが大 きく左右されることになる。その必然的な結果として,消費者の購買行動(purchasing

or buying behavior)の研究に重きが置かれることになる。すなわち,商品需要者の視点

からは,お買い得品(best buy)の探求を中心的内容とする賢い消費者のための「買い 物論」として登場する。通常,購買力には限りがあるので,その制約のなかでできるだ け無駄のないよう,効果的な選択購買をすることが求められる。まさに買い物上手は,

生活上手に通ずるという考えに依拠するものである。

一方,商品供給者の視点からすれば,消費者の購買心理や購買行動は,マーケティン グ戦略の策定やマーケティング・プログラムの設計にとって重要なインプット情報であ る。今日のような買い手市場でかつ豊かな商品経済社会において,商品の商業的成功 は,買い手側の選択的購買意思決定によって大きく左右される。それゆえ消費者のニー ズや購買行動を的確に把握し,それらに適合する特徴的な商品の開発とその効果的な提 供方法を考えることが必要となる。流通・マーケティングの領域では,このような理由

────────────

正平[14]56ページ。

消費者の廃棄行動とモノ供養祭・感謝祭について(寳多) 705)9

(3)

から消費者の購買行動に大きな関心が寄せられ,購買行動にウエートを置いた消費者行 動の研究が積み重ねられてきた。

こうした認識を受けて,おおよそ

1970

年代以前の消費者行動の領域把握は,購買行 動に絞り込まれたものであったといえる。すなわち,Waltersと

Paul

は,消費者行動を

「個人が財やサービスを購入するかどうか,どんな商品を,何時,何処で,どのように して,誰から購入するかを決定する過程であ

2

る」と定義づけ,マーケティング組織から 財やサービスを購入することに直接関係する特定タイプの人間行動と捉えていた。さら に,Engelらも消費者行動を「経済的財貨やサービスの獲得や使用に関する個人の諸行 動であり,それらに先行し,行動を決定する一連の意思決定過程(decision processes)

を含

3

む」としている。同じく,Loudonと

Della Bitta

も,消費者行動とは「個人が財や サービスを評価し,獲得し,使用する際に行う意思決定の過程と活動をい

4

う」と定義し ている。これら代表的な消費者行動の定義は,いずれも商品の獲得(acquisition)であ る購買行動にとりわけウエートを置いた捉え方をしている。この時点では,モノの廃棄 決定や処分方法などは,ほとんど視野に入っていなかった。

言うまでもなく消費者行動の領域は,購買行動をその全てとしているわけではない。

Engel

Blackwell

らは,消費者行動を「経済財やサービスの獲得,使用,そして処分

に直接的に関わる個人の諸行動であり,それらの行動に先行し,かかる行動を決定する 意思決定過程を含

5

む」(傍点は筆者)と定義し直している。さらに,Loudonと

Della Bitta

も消費者行動を「個人が財およびサービスを評価し,獲得し,使用し,廃棄する際に,

携わる意思決定過程と行

6

動」(傍点は筆者)と捉え直している。また,Robertsonらは

「消費するかどうか,如何なるカテゴリーの財やサービスを消費するか,如何なるブラ ンドを選択するか,購買または買い回りするか,どのように使用・廃棄するかについて の一連の意思決定過程を含

7

む」(傍点は筆者)と解説している。このように

70

年代の後 半から

80

年代に入っての定義では,いずれも廃棄行動を含めて消費者行動が包括的に 捉えられるようになった。すなわち環境問題の深刻化や使い捨て社会(throw−away soci-

ety)への問題提起を背景に,消費者行動研究の課題としてはこれまで等閑視されてき

たモノ廃棄の理由や処分方法,廃棄決定とそれに及ぼす影響要因の分析などが注目さ れ,消費者のモノ廃棄のあり方が問われるようになった。その上,天然資源の枯渇化が 進み,湯水のように資源を使用できなくなった時代においては,資源消費の減量化や廃

────────────

Walters et al[22]pp. 6−7.

Engel et al.[2]p. 5.

Loudon et al[12]p. 13.

Engel et al.[3]p. 5.

Loudon et al[13]p. 8.

Robertson et al[18]p. 3.

同志社商学 第54巻 第5・6号(23年3月)

2(706

(4)

購買行動

①獲得(acquisition)

使用行動

②消費(consumption)

廃棄行動

③廃棄(disposition)

棄物発生の抑制,不用と認定した用済み品(used products)の再使用(reuse)や再資源 化(recycle)が強く求められている。循環型商品流通システムでは,その出発点に消費 者のモノ廃棄が位置し,利用廃棄物の再商品化が促進される(第

1

図)。消費者の不用

品廃棄の実態を知ることによって,その収集・処理対策や再資源化へのヒントが得られ る。廃棄行動に影響を及ぼす要因を明らかにすることによって,モノ廃棄(ごみの不法 投棄を含めて)によって引き起こされる環境問題解決のための社会的制度や規範を制定 する際の手掛かりが得られる。さらに消費者のモノ廃棄を伴う買い換え需要を把握する ことによって,マクロ経済動向を読み取る間接指標が提供される。

通常,消費者は商品を購買して使用し,用済みになると廃棄する。廃棄すると新たな 購買行動を起こす(ないしは,新たな商品を購買することによって発生する不用品を廃 棄処分する)というように,その時点で廃棄と新規の購買が結び付く。マーケティング

・マネジャーが消費者の廃棄行動に関心を抱く第一の理由は,消費者のモノ廃棄行動 が,新たな購買決定に影響を与えることにある。要するに,これら

3

つの行動は一連の サイクルを形成

8

し,相互に関連している。つまり消費者行動は,互いに関連し合う①購 買行動,②使用行動,そして③廃棄行動の

3

つの行動フェイズ(局面)ないし領域(do-

main)を持つ特定タイプの人間行動なのである。

したがって,購買行動のフェイズに偏重したアプローチだけでなく,3つのフェイズ からの接近と知識が,消費者(行動)に対して包括的な理解をもたらしてくれる。しか

────────────

神山[11]86ページ。

1 循環型商品流通システム−揺り籠から次の揺り籠まで−

《フォワード・チャネル》

自然界

→ 資源 ───→ 生産 ───→ 市場 ─→ 使用・消費 ─→ 廃棄 ───→ 回収・解体 ───→ 処理・処分 ─

自然界

(原材料)(部品・完成品)(商品化) (廃棄物)(リマニュファクチャリング)(処分廃棄物)

(エネルギー)

再使用(リユース)

再商品化(利用廃棄物)

再資源化(リサイクル)

《バックワード・チャネル》

2 消費者行動の3つのフェイズと関連性

(備考)廃棄行動のフェイズでは,廃棄の動因(廃棄ニーズの発生や新規購買との関連など を含む),廃棄基準,不用品の選択,廃棄決定過程とその影響要因,廃棄行動の類型 化,廃棄の方法(不用品の再利用や死蔵化を含む)などが主たる考察課題となる。

神山[11]86ページ(図Ⅲ−1)を改変して引用。

消費者の廃棄行動とモノ供養祭・感謝祭について(寳多) 707)9

(5)

しながら,廃棄行動を研究する確かな正当性と必要性が存在するにもかかわらず,廃棄 行動を真正面から取り上げた先行研究は,購買行動のそれと比較してきわめてわずかし かない。その中で,消費者の廃棄行動の概念的パラダイムを開発した

Jacoby

らの先駆 的研

9

究は広く受容され,その後の研究の範囲と方向性に大きな影響を与えている。彼ら は,6種類の耐久財の廃棄実態を踏まえて,廃棄行動を類型化し,廃棄決定に及ぼす影 響要因を抽出している。第

3

図は,Jacobyらによって提示された廃棄決定の枠

10

組みに 沿って,消費者の廃棄決定とそれに伴う廃棄行動のパターンを類型化したものである。

本小稿で取り上げるモノ供養祭・感謝祭における消費者の廃棄行動は,不用品を永久に 手放す行動パターンのうち「こだわり廃棄行動」のカテゴリーに位置づけられる。

モノ供養祭・感謝祭の実態

消費者によるモノ廃棄の特徴的な意識と行動が見られる現場のひとつが,モノ供養祭

・感謝祭である。まず地方的(名古屋市内)および広域的に執り行われている代表的な モノ供養祭・感謝祭の実態を概観しておきたい。

1.名古屋市内の寺社で執り行われているモノ供養祭・感謝

11

①箸感謝祭(朝日神社)

箸は,日本人にとってもっとも身近な食事道具であり,日本文化の象徴的な存在であ る。機能的には,ヒトが生きていくために必要な食べ物を口に運ぶ,すなわちヒトと食 べ物の橋渡し的役割を果たす箸は,神聖なものとみなされ,特別な道具として大切に取 り扱われてき

12

た。

────────────

Jacoby et al[7]pp. 22−28.

Ibid., p. 23(Exhibit 1) 1 寳多[19]138−143ページ。

2 向井・橋本[16]187ページおよび296−297ページ。

3 廃棄行動の類型化

┌─ 一時的に手放す───期間を決めて貸与する(レンタル,リースなど)

┌─手放す─┤ ┌─譲渡する(贈与・寄付を含む)

(廃棄する)└─永久に手放す─┼─下取りに出す(下取りセールの利用)

用済みの不用品─┤ ├─販売する

│ (リサイクルショップ,ガレージセール,

フリーマーケット,ネットオークションなど)

┌─保管する ├─ごみとして捨てる(焼却,埋め立て処分など)

│ (死蔵化) ├─再資源化(リサイクル)へ回す

└─手元に置├─別の用途に使う└─こだわり廃棄処分する いておく└─(修理して) (モノ供養祭などに持ち込む)

再び使用する

出所:Jacoby et al[7]p. 23(Exhibit 1)を一部加筆して引用。

同志社商学 第54巻 第5・6号(23年3月)

4(708

(6)

このような使命を持つ箸に対して,感謝の気持ちを表そうと,使用済みの割り箸や使 い古した塗り箸を持ち寄って供養するのが箸感謝祭(箸まつり)である。1987(昭和

62)年から始められ,平成 14

年で第

16

回目を迎える。当日持ち込まれる箸には,氏子

が使用したものだけでなく,会場となっている神社周辺の飲食店で客が使用した割り箸 も含まれている。箸の供養をすることによって,箸への感謝とともに商売繁盛も併せて 祈願される。きれいに洗浄され,乾燥された使用済みの割り箸が,神官による祝詞奏上

・お祓いの後,拝殿前の広場で焚き上げられる。この箸感謝祭は,箸(はし)との語呂 合わせから,毎年

8

4

日に執り行われている。

②人形供養祭(大須観音宝生院)

全国各地で広く執り行われている,もっともポピュラーなモノ供養祭のひとつが人形 供養祭である。人形を供養するというのは,人形が目鼻口を持ち,ヒトに近い形態をし ていること,子どもの遊び道具として愛用され,子どもの健やかな成長を祈願し,降り かかる災危を人形に転化するといった,ヒトの身代わり的な役割を果たしてきたことな どに由来しているのであろう。

ここで取り上げる人形供養祭は,人形の作り手と売り手が所属する

4

つの協同組合

(愛知県人形玩具工業協同組合,名古屋雛人形卸商業協同組合,中部人形節句品工業協 同組合,愛知県玩具卸商業協同組合)が共催する形で

1965(昭和 40)年から毎年 1

(もともと

9

17

日であったが,平成

6

年から

10

月第

1

木曜日に変更)供養祭を執り 行っている。平成

14

年で

38

回目を迎える。その間,1979年に現在の供養会場となっ ている寺院の境内に人形供養塔が建立されている。供養祭当日持ち込まれる人形は,例

箸感謝祭

消費者の廃棄行動とモノ供養祭・感謝祭について(寳多) 709)9

(7)

年約

3

万点(4トントラック

10

台分相当)に及び,読経の後,一部の人形は儀式的に 焚き上げられる。なお,人形を持ち込む際に,量の多少に関わらず所定の供養料を納め てもらうことになっている。

③入れ歯の供養祭(覚王山日泰寺)

愛知県保険医協会が主催する入れ歯の供養祭は,1986(昭和

61)年から始まり,平

14

年に第

17

回目を迎える。入れ歯と

108(イ・レイ・バ)の語呂合わせから,毎年 10

8

日に執り行われている。長年身体の一部として働き,食べ物を咀嚼する役目を 果たし終えた入れ歯に感謝し,心を込めて供養するために行われている。当日,歯科医 師や一般人から持ち寄られる役目を終えた入れ歯(部分入れ歯を含む。なお。歯科医師 が持ち込むのは,治療の際に引き取った入れ歯や抜いた歯である)は,約

2

千点近くに 及ぶ。参列者が焼香し,読経をあげて供養された入れ歯は,産業廃棄物として最終処分 される。

なお,入れ歯供養祭の終了後に,供養会場の一角で歯科医師による入れ歯の無料相談 会が行われている。

④扇供養の会(大須観音宝生院)

使い古した舞扇に寄せる「感謝郷愁報恩の素願」(扇塚の碑文)により,名古屋日本 舞踊協会が第

1

回の扇供養の会を執り行ったのは,1954(昭和

29)年である。一定期

間の中断後,現在のように,毎年

11

17

日に執り行われるようになったのは,1985

(昭和

60)年からである。

人形供養祭

同志社商学 第54巻 第5・6号(23年3月)

6(710

(8)

晴れ舞台ではもちろん厳しい稽古で使用される舞扇は,舞踊家の魂ともいわれる。舞 扇に対する感謝と芸道上達を祈願して,扇供養の会が執り行われている。当日は,舞踊 協会関係者が参列し,読経の後,使い古し破損した舞扇のお焚き上げが行われる。毎年 約千本近くの破損した古扇が持ち寄られ,お焚き上げ後に燃え残った灰は,供養会場で ある寺院の境内に建立されている扇塚に納められる。

⑤トーシューズ感謝祭(高牟神社)

トーシューズの感謝・供養祭は,全国的にも珍しい。主催者は,在名の松岡伶子バレ

扇供養の会

トーシューズ感謝祭

消費者の廃棄行動とモノ供養祭・感謝祭について(寳多) 711)9

(9)

エ団であり,1985(昭和

60)年から,その年の最後の練習納めの日(例年 12

25

日 頃)に執り行われている。汚れ破れたシューズであるとはいえ,ごみとして捨てるには 忍びない。それゆえ,お世話になったトーシューズに対して感謝するとともに,バレエ の上達を祈願する場として,このような感謝祭が設けられたのである。

バレエ団員が各自で保管していた

1

年間に練習で履きつぶしたトーシューズを持ち寄 り,神官による祝詞奏上・お祓いの後,拝殿の前庭でお焚き上げが行われる。

2.全国的規模で展開されているモノ供養祭・感謝祭

①パソコン(電脳)供養(名古屋市 万松寺)

平成

14

5

12

日に初めて執り行われた,もっとも新しいモノ供養祭・感謝祭であ る。パソコン関連のソフト開発会社の社長でもある万松寺副住職の発案により,電気製 品回収業者等の協力を得て始められた全国初の取り組みである。

供養祭の当日までに,全国からユーザーが直接ないし回収業者を通して約

200

台に及 ぶ中古のパソコンが持ち込まれた。そのうち,動くものは

OA

機器の再生専門業者

(愛媛県所在)による点検後再使用(安価で販売,一部は輸出も計画中)に回される。

一方,動かないパソコンについては再利用できる部品を取り外し,金属類は再生資源と して分別リサイクルされることになっている。

主催者側の意向は,壊れたり,不用になった中古パソコンに対して供養・感謝の法要 を執り行うことによって,処分に抵抗感を抱くユーザーを救済し,モノを大切にする心 を育むと同時に,モノのリサイクルの新たなあり方を提案しようとするものである。パ ソコンを持ち込む際,所定の供養料を納めることになっている。

電脳供養

同志社商学 第54巻 第5・6号(23年3月)

8(712

(10)

なお,年

1

回の割合で執り行う計画ながら,持ち込まれるパソコンの量によっては,

年間数回の供養祭が予定されている。

②めがね供養(愛知県知多市 大智院)

毎年秋季大祭(10月の第

4

日曜日)として執り行われる「めがね供養」には,新し く買い換えて手元に残った用済みの眼鏡や故人の遺品である古い眼鏡が,県内外から広 く持ち込まれる。平成元年から始まっためがね供養祭も今年で

14

回目を迎える。当日 は,屋外に設置された祭壇(三宝に蓮根が供えられている)の前で読経が行われ,健眼 長寿を祈願して護摩木が焚かれる。不燃性の素材でできているため,眼鏡のお焚き上げ は行われない。当日の参拝者には,先が見通せるようにと,お供えされた蓮根の薄切り が入っている「先見粥」が振る舞われる。

会場となっている寺院には,眼病治癒に霊験あらたかな弘法大師(通称「身代わり大 師」)が祀られており,東海三県広域から善男善女のお参りが絶えることはない。境内 には,眼鏡塚が

1982(昭和 57)年に建立されている。

なお,用済み眼鏡の持ち込みは,寺院で年中受け付けられているが,留学生からの申 し出もあって,古くとも使用可能な眼鏡の一部はスリランカに送られている。この「め がね供養」は,用済み眼鏡の再使用の取り次ぎ窓口としての役割も果たしている。

③刃物供養祭(岐阜県関市 産業振興センター)

わが国有数の刃物の産地である岐阜県関市で執り行われているモノ供養祭に,関刃物 産業連合会が主催する刃物供養祭がある。イイハ(良い刃)の語呂合わせから,毎年

11

めがね供養

消費者の廃棄行動とモノ供養祭・感謝祭について(寳多) 713)9

(11)

8

日の「刃物の日」に開催されている。長年使い込んで使用不能になったり,新しく 購入して不用になった包丁,はさみ,ナイフ,剃刀,爪切り,鋸などの刃物類を,感謝 の気持ちを込めて供養するもので,1986(昭和

61)年から始められている。

供養される不用刃物類は,関市の呼び掛けで回収に協力する刃物小売店やホームセン ター,市以上の地方自治体など全国およそ

840

ヶ所に設置されている専用の刃物回収箱 を通して集められる。関刃物産業連合会および関市商工観光課へ直接送り届けることも できる。関刃物会館で一括保管された,例年

2

万点を越える不用刃物類が,当日供養祭 の会場に持ち込まれる。

供養祭では,刃物塚の横に積み上げられた刃物類に対して,神官による祝詞奏上・お 祓いなど一連の神事が行われる。供養された刃物類は,供養祭を協賛する鉄鋼メーカー の溶鉱炉で融解され,再生資源として利用されるようになっている。

モノ供養祭・感謝祭にみる消費者の廃棄意識と行動

今回取り上げたモノ供養祭・感謝祭の事例すべてにおいて,共通して確認できる消費 者の意識は,所定の役目を終えたモノに対する深い感謝の思いである。供養されるモノ には,使用済みの箸,破損した櫛やブラシ,用済みになった結納品,古くなったり壊れ た人形,不用になった文房具や学用品,使い古し破れた舞扇,折れて使用不能になった 縫い針や茶筅,履きつぶしたトーシューズ,不用になった入れ歯,使用不能になった包 丁など多種多様な生活用品や道具類が含まれる。各人各様の生活を支え,演出してくれ た生活道具としてのモノの働きに有り難みを感じ,大切に扱いたいと思い,愛おしくさ

刃物供養祭

同志社商学 第54巻 第5・6号(23年3月)

0(714

(12)

え覚える心情は,誰しもが抱く共通のものであろう。長年にわたって使い慣れ親しんで くると,そのモノに対する思い入れが強まり,愛着を抱くようになる。愛用品ともなれ ば,破損したからといって簡単に捨てられるものではない。まして思い出の品や縁起物 などは,不用になったからといってごみと割り切れないし,ごみと一緒に捨てられな い。それぞれの生活シーンで果たしてくれたモノの働きに対して,謝意を大っぴらに表 明できる場がモノ供養祭・感謝祭なのである。

また,モノ供養祭・感謝祭は,役目を果たしたモノとの別離の場であり,手放すこと によってモノに存在意義の終わりを宣告する場でもある。となると見切りを付けた愛用 品を供養祭に持ち込む誰もが,使い慣れ親しんだモノの消滅(モノとの別れ)を悼み,

敬虔な祈りを捧げる心境になるのであろうか。トーシューズ感謝祭に参加した少女達 が,炎に包まれていくトーシューズに向かって目を閉じ,神妙に合掌している姿は,こ うした心境の現れといえるのかもしれない。また,買い換えで廃車にすることが決まっ た愛車を,ディーラーへ持ち込む前日にきれいに洗車し,御神酒までかけるという行為 は,感謝の念の発露という以上に,愛車が姿を消すこと(モノの消滅)を「悼む」とも いえる心情の現れと捉えることもできる。ここで取り上げた刃物供養祭を除く

7

事例い ずれのモノ供養祭・感謝祭においても,開催場所が寺社であること,祭礼の進行者とし て表面に出てくるのは神官や僧侶であること,神事ないし仏事の形式を採って供養祭・

感謝祭が執り行われていることなどから,参加者の心情を雰囲気的に祈りを捧げたい境 地に誘うものと考えられる。お焚き上げで,炎に包まれていくモノに対して取る参加者 の合掌スタイルは,この世から姿を消していくモノへの思いを,人間の追悼にだぶらせ て捧げる祈りの自然体といえるかもしれない。

さらに,この祈りのなかには,モノの持つ「霊力」に思いを寄せ,技能向上,学業成 就,商売繁盛,無病息災などの祈願も併せ含まれる。とりわけ舞扇,毛筆,箸,トーシ ューズ,縫い針などの供養祭・感謝祭において,このような祈願をすることが,参拝者 にとって感謝の念の表明と並ぶもうひとつの目的であり,供養祭開催の趣旨のひとつに もなっている。こうしたモノの廃棄行動では,廃棄されるモノと新たに入手したモノと の新旧交代を伴い,モノの引き継ぎ(バトンタッチ)に託して,消費者の意識のなかに この種の祈願が折り込まれる。

次に,眼鏡,パソコン,刃物などの供養祭・感謝祭について特筆すべきは,持ち込ま れた供養品のリサイクル(再使用,再資源化)への途が付けられていることである。例 えば,眼鏡は国境を越えて必要な人の手に渡るように企図されている。刃物について は,鉄鋼メーカーの全面協力によって再資源化され,別のモノに生まれ変わる。ただ し,さまざまな素材から成る雑多な刃物が溶解されるため,素材資源としては品質的に 劣り,用途も限られることが難点となっている。さらに,パソコン供養祭では,専門解

消費者の廃棄行動とモノ供養祭・感謝祭について(寳多) 715)1

(13)

体業者によってパソコン本体に残るデータの消去処理がなされた後,動くものは安価で 再販売に回されたり,取り出された部品が再利用される段取りになっている。売りっ放 しではなく,廃品となった後まで売り手が面倒を見ようというのである。これによって 新規購買に繋げたいとの商売気が見えるものの,ユーザーにとっては,使い捨てではな くリサイクルされると分かれば,買い換えのため未だ機能するパソコンを廃棄する(手 放す)後ろめたさや抵抗感が和らげられたり,解消されることにもなる。つまり,未だ 使用可能なモノを廃棄する大義名分が立つことによって,使い捨ての罪悪感から解放さ れる。長年にわたってニーズに応え,所定の役目を果たしてくれた愛用品を見捨てる,

ないしはその存在意義に見切りをつけることへの心理的抵抗感を緩和または解消してく れる絶好の機会と場所を提供するのが,モノ供養祭・感謝祭であるといえよう。

既述した

Jacoby

らの先行研究を拡張させて廃棄過程(disposition process)の概念モ

デルを提示した

Hanson

に従えば,消費者が不用品の廃棄を意思決定する過程は,①問 題の認知(problem recognition),②探索と評価(research and evaluation),③廃棄決定

(disposition decision),④廃棄後の結果(post−disposition outcome)の

4

段階からな

13

ると 考えられている。最初の段階では,破損による使用不能や心理的陳腐化などが引き金と なって廃棄ニーズが発生する。第

2

段階では,廃棄決定に至るまでに,さまざまな情報 源から代替的解決策に関する情報が収集され,当面する廃棄や選択代案の評価が行われ る。廃棄決定は,廃棄の意図,社会的要因,廃棄品の属性,取り巻く状況要因,知覚リ スク(perceived risk)などによって影響(廃棄決定の修正,延期,回避)を受ける。廃 棄の実行後,消費者は廃棄行動の結果に満足したり,後悔の念を抱いたりする。後者の 場合の消費者の不安や緊張の発生とその解消行動は,購買行動の場合と同じく認知不協 和(cognitive dissonance)の理論によって説明され

14

る。

上述の廃棄過程モデルに照らして,モノ供養祭・感謝祭における消費者の廃棄行動の ポイントを重点吟味しておきたい。そのポイントは,何故に不用品の廃棄場所として,

モノ供養祭・感謝祭が選ばれるのだろうかということである。モノ供養祭・感謝祭の開 催は,概ね特定日に決められており,筆や刃物など一部を除いて,供養品が持ち込まれ るのは,開催日前の一定期間ないし当日となっている。供養会場に不用品を常時持ち込 み,廃棄できる事情にはなっていない。手放したくないから保管することを厭わないと

────────────

Hanson[4]p. 52.

Hanson[4]pp. 53−56.

4 廃棄決定過程

問題の認知 ──→ 情報の探索・評価 ──→ 廃棄決定 ──→ 廃棄後の結果 出所:Hanson[4]p. 58(Figure 1)を部分的に引用。

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はいえ,モノ供養祭・感謝祭に持ち込むためには,供養品を手元にその時まで保管して おかねばならない。

さらに,モノ供養祭・感謝祭において,所定の供養料を徴収されたり,芳志としてな にがしかの寄付を求められる場合が多い。全く費用を掛けないで,不用品の廃棄ができ る状況になっていない。廃棄ニーズの発生については,物理的損傷によって引き続き使 用することができなくなったことがほぼ共通の原因となっている。廃棄の選択代替案を 検討・評価した後,いよいよ廃棄を決定すると,ごみ袋代程度の負担で一般ごみと一緒 に捨てることができる。しかしながら,供養に持ち込もうとする不用品がごみと一緒に 捨てられないところに,モノ供養祭・感謝祭における廃棄行動の特殊性を読み取ること ができる。

最初に指摘すべきは,供養に持ち込まれるモノの特異性である。長い間愛用し続け,

思い出の詰まったモノは,その使用者にとって特別の存在である。思い入れが強けれ ば,不用品になってもごみと割り切れない。生活ごみと一緒に捨てるに忍びない。それ 故に,この種の不用品には,特別な廃棄場所が用意される必要がある。愛用品の終息を 看取るに相応しい場所,それがモノ供養祭であり,モノ感謝祭なのである。将来的に愛 用品化のメカニズムが解明されると,供養の対象となりうるモノが見出され,新たな供 養祭・感謝祭が生まれる可能性もある。

モノ供養祭・感謝祭に持ち込みを決定させるのは,換言すれば愛用品の廃棄決定を正 当化させるのは,廃棄の大義名分が立つ場合である。モノ供養祭・感謝祭は,不用にな った愛用品を手放す正当な理由付けをしてくれる場であり,機会である。廃棄の大義名 分が立つならば,廃棄後の評価段階で,廃棄の結果に不安になったり,緊張して認知不 協和に陥ることはない。例えば刃物の供養祭で見られるように,供養後にリサイクルの 途が付けられていることは,廃棄を正当化し,廃棄の心理的抵抗感を緩和し,廃棄を促 す効果さえ発揮する。未だ使用可能なモノを手放す(廃棄する)後ろめたさを解消し,

使い捨ての罪悪感から解放する役割を,モノ供養祭・感謝祭は持っているといえよう。

もちろん,モノ供養祭・感謝祭で見られる「こだわり廃棄行動」の背景に,モノの

(使)命を全うさせようとする「勿体ない精神」の復活と環境保全意識の高まりが見て 取れる。まさにモノ供養祭・感謝祭は,廃棄行動を通して,モノの有り難み(存在意 義)を再認識させ,モノを大切にする心を育む場と機会を提供してくれているのであ る。

むすびにかえて

環境省のまとめによれば,2000年度の家庭ごみなど一般廃棄物の全国の排出量は過

消費者の廃棄行動とモノ供養祭・感謝祭について(寳多) 717)1

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去最多であり,ごみの減量化が叫ばれながらも

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年ぶりに増加に転じたとのことであ る。ごみを再資源化するリサイクル率は,法律的・経済的・社会的環境の整備が進めら れ,年々上昇している。ごみ排出量が増加に転じた背景に,ごみ問題に対する一過性悲 観論とリサイクルされるならモノの大量消費・大量廃棄は容認されるといった楽天的生 活意識の台頭が垣間見れるようである。今日のようなモノ的に豊かな社会において,モ ノ廃棄に対する消費者の意識や行動を吟味することは,ごみの減量化や再資源化といっ た廃棄物問題への取り組みに直接的な関わりを持つと共に,モノとの付き合い方を見直 す切っ掛けとなる。

消費者の廃棄行動は,消費者の廃棄態度と取り巻く社会・状況要因との関数であると いわれる。用済みと判定した廃棄候補品に対する利用可能性の有無,修理の能否,保管 スペースや代替品・補充品を確保できる可能性,選択代案の評価,知覚リスクなどの要 因が,廃棄決定に大きな影響を与えると考えられている。モノ供養祭・感謝祭において 見られる,用済み愛用品の廃棄決定も,ほぼ類似のメカニズムのなかで行われている。

供養祭・感謝祭の実態分析からいえることは,モノ廃棄に直面した消費者は,廃棄行動 を通してモノの有り難みを確認し,モノを無駄にしないよう有効に活かし,感謝を込め て大切に扱う心(勿体ない精神)を学習するようである。さらにまた,年々利用者が増 えて盛況のリサイクルショップ,話題となっている押し入れ代行のトランクルームサー ビス事業や消耗品レンタル事業の展開など,廃棄行動に関係する新たなビジネス機会が 次々と生み出されている。このように消費者の廃棄行動と関係する諸領域において,検 討すべき課題や興味ある話題が多い。

本小稿では,消費者行動のうち廃棄行動のフェイズに焦点を当て,モノ供養祭・感謝 祭を通して不用品廃棄の消費者意識と行動について考察した。特殊な生活行事という か,伝統文化的催事ないし儀式のなかでの特別な廃棄行動ではあったが,モノ廃棄に対 する消費者の意識と行動について,いくつかの特性を浮き彫りにすることができた。言 うまでもなく,考察結果のなかには,今後の検証を必要とするものも含まれている。さ らなる実証研究を積み重ねながら,廃棄行動のメカニズムを明らかにし,人とモノとの 調和的関係づくりへの確かな手掛かりを

みたいと思う。

此の度,岩下先生におかれましては古稀をお迎えになられ,誠におめでとうございま す。先生にお会いしてから

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有余年,その間に賜った学恩に対して,厚く御礼を申し 上げます。先生が幾久しくお健やかでいらっしゃいますよう,祈念申し上げます。

主要参考文献

1]栄久庵憲司『人の心とものの世界』ほるぷ出版,1997年。

2]Engel, J. F., Kollat, D. T. and Blackwell, R. D., Consumer Behavior, Holt, Rinehart and Winston., 1968.

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4]Hanson, J. W., A Proposed Paradigm for Consumer Product Disposition Processes, Journal of Consumer Affairs, Vol. 14, No. 1(Summer),1980, pp. 49−67.

5]Hawkins, D. I., Best, R. J. and Coney, K. A., Consumer Behavior : Implications for Marketing Strategy, 4 th ed., Richard D. Irwin, Inc., 1989.

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[12]Loudon, D. L.and Della Bitta, A. J., Consumer Behavior : Concepts and Applications, McGraw−Hill Book Co., 1979.

[13] ───,Consumer Behavior : Concepts and Applications, 3rd ed., McGraw−Hill Book Co., 1988.

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消費者の廃棄行動とモノ供養祭・感謝祭について(寳多) 719)1

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