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ガラパ ゴスにおける社会紛争
一海洋資源管理問題 を中心 に
新 木 秀 和
は じめ に一 間 題 の 所 在
ガ ラパ ゴス諸 島の人 間社 会 におけ る1990年 代 以 降の社 会紛 争、 と りわけ 海洋資源(1)の保護 管理 問題 に焦点 をあて て背 景 と要 因 を探 り、利益 調整 の メカニズ ムが いか に形成 され どの ような問題が あ るか を論 じる ことが、本 稿 の 目的であ る。
生物 の楽 園 と して イメー ジ化 されがち なガ ラパ ゴス諸 島(エ クア ドル領 の 島襖部)だ が、 実 際 には19世 紀以 来 の資源 開発 や移住 の歴 史が堆積 し、
20世 紀 後半以 降は生 態系保 護 と観 光開発 の2つ の動 きが か らま りなが ら人 間生活 の場 とい う性 格 を強め て きた事 実が あ る。 そ して、人 間社 会 の形成 と展 開の延長 で、環境保護 や観光 の側面 と居住 者 の生活 ニ ーズ とが火花 を 散 らし、 ガ ラパ ゴス諸 島が利害対立 に起 因す る社 会紛争 の場 となる ことが
しば しば生 じた。 な かで も海 洋 資源 の利 用 とそ の保 護 をめ ぐる問題 は、
1990年 代 以降 を通 じて漁民 と環境保護派 の間 で最 も激 しい利 害対立 を生 み 出 し、社 会紛争 の 中心 的課題 となって きた。本稿 では、海洋 資源 をめ ぐる 社会 問題 に注 目 し、 その問題が いか に対処 され て きたか とい う点 を、 ガ ラ パ ゴス人間社会 をめ ぐる全体状況 とのかかわ りにお いて分析 してい く。
まず既 存研究 の状況 をま とめたい。 ガ ラパ ゴス諸 島の人 間社 会 に関す る 研 究 とくに入植 や移住 の歴 史 を扱 う もの は、本稿 で取 り上 げる社 会 問題 の
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前 史 を描 く。 と りわ けラ トー レに よる歴史研 究(2)は有 名 だが 、20世 紀後 半 以 降 の状 況 はほ とん ど対象 に していない。他 方、海洋 資源 をめ ぐる状況 が 大 きな問題 とな った ことか ら、1990年 代以 降の 出版物 におい てこの 問題 が か な り取 り上げ られてい る。 しか しガ ラパ ゴスの社会面 を扱 う人文社会科 学 の研 究 は、次 にふ れ る関係機 関 の調査報 告 を除 くと極端 に数 が減 る傾 向 にあ る。 そ の中 で注 目され るの は グ レニエ に よる博 士 論文 だが(3)、時期 的 に海洋 資源 問題が過熱 す る以前 の1990年 代前 半 に書 かれ、 この問題 を直接1 扱 っていない。 また ブロ ンの修士 論文(9)は観 光 開発 と生態系 保全が テーマ だが 海洋 資源へ の言及 はほ とん どない。 近年 で はオス ピナの著作(5)のよう に ガラパ ゴス住 民 の アイ デ ンテ ィテ ィを扱 う研 究が 出てい る一 方で、本稿 の テーマで あ る海洋 資源 問題 を主 に取 り上 げ る市 販 の研 究 書や概 説 書 は、
スペ イ ン語 に よる著 作 であ って も数少 ない のが 実情 で あ る(6>。概 して、 人 文社会科学 的なア プローチが生物科 学研究 に遅れ てい るこ とは否め ない。
もちろん前 述 した よ うに、 この 問題 を最 も取 り上 げてい るの は、社会 問 題 の渦 中に位 置 し しば しば当事 者 ともな って きた2つ の機 関であ る。す な わ ち、一方 は 自然保護 活動 と生物研 究 を リー ドして きた ダー ウィ ン研 究所
(国際NGO)で あ り、他 方 は 国立公 園の維持 管理 に尽 力す る国立 公園管理 事務所(エ クア ドル政府 機 関)で ある。両 機 関 による研 究活動報 告 にお い ては次 第 に社 会面へ の言及が増加 して きた傾 向が あ り、1990年 代 後半以 降 は海 洋資源 をめ ぐる諸 問題(違 法 漁業、海 洋保 護区、 ガ ラパ ゴス特 別法 に よ る 漁 業 規 制 な ど)に 関 す る 報 告 が 数 を 増 し て い る 。 と りわ け 、 Fundaci6nNatura(エ クア ドルの環境NGO)とWWF(世 界野生生物基 金)が 中心 に なってスペ イ ン語版 と英語版 で編 集発行 す る 『ガ ラパ ゴス ・
レポー ト』⑦に は、 ガラパ ゴス の人 間社 会 や社 会紛 争 の理 解 に資す る分析 や報告 が散見 され る。 それ らの中 には漁民 や漁業 の実態 調査 に基づ く分析
もあ り、行 論 に とって有益 な示唆 を与 えて くれ る。
ガラパ ゴスにおける社会紛争一海洋資源管理問題 を中心に3
近年、 日本 で もガラパ ゴス を扱 う概説書 の中で人間社 会 の動 態 につ いて ふ れ られ る ように なってい る。 ガラパ ゴス研 究 の第一人者 であ る伊藤秀 三 はり連 の著作[伊 藤1983、2002](8)の 中で、諸 島の変化 にふ れ人 問社会 の 状 況や社 会紛 争につ い て も分析 を加 えてい る。 ただ専 門が生 態学 であ り生 物 と生態系 の分析 が主 目的 で あるため、人 間社会 の変化 につい てか な り記 述 して い る ものの 、社 会状 況 に関す る分析 は後 景 に退 いて い る感が あ る。
他 方 、 エ コツー リズム研 究 の一 環 として ガ ラパ ゴス を対 象 にす る試 みが (刊行 ない し未刊行 の報告書 と して)い くつ かな されてい るが、 ガラパ ゴス 社会 の取 り上 げ方 は概 して観光 との関連 に限定 され る傾 向が あ る⑨。 その 中で生態系 管理 に注 目し地域住民 の役割 を視 野 に入 れ、共生 の あり方 を模 索す る先駆 的 な調査研 究 も出始め てい る(10}。た だ、 人文社 会科 学 的見 地か らガラパ ゴスの 人間社 会 を捉 え、 エ クア ドル大 陸部 との 関連 で ガ ラパ ゴス を とらえ よ うとい う傾 向 は まだ少 ない。伊 藤の研究 と同様 に、調査者 た ち はスペ イ ン語 文献 をほ とん ど参照せ ず 、地 元住民 とのスペイ ン語 に よる直 接対話 で独 自かつ長期 の聞 き取 り調査 を十分 に行 なってい るわ けで はない。
この よう に 日本語 に よるガ ラパ ゴス関係 の概 説書 や研 究書 は、主 眼が珍 し い動植物 と生態 系 の紹 介 に置 かれ るか、エ コツー リズム とい う外 部 との関 係 に比 重 を置 い て人 間社 会 を部分 的 に分析す る傾 向が強 く、人 間社会 を動 態 的、総合 的に分析 しようとす る研 究 は数が 限 られている。 ・
他 方、近年 で は海洋 資源 の利用 と管理、 そ して紛 争につ いて 日本 国内で も共 同研 究 や個別研 究が増 えつつ あ り(11)、まだ ガ ラパ ゴス は視 野 に入 って い ない ようだが、本論 にお け るガ ラパ ゴスの事例研 究で はそれ らの成果 を 参照 し応用す る ことが で きるであろ う。'
かか る状況 をふ まえ、筆 者 はガ ラパ ゴス諸 島 の歴 史 と現 在 をエ クア ドル 大陸部(広 くみれ ば ラテ ンアメ リカ世界)と の 関係 で とらえ、 人 間の活動 と生活 の諸相 に視 点 をあて動 態的 に把握 しよう と試 みて きた(12}。社 会紛 争
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とい うテーマ を取 り上 げ るこ とで、外部 世界 に届 くイメー ジ と異 なる ガラ パ ゴスの実態 が浮 き彫 りに なれ ば、地域研 究 の一つ として人間社 会 に注 目 す る意義が 見い 出 され るので はなか ろ うか。 しか も、ガ ラパ ゴス諸 島は太 平 洋 に位置 し、 陸上 部分 だけで な くそ の海 洋部分 も重要 な役割 を果 た して い るに もかか わ らず 、海洋 とその資源 に関す る言及 も知 識 も大 陸部 のそれ と比 べ て少 ない。現 地 にお け る本格 的な生物研 究 も海洋 資源 の保 護 とい う 作 業 も陸上 部分 に比べ 遅れ てい る。 こう した傾向 は、 ガ ラパ ゴスか ら外 部 世 界 に と ど くイメー ジ とい う点か ら、 自然科 学や 人文社 会科学 の研 究 に至 るまで広 く見 られ る傾向 であ り、概 して 「海」へ の注 目が二次 的 に と どま っ て きた こ とは学 問分野 に広 く共通す る 「陸地 中心 史観 」 と も関 わつてい る。
こ う した問題意識 と視 点 に立つ本稿 で は、従来 十分 に検討 され るこ とが なか った社 会紛争 を取 り巻 くダイナ ミズ ムの発生 と展 開に注 目したい。 ま ず第1節 で ガ ラパ ゴス 人間社 会 の形成 と展 開の過程 をた ど りなが ら社 会紛 争が発生す る まで前 史 を概観 し、社会紛 争が発生 す る背景 と要 因 につい て ま とめ る。 第2節 で は1990年 代 に激化 した社 会紛争 と くに海洋 資源 をめ ぐる問題 に焦点 をあて、そ の具体像 を分析す る。第3節 で は1998年 の ガラ パ ゴス特別 法 とそ れ に よって制定 され た利 益 調整 メ カニズ ム を取 り上 げ、
海洋資 源の利用 と保 護管理 の問題 とのかか わ りで ガラパ ゴス人 間社 会 にお ける 自律 的かつ 内在 的な社 会 制度 の萌芽 につ い て現 状 と課題 を分析 す る。
続 いて第4節 で は、2003年 か ら2004年 にかけて表面化 した社 会紛 争の諸相 を取 り上げ る。そ して最後 に、本論 の まとめ として ロー カル、ナ シ ョナ ル、
お よび グローバ ル とい う重層 的 な関係性 の中で ガラパ ゴスの海洋資 源問題 を とらえ直 し、結 論的 な整理 を行 いたい。
ガラパゴスにおける社会紛 争一 海洋資源管理問題を中心に5
1.人 間社会 の形 成 と展 開 一社 会紛争 の前史
1)人 間社会の形成 と発展
まず、 ガ ラパ ゴス諸 島にお け る人 間社 会 の形成 過程 を概観 す るこ とで、
社 会紛争 の背 景 とな る主要 な要 因 を抽 出 したい。 ガ ラパ ゴス諸 島へ の移住 は19世 紀 か ら始 ま り居住 や入植 、 資源 開発 の試 みが く り返 され て きだ13)。
移住が本格化す るの は20世 紀 後半 に なってか らであ る。そ の結果、現在 ま でに4つ の 島(サ ンタクルス、サ ンク リス トバ ル、 イサベ ラ、お よび フロ レアナ)に 入間が居 住 し生活 空間 を拡大 して きた。1960年 代以 降は、 ダー ウ ィン研 究所 とエ クア ドル国立公 園管理事務 所が生 態系 や 自然 保護活動 の 役 割 を主導 してい る。 しか し、1970年 代 以降 にお ける観 光客の到来 に伴い、
ビジネス機会 な どを求 め るガ ラパ ゴスへ の移住者 が増加 し、 移住 者 の急 増 は観光 開発 とも絡 み なが ら急 激 な人 口増加 を もた らし、社 会 変容 を加 速す る動 因 となっ た。2001年 の 人 ロ セ ンサ ス に よれ ば、4島 に は合 計 で1万 8640人 の人間が居住 している。移住 の加 速化 に与 った要因 はい くつかあ る。
中で も最 大 の要 因 は観光業 の隆盛 で ビジネス機会 を求め る人び とが 「国内 移住」 に よ りガラパ ゴスに渡 った こ とである。実 際、観 光客数 も1970年 代 後半 か ら増加 の一一途 をた ど り、1996年 以 降は年 間6万 人 を超 える水準 に な
ってい る(14}。と りわ け、サ ン タクルス 島 とサ ンク リス トバ ル島 におけ る人 口増加 は著 しく、観光客 目当ての商業 やサ ー ビス業 に従事 す る人の数が多 くなった。 また、そ う した人の流 れ か らの転 身 を含 め、漁業 を 目当 てにガ ラパ ゴス に到 来す る 「にわか漁 民」 もか な りの数 にのぼった。 それ ら 「に わか漁民」 はこれ ら2島 や、 と りわけ イサベ ラ島 に渡 って沿岸 の居住 者 を 形成 してい くことになる。
同時 に、 ガ ラパ ゴスで は 自然保護へ の取 り組 みが20世 紀 の後半 か ら活発 化 し、世界 で有 数の 自然保 護制度 が確 立 して きた。その概要 を ご く簡単 に
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まとめれば次 の よ うになろ う。
‑1959年 にガ ラパ ゴス諸 島の島懊部分が 国立公園 に指定 され、人間の居 住 部分 に対す る保護 ない し保全 の対象 とされた こと。 そ して国立 公 園を管 理 す る国立公園管理事務所 が 自然保 護活動 を開始 した㈲。
‑1961年 に ダー ウ ィン研 究所が 設立 され、生物研究 と自然保護活動 に乗 り 出 した こ と。現在 まで、 この ダー ウィ ン研 究 所が 国立 公 園管理事 務所 と共 同歩調 を と りなが ら生態系 の保 護活動 を推 進 して きてい る。
‑1970年 代以 降 に観光業 が隆盛す る と、観光 ガイ ドの養 成や厳格 な観 光ル ー ルの設定 と履行 な どを含 め、 自然保 護 との調和 が とれ る形 によるエ コッ
アーの実現 に向けて対 策が とられて きた。
一 国立公 園であ る陸上部分が1978年 にユ ネス コか ら世界 自然遺産 に指 定 さ れ た。1998年 に なる と特 別法 の規 定 で海 洋部 分が 海洋保 護 区 に指 定 され、
2001年 には この海洋保護 区 もまた世界 自然遺産 に登録 された。
この ように見 れ て くれ ば、 自然保 護へ の制度化が順 調 に進 んで きたかの よ うな印象 を受 け るだろ うが、 しか し実際 には、 それぞれ の制 度化が合 意 を見 るには紆 余 曲折 があ り、様 々 な利 害 の対 立 と調整 が必要 であ った。 し か も、1990年 代 末か ら現在 にか けて制 度化 された海洋 資源の保護 につ い て は、社 会紛 争 とい う形 でた びたび表面 化す る ように、利 害対 立やそ の政 治 化 とい う現実 が潜在 化 してお り、 この状 況 は2004年 現在 も変 わってい ない どころか、 よ り複雑 になってい る。本 論 で述 べ てい くよ うに、 ガ ラパ ゴス の人 間社 会 をめ ぐる政治過程 は地 元住 民や地元政治家、大 陸部 の中央 政府、
国際NGOな どが重層 的に織 り成す多面 的 な空間 なのであ り、零細 漁民 、観 光 業者 、環境 保護 派 な ど様 々なア ク ターが交渉 や紛 争 を含 む相 互作用 を繰 り返す動態 的な過程 で もあ る。次 の ように、社会紛争 に注 目す る とこの事 実 は よ り鮮 明 になるであ ろ う。
ガラパゴスにおける社会紛争一海洋資源管理問題を中心に7
2)社 会 問題の発生
ガラパ ゴス諸 島の 中で人間が居住 す る主要 な4島 にお いて は、 人間社 会 の形 成 とい える状 況が 生 まれ た。そ れに ともない・居住 や生活面 での様 々
な問題が生 まれた。漁業 問題 の発 生状 況 を交 え簡単 にふれてお く。
ガラパ ゴス にお け る人間社 会 は外 部世界 との関連 で形 成 され・動態 的 な 関係 の 中で動 いてい る。居住す る人間 たちは、19世 紀以 降、 とくに20世 紀 にな ってや って きた移住者 かそ の子孫 で あ り、 人間の移住 で形 成 された社 会 が ガ ラパ ゴス の人間社 会 であ る。個 人 ない し集 団移住 の歴 史 を受 けて欧 米諸 国(ド イツ、 ノル ウェー、米 国な ど)の 出身者が一定程 度居住 して い るが(ほ とん どはエ クア ドル国籍 を所得 している)、大多数 の居住者 はエ ク ア ドル の大 陸部 か ら 「国内移住 」 に よ り移 り住 んだエ クア ドル 人で ある。
そ う した居住者 に加 え、 生物研 究 を 目的で ダー ウ ィン研 究所 に滞在 す る研 究者 や観光 な どに従事 す る一 時的滞在者 が社会 の構 成員 とな ってお り、 さ
らには観 光客 の ように 「通 り過 ぎる人 び と」 が加 わって・ 人間社会 とその 周縁が 成立 してい る。航空機 による大陸部 との交通が可 能 となった1970年 代 以降 は、居 住者 とい って も島 と大 陸部 の両 方 に成員が暮 らす家 族が多 く・
そ の人的 ネ ッ トワー ク を介 してガ ラパ ゴスの人 間社会 は大 陸部 とつ なが っ てい る。
また物 資や情報 の面 でガ ラパ ゴスの入 間社会 は大 陸部へ の依存 度が極 め て高 い。人 口増 につ れて生 活物 資が 島内、諸 島内では不足 し・1000キ ロ隔 て た大 陸部か ら定期船 や航空便 で取 り寄せ る割合 が大 き くな った きた。食 品 は もとよ り生 活 に必要 な多 様 な品 々や原材料 が海 を越 えてや って きてお り、そ の分 だ け島々の店頭価 格 は高 くなっ てい る。新 聞等 も大 陸部 の もの が午後 の航 空便 で到 着す るな ど、情報面 で も大 陸や外部世界 へ の依存傾 向 が顕著 である(16)。
この ようなガ ラパ ゴスの人 間社 会が、 人 口や生 活ニー ズの急増 とい う事
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態 を背 景 に・様 々 な矛盾 や問題 を内包 して きた ことも事 実 であ る。 ガ ラパ ゴス とい う環境 のなかでそ う した社会 問題 は、 自然環境 との 関係 や、 自然 保護の動 きとの関係 な どに対処す る形 で、独 特 の発現形態 をとって きた。
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2.1990年 代 以 降 の社 会紛 争
1)社 会紛 争の激化
1990年 代 にお いて ガラパ ゴスの人間社 会 は様 々 な変化 を経験 し、環境 保 護 や観 光 と生活 ニー ズの調 整(移 住 の制 限、 島民 の生 業(と くに漁業)の 規 制 を含 む)が 模索 され て きた。争 点 とな った のは、 移住者増加 に よる人
口増 や就業機 会 の圧迫 、生活 ニー ズの増大 、漁 業や観光/自 然保 護 をめ ぐ る地元利害 と外部(大 陸部 な ど)の 関与 のバ ラ ンス、 な どの諸点 であ った。
こ こで は自然保護 お よび観 光 とい う主 に外 部か らの働 きかけで醸成 して き た動 きを・ ガラパ ゴス に居 住 す る生活 者や地 元利害 の関係者 の視 点 か らと らえ、社会紛 争が生 まれ てい く背 景 と過程 、 そ して具体 的 な展 開状 況 につ い て考察 を加 える。
社 会 問題 が特 異 な形 で表面化 す る こ とには ガ ラパ ゴス をめ ぐる特 有 の状 況が あ る と考 え られ る。す なわち、 ガ ラパ ゴス をめ ぐって は 「視線 の交錯」
とい う現 実が あ る。外部 か らの視線 は貴重 な生態系 や動植 物 の保護 を優 先 し・そ れ との調和 を維持す る限 りにお い て生態 観光(エ コツ アー/エ コッ ー リズム)が 実施 され るべ きだ との漠 然 と した合意 が見 られ る(17)
。 もちろ ん実際 には、観 光資本 な どの商業利 害が加 わ り、 自然保護 よ りも資本主 義 的活動 を優 先 しよ うとの圧力 が常 にかか ってい るが、 それ を緩和 す る形 で 生態 系 の維持 メ カニ ズムが か な りうま く機 能 して きた こ と も確 かで あ る。
こ う した状 況 にあ って、外 部 か らは往 々に して看過 されが ちなこ とは、 ガ ラパ ゴス は人 間居住 の島々だ とい う事 実 であろ う。 もち ろん、た った3%
ガラパゴスにおける社会紛争一海洋資源管理問題 を中心に9
の空 間に集中す るわ けだが、 同時 に人 間の活動 がそれ以上 の範 囲 と比重 を もって ガラパ ゴスの 自然 に関与 して きたことは疑 い ない。
人間社会 の形 成が進 み、 人口が増 え、社会活動 が多 様化 かつ複雑 化 して くる と、 当然 なが ら人間の生活 にか らむ必要 や要求が増大 す るの は避 け ら れな くな る。世界 の多 くの入植地 な どで起 こった事態が ガラパ ゴスで も繰
り返 され るこ とにな る。規制 をか けて も、 それへ の反発 が強 くな る と抑 え きれ ない。 すで に住 み着い ている島民が生活権 を主張す れ ば、 それ に配慮 せ ざる をえ ない面 もあ る。 もちろん、「にわか漁 民」 のよ うな存在 となる と 対 応 は一律 にはで きない。 自然 保 護 の メ カニ ズムが す で に成 立 してい る 1970年 代 以 降に到来 した零細 漁民 たちには、既存 の制度 を遵守 す るよ うに 要求 で きるが、 しか し多 くの零細 漁民 は生活手段 に も事 欠い てガ ラパ ゴス にや って来 た困窮者 たちであ り、彼 らが生存維持(subsistencia)の た め に漁業 に従事 してい る現状 で は、その生活権 をも尊 重せ ざるをえな くなる。
この ように住民 の生活 ニーズ と環境保 護 な どの兼ね合 い を図 るの は、現 実 には容 易 ではない。相互 の共 存 に向けた妥協 が不 可欠 にな るが、 それが難 し く、 か えって しば しば対 立や紛争 の火種 とな って しまうこ とも疑 い えな い現実 であ る。
2)海 洋資源 をめ ぐる問題
陸上 部分 の生態 系や生物 、資源 の保 護管理 に くらべ る と、海洋資源へ の 取 り組 み はか な り遅 れて きた。1960年 代 か ら整備 されて きた 「国立 公園 と い う制 度」 は島々の陸上部分 を区画 し、全体 の97%を 公 園 と して保 護管理 す る制度 で あ った。 ただ その対象 は海洋 部分 や海洋 資源 には 向け られず 、 その結果、 海洋 関連 の対策が 着手 され るには約30年 の遅れが生 じた。 こ う
した背 景の もと、様 々な社会 紛 争の なかで もと りわ け、漁民 たち と環境 保 護 関係 者の 間で は海洋 資源(漁 業面)の 扱 い をめ ぐる利 害対 立が表面化 し、
激化 し、収拾 がつか ない まま社会紛争へ と発展 してい った。
前 述 した ように、1990年 代以 降に激化 した社 会紛 争 の背 景 には、移民 の 増加 や 人間社 会 の生活 とい う問題 が確か にあ ったが、 問題の発生 が よ り急 進的 な形 を と り、 かつ ガ ラパ ゴスの外 部か らも注 目され た紛争 は海洋資源 をめ ぐる問題であ る。「保護 され る生態系」 として世界 的 に も特異 なガ ラパ ゴスが舞台 となったが ため に、過剰 かつ過熱 された形 で問題が表面化 して きた。そ して 自然保護 とい う観点 か らも対策 の遅れが、 海洋資源 をめ ぐる 問題 を一層 クロー ズァ ップさせ、 よ り激 しい形 で利 害 の対 立 を生 み出す こ とにつ なが った面 が 大 きい 。漁 業 関係 にお け る社 会 的 な問 題 の発 生 は、
1990年 代 以降 のガ ラパ ゴスで最 も重要 なテーマの一つ とな り、後 述す る よ うに、やが てガラパ ゴス特 別法の制定や海洋保 護区の制 定 につ なが った。
3)海 洋資源 をめ ぐる紛 争
海 洋資源 をめ ぐる紛争 の なか で、大 きな争 点 となったの は フカヒ レ、 イ セエ ビ、 ナマ コな どの海産物 の漁業 をめ ぐる不 法漁業 の問題 であ った。 そ れぞれの産 品 をめ ぐる紛争 の具体 的な内容 にρ いて簡単 に見 なが ら、 問題 の本 質 を抽 出 したい。熱帯 地域 におけ るナ マ コ、 フカ ヒ レな どの海洋資源 は、漁民の地元 では 自己消 費 されず輸 出 目的、商業 目的の商 品 として捕獲、
加工 、流通 され る。 ナマ コや フカ ヒ レな ど商 品 とな る海 産物 を鶴見 良行 は
「特 殊海産物」 と名 づけてい る(18)。本論で扱 うガ ラパ ゴスの フカヒ レや ナマ コはその典型例 であ る。採 集が比較 的容易 であ り、 しか も高 い商 品価 値 を もつ ので、市場 の需要が大 きく価 格が上 昇す る場合 には と くに、仲介 者 の 手 を経 て地域経済 圏の外 へ と流通 し消 費 され、乱獲 され て枯 渇化 して しま う可能 性をつ ねに抱 えてい る。つ ま り、ガ ラパ ゴスの特殊 海産物 について は、
エ クア ドル大陸部 の範 囲 を超 えた外 部世界 に対 して商 品 と して流通す る面 が強 く、紛争 につなが る内外 のネ ッ トワーク と相互作用が観 察 され る('9)。
ガラパゴスにおける社会紛争一海洋資源管理問題を中心 にll
a)フ カ ヒレ
フカヒ レの漁獲 と販 売 はサ メの乱獲 と虐殺 を もた らし、 国際的波紋 を引 き起 こ した。 フカ ヒ レは中華料理 フ カヒ レス ープの材 料 とな り需要が生 ま れ る。1990年 代 におい て問題 となったのは、 シュモ クザ メ等 のサ メ類 に対 す る不法 漁業 であ る。 ヒレを切 り取 られ たサメの死体が 島々の浜 辺 に放置 され る とい う状況 がマ ス コ ミを通 じて報道 され、 スキ ャ ンダル として世界 中に伝 わ り行為 の残 忍 さが強調 され た。 と りわけ、 日本漁船 の 関与が 国際 問題 になった時期 もあ った。 ア ジア漁船 に よる フカ ヒレ密猟 とそれ に伴 う ・ サ メの乱獲 の問題 とい うことであ る。 イセエ ビやナマ コの問題 に隠れ る よ うに近年 で は さほ ど表面化す る ことが な くな ったが、 フカ ヒ レをめ ぐる問 題 は実 際 には継続Lて お り、生物 虐待 の残 忍 さが強調 され る際 には しば し ば言及 され るテーマで ある ことに変 わ りはない⑳)。
b)イ セエ ビ(ロ ブス ター)
フカ ヒ レ問題 に続 き、表面 化 して きた漁 業 問題 はイセエ ビ とナマ コをめ ぐる問題 で ある。 これ らは地 元の零細 漁民が実 際 に捕獲 し生活 の糧 をかせ ぐ手段 で もあ り、 フカ ヒ レとは位置づ けが異 なる。 問題 は資源保 護の観点 か ら、 イセエ ビ漁 や ナマ コ漁 を どの ように規 制す るか とい うバ ラ ンスの付 け方 で あ り、漁業 方法 や販売 ルー トにか らむ違法性 をい かに防 ぐかであ っ た。 イセエ ビをめ ぐる漁業 問題 もまた漁業 のあ り方 をめ ぐって大 きな争点 になって きた。 この イセエ ビや、次 に述べ るナマ コは、 空気チ ュー ブを使 った素潜 りと手づ かみ の方法 で零細 漁民 に よって捕獲 され る。後 述す る よ
うに、1998年 の特別法 以降 これ らの漁獲規 制が、禁漁期 と漁期 の設定 とい う形 で行 われる ようにな る点 は共通 している。
c)ナ マ コ
エ クア ドルのナ マ コ輸 出は世 界全体 に占め る比重 はわずか だが 、その漁 業 はナマ コ 自体 だけで な くガラパ ゴスの生態系 へ の打撃 とい う点で も注 目
を集 め るこ とに なった。環境 関連 の英語雑誌 には 「ナ マ コ戦争」{21)とい う タイ トルの記事 も掲 載 され たほ どだが、 問題 の激化 を受 けてナマ コの漁 と 交易 に関す る調査研 究 も行 われ る よ うにな った。エ クア ドル にお け る商業 的 なナマ コ漁 は1988年 に始 ま り、1991年 には大 陸海岸部 のナマ コが枯 渇 し たの でガ ラパ ゴス で漁が 開始 され た。1992年 には大 統領令 で漁獲 が禁止 さ れ るな ど、 ナマ コの捕獲 や加工 には規 制が加 え られた。1990年 代 にお いて ナマ コ漁が解 禁 され たのは1994年 の10月 か ら12月 までの期 間 と1999年 の 4月 か ら5月 まで の期 間の2回 であ ったが、規 制 にかか わ らず禁漁期 間で も 不 法 な形で漁が続 け られた。 ガ ラパ ゴス産 ナマ コは空路 か航路 で大 陸部 に 送 られ、そ こか ら国外 に輸 出 され る。そ の主 要輸 出先 は香 港 、 シ ンガポー ル、台湾 な どの東 アジアお よび東南 アジア諸 国 ・地域 であ り、 大部分 は干 しナマ コの形 で輸 出 され てい る。場合 によって はマ イア ミや ニュー ヨー ク (あるい はペルーの カヤ オ)を 経 由す る こともあ る。 ナマ コ漁 は零細漁民 に とって も地元 の商人や輸 送会社 に よって も利益 の上が る活動 となってお り、
そ こに不法漁業が行 われ る理 由が ある(22)。
ナマ コ漁 の抑制 と管理 には3つ の組織 が関 わ ってい る。 ガラパ ゴス保 護 区域 局が漁 業許可書 の発行 、漁業 区域 のパ トロール、 お よび運搬 許可書 の 発行 を担 う。漁業総 局下 の国家漁業研 究所 が港 での監視 を行 い、 また ダー ウ ィン研 究所 が漁業 のモ ニ ターや実態 調 査 を実施す る。 これ らの うち、監 視や モニ ター、実態調査 は、1998年 の特 別法 で設 け られ る官民参加 管理委 員会(後 述)の 場 にデー タや提 言 を提 出す る基礎 的な業務 となっている。
これ ら3つ の代 表 的産 品 をめ ぐる漁 業 の形 態 と影響 をみ る と、 ガ ラパ ゴ スの零細漁 業がお かれ た問題が浮 かんで くる。零細 漁民側 にす れ ば生業 を 通 じた生活権 の問題 となるが、 自然保護派 側か らす れ ば漁民 は20世 紀後半 か近年 にや って きた外 来者であ って、貴重 な生態系 を尊重すべ きだ となる。
したが って、合 意 に至 る道 は漁 を制 限す る メカニズム をいか に形成 し、そ
ガラパゴスにおける社会紛争一海洋資源管理問題を中心に13
れ をいか に遵 守す るか とい う点 にな る。た だ、 こう した交渉 を難 し くす る の は、 ガ ラパ ゴス の地元政治 家やそ の他が 関与す るこ ともあって、問題 の 一層 の 「政治化 」が生 まれ、 それが 「社会 紛争 」 として激化 して しまう過 程 にあ る。 この点 は後述 したい。
海洋生物 の生物 多様性 に配慮 した生態系 の保全 を進 めつつ 、海洋資源 を どの よ うに持続 可能 な利用 に供す る ことが で きるのか、 この点が 問 われて いる。それは まさに海洋 資源 をめ ぐる資源管 理(resourcemanagement)
の問題で あ る㈱。 そ して、'生態 学 だけで な く社 会的 ・文化 的 ・政 治的 な次 元 の問題 と して資源管理 を扱 わねば な らない。す なわち、社 会科 学的 な側 面 か ら資源管理 を考 える こ とは、 国際 的なルー ル、地元 の地域社会 にお け る合 意、密漁や乱獲 を防止 す るための相互監視 と罰則 の制度化 な ど、人 間 社 会 に帰 着す る制 度や敢行 の問題 となる。地域住 民 に よる下 か らの共 同体 基盤(community‑based)の 管理 だけでは不十分 であ り、 国家 な どに よる 上 か らの調 整 や指 導 とそ れ を組 み合 わせ た共 同管理(CO‑management)
が注 目され て きた所 以 であ る伽。そ の際 に頻繁 に持 ち出 され る 「生物 多様 性」、 「先住民性」、 「文化 の持 続 性」 な どの言説 も検討 に値す る㈱。
こ う した点 を踏 まえ、 ガラパ ゴスの海洋資源管 理 の問題 に接 近 してみ る と、何 が言 えるだろ うか。 ガ ラパ ゴス にお ける国立公園 とい う制度 の確 立 が、前述 の共 同管理へ の基盤 となったが、 なかで も海洋資源 の管理 に関 し て は、共 同体の合意 と参加 とい う点 で よ り踏 み込 ん だ形 の共 同管理 のあ り 方が 問われ るこ とになる。 そ して 「生物多 様 性」 だが、 これ はガ ラパ ゴス に関 して最 も頻繁 に持 ち出 され る言説 であ り、 国立公園化 に始 まる一連 の 管 理政策 にその考 えが反映 して きたの は明 らかであ る。 ただ ガ ラパ ゴス に は 「先住民性」 とい う観点 は言葉通 りには当ては ま らない。端 的 に言えば、
ガ ラパ ゴスに は先住 民族(=人 間)は もと もと居住 してお らず 、すべ ての 居住者 は外 来者 で ある。あ えて言 えば、科学 的 に重視 され る固有の動植 物
に こそ 「先 住性」 が付 与 され てい る と見 なすべ きだろ う。 さ らに言 えば、
外 来者 た る人 間に もい くつか の カテ ゴ リーが生 み出 され(後 述 の ように法 制 で も規定 され る)、来 島の時期 と居住期 間に応 じ島民、長期滞在者 、旅 行 者 の ような区分が実 施 され てお り、 また島民 の中に も居 住が 長い家族 や一 世が新 参者 に対 して 「先 住性」 的 な主張 を行 うことがあ る。漁民 の場合 は 事 情 が込み入 ってお り、先住性 が 「生活 権」 に変換 して彼 ら自身に理解 さ れ、 自己 の 「零細性 」 を踏 まえた生活 の論理 が全面 に出 され る傾 向が生 ま れ て きた。 とはい え実際 は、 ガ ラパ ゴス の零細 漁業 を 「伝 統」 とか 「文化 の持続 性」 とい う言説 で捉 える こ とは難 し く、 この点 は漁民 自身 に も認識
されてい るようだ。
これ らの諸点 を考 えるには まず 、漁業 問題 な どの解 決策 と して具体化 し て きた過程 、つ ま りガラパ ゴス特 別法 の制定 を含 む一連 の利 害調整 メ カニ ズムの形成過 程 につ いて検 討す る必要 が あ る。 とい うの も、 上記3つ の う ちイセエ ビとナマ コにつ いて は、現在 まで漁 は継続 されて きたが 、禁漁 と 解禁 の期 間が 定め られ、解 禁 につ いて も島 々の一定 の区域 だけで漁 を認 め る とい った厳格 な規制が適応 され るよ うに なってい るか らだ。 しか しその 過程 には紆余 曲折が あ り、漁民 の利 害 と環境 保護政策 との間で折 り合 い を つ ける必要 が表面化 し、調 整 の末 に、両者 間で漁期 や漁獲 高 な どの合意 を み て当局 がモニ ター を行 うとい う形 に定 着 した。そ こに至 るには利害調 整 の メカニズムの成立 をまたねばな らなかった。
3.ガ ラパ ゴス特 別法 と利益調整 メ九 ニズム
1)ガ ラパ ゴス特別 法の制定 とその影響
1998年3月 ガラパ ゴス特 別法 がエ クア ドル国会 で承 認 され た。正式 名称 は 「ガラパ ゴス県の保護 と持 続 的発展 のための特別制 度法」㈱ で あ り、移
ガラパゴスにおける社会紛争一海洋資源管理問題を中心に15
住 の制 限、資源 配分 の調整 な ど も含 め、外 的環境 との調和 を踏 まえた地域 社 会 の持続 的 な発 展 が希 求 されてい る。環境 保全 や、観光 と住 民参加 の調 和 的発展 を目指す とい うこ ともで きる。
ガラパ ゴス特 別法(1998年)の 内容 は次の とお りであ る⑳。
まず、 大陸部 か らの移住 の制 限 と管理 が大 きな柱 の一つ とな って い る。
移住 を管理す る専管機関 として従来か らあ ったINGALA(ガ ラパ ゴス政庁) の役 割 の強化 かつ明確 化 を定め てい る[第5‑10条]。 そ して、 ガラパ ゴス におけ る人間の居住 や滞在 につい て、 旧移民 、新 移民、滞在 者 とい う3つ の カテ ゴ リー を設 け、 「居住権 」 の取得 に は5年 間の居 住経験が 条件 づ け ら れた[第25‑26条]。
また ガ ラパ ゴス 国立公 園へ の入場 者が払 う入 園料 を諸 機 関の問で配分す る際 の配分比率 を確 定 した こと も大 きな意 味 をもってい た。 その配分比 率 は、 国立公園40%、 地方 自治体20%、 県議i会10%、INGALA10%、 海洋 保護 区5%、INEFAN(国 家 遺産保全 の機 関)5%、 検疫 関係5%・ お よび
海軍5%と なってい る[第18条]。
特 別法 にお け る もう一つの重要 な柱 は海洋 にかかわ る規 定 であ る。特別 法 に よ り、海 洋保 護 区 は従 来 の15海 里 か ら拡 大 し、40海 里 と定 め られ た [第12条]。 保 護 区 内 で は、漁 業組 合 に加 盟 した居住 者 に よる零細 漁業 (pescaartesanal)の みが操業 を許 され、漁業従事 者 に対す る許可制 が規 定 された[第42‑44条]。 そ れ は、一 定期 間 を除 く禁漁 が定 め られ た こと
を意味す る。 ガラパ ゴス海洋保護 区 は約14万 平方 キロの広大 な面積 を占め、
オース トラ リア のグ レー トバ リア リー フに次 いで世界第二位 の広大 な海洋 保護 区であ る。
ガ ラパ ゴス特 別法 で は人間社 会 に関す る様 々なルールが定 め られ、利 害 の異 な るセ ク ター間の利害 を調整す るメカニズ ムが定 め られ たが 、その対 象 が海洋 や海洋 資源 に も適用 された点が重要 であ る。 この点 に関す る特 別
法 の内容 につ いては、次項で検討 したい。
2)海 洋 資源 をめ ぐる調整 メカニズム
ガ ラパ ゴス特 別法 の施行 以降の過程 で は、 海洋資源 の保 護管理 にかか わ るメカニズ ムが成 立 し実施 されて い る。 これ は地元の利用者 が保護 区域 に お け る管理 面 での決 定権 とその責任 を負 うとい う制 度 であ る。地元参加 型 の管理制度 の一つ となっている。
1999年 以前 には ガラパ ゴス海洋 資源 にかか わ る決 定 は、地元利用者が全 く参画 せず、エ クア ドル大 陸部 の政府 関係省 庁 ない し部局 に よ りな され て い た。 ガラパ ゴスの地元民 たちは、 下 され る決定や条 例 を外部 か ら 「押 し つ け られた」 もの と見 なす傾 向が あ った(28)。こう したなか、1997年6月 に は多部 門(漁 業 、観 光、 ダー ウ ィ ン研 究所 、 国立公 園事 務所 、水 産部 局) か らな るグループが新 しい管 理体制 の構 想 をつ くり出 した。そ れは、 地元 の諸部 門が 諮問 を受 けるに とどま らず政 策決 定 と合 意 の過程 に参画す る と い う、共 同管理 の体 制であ った。 この案 が次 第 に地 元 の合 意 を獲 得 し、 国 内的かつ 国際 的な支持 も得 なが ら、1999年 に新 しい法制 度の枠組 となる。
特 別 法お よびそ の実施細 則 の規 定 に よ り、海洋資源 の管理 と行 政 をガ ラ パ ゴス国立公 園が担 うこ とになってい る。参 加型管理 制度 は、公 園区域 内 で の管 理行 政 の決 定 におい て地 元 利用 者 、 エ クア ドル政府 、 お よび環境 NGOの 統合 的 な参加 を定 めてお り、次 の ような仕組 み となってい る。つ ま
り決定 は、 地元利 用 者 の各 部 門 に よる提案 とい う形 で 「下 か ら」 な され、
それ らの提案 は6つ の関係部 門(零 細 漁業 部門、 ガ ラパ ゴスの観光会議所 、 同 自然保 護 ・科学教育 部門、 国立 公園、 ナチ ュ ラリス トガイ ド、 お よび ダ ー ウィン研 究所)の 代表か らなる官民参加管理委員会(Juntad
eManejo Participativo、 以下JMPと 表記)で 論議 され る[特 別法 実施細則 第46‑
48条]。 決 定 は全 会一致 が前 提 であ る。次 の段 階 と して、JMPで の合 意事
ガラパゴスにおける社会紛争一 海洋資源管理問題を中心に17
項 は、 よ り上位 に位置 す る合 同管理機構(AutoridadInterinstitucional deManejo、 以下AIMと 表 記)に お いて多数 決投票 で決議 され る。 これ は環境省 、 国防省、通 商漁業省、観 光省、 ガラパ ゴスの観光 会議所、 同零 細漁業 部 門、 お よび同 自然保護 ・科 学教育部 門 の各代 表か ら構 成 され る決 定機 関で ある[特 別法 第13‑14条]。 こう した制 度 は 「地元 の部 門間」 お よび 「省庁 間」 とい う2段 階 にわた る組織 的決 定の制度 であ り、 還元す れ ば、諸 島内部お よび諸 島 と大 陸部 の間 とい う重 層 的な関係 調整 の制度 とな ってい る。原則 的 にいえば、地元利用 者が意志 決定 のすべ ての過 程 に代表 権 を もち、 同時 にその責任 を負 うこ とになってい る点が注 目される。
前述 の ように、 ガラパ ゴス海域 で はナマ コや イセエ ビの零細 漁業や フカ ヒ レの略奪 的な漁業 が1990年 代以 降 を通 じて問題 とな って きたが 、特別法 で(人 間活動 の管理制 限の一環 と して)海 洋保 護区が確定 され る とともに、
ナマ コ漁 とイセエ ビ漁 には漁期 が制 限 され、 また 同時 にそれ らを含 む海洋 資源(の 利用)に 関す る研究 も本格 化 した。2001年12月 に陸域 の国立公 園 に加 え海洋 保護 区 も世界 自然 遺産 に登録 され た こ とが追 い風 にな ったの は 言 うまで もない。そ して国立公 園管理事務所 は ダー ウィン研 究所 と協力 し、
海洋保護 区の管理 や研 究 にかかわる種 々の業務 を進 めて きた。
3)利 益調整 メカニズ ムの行 きづ ま り
これ まで検討 して きた諸部 門間の利 害調 整 メ カニズ ムで は、漁業 をめ ぐ る利益 調整 と資源保 全の両立が課題 となって きた。1998年 の特 別法で設置 された官民参加管 理委員会 を中心 に、2002年 頃 までの数年 間、試行錯 誤 を 繰 り返 しつ つ も利 害調 整 メ カニズ ムは一定 の成果 を上 げて きた と担 当者 は 評 してい た。漁民 と環境 保護 関係者 と住民 の間 におけ る利害 の調整 は容易
でないが、管理 され た零細漁 業お よび海洋資源 の保護 とい う点 か ら、 ナマ コ とイセエ ビの禁 漁期や漁獲量 の設定 に関す る合意が形 成 され履行 され て
きた こ とは、 その成 果 といえ た。そ して毎月 の ように会議が 継続 されて き たが、 しか し努力 に もかか わ らず、 こう した利益調整 メカニ ズムに も弱 点 が潜 んでい た。
その問題点 の一つ は、国立公 園、 ナチ ュ ラ リス トガイ ド、お よび ダー ウ ィ ン研 究所 とい った環境 保護推 進勢 力がJMPに 参 加 で きて もAIMの メ ン バ ーで は ない の に比べ 、零細 漁業 部 門の代表者 がJMPとAIMの 両 方 に出 席 し、決 議権 を有 す るこ とであ る。 しか もJMPの 決定 は全会一致が 原則 で、
反対票 が あれば決議 は成立 しない。 これ らの こ とは、利益 調整 の過程 にお いて は環境保 護の意見 よ りも漁 民 たちの利害が 反映 されやす い とい う状況 につ なが った。つ ま り、利 害調整 メカニ ズムが利 害対立 を解消 す る とは限 らず、 む しろ合意 の過程 で様 々な不満 が くす ぶ り、 それが紛 争 につ なが る 事 態が生 まれ て きたのであ る。実際、2003年 か ら04年 にか けて 「漁民 の反 乱」 が発 生 し、 次 に述べ る ように0層 激 しい 内容 で、新 しい形 を とるこ と になる。
4.国 立 公 園 をめ ぐる利 害 関 係 の 「政 治化 」 と社 会 紛 争 く2003年 一2004年)
ガ ラパ ゴス人 間社 会 におけ る利益調 整、 と りわけ海洋 資源 の管理 をめ ぐ る問題 は、特 別法 以 降の メ カニズム確 立 で うま く調整 が 図 られ る期待 が高 まっていた。 しか し、2003年 か ら2004年 にかけて生起 した状 況 に よ り、大 きな困難 に直面 して しまう。 ここで は、 その状 況 を概 観す るこ とで、利 益 調整 を取 り巻 く問題点 をまとめたい。
1)漁 民の ス トライキ と国立公 園の混乱(2003年 一2004年)
2003年 か ら04年 にかけての時期 は ガラパ ゴスの社 会紛争が新 たな様相 を
ガラパ ゴスにおける社会紛争a海 洋資源管理問題を中心に19
呈 し始 めた時期 だ と言 え よう。前 述 した特 別法 や利益調 整 メ カニ ズムにほ ころびが 生 まれrそ れが 「ガ ラパ ゴス問題 の政治化」 とい う状 況 と重 な っ たか らであ る。 と くに注 目され るのは、 国立公 園管理事 務所 の所 長が1年 半 の期 間に7名 も交代 し、 国立公 園 の管理行 政 に大 きな混乱 が生 じる事態
となった こ とで ある。2003年1月 にクルス所長 が交代 を余儀 な くされ て以 来2004年1月 にナ ウラ所 長が 就任す る までの1年 間に度重 な る所 長職 の交 代 があ り、それ に伴 い国立公 園内 には人事 や業 務 の問題 が 山積 して いった
(29) 0
そ うした不安定 な状 況 に拍 車 をかけたの は漁民 との関係 で あった。前述 した よ うに、特別 法後 の過程 で漁業 をめ ぐる利益 調整 はナマ コや イセエ ビ をめ ぐる漁期や漁獲 制 限の設 定 とい う形 に具体化 し、そ れ に至 る会合 が毎 年 の よ うに繰 り返 され て きた。 しか し、そ れは同時 に漁民 た ちの間 に不 満 を高 め、それ に付 け込 んだ政治 勢力が環境保 護派 の規制へ の反対 運動 を画 策 し、その後、ス トライキが 発生す る といった動 きをも生 み出 して きた。
2004年 に入 って か ら も国立 公 園 を取 り巻 く情 勢 は不 安 定 な状 況 が続 い た。2月19日 か ら29日 まで漁 民 に よるス トライキが 発生 し、5月6日 か ら9 日まで と27日 か ら30日 までの2度 にわた り、漁民 の動 きを警 戒す る国立公 園事務所 が 自主的 にオ フ ィス を閉鎖 してい る。漁民 に よるス トライキ未遂 は他 に もあ り、そ れに とどま らず、6月3日 か ら6日 にか けて は漁民が再 度 ス トライキ を行ヤ・、・今 度 は国立 公園管理事務所 を占拠 す る とい う事態 を招 いた。 そ う したス トライキは国立公 園内の問題 と連 動 して いだ30)。
2)国 立公園職 員 によるにス トライキ と社会政 治的混乱(2004年9月 以降) さ らに混 迷 を深 めたの は2004年9月 以降 の情勢 であ る(31)。9月10日、バ ルデ ィビエ ソ環境 相 に よってナ ウ ラ所 長が解任 され フ ァウス ト ・セペ ダ新 所 長が 任命 され た とい う通知 が国立公 園 に届 い たが、それ は突然 の解任 劇
であ り、 「政治」が背後 にあ るとす ぐに受 け とめ られた。セペ ダ氏 はナマ コ 漁民 のア ドバ イザ ー を務 める へ物 であ り、任 命 は政治利用 に他 な らない と 見 られた のであ る。 そ して、 国立 公園管理事 務所 の職員 た ち約300名 が ス トライキ を開始 し、 ガラパ ゴス内外 に大 きな驚 きを もた ら した。 ス トラ イ キ を行 う職員側 は、ナ ウ ラ氏 の復職 だ けで な く、国立公 園業務 の安定化 な どの要求 を掲 げて、国立公 園の施 設 に立 て こ もったが、23日 には漁民 な ど の支援 者 を従 えたセペ ダ氏 が ス トを破 って施設 内に入 った。 その過程 で生
じた対立 で怪我 人が 出る事 態 を招 いた。事件 を受 けて事 態 は動 き、 ス ト派 は代 表 をキ トに送 って環境 相 との交 渉 に臨んだ結 果、27日 になってセペ ダ 氏 が所長職 を離 れ、 ビク トル ・カリオ ン氏 を所長代理 に立 て る ことに合 意
し、一連の事態 は17日 ぶ りに ひ とまず収拾 され るこ とになっだ 靴
今 回の紛争の背景 として、 「政治化」 の問題 が ある と指摘 されてい る。従 来 か ら漁 業 関係者 た ちは国立 公園 に よる漁業規 制 を快 く思 っておず、度 々 ス トライキ に訴 えて きたが、 そ う した不 満 を政 治的 に利用 して支 持票 の拡 大 を図 ろ うとす る政 治家が、 ガ ラパ ゴス に登場 していた(33)。今 回の事件 に
は これ に加 え、2004年10月 に予定 され るエ クア ドル全土 の地 方選挙 が絡 ん でいた。与党 と野党 の政党 間 の駆 け引 きと してグテ ィエ レス大統 領 が、環 境 相 に と り都合 の よい人物(セ ペ ダ氏)の 新 所 長任命 を承 認 した こ とが 、
「政治化」 に直結 した と見 られてい る。 ガ ラパ ゴスを政治 に利用 しようとし たエ クア ドル当局 と くに大統 領 にその責任 が あ ると して、 エ クア ドル内外 か ら批 判が 強 まった ことは、 ガ ラパ ゴス を取 り巻 く利 害 関係 と視線 の重層 性 を改 めて浮 き彫 りにす る ことにつ なが った。
お わ りに
本稿 では ガラパ ゴス人間社会 の動態 を考 え るべ く、1990年 代 以 降の海 洋
ガラパゴスにおける社会紛争一海洋資源管理問題を中心に21
資源 の保 護管理 をめ ぐる問題 を取 り上げ、社会紛 争か ら利益調 整の メカニ ズ ムが生 まれ て きた過程 を分析 した。 その 中で、 ガラパ ゴスの人 間社会が 抱 える問題点 とそ こに生 まれた 自律 的な地方運営 の試 み を知 るこ とが で き た。エ ク ア ドル大 陸部 や ラテ ンアメ リカ諸 国の大勢 に比べ る と、 人間の諸 活動 や動態 的な変化が 乏 しい印象 を受 ける ガラパ ゴスだが、 人間の移住 や 漁業、観 光 な どの諸活動 によ りその社 会 も変動 の渦 中におか れて きた こ と が 明 らかであ る。そ して ガラパ ゴス特 別法や地元参加型 の利益調整制度 は、
個 別の状況 こそ違 え、大陸部 で進展す る地方分権化 や地域発展 の試み と連 動 してお り、 この意 味 にお いて外 部世界 や大 陸部 との関係 を抜 きにガ ラパ
ゴス世界 を考 えることがで きない こ とも確 かだ。
ガラパ ゴス にお け る利 害調整 メカニズム は、地 元受益 者 の権 利 と義務 が 保護 区域 に関わ る政策 決定 と管 理運営の過程へ の直接参加 とい う形 をと り、
そ れが特 別法 な ど法制面 で規 定 されてい る点 がユ ニー クだ と言 え よ う。 こ うした地 元参加型 の行 政 は、地方分権化 の動 きな どと関係 して大陸部エ ク ア ドルで も進展 しつつ あ り、 ガ ラパ ゴス の動 向がそれ らと同時進行 して き た こ とも確 かであ る。 その 中で ガラパ ゴスの事 例が(恐 ら く世界 的に見 え て も)珍 しいの は、 資源 開発 に絡 む アメ リカ大 陸各地 の動 向 と比較 すれ ば 明 らか に なろ う。例 え ば、 アマ ゾ ン地域 にお け る鉱物 資源 の開発 にお いて は地元 の先住民 た ちの声 を無視す る ような形 の開発が これ まで行 われ てお り、そ れ に対 す る異議 申立 てが1990年 代 以 降 に表面化 して きているが、政 策決 定 の過程 に地 元住民 が直接 参加 で きる よ うに なってい る訳 で はない。
実 際、 東部 アマゾ ンにおけ るエ クア ドルの石油 開発 で は現在 も、先住民 に 相 談 もな く中央 政府 が決 めた石油鉱 区が外 国資本 に開放 され、入札 や採 掘
な どが 実施 されてい る。 これ は一例 にす ぎないが 、 ガラパ ゴスにお ける地 元参加型 の政策合 意 メ カニ ズムにつ いて は比較 の視 点 も加 味 しなが ら、そ の形 成 と運用の諸相 を分析 してい く必要があろ う。
22
しか しなが ら、 かか る メカニ ズム の存 在 に もか かわ らず 、2003年 か ら 2004年 にか けて ガラパ ゴスで は 「漁民 の反乱 」や 「国立公 園職員のス トラ イキ」 な どが 度重 な り、関係 当局 内部の政治 的混乱や 「ガ ラパ ゴス の政 治 利 用 の問題」 な どを表面化 させ た。 その問題 を解 決で きないエ クア ドル 中 央政府 の力量不足 に対 して国際的非 難が 寄せ られ るな ど、混 乱 した社会状 況が続 い て きた。 こ う した現状 を理解す るに は問題の経緯 や現状 につい て の理解 を増 進 させ ね ばな らないで あろ う。 ガ ラパ ゴス情勢 をめ ぐる混乱 は 2004年9月 現在 も続 いてお り、特 別法 に盛 り込 まれ確 立 した利 益調整 の メ カニズ ム(前 述 のJMPやAIMな ど)を 建 て直 し、海洋 資源 をめ ぐる利 益 調整の 「正常化」 を図ってい くこ とが、今後 の課 題 となろう。
本論 の ま とめ としてロー カル、 ナ シ ョナル、お よびグ ローバ ル とい う重 層 的 な関係 性 の中で ガ ラパ ゴスの海洋 資源 問題 を とらえ直 してみたい。海 洋 資源 をめ ぐる利 害対 立 は現 地 の人 間社 会 の 中に起 因す る とい う意 味 で、
狭 い空 間や濃密 な人 間関係 にお け るロー カル な利益 調整 の問題 であ る。 た だ、 エ クア ドル共和 国 を構 成す る ガラパ ゴスの事項 は、キ トの中央 政府 と の関係 を有す る問題 ともなる。様 々な利 害 関係 は、諸 島内部 だけで はな く 大 陸部 との関係 の 中で問題化 し、場合 に よっては一層複雑 な様相 を見せ る こ とになる。問題 を複雑 にす るの は、諸 島内 の利害 関係 が たち まちに政治 化 して しまう構 造 にあ る。 この意 味で、 ガ ラパ ゴス の ロー カルな政 治 は大 陸部 との連 関の 中で ナ シ ョナルな政 治 と連動 して くる。そ して、 ガラパ ゴ ス の人 間社 会 は決 して孤 立 した空 間で はな く、エ クア ドル大 陸部 やそれ を 通 じて よ り広 い外 部世界 と密接 な関係 を もつ。人や物 資 な どの移動 に伴 う ガ ラパ ゴス世界 の外部依存性 に加 え、 この諸 島を特 徴づ け る環境保全 や科 学調 査、 あ るい は観光 とい うグローバ ルな関係性や視線 が、恒常 的 にガ ラ パ ゴス を外 部世 界 に結 びつ けてい る。 また ガラパ ゴス 関連 の情報 は、ス ト
ライキ な どの社 会 問題 が メデ ィア を通 じて実 際 よ りも過剰 な形 で世 界 に発
ガラパゴスにおける社会紛争一海洋資源管理 問題を中心に23
信 され て しま う構造 もあ る。 海洋 資源 をめ ぐり度 々表面化 した社会紛 争 は、
ローカル な レベ ル に とどま らず ナ シ ョナ ルお よびグローバ ル とい う重層 的 な関係 性 の 中で、 ガ ラパ ゴス像 を増 幅 して しま う とい う事態 も生 まれ る。
この意 味で、 内外 の 関係性 や視線 の交錯 とい う状 況 を踏 まえて ガ ラパ ゴス (の人 間社会)の 現実 とイメー ジを捉 え、そ の資源管理や共生 のあ り方 を検 討 してい くことが不可 欠 と言 え よう。
ガ ラパ ゴスの学術 調査 は 日本 で も、生物 や生態系 に関す る自然科学調 査 を一部 の専 門家が 行い、近年 はエ コツー リズムに関す る組織調 査がな され、
2004年 か らは国際協力機構 を通 じた 日本政府の国際協力 も始 まっている(3q)。
こう した中で筆 者 に よる社会調 査 は、 ラテ ンアメ リカ地域研 究 の実践 を活 か し、 ガ ラパ ゴス の人 間社会 を全 体 的、構 造 的かつ動 態 的 に把 握す るこ と
を目指 してい る。 い うまで もな く、 人間社 会 の動 態 を全体 的か つ構 造的 に 把握 す る には、社会 の形成 と発展 の具体像 を探 り、 島民 の生活 や 自然保 護 と観 光の現状 と問題点 につ いて も理 解 を深 めてい く必要があ る。本稿 では、
島 ご とに存 在す る多 様 性や諸 島内 システ ムのゆ るやか な統 合 性 とい った面 につ いて はほ とん ど分析 す る ことはで きなか った。今後 とも、 エ クア ドル 大 陸部 の社 会変動 との 関連 に も考慮 しなが ら、資料収 集や現地 調査 を積 み
重ね て、 ガ ラパ ゴス人間社会の諸相 につい て考察 してい きたい。
付 記:本 稿 執筆 の基 に なっ た ガ ラパ ゴス調 査(2001年8‑9月 、2002年 8‑9月 、2003年8月 、2004年8月)に は、 平成13年 度 一16年 度科 学研 究
費補 助金基 盤研究(A)(1)「 現代 ペ ルーの社 会動 態 に関す る学 際 的調査研 究一 比較研 究のため の視角構 築 「」(研 究代表者 ・国立民 族学博物 館地域研 究 企画交流 セ ンター 山田睦男教授 お よび同セ ンター村 上勇 介助教授)に よ
る助成 を活用 した。記 して感謝 したい。
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注
(1)海 洋 資 源 と い う代 わ り に 水 産 資 源 と い う 言 い 方 も あ る が 、 こ こ で は 両 者 を 同 義 に 扱 う。
② オ ク タ ビ オ ・ラ トー レ 『ガ ラ パ ゴ ス の 呪 い 一入 植 者 の 歴 史 と悲 劇 』(新 木 秀 和 訳 、 図 書 出 版 社 、 1995年);OctavioLatorre,ElhombreenlasIslasEncantadas:」1Ylstorlahcrmanade
Galapagos(Quito:ProduccionGrafica,1999)を 参 照 。
{3}ChristopheGrenier,"ReseauxcontreNature.Conservation ,tourismeetmigra‑
LionsauxfilesGalapagos(Equateur}"(ThesedeDoctorat,UniversityParisIPan‑
theonSorbonne.,1996).筆 者 は こ の 博 士 論 文 の コ ピ ー を ダ ー ウ ィ ン 研 究 所 図 書 館 で 参 照 し た 。
{4)WillemA.Bron,"TowardsSustainabilityontheGalapagosIslands:TheImpli‑
cationsofUncontrolledDevelopment"(Thesis ,MasterofScienceinEnvironment Science,LundUniversity,Sweden,2000).
(5}PabloOspina,IdentrdadesenGalapagos:EIsentlmlentodeunadlferencra(Quito:
EdicionesTRAMA,2001).
{6)MichaelD'Qrso,PlunderingParadise:TheHandofManontheGalapagosIslands
(NewYork:HarperCollinsPublishers,2002)は 研 究 書 と い う よ り ル ポ 的 な 作 品 だ が 、 人 間 の 関 与 や 人 間 社 会 を 正 面 か ら ま と ま っ た 形 で 取 り上 げ て お り、 ナ マ コ 問 題 な ど に も言 及 が あ る。
(7)ス ペ イ ン語 版 の 」tnformeGalapagosと 英 語 版 のGalapagosReportが 出 版 さ れ 、 ガ ラ パ ゴ ス に 関 す る 各 種 の 調 査 報 告 な どが 掲 載 さ れ て い る 。 本 稿 で 扱 う 海 洋 資 源 関 係 の 報 告 や 社 会 調 査 の デ ー タ な ど は 参 考 に な る 。 た だ 残 念 な こ と に 財 政 難 か ら、 こ れ ら の 出 版 は2001‑2002 年 版 を も っ て 中 断 し て し ま っ て い る 。
(8)伊 藤 秀 三 『新 版 ガ ラ パ ゴ ス 諸 島 一 進 化 論 の 「ふ る さ と」』(中 公 新 書 、1984年);伊 藤 秀 三
『ガ ラパ ゴ ス 諸 島 一 世 界 遺 産 エ コ ツ ー リ ズ ム エ ル ニ ー ニ ョ』(角 川 選 書 、2002年).
(9)太 平 洋 経 済 協 力 会 議1(PECC)日 本 委 員 会 『太 平 洋 地 域 島 懊 部 に お け る 自 然 環 境 保 全 型 地 域 活 性 化 プ ロ ジ ェ ク トの 支 援 』(未 刊 行 中 間 報 告 書 、2000年4月);太 平 洋 経 済 協 力 会 議 (PECC)日 本 委 員 会 『AChallengeTowardsScientificCohabitation』(本 文 日 本 語 、 未 刊 行 中 間 報 告 書 、2001年7月17日 付);東 急総 合 研 究 所 「エ コ ツ ー リ ズ ム 研 究ver .2.0〜
先 進 事 例(ガ ラ パ ゴ ス ・コ ス タ リ カ)に 学 ぶ 』(1急 総 合 研 究 所 、2001年).
(10)西 原 弘 ・海 津 ゆ りえ 「「遺 産 」 と して の ガ ラ パ ゴ ス 諸 島 の 生 態孫 管 理 の 現 状 と課 題1(西 山 徳 明 編 『文 化 遺 産 マ ネ ジ メ ン ト と ッ ー リ ズ ム の 現 状 と 課 題 』 国 立 民 族 学 博 物 館 調 査 報 告51、
ガラパゴスにおける社会紛争一海洋資源管理問題を中心に 25
2004年)pp.229‑245.そ こ で は 「科 学 的 共 生 」 と い う 共 同 戦 略 が 提 唱 さ れ て お り、 こ れ は 資 源 の 共 同 管 理(下 記 の 注23参 照)と と も に検 討 に 値 す る 考 え 方 と言 え る 。
(11)秋 道 智 彌 ・岸 上 伸 啓 編 『紛 争 の 海 曽 水 産 資 源 管 理 の 人 類 学 』(人 文 書 院 、2002年);岸 上 伸 啓 編 『海 洋 資 源 の 利 用 と 管 理 に 関 す る 人 類 学 的 研 究 』(国 立 民 族 学 博 物 館 調 査 報 告46、2003 年).
(12)新 木 秀 和 「入 植 ・自然 保 護 ・観 光 一 ガ ラ パ ゴ ス 史 に お け る 人 と 自然 」 遅 野 井 茂 雄 ほ か 編 『ラ テ ン ア メ リ カ 世 界 を 生 き る 』(新 評 論 、2001年).
(13)新 木 、 同 上 論 文 、;ラ トー レ 、 前 掲 書 、 な ど を 参 照 。 (14)2003年 の 観 光 客 数 は 年 間9万5000人 の 水 準 を 超 え て い る 。
(15)19世 紀 初 頭 に エ ク ア ド ル 国 家 が 諸 島 を 領 域 に編 入 して 以 来 、 ガ ラ パ ゴ ス の い くつ か の 島 々 は 大 陸 部 か ら の 囚 人 の 流 刑 地 と し て 使 わ れ た き た 。20世 紀 に な っ て も こ の 姿 勢 は 変 わ ら ず 、 1959年(国 立 公 園 化 の 開 始 年)ま で イ サ ベ ラ 島 で は3つ の 流 刑 収 容 所(Coloniapenal)が
維 持 さ れ て きた 。 こ の 歴 史 的 事 実 は 銘 記 さ れ るべ きで あ ろ う 。 {16)JoseRodriguezRojas,"lntercambiodebienesentreGalapagosyelConinente",en
RevistaGeogr謳c4No.25,Agostodel98&
(17>「 進 化 論 の 島 」、 「生 物 の 楽 園 」 と い う ガ ラ パ ゴ ス の イ メ ー ジ は 、 科 学 と観 光 の 眼 差 し(外 部 の 視 線 》 が 絡 み な が ら 形 成 さ れ 再 生 産 さ れ て きた もの で あ り、 そ れ が 「人 間 が い な い 島 」 と か 「人 間 活 動 と 無 縁 な 島 」 と い う現 実 と異 な る ガ ラ パ ゴ ス 像 に つ な が っ て き た と言 え る 。 ガ ラ パ ゴ ス イ メ ー ジ の 形 成 過 程 を 歴 史 的 に 分 析 す る 作 業 が 必 要 で あ ろ う 。
(18)鶴 見 良 行 『海 の 道 』(鶴 見 良 行 著 作 集8、 み す ず 書 房 、2000年)pp94,111,163,165,248, 273,296.
(19)伊 藤 、 前 掲 書(2002年)、pp.175‑178、pp.236‑238で は ナ マ コ 漁 問 題 を 中 心 に 海 洋 資 源 を め ぐる 紛 争 に つ い て 詳 述 し て お り、 参 考 に な る 。
(20)こ こ で の 叙 述 は 、WilliamC.Burns,"SharksintheGalapagos",PenguinConserva‑
tionS(1),1995,p.13;BarryLopez,"Galapagosrescue",Defenders(September‑
October,1989)pp.10‑13;DougPerrine,"Galapagosfishareinthesoupn,Wildlife Conservation(1995),p.12;George‑Robertson,"SchoolingHammerheadsofthe Galapagos:threatenedNaturalTreasureoftheWorld",Ocean.Realm(dune,X994) pp.39‑41な ど を 参 照 した 。
{21)BruceStutz,"Theseacucumberwar",Audubon{May‑June,1995)pp.16,18.
(22)こ こ で の 叙 述 は 、 伊 藤 、 前 掲 書(2002年)、pp.175‑178、pp.23〔x238;M.JenkinsandT
Zs
Mulliken,"EvolutionofexploitationintheGalapagosIslands ,Ecuador'sseacu‑
cumbertrade",TRAFFICBulletin17=3(1999)pp」07‑118;;Stutz ,rbld.;Traffic AmericadelSur,Evaluaci6ndelcomerciodelPepinodelIVIar{Quito:TRAFFIC
AmericadelSur,2000)な ど を 参 照 。 ア ジ ァ の ナ マ コ に 関 す る 研 究 で 赤 嶺 は 、 ガ ラパ ゴ ス や メ キ シ コ 、 バ ハ カ リ フ ォ ル ニ ア な ど 南 北 ア メ リ カ 大 陸 沿 岸 部(二 非 伝 統 的 ナ マ コ漁 業 地 域)に お け る 干 ナ マ コ の 生 産 と 流 通 に も言 及 す る が 、 詳 細 な 分 析 は 行 っ て い な い(赤 櫛 淳
「干 ナ マ コ 市 場 の 個 別 性 一 海 域 ア ジ ア 史 再 構 築 の 可 能 性 」(岸 上 編 、 前 掲 書 、pμ268‑270)。
ナ マ コー 般 の 情 報 に つ い て は 、 鶴 見 良 行 『ナ マ コ 』(鶴 見 良 行 著 作 集9、 み す ず 書 房 、1999 年)を 参 照 。 な お 筆 者 は 、2004年8月 末 の サ ン タ ク ル ス 島 プ エ ル トア ヨ ラ 市 に お け る 現 地 調 査 で 、 捕 獲 した ナ マ コ を漁 民 が 水 揚 げ して 塩 茄 で す る 現 場 を 観 察 す る 機 会 を も っ た 。 (23)上 記 の 注llを 参 照 。
(24)秋 道 編 、 前 掲 書 、 序 章 、 と く にpp.19‑21;池 上 編 、 前 掲 書 、 第1部 序 論 、 と く にp .19を 参 照。
上 記 の 注10で 指 摘 し た 「科 学 的 共 生 」 と も 関 連 す る 。 (25)秋 道 編 、 前 掲 書 、p.16.
(26)ス ペ イ ン語 の 正 式 名 称 はLeydeRegimenEspecialparalaConservaci6nyDesarrollo
SustentabledeGalapagos(1998)で あ る 。 こ の 法 律 は 、 行 政 上 一 つ の 県 を な す ガ ラ パ ゴ ス 諸 島 を 国 立 公 園 で あ り保 全 す べ き生 態 系 で あ る と 規 定 し、 人 間 活 動 へ の 規 制 を 含 む 特 別 の 配 慮 を 定 め て い る 。
(27)ガ ラパ ゴ ス 特 別 法 の 内 容 分 析 に つ い て は 、 伊 藤 、 前 掲 書(2002年)、pp.223‑229;西 原 ・海 津 、 前 掲 論 文 、PP.233‑237を 参 照 。
(28)TheodoreMacdonald,"LosconflictosenlasIslasGalapagos:Anahsisyrecmen‑
dacionesparasumanejo"{PONSACS,CentrodeEstudiosInternacionales , HarvardUniversity,informenopublicado,1997);PhilippaHeylingsyManuel
Bravo,"ElsistemademanejoparticipativodelaReservaMarinadeGalapagos . principalesactividadesenano2001",enInformeGalapagos2001‑2002(Quito;
FundacibnNatura,WWF,2002)p.71.
(29)国 立 公 園 管 理 事 務 所 の 所 長 は 次 の よ う に2003年 の1年 間 で7人 も 交 代 し て い る 。 エ リ エ セ ル ・ク ル ス(2003年1月 ま で)→ マ ル コ ・ア ル タ ミ ラ ノ ・ベ ナ ビ デ ス → マ ル コ ・オ ヨ ス → エ ドガ ル ・ム ニ ョ ス → シ ク ス ト ・ナ ラ ン ホ → オ ス バ ル ド ・サ ラ ン ゴ → エ ド ウ ィ ン ・ナ ウ ラ
(2003年11月 か ら2004年9月 ま で)。
(30)こ こ で の 叙 述 は 、 国 際 協 力 機 構(JICA)ガ ラ パ ゴ ス 諸 島 海 洋 環 境 保 全 計 画 の 小 森 繁 樹 チ ー