2010年5月31日の船団に関する事件についての事務 総長調査パネルの報告書
著者 新井 京, 保井 健呉
雑誌名 同志社法學
巻 67
号 8
ページ 3540‑3471
発行年 2016‑03‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016351
2010年5月31日の船団に関する事件 についての事務総長調査パネルの報告書
新 井 京(監訳)
保 井 健 呉(翻訳)
以下の資料は、2010年5月31日の船団に関する事件についての事務総長調査パネル の報告書(1)(パルマー報告書)の翻訳(一部省略)である。
パルマー報告書は2010年5月31日の「ガザの自由」船団事件を受けて作成された。
5月31日の事件でイスラエル軍は、ガザ回廊沖に設定された封鎖線の外側64海里の地 点でキプロスの
NGO「「ガザの自由」運動」(Gaza Freedom Movement)により組織
された「ガザの自由」船団(Gaza Freedom Flotilla)を構成する各船の拿捕を実施した。イスラエル軍の乗り込み部隊は、6隻で構成された船団の内で、最大の船舶であるマ ヴィ・マルマラ号の拿捕において、乗員の激しい抵抗に遭遇し、実弾を使用するに至 り、制圧の過程で9名の死者(2)と多数の負傷者が生じた。
事件は大きな国際的反響を呼び(3)、拿捕を行ったイスラエルの、正当性や責任が問わ れることとなった。そこで、事件の経緯や法的評価を明らかにするために、国連の人 権理事会で事実調査委員会(4)の設立が採択されたほか、事件の多くの犠牲者の国籍国で
(1)Report of the Secretary-General’ s Panel of Inquiry on the 31 May 2010 Flotilla Incident, available at http://www.un.org/News/dh/infocus/middle_east/Gaza_Flotilla_
Panel_Report.pdf, (accessed 23 November 2015).
(2)事件後、昏睡状態にあった負傷者の1名が死亡したため、最終的な死者は10名となって いる(Aljazeera , “Mavi Marmara death toll rises to 10,” available at: http://www.aljazeera.
com/humanrights/2014/05/mavi-marmara-death-toll-rises-10-2014525145911267813.html,
(accessed 23 November 2015))。
(3)そのため、安全保障理事会は、事件の翌日に事態を憂慮し、調査を要求する議長声明を 発 し て い る(Security Council, Statement by the President of the Security Council, S/
PRST/2010/9, available at: http://daccess-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N10/382/79/PDF/
N1038279.pdf?OpenElement, (accessed 23 November 2015))。
(4)人権理事会の委員会は、3名の委員で構成されている。委員会の長であるハドソン・フィ リップスは国際刑事裁判所(ICC)の元判事であり、トリニダード・トバゴの司法長官
あるトルコや捕獲を行ったイスラエルにおいて、それぞれの政府によって調査委員会 の設立が決定され、その調査委員会による報告書が発行された(5)。
そして、2011年9月に安全保障理事会の要請に基づき、国連事務総長はジョフリー・
パルマー(6)を議長とした再発防止のための調査パネルを組織し、報告書の作成を命じ
(7)た
。その報告書が、今回翻訳した「2010年5月31日の船団に関する事件についての事 務総長調査パネルの報告書」である。
報告書は、本文でも述べられているが、トルコとイスラエルの報告書を検討した上 で、自身の分析と見解を述べ、将来における同様の事態を回避するための勧告を行っ ている。また、報告書は付属文書1において、パネルでの検討の基礎となる法的事項 について、事件の文脈から離れて検討を行っている。2011年9月2日、パネル報告書
である(A/HRC/15/21, para.2)。報告書は、UN Human Rights Council, The grave attacks by Israeli forces against the humanitarian boat convoy, A/HRC/RES/14/1, available at:
http://www2.ohchr.org/english/bodies/hrcouncil/docs/14session/RES.14.1_AEV.pdf#search
='A%2FHRC%2FRES%2F14%2F1, (accessed 23 November 2015)。
(5)The Public Commission to Examine the Maritime Incident of 31 May 2010, The Public Commission to Examine the Maritime Incident of 31 May 2010’ Report Part I, (2010), available at http://turkel-committee.gov.il/files/wordocs/8808report-eng.pdf, (accessed 23 November 2015)、イスラエルの調査委員会の長はイスラエル最高裁の元判事であり、
その他に3人の委員と2人の国際オブザーバーで構成されていた。また、委員会は数人 の経験豊かな国際法律コンサルタントの助言を受けていた。委員会は、イスラエルの調 査 委 員 会 法 に 基 づ く 権 限 を 与 え ら れ て い た(Ibid., pp.16-17)。 Turkish National Commission of Inquiry, Report on the Israeli Attack on the Humanitarian Aid Convey to Gaza, (2011), available at http://www.mfa.gov.tr/data/Turkish%20Report%20Final%20-
%20UN%20Copy.pdf, (accessed 23 November 2015)、トルコの調査委員会の委員には、
首相府、法務省、内務省、外務省の上級職員、海事局の次官が含まれている。船団の参 加者からの事情聴取や関係文書の検討、船団に参加した船舶の調査は関係部局および国 際的な法律家の監督の下で行われた(Ibid., p.10)。
(6)議長のジョフリー・パルマーは第33代ニュージーランド首相であり、「1995年の核実験 事件における1974年12月20日の判決63項による事態検討のための要請」事件で国際司法 裁判所の国籍判事を務めたことがある(Demande d'examen de la situation au titre du paragraphe 63 de l'arrêt rendu par la cour le 20 décembre 1974 dans l'affaire des Essais nucléaires (No uvelle-zélende c. France), Request for an examination of the situation, C.I.J. Recueil 1995, p.288)。
(7)UN, “UN chief announces panel of inquiry into Gaza flotilla incident,” available at: http://
www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=35607#.Van4a7Hz7cs, (accessed 23 November 2015); Security Council, Letter dated 2 August 2010 from the Secretary-General addressed to the President of the Security Council , S/2010/414 , available at: http://www.
securitycouncilreport.org/atf/cf/%7B65BFCF9B-6D27-4E9C-8CD3-CF6E4FF96FF9%7D/
IP%20S2010%20414.pdf, (accessed 23 November 2015).
は事務総長に提出され、公表された(8)。
2010年5月31日の「ガザの自由」船団事件は、イスラエルの設定した海上封鎖を侵 破する試みであり、イスラエルによる臨検は海上封鎖をその根拠とするものであった。
そのため、適用される規則、つまり海戦法規、特に封鎖法上の合法性が大きな問題と して表れることとなった。
しかし、封鎖法を含む海戦法規については、1856年のパリ宣言以降、法典化が試み られ続けているものの、必ずしも明確な規則が存在するわけではない。そうした試み の一つとして、1909年のロンドン宣言(未発効)は封鎖について21か条を規定し、パ リ宣言やロンドン宣言のアップデートを図った1994年のサンレモ・マニュアルにおい ても封鎖についての規定が設けられている(9)。しかし、依然として詳細な規則が確立さ れたとは言い難かった。
1909年のロンドン宣言は、封鎖について詳細な規定を設けている。そこには現在に も通じる考えが数多く含まれており、例えば封鎖の設定にあたっての宣言・通告の義 務や公平義務は現在でも有効である。他方で、今日の封鎖法はロンドン宣言に比して 新しい考慮が必要である点がいくつかある。
一つは、封鎖に基づく捕獲の実施範囲である。ロンドン宣言は17条において、封鎖 艦隊の行動範囲内での捕獲を認めているが、第1次、第2次の両次大戦の実行を経験 してこの捕獲の実施範囲の問題は不明確となっている(10)。もう一つは、第2次大戦後の
(8)UN, “UN chief receives report of panel of inquiry into Gaza flotilla incident,” available at:
http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=39443#.Van4kLHz7cu, (accessed 23 November 2015).
(9)Louis Doswald-Beck ed., San Remo Manual on International Law Applicable to Armed Conflicts at Sea, Prepared by International Lawyers and Naval Experts convened by the International Institute of Humanitarian Law, (Cambridge University Press, 1995), paras.
93-104, (SRM); 邦訳は竹本正幸監訳、安保公人・岩本誠吾・真山全訳『海上武力紛争法 サンレモ・マニュアル解説書』(東信堂、1997年)。
(10)両次大戦では、「長距離封鎖」といった伝統的な封鎖ではないより広範な海上経済戦措 置がとられた(高野雄一『戦時封鎖制度論』(清水書店、1944年)260-264頁)。第2次 世界大戦後の実行において、封鎖に基づく捕獲の実施範囲が問題となった実行はほとん どみられない。しかし、戦後の実行の評価にあたっては封鎖の設定の多くが限定的な武 力紛争において行われたことを留意する必要があるように思われる(W. Heintschel von Heinegg, “Naval Blockade,” International Law Study, Vol.75, (Naval War College, 2000), pp.211-212)。実際、戦後の各国軍の武力紛争法マニュアルにおいて、海上封鎖の実施 範 囲 が 限 定 的 で あ る と 規 定 す る も の は ほ と ん ど み ら れ な い(The Commander’s Handbook on the Law of Naval Operations (NWP-1/ MCWP 5-12.1/ COMDTPUB P5800.7A), (2007), para. 7.7.4; U. K. Ministry of Defence, The Manual of The Law of Armed Conflict, (Oxford University Press, 2004), para.13.67; Law of Armed Conflict,
(2001), para.846, available at http://www.fichl.org/uploads/media/Canadian_LOAC_
ジュネーヴ法の著しい発展の影響である。1977年のジュネーヴ諸条約第1追加議定書 は、54条1項で、戦争の方法として飢餓を用いることを禁じた。49条3項の規定や起 草過程から(11)、この規定が海戦にも適用されることは疑問視されていたが、今日、封鎖 法はこの規定の影響を受けるとされている(12)。さらに、海戦法規全体にも関わる問題と して、非国際的武力紛争への適用可能性の問題も生じているといえるだろう。
2010年5月31日の「ガザの自由」船団事件で問題となる海上封鎖は、こうした文脈 を背景に有している。そのため、事件に関する報告書では、今日の海上封鎖に関する 規則を確認する作業が行われた。これらの実行は今日の封鎖法を確認する上で重要な 意義を有している。
特にパルマー報告書は、事件を検討した一連の事実調査報告書の内で最後発の報告 書であり、この最後発であるということと、そこでの検討手法から、トルコやイスラ エル、人権理事会がそれまでに作成した報告書の内容を踏まえた検討が行われている。
さらに、パルマー報告書の特筆すべき点は、既に述べたように付属文書において事件 の文脈とは独立して、適用可能な法の検討が行われており、封鎖法もその対象となっ ていることである。
パルマー報告書は、その付属文書において先に掲げた問題点について、実施範囲の 問題を除き回答を与えている(13)。サンレモ・マニュアルの規定にも依拠した上で、報告 書は、今日の封鎖において、飢餓を唯一の目的とした封鎖及び、均衡原則に反する封 鎖が違法であり、無効であることを述べている(14)。さらに報告書は、集団罰としての封
Manual_2001_English.pdf, (accessed 23 November 2015); D. Fleck ed., Handbuch des humanitären Völkerrechts in bewaffneten Konflikten, (Beck, 1994), para. 1053)。
(11)ジュネーヴ諸条約第1追加議定書但書、「この部の規定は、海上又は空中の武力紛争の 際に適用される国際法の諸規則に影響を及ぼすものではない」;ICRC, Official Records of the Diplomatic Conference on the Reaffirmation and Development of International Humanitarian Law Applicable in Armed Conflicts, 1974-1977, Vol.14, (1978), pp.22, 29; ICRC, Official Records of the Diplomatic Conference on the Reaffirmation and Development of International Humanitarian Law Applicable in Armed Conflicts, 1974-1977, Vol. 15, (1978), p.328; また、コメンタリーも54条1項の海戦への適用は否定 的である(Y. Sandoz, et al., eds., Commentary on the Additional Protocols of 8 June 1977 to the Geneva Conventions of 12 August 1949 (Nijhoff, 1987), para.2092)。
(12)ただし、第2次世界大戦後の海上封鎖の国家実行において飢餓の利用の禁止といった 人道的な要件が問題にされることはなかった。
(13)実施範囲の問題についてパルマー報告書は、ロンドン宣言と比べて拡大的でありうる とし、そうした傾向を認めているものの、明確にはしていない(Palmer Report, Appendix 1, paras. 48-50)。報告書は、事件での実施について、距離的な猶予のある段 階での実施を非難しているが、問題なのは早急な過度な実力の行使であり、捕獲の実施 自体を否定しているわけではない(Palmer Report, paras. 82, 117)。
鎖が違法であることも認めている(15)。非国際的武力紛争への適用については、南北戦争 における捕獲事件を引用し、封鎖の場合は、国家がそれを設定し、諸国がそれを承認 することにより、設定された封鎖に基づく捕獲が可能となることを認めた(16)。そのため、
海戦法規が全体として、非国際的武力紛争において、そうした前提なく適用できるか については不明確なままにおかれている(17)。
事実の評価の違いから、一連の報告書の結論にはそれぞれ相違する点も多い。しか し、パネルによる適用可能な法の解釈は、一連の報告書における法の解釈と大きく異 なるものではない。今日の封鎖に関する規則を整理し、さらには封鎖における海戦法 規以外の考慮すべき規則に言及しているため、パルマー報告書は5月31日の事件を評 価する報告書の一つといった視点からだけでなく、より広い視点からも読まれるべき であるといえる。
なお、パルマー報告書自体に付された注、およびパルマー報告書が参照した各国報 告書に付された注は、特に参照が必要と思われるものを訳注として示したが、その他 については割愛した。
(14)SRM, para. 102; Palmer Report, Appendix 1, paras. 33-36.
(15)Palmer Report, Appendix 1, paras. 37-39.
(16)Ibid., paras. 21-23; 加えて、報告書はサンレモ・マニュアルの非国際的武力紛争への適 用が否定されていないことも指摘している(Ibid., para. 24)。
(17)事件自体については、ガザを巡る状況の特殊性と武力紛争法の趣旨及び目的から国際 的武力紛争を規律する法が適用されるのが妥当であると報告書は判断している(Palmer Report, para. 73)。
2010年5月31日の船団に関する事件についての 事務総長調査パネルの報告書
2011年7月
Sir Geoffrey Palmer 委員長 President Alvaro Uribe 副委員長
Mr. Joseph Ciechanover Itzhar Mr. Süleyman Özdem Sanberk
1.概 要
2010年5月31日午前4時26分、6隻で構成された船団が沿岸から72海里離れた地点 でイスラエル軍により乗船され、制圧された。船団の船舶は、人と人道援助物資を積 載していた。船団は、ガザの沿岸が海上封鎖下にあるとするイスラエル軍によって、
その針路を変えられた。イスラエル軍による制圧作戦の過程における武器の使用によ って、9名の乗船者が死亡し、その他の大勢が負傷した。
事務総長は2010年8月2日に、2010年5月31日の船団の事件に関する調査パネルを 設立した。パネルはトルコとイスラエルによって行われた詳細な調査の報告書を受け 取り、検討した。トルコは、事件の事実とその法的効果を調査するための国家調査委 員会を設立し、中間、最終報告書、付録及び関連文書を当委員会に提出した。イスラ エルは、イスラエルのとった措置が国際法に合致するか検討するための独立した公設 委員会を設立し、その報告書を提出した。
パネルはこれらの報告書、追加情報、書面での説明を受け取り、それぞれの政府の 交渉窓口との直接の会合を持った。このようにして集められた情報から、パネルは事 件の事実、状況、文脈を検討、確認し、将来における同様の事件を避ける方法を検討 し、勧告する。そのため、パネルは裁判所としては活動せず、法的責任を決定しない。
パネルの見解及び勧告は、法的責任を決定するものではない。それでもパネルは、こ の報告書が事件に関する問題を解決し、事態を終結させることを希望する。
パネルの作業はコンセンサスによって進められたが、最良の努力にも拘らず、コン センサスに達することが出来なかった。議長と副議長は手続き的事項、見解及び勧告 には同意した。この報告書は手続きに則って議長と副議長の同意に基づき採択された。
1.1. 事件の事実、状況及び背景 パネルの見解
i.2010年5月31日の出来事は、二度とこのような形で起こるべきでなく、将来に
おける同様の事件を避けるよう努められるべきである。ii.公海における航行の自由の主要な原則は、国際法上ごく僅かな場合にのみその
例外が認められる。イスラエルはガザの武装集団からの深刻な安全保障上の脅威に 直面していた。海上封鎖は伝統的な安全保障の手段として、海上を経由してガザに 武器がもたらされるのを妨げるために、国際法上の要件に従って導入された。iii.船団は、NGO
による試みであり、船団の船舶及び参加者は多様な国籍により構成されていた。
iv.人は自身の政治的見解を表明する権利を有しているが、船団の海上封鎖を突破
する試みは無謀な行為であった。船団のほとんどの乗船者に暴力的な意図はなかっ たが、船団の主催者、とりわけIHH(訳注:The Foundation for Human Rights and Freedoms and Humanitarian Relief、 ト ル コ 語 で は İnsan Hak ve Hürriyetleri ve
İ nsani Yardım Vakfı)の行動、性質および、目的には重大な疑いがある。船団の行
動には、不必要なエスカレーションを招く潜在性があった。
v.事件とその結果はイスラエル・トルコ両国の意図したものではなかった。両国は、
個人の生命や国際の平和と安全を脅かす事件が起こらないよう試みた。トルコ政府 はまた、必要な場合に針路を変え、イスラエル軍との接触を避けるよう説得するた めに船団の主催者に接触した。しかし、船団の参加者に潜在的な危険を警告し、行 動を踏みとどまらせるために、より多くのことが行いえただろう。
vi.イスラエルによって行われた、封鎖地域から相当に離れた地点における、乗り
込みに先立つ最終的な警告のない状態での強力な部隊による乗り込みは過度であ り、非合理的である。a.最初に非暴力的なオプションが選択されるべきであった。特に乗り込みが行
われるとの事前の明確な警告や抑止的な武器の使用が、この種の衝突を避けるために行われるべきであった。
b.作戦の最初の乗り込みの試みにおいて抵抗が明らかとなったとき、その他の
オプションをとることが再検討されるべきであった。vii.イスラエル軍の兵士はマヴィ・マルマラ号への乗り込みに際して、深刻で、組
織化された暴力的な抵抗を乗船者の集団から受け、自身を守るために武器を使用し た。3名の兵士が捕らえられ、虐待され、乗船者の中で危険な状態に置かれた。そ の他の数名は負傷した。viii.マヴィ・マルマラ号の制圧における、イスラエル軍による武器の使用から生
じた人命の損失と負傷は許容できるものではない。イスラエル軍によって、9名が 死亡しその他の大勢が重傷を負った。9名の死について、イスラエルから委員会に 対して十分な説明が行われなかった。法的証拠によると、死者の多くは何度も銃撃 を受けており、中には、背後から、又は至近距離から銃撃を受けたものも含まれて いた。イスラエルにより提出された証拠は、十分に信頼できるものではなかった。ix.船舶の制圧後から送還までのイスラエル当局による乗船者の扱いは深刻な虐待
であった。これには、身体的虐待、ハラスメント、脅迫、所有品の不当な押収、時 宜を得た領事による面会の拒否が含まれる。1.2. 将来、同様の事件をどのように回避するか 委員会の勧告
ガザの状況に関して
i.関係諸国は直ちにこの事件を考慮し、事態が繰り返されないよう取りうる全て
の努力をするべきである。ii.事件の結果及び公海における航行の自由の原則的重要性に留意し、イスラエル
はその継続が必要であるかについての定期的な再検討を行うことを条件として、海 上封鎖を維持すべきである。iii.イスラエルはガザに対する閉鎖を解除し、文民たる住民の間における持続不能
な人道的、経済的状況の緩和に資するガザへの人及び物の流通について、規制緩和 を続けるよう努力すべきである。
iv.ガザ住民の援助を希望する全ての人道ミッションは確立された手順に従い、イ
スラエル政府及びパレスチナ自治政府の管理の下で指示された検問所を通るべきで ある。一般
v.全ての国家は海上封鎖の設定と実施にあたって賢明に注意深く行動すべきであ
る。全ての関係諸国は確立された慣習国際法規則を尊重し従うべきである。サンレ モ ・ マニュアルはこれらの規則を確認するにあたって非常に有用である。vi.自衛としての海上封鎖の設定は国連憲章51条に規定された手続きに従って安全
保障理事会に報告されるべきである。報告により安保理が国際の平和と安全に対す る影響を監視することができる。vii.海上封鎖を維持する国家は人道援助に関する義務を遵守しなければならない。
人道ミッションは中立、公平、人道の原則に従い、かつ現地における保安手続きを 尊重して行動しなければならない。人道援助船は捜索、停船及び進路変更を求めら れた際には従うべきである。
viii.合法的に設定された海上封鎖を侵破する試みは、その船舶と乗船者をリスク
に晒す。国家は自国民や自国船籍の船が海上封鎖の侵破を意図しているとわかった 場合、彼らに対して民主的な権利及び自由の範囲で事前に封鎖の侵破に含まれる危 険を警告し、その企てを中止するよう説得する責任がある。ix.軍艦ではない船に対して海上封鎖を実施する際、特に多数の文民が関与してい
る場合、国家は注意深く武器を使用するべきである。最初に非暴力的手段による停 船が目指されるべきである。特に、絶対的に必要な場合を除き武器は使用されるべ きでない。武器が使用される場合にも、封鎖を維持し、合法な目標を達成するため に必要な最小限度使用に限定されるべきである。船舶に対して武器が使用される場 合、船舶がその対象であることに気付くよう明白かつ緊急の警告を行わなければな らない。和解
x.事件の結果に対して、イスラエルは適切な遺憾の意を表明すべきである。
xi.イスラエルは死傷者及びその家族に対して補償を申し出るべきであり、両国の
合意した額を両国政府による合同信託基金を通して手渡すべきである。xii.トルコとイスラエルは完全な外交関係を回復し、中東の安定及び国際の平和
と安全のため、彼らの関係を修復すべきである。双方の見解を交換するフォーラム といった政治的会合の設置は事態の終結の助けになりうる。2.導 入
(略)
2010年5月31日の事態について事務総長の 調査パネルの作業方法
(略)
3.トルコ国家調査の中間及び最終報告書の概要
(略)
3.1. 封 鎖
(略)
23.トルコ委員会は以下の理由からイスラエルの封鎖が違法であると結論付ける:
(a) 封鎖は国際的武力紛争の場合にのみ設定することができるが、イスラエルは パレスチナを国家として承認したり、ハマスとの武力紛争が国際的武力紛争 と規定したりしてこなかった。
(b) 海上武力紛争に適用される国際法サンレモ・マニュア訳注1ル(サンレモ・マニュ アル)に述べられた慣習国際法の要求する通告及び実施の要件に従わなかっ た。なぜなら、
訳注1 以下サンレモ・マニュアル及びその注解の訳は竹本正幸監訳、安保公人・岩本誠吾・
真山全訳『海上武力紛争法サンレモ・マニュアル解説書』(東信堂、1997年)による。
i .イスラエルは封鎖の十分な「期間と範囲」を通告しなかった。公に入手 可能な制限対象物資のリストがなく、特定の終了日時もなかった。また、
ii.封鎖は一貫しては実施されなかった。
(c) 封鎖は合理的でも、均衡的でも、必要でもなく、国際人道法の原則に反して いる。この点についてトルコ委員会はサンレモ・マニュアルに述べられた規 則の他、権威ある学訳注2説、およびガザの人道状況のデータに依拠している。
(d) 封鎖はガザの文民に対する集団罰であり、ジュネーヴ第4条約33条に違反 している。この結論に到達するにあたってトルコ委員会は国連人権高等弁 務官、国連人権理事会、赤十字国際委員会の声明に依拠している。
(e) イスラエルはガザを占領しており、占領下の地域を封鎖することはできない。
トルコ委員会はこの結論に到達するにあたって、国連の様々な決議や文訳注3書、
イスラエル最高裁の判訳注4決と学説に依拠してい訳注5る。
3.2. 船 団
(略)
28.トルコ委員会は船団が「人道援助船団」であると結論付け、国際人道法上攻撃か ら保護されるとした。この点について、トルコ委員会は主としてサンレモ ・ マニュア ルに述べられた規則に依拠している。
3.3. 船舶への乗船及び制圧
(略)
訳注2 ト ル コ 委 員 会 は 以 下 の 論 文 を 引 用 し て い る: Michael G. Fraunces, “The International Law of Blockade: New Guiding Principles in Contemporary State Practice,” Yale L.J., Vol.101, (1992) p.893; Stephen C. Neff, “Towards a Law of Unarmed Conflict: A Proposal for a New International Law of Hostility,” Cornell Int’ l L.J., Vol.28, (1995) p.1; Matthew L. Tucker, “Mitigating Collateral Damage to the Natural Environment in Naval Warfare: An Examination of the Israeli Naval Blockade of 2006,” Naval L. Rev., Vol.57, p.161.
訳注3 S/RES/1860 (2009).
訳注4 Decision (HCJ 9132/07) of the Supreme Court sitting as High Council on petition by Jaber al Bassouini Ahmed et al v Prime Minister and Minister of Defense, 27 January 2008.
訳注5 ト ル コ 委 員 会 は 以 下 の 論 文 を 引 用 し て い る: Mustafa Mari, “The Israeli Disengagement from the Gaza Strip: An End of the Occupation?,” Y.B. Int’ l Humanitarian L., Vol.8, (2005) p.356.
36.トルコの中間報告書は主としてマヴィ ・ マルマラ号の乗船時に焦点を当てている が、船団のその他の船の制圧についても簡単に触れている。トルコ委員会によると、
船団のその他の船、特にスフェンドニ号、チャレンジャー
I
号では不均衡な実力が行 使され、そのために負傷者が生じた。37.トルコ委員会は以下の理由からイスラエルによる船舶への乗船が国際法上違法で あると結論付けた。
(a) 乗船措置は公海の自由と、公海の自由を構成する公海上において外国船籍の 船舶が旗国の同意なく乗船されないという原則を侵害した。この点について、
トルコ委員会は1958年の公海条約や1982年の国連海洋法条約に述べられた慣 習国際法に依拠している。
(b) 乗船措置は国家による武力行使禁止原則に反している。トルコ委員会は公海 上で船舶を阻止するためには国家に対する切迫した脅威か、実際の武力攻撃 が必要であるとしている。この点について、トルコ委員会は国連憲章51条、
国際司法裁判所のニカラグア事件判決、そして慣習国際法に依拠している。
(c) イスラエルの封鎖は国際人道法上違法であり、そのため、封鎖はイスラエル 軍が船舶に乗船できる法的基礎を提供しない。
(d) 船団の各船は「人道援助船」であり、国際人道法上攻撃から保護されなけ ればならない。この点について、トルコ委員会はサンレモ ・ マニュアルに 示された規則に依拠してい訳注6る。
(e) 船舶を制圧するにあたって用いられた武器は、不必要で、不均衡、さらに、
乗船しているのが文民であったという事実を無視するものであった。イスラ エル軍兵士は船舶を非致死的手段によって停船させることを試みなかった。
一度、文民の乗船者への危険が明らかとなれば、イスラエル軍には乗船の試 みを中止し、その他のオプションを検討する義務が生じる。この点について、
トルコ委員会は国際人道法の原訳注7則、国際海洋法裁判所のサイガ号事件判決、
サンレモ ・ マニュア訳注8ル、封鎖の実施に関する国家実訳注9行、学訳注10説に依拠している。
訳注6 トルコ報告書はサンレモ・マニュアルのパラグラフ41やパラグラフ47(c)(2)、パ ラグラフ103-104に違反していると述べている。
訳注7 とりわけ、文民を標的とすることの禁止。
訳注8 トルコ報告書はサンレモ・マニュアルのパラグラフ46、特に(d)に違反している と述べている。
訳注9 トルコ報告書は国家実行として、キューバ隔離や1990年の湾岸危機の国連による海 上阻止活動を挙げている。キューバ隔離では威嚇射撃の後、臨検と捜索が行われた。湾 岸危機においても威嚇射撃が最初に行われ、船体射撃は最後の手段とされていた。
訳注10 トルコ委員会は以下の書籍を引用している: Douglas Guilfoyle, Shipping Interdiction
38.船舶への乗船が違法であるとの認識の下、トルコ委員会はまた、「法の一般原則」
としてマヴィ・マルマラ号の乗船者の物理的な抵抗は合法な自衛権の行使であったと 結論付けている。
3.4. 抑留者の取り扱い
(略)
43.トルコ委員会はイスラエル当局による以下のような一連の人権の侵害があったと 結論付けている。それは:
(a) 自由権規約9条及び欧州人権条約5条に規定された、恣意的に逮捕又は抑留 されないという身体の自由及び安全についての権利。
(b) 自由権規約7条及び欧州人権条約5条に規定された、拷問又は残虐な、非人 道的な若しくは品位を傷つける取扱いの禁止。
(c) 世界人権宣言17条及び欧州人権条約第1議定書第1条に規定された、財産の 権利。
(d) 自由権規約14条に規定された、法的支援や領事からの支援を受ける権利を 含む適正手続き及び、自白を強要されない権利。
(e) 自由権規約2条及び欧州人権条約14条に規定された、人種、信教、国籍に基 づく差別の禁止。
44.最終的に、トルコ委員会はこれらの結論及びその他の国際法違反によって、イス ラエルには犠牲者の家族への補償も含む、不法行為への賠償責任が生じたと結論付け ている。この結論を補強するために、トルコ委員会は国際法委員会の成果訳注11物、常設国 際司法裁判訳注12所、国際司法裁判訳注13所及び国際海洋法裁判訳注14所その他国際裁判の判訳注15決に依拠し
and the Law of the Sea (2009).
訳注11 UNGA A/CN. 4/L.602/Rev. 1 (26 July 2001).
訳注12 Factory at Chorzów, (Germany v. Poland), P.C.I.J., Series A, No. 17, (1928) at pp.47-48.
訳注13 Gabcikovo-Nagymaros Project (Hungary v. Slovakia), I.C.J. (1997) pp.7, 80 ¶ 152. See also Genocide Convention (Bosnia v. Serbia), I.C.J. (2007)¶460;
Construction of a Wall, Advisory Opinion, I.C.J. (2004) pp.136, 198; Democratic Republic of the Congo v. Uganda, I.C.J. (2005) pp.168, 257.
訳注14 The M/V Saiga Case (Saint Vincent and the Grenadines v. Guinea), I.T.L.O.S.,
(1999), Para. 170.
訳注15 その他の国際裁判の判決として、トルコ委員会はレインボーウォリアー号事件を引 用している。
ている。
4.イスラエル国家調査報告書の要約 4.1. 封 鎖
(略)
47.イスラエル委員会は安全保障状況、およびイスラエルによる人道原則を遵守する 努力の観点から、海上封鎖の設定が合法かつ国際法に従っていると結論付けた。この 結論は以下に基づいている:
(a) イスラエルとガザ回廊の紛争は国際人道法の目的から、「国際的武力紛争」
と解釈されるべきである。この点について、委員会はイスラエル最高裁の判 決、様々な国連機関、人道、人権団体の声明に依拠している。
(b) イスラエルによるガザ回廊の実効的な支配は2005年に停戦が完了することに よって終了した。この点を委員会はイスラエル最高裁の判決、イスラエルが 国際法上の意味での「実効的支配」を及ぼしていないという分析によってい る。
(c) 封鎖は、通告の要件、実効性、実施を含む慣習国際法上の封鎖設定の要件を 満たしている。この点について、委員会は1909年のロンドン宣言、サンレモ
・マニュアル、複数の軍事マニュア訳注16ル、その他のコメンタリーに依拠している。
(d) イスラエルは、文民たる住民の飢餓の禁止、文民たる住民の生存に不可欠 な物品や医薬品を妨げることの禁止、封鎖による直接かつ具体的な軍事的 利益を上回る文民に対する過度の付随的損害の禁止の要求といった人道上 の義務に従っている。このことを評価するにあたって、委員会はイスラエ ルによる検問所の通過に関する政策から生じる人道的影響の検討も行って いる。イスラエルの報告書は、イスラエルがガザ回廊の住民の食糧を奪い、
飢餓により弱らせることを試みたことによって生じた影響の証拠は見出す ことができず、イスラエルがそれらの地域の文民たる住民の生存に必要な 物品の通過を許し、人道援助を提供していると結論付け、人権団体がそれ
訳注16 イスラエル報告書はThe Commander’s Handbook on the Law of Naval Operations
(NWP-1/ MCWP 5-12.1/ COMDTPUB P5800.7A), (2007), para. 7.7.2.2(以下米海軍指揮 官 ハ ン ド ブ ッ ク )、U. K. Ministry of Defence, The Manual of The Law of Armed Conflict, (Oxford University Press, 2004), para.13.66(以下英軍マニュアル)、Law of Armed Conflict, (2001), para.845, available at http://www.fichl.org/uploads/media/
Canadian_LOAC_Manual_2001_English.pdf, (accessed 23 November 2015), (以下カナダ 軍マニュアル)を参考として引用している。
を確認していると述べた。この点について、委員会はサンレモ・マニュア ルのパラグラフ102-104、ジュネーヴ第4条約、ジュネーヴ諸条約第1追加 議定書、国際判例及びコメンタリーに依拠してい訳注17る。
(e) 封鎖はガザ回廊の住民に対する集団罰を構成しない。イスラエルが文民たる 住民への供給を妨げることを唯一のもしくは主たる目的として故意にガザへ の物資の流入を制限している証拠は見出せなかった。この点について、委員 会はジュネーヴ第4条約、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書、国際判訳注18例及び コメンタリーに依拠してい訳注19る。
(f) 海上封鎖の設定は特別法たる国際人道法に規律されている。人権に関して、
海上封鎖の実施はこれらの規則に従う。イスラエル委員会は海上封鎖と関連 する検問が不均衡であるとか、国際法に反しているとする人権法に基づく指 摘にはその証拠がないとしている。
4.2. 船 団
(略)
4.3. 船舶への乗船及び制圧
(略)
59.イスラエル委員会の報告書は以下のように結論付けている:
(a) 船団に参加した船舶は封鎖の侵破を試みており、IDFが各船を捕獲するのは 封鎖の実施として正当化される。この結論に到達するにあたり、イスラエル
訳注17 イスラエル報告書は米海軍指揮官ハンドブックのパラグラフ7.7.2.5、英軍マ ニュアルのパラグラフ13.74、カナダ軍マニュアルのパラグラフ850(a)(1)に加えて、
書籍としてYoram Dinstein, The Conduct of Hostilities under the Law of International Armed Conflict, (Cambridge University Press, 2004), pp.137-138; L. C. Green, The Contemporary Law of Armed Conflict, (2nd.ed.), (Manchester University Press 2000); Dieter Fleck, ed., The Handbook of International Humanitarian Law, (1st ed.)(Oxford University Press, 1995), pp.470-471を、 さ ら にY. Sandoz, et al., eds., Commentary on the Additional Protocols of 8 June 1977 to the Geneva Conventions of 12 August 1949
(Nijhoff, 1987), paras. 2089, 2090を参考として引用している。
訳注18 Prosecutor v. Brima, Kamara, and Kanu, Case No. SCSL-2004-16-T, Trial Chamber Judgment, para. 676 (Jun. 20, 2007).
訳注19 Jean-Marie Henckaerts and Louise Doswald-Beck eds., Customary International Humanitarian Law Vol.1 Rules (Cambridge University Press, 2005), at p.189.
委員会はサンレモ ・ マニュアル及びその他のコメンタリーに依拠してい訳注20る。
(b) 公海において行われた船舶の制圧は、各船の位置、述べられた目的地、封鎖 の侵破を意図する船団の主催者及び参加者による言明や船舶による変針の 拒否といった理由に基づき合法である。この点をイスラエル委員会はサンレ モ ・ マニュアル、1909年のロンドン宣言、軍事マニュアルに依拠してい訳注21る。
(c) 制圧に当たって採用された方法は国際的に確立された海軍の慣訳注22行に矛盾する ものでなく、その他の手段は危険であるか、成功する見込みのないものであ った。この点について、イスラエル委員会は多くの学術書に依拠してい訳注23る。
イスラエル委員会はまた、作戦の計画と編成の段階において相当の暴力が乗 船に対して用いられることが想定されておらず、このことが作戦の戦術、交 戦規則、訓練に直接の影響を与えた。しかし、事態を想定できなかったこと が国際法違反につながることはないと結論付けられた。
(d) 船団の参加者は主として文民であったが、マヴィ ・ マルマラ号の船長及び 暴力に参加した集団は直接的な敵対行為に参加する文民であった。文民に 対する武器の使用は必要性の原則および法執行作戦における自衛に関連し た比例原則に基づいていた。敵対行為に直接参加した文民に対する実力の 行使は国際人道法の適用される規則に基づいていた。これらの結論に達す るにあたり委員会は、イスラエル最高裁の判訳注24決、ジュネーヴ第3条約、ジ ュネーヴ諸条約第1追加議定書およびコメンタリーに依拠してい訳注25る。実際
訳注20 イスラエル委員会は以下の論文を引用している: Wolf Heintschel von Heinegg,
“Blockade”, Max Planck Encyclopedia of Public International Law (Rüdiger Wolfrum, ed., 2010).
訳注21 イスラエル報告書はサンレモ・マニュアルのパラグラフ98、ロンドン宣言の20条、
米海軍指揮官ハンドブックのパラグラフ 7.7.4を参考として引用している。
訳注22 イスラエル報告書は1990年の湾岸危機やPSI(拡散に対する安全保障構想)におけ る実行に言及し、船体射撃や体当たりによる停船が困難な場合、ヘリコプターからの乗 り移りによって船舶を確保し、停船させることが国際的な慣行であると述べている。
訳注23 イスラエル委員会は以下の論文を引用している: Craig Allen, Limits on the Use of Force in Maritime Operations in Support of WMD Counter-Proliferation Initiatives, U.S. Naval War C. Int’ l L. Stud, Vol.81 (2006) p.77; D.P. O’ Connell, The Influence of Law on Sea Power (1975); Wolff Heintschel von Heinegg, Maritime Interception/Interdiction Operations, in The Handbook of the International Law of Military Operations, (2010)
p.375; International Institute for Humanitarian Law, Rules.
訳注24 イスラエル報告書は、イスラエル最高裁の判決としてターゲテッド・キリング事件
(HCJ 769/02, Public Committee Against Torture v. Government of Israel, (Dec. 14, 2006))を引用している。
訳注25 イスラエル委員会は特に以下の著作を引用している: Nils Melzer, International
に、委員会は
IDF
兵士による実力行使を、国際人道法の規則が適用される 場合と、法執行作戦における自衛のための実力の行使を規律する原則が適 用される場合とに分類し、その全てを検証している。(e) 制圧におけるイスラエル軍の行動は人権法というよりも国際人道法によって 規律されていた。公海における人権の管轄権は、国家が船舶を「完全かつ排 他的な支配」に置いた時から適用されるが、イスラエル軍が船橋を確保する までそうした支配は生じなかった。海上封鎖の実施に当たっては、特別法と して国際人道法がいかなる場合にも適用される。
4.4. 抑留者の取り扱い
(略)
5.事件の事実、状況及び背景 5.1. 導 入
67.報告書のこの章では、パネルによる検討に基づき、事件の事実関係、状況及び背 景について我々の結論を述べる。これらの結論は、議長と副議長が用意した付属文書 において述べられた国際公法の原則の解説に依拠して到達された。それでも、我々は 依然として事件の合法性その他を決定しているわけではないと述べなければならな い。パネルは裁判所ではなく、その報告書は判決ではない。我々が述べるのは何が起 こったかについての我々の見解である。我々は事実とその理由を簡明に述べるよう試 みた。
(略)
5.2. 海上封鎖
69.最初に我々が考察する事項はイスラエルにより設定された海上封鎖の合法性であ る。トルコ・イスラエル双方の報告書はパネルに海上封鎖の合法性が極めて重要性の 高い事項であり、大きな注意が払われなければならないことを感じさせた。トルコは
Committee of the Red Cross, Interpretive Guidance on the Notion of Direct Participation in Hostilities under International Humanitarian Law (2009); Commentary on the Additional Protocols of 8 June 1977 to the Geneva Convention of 12 August 1949 (Yves Sandoz et al. eds., 1987); Kenneth Watkin, “Controlling the Use of Force: A Role for Human Rights Norms in Contemporary Armed Conflicts,” Am. J. Int’ l L., Vol.98, (2004) p.1.
海上封鎖が違法であり、そのため公海における船団の船舶の阻止は国際法の原則であ る航行の自由の侵害であるとしている。他方で、イスラエルは海上封鎖と船団に対す る海上封鎖の実施は関連する国際法の規則に合致するものであることを強調した。海 上封鎖の合法性の検討はパネルの受け取った報告書を検討するという任務の不可分の 一部でもある。さらに、海上封鎖の合法性は、事件の文脈における本質的な要素を構 成しており、パネルが任務としている回避すべき将来の同様の事態と背景を共有して いる。
70.海上封鎖を扱うにあたって、言葉を明確にすることが必要である。海上封鎖はイ スラエルによるガザの検問所の規制と並んでよく論じられてきた。しかし、パネルの 見解では異なる取り扱いと分析を要求する2つの概念が存在する。初めに、我々は検 問政策が海上封鎖のはるか以前に設定されたことを指摘する。特に、ガザとイスラエ ルとの検問管理の強化は2007年6月にガザがハマスに制圧されて以降に行われてい る。他方で、海上封鎖はその1年以上後の2009年1月に設定された。第2に、イスラ エルは常に検問政策と海上封鎖を区別してきた。通過制限の強度は何度も変更された が、海上封鎖は設定されて以降変更されていない。第3に、武器や関連する物資を船 舶にのせ、海上を経由してガザへと運ぶ行為を合法に阻止するために、イスラエルは 海上封鎖を他の手段とは法的に全く異なる手段として選択した。これはガザへと海上 を経由して船が到達した幾つかの事件に対する反応である。そのため、我々は海上封 鎖を検問所による管理とは区別して扱う。これは海上封鎖と検問政策の効果が重複す る可能性を看過するものではない。言及することが適切である場合に論じられる。ま た、ガザの検問所における制限はパネルの調査の背景であり、6章における勧告にお いて言及される。しかしながら、海上封鎖の法的要素のみの個別の検討を行う。
71.国連憲章2条4項は武力行使を一般的に禁止しており、国連憲章51条は国家が自 衛に従事する場合のみ例外として認めている。イスラエルはガザの軍事集団からの脅 威に直面し続けてきた。2001年以降ガザからロケット、ミサイル、迫撃砲がイスラエ ルに対して発射され続けている。2005年から海上封鎖が設定された2009年1月にかけ て5,000発以上が発射された。イスラエルの数10万人の文民がこうした飛翔体による 攻撃の範囲内に居住している。投射物の能力は向上しており、いくつかのロケットは 現在テルアビブに到達するまでに至っている。2001年以降、こうした攻撃は25名の死 者、数百名の負傷者を生じさせている。影響を受ける住民に対する精神的な損害の酷 さを過小評価することはできない。加えて、相当の建造物が失われている。こうした 暴力行為の目的は、イスラエルの国民に危害を加えることであり、国際社会から繰り 返し非難されてきた。こうした暴力行為を止めることはイスラエルにとって自国と自
国民を防衛するため、明らかに必要である。この攻撃に対してイスラエルがとった行 動はガザの文民たる住民に深刻な影響を与えているが、パネルはそれを6章で論じる。
72.ガザの国際法上の法的地位が不明確であるからといって、イスラエルに自国領域 への武力攻撃に対する自衛の権利が存在しないわけではないことをパネルは指摘す る。イスラエルがパネルに提出した報告書は、武力行使の方法としての海上封鎖が自 国の領域と自国民を守るためにとりうることを明確に認めている、パネルはその意見 に同意する。海上封鎖はガザに海上を経由して武器が運ばれる、または海上からそう した攻撃が行われるのを防ぐための方法であった。実際、ガザへと武器を運搬する船 舶がイスラエル当局によって阻止されるという事件が複数生じていた。海上封鎖の設 定によって完全に攻撃が止むことはなかったものの、その規模と強度は大幅に減少し た。もっとも、この減少には他の要因も作用しているとみられるが、こうした状況に おける封鎖は伝統的な自衛権の行使である。封鎖は全ての海上交通に対する制限と定 義されるが、比較的小さな封鎖海域の設定や(臨検と捜索といった)他の船舶監視手 段が実際上困難であることから、パネルはイスラエルの直面する脅威に対して海上封 鎖は不均衡な手段でなかったと確信している。
73.パネルは封鎖がその他の点について国際法上合法であったか検討する。伝統的に、
海上封鎖は国際的武力紛争の事態において最も頻繁に設定されてきた。武力紛争の形 をとる長期化した闘争がイスラエルとハマスの支配するガザの武装集団との間で存在 することに争いはないが、この紛争の性質が国際的であるかについては争いがある。
パネルは結論を出すにあたって以下の事実に依拠する。ガザの状況は独特であって、
世界のどこにも同じものを見出すことができない。また、似たものもない。ガザとイ スラエルに関して、領域と統治は重複していない。ハマスはガザの事実上の政治、行 政当局であり、その地で行われていることの多くを管理している。ハマスはイスラエ ルに飛翔体を打ち込んでいるか、その発射を許容している。パネルは封鎖法の目的の ため、この紛争が国際的なものとして扱われるべきであると判断する。最も考慮され なければならないのは、イスラエルが領域外からの武力攻撃に対して自衛権を行使で きるということである。ガザの地位を、特にイスラエルとの関係で議論する文脈にお いて、現実を無視するべきではない。法は政治的真空では機能せず、またイスラエル とハマスとの武力闘争の性質が純粋に国内事項を越えていることは否定しがたい。実 際、それは国際的武力紛争となっている。イスラエルとハマスとの闘争が国際的武力 紛争であるという結論は、パネルの任務の範囲内でのみ適用される。この認定により 生じうる(あるいは生じ得ない)他の帰結についてはパネルの責任ではない。ただし、
パネルが留意するのは、武力紛争法の下、国家は他の規則を尊重しないにもかかわら
ず、一部の特定の規則に依拠することは出来ないということである。
74.イスラエルにはガザへの武器の流入を妨げるために適切な手段をとる権利がある。
武器の流入を妨げるという目的の下、イスラエルはガザの海域への船舶の流入に一連 の制限を設けた。こうした手段は2009年1月3日の海上封鎖の宣言において頂点を極 めた。それ以前の制限が十分に機能しなかったことには幾つかの理由があるが、主と して法的な不備があったためである。
75.海上封鎖は要求されたとおりに宣言され通告された。イスラエル当局は適切な交 渉窓口を通して「海員通報」を出し、海上封鎖を設定し、封鎖海域を調整した。加え て、通告は海上無線の緊急周波数で日に2回放送された。この事実に争いはない。封 鎖が設定される際に「さらなる通告があるまで」と述べられたことだけでは通告の要 件として不十分であり、封鎖が無効であるとの指摘があるが、我々には説得力がある ように思われない。通告は期間を明示している。紛争の継続期間が明らかでない以上、
これ以上の要求をすることはできない。同様に、禁止される物品の範囲が封鎖の通告 で述べられる必要はない。封鎖はその性質上全ての海上交通に影響するもので、その 目的は封鎖地域の出入りを遮断することにある。
76.イスラエルが封鎖を実効的に維持しなかった、または不公平に行ったという証拠 はパネルに提出されなかった。2009年1月3日に設定されて以降、イスラエル当局は 封鎖海域に侵入しようとする全ての船舶を止めるよう試みてきた。同時に、イスラエ ルが紛争に中立な国家の港や沿岸への自由なアクセスを妨げたという指摘もなかった。
77.重要な人道的考慮が封鎖の設定を制約している。1つには、封鎖が文民たる住民 の飢餓や集団罰を意図していた場合、封鎖の設定は違法となる。しかし、パネルには そうした主張を裏付ける証拠がもたらされなかったし、イスラエルには集団罰の意図 も、ハマスがガザを制圧したことに対する報復として海上封鎖を設定する意図も、そ の他の意図もなかった。対照的に、イスラエルは軍事的な目的を有していた。海上封 鎖について述べられた主たる目的は安全保障である。イスラエルの目的は、武器、弾 薬、軍需品、そして人員のガザへの流入を妨げ、ハマスの工作員が爆発物を満載した 船でガザを出発するのを止めるためであった。検問所を通じた物資の流入の制限の意 図について考慮する必要はない。検問の問題は既に述べたように海上封鎖とは直接に 関係しない。同様に注目すべきなのは、2007年にハマスがガザを制圧する以前からガ ザへの武器の流入を妨げる海上阻止作戦が行われていたことである。実際の海上封鎖 はその1年以上後に設定された。こうした要因は海上封鎖の設定が住民がハマスを選
出したことに対する罰ではないことを示している。
78.おそらく、より難しい問題は海上封鎖が均衡性を有するかということである。こ れが意味するのは、海上封鎖の設定によってガザの文民たる住民に生じた損害が、設 定によって得られる直接かつ具体的な軍事的利益と比べて過度であるかということで ある。既に本報告書で述べたように、パネルは海上封鎖がイスラエルの安全保障のた めに設定されたことを認めている。ガザへの海上を経由したロケットやその他の武器 の流入を阻止することによって、本報告が執筆されている最中もより広範にかつ激化 しつつある無数の攻撃の対象となっているイスラエルの状況を緩和することができ る。他方で、ガザの文民たる住民に対する海上封鎖の影響を計ることは、ガザへと到 達する物資の量を検問所が決定しているために難しい。1つの重要な要素はガザに重 要な港湾施設が存在しないことである。ガザで運用可能なのは唯一小さな漁船のみで ある。これが意味するのは、海上を経由してガザへと到達する物資の量がきわめて小 さいと思われることである。実際、封鎖以前に物資は主として海上を経由していなか った。そのため、海上封鎖が単独で、またはイスラエルにより設定された検問所によ るガザへの物資の流入の制限と複合して不均衡が生じているとするのは非現実的で、
人道状況全体への影響は僅かでしかない。海上を経由して武器を密輸することと、食 糧やその他の物資をおよそ150万の人口に届けることはまた別である。このことから 海上封鎖自体は人道的影響を有さない。これに対して、別の政策を考慮して封鎖の違 法性を主張することは間違っている。
79.検問政策の結果やガザにおける人道状況を無視したり、否定したりしているわけ ではない。しかしパネルは状況から海上封鎖が均衡性を有するという結論に達した。
そして、パネルは海上封鎖と検問政策が複合した効果として海上封鎖が不均衡な結果 をもたらしたと結論付けられなかった。にもかかわらず、我々はイスラエルにより適 用されている陸上からのガザへのアクセスに関する手続きは持続されてはならず、変 更されなければならないという政策的決断に至ることができる。このことは6章で議 論される。
80.最後に、パネルは必要であればガザの文民たる住民が食糧や生存に不可欠な物品 を受け取ることが許可されなければならないことを強調する。しかし、このような許 可の義務が存在すること自体が海上封鎖を違法なものとしたり、封鎖国であるイスラ エルに援助を運ぶ船舶の通過を無条件に許可することが要求したりされるというわけ ではない。対照的に、人道ミッションはイスラエルにより設定された保安条件を尊重 しなければならない。人道団体はまずイスラエルによる同意を得なければならず、イ
スラエルとの調整が必要である。これには問題となる援助船の捜索をイスラエルに許 可するといった条件が含まれる。パネルはガザへと届けられる不可欠な援助物資がイ スラエルの港であるアシュドッドを経由することを提案する。こうした提案は今回の 船団によって運ばれる物資についても明確に提案されていた。
81.そのため、パネルはイスラエルの海上封鎖が合法であると結論する。これに関し て、パネルはトルコによる事件に対する調査とは異なる結論に至った。トルコ報告書 における法的主張は、トルコの交渉窓口との間でも同様に広く議論され、パネルのト ルコ人メンバーも支持している。トルコ報告書の議論は幾つかの重要な事実の解釈に おいて、パネルと見解が異なっている。特に顕著なのが、イスラエルとハマスの間に 国際的武力紛争が存在するか、海上封鎖の範囲と期間が適切に通告されたか、特にガ ザへの不均衡な影響と比して海上封鎖が均衡する軍事的手段であるか、海上封鎖の設 定が集団罰であるかということである。後者の2点について、トルコ報告書の結論は 人権理事会による事実調査委員会の報告書の結論を反映している。しかし、これらの 報告書の理由付けはイスラエルの海上封鎖が検問政策と不可分であるとの分析に基づ いているが、既に述べた理由からパネルはこの論拠を実際の結論として支持しない。
加えて、人権理事会の事実調査はイスラエルからいかなる情報も受け取っておらず、
パネルに提出されたようなイスラエルの報告書や追加の証拠を検討する機会がなかっ た。しかし、結論に達するにあたって、パネルは航行の自由の原則、特に東地中海の ような地域における航行の自由の重要性を強調し、イスラエルに対して、現行の海上 封鎖の適用と実施に当たってこのことを留意すべきであると勧告する。
82.公海における航行の自由の原則は国際法の下ごく限られた場合にのみ制限され る。イスラエルはガザの軍事集団からの深刻な脅威に直面している。海上封鎖は合法 な安全保障手段として、海上を経由してガザへの武器の流入を阻止するために設定さ れ、その実施は国際法の要求に従っていた。
5.3. 船団の行動
83.船団は6隻で構成されていた。マヴィ ・ マルマラ号(コモロ船籍)、スフェンド ニ号(トーゴ船籍)、チャレンジャー
I
号(アメリカ船籍)、ガッゼI
号(トルコ船籍)、エレフテリ・メソゲイオ号(ギリシャ船籍)、デフネ⊖Y号(キリバス船籍)。船団の 内3隻はトルコの港を出港した。マヴィ ・ マルマラ号はゼイチンブルヌ港(イスタン ブール)を2010年5月22日に出港、アンタレヤ港に2010年5月25日に寄港し、そこを 2010年5月28日に出港した。ガッゼ
I
号はイスケンデルン港を2010年5月22日に出港。デフネ⊖Y号はゼイチンブルヌ港(イスタンブール)を2010年5月24日に出港した。
彼らはキプロスの南の会合点において残りの船舶と合流し2010年5月30日の午後遅く に出発した。7隻目であるチャレンジャー
II
号は機械故障により出港できず、その 乗船者は会合点においてマヴィ・マルマラ号へと移された。84.海上を経由してガザを援助する試みとして、この規模は以前に見られないもので あった。船団の船舶は10,000トンもの物品と700名近くの乗船者を運んでいた。マヴ ィ ・ マルマラ号は1隻で546名の乗船者がいた。船団の参加者は40カ国近くの人々か らなり、その多くがトルコ人であった。
85.パネルの共通の見解として、船団の参加者の多くは純粋にガザの人々への関心を 動機としていた。彼らは様々な背景を持ち、乗船者には
NGO、学者、ジャーナリスト、
宗教指導者、議員が含まれている。
86.しかし、パネルは
NGO
の連合である船団の主催者の真の意図と目的に重大な疑 問を抱いている。船団を組織した指導的な集団にはトルコの人道支援NGO、IHH
が 含まれている。IHHはマヴィ・マルマラ号とガッゼI
号の2隻を有している。彼らが ハマスを支援しているという指摘もあるが、パネルはその主張を裏付ける十分な証拠 を見出せなかった。IHHはECOSOC(国際連合経済社会理事会)の特殊諮問資格を
有し、パネルの見解では、IHHはその地位のために、その活動においてとるべき行動 の方法を遵守するという、ある種の期待があった。87.船団の主催者の宣言と内部文書から、パネルは、船団の主催者の主要な目的の1 つが、人道援助を提供する他に、イスラエルの海上封鎖の侵破を試みることでガザの 状況への同情を集めることにあったと考える。船団の目的は
IHH
により準備された 書面に明確に述べられており、船団の参加者の署名があった。「目的:この旅の目的はパレスチナへの非人道的かつ不正な禁輸措置に対して国 際的な世論を喚起し、国際組織の自覚を促し、人権に明確に反する禁輸措置の終 結を助け、パレスチナ人に対して人道援助を届けることにある。」
88.書面に関して言えば、船団の参加者は、「船舶に関連する政府の要請や警告、決 定には従わない」ことを容認していたといえる。さらに、主催者は船団の行動が「法 的、懲罰的結果」を招く可能性を認識しており、船団の参加者にはこうした結果の可 能性を個人として引き受けることが要求されていた。しかし、彼らには物理的なリス クが潜在することが警告されなかった。
89.その他の要素も船団の主催者の目的に疑問を生じさせる。もし、船団が純粋な人 道的任務を担っているなら、なぜそれほど多数の乗船者が乗船しており、かつ書面で 述べられたような目的を有するのか。さらに、船舶に積載された人道物資の多くの品 質や価値には疑問がある。ガッゼ
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号、エレフテリ・メソゲイオ号、デフネ-Y
号に は多数の建材と人道物資が載せられていた。マヴィ ・ マルマラ号にはいくらかの食料 品と医療品が載せられていたが、それは航海自体のためのものであった。「人道物資」はごく少数の食糧と乗船者の個人が持ち込んだ玩具に限られていた。これは、スフェ ンドニ号とチャレンジャー
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号についても同様であった。3隻で運ぶのに十分な人道 物資しか準備できないなら、6隻もの船団を組む理由はほとんどない。多数のジャー ナリストが乗船していることは船団の主たる目的が世論の喚起にあるという結論を後 押しする。90.更なる問題は、マヴィ ・ マルマラ号のようなサイズの船を受け入れる十分な港湾 設備がガザには存在しないことである。そのため、海上でより小さな船舶に荷物を受 け渡す必要があり、それが不便で効率が悪いことに疑いはない。にもかかわらず、主 要な人道物資をその他の港で降ろしてガザへと陸路で届けるという提案は拒否され た。こうした提案は航海の最中においてもなされた。船団の主催者の主たる目標が封 鎖の侵破を試みることで世論を喚起することにあったという結論は、パネルに提出さ れた船団の受け入れがハマスに調整されていたという証拠によっても補強される。
91.特筆すべきことは、船団の参加者が旅に武器を持ち込まないことを明確に意図し ていた点である。にもかかわらず、40名ほどの活動家である「核心集団」を含む
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のマヴィ・マルマラ号乗船者は旅程において船舶を実効的に支配し、イスタンブール においてマヴィ・マルマラ号に乗船する際に保安検査を受けなかったとの指摘がなさ れている。トルコ報告書はこのことに関して、42名の「清掃点検要員」のボランティ アがイスタンブールにおいてマヴィ ・ マルマラ号に乗船したが彼らは保安検査の対象 となったと述べている。パネルはこの点に関して全ての参加者がIHH
の参加者の決 定に従うことに同意していたことと少なくとも1人の証人がIHH
について「あたか も保安要員」のように行動していたと述べていたことを指摘する。92.もちろん、人は平和的抗議として自由に自身の見解を表明できる。しかし、船団 を組み、多数の乗船者を乗せ、計画的に封鎖の侵破を目指すことはパネルの見解では 危険かつ無謀な行為であった。これには多数の人々を封鎖の実施における実力に晒し、
負傷のリスクを招いたことも含まれる。