第4章 年齢階級別所得分配−基礎分析−
前章でみたように,勤労者世帯の所得分配は,高度成長の過程で平等化し てきたが,昭和40年代の後半以降この傾向は停滞ないし逆転し,不平等化の 傾向さえみられる。ところが,他方で,賃金所得の分配は,最近でこそ鈍化 してきているとはいえ,いぜんとして平等化の動きをみせている。この違い は何故に生じてきているのであろうか。以下においてはこの点を解明する方 向に沿って検討をすすめることにする。
そこで,本章では,勤労者世帯の年齢階級別所得分配に焦点をあてつつ,
家計所得の構成要素となっている各所得を源泉別に吟味し,それらが時系列 的にどのように変化してきているかを検討し,合わせて年齢階級別世帯数の 分布の変化についても分析を加えることとする。その場合,まず,世帯主の 年齢別の賃金所得プロファイルについては,第2章における分析結果が参考 となるが(第1節),家計所得そのものを問題とする場合には,そのほかに,
世帯主以外の世帯の構成員の得ている勤労所得や勤労所得以外の収入をも考 慮に入れる必要があり,これらの所得の形成がライフステージとどのように かかわっているかが,主たる関心事となる(第2,3節)。その際そのような 関係が時系列的にどのように変化してきているかも合わせて検討される。
さらに,勤労者世帯の年齢階級別所得分配の変化は,その世帯数分布の変 化をも反映しているところから,年齢階級別世帯数の推移についてもその変 動要因が検討される(第4節)。
第1節 世帯主の勤め先収入の分析
勤労者世帯においては,世帯主の勤め先収入(以下単に「世帯主収入」と 略す)がその家計の実収入の大宗を占めることは言うまでもなかろう。した がって,世帯ベースでの所得分配の変動は,世帯主収入の分布に大きく依存 する。また,世帯主はほぼ男子勤労者と考えることができるから結局,男子 勤労者の賃金所得分配が勤労者世帯の所得分配を強く左右するといえよう。
勤労者の賃金所得分配については,既に第2章において人的資本理論に基づ き検討を加えた。そこで,本節においては,まず,世帯主収入の年齢階級別 プロファイルと実収入に占める構成比の推移を跡づけ,その後に人的資本理 論の応用により世帯主収入のプロファイルの推計を試みることとする。
1. 世帯主収入のプロファイルと実収入に占める構成比の推移
まず,はじめに,世帯主の年齢階級別,収入プロファイル並びにボーナス 等を除いた定期収入プロファイルがどのような姿を描くか概観しておくこと にしよう。図4−1,図4−2は昭和38年より2年おきにその推移をみたもので ある。これをみると,昭和50年を除くと,ピークは一様に50才代前半にみ られる。また,世帯主収入でみても世帯主の定期収入でみても,そのプロ ファイルは昭和38年のそれを平行移動したかのような姿を描いている。前章 で計測した世帯主収入ならびに世帯主の定期収入の年齢間対数分散値は,昭 和30年代から40年代前半にかけて低下してきているが,少なくとも図に描い たプロファイルを見る限りにおいてはこの傾向を明確に読み取ることは困難 である。
次に,家計の実収入総額に占める世帯主収入の構成比が年齢階級別にどの ように推移してきているかをみてみよう。これを示したのが図4−3である。
これによると,次の様に指摘することができよう。
まず,世帯主の年齢階級別にみてみると,
1)30 才代,40 才代の層においては8割以上を占め,とりわけ 30才代層は 約9割に近い。
2)高齢化するにしたがって比率は次第に低下し,50 才代では 7〜8 割,60 才代では6〜7割にすぎない。
3)20 才代の層は,時系列で大きく変化してきているため断定的なことはい えないが,年齢が高まるにしたがって上昇してゆく傾向にはある。
このような年齢階級間にみられるウエイトの差異は,世帯における有業人 員あるいは世帯人員(注1)の違いが強く影響しているものと思われる。例え
(注1) 家計の実収入には,財産収入や社会保障給付等も含まれているため,必ず しも就業している必要はなく,高齢の親等の勤め先収入以外の実収入等の影 響もある。
図4−1 世帯主の年齢階級別勤め先収入プロファイルの推移
注)名目水準の上昇の影響を取り除くため,片対数グラフ を用いた。
資料)総理府統計局「家計調査」より作成。
図4−2 世帯主の年齢階級別定期収入プロファイルの推移
注)これも名目水準の上昇の影響を取り除くため,片対数 グラフを用いた。
資料)総理府統計局「家計調査」より作成。
図4−3 実収入に占める世帯主勤め先収入の構成比
資料)総理府統計局「家計調査」より作成。
ば,30才代層において世帯主収入の比重が最も高いことは,逆にいえば,世 帯主以外の有業人員が少ない結果であると考えられる。すなわち,この年齢 階層においては,妻は出産,育児等によりその活動に制約がある。他方,親 が同居するケースも20才代に比べると少なく,あってもその収入がわずかな ため,世帯主の収入が家計所得の中で大きなウエイトを占める結果となる。
また,50才代層が30〜40才代層よりもその比重が低いのは,就業している 子弟が同居していることのあらわれと考えられる。このことは,60才以上の 高齢層についてもいえることであるが,この階層については,さらに財産収 入あるいは年金に代表される社会保障給付等の勤め先収入以外の収入が増え るところがら,世帯主収入のウエイトが一層低下する結果となるものとみら れる。
次に,時系列的な変化についてみてみよう。
表4−1 世帯主の定期収入と男子月間賃金の相関
年齢階級 回 帰 式 R2 S.E. D.W. 才
〜24 RMi=1.9591+0.9682⋅EMi 0.9919 2.7098 1.67
(1.37) (39.85) 25〜29 RMi=2.1351+0.8975⋅EMi 0.9969 1.9266 1.10
(1.98) (65.17) 30〜34 RMi=3.4277+0.8452⋅EMi 0.9958 2.5828 1.00
(2.40) (55.77) 35〜39 RMi=6.0252+0.8273⋅EMi 0.9959 2.7510 1.26
(3.95) (55.97) 40〜44 RMi=4.7962+0.8642⋅EMi 0.9934 3.6856 1.36
(2.28) (44.40) 45〜49 RMi=0.6862+0.9261⋅EMi 0.9886 5.2804 1.28
(0.23) (33.62) 50〜54 RMi=3.2564+0.8880⋅EMi 0.9862 5.6164 0.61
(1.00) (30.48) 55〜59 RMi=3.8868+0.9287⋅EMi 0.9915 3.7470 0.77
(1.78) (39.01) 60〜64 RMi=5.9480+0.8538⋅EMi 0.9932 2.5011 2.50
(4.04) (43.59) 65〜 RMi=8.0644+0.7922⋅EMi 0.9810 3.5116 1.57
(3.99) (25.90) 注)1. RMiは
i
年齢階級の「世帯主平均の定期収入」,EMiは
i
年齢階級の平均「男子のきまって支給する給与額」である。
2. 推計期間は,昭和38年から51年まで。
3. R2:自由度修正済決定係数,S.E.:誤差項の標準偏差,D.W.:ダービ ン・ワトソン比 ( )内
t
−値資料)総理府統計局「家計調査」と労働省「賃金構造基本統計調査」より算出。
4)20 才代の年齢階層以外の層を除けば,世帯主収入のウエイトはそれ程大 きな変動を示していない。
5)20 才代とりわけ 24 才未満の最若年層の世帯主収入の構成比は,著しい 増加傾向がみられる。これは,核家族化の進展により,収入のある親の同 居率が低下してきたことが強く影響しているものとみることができよう。
この点は,他の世帯員の収入および事業内職収入の比重の低下の現象とも 対応する。
以上,世帯主の年齢階級別収入プロファイル並びに実収入に占める構成比 の推移をみてきたが,次に世帯主収入(あるいは世帯主の定期収入)と男子 の賃金所得との関係についてみてみよう。
2. 世帯主収入とプロファイル関数
勤労者世帯の世帯主の収入は,男子勤労者の賃金所得に極めて類似してい るとみてよい(注2)。この点は,『家計調査』の年齢階級別世帯主の「定期収 入」(
RM
)と『賃金構造』の男子学歴計の年齢階級別「きまって支給する 給与額」(EM
)との単相関をとってみると,表4−1にみるように,相関の 度合いが極めて高いことからも確認できる(注3)。そこで,世帯主収入についても,人的資本理論に基づくプロファイル関数 の計測を行い人的資本理論の妥当性を確かめてみたいと思う。ところが,
『家計調査』では「学歴」や「労働時間」に関するデータはない。したがっ て,第2章で定式化された(2−18)式をそのまま採用することはできない。そ こで,データの都合上,就職後の人的投資の役割に焦点をあてた形に若干
(注2) 勤労者世帯には,母子世帯に代表されるように,女子が世帯主である世帯 も含まれているため,厳密には世帯主の勤め先収入と男子賃金所得とは対応 しない。
(注3) 表4−1のEMiの回帰係数は全年齢階級において1より小さい。このことは 文字通り解釈すると男子勤労者の賃金の伸びよりも,世帯主定期収入の伸び が劣ることになる。しかし,この原因のほとんどは両統計の調査の違いによ るものと考えられる。すなわち,『賃金構造』では事業所からの報告をもと に集計されているのに対し『家計調査』では調査対象世帯の記入をもとに集 計がなされており,しかも先に述べたとうり(前章注23)後者の方が規模の 小さい企業の勤労者をも対象としていることが,この両者の差異の主な原因 であると考えられる。
修正を加える必要がある。それでは以下において,まず世帯主収入のプロフ ァイル関数を人的資本理論に基づき定式化し,その計測結果を検討すること とする。
第2章と同様の記号を用いると,まず,学校教育投資を終え,既に労働市 場に参入している者で就職後の期間が
t
年の粗所得(E
t)は,人的資本の減 耗を考慮すると,(4−1)
E
t= E
t−1+ r
t−1⋅ C
t−1− δ
t−1⋅ E
t−1と定式化できる。ここで,前章同様粗所得に対する粗投資の割合を
k
tとおく と粗投資C
tは(4−2)
C
t= k
t⋅ E
tと表わすことができる。これを(4−1)式に代入して整理すると,
(4−3) (1 )
1
0
0 j
t
j
j j
t E r k
E =
∏
− + ⋅ −δ
=
が得られる。ここで,
E
0は,教育投資を終え労働市場に新規に参入した者 が,その期に人的投資を行わなかったとした時に得られる平均的な粗所得で ある。そこで,(4−3)式は自然対数をとると次の近似式が得られる。(4−4)
∑ ∑
−=
−
= ⋅ −
+
= 1
0 1
0 0
t j
j j
t j
j n
t
nE l E r k
δ
l
ここで,就職後の投資期間が
t
年の者の純所得をY
tとすると,Y
tは,(4−5)
Y
t= E
t− C
t= E
t( 1 − k
t)
と書ける。故に,これと(4−4)式から
(4−6) (1 )
1
0 1
0
0 n t
t j
j j
t j
j n
t
nY = E +
∑
r ⋅k −∑
− + −k=
−
= l
l
l
δ
が得られる。以下,第2章と同様の展開をすることにより,
(4−7) n
Y
t=
nE − α + α )} + { α r
t− λ + β ( 1 + α )} t ( 2
{
2
l
0l
2 2
( 1 2 )}
2 {
1 β r
t+ μ + β + α t
−
が求まる。そこで,定数項及び各係数を
)}
2 1 ( 2{
1
) 1 (
) (
2 2
1
2 0
0
α β
μ β
α β λ α
α α
+ +
+
−
=
+ +
−
=
+ 2
−
=
t t n
r C
r C
E C l
表4−2 世 帯 主 の 収 入 プ ロ
2 2 1
0 ct c t
c
nRM = + +
年 次 l
c0 c1 c2 R2 S.E.
昭和38年 2.6552 0.0686 −0.0011 0.9492 0.0368 (33.95) (11.02) (−10.08)
39 2.7678 0.0679 −0.0011 0.9706 0.0270 (46.02) (14.10) (−12.56)
40 2.9423 0.0613 −0.0010 0.9467 0.0342 (39.85) (10.48) (−9.41)
41 3.0212 0.0611 −0.0010 0.9558 0.0319 (44.35) (11.17) (−9.79)
42 3.1022 0.0641 −0.0011 0.9419 0.0370 (39.41) (10.33) (−9.50)
43 3.2936 0.0562 −0.0009 0.9736 0.0220 (70.21) (14.94) (−13.31)
44 3.4305 0.0541 −0.0009 0.9663 0.0251 (80.06) (15.76) (−14.62)
45 3.5486 0.0558 −0.0009 0.9726 0.0227 (89.70) (17.74) (−16.73)
46 3.6550 0.0570 −0.0010 0.9465 0.0339 (64.85) (12.66) (−12.12)
47 3.8119 0.0554 −0.0010 0.9511 0.0317 (74.29) (13.34) (−12.88)
48 4.0196 0.0511 −0.0009 0.9211 0.0377 (66.19) (10.39) (−10.10)
49 4.2067 0.0537 −0.0010 0.9016 0.0449 (58.81) (9.23) (−9.07)
50 4.3199 0.0581 −0.0010 0.9193 0.0447 (62.06) (10.22) (−9.94)
51 4.4290 0.0572 −0.0010 0.8978 0.0504 (57.08) (8.99) (−8.63)
注)1. RM:世帯主の定期収入,RH:世帯主の勤め先収入,
t
:経験年数(現在 2. R2:自由度修正済決定係数,S.E.:誤差項の標準偏差,( )内t
−値 資料)総理府統計局「家計調査」,労働省「賃金構造基本統計調査」より算出。フ ァ イ ル 関 数 の 計 測
2 2 1
0 ct c t
c
nRH = + +
l
c0 c1 c2 R2 S.E.
2.8028 0.0767 −0.0013 0.9575 0.0368 (35.84) (12.33) (−11.50)
2.9212 0.0750 −0.0012 0.9775 0.0254 (51.57) (16.52) (−14.96)
3.1031 0.0684 −0.0011 0.9399 0.0395 (36.44) (10.13) (−9.33)
3.1649 0.0703 −0.0012 0.9543 0.0356 (41.58) (11.51) (−10.43)
3.2420 0.0731 −0.0012 0.9312 0.0456 (33.43) (9.56) (−8.91)
3.5015 0.0613 −0.0010 0.9790 0.0205 (79.84) (17.43) (−15.99)
3.6252 0.0630 −0.0011 0.9505 0.0350 (60.70) (13.17) (−12.58)
3.7229 0.0669 −0.0012 0.9696 0.0284 (75.19) (16.98) (−16.35)
3.8426 0.0670 −0.0012 0.9438 0.0408 (56.56) (12.37) (−12.17)
4.0048 0.0643 −0.0012 0.9259 0.0458 (54.08) (10.73) (−10.57)
4.2372 0.0600 −0.0011 0.9056 0.0489 (53.80) (9.40) (−9.38)
4.4390 0.0616 −0.0011 0.8703 0.0600 (46.50) (7.93) (−7.88)
4.5215 0.0658 −0.0012 0.9163 0.0517 (56.17) (10.01) (−9.86)
4.6169 0.0649 −0.0012 0.8892 0.0597 (50.26) (8.61) (−8.33)
年齢−平均学校教育年数−6年)
表4−3 賃 金 プ ロ フ ァ
2 2 1
0 dt d t
d
nEM = + +
年 次 l
d0 d1 d2 R2 S.E.
昭和38年 2.5162 0.0846 −0.0014 0.947 0.085 (28.06) (8.29) (−6.13)
39 2.6695 0.0790 −0.0013 0.939 0.084 (30.50) (7.93) (−6.01)
40 2.7919 0.0766 −0.0013 0.951 0.072 (36.70) (8.87) (−6.68)
41 2.9080 0.0737 −0.0012 0.958 0.065 (42.47) (9.53) (−7.14)
42 3.0053 0.0740 −0.0013 0.961 0.061 (45.78) (10.05) (−7.59)
43 3.2081 0.0716 −0.0012 0.963 0.058 (52.22) (10.48) (−8.08)
44 3.3694 0.0686 −0.0012 0.962 0.055 (52.43) (9.61) (−9.45)
45 3.5557 0.0663 −0.0012 0.966 0.049 (66.89) (11.49) (−9.16)
46 3.7007 0.0632 −0.0011 0.967 0.045 (73.99) (11.82) (−9.51)
47 3.8484 0.0626 −0.0011 0.973 0.039 (86.66) (13.20) (−10.68)
48 4.0451 0.0625 −0.0011 0.965 0.044 (97.74) (14.48) (−11.88)
49 4.2733 0.0605 −0.0011 0.971 0.039 (116.78) (16.24) (−13.79)
50 4.3169 0.0570 −0.0011 0.949 0.045 (89.68) (11.33) (−9.63)
51 4.4191 0.0580 −0.0011 0.945 0.047 (86.94) (10.96) (−9.43)
注)1. EM:きまって支給する給与額(学歴計),EB:きまって支給する給与額 2. R2:自由度修正済決定係数,S.E.:誤差項の標準偏差,( )内
t
−値 資料)労働省「賃金構造基本統計調査」より作成。イ ル 関 数 の 計 測(男子学歴計)
2 2 1
0 dt d t
d
nEB= + +
l
d0 d1 d2 R2 S.E.
2.9066 0.0861 −0.0015 0.948 0.083 (32.98) (8.61) (−6.51)
3.0193 0.0830 −0.0014 0.955 0.075 (38.15) (9.29) (−7.00)
3.1197 0.0831 −0.0014 0.958 0.071 (40.63) (9.66) (−7.33)
3.3189 0.0811 −0.0014 0.957 0.070 (44.55) (9.79) (−7.60)
3.4876 0.0781 −0.0014 0.958 0.066 (45.13) (9.10) (−7.09)
3.6828 0.0757 −0.0013 0.961 0.060 (57.05) (10.73) (−8.58)
3.8420 0.0728 −0.0013 0.959 0.059 (59.45) (10.54) (−8.53)
3.9984 0.0716 −0.0013 0.965 0.051 (69.09) (11.59) (−9.44)
4.1871 0.0706 −0.0013 0.958 0.054 (81.52) (13.18) (−10.81)
4.4263 0.0689 −0.0012 0.961 0.051 (90.79) (13.89) (−11.82)
4.5054 0.0648 −0.0012 0.941 0.056 (76.24) (10.50) (−8.99)
4.5951 0.0649 −0.0012 0.936 0.057 (74.93) (10.24) (−8.89)
+月当り賞与・特別給与額(学歴計),
t
:経験年数とおくことにより,(4−7)式は
(4−8) lnYt =c0 +c1t+c2t2 と書き換えることができる。
ところで,第2章の補論において,経験年数を説明変数とする限りは,労 働時間の影響は教育投資の収益率の計測に現れるのみで経験年数の回帰係数 にはほとんど影響がないことを確認した。また,勤続年数を説明変数とする よりも,経験年数を説明変数とする場合の方がフィットも良好であった。し たがって,ここで世帯主収入の人的資本理論によるアプローチにあたり,わ れわれはこの点を考慮し経験年数(注4)を説明変数として採用することにし た。なお計測に際しては第2章と同様加重回帰分析の手法を用い,その結果 は表4−2に示してある。
この結果をみると,「定期収入」を被説明変数とした場合も,それに日 当・ボーナス等を加えた「勤め先収入」を被説明変数とした場合のいずれに おいてもフィットは良好である。また,両者の回帰係数c1,c2 をみると最 近時点でこそ反騰の傾向がみられるものの時系列での推移はほぼ低下傾向に あるといえよう。またこの両者について,c1,c2 の値を比較すると,被説 明変数に世帯主の勤め先収入を用いた場合の方が常に大きい。これは既に第 2章の第2節の補論で『賃金構造』のデータを使用して検討したのと同様ボー ナスを含めた賃金でみた方が賃金格差は大きくあらわれることを意味してい る。
ところで,この計測式においては教育投資からの収益率は明示的には示さ れておらず,直接その収益率の推移をみたり,解釈を試みることはできな い。ただ,就職後の人的投資については,既に触れたように,c1及びc2 が 40年代前半まで時系列で低下傾向にあるといえることから,第2章と同様の 解釈をすることは可能であろう。
(注4)経験年数については第2章同様,経験年数=現在年齢−卒業時年齢=現在 年齢−学校教育年数−6の式に基づき求めた。ところで,『家計調査』では 現在年齢に関しては,年齢階級別平均年齢のデータを直接利用できるが,学 歴に関するデータはない。そこで,学歴に関しては,『賃金構造』のデータ により年齢階級別平均学歴を加重平均で求め,これを代用した。
なお,参考までに『賃金構造』の男子学歴計のデータを使用し,(4−8)
式に基づいて計測した結果を表4−3に掲げてある。これを世帯主に関する 計測結果を示した表4−2と比較すると,c1 <d1, c2 ≦d2 の関係がみてと れる。このことは個人ベースでみた年齢間所得分配が世帯主に限った場合 のそれよりも不平等であることを暗示しており,第3章でみた結果とも斉合 的である。
第2節 世帯主以外の世帯員の勤め先収入と有業者数の分析
勤労者世帯の実収入の構成項目としては,世帯主の勤め先収入の次に,妻 を含む他の世帯員の勤め先収入が大きな割合を占めている。例えば,勤労者 世帯全体でみた場合,実収入に占める世帯主以外の世帯員の勤め先収入はほ ぼ10%前後である。しかしながら,これを世帯主の年齢階級別にみてみる と5%程度の年齢層もあれば,25%を起える階層もある。さらに,時系列で みて,上昇してきている階層もあれば,逆に低下してきている階層もあると いう具合で複雑である。そこで,本節では,世帯主の年齢階級別にみた妻お よびその他世帯員の勤め先収入の構造について検討を加え,その時系列的な 変化がどのような理由で生じてきているかを明らかにし,それらが勤労者世 帯の所得分配の変化にどのような影響を及ぼしているかを分析することとし たい。
その際,まず注意しなければならないのは,『家計調査』において集計さ れている。妻および他の世帯員の収入は,それらの世帯員が有業で収入を得 ている世帯も得ていない世帯も合わせて,全世帯数で除した平均収入である という点である。したがって,これらの1世帯当りの平均収入の変化を分析 するためには,いうまでもなく,これらの世帯員の1人当り平均収入水準の 変化に着目しなければならないが,同時に,それぞれの1世帯当りの平均有 業者数の変化も無視するわけにはゆかない。
そこで以下においては,まず,妻および他の世帯員の「1世帯当りの平均 収入」の時系列的な変化を,世帯主の年齢階級別に概観し,次いで,われわ
図4−4 世帯主の年齢階級別実収入に占める妻の収入の割合
(勤労者世帯)
資料)総理府統計局「家計調査」より作成。
れが用いた推計方法(注5)にしたがって推計したそれぞれの有業者数並びに1 人当り収入の変化を,世帯主の年齢階級別に掘り下げて分析することとす る。
1. 妻および他の世帯員の収入の推移
(注5) 推計方法の詳細は,本節の補論を参照されたい。
まず,妻の収入からみてみることとしよう。勤労者世帯全体でみると実収 入総額に占める妻の収入の割合は,昭和38年の4%弱から51年の6%強へと上 昇してきており,女子とりわけ既婚女子の労働市場への進出の活発さがうか がえる。
これを世帯主の年齢階級別にながめてみると,図4−4にみるように,次の ようないくつかの特色が指摘できる。
1)世帯主が24才未満の世帯においては,妻の収入の割合が一般に高い。
2)世帯主が30才代の世帯では,その割合は低下するが,40才代になると再 び高まる。
3)世帯主が 55 才以上の高齢者世帯においては,年齢が高くなるにしたがっ て,妻の収入の割合は低下する傾向にある。
さらに,これを時系列でみてみると,
4)勤労者世帯全体における妻の収入の割合は上昇しており,いずれの年齢 階層についてもほぼ同じ現象が生じている。
5)とりわけ,世帯主が40才から50才前半にかけての中年齢階層の世帯にお ける妻の収入割合の伸びは著しい。ただ30才代や65才以上の世帯の妻の収入 割合の伸びはそれ程顕著ではない。
以上のような事実は,勤労者世帯の妻の有業率の上昇を示唆しているが,
この点については,後に有業率の推計結果を分析する際に詳しく論ずること とする。
次に,世帯主・妻以外の世帯員の収入についてみてみよう。勤労者世帯全 体でみた,実収入に占める「その他の世帯員の収入」の割合は,妻の場合と 逆に低下してきており,昭和42年の6%強から51年には3%台へと変化して いる。これは,核家族化が進展したことにより世帯人員が減少し,世帯主・
妻以外の有業可能な世帯員数が低下したことの反映であると理解できる。
この「他の世帯員の収入」についても,世帯主の年齢階級別にみてみよ う。図4−5は,世帯主の年齢階級別に,実収入総額に占める「他の世帯員 の収入」の割合の推移を示したものである。これをみると次のような事実が 指摘できる。
図4−5 世帯主の年齢階級別実収入に占める他の世帯員 の収入の割合(勤労者世帯)
資料)総理府統計局「家計調査」より作成。
1)世帯主の年齢が40才前後の世帯をはさんで,若い世帯になればなる程,
また高年齢世帯になればなる程,その他世帯員の収入の割合が高くなる。
2)しかし,高年齢世帯における他の世帯員の収入の割合の方が若い世帯の 割合よりも著しく高い。
また,時系列での推移をみてみると,
3)勤労者世帯全体の動きと同様,いずれの年齢階級においても,この「他 の世帯員の収入」の割合は,ゆるやかに低下してきている。
このような事実は,勤労者世帯における核家族化現象(世帯人員の減少)を 反映しており,若年層世帯のこの収入割合の低下は親との同居率の低下を,
また高年齢層世帯のこの収入割合の低下は子供との別居率の増加を,それぞ れ物語っていると推測される。
2. 勤労者世帯の有業者数
そこで,次に勤労者世帯の有業者数がどのように推移してきているかをみ てみよう。第4−6図にみるように,勤労者世帯全体の平均有業者数は,こ こ10年余は約1.5人台でほぼ安定的に推移してきている。しかし,世帯主の 年齢階級別にみてみると多少趣を異にすることは,図4−6を み て も わ か る 。すなわち,世帯主が20才代の世帯における有業者数は,明らかに減少し てきており,とりわけ,24才未満の世帯の有業者数の低下は著しいものがあ る。また,30才代の世帯についてはそれ程顕著な変化は認められないもの の,40才代の世帯の有業者数はいくぶん増加してきていると判断できる。さ らに,世帯主が55才以上の高齢層世帯においては,若年層世帯と同様,有業 者数は若干減少してきていることが認められる。
以下においては,このような現象がどのような理由で生じてきているか を,妻の有業率と他の世帯員の有業者数とに分けて検討することとするが,
前項でも既に触れた,核家族化の進展,妻の労働市場への進出等と深くかか わっていることは,容易に想像がつく。
さて『家計調査』では,世帯の有業者数は集計されているものの,妻と他 の世帯員の平均有業者数はそれぞれ個別に公表されてはいない。そこで,そ れぞれの有業者数がどのように推移してきているかを明らかにするために
図4−6 世帯主の年齢階級別1世帯当り平均有業者数の 推移(勤労者世帯)
資料)総理府統計局「家計調査」より作成。
は,個票にさかのぼって再集計することが必要となる。ところが,それが容 易でない現状の下では,集計された既存の統計表から何らかの方法で推計を 試みざるを得ない。
以下において用いたわれわれの推計方法の詳細は,本節の補論に示してあ る通りであるが,そめ基本的な考え方は,『家計調査』から直接得られる総 有業者数(これをURとする)から世帯主の有業者数に相当する1.0(注6)を差 し引いた人員数を,あるウエイトを用いて「妻の平均有業者数(これをURW とする)」と「他の世帯員の平均有業者数(これをUROとする)」とに割り振 るという方法である。このことは
t
を年次とすれば(4−9)
URW
t+ URO
t= ( UR
t− 1 . 0 )
であるから,
( UR
t− 1 . 0 )
をURW
tとURO
tとに振り分ける場合のウエイトをどうするかということになるが,われわれの以 下での各有業者数の推計に際しては次のような考え方に従った。
すなわち,「妻の1人当り収入」を「女子労働者の賃金」と,また「他の 世帯員1人当りの収入」を「男女計労働者の賃金」とそれぞれ等しいと仮定 した場合に得られる(注7)「妻の1世帯当り平均有業者数(
URW '
)」と「他の世帯員の1世帯当り平均有業者数(URO')」とを用い,『消費実態』より 得られる昭和49年の妻の有業率をベンチマークとして,他の年次の有業者数 を推計した。
われわれが採用した,各有業者数の推計方法の基本的特徴は以上のような ものであるが,その推計結果を解釈する場合には次のような諸点にも注意を 払う必要があろう。
(注6) 厳密にいえば,妻自身が世帯主であることも考えられるが,ここでは簡単 化のため全て男子であるとみなした。『家計調査』の世帯類型別表によると,
母親または妻が世帯主である世帯は,最近では減少してきているものの,全 勤労者世帯の約1%強ある。
(注7) 「妻の1世帯当り平均収入」と「妻の1人当り収入」がわかれば,「妻の1 世帯当り有業者数」が計算されることはいうまでもなかろう。「他の世帯 員」に関しても同様である。またURWとURW'とを区別したのは,URW' はここで示した前提の下で算出されたものであって,本来のURWとは明ら かに異なるからである。URO'についても同様である。
まず,補論の中の注書きでも触れているように,われわれの推計において は,妻の労働時間数の変化を明示的に取り挙げていないという点である。既 婚女子の労働市場への進出は,パートタイムでの就業形態の普及と深くかか わっており,妻の平均労働時間の低下を考慮するならば,その有業率はさら に高いものとなる可能性がある。
このパートタイム就業は,女子労働者全体の賃金水準と妻の収入水準との 対応関係を考える際にも多少気がかりな点である。われわれの推計方法で は,「パートタイム労働者を含む女子労働者の賃金」と「妻の収入」とを対 応させているが,女子全体に比べると既婚女子のパート比率がはるかに高い ことが想像され,われわれの用いたウエイトに偏りが生じている可能性もあ る。
さらに,「他の世帯員の収入」を「男女計賃金」で対応させる際に,相互 の年齢階級区分の対応関係をどのように設定するかも重要な問題である。わ れわれは補論の表4−8に示したような対応関係を設定したが,その妥当性 についても再検討の余地があるかもしれない。
以下,これらの点にも留意しつつ,妻ならびに世帯員の有業者数の推移,
およびそれぞれの1人当り収入の推移についての推計結果の分析に入ること としよう。
3. 妻の有業率の推移
世帯主の年齢階級別にみた勤労者世帯の妻の有業率に関する統計は一般に は公表されていない。しかし,『消費実態』の「世帯類型,有業形態別表」
や「世帯属性別世帯分布表」から間接的に推計することは可能である。ただ この場合も,44年と49年に関してのみ算出しうるだけであり,算出の方法も 幾通りか考えられる(注8)。
その一例を示したのが表4−4であるが,これによると,勤労者世帯全体 では,約3分の1の世帯で妻が勤めに出ていることがわかる。また,世帯主
(注8) 経済研究所で幾通りかの方法で算出した結果は,参考資料表4−4にも掲 げてあるが,その結果をみると,44年の値は,精度の上で若干問題があると みられるため,ここでの有業者数の推計に際しては,49年の結果を利用する こととした。
表4−4 世帯主の年齢階級別1世帯当り平均妻の有業率(有業者数)<勤労者世帯>
(単位:%または人)
年 次 平 均 〜24才 25〜29 30〜34 35〜39 40〜44 45〜49 50〜54 55〜59 60〜64 65〜
昭 44 年 0.355 0.319 0.303 0.313 0.381 0.437 0.423 0.339 0.263 0.220 0.123 49 0.323 0.317 0.230 0.238 0.318 0.389 0.411 0.381 0.308 0.265 0.166
(参考)世帯主の年齢階級別1世帯当り平均有業人員の「家計調査」と「全国消費実態調査」との比較 (単位:人)
年 次 調 査 平均 〜24才 25〜29 30〜34 35〜39 40〜44 45〜49 50〜54 55〜59 60〜64 65〜
44 年 家 計 調 査 1.53 1.60 1.38 1.30 1.38 1.44 1.68 1.97 2.04 2.09 1.81 全国消費実態調査 1.58 1.61 1.42 1.39 1.44 l.53 1.72 1.69 2.09 2.16 1.85 49 年 家 計 調 査 1.52 1.44 1.34 1.29 1.36 1.46 1.66 1.94 2.04 2.00 1.83 全国消費実態調査 1.53 1.46 1.33 1.32 1.38 1.48 1.67 1.91 2.04 1.99 1.72 資料)総理府統計局「家計調査」,「全国消費実態調査」より算出。
表4−5 若年核家族世帯における世帯主の年齢階級別1世帯当り平均妻の 有業率(有業者数) <勤労者世帯>
(単位:人又は%)
年 次 〜 24才 25 〜 29 30 〜 34 35 〜 39
昭 38 年 0.52 0.25 0.18 0.22
39 0.38 0.21 0.19 0.23
40 0.34 0.21 0.20 0.25
41 0.34 0.21 0.22 0.26
42 0.50 0.19 0.20 0.27
43 0.26 0.20 0.21 0.31
44 0.35 0.24 0.21 0.31
45 0.33 0.20 0.22 0.31
46 0.34 0.20 0.23 0.30
47 0.35 0.19 0.20 0.29
48 0.28 0.21 0.22 0.29
49 0.34 0.24 0.21 0.30
50 0.20 0.20 0.20 0.27
51 0.25 0.20 0.21 0.32
資料)総理府統計局「家計調査」の世帯類型別表により作成。
の年齢階級別にみてみると,出産期を迎える25〜34才層の世帯で妻の有業率 が一番低くなり,育児から解放され,子どもの教育費等の家計負担が高まる 40才代の世帯では妻の有業率が高まり,4割を越えるが,その後は高齢化す るに伴い妻の有業率は再び低下してゆくという傾向がみられる。
なお,核家族世帯の妻の有業率に限るならば,『家計調査』の「世帯類型 別表」から部分的に把握することも可能である。すなわち,世帯主が若年層 に属する核家族世帯においては,世帯主とその妻以外に有業可能な世帯員が 存在しないと考えられるところから,世帯の総有業者数から,世帯主の1人 分を差し引く形で,妻の有業率を算出しうるはずである。表4−5は,40才未 満の核家族勤労者世帯の妻の有業率を,この方法により推計したものである が,時系列的にはそれ程大きな変化は認められない。もっとも,核家族世帯 という特殊性もあり,これをもって勤労者世帯全体の推移を判断する材料と するには,問題があることには注意すべきであろう。
それでは,われわれの推計結果をみてみよう。図4−7は,妻の1世帯当
図4−7 世帯主の年齢階級別1世帯当りの妻の平均有業者数の推移<勤労者世帯>
注)推計方法については本節の補論を参照のこと。
り平均有業者数の推移を世帯主の年齢階級別に示したものである。まず,年 齢階級間の比較をしてみると,先に『消費実態』でみられた一般的な傾向は そのままあらわれており,次の様な特色が指摘できる。
1)35 才未満の若年層においては,妻が出産,保育期を迎える 25〜34 才代 の世帯において,妻の有業率が著しく低下する。とくに,世帯主が 25〜
29才代の世帯においては,妻の有業率は2割前後に落ちる。
2)35〜49 才までの中年層の世帯においては,妻が育児から解放されるに伴 い,その有業率は高まってゆく傾向にある。
3)50 才以上の高齢者世帯においては,年齢階級が高まるにしたがって,妻 の有業率は低下してゆく。
さらに,時系列でみた推移についてみると,全般的に妻の有業率は上昇する 傾向にあるが,年齢階級別にみると多様である。すなわち,
4)若年層の世帯に関しては,景気動向の影響ともとれるような変動が認め られるものの,概して妻の有業率の水準にはそれ程大きな変化は認められ ない。
5)40才代,50才代の世帯においては,妻の有業率の上昇は著しく,とくに
近年では 40 才代の勤労者世帯の妻の有業率が 4 割前後に達していること は注目され,家計の実収入に及ぼす影響の点で無視できない存在となって いる。
6)60 才代の世帯については,妻の有業率は,かなり大きな変動を示してお り,時系列での推移については,明確な判断を下し難い。
以上のように,勤労者世帯における妻の有業率は,世帯のライフステージ と深いかかわりをもっていることがわかる。ただ,そのような基本的枠の中 にあっても,ここ10余年の間の推移をみてみると,世帯主が40〜50才代の世 帯を中心に,妻の労働市場への進出が著しく進んできていることがわかる。
4. 他の世帯員の有業者数の推移
われわれの用いた有業者数の推計方法による場合,「他の世帯員の1世帯 当り平均有業者数」も,妻のそれと同時に算出しうる。そこで,われわれ が推計した,世帯主の年齢階級別「他の世帯員の1世帯当り平均有業者数」
をみてみることにしよう。図4−8はその推計結果を図示したものである。
まず,年齢階級間での平均有業者数の比較をしてみると,次のような特色 が指摘できる。
1)世帯主の年齢が39 才までの若年4階級については,世帯主の年齢が上昇 するにつれて,「他の世帯員の平均有業者数」は減少してゆき,35〜39 才 代の世帯でその有業者数がもっとも少なくなる。
2)ところが,世帯主の年齢が 40 才代から 50 才代へと上昇するにつれて,
他の世帯員の有業者数は急速に増加していっている。
3)しかし,60才代になるとその有業者数は再び減少してゆく。
この事実は次のように解釈できる。すなわち,世帯主が若年層に属してい る間は,子の世帯に同居している親がある程度働いている可能性があるが,
世帯主たる子の年齢が高まるにつれて,それらの親が引退したり死亡したり して徐々に減少してゆく。ところが,世帯主が40才を越えると,その子供 が,学校教育を終えて働き始め,他の世帯員の有業者数が増加してゆく。い うまでもなく,これらの子供は,その後結婚し,独立してゆく可能性が強く,
図4−8 世帯主の年齢階級別1世帯当りの世帯主・妻 以外の有業老数の推移<勤労者世帯>
注)推計方法については本節の補論を参照のこと。
それに伴って再びこの有業者数は減少してゆくはずである。60才代における 他の世帯員の有業者数の減少はまさにこの段階に対応する。このように「他 の世帯員の有業者数」の変化も,世帯のライフステージと深くかかわってい ることがわかる。
次に,「他の世帯員の平均有業者数」の年次別推移に着目してみよう。図 4−8をみると,
4)いずれの年齢階級においても,有業者数は減少傾向にある。
これは,再三述べてきた核家族化の進展によるとともに,一部の年齢階級 においては,進学率の上昇の影響があらわれている可能性がある。
そこで,以下においては,これらの諸要因を考慮しつつ,世帯主の年齢階 級別他の世帯員の有業者数の推移についての計量的な分析を試みることとす る。勤労者世帯に関して他の世帯員の有業者数の変化に影響を及ぼしている 要因としては,先にもふれた核家族化や高学歴化の進展,労働市場における 需要圧力等が考えられる。まず,核家族化の進行が,世帯主・妻以外の世帯 員の減少をとうして,直接他の世帯員の有業者数の低下につながることは言 を待たないであろう。ただその影響が強く現れるのは,親と同居する場合の 多い若年世帯層と成長した子供と同居する高年齢世帯層であることは明らか である。次に,高学歴化の影響であるが,これは子弟の在学期間の伸びに伴 う就業年齢の上昇という形で他の世帯員の有業者数の減少と関係しているに すぎずそのような年代の子供と同居する中高年齢世帯で問題となる。最後の 労働力需要については,ここで問題としているのが,世帯主・妻以外の世帯 員であるところから,それが労働市場の需要の動きにどれ程敏感に反応する ものなのか判断の難しいところである。
われわれは,これらの要因を考慮して回帰分析を試みた。その際に,それ ぞれの要因を説明する変数として何を選ぶかは難しい問題であるが,各種の 指標を用いて分析を試みた結果の中から妥当と思われるものを選んで示した のが表4−6に掲げてある。そこでは,核家族化の指標として,『家計調査』
から得られる高年齢世帯の「平均世帯人員の逆数」(
AP
)(注9)を,また高学(注9) 核家族化の指標については,第5章第1節の中で詳しく検討している。
表4−6 他の世帯員の有業者数に関する回帰分析
年齢階級区分 回 帰 式 R2 D.W.
〜 24 UROi = 1.6477−5.4563⋅AP50〜59 +0.000053⋅AO 0.7687 2.79 (8.19) (−6.22) (0.92)
25 〜 29 UROi = 0.7140−2.2841⋅AP50〜59 +0.000035⋅AO 0.8453 2.94 (11.12) (−8.15) (1.90)
30 〜 34 UROi = 0.2873−0.8502⋅AP50〜59 0.7428 2.37
(8.10) (−6.21)
35 〜 39 UROi = 0.1805−0.4798⋅AP65〜 +0.000013⋅AO 0.6024 1.86 (6.13) (−4.65) (1.54)
40 〜 44 UROi = 0.6861−2.2871⋅AP50〜59 +0.000032⋅AO 0.8646 2.13 (11.44) (−8.74) (1.86)
45 〜 49 UROi = 1.4043−2.5445⋅AP55〜59 +0.000072⋅AO −0.0437⋅SG24 0.9271 1.07 (4.58) (−2.60) (3.63) (−0.88)
50 〜 54 UROi = 2.4465−1.9127 〜 AP65
⋅ +0.000120⋅AO −0.1187⋅SG24 0.7096 1.46 (4.27) (−1.13) (2.20) (−1.27)
55 〜 59 UROi = 3.2032−3.5509⋅AP55〜59 +0.000143⋅AO −0.1432⋅SG24 0.9377 1.88 (6.11) (−2.12) (4.24) (−1.67)
60 〜 64 UROi = 1.9062−3.9510⋅AP60〜64 0.8805 1.80
(17.01) (−9.84)
65 〜 UROi = 1.7969−3.7347⋅AP65〜 0.6880 2.09
(3.48) (−5.45)
注)1. UROi=年齢階級別他の世帯員の有業者数,APi:年齢階級別平均世帯人員の逆数,AO=月間平均有効求人数,SG24=24才未満全 労働者の平均学校教育年数
2. R2:自由度修正済決定係数,D.W.:ダービン・ワトソン比,( )内
t
−値 3. 計測期間38〜51年歴化の指標としては,労働市場にあらわれた24才以下の「全(男女計)労働者 の平均学校教育年数」(SG)を『賃金構造』から算出して(注10),さらに労働 力需要の指標としては,『職業紹介統計』から得られる「新規学卒者を除く有 効求人数」(AO)を,それぞれ用いた。分析結果をみると,年齢階級によっ ては労働力需要要因を示す「有効求人数」(AO)の説明力に若干の不満がな いでもないが,全般に,決定係数も高く,符号条件も満たされており妥当なも のではないかと思われる。
なお,妻および他の世帯員の1人当り平均有業者数がわかれば,1世帯当 り平均収入がわかっているから,その1人当り平均収入が推計できる(注11)。 表4−7は,このようにして求めた「妻の1人当り収入」および「他の世帯員 の1人当り収入」を,それぞれ「女子労働者の賃金」および,「男女計労働 者の賃金」と対応させ,相互の時系列での推移の相関を調べてみたもので あるが,いずれの年齢階級においてもかなり高い相関係数が得られた。もっ
表4−7 世帯主の年齢階級別にみた1人当り 収入と賃金との相関係数
年齢階級 区 分
妻の1人当り収入 と女子賃金との相 関係数
その他世帯員の1人 当り収入と男女計賃 金との相関係数
〜24才 0.9701 0.9609
25〜29 0.9815 0.9750
30〜34 0.9901 0.9869
35〜39 0.9873 0.9866
40〜44 0.9910 0.9915
45〜49 0.9872 0.9882
50〜54 0.9920 0.9933
55〜59 0.9875 0.9941
60〜64 0.9901 0.9898
65〜 0.9767 0.9732
注)1. 相関係数は自由度修正済の値である。
2. 年齢階級毎に時系列データを用いて計測した。
3. 期間は38〜51年。
(注10) 学歴別の学校教育年数を中卒=9年,高卒=12年,短大卒=14年,大卒
=16年として,それぞれの労働者数をウエイトとして加重平均して求めた。
(注11) 本節の補論の中の(4−10)式,(4−14)式を参照されたい。
とも「女子の平均賃金」水準と「妻の1人当り収入」水準とを比べると,後 者は前者よりも低く,若年層で約7割,高年齢層では4割程度の水準にしかな らない。また,「男女計の平均賃金」水準と「他の世帯員の1人当り収入」水 準とを比べると,この格差はさらに拡がり,親と同居する子弟の収入水準で,
約6割程度,子と同居する親の収入水準にいたっては,約3割程度の水準にし かならなかった(注12)。
以上,「妻および他の世帯員の勤め先収入」を,その背後にある有業者数 との関連にまでさかのぼって分析してきたが,世帯構造・社会構造の変化を 反映して,それが世帯の実収入の変化に微妙な影響を及ぼしてきたことがわ かる。第5章においては,ここでの分析を踏まえて,勤労者世帯の年齢階級 間の所得分配の変化に対して,これらの現象がどの程度の影響を及ぼしてい るかを量的に分析することとする。
第2節の補論 有業者数の推計方法 1. 妻の収入と妻の有業率
『家計調査』に表われている「妻の収入」は,妻が収入を得ている世帯も 得ていない世帯も合わせた,全ての世帯の平均収入であることは前にも触れ た。したがって,『家計調査』に表示されている「妻の世帯当り平均収入」
をRW,「妻の世帯当り平均有業者数(有業率)」をURW,「妻の1人当り平 均収入」をEVEとし,年次を
t
であらわすならば,(4−10)
RW
t= EVE
t⋅ URW
tという関係が成り立つ(注13)。
(注12) 「女子の平均賃金」と「妻の収入」に差があるのは,妻のパートタイム 労働を考えれば,ある程度納得がゆく。また,「男女計の平均賃金」と「他 の世帯員の収入」との差についても,後者が世帯の主たる生計の担い手とい うよりも従たるケースに該当する場合が多いところがら,必ずしも的はずれ とはいえないであろう。
(注13) 『家計調査』に示されている有業者数は,必ずしも勤め先収入を得てい る者だけを対象にしているわけではなく,事業内職収入を得ている者も含ま れている。したがって,有業者の収入を勤め先収入に限るのは必ずしも妥当 ではないが,ここでは便宜上上記のように仮定した。
図4−9 妻の収入の伸びと女子労働者の賃金の伸びの比較(49年=100.0)
資料)総理府統計局「家計調査」,労働省「賃金構造基本統計調査」より作成。
ところで,RWは『家計調査』から直接とれるが,EVEすなわち「妻の1 人当り平均収入」がわからなければURW は算出できない。ところが残念な がら,わが国においては,「妻の1人当り平均収入」に関する統計は集計され ていない。そこで,以下においては,第一次的接近方法として,『賃金構 造』から得られる「パートタイム労働者を含む女子労働者の賃金(具体的に は月間きまって支給する給与額)」で「妻の1人当り平均収入」(EVE)を代 理させることとする。そこで,「女子労働者の賃金」をEV とすれば,
(4−10)'
RW
t= EV
t⋅ URW
t'
となり,(4−10)式,(4−10)' 式を時間に関して徴分すれば,それぞれ
(4−11)
dt dURW dt
dEVE dt
dRW = +
(4−11)'
dt ' dURW dt
dEV dt
dRW = +
となる(注14)。
図4−9は,世帯主が25〜29才,35〜39才,45〜49才の3つの年齢階級に 属する世帯に関して,「妻の1世帯当り平均収入」(RW)の伸びと,それに対 応する「女子労働者の賃金」(EV )の伸びとを比較したものである。25〜29 才代と35〜39才代については,それ程目立たないが,45〜49才代について は,妻の収入の伸びが女子賃金の伸びを上回っていることがわかる。
したがって,45〜49才代については,
(4−12)
dt dEV dt
dRW >
であり,(4−11)' 式を考えれば
(4−13) >0 dt
' dURW
が成立し,世帯主が45〜49才代の勤労者世帯においては,妻の有業率が上昇 傾向にあったことを示唆している(注15)。
2. 他の世帯員収入と有業者数
その他世帯員の有業者数の推計方法も妻の場合と同様の方法によってい
(注14) URWとURW'とを区別したのは,URW'が必ずしも正しい有業者数を 示しているとは限らないためである。詳しくは後述する。
る。
いま,世帯主・妻以外の他の世帯員の「1世帯当りの平均収入」をRO,
「1人当り収入」をEOE,「1世帯当り平均有業者数」をUROとし,年次を
t
であらわせば,妻の場合と同様(4−14)
RO
t= EOE
t⋅ URO
tが成り立ち,これを時間に関して微分すれば,
(4−15)
dt dURO dt
dEOE dt
dRO = +
となる。ここでも「他の世帯員の1人当り収入」(EOE)そのものに関する 統計はないため,妻の場合と同様,『賃金構造』の「男女計の労働者賃金」
でそれを代理させることとする。
この場合,妻の場合とちがって注意しなければならないのは,他の世帯員
(注15) より厳密に論ずるならば,妻の場合,労働時間数の変化の影響も無視す るわけにはゆかない。そこで「妻の1人当り平均時間給」をRWH,「月間平 均時間数」をHWとして,
(4−10)式を修正するならば,
(1) RWt = RWHt⋅HWt⋅URWt
となる。ここで「妻の1人当り時間給」を「女子労働者の時間給」(WW)で 代理させるならば,
(2) RWt =WWt⋅HWt⋅URWt''
となり,これを時間に関して次の様に微分し,
(3)
dt '' dURW dt
dHW dt
dWW dt
dRW = ⋅ ⋅
とすると,dWW/dtはほぼdEV/dtに等しいと仮定できるから(4−11)' 式 と(3)式より,
(4)
dt '' dURW dt
dHW dt
'
dURW = ⋅
が成立する。ところで妻の有業率の上昇が労働時間の限られたパートタイム 労働者の増加という形で実現してきていることを考えるならば
(5) <0 dt dHW
と考えられ,この2つの有業率の変化の間には,
(6)
dt '' dURW dt
' dURW <
という関係が成り立つことになる。このことは,妻の平均労働時間の減少を 考慮に入れずに妻の有業率の変化を推計した場合には,実際の妻の有業率の 伸びを多少高目に修正して考える必要があることを示している。
の年齢と世帯主の年齢との間には,大幅なズレが存在するという点である。
例えば,世帯主が若年層に属する場合には,有業者たる「その他の世帯員」
は世帯主の親または妻の親である可能性が強く,逆に世帯主が高齢層に属す る場合には,世帯主の子弟であると考えてよい。そこで,世帯主の年齢階級 区分とその他世帯員の年齢階級区分との対応関係を表4−8のように想定する こととした。
表4−8 世帯主の年齢階級とその他世帯員の 年齢階級との対応関係
階 級 世 帯 主
年齢階級区分 その他世帯員 年齢階級区分 1 〜 24才 50 〜 59才 2 25 〜 29 55 〜 64 3 30 〜 34 60 〜 4 35 〜 39 65 〜 5 40 〜 44 65〜と〜24 6 45 〜 49 〜 24 7 50 〜 54 〜 24 8 55 〜 59 〜 29 9 60 〜 64 〜 34 10 65 〜 〜 34
その他の世帯員の年齢階級をこの区分に合わせて集計した「男女計賃金」
(EO)でEOEを代理させると
(4−14)'
RO
t= EO
t⋅ URO'
(4−15)'
dt dURO' dt
dEO dt
dRO = +
となる。
図4−10は,このようにして求めたEOとROとの伸びを,世帯主の年齢 が25〜29才,35〜39才,45〜49才に該当するものに関して比較したもので ある。いずれの年齢階級をとっても,妻の場合と逆に「男女計賃金」の伸びが
「その他世帯員の1世帯当り平均収入」の伸びを上回っていることがわかる。
このことは
(4−16)
dt dEO dt
dRO <
図4−10 その他の世帯員の収入の伸びと男女計労働者の賃金の伸びの比較
資料)総理府統計局「家計調査」,労働省「賃金構造基本統計調査」より作成。
を意味し,(4−15)' 式より
(4−17) <0 dt dURO'
となり,「その他世帯員の1世帯当り有業者数」は時系列的にみて低下してき ていることが示唆される(注16)。
3. 妻及びその他の世帯員の有業者数の推計
われわれは,前2項でみてきたような考え方に沿って,妻並びにその他世 帯員の有業者数を推計することとした。その推計方法は次の様なものであ る。
まず,49年を基準とした(49年=1.00)各年のそれぞれの収入,賃金,有 業者数を次の様に定義する(注17)。
妻の収入:
(4−18)
RRW
t= RW
t/ RW
49その他の世帯員の収入:
(4−19)
RRO
t= RO
t/ RO
49女子労働者の賃金:
(4−20)
REV
t= EV
t/ EV
49男女計労働者の賃金:
(4−21)
REO
t= EO
t/ EO
49妻の有業者数:
(4−22)
RURW '
t= URW '
t/ URW '
49その他世帯員の有業者数:
(4−23)
RURO'
t= URO'
t/ URO'
49(注16) いうまでもなく,「他の世帯員の収入」と「男女計労働者の賃金」とを対 応させることは必ずしも適切ではない。というのは,例えば子の世帯に従属 している親の収入は,自らが世帯主となっている親の収入と比べると一般に は低いと考えられるからである。しかし,収入の伸び率自体を比べた場合ど ちらが高いかは,断定できないものと考えられるところから,以下の有業率 の推計に際しては,ここでの考え方をそのまま採用することとした。
(注17) 何故に49年を基準年としたかについては後述するが,基本的には,49年の
『消費実態』の年齢階級別妻の有業率を基準としたことに主たる理由がある。