九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
反応性スパッタリングによる(ZnO)x(InN)1-xの高品 質結晶薄膜の作製と発光特性の評価
宮原, 奈乃華
https://doi.org/10.15017/2534465
出版情報:九州大学, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
反応性スパッタリングによる (ZnO)
x(InN)
1-xの 高品質結晶薄膜の作製と発光特性の評価
宮原 奈乃華
i
目次
1. 序論 1
1.1 世界の情報通信量の動向 1 1.2 IT機器の消費電力 2 1.3 半導体集積回路技術における問題点 2
1.4 光の変調方式 3
1.5 エキシトントランジスタ 4 1.6 エキシトントランジスタの研究動向 5 1.7 エキシトントランジスタ実用化に向けた課題 6 1.8 ピエゾ電界誘起量子井戸 7 1.9 酸窒化インジウム亜鉛 (ZnO)x(InN)1-x (ZION) 7
1.10 ZION薄膜作製における課題 11
1.11 本研究の目的と論文構成 12
2. サファイア基板上への表面平坦(ZnO)x(InN)1-x膜の作製 14
2.1 はじめに 14
2.2 実験方法 15
2.3 低温形成ZIONバッファー層の表面モフォロジー 16 2.4 低温形成ZIONバッファー層の結晶性評価 17 2.5 低温形成ZIONバッファー層上ZION膜の表面モフォロジー 18 2.6 低温形成ZIONバッファー層上ZION膜の結晶性評価 19
2.7 結論 21
ii
3. サファイア基板上へのエピタキシャル(ZnO)x(InN)1-x膜の作製 22
3.1 はじめに 22
3.2 実験方法 23
3.3 ZION膜のエピタキシャル成長 23
3.4 ZION膜の表面モフォロジーの時間発展 31
3.5 膜組成がエピタキシャルZION膜に与える効果 35
3.6 ZION膜の2段階成長 37
3.7 2段階成長法で作製したZION膜の表面モフォロジー: 時間発展 38
3.8 2段階成長法で作製したZION膜のエピタキシャル成長 41
3.9 結論 44
4. ZnOテンプレート上への InN-rich (ZnO)x(InN)1-x膜の作製 46
4.1 はじめに 46
4.2 実験方法 46
4.3 ZION膜の膜組成評価 47
4.4 ZION膜の表面モフォロジー 48
4.5 ZION膜の光学特性 49
4.6 ZION膜の結晶性評価 51
4.7 ZION膜の電気特性 53
4.8 結論 55
5. 成膜位置がZION膜に与える効果: on-axis, off-axis 56
5.1 はじめに 56
5.2 実験方法 57
5.3 ZION膜のエピタキシャル成長 58
5.4 ZION膜の表面モフォロジー 59
5.5 ZION膜の結晶性評価 59
5.6 結論 62
iii
6. (ZnO)x(InN)1-x膜のフォトルミネッセンス 63
6.1 はじめに 63
6.2 フォトルミネッセンス (PL: Photoluminescense)法 63
6.3 実験方法 64
6.4 ZION膜の結晶性評価 65
6.5 ZION膜のフォトルミネッセンス 69
6.6 ZION膜のフォトルミネッセンス: レーザー入射角依存性 72
6.6 結論 75
7. 結論 76
7.1 本研究の結論 76
7.2 今後の課題 77
付録A 窒素添加結晶化法 79
A.1 はじめに 79
A.2作製方法 80
A.3 窒素添加によるZnOバッファー層の作製 81
A.4 ZnOバッファー層上単結晶ZnOの作製 83
付録B 受賞一覧 86
参考文献 88
謝辞 92
1
第 1 章
序論
1.1 世界の情報通信量の動向
様々なものがインターネットにつながるIoT (Internet of Things), インターネッ ト経由でWebサービスを利用するクラウド,10Gbpsもの超高速通信が可能にな
る5G (第5世代移動通信システム)技術の普及により,ビッグデータの時代を迎
えている.
それに伴い世界の情報通信量は2年で約2倍ずつ増加しており,2017年から 2022年にかけてのCAGR (Compound Annual Growth Rate)は46%にものぼる (図 1.1).世界の情報通信量は2022年には1ヶ月あたり77 EB (エクサバイト: 1018 B) となり,今後も情報通信量の更なる増大が予測される.1)
図1.1 情報通信量の推移予想.(出展: Cisco Visual Networking Index: Global Mobile Data Traffic Forecast Update, 2017–2022 White Paper )
2
1.2 IT機器の消費電力
情報通信量の増加に伴い,情報を処理するためのIT機器の消費電力の増加が 問題になっている.経済産業省の電力消費量の予想資料において,国内のIT機 器消費電力は2006年の470憶 kWhから2050年の5600憶 kWhと約12倍に増 加すると予想している(図1.2).2)
データセンターにおけるIT機器の電力消費量は約30%であり,IT機器運用の ための冷却用設備に必要な電力消費量は約45%を占めている.
さらに国内総消費電力に占めるIT機器関連の消費電力は約20%と非常に大き く,情報社会の継続的な発展を維持するためにも,省電力化が必要である.
図1.2 国内のIT機器消費電力量の推移予測.
(出展: 経済産業省 グリーンITイニシアティブ会議資料)
1.3 半導体集積回路技術における問題点
ビッグデータが実現する人工知能(AI: Artificial Intelligence), 仮想現実(VR:
Virtual Reality), 拡張現実(AR: Augmented Reality)などのアプリケーションやサー ビスには,大量のデータを省エネルギーで高速に処理する半導体が求められて おり,これに対応すべく大規模集積回路(LSI)などのデバイスを高速化・高性能 化し,情報通信技術(ICT: Information and Communication Technology)等も進化して きた.
その中でも LSI はこれまでに主として微細化により高速化・高性能化を実現 してきた.3)しかし微細化・高集積化の進展に伴い,LSI 内電気配線における信
3
号遅延・消費電力の増大が課題となっている.微細配線では配線の断面積が小さ くなるだけでなく,隣接する配線との距離が短くなり,電気配線の抵抗と寄生容 量が増加するからである.
このような背景からLSI内電気配線の光配線への置き換えが注目されている.
電気配線を光配線に置換することで伝送速度の向上・消費電力の低減が可能で ある.しかし,光配線を導入した場合,光配線とトランジスタ間でE (電気信号)/O (光信号)変換を行う必要があり,これに伴う信号遅延や消費電力がボトルネック となっている.
1.4 光の変調方式
光を変調する方法は大別して,直接変調方式と外部変調方式がある.直接変調 方式は光源である半導体レーザーへの注入電流を変調することで,出力光を変 調する.外部変調方式は半導体レーザーへの注入電流は一定であり,この半導体 レーザーの出力光に外部から変調を加える.
直接変調の場合,デバイス構造が簡単であり小型化が可能といった利点があ るが,高速動作させると発振波長の時間的な変動(チャーピング)が生じ,高速動 作に限界がある.
一方,外部変調方式ではチャーピングが少なく,10 GHz以上の高速動作が可 能である.外部変調方式において半導体レーザーからの光を変調する変換器に は,ニオブ酸リチウム(LiNbO3: LN)や有機電気光学ポリマーなどの誘電体材料に よる電気光学効果を利用したものと,半導体の電界吸収効果を利用したものが
ある.4)-6)この方式は,素子サイズが数µm~数cmと大きく高集積化に課題があ
る.
このように,現在主流の E/O 変換器においては高速動作化と高集積化の両立 はトレードオフの関係にある.この問題の解決策の一つとしてエキシトントラ ンジスタが提案されている(図1.3).
4
図1.3 現在主流のE/O変換器とエキシトントランジスタの 動作速度と素子サイズの比較.
1.5 エキシトントランジスタ
エキシトントランジスタは,半導体量子井戸内に生成されたエキシトン(クー ロン力で緩く束縛された電子―正孔対)をキャリアとする新しい原理のE/O変換 デバイスである.7)-16)
エキシトンは光との相互作用が速く,LSI 内 E/O 変換において高速動作が実 現できる.また,デバイスの小型化も容易であるため,従来の E/O 変換器では 不可能であった高速動作化と高集積化の両立が可能である.
エキシトントランジスタの構造および動作原理を図1.4 (a), (b)に示す.このデ バイスでは,光励起により生成したエキシトン流をゲート電圧によりスイッチ ングし,ドレイン領域でエキシトンを再結合させることで光信号に変換する.
具体的には,まず光源からの光をエキシトントランジスタのソース領域に入 射する.このとき,光子エネルギーが井戸層バンドギャップよりも大きければ光 が吸収され,電子-正孔対からなるエキシトンが生成する.
次にソース領域およびドレイン領域に異なる大きさの電圧を印加すると,エ キシトンの双極子エネルギーポテンシャルの勾配が与えられ,エキシトン流が 生成する.
5
エキシトン流のオンオフは,ゲート電圧とソース電圧の大小関係を制御する ことで行う.
最後に,ドレイン領域まで到達したエキシトンが再結合することによって光 信号として出力される7).
図1.4 エキシトントランジスタの(a)デバイス構造,(b)動作原理.
1.6 エキシトントランジスタの研究動向
エキシトントランジスタを実現する材料として GaAs 系材料が研究されてい る.しかしGaAs系材料はエキシトン束縛エネルギー(電子–正孔対を解離するた めに必要なエネルギー: 4.3 meV)が室温の熱エネルギー(26 meV)よりも小さく,
再結合確率が高いため,デバイス動作は難しい.単一量子井戸型(図1.5 (a))では,
通常エキシトン寿命が短く(<1 ns),多くのエキシトンがドレインに到達する前に 消滅する.従って,単一量子井戸型のエキシトントランジスタは動作実証の報告 例がない.
エキシトントランジスタの動作実証が初めて報告されたのは 2007 年である.
7)動作実証に成功したカリフォルニア大学サンディエゴ校のButovらの研究グル ープは図1.5 (b)に示す2重量子井戸構造を用いた.12)
Butovらが用いた 2重量子井戸構造では障壁層をはさんで電子–正孔対を生成
することにより再結合を抑制し,エキシトン流生成を実現した.初めて動作実証 を報告した2007年には1.4 Kの極低温でしか動作実証されていないが,2009年 には障壁層の厚さを3 nmまで薄くし束縛エネルギーを増加させることで125 K での動作実証が可能になっている.8)
6
障壁層の厚さを薄くすることで更なる動作温度の高温化が望めるが,トンネ ル効果によってエキシトン再結合確率が増加してしまうため,障壁層の薄膜化 には限界がある.このように現状ではエキシトントランジスタは極低温でしか 動作できないため,実用化の目途は立っていない.
図1.5 (a) 単一量子井戸構造,(b) 2重量子井戸構造.
1.7 エキシトントランジスタ実用化に向けた課題
先に述べたように,エキシトントランジスタはGaAs系の材料で2重量子井戸 構造を用いたものが研究されてきた.しかし,従来の半導体材料を用いたエキシ トントランジスタではエキシトン束縛エネルギーと再結合確率がトレードオフ の関係にあり,実用化に向けた動作温度の高温化は困難である.この問題を解決 するために高い束縛エネルギーと低い再結合確率を両立する新デバイス構造お よび新規半導体材料が求められる.
7
1.8 ピエゾ電界誘起量子井戸
最近,高い束縛エネルギーと低い再結合確率を両立する構造として,ピエゾ電 界誘起量子井戸構造が提案された(図 1.6).17)ピエゾ電界とは,格子定数の異な る圧電性の材料で量子井戸を形成した際に,結晶構造の歪みにより発生する電 界のことである.量子井戸層にピエゾ電界が発生させることで電子–正孔の波動 関数を空間的に分離することができるため,単一量子井戸構造のような狭い量 子井戸内でもエキシトンが室温程度まで存在でき,長寿命化が可能となる.また,
2 重量子井戸構造のようにエキシトン束縛エネルギーが減少する原因となる障 壁層を挿入する必要がないので,高い束縛エネルギーを保持できる.
図1.6 ピエゾ電界誘起量子井戸構造.
1.9 酸窒化インジウム亜鉛: (ZnO)x(InN)1-x (ZION)
(ZnO)x(InN)1-x (ZION)は,酸化亜鉛(ZnO)と窒化インジウム(InN)から成る擬2元 系混晶材料である.18)-26)
前節で述べたピエゾ電界誘起量子井戸構造を実現するための材料として圧電 定数が大きい材料が求められる.ピエゾ電界の大きさは材料の圧電定数の大き さに比例するためである.
表1.Iにエキシトントランジスタに用いられる主な化合物半導体の圧電定数の 比較を示す.ZIONはe33~1 C/m2の圧電定数を有し,量子井戸を形成した際に
数MV/ cmの大きなピエゾ電界を比較的容易に発生する.ピエゾ電界がエキシト
ン寿命に与える影響を調べるために,AlGaAs/GaAs,InGaN/GaN,ZION/ZnOの 3 つの材料系に対してシミュレートしてエキシトンの再結合レートを求めた結 果を図 1.7 に示す.シミュレーションソフトウェアは SiLENSe を用いた.
8
ZION/ZnO量子井戸では1010 cm-2と高い転位密度を仮定したにも関わらず,他の
材料より2~3 桁低い再結合レートであり,量子井戸内でのエキシトン寿命は1 μsec を超える 17).このように量子井戸内で発生するピエゾ電界によりエキシト ンの再結合が抑制されるため,エキシトンの長寿命化が可能である.
さらに,遠距離通信用の近赤外光から近距離通信用の可視光まで,広い波長帯 域においてバンドギャップチューニングが可能である材料がエキシトントラン ジスタ材料として望ましい.
ZIONは図1.8 (a), (b)に示すように組成比を制御することでバンドギャップ制
御が可能である.また,エキシトン束縛エネルギーが30–60 meVと高く,室温 (26 meV)でもエキシトンが安定して存在できる.バンドギャップは直接遷移型で あり,高い光吸収係数(105 cm-1)を示すため高いエキシトン生成効率が期待され
る(図 1.9).25)ZION の組成比変化に対するバンド構造は図 1.10 に示すように変
化する.27)
表1.I 材料別の圧電定数 材料 圧電定数e33[C/m ]
GaAs 0.03
GaN 0.6
ZION 1
図1.7 再結合レートのシミュレーション結果.
(図中括弧内の数字は仮定した転位密度を示す)
9
図1.8 ZION膜の(a) バンドギャップの[Zn]/([Zn]+[In])依存性,(b) 光透過率.
図1.9 ZION膜の光吸収係数.
10
図1.10 ZIONの組成比変化に対するバンド構造.
11
1.10 ZION薄膜作製における課題
先に述べたように,ZIONはエキシトンデバイスのための有望な材料となっ ている. エキシトンデバイス実現のためには高品質な単結晶を格子不整合が 少ない基板上にエピタキシャル成長する必要があるが,ZnOとInNは混和性が 低く,熱平衡下で合成不可能であるためすべての組成領域においてZIONの格 子整合基板は存在しない.従って,デバイス応用可能なレベルの高品質薄膜作 製は困難である.
エピタキシャル成長とは,基板結晶上に同じ方位関係を持った結晶層を成長 させることである.
エピタキシャル結晶をそれと同じ格子定数を持った同質の結晶基板の上に成 長させる場合を,ホモエピタキシャル成長と呼ぶ.この場合には基板結晶と基 板上結晶の格子定数が一致し,格子整合しているため,最も欠陥の少ない良質 な結晶が得られる.
一方,エピタキシャル結晶と基板結晶の格子定数が異なったり,結晶方位や 材質が異なった場合の成長をヘテロエピタキシャル成長と呼ぶ.この場合は,
両者の格子定数の違いが小さい場合には欠陥の少ない良質な結晶が得られる が,格子定数の違いが大きくなると両者の界面から欠陥が入るため,良質な結 晶を得ることは困難である.
基板とエピタキシャル膜の格子定数の差Δαと基板の格子定数αの比Δα/αを 格子不整合率という.格子不整合があると、歪みによって転位が発生するな ど,結晶の成長モードに影響を与える.
エピタキシャル成長の結晶成長モードは図1.11に示すように3つのモードに 分類される.28), 29)
格子不整合率が小さい系の場合,基板表面に形成されて2次元核が成長して 表面全体を覆い,再びこの過程を繰り返して成長層が1原子層ずつ規則正しく 層状に成長するFrank-van der Merwe (FM)モードとなる.
格子不整合率が比較的大きく,表面エネルギーおよび界面エネルギーの比較 的小さな材料系では,成長初期は2次元核から層状に成長し,ある膜厚を超え ると3次元的な島が形成されるStranski-Krastanov (SK)モードとなる.この場 合,格子不整合により生じた薄膜結晶内部の歪みに起因する転位の形成や3次 元島の形成が起こるため,単結晶の作製は困難である.格子不整合率の大きい
12
ヘテロエピタキシャル成長では,成長初期から3次元核成長が起こるVolmer- Weber (VW)モードとなる.
このため,SKモードおよびVWモードでは単結晶の作製が困難だが,格子 不整合による歪を緩和したり,ミスフィット転位を入りにくくするために,基 板とエピタキシャル層の間にバッファー層を挿入して格子不整合の影響を減ら す工夫がなされている.30)-34)
図1.11 エピタキシャル成長の結晶成長モード.
(a) FMモード,(b) SKモード,(c) VWモード.
1.11 本研究の目的と論文構成
上述のように,ZIONはその特性から情報通信の高速化・低消費電力化にブレ イクスルーをもたらすエキシトントランジスタ材料として期待されているが,
格子整合基板が存在しないため,デバイス応用可能な高品質単結晶作製は困難 である.エキシトントランジスタ実現のためには,格子不整合基板上における ZION膜のスパッタエピタキシー技術の確立が必要不可欠である.
本研究室ではこれまでに,スパッタリングプラズマ中のラジカル計測結果に 基づいた緻密な組成制御によりZnO テンプレート上へのZIONのヘテロエピタ キシーに成功している.しかし,バルクZnO やZnOテンプレートのようなZION 用の格子整合基板は高価である.また,前述の基板を用いてもZION膜が一定の 膜厚まで成長すると,格子不整合により生じた歪に起因する転位の形成や,歪エ ネルギーを緩和するための 3 次元島形成が起こる.デバイス応用への課題が残 されている.
本研究では,低コストで大面積基板が入手可能なサファイア基板上へのZION 膜スパッタエピタキシーの実現を目的とした.
13
本論文は,7章から構成されている.
第 1 章では,本研究の背景およびエキシトントランジスタの実用化に向けた 課題を述べ,この問題を解決するための「ピエゾ電界誘起量子井戸構造」,
「(ZnO)x(InN)1-x (ZION)」について説明した.
第2章では,サファイア基板上へZION膜を作製する際に,低温で作製した高 密度3次元島ZIONバッファー層を挿入することで,表面平坦ZION膜を実現し た.
第 3 章では,サファイア基板上 ZION 膜作製時の基板温度が結晶成長初期の 核形成に与える影響について述べた,この結果から,サファイア基板上への ZION膜エピタキシャル成長において,核形成および膜組成の精緻な制御が必要 であることを明らかにした.また,世界で初めてサファイア基板上へのZION膜 ヘテロエピタキシャル成長を実現させた.
第4章では,ターゲットおよび気相からの原子・分子フラックス制御により,
ZnO テンプレート上への(ZnO)0.73(InN)0.27–(ZnO)0.85(InN)0.15 薄膜エピタキシャル 成長が実現できることを明らかにした.
第5章では,ZION膜作製時の成膜位置が,ZION膜に与える効果を明らかに した.さらに,off-axis成膜により ZION膜中の刃状転位密度が約2桁減少する ことを示し,欠陥の少ない(ZnO)0.82(InN)0.18 薄膜のコヒーレント成長を実現させ た.
第 6 章では,ZnO テンプレート上の ZION 膜のフォトルミネッセンスを評価 した結果を述べた.基板へのHe-Cdレーザー入射角を変化させた場合のフォト ルミネッセンスについて評価を行い,観察されたフォトルミネッセンスがZION 膜からの発光であることを明らかにした.これらの結果は,ZIONがエキシトン トランジスタ材料として有望であることを示している.
第 7 章では,本研究によって得られた結論をまとめ,今後の課題について述 べた.
14
第 2 章
サファイア基板上への表面平坦 (ZnO)
x(InN)
1-x膜の作製
2.1 はじめに
バルクZnO のようなZION用の格子整合基板は高価であるため,低コストで の実現が求められる.しかし,サファイア基板と ZION との格子不整合率(18–
29%)が大きく高品質単結晶 ZION 膜の作製は困難であり,これを可能にする結
晶成長手法の確立が必要である.
これまでの研究において基板とエピタキシャル層の間にバッファー層を挿入 して格子不整合の影響を減らす工夫がなされている.
本 研 究 室 で は 独 自 手 法 で あ る 窒 素 添 加 結 晶 化 法(Nitrigen Mediated Crystallization: NMC)を用い,逆SK (Stranski-Krastanov)モードという新しい結晶 成長モードでサファイア基板(格子不整合率 18%)上に単結晶 ZnO 薄膜を作製す ることに成功している.35)-39)
NMC法では,結晶成長初期に窒素を添加することで結晶核形成を制御し,サ ファイア基板上へ格子不整合による歪を緩和するバッファー層を形成する.こ のとき,格子不整合による歪を粒界で緩和するために高密度 3 次元島を有する バッファー層を形成することが重要である.
本章では,高密度3次元島ZIONバッファー層を低温で作製することでZION 膜と基板間の格子不整合を緩和し,単結晶ZION膜の作製を試みた.
15
図2.1 逆SKモードの模式図.
2.2 実験方法
本研究ではRFマグネトロンスパッタリング法により,ZION膜を作製した.
スパッタリングガスにはAr,N2およびO2ガスを用いた.ガス圧は0.27 Paとし た.スパッタリングターゲットにはZnO (2インチΦ,3t,純度99.99%)およびIn (2インチΦ,3t,純度99.99%)ターゲットを用いた.入力電力は12–80 Wとした.
基板にはa面サファイア基板とc面サファイア基板を用いた.まずZION膜と基 板間の格子不整合を緩和してヘテロエピタキシーを実現するために a 面および c 面サファイア基板上に高密度結晶粒からなるバッファー層を形成した.この ZION 膜の低温形成バッファー層は基板温度室温(RT)において 30 nm作製した.
次に,低温バッファー層上に基板温度 350ºC で ZION 膜を 700 nm 堆積した.
ZION膜組成は(ZnO)0.92(InN)0.08とした.
2.3 低温形成ZIONバッファー層の表面モフォロジー
まず,高密度 3 次元島の形成を確認するために低温で形成した ZION 膜の表 面モフォロジーをAFM観察した.
図2.2 に a 面サファイア基板(格子不整合率 3%),c 面サファイア基板(格子不 整合率18%),およびぞれぞれの基板上にRTで作製したZION膜の表面AFM像 を示す.a面,c面ともに高密度3次元島からなる低温形成ZIONバッファー層 が得られている.一方,AFM像より求めた表面高さ分布 (図2.3)では,a面サフ ァイア基板上 ZION 膜において表面高さ分布が対称性のあるシャープなピーク であるのに対し,c面サファイア基板上ZION膜では高Z側にショルダーがある 非対称なピークが観察された.よって,c面サファイア基板上のZION膜の核形 成はa面サファイア基板上に比べて,不均一であると考えられる.
16
図2.2 (a) a面サファイア基板,(b) a面サファイア基板上ZION膜,(c) c面サフ ァイア基板,(d) c面サファイア基板上ZION膜の表面AFM像.
図2.3 (a) a面サファイア基板上ZION膜,(b) c面サファイア基板上ZION膜の 表面高さ分布.
17
2.4 低温形成ZIONバッファー層の結晶性評価
次に,a面およびc面サファイア基板上に作製した低温形成ZIONバッファー 層の配向性を調べた.図2.3に膜厚10, 20, 40 nmのZION膜のX線回折(002)面 2θ-ωスキャンを示す.38.4ºの回折ピークはサファイア(101)面(図2.4 (a)),41.7º の回折ピークはサファイア(006)面のピークである(図2.4 (b)).a面およびc面サ ファイア基板上それぞれの ZION 膜において,33.7º に観察されるピークは
ZION(002)面の回折ピークである.それ以外のピークは観察されず,ZION 膜が
c軸に優先配向していることが分かる.
図2.4 膜厚10, 20, 40 nmのZION膜の(002)面2θ-ωスキャン (a) a面サファイア 基板上ZION膜,(b) c面サファイア基板上ZION膜.
さらに,ZION膜(002)面ロッキングカーブから,ZION膜のチルトを評価した.
図2.5に膜厚10, 20, 40 nmのZION膜の(002)面ロッキングカーブを示す.a面お よび c 面サファイア基板上 ZION 膜それぞれにおいてシャープなピークとブロ ードなピークが観察された.シャープなピークは ZION 膜の膜厚の増加に伴い 減少した.この場合,図2,6に示す模式図が考えられる.シャープなピークは2 次元成長した ZION 膜の層であり,膜厚の増加に伴い格子不整合に起因する歪 みエネルギーが蓄積され,ある一定の膜厚(臨界膜厚)で 3 次元成長をはじめる.
このとき,3次元成長をしているZION膜がブロードなピークとして観察される.
40)このことから,低温形成ZIONバッファー層の結晶成長モードはSKモードで あると考えられる.
18
図2.5 膜厚10, 20, 40 nmのZION膜の(002)面ロッキングカーブ (a) a面サファ イア基板上ZION膜,(b) c面サファイア基板上ZION膜.
図2.6 膜厚10, 20, 40 nmのZION膜の模式図.
2.5 低温形成ZIONバッファー層上ZION膜の表面モフォロジー
低温形成ZIONバッファー層上に作製したZION膜の表面AFM像を示す (図 2.7).RMSラフネスは a面サファイア基板上ZION 膜において0.62 nm,c面サ ファイア基板上 ZION 膜では 10.5 nm となり, a 面サファイア基板上において 優れた表面平坦性を有する ZION 膜が得られた.表面モフォロジーに顕著な差 が現れたのは,基板面方位の違いが低温形成 ZION バッファー層中の初期核形 成の均一性に影響を与えたためと考えられる.
19
図2. 7 低温形成ZIONバッファー層を挿入したZION膜のAFM像,
(a) a面サファイア基板上,(b) c面サファイア基板上.
2.6 低温形成ZIONバッファー層上ZION膜の結晶性評価
次に,低温形成ZIONバッファー層上に作製したZION膜の配向性を調べた.
図2.7に膜厚10, 20, 30, 40 nmのバッファー層上およびバッファー層なしで作製 したZION膜の X線回折(002)面2θ-ωスキャンを示す.38.4ºの回折ピークはサ ファイア(101)面 (図2.8 (a)),41.7ºの回折ピークはサファイア(006)面のピークで ある(図2.8 (b)).a面およびc面サファイア基板上それぞれのZION膜において,
34.0º 付近に観察されるピークは ZION(002)面の回折ピークである.それ以外の
ピークは観察されず,ZION膜がc軸優先配向していることが示される.
図 2.8 異なる膜厚のバッファー層上に作製した ZION 膜の(002)面 2θ-ω スキャ ン,(a) a面サファイア基板上ZION膜,(b) c面サファイア基板上ZION膜.
20
さらに,ZION膜(002)面ロッキングカーブから,ZION膜のチルトを評価した.
図2. 9に膜厚10, 20, 30, 40 nmのバッファー層上およびバッファー層なしで作製
した ZION 膜の(002)面ロッキングカーブを示す.また,それぞれの ZION 膜の
(002)面ロッキングカーブ半値幅を図2. 10 に示す.a 面サファイア基板上,c面
サファイア基板上の ZION 膜のロッキングカーブ半値幅はともに,膜厚の増加 に関わらずほぼ一定であり,バッファー層の膜厚の影響を受けないことが分か った.一方,a面サファイア基板上に作製したZION膜の半値幅は,c面サファ イア基板上に作製した ZION 膜の半値幅に比べて小さく,高い面外配向性を有 している.
図 2.9 異なる膜厚のバッファー層上に作製した ZION 膜の(002)面ロッキングカ ーブ,(a) a面サファイア基板上ZION膜,(b) c面サファイア基板上ZION膜.
図2.10 異なる膜厚のバッファー層上に作製したZION膜の(002)面ロッキング
カーブ半値幅.
21
2.7 結論
本章では,低温形成ZIONバッファー層の挿入がZION膜形成に与える影響に 関して報告した.
まず,高密度 3 次元島を有する低温バッファー層を挿入することで a 面サフ ァイア基板上にRMSラフネス0.62 nmの優れた表面平坦性を有するZION膜を 得た.
さらにZION膜の(002)面ロッキングカーブ半値幅はa面サファイア上で0.90º,
c面サファイア基板上で1.23ºとなり,a面サファイア基板上に作製したZION膜 は c 面サファイア基板上に作製した ZION 膜に比べて高い面外配向性を示すこ とが分かった.
22
第 3 章
サファイア基板上へのエピタキシャル (ZnO)
x(InN)
1-xの作製
3.1 はじめに
前章では,高密度3次元島を有する低温形成ZION膜を作製することで,サフ ァイア基板上に表面平坦ZION膜を作製した.
格子不整合率が大きい系のエピタキシャル成長としては赤崎,天野らによっ て報告されたサファイア基板上 GaN (格子不整合率 16%)が挙げられる.32)-34)サ ファイア基板上にGaNを成長させる際,まず低温バッファー層を形成し,低温 バッファー層上に GaN を結晶成長させることで単結晶 GaN を得た報告例であ る.この結晶成長過程では,まず非晶質のバッファー層内に微小結晶が形成され,
この結晶を核としてGaN単結晶が成長する.最終的には横方向成長が支配的に なり,GaN 単結晶島同士が合体して表面平坦性の高い単結晶 GaN が得られる.
この過程において核形成が重要である.
本章では格子不整合基板上における ZION 膜の高品質スパッタエピタキシー の実現を目指した.具体的には ZION 膜作製時の基板温度を制御することで成 長初期の核形成制御を試みた.
23
3.2 実験方法
ZION膜はRFマグネトロンスパッタリング法で作製した.実験はコンビナト リアル法を用いて行った.基板にはc面サファイアを用いた.ターゲットはZnO とInを用い,スパッタリングガスとしてAr, O2, N2を使用した.ガス圧力は0.50 Pa, 基板温度は室温(RT),200,400,450oCとした.ZION膜の膜厚は2–400 nm とした.ZION膜組成は(ZnO)0.70(InN)0.30– (ZnO)0.97(InN)0.03とした.
また,サファイア基板上に450ºCで膜厚6 nmの初期成長層を作製した後,初 期成長層上に100ºCで膜厚300 nmのZION膜作製を行う2段階成長を行った.
3.3 ZION膜のエピタキシャル成長
まず,ZION 膜と c 面サファイア基板のエピタキシャル関係を調べるために,
面内非対称面のφスキャンを測定した.図3.1に基板温度RT, 200ºC, 400ºC, 450ºC で作製したZION膜のXRD(101)面φスキャンを示す.室温(RT)で作製したZION 膜ではピークが観察されず,c面サファイア基板とのエピタキシャル関係はなか った.一方,200ºC, 400ºC, 450ºCで作製したZION膜のφスキャンにおいて六回 対称性を示すピークが明瞭に観察された.ZION膜とc面サファイア基板の六回 対称性を示すピーク角度は一致しており,30 度回転ドメインは観察されなかっ た.すなわち,200ºC, 400ºC, 450ºCで作製したZION膜は,サファイア基板に対 しエピタキシャル成長している.
図3.1 基板温度RT, 200ºC, 400ºC, 450ºCで作製したZION膜および c面サファイア基板の(101)面φスキャン.
24
図3.2にZION膜成膜速度の基板温度依存性を示す.ZION膜の成膜速度は基 板温度の増加に伴い減少する.これは基板温度の増加により成長表面の Zn, In, O, N原子の脱離が促進されたことで,ZION膜の形成速度が遅くなったためだと 考えられる.
図3.2 成膜速度の基板温度依存性.
次にエピタキシャル成長しているZION膜について透過型電子顕微鏡 (Transmission Electron Microscope: TEM)観察を行った.図3.3に450ºCで作製し た膜厚30, 100, 200, 300 nmのZION膜のTEM像を示す.
結晶成長初期では,サファイア基板とZION膜の結晶軸が揃っており,
XRD(101)面φスキャンが示すとおりサファイア基板に対してZION膜がエピタ
キシャル成長していることが分かった.さらに膜厚を増加させると結晶軸が傾 き,ZION膜は50–100 nm程度の結晶粒からなる多結晶が形成されることが観 察された.
また,エネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectrometry: EDS) において,ZION膜の構成元素であるZn, O, In, Nが含有されていることが分か った(図3.4-7).図3.8に膜厚30. 100, 200, 300 nmのZION膜の組成の変化を示 す.膜厚の増加に伴いZION膜はZnO richになる傾向にある.図3.7のInの断 面EDS定量マップにおいても,膜厚方向にInの分布が観察された.この結果 より,Inの偏析が結晶軸の傾きの起点となっている可能性が示唆される.
0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30
0 100 200 300 400 500
deposition rate (nm/s)
temperature (oC)
25
図3.3 ZION膜のTEM断面図.膜厚(a) 30 nm, (b) 100 nm, (c) 200 nm, (d) 300 nm.
26
図3.4 膜厚30 nmのZION膜の(a) 断面EDS定量マップ,
(b) 定量分析スペクトル.
27
図3.5 膜厚100 nmのZION膜の(a) 断面EDS定量マップ,
(b) 定量分析スペクトル.
28
図3.6 膜厚200 nmのZION膜の(a) 断面EDS定量マップ,
(b) 定量分析スペクトル.
29
図3.7 膜厚300 nmのZION膜の(a) 断面EDS定量マップ,
(b) 定量分析スペクトル.
30
図3.8 ZION膜組成の膜厚依存性.
0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0
0 50 100 150 200 250 300 350
[Zn]/[Zn]+[In] [O]/[O]+[N]
thickness (nm)
31
3.4 ZION膜の表面モフォロジーの時間発展
サファイア基板上にエピタキシャル成長した ZION 膜の結晶成長様式を明ら かにするため,結晶成長初期において ZION 膜の表面モフォロジー時間発展の 観察を行った.
図3.9にZION膜の表面AFM像を示す.さらに,図3.10に膜厚の増加に対す るRMSラフネスの変化を示す.RTで作製したZION膜のRMSラフネスは膜厚 の増加に伴い徐々に増加している.RT成膜では典型的な3次元成長をしている と考えられる.一方で,450ºCで作製した ZION膜のRMSラフネスは換算膜厚 6 nmで極大値となり,その後膜厚の増加に伴いRMSラフネスが減少し,原子レ ベルで平坦な膜に成長した.基板温度450ºC では 3 次元島から 2次元成長に移 行したことが示唆された.
図3.11に表面AFM像から求めた表面高さ分布を示す.室温で作製したZION 膜の高さ分布は膜厚の増加に伴い徐々にブロードになっている.RT成膜では典 型的な3次元成長をしていると考えられる.一方で,450ºCで作製したZION膜 の高さ分布は換算膜厚6 nmで極大値となり,その後膜厚の増加に伴い再びシャ ープな高さ分布となった.
この過程では,まず初期核形成が起こる.高さ分布のピークがシャープなため 高さが均一な核形成が起きていると考えられる.次に,膜厚の増加に伴い高さ分 布がブロードになる.このとき,高Z 成分と低Z成分が観察される.この結果 より成長速度が速い結晶面と遅い結晶面が同時に存在していることが示唆され る.最終的にはサファイア基板に対して面方位が揃った結晶面が優先的に成長・
融合したことでエピタキシャル成長が実現したと考えられる.この過程で 3 次 元島から 2 次元成長への遷移が起こるメカニズムはまだ明らかにされていない が,結晶成長初期における核形成の精緻な制御が格子不整合基板上へのZION膜 エピタキシャル成長の鍵であるといえる.
32
図3.9 ZION膜の表面AFM像
33
図3.10 膜厚の増加に対するRMSラフネスの変化.
0 5 10 15 20 25
RT 450oC
0.0 0.5 1.0 1.5
RMS roughness (nm)
thickness (nm)
34
図3.11 ZION膜の表面AFM像より求めた表面高さ分布.
1×101 1×100 1×10-1 1×10-2
1×101 1×100 1×10-1 1×10-2
1×101 1×100 1×10-1 1×10-2
1×101 1×100 1×10-1 1×10-2
1×101 1×100 1×10-1 1×10-2
1×101 1×100 1×10-1 1×10-2
1×101 1×100 1×10-1 1×10-2
1×101 1×100 1×10-1 1×10-2
1×101 1×100 1×10-1 1×10-2
1×101 1×100 1×10-1 1×10-2
1×101 1×100 1×10-1 1×10-2
1×101 1×100 1×10-1 1×10-2 -10 -5 0 5 10
height z (nm)
-10 -5 0 5 10 height z (nm) Fabricated at RT Fabricated at 450ºC (a) 2 nm
(b) 4 nm
(c) 5 nm
(d) 6 nm
(e) 10 nm
(f) 20 nm
(g) 2 nm
(h) 4 nm
(i) 5 nm
(j) 6 nm
(k) 10 nm
(l) 20 nm
35
3.5 膜組成がエピタキシャルZION膜に与える効果
エピタキシャルZION膜の結晶品質の向上を目的に,膜の化学組成の影響を 調べた.ここでは,450ºCで作製したZION膜の結晶品質とZION膜中のZn/O 比の相関を調べた.
図3.12に異なるZn/O比のZION膜の(101)面φスキャンを示す.450ºCで作 製したすべてのZION膜で六回対称性のピークが観察され,c面サファイア基 板上にエピタキシャル成長していることが分かった.
図3.13に[Zn]/[O]比をパラメータとしたφスキャンのピーク強度を示す.ピ ーク強度は化学量論組成[Zn]/[O] = 1に近づくにつれて増加し,このことから化 学量論組成からのずれと,面内配向性に関するピーク強度の間に強い相関があ ることが示唆された.
化学量論組成からのずれは,Zn格子点および過剰Oなどの点欠陥形成を引 き起こすので,ZION膜組成の精緻な制御は,高品質ZION膜のエピタキシャ ル成長において重要である.
36
図3.12 異なる組成で作製したZION膜の(101)面φスキャン.
図3.13 [Zn]/[O]比をパラメータとした
ZION膜の(101)面φスキャンにおけるピーク強度.
37
3.6 ZION薄膜の2段階成長
3.5節までに,成長初期における表面モフォロジーの制御により,格子不整合
率19–21%のサファイア基板上にZION膜エピタキシャル成長に成功した.
図 3.14 にエピタキシャル成長した ZION 膜の RMS ラフネスの膜厚依存性を 示す.3次元成長から2次元成長への移行が考えられる膜厚6–50 nmではRMS ラフネスが減少している.一方,膜厚50–300 nmでは膜厚の増加に伴いRMSラ フネスが増加し表面平坦性が低下する.これは二次核形成が原因だと考えられ る.
本節では,サファイア基板上にまず高温で初期成長層を作製した後,低温にて ZION膜作製を行う2段階成長を行った.これにより,初期核形成とその成長・
融合を精緻に制御し,サファイア基板上において高い結晶品質と表面平坦性を 兼ね揃えたZION膜の作製を試みた.
図3.14 ZION膜のRMSラフネスの膜厚依存性.
0 50 100 150 200 250 300 350 0.0
1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0
RMS roughness (nm)
thickness (nm)
38
3.7 2段階成長法で作製したZION膜の表面モフォロジー: 時間発展
まず,1段階成長法と2段階成長法それぞれの手法で作製したZION膜につい て,表面モフォロジーの時間発展の観察を行った.
図3.16に1段階成長法および2段階成長法で作製したZION膜の表面AFM像 の時間発展を示す.1段階成長法では,膜厚6–50 nmの薄膜のときに平坦な表面 が得られているが,膜厚の増加に伴い RMS ラフネスが約 7倍に増加している.
一方, 基板温度450ºCで作製したZION膜上に基板温度100ºCでZION膜を作 製する2段階成長法では,膜厚を増加させても0.84 nmという高い表面平坦性を 維持している.これは,薄膜成長の途中で作製温度を下げることにより 2 次核 形成が抑制されたからだと考えられる.
図3.17に表面AFM像から求めた表面高さ分布の時間発展を示す.1段階成長 法では,膜厚 6–50 nm では高さ分布がシャープになったあと,膜厚の増加にと もない再びブロードなピークになっている.これは,膜厚 50–300 nm で典型的 な3次元成長が起きていると考えられる.
一方,2段階成長法では膜厚6–50 nmで高さ分布がシャープになった後も,膜
厚50–300 nm でシャープな高さ分布を示している.これは 2次核形成が抑制さ
れたことで高さが均一な表面が形成されたと考えられる.
39
図3.16 ZION膜のAFM像の時間発展,(a) 1段階成長法,(b) 2段階成長法.
40
図3.17 ZION膜の表面高さ分布の時間発展,(a) 1段階成長法,(b) 2段階成長法.
41
3.8 2段階成長法で作製したZION膜のエピタキシャル成長
次に,2段階成長法で作製したZION膜がサファイア基板に対してエピタキシ ャル成長しているかを調べるために XRD 面内非対称面の φ スキャンを測定し た.
図3.18に1段階成長法で作製したZION膜のXRD(101)面φスキャン,図3.19 に2段階成長法で作製したZION膜のXRD(101)面φスキャンを示す.1段階成 長法において基板温度 450ºC で作製した ZION 膜では六回対称性を示すピーク が観察され,サファイア基板に対して ZION 膜がエピタキシャル成長している ことが分かる.このとき,単に基板温度100ºCで作製した場合には観察された六 回対称性のピークはブロードであり,面内配向性は低い.
一方,基板温度450ºCで作製したZION膜上に基板温度100ºCでZION膜を作 製する2段階成長法では,1段階成長法において450ºCで作製したZION膜とほ ぼ同程度のピーク強度が得られている.これにより,2段階成長法においてもサ ファイア基板と ZION 膜とのエピタキシャル関係を維持していることが分かっ た.
また,ZION膜の面外配向性を調べるために,XRD(002)面ロッキングカーブを 測定した.図3.20に1段階成長法で作製したZION膜のXRD(002)面ロッキング カーブ,図3.21に2段階成長法で作製したZION膜のXRD(002)面ロッキングカ ーブを示す.1段階成長法において基板温度100ºC, 450ºCで作製したZION膜の
(002)面ロッキングカーブの半値幅を比較すると,基板温度 100ºC で作製した場
合はロッキングカーブ半値幅が増加し,面外配向性が悪くなった.
一方,2段階成長法では,1段階成長法で作製したZION膜よりも(002)面ロッ キングカーブ半値幅が1.62ºから0.99ºに減少しており,面外配向性が向上した.
図3.22に1段階成長法および2段階成長法で作製したZION膜のXRD(002)面 ロッキングカーブ半値幅の基板温度依存性をまとめた.2段階成長法で作製した ZION膜はすべての基板温度において1段階成長法で作製したZION膜より小さ い半値幅を示した.
これは,1段階目に450ºCで作製したZION膜の配向性を2段階目に100ºCで 作製した ZION 膜が引き継いだことにより,良い面外配向性が実現したと考え られる.
42
図3.18 1段階成長法で作製したZION膜のXRD(101)面φスキャン.
図3.19 2段階成長法で作製したZION膜のXRD(101)面φスキャン.
43
図3.20 1段階成長法で作製したZION膜のXRD(002)面ロッキングカーブ.
図3.21 2段階成長法で作製したZION膜のXRD(002)面ロッキングカーブ.
44
図3.22 1段階成長法および2段階成長法で作製したZION膜の
XRD(002)面ロッキングカーブ半値幅: 基板温度依存性.
3.9 結論
本章では,世界で初めてサファイア基板 (格子不整合率19–21%)上へのZION 膜エピタキシャル成長に成功した.
X線回折では,RTで作製されたZION膜とサファイア基板上との間にエピタ キシャル関係はなかったが,450ºCで作製したZION膜では(101)面φスキャン において六回対称性のピークが観察され,ZION膜がサファイア基板上にエピ タキシャル成長していることが示された.
また,エピタキシャル成長したZION膜のTEM像を観察したところ,結晶 成長初期にはサファイア基板とZION膜の結晶軸が揃っており,XRD(101)面φ スキャンが示すとおりZION膜がサファイア基板に対してエピタキシャル成長 していることが分かった.
エピタキシャル成長したZION膜では,表面AFM像より求めた高さ分布 が,膜厚の増加に伴いブロードなピークになったあと,その後膜厚の増加に伴 い再びシャープな高さ分布になるといった特異な振る舞いが観察された.この 結果から,3次元島から2次元成長への移行が示唆される.
さらに,化学量論組成からのずれと,面内配向性に関するピーク強度の間に 強い相関があることが示された.このことより,結晶成長初期における核形成 の精緻な制御が格子不整合基板上へのZION膜エピタキシャル成長の鍵である
45
といえる.
また,サファイア基板上にまず高温で初期成長層を作製した後,低温にて ZION膜作製を行った.その結果,ZION膜は膜厚を増加させても0.84 nmとい う高い表面平坦性を示した.さらに2段階成長法では1段階成長法で作製した ZION膜よりも(002)面ロッキングカーブ半値幅が1.62ºから0.99ºに減少してお り,面外配向性が向上した.2段階成長では,サファイア基板上において高い 結晶品質と表面平坦性を兼ね揃えたZION膜が実現可能である.
46
第 4 章
ZnO テンプレート上への InN-rich (ZnO)
x(InN)
1-xの作製
4.1 はじめに
これまでに,スパッタリングプラズマ中のラジカル計測結果に基づいた緻密 な組成制御によりZnO テンプレート上へのZION膜のヘテロエピタキシーに成 功している.23)-26)しかし,その組成は(ZnO)0.92(InN)0.08に限られており,ZnOと の格子不整合率が大きいIn-rich ZION膜にはこの方法の適用は困難である.
本章ではターゲットおよび気相からの原子・分子フラックス制御を行うこと
でIn-rich ZION膜のヘテロエピタキシーを実現した結果を報告する.
4.2 実験方法
本研究ではRFマグネトロンスパッタリング法により,ZION膜を作製した.
尚,コンビナトリアル法を用いて実験を行った.スパッタリングガスには Ar,
N2およびO2ガスを用いた.ガス圧は0.50 Paとした.スパッタリングターゲッ トにはZnO (2インチΦ,3t,純度99.99%)およびIn (2インチΦ,3t,純度99.99%) ターゲットを用いた.入力電力は30–50 Wとした.基板温度は450ºとし,膜厚 は40–75 nmとした.ZION膜組成は(ZnO)0.73(InN)0.27–(ZnO)0.85(InN)0.15とした.基 板には膜組成評価のためSi基板,表面モフォロジーおよび結晶構造評価のため c 面サファイア基板上に作製した ZnOテンプレートをそれぞれ用いた.ZnO テ ンプレートは窒素添加結晶化法 (nitrogen mediated crystallization: NMC法)により 作製した.NMC法に関しては,付録にて概説する.
47
4.3 ZION膜の膜組成評価
まず,ZnOターゲットの入力電力を30–50 Wに変化させることで異なる膜組 成のZION膜を作製した.図4.1に入力電力に対するZION膜の膜組成の変化を 示す.ZnO ターゲットの入力電力の増加に伴い,ZION 膜組成は ZnO-rich にな る.
図4.2にZION膜成膜速度の入力電力依存性を示す.ZION膜の成膜速度は入 力電力の増加に伴い増加する.これは,入力電力が増加したことでターゲット表 面からスパッタされた粒子が増加し,ZION膜の成膜速度が速くなったためだと 考えられる.
図4.3にZION膜組成の成膜速度依存性を示す.ZION膜組成は成膜速度の減 少に伴い増加する傾向がみられた.これは,ZION 膜組成が ZnO ターゲットの 入力電力と成膜速度に依存していることを示している.
図4.1 カソード入力電力に対するZION膜組成の変化.
図4.2 ZION膜の成膜速度のカソード入力電力依存性.
0 0.05 0.1 0.15 0.2
0 10 20 30 40 50 60
deposition rate (nm/s)
power (W)
48
図4.3 ZION膜組成の成膜速度依存性.
4.4 ZION膜の表面モフォロジー評価
次に,InN-rich ZION膜がZnOテンプレート上へ成長する際の表面モフォロジ
ーを明らかにするために表面AFM像を観察した.
図4.4に異なる膜組成のZION膜の表面AFM像を示す.ZnOターゲットの入 力電力を制御することで(ZnO)0.73(InN)0.27–(ZnO)0.85(InN)0.15 の組成領域において RMSラフネスが0.82–1.97 nmとなり,表面平坦性の高いZION膜が得られた.
図 4.4 異なる膜組成で作製したZION膜の表面AFM像.
0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25
deposition rate (nm/s)
[Zn]/([Zn]+[In])
49
4.5 ZION膜の光学特性
組成[Zn]/([Zn]+[In]) = 0.72–0.93膜の光学特性を評価した.図4.5にZION膜の 透過スペクトル,図4.6にZION膜の光吸収係数を示す.この透過スペクトルは
吸収端382 nmにおいて緩やかに立ち上がり,630 nm以上の波長において透過率
80%以上の高い透過率を示した.1400 nm以上の赤外域において透過率が低下し
ているのは,自由キャリア吸収の影響を受けたからだと考えられる.また光吸収 係数は10-5 cm-1と高く,光吸収係数における吸収端の立ち上がりは急峻であり,
作製したZION膜は直接遷移型であると示唆される.
次に,バンドギャップと[Zn]/([Zn]+[In])比の相関を調べた(図4.7).Tauc’プロッ トより算出したバンドギャップは[Zn]/([Zn]+[In])比の減少により小さくなって いる.これはバンドギャップがZION膜組成に依存していることを示している.
図4.5 ZION膜の透過スペクトル.
0 20 40 60 80 100
500 1000 1500 2000 2500
[Zn]/([Zn]+[In]) = 0.93 [Zn]/([Zn]+[In]) = 0.79 [Zn]/([Zn]+[In]) = 0.74 [Zn]/([Zn]+[In]) = 0.72
%T
Wavelength (nm)
50
図4.6 ZION膜の光吸収係数.
図4.7 ZION膜のバンドギャップの膜組成依存性.
0.7 0.75 0.8 0.85 0.9 0.95 1 2.60
2.80 3.00 3.20 3.40
bandgap (eV)
[Zn]/([Zn]+[In])
[Zn]/([Zn]+[In]) = 0.72
51
4.6 ZION膜の結晶性評価
図4.8にZnOテンプレート上に作製した異なる膜組成のZIONの(002)面2θ-ω スキャンを示す.34.4º の回折ピークは ZnO(002)面の回折ピークである.
ZION(002)面の回折ピークは32.8º,33.8º,33.8º,33.9ºに観察され,ZION膜組成
がZnO richになるにつれ回折ピークは高角側にシフトした.これは,ZnOテン
プレート上に作製した ZION 膜の格子定数が膜組成の変化に伴い,シフトして いることを示している.
さらに,ZION膜とZnOテンプレートのエピタキシャル関係を調べるため,面 内非対称面のφスキャンを測定した.
図4.9 に ZnO テンプレート上に作製したZION 膜と c面サファイア基板上に作 製したZION膜の(101)面φスキャンを示す.c面サファイア基板上ではピークは 観察されない.
一方,ZnO テンプレート上の ZION 膜では六回対称性を示すピークが観察さ れ,30º回転ドメインも観察されない.この結果は,ZnOテンプレート上にZION 膜がエピタキシャル成長していることを示している.
図4.10 にZION(002)面のロッキングカーブを示す.(002)面ロッキングカーブ 半値幅はそれぞれ,0.15º,0.21º,0.31º,0.21ºと小さく,作製したZION膜は高 い面外配向性を有している.
図4.8 ZION膜のXRD(002)面2θ-ωスキャン.
52
図4.9 ZION膜の(101)面φスキャン.
図4.10 ZION膜の(002)面ロッキングカーブ.
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ZION膜の作製はコンビナトリアル法を用いて行っている.基板位置とZION 膜の面外配向性の相関を調べた.図4.11にZION膜の(002)面ロッキングカーブ 半値幅と作製位置ごとの膜組成を示している.このとき,ZnOターゲット (CA1),ZnOターゲット(CA2),Inターゲット(CA3)の入力電力はそれぞれ40 W,30 W,6.5 Wである.
Inターゲット側で作製したZION膜の(002)面ロッキングカーブ半値幅はInN richな組成領域においても小さくなっている.これは,入力電圧の大きなZnO ターゲットに対してZION膜がoff-axisのような成膜位置になっており,ZION 膜への酸素負イオンや反跳Arなどのダメージが抑制された結果,面外配向性 が良くなったと考えられる.
ZION膜作製時におけるoff-axis成膜の効果については第5章で述べる.
図4.11 ZION膜の(a) (002)面ロッキングカーブ半値幅の作製基板位置依存性,
(b) ターゲットと基板の位置関係の模式図.
4.7 ZION膜の電気特性
膜厚約30 nmのZION膜の電気特性を評価した.図4.12にZION膜の電気特 性の膜組成依存性を示す.移動度,キャリア濃度,抵抗率ともにZION膜組成 との強い相関は見られなかった.サファイア基板上に作製したZION膜に比べ てZnOテンプレート上に作製したZION膜では,移動度は約7倍増加した.こ のとき,ZnOテンプレートの移動度は73.8 cm2/VsecとZION膜のみの移動度よ りも高移動度であった.そのため,ZnOテンプレート上ZION膜の移動度の向 上は下地のZnOテンプレートの影響を受けている可能性が考えられる.
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図4.12 膜厚約30 nmのZION膜の電気特性の膜組成依存性.
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4.7 結論
本章では,ターゲットおよび気相からの原子・分子フラックス制御による ZnOテンプレート上へのIn-rich ZION膜のエピタキシャル成長に関して報告し た.
まず,ZnOターゲットの入力電力を30–50 Wに増加させることで,ZION膜 組成を(ZnO)0.73(InN)0.27–(ZnO)0.85(InN)0.15まで制御することに成功した.
さらに上記 ZION膜のエピタキシャル成長を実現した.X線回折結果から,
作製したZION膜の(002)面ロッキングカーブ半値幅はそれぞれ,0.15º,0.21º,
0.31º,0.21ºと小さく,ZION膜が面外配向性に優れていることを示している.
ZnOテンプレート上ZION膜の移動度は膜組成(ZnO)0.59(InN)0.41のときに,
69.9 cm2/Vsecであった.
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第 5 章
成膜位置が (ZnO)
x(InN)
1-x膜に与える効果 : on-axis, off-axis
5.1 はじめに
前章ではターゲットおよび気相からの原子・分子フラックス制御による InN-
rich ZION膜のエピタキシャル成長を実現した.
本章では ZnO テンプレート上に ZION 膜をコヒーレント成長させることで
InN-rich領域におけるZION膜の高品質化を目指した.
一般的にエピタキシャル層が十分に薄い場合は,エピタキシャル層の格子が 歪むことにより界面での格子の連続性を保って成長する.一方,ある程度エピタ キシャル層が成長し,臨界膜厚を超えると格子不整合に起因する歪エネルギー を緩和するために転位が発生し格子緩和が起こる.このコヒーレント成長から 格子緩和して3次元島を形成しはじめる臨界膜厚は欠陥の発生により変化する.
そのため負イオンなどの高速粒子が成膜表面に入射しやすく欠陥が発生しや すいと考えられる on-axis, 高速粒子が入射しにくい off-axis 成膜ですることで ZION 膜の欠陥の抑制を試みた.つまり,通常の on-axis 成膜に加えて,成膜時 のイオン衝突によるダメージを抑制するために,基板とターゲットの中心軸を 水平方向にずらしたoff-axis位置においても成膜を行い,これら2つの成膜位置 での成膜依存を比較した.
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5.2 実験方法
本研究ではRFマグネトロンスパッタリング法により,ZION膜を作製した.
図5.1 に示すように成膜位置をon-axis,off-axisと分けることでZION膜中の欠 陥抑制を試みた.スパッタリングガスにはAr, N2およびO2ガスを用いた.ガス
圧は0.50 Paとした.スパッタリングターゲットにはZnO (2インチΦ,3t,純度
99.99%)およびIn (2インチΦ,3t,純度99.99%)ターゲットを用いた.入力電力
は6.5–50 Wとした.ZION膜組成は(ZnO)0.82(InN)0.18とした.基板には膜組成評 価のため Si 基板,表面モフォロジーおよび結晶構造評価のため,c 面サファイ ア基板上に作製したZnOテンプレートをそれぞれ用いた.
図5.1 RFマグネトロンスパッタリングにおける
ターゲットと基板の位置関係の概略.
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5.3 ZION膜のエピタキシャル成長
まず,作製したZION 膜がZnOテンプレートに対してエピタキシャル成長し ているか調べた.
図5.2 に異なる成膜位置でZnO テンプレート上に作製したZION膜の(101)面 φスキャンを示す.on-axis成膜,off-axis成膜それぞれについて六回対称性を示 すピークが観察された.このことより,ZION 膜は ZnO テンプレートに対して エピタキシャル成長していることが分かった.
図5.2 異なる成膜位置で作製したZION膜の(101)面φスキャン.