目 次
目 次
はじめに 序 章…………1
力の 3 層構造/米国の「グランド・ストラテジー」と石 油/覇権と多国間主義/「G 3」の世界とエネルギー地政 学
第
1
章シェール革命と流動化する中東
…………17中東依存からの脱却/中東 ― 深まる混迷の度合い/シリア の混乱とパワーバランス/イランの核開発と対イラン制裁
/イスラエルの自衛攻撃/「保護する責任」と国連
第
2
章米国のエネルギー地政戦略
…………35イラン ― 石油と反共における戦略的要衝/ソ連封じ込め政 策と共産化の波/キッシンジャーの「勢力均衡」外交/対 イスラエル戦争と石油危機/「石油」の支配から「決済」
の支配へ
第
3
章米国のグローバル・セキュリティ
…………51イスラエル ― 対ソ戦略の楯/イラン革命と 2 つの戦争/
イラン・イラク戦争/湾岸戦争/ソ連崩壊とグローバル・
セキュリティの構築
第
4
章新たなパワーバランス
― アフリカとユーラシア…………67
BRICS の台頭/戦略的エネルギー同盟/アフリカ ― 成長 大陸への熱視線/中国の対外直接投資と「走出去」戦略/
中国脅威論/ロシアによる欧州包囲網/資源大国としての ロシア
第
5
章シェール革命の死角と地政学リスク
…………87米国の対アフリカ戦略/平和と安全保障/欧州包囲網の回 避/欧州の新エネルギー戦略/欧州のシェール開発と従来 型資源へのアクセス/日本のアフリカ・中東への展開
最終章
G ゼロから新しい秩序へ
…………109石油とドルによる世界の支配/覇権の追求と恐怖/「G ゼ ロ」から新しい秩序へ/権力の制御と二極構造/覇権の共 有か,衰退か/米国の新秩序構想
おわりに ― 日本のエネルギー安全保障…………127
高まる LNG 需要/日本のシェール革命リスク/再生可能 エネルギーの開発/問われる日本のエネルギー地政戦略
註 143 あとがき 147
第
1
章シェール革命と流動化する中東
米エネルギー情報局(EIA)は,米国は 2020 年には,液化天然ガ ス(LNG)の純輸出国になると予測している(図 5).石油生産につい ても,米国の産出量は国内消費に追いつかず,2005 年には,最大 で 60% を輸入に頼る事態となっていたが(図 6),2035 年には純輸 入を 36% にまで減じることが可能となる.これは米国の中東の石 油からの脱却の可能性を示唆している.
近年,この新エネルギーによる革命「シェール革命」によって,
米国が中東諸国とは距離を置いていく可能性が取り沙汰されている.
仮に米国がイスラエルとの関係をさらに強めていけば,その結果,
中東諸国とイスラエルの宗教対立が激化することも考えられる.
中東依存からの脱却
エクソンモービルや BP がノースダコタ州やオハイオ州でシェー ルオイルの本格開発に乗り出す一方,米国石油化学大手ダウ・ケミ カルも中東への投資を見直し,テキサス州に世界最大級のシェール ガスを原料にしたエチレン工場を造ると報じられている.新工場の 生産能力は,年 150 万トンに達すると見られており,住友化学が サウジアラビアに有している合弁工場の生産能力 130 万トンを超 える模様である.ロイヤル・ダッチ・シェルも大規模シェールガス 田があるペンシルヴァニア州にエチレン工場を建設する.「ゴール ドラッシュ」ならぬ「シェールラッシュ」によって,LNG 輸出基 地の増強が急ピッチで進められている.
バラク・オバマ大統領はシェールガス革命によって化学や石油・
ガス産業が牽引して米国経済を飛躍的に発展させ国際競争力を完全
図 5 米国天然ガス生産,消費動向の実績と予測(1990―2035 年)
(U.S. Energy Information Administration, Annual Energy Outlook 2012, p. 3 に 2014 年時点の推移レベルを筆者加筆)
に取り戻す,ということを描いていて,国内製造業の復活と雇用増 を狙って製造業の法人税を 25% に下げる案を含む 5 年間輸出倍増 計画を策定し,官民一体となった政策を推し進めている.
米労働省労働統計局によると,すでに天然ガス産業における雇用 は,2007 年から 12 年末までの間に 38.5 万人増を記録,また,毎 年 100 億ドルもの公共料金の節約効果を生んでいるとの試算もな されている1).
非在来型天然ガス「シェールガス」は,北米,南米,ユーラシア 大陸を中心に広く分布し,2013 年末における世界の可採埋蔵量
(185.7 兆 m3:2014 年 6 月 BP 統計)を超える 206.7 兆 m3分の可採埋蔵 量が眠っているとされており,そのうち米国の埋蔵量は 10%とさ れる.
これまで米国は,1973 年の石油危機に直面して以後ずっと,中 東諸国に依存したエネルギー安全保障体制からの脱却を模索してき た.ヘンリー・キッシンジャー国務長官は,石油危機を「第 2 次 大戦後の自由主義陣営を見舞った最悪の出来事だった」と回想して
図 6 米国石油生産,消費動向の実績と予測(1970―2035 年)
(U.S. Energy Information Administration, Annual Energy Outlook 2012, p. 3 に 2014 年時点の推移レベルを筆者加筆)
いるが,リチャード・ニクソン政権以降,いずれの政権も他国に依 存しないエネルギー安全保障の確立のために,多大なコストを払っ てきたといえる.中東から石油を米国まで運ぶには,輸入代金以外 に 1 日換算にして 100 万ドル以上のコストがかかるとされている.
この金額は輸入シーレーンの安定確保のためのペルシャ湾周辺国へ の米軍の駐留費用や,民主化のための活動,例えば政治情勢の安定 化を見越した米国国際開発庁(USAID)による援助協力も含む.自由 と民主主義の擁護者として全世界で自由主義イデオロギーを推進し てきた米国が,実際には一族支配で政党制度も言論の自由もない
「独裁体制」であるサウジアラビアなどの湾岸産油諸国と事実上の 同盟関係を維持してきたのは,極論すれば,国内で消費するエネル ギーの確保のためであった.
だが,米国は 2013 年実績で石油の輸入を多角化しており,うち カナダ 31.9%,メキシコ 9.4%,ヴェネズエラ 8.1%,ロシア 4.7%
など全て合わせると,約 8 割を中東以外から輸入しており,万一,
表 2 石油・天然ガスの生産・埋蔵量上位国
(1)石油
石油生産量
(万バレル/日) 世界シェア(%)
1 サウジアラビア 1152.5 13.1
2 ロシア 1078.8 12.9
3 米国 1000.3 10.8
4 中国 418.0 5.0
5 カナダ 394.8 3.4
石油確認埋蔵量
(億バレル) 世界シェア(%)推定可採年数
1 ヴェネズエラ 2983 17.7 100 年以上
2 サウジアラビア 2659 15.8 63.2 年
3 カナダ 1743 10.3 100 年以上
4 イラン 1570 9.3 100 年以上
5 イラク 1500 8.9 100 年以上
(2)天然ガス
天然ガス生産量
(億 m3/日) 世界シェア(%)
1 米国 6876 20.4
2 ロシア 6048 17.9
3 イラン 1666 4.9
4 カタール 1585 4.7
5 カナダ 1548 4.6
天然ガス確認埋蔵量
(兆 m3) 世界シェア(%)推定可採年数
1 イラン 33.8 18.2 100 年以上
2 ロシア 31.3 16.8 51.7 年
3 カタール 24.7 13.3 100 年以上
4 トルクメニスタン 17.5 9.4 100 年以上
5 米国 9.3 5.0 13.6 年
* 2013 年現在.2014 年 6 月 BP 統計より作成.
表 3 各国のシェールオイル・シェールガス資源
(1)シェールオイル
(億バレル) (2)シェールガス
(兆 m3)
国 可採埋蔵量 国 可採埋蔵量
1 ロシア 750 1 米国 32.9
2 米国 480 2 中国 31.6
3 中国 320 3 アルゼンチン 2.8
4 アルゼンチン 270 4 アルジェリア 2.0
5 リビア 260 5 カナダ 1.6
6 オーストラリア 180 6 メキシコ 1.5 7 ヴェネズエラ 130 7 オーストラリア 1.2
7 メキシコ 130 8 南アフリカ 1.1
9 パキスタン 9 9 ロシア 0.8
9 カナダ 9 10 ブラジル 0.7
計 2538 計 76.2
* 2013 年現在.2014 年 EIA 統計より作成.
戦乱等によって中東からの石油供給が止まっても他地域からの原油 の確保はできる状態にある(2014 年 EIA 統計)2).
中東―深まる混迷の度合い
問題は,シェール開発が進むにつれ,米国の中東への関心がかな り薄れてしまっているということである.実際,バラク・オバマ大 統領の中東に対する関与の度合いは,ジョージ・W. ブッシュ(ジュ ニア)大統領(2001 年 1 月 20 日―2009 年 1 月 20 日在任)の「中東民主化 構想」と比べると,そのコントラストがはっきりする.米国同時多 発テロ後,テロリストの温床になるのは,風通しの悪い非民主的体 制に他ならないということを大義名分にして,アフガニスタンやイ ラクに介入したブッシュ政権と時代背景を無視して比べることは簡 単でないにしても,オバマ政権の中東に対する姿勢は,静観といっ ていい.
2011 年末,オバマ大統領は,イラク駐留米軍の撤退を完遂した
が,4500 名を超える米兵犠牲者数に対する批判の高まりや,罪を 犯した米兵の身柄引き渡し等,駐留条件をめぐってイラク政府との 間で合意できなかったことが直接の原因としても,地政学上イラク が重要だと見なすのであれば,完全撤退には至らなかっただろう.
その後イラクは治安が悪化,シリアとイラクにまたがるスンニ派の イスラム過激派組織が「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の樹 立を宣言するなど緊張が増している.治安の急激な悪化に伴い,米 軍は 2014 年 8 月 10 日,北部クルド人自治区の中心都市アルビル 周辺を戦闘機や無人機を使い空爆,イスラム過激派と戦うクルド人 部隊への武器供与も決めたが一連の決断まで数か月を要した.
もともとイラクの治安の悪化の原因は,2003 年ブッシュ大統領 によるイラク侵攻が発端となっているが,米軍撤退後,政治家が権 力闘争に明け暮れ,戦後復興に資する有効な経済政策を打てなかっ たことで国民の多くが不満を抱いたことも大きかった.
近年石油の輸出が再開し,2009 年 GDP 1 人当たり 3702 ドルか ら 2013 年 6670 ドルまで急速に進展したものの,国民には豊かに なった実感はなかった.リーダーシップの欠如も相俟って結果とし てそれが宗派対立に移行し,2010 年 3 月 7 日,2 回目のイラク連 邦議会選挙(定数 325 議席)が実施されたとき,人口の 3 分の 2 を占 めるシーア派がヌーリー・マリキ首相を支える会派「法治国家連 合」(親米で世俗主義)とイラク国民連合(反米でイスラム主義)とに割れ てしまった.その結果,イヤド・アラウィ元首相率いるスンニ派の イラキーヤが 91 議席を獲得して第 1 党に,マリキ首相の法治国家 連合は 89 議席=第 2 党に,イラク国民連合は 70 議席=第 3 党と なった.ところが,第 1 党ですら議席数が過半数(163 議席)に遠く 及ばなかったため,それぞれの会派が多数派工作を行い,政治空白 が 9 か月半続いた後,マリキ首相およびジャラル・タラバーニ大 統領が続投することになった.
だが,マリキ政権の正当性に国民から疑いの目が向けられたまま
第 1 章 シェール革命と流動化する中東
4 年が経過,2014 年 4 月 30 日,米軍撤退後初となった 3 回目のイ ラク連邦議会選挙では,マリキ首相の法治国家連合が第 1 勢力と なったものの,全 328 議席のうち 92 議席にとどまるなど,過半数 を満たせず再び政治が停滞した.そのような中,7 月 24 日によう やくイラク連邦議会は,タラバーニ大統領の後任に同じクルド愛国 同盟出身のフアド・マスームを選出,マスーム大統領は 8 月 11 日,
ハイダル・アバディ連邦議会副議長を首相候補に指名し,組閣を要 請した.続投を目指したマリキ首相は反発した後,最終的に受け入 れることを表明したが,イラク情勢は混迷の度合いが一層深まって いる.ISIS はこうした政治への幻滅からスンニ派住民の支持を集 め拡大しているのである.
2012 年 9 月,リビアのベンガジ米国領事館が襲撃され,大使ら 4 人の米国人が殺害された事件を見ても北アフリカ地域の治安対策 が手薄になっていることがわかる.2013 年 1 月 23 日,上下両院の 外交委員会の公聴会に出席,説明を求められたヒラリー・クリント ン国務長官は,リビアの内戦で使用された武器が周辺諸国に流出し ている懸念を表明し,テロの蔓延に対する危機感を示した.だがリ ビアは 2014 年 12 月現在,国内でも武装解除がままならず,首都 トリポリを中心とする西部トリポリタニアと,反体制派が蜂起した ベンガジを中心とする東部フェザーンの間で地域対立が激化してい る.氏族対立に加えてイスラム勢力と世俗勢力の対立も重なり,複 雑な様相を呈している.リビアとエジプトの国境付近においてもイ スラム過激派が活動しているとされ,イスラム同胞団を制圧し,イ スラム同胞団系のモルシ大統領をクーデターによって放逐したエジ プトのアブドル・ファッターフ・シシ軍事政権にとって極めて憂慮 すべき事態となっている.
リビアとアルジェリア国境においても,アルジェリアを拠点にイ スラム・マグレブ諸国のアルカイダ(Al-Qaida in the Islamic Maghreb:
AQIM)が,隣接するニジェール,マリ,モーリタニアなどで欧米権
益を標的にテロを実行している.
イスラエルでは,2014 年 7 月,パレスチナ自治区ガザを実効支 配するイスラム原理主義組織「ハマス」との間の戦闘が激化,イス ラエル軍は,ガザのハマス内務省本庁舎や通信施設など少なくとも 200 か所以上を空爆した.イスラエル人とパレスチナ人の子供が双 方ともに誘拐され殺害されたことを受けて始まった戦闘は,パレス チナ人 1000 人以上(うち子供 100 人以上)が死亡する大惨事となった.
イスラエルは,ガザとの境界地帯に地上部隊を実戦配備,7 月 17 日ガザ侵攻を開始した.
イスラエルとハマスの停戦を模索するジョン・ケリー米国務長官 は 7 月 22 日,エジプトの首都カイロを訪問しシュクリ外相と会談,
エジプトによる停戦仲介を後押しする方針を表明,同時に 4700 万 ドルをガザに提供すると発表した.エジプトはガザと隣接している こともあり,ハマスとイスラエルとの話し合いをこれまで仲介して きた.
アフガニスタンでは,任期満了に伴い退陣するハミド・カルザイ 大統領の後継者を決めるための選挙が 2014 年 6 月に実施された.
決選投票の結果,アシュラフ・ガニ元財務相が優勢となったが,大 規模な不正が行われたとして,前回の大統領選で敗れたアブドラ・
アブドラ元外相側が再選挙を求めていた.膠着状態となるにつれ,
同国を荒廃させた 1992―96 年の内戦時のような部族間の争いに逆 戻りしかねないといった懸念も広がっていたことからケリー国務長 官が仲介に入っていた.2014 年 5 月 27 日,オバマ大統領は,アフ ガニスタンに駐留する米軍について,戦闘部隊を年内に撤退させた 後もアフガン国軍の訓練などのため約 9800 人を駐留させる一方で,
残った米軍も段階的に減らし,2016 年末までに完全に撤退する方 針を明らかにしており,今後アフガニスタンでもイラク同様,自立 していけるかどうかが焦点になる.
第 1 章 シェール革命と流動化する中東
シリアの混乱とパワーバランス
中東の数ある問題の中でもシリア問題は深刻な状況である.シリ ア問題の解決に向けて米国が本腰を入れないのはもはや中東には関 心を失ったためだと,見ようによってはそうとらえることもできる.
経済的な包囲網に関しては,米国は 2011 年 5 月からバッシャー ル・アサド大統領らに対し,米国国内に保有されている資産を凍結 するなどの制裁を発動,米国企業などとの取引も一切禁止した.欧 州連合(EU)も米国に続いて 2012 年 2 月 27 日の外相理事会で,ア サド政権に対する包囲網強化のため,シリア中央銀行の EU 域内の 資産凍結と閣僚の渡航禁止,域内とシリア間の貨物便の運航禁止な どの制裁措置を決定した.
それから 2 年以上が過ぎ,2014 年 6 月 4 日の大統領選でアサド 大統領が 88.7% の得票率で圧勝し(政府発表),いまも政権にとどま っている.実際に選挙が行われたのは政府が制圧している地域だけ で,反政府派が掌握する北部・東部の大部分では投票が実施されな かった.反政府派は大統領選を茶番としてボイコットしており,選 挙結果に正当性はないと主張している.シリアでは政府軍と反政府 派による対立激化で内戦状態に陥っており,これまで 16 万人が死 亡,300 万人近くが難民として国外に脱出している.
国連安全保障理事会では,2014 年 5 月,アサド政権への制裁決 議案に対して,ロシアと中国が拒否権を発動し,これで 4 度目の 否決となった.ロシアと中国がシリアへの介入に反対に回る背景に は,ロシアにとってシリアは,軍事戦略上重要拠点であるからであ る.またシリアは重要な武器輸出国であり,シリアの港湾都市タル トゥースに遠洋で唯一のロシアの補給基地があり,空母艦隊を実戦 配備している.もし「同盟国」シリアを失うことにでもなれば,関 係の深かったリビアを 2011 年の「ジャスミン革命」で失ったロシ アにとって,地中海での影響力を完全に失うこととなる.
中国の反対は,「内政不干渉の原則」という問題が自国の内政と
密接に絡んでいる問題であるためだと見られている.2009 年から 2013 年 2 月まで少なくとも 100 名以上のチベット族がチベットの 自由を訴えて焼身自殺をはかっているが3),民主化要求・分離独立 問題は中国にとって国の根幹に関わる最重要問題である.民主化要 求を簡単に飲むことになれば,国内外の分離独立派を活気づかせる 契機となる.両国の思惑はこのように交錯している.
こうした外的要因以外に,シリアとリビア両国の運命を分かつ鍵 となる内的要因が大きく分けて 4 つある.1 つ目は,反政府勢力が 一枚岩かどうか,である.2 つ目は,犠牲者数の大きさと国際世論 の反応である.3 つ目は,石油資源の存在の有無である.最後は,
その地政学的位置である.
リ ビ ア の 場 合 は,国 民 暫 定 評 議 会(National Transitional Council:
NTC)という受け皿がすぐに組織されたという側面がある.しかし,
シリアの場合は,リビアの NTC のような反体制勢力が組織されて いない.
これによりアサド政権が崩壊した場合,政権を担う受け皿がない と危惧されている.シリアでは,人口の 16% 程度を占めるにすぎ ないアラウィ派と呼ばれる少数派が,政府機関,軍,国営企業の要 職を実効支配していて,定期的に選挙は行われているものの,事実 上バアス党の一党支配体制が続いてきた.リビアのようにムアマー ル・カダフィの側近を取り除けばいいというのと違って,シリアの 場合,父ハーフェズ時代からの古参の参謀や軍が台頭する可能性が あり,これが国連安保理の武力介入という選択肢を封じている.
2 つ目は,犠牲者数である.ロシアと中国が最終的にリビアへの 軍事介入に首を縦に振ったのは,リビアでは,内戦開始から約半年 の間に 2 万 5 千名の死者数が出ていたと報じられるほど激しい戦 闘となったからである4).他方,シリアでは,半年という短期間に それほど大量の犠牲者は出していなかった.リビアでの急激な犠牲 者数の増大は,国際世論に強く訴えかけ,国連を動かしたと推論で