地方競馬益金 補 助 事 業
平成 10 年度
めん羊・山羊の特定疾病対策事業
めん羊・山羊の重要疾病解説書
(内・外寄生虫症 腰麻痺 腐蹄症)
平成 11 年 3 月
日 本 緬 羊 協 会
法 人 社 団
ま え が き
(社)日本緬羊協会は、平成10年度も地方競馬全国協会が推進している畜産振興補助事 業の補助を受けて「めん羊・山羊の特定疾病対策事業」を実施しいたしました。
この事業は、めん羊・山羊の疾病に関する解説書の作成配布、生産振興のための疾病を 含む情報提供等を行う交流会の開催、実態調査報告書の作成配布を実施して、めん羊・山 羊を振興しようとするものであります。
この事業の中でめん羊・山羊の重要疾病に関する解説書及び山羊市場の実態に関する調 査の報告書を作成して関係者に配布することとなり、ここに解説書を作成して関係者に配 布することとなりました。
めん羊は、需要の強いラム肉生産や羊毛加工への関心の高まりにより、また、山羊は、
山羊乳利用や肉消費の拡大等により、中山間地等における地域振興の一作目として期待が 寄せられています。
しかし、寄生虫症、腰麻痺などは旧くから知られていながら依然として被害を受け続け ている疾病が存在し、飼育者はその防除のために多くの経済的・労力的負担を強いられて います。これらの疾病は根絶が大変困難であることから、むしろ如何に制御抑制して被害 を少なくするかが管理上の技術として大切であります。このような状況の中でめん羊・山 羊の振興を図るためには、飼養者に村してこれら疾病の症状と対処方法等を解説して啓発 普及することが課題であることから、平易な解説書として「めん羊・山羊の重要疾病解説 書」を作成することといたしました。この解説書がめん羊・山羊飼養の関係者や関係機関 に広く活用されることを期待してやみません。
解説書作成に当りましては、ご指導ご協力を賜りました畜産局関係担当官、企画検討を 煩わせました委員各位を初め執筆を賜った先生方、さらに取りまとめの労を賜わりました 自戸綾子氏など関係者のご努力に対し、衷心より厚くお礼を申し上げます。
また、今回も絶大なご援助を賜りました地方競馬全国協会に対しましても深く感謝の意 を表します。
平成11年3月
社団法人 日本緬羊協会
豊 田 晋
会 長
平成10年度
めん羊・山羊に特定疾病対策事業 企画検討委員・執筆者
(敬省略・順不同)
企画検討委員
星 井 静 一(委員長) (社)酪農ヘルパー全国協会
俵横田 守 農林水産省 畜産局 家畜生産課 坂 田 光 弘 農林水産省 畜産局 家畜生産課
白 戸 綾 子 農林水産省 家畜改良センター 岩手牧場 河 野 博 英 農林水産省 家畜改良センター 十勝牧場 名 倉 義 夫 農林水産省 家畜改良センター 長野牧場 村 田 亜希子 農林水産省 家畜改良センター 岩手牧場 高 木 優 二 信州大学 農学部 応用生命科学科 斉 藤 利 朗 北海道立滝川畜産試験場
佐 野 鶴 二 (社)北海道酪農畜産協会
吉 本 正 日本緬羊研究会
近 藤 知 彦 日本緬羊研究会 鈴 木 香代子 愛知県緬山羊協会
執 筆 者
更 科 孝 夫 帯広畜産大学 獣医学科
白 戸 綾 子 農林水産省 家畜改良センター 岩手牧場 河 野 博 英 農林水産省 家畜改良センター 十勝牧場 名 倉 義 夫 農林水産省 家畜改良センター 長野牧場 村 田 亜希子 農林水産省 家畜改良センター 岩手牧場
目 次
グラビア
第1章 内・外寄生虫症 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 更科 孝夫
.概 要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1
.内部寄生虫症 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2
)内部寄生虫の種類と発育環・症状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1
( )線虫類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1
( )肺虫(線虫類)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
( )条虫類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 3
( )吸虫類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 4
( )コクシジウム(原虫類)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
)検査及び診断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 2
( )採材・保管方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51
( )各内部寄生虫の検査・同定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52
)駆虫プログラム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 3
)各寄生虫症の治療と予防対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 4
( )線虫類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 7
( )条虫類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 7
( )吸虫類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 8
( )原虫類(コクシジウム)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84
.外部寄生虫症 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 3
)外部寄生虫の種類と症状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 1
( )シラミ類(昆虫類)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 81
( )ハエ類(昆虫類)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82
)防除プログラム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 2
3)治療と予防対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
1 11
( )シラミ類(昆虫類)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 11
( )ハエ類(昆虫類)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 12
第 章 腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 白戸 綾子 1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 2.原 因 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 1)病原体 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 2)指状糸状虫の生活環 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 3.症 状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
2)症 状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 3)類症鑑別 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 4.予防対策と治療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
1)予防対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
1 14
( )予防薬の投与 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 15
( )飼養管理上の対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2)治 療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
1 15
( )駆虫薬投与 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 15
( )看護と補助療法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3 17
第 章 腐蹄症 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 河野 博英 1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 2.原 因 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 1)原 因 菌 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 2)発症の要因 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 3.症状と治療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 1)症 状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 2)治 療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 4.予防対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 1)剪 蹄 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 2)脚 浴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
1 19
( )薬 剤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 20
( )脚浴施設 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3)環境整備と蔓延防止策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
4 Q A 22
第 章 & ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 白戸 綾子・名倉 義夫・村田亜希子 1.日常の衛生管理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 2.子畜の疾病 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 3.妊娠・分娩期の疾病 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 4.山羊の乳房炎 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27 5.海外の疾病 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
グラビア
羊バエ成虫(更科) 第 章 指状糸状虫 (白戸) 第 章
G1 1 G2 2
腐蹄症 に罹患した蹄(河野) 第三章 液剤の投薬方法(村田) 第 章
G3 G4 4
妊娠めん羊の膣脱(河野) 第 章 山羊の乳房炎(左は正常 (名倉)第 章
G5 4 G6 ) 4
羊鞭虫卵( ) 第 章
G7 COLES 1
乳頭糞線虫卵( ) 第 章
G8 COLES 1
コロンビア腸結節虫卵( )第 章 G9 捻転胃虫卵 (COLES) 第 1 章 G10 COLES 1
オステルタギア属線虫卵( ) 第 章 ネマトディルス属線虫卵(平) 第 章
G11 COLES 1 G12 1
拡張条虫卵( ) 第 章 ベネデン条虫卵(福井)第 章
G13 SLOSS 1 G14 1
第 章 内・外寄生虫症 1
.概 要 1
めん羊・山羊の寄生線虫感染による発病は、わが国においても散発的ではあるが認めら れ、致死的な寄生虫性胃腸炎による経済的被害は跡を断っていない。
内・外寄生虫の明確な防除方式を決定することは、現在の知識では複雑な要因が関与す ることから困難であり、また危険でさえあると言われている。例えば、オーストラリアで 推奨される捻転胃虫の防除プログラムは、スコットランドでは通用しない。従って、それ ぞれの寄生虫病の疫学調査は、地域的な基盤において行われるべきであり、推奨できる防 除手段も同様に、疫学調査結果に基づいて地域的に限られたものでなければならない。
.内部寄生虫症 2
)内部寄生虫の種類と発育環・症状 1
( )線虫類1
① 捻転胃虫(図1)
糞便と共に排出された虫卵は外界で感染子 虫に発育する。感染子虫が宿主に経口感染 し、第四胃に寄生し(図2)、感染の約 カ月1 後に雌成虫が産卵する。成虫は吸血性が強 く、貧血による粘膜の蒼白、皮毛の租剛、下 顎の浮腫、体重減少を呈す。重度感染では貧 血により死亡する。
② オステルタギア属線虫
図1 捻転胃虫成虫 (板垣)
感染子虫が宿主に経口感染し、第四胃に寄 生し(図3)、感染の約 週間後に雌成虫が産3 卵する。カタル性胃炎により、間敵性下痢と 体重減少を呈す。
③ 毛様線虫属線虫
感染子虫が宿主に経口感染し、小腸に寄生 し、感染の約3週間後に雌成虫が産卵する。
重度感染で悪臭のある黒緑色下痢便を排泄す る。
④ ネマトデイルス属線虫
感染子虫が宿主に経口感染し、小腸に寄生 し、感染の約1カ月後に雌成虫が産卵する。
( ) 重度感染で食欲減退、下痢、体重減少を呈 図2 羊第四胃に寄生する捻転胃虫 渡辺
す。
⑤ クーペリア属線虫
感染子虫が宿主に経口感染し、小腸に寄生 し、感染の約2週間後に雌成虫が産卵する。
重度感染でカタル性腸炎による下痢を起こ す。
⑥ 乳頭糞線虫
単為生殖の寄生世代の雌成虫が産卵し、虫 卵は糞便と共に排出される。一方の虫卵は外 界でそのまま感染子虫(図4)に発育し、他 方の虫卵は外界で自由世代の雌雄成虫に発育 し、交尾後雌成虫が産出する受精卵もまた感
図 オステルタギア 属線虫による 染子虫に発育する。感染子虫は宿主に経皮ま 3
第四胃粘膜 の結節( ) たは経口感染し、最終的に小腸に寄生し、感 KELLY
図4 乳頭糞線虫の感染子虫(平) 図5 羊鈎虫成虫(久米)
染の約2週間後に雌成虫が産卵する。重度感 染では感染子虫による傷が腐蹄症の誘因とな り、また雌成虫による腸炎が起こる。
⑦ 羊鈎虫(図5)
感染子虫が宿主に経皮・経口感染し、小腸 に寄生し、感染の約2カ月後に雌成虫が産卵 する。成虫は吸血性が旺盛で、貧血と下痢に より体重減少を呈す。
⑧ 羊鞭虫
図 コロンビア腸結節虫成虫 (板垣)
糞便と共に排出された虫卵は、外界で数カ 6
月後に子虫形成卵となり、宿主に経口感染し、盲腸に寄生し、感染の約 3 カ月後に雌成虫 が産卵する。重度感染で食欲減退、下痢、体重減少を呈す。
⑨ コロンビア腸結節虫(図 、 、6 7 8) 感染子虫が宿主に経口感染し、結腸に寄生 し、感染の約1.5カ月後に雌成虫が産卵する。
重度感染で下痢便、粘血便を排泄し、貧 血、下顎・前胸部の浮腫、体重減少を呈し、
子虫が形成する小腸・大腸壁の結節は石灰化 し、腸重積の誘因となる。
( )肺虫(線虫類)2
図 膿結節虫による小腸の結節( )
① 糸状肺虫(図 9) 7 DAVIS
虫卵は宿主体内で膵化・脱穀し1期子虫に 発育し、糞便と共に排出される。 期子虫は1 外界で感染子虫に発育し、宿主に経口感染 し、腸間膜リンパ節に達し、リンパ流に乗り 心臓の右心室を通り肺に達し、気管に寄生す る。感染の約1カ月後に雌成虫が産卵する。
慢性のカタル性気管支炎 、肺炎、肺気腫
(図10)を起こし、発咳、呼吸困難により、
図 膿結節虫症羊の姿勢( & ) 食欲不振ないし廃絶を呈し、重度感染で死亡 8 ROSS CORDON する。
図9 糸状肺虫成虫(板垣) 図10 糸状肺虫症羊の肺(伊東)
( ) 条虫類3
① 拡張条虫(図11)・ベネデン条虫 糞便と共に排出された雌雄同体成虫の老熟 片節中の虫卵がササラダニ類に食べられ、約 カ月後にダニ体内で擬嚢尾虫に発育する。
2
宿主が牧草と共に感染ダニを摂食して感染 し、小腸に寄生し、感染の約1.5カ月後に成 虫末端の老熟片節がちぎれて排出される。
重度感染で腸粘膜の潰瘍、栄養吸収阻害を 起こし、便秘、下痢、腹痛、貧血、体重減少 を呈す。
( ) 吸虫類4 図11拡張条虫成虫(板垣)
① 肝 蛭(図12) ア.発育環
雌雄同体の成虫が産卵し、虫卵は糞便と共 に排出される。水中で虫卵内に発育したミラ シジウムは、約2週間後に脱穀・進出し、ヒ メモノアラガイ(図13)に侵入し、スポロシ ストとなり、その中で母・娘レディアが無性 増殖し、娘レディアの中でセルカリアが無性 増殖し、約1.5カ月後には最初の1個のミラ シジウムから約600個のセルカリアが形成さ
図 肝蛭成虫(小野)
れる。月から遊出したセルカリアは水辺の草 12 に付着し、尾部を失い被嚢し、メタセルカリ
アとなり、草と共に宿主に経口感染する。メ タセルカリアは十二指腸から門脈流に乗るか 或いは腹腔へ出て肝臓に到達し、胆管に寄生 する。感染の約3カ月後に成虫が産卵する。
イ.症 状
急性期には創傷性肝炎、腹膜炎により、発 熱、下痢、体重減少、貧血を呈し、時に死亡 する。慢性期には慢性肝炎 、貧血、体重減 少、前胸・下顎部の浮腫、慢性下痢を呈す。
図13 ヒメモノアラガイ(上野)
( ) コクシジウム(原虫類)5
① アイメリア属コクシジウム ア.発育環
糞便と共に排出されたオーシストに胞子形成が起こると感染可能となる。このオーシス トが宿主に経口感染すると、スポロゾイトが遊離し、腸粘膜上皮細胞に侵入し、無性増殖 して多数のメロゾイトを含むシゾントとなる。無性増殖は数回繰り返され、シゾントは雌 雄のガメトサイトに分化し、それらの接合により感染の約 1週間〜 1 カ月後にオーシスト が作られ、糞便と共に排出される。
イ.症 状
子羊ではカタル性下痢、粘血便、血便を排泄し、貧血、食欲減退、痔痛症状を示し、死 亡も認められる。成羊は感染しても発病しない。
) 検査及び診断 2
( ) 採材・保管方法1
不明な内部寄生虫の虫卵、子虫を含む糞便の検査を専門機関に依頼する場合には、無作 為に抽出した羊の新鮮な直腸便の必要量を、ビニ一ル袋に詰め、羊の個体番号を付記し、
冷蔵状態で送付する。糞便の保管には等量の10%ホルマリン液で固定する。
羊の屠場材料から検出された虫体の同定依頼や保管の場合は、一晩冷蔵庫内で生理食塩 水中に保存し、体が伸びたものを10%ホルマリン液で固定する。外部寄生虫は直接70%エ タノール液で固定する。虫体の同定依頼や保管の場合には、固定液と共にピンセット操作 で虫体を破損しないように肉厚のガラス瓶に詰め、採集場所、採集年月日、採集者名、宿 主名、寄生部位を付記する。なお、虫卵の図はグラビアG7〜G12を参照。
( ) 各内部寄生虫の検査・同定2
① 消化管線虫
糞便の虫卵検査を行う。虫卵鑑別による種の同定は次のとおりである。
なお、詳しい種の同定は、虫卵を培養して得られる感染子虫の形態の違いで行う。
② 糸状肺虫
図 糞便中の1期子虫を遠心管内遊出法(
)で検出する。ミルパップで包んだ直腸便 14
を、水を容れた遠心管に沈め、 ℃膵卵
3g 20
器内に15〜20時間静置し、沈達を鏡検する。
期子虫の形態的特徴は、腸細胞内に褐色顆 1
粒があり、尾端が鈍円で、頭端に円い小突起 がある。
③ 条 虫 類(拡張条虫・ ベネデン条虫)
図 肺虫用遠心管内遊出法(伊東)
浮遊法・沈殿法による糞便検査を行う。拡 14 50 60
張条虫の虫卵(グラビアG13参照。 〜 μ )は円味を帯びた三角状を呈し、ベネデンm
80 85 条虫の虫卵(グラビア G14参照。 〜 μm)は四角状で前者よりやや大きい。
④ 吸虫類(肝蛭)
臨床症状、虫卵検査、免疫学的方法によ る。虫卵(図15)は卵円形を呈し、黄褐色で 一端に小蓋があり、小蓋の近くに卵細胞があ る。大きさは125〜150×70〜90μmと虫卵の 中では最も大きい。免疫学的にはゲル内沈降 反応、補体結合反応などの血清反応、皮内反
図 肝蛭虫卵(平)
応を用いる。 15
⑤ 原虫類(アイメリア属コクシジウム)
浮遊法による糞便検査でオーシストを検出する。オーシストは種類別に形態的特徴があ る。現在めん羊で11種、山羊で13種が独立種とされている。
) 駆虫プログラム 3
めん羊・山羊の多頭飼育の場合、何の防除対策も講じていなければ、内部寄生線虫症の 発病によって死亡することが多い。そのためには寄生程度や被害に関する疫学調査を公的・
私的専門機関に依頼することが先決である。根拠のない駆虫は経済的に無駄である。疫学 調査結果に基づいて的をしぼり、適切な駆虫薬を選定する。投薬は 1 〜 3 日間全頭に実施 し、約 1 週間後に効果を確認した後に全群を清浄な畜舎あるいは放牧地に移動する。投薬 により畜舎内で糞便を排泄させた後は、糞便を敷科と共に 1 カ所に堆積し、切り返しを重 ね、十分に発酵させ、発酵熱により混入した虫卵や感染子虫を殺滅した後に堆肥として利 用する。駆虫プログラムは、その牧場で固有のものであり、数年毎の疫学調査結果に基づ いて、無駄のない有効なものに改良されていくべきものである。
汚染地域における年間の駆虫プログラムの1例として、線虫の駆虫は5〜10月の間1カ 月に1回ずつ行う。条虫の駆虫は6月と8月に1 回ずつ、吸虫の駆虫は5月、10月、 月1 に1回ずつ行う。なお、原虫、線虫、条虫、吸虫類の駆虫剤は同時投薬を避ける。
) 各寄生虫症の治療と予防対策 4
( ) 線虫類1
① 治 療
パーベンダゾール15〜300mg/kg、フルベンダゾール10〜20mg/kg、フェンベンダゾール
、レバミゾール 〜 、イベルメクチン . を 日 回 〜 日間経口
5mg/kg 8 10mg/kg 0 2mg/kg 1 1 1 3
投与する。
② 予 防 ア.消化管線虫
めん羊・山羊の導入時の駆虫は必須であり、発症があれば 2〜 4週間毎に駆虫を行う。
体内で休眠子虫が発育再開する前の春(入牧前)、成虫の産卵が最盛を迎える夏、子虫が 休眠期を迎える秋と冬に 1 回ずつ全頭を駆虫する。また、分娩前後のストレスによる虫卵 の排出数の著増を抑えるため、母畜は分娩1 〜2 カ月前に1 回駆虫する。経皮感染の特質 をもつ乳頭糞線虫・鈎虫では、放牧地や畜舎の床の湿った環境を除去して感染の機会を減 らすと共に、飼育場所は頻繁に清掃し、十分な敷料を与え、その交換間隔を早める。
過密飼育を避け、危険な時期は定期的に繰り返し駆虫する。栄養良好であれば線虫に感 染しても症状は軽く、後感染に対する抵抗性の獲得率も高い。めん羊・山羊と牛を交互に 放牧する混放牧も有効である。
イ.糸状肺虫
子畜は成畜と一緒に放牧しない。沼沢地のある湿潤な放牧地を避ける。汚染牧野では月
、 、 。 1回の糞便検査で陽性畜を確認し 少頭数に発咳が現われたら 全頭を畜舎内で駆虫する 畜舎の堆肥は放牧地に撒布する前に感染子虫を殺滅するために数回切返し、十分に発酵・
腐熟させたものを使用する。
( ) 条虫類2
① 治 療
ジクロロフユン300mg/kg、ビチオノール50〜70mg/kg、プラジクアンテル .2 5mg/kg、フェ ンベンダゾール10mg/kgを1日1回1〜3日間経口投与する。
② 予 防
中間宿主ダニの防除は実際には不可能であるため、汚染地域では、夏と秋に駆虫する。
( ) 吸虫類3
① 治 療
20 30mg/kg 12mg/kg 15 30mg/
ビチオノール 〜 、プロムフェノホス 、トリプロムサラン 〜
、オキシクロザニド 〜 を 日 回 〜 日間経口投与する。ニトロキシニル
kg 10 15mg/kg 1 1 1 3
を 日 回 〜 日間皮下注射する。
5mg/kg 1 1 1 3
② 予 防
肝蛭の中間宿主貝の防除は実際には困難である。主な感染源は稲藁であり、稲刈り後の 稲藁は 4 カ月以上保存したものを使う。宿主の栄養状態を良好に保てば、発症の程度を軽 減できる。汚染地城では産卵を開始していない成虫を春に、産卵している成虫に対し秋と 冬(10〜1月)に1回ずつ駆虫する。
( ) 原虫類(コクシジウム)4
① 治 療
サルファモノメトキシン30〜60mg/kg、サルファジメトキシン50〜100mg/kg、ニトロフ ラゾン15mg/kg、アンプロリウム5mg/kgを1日1回3〜7日間経口投与する。
② 予 防
その牧場特有のコクシジウム種に対する免疫が獲得される間の過密飼育や栄養障害によ るストレスを排除する。子畜の飼養場所は床の乾燥を保持し、頻回の掃除と敷料の廃棄に
。 、 。
よりオーシストの胞子形成を妨げる 被毛の糞便汚染 飼料槽や給水槽の糞便汚染を防ぐ 環境の清浄化と患畜の隔離が最良の予防となる。
. 外部β寄生虫症 3
) 外部寄生虫の種頬と症状 1
( ) シラミ類(昆虫類)1
① 羊ハジラミ ア.発 育
不完全変態で発育し、卵は約 1週間で膵化して若虫となる。若虫は 3 齢まで脱皮を繰り 返して発育し、 〜2 3週間で成虫となる。成虫の寿命は30〜40日間であり、雌成虫は宿主
の被毛に固着して産卵し、本種は全生涯を体表で過ごし、表皮の剥片、羽毛、皮脂などを 食べる。
イ.症 状
感染は冬期に多く、全身的な鱗屑が顕著となり、軽度な掻痒、部分的な脱毛、体重減少 が起こる。
② ホソジラミ属のシラミ ア.発 育
不完全変態で発育し、卵から若虫に発育し、苦虫は3 齢まで脱皮を繰り返して約 3週間 で成虫となる。成虫の寿命は約40日間で、雌成虫は宿主の被毛に固着して産卵し、本種は 全生産を体表で過ごし、若虫と雌雄成虫はともに吸血する。
イ.症 状
種が寄生する。感染は冬期に多く、掻痺が激しく、被毛租剛となり、批糠疹が形成さ 3
れる。重度感染では致死的な貧血が起こる。肢に寄生する種類は跛行の原因となることが ある。
( ) ハエ類(昆虫類)2
① 羊バエ幼虫(図16) ア.発 育
北海道では、 月以降に雌成虫が宿主の鼻孔付近に7 1齢幼虫を産仔する。 齢幼虫は約1 カ月開発育せずに、鼻道・諸洞表面に寄生しながら越冬し、翌年の 月以降に発育を開
9 2
始し、 齢、 齢と発育し、 〜2 3 5 6月には宿主のくしゃみと共に3齢幼虫が地上に落下し、
グ 数日以内に土中で嫡化する。3 〜 9 週間後に羽化し、交尾後雌成虫が産仔する。成虫(
)の寿命は 〜 日間であ ラビアGl参照 3 17
る。
イ.症 状
人獣共通感染症の一つでもある。幼虫が鼻 道と諸洞粘膜に寄生し、慢性カタル性鼻炎を 起こす。症状は桶化の時期に悪化し、粘液・
膿性鼻漏の排泄、呼吸困難、振頭、歯乳り、
くしゃみ(幼虫排出)が起こり、鼻端を前肢 で掻いたり、地面に擦る症状を示す。また、
死滅した3齢幼虫が膿瘍の原因となることが ある。
図16 羊バエ2齢幼虫(原図)
② 羊シラミバエ(図17) ア.発 育
蛹生類の1種であり、幼虫が被毛に産み付 けられ、数時間蛹で化する。成虫は羽が退化 しており、通常4月、 月に多く、 〜5 4 5カ 月間生存し、雌成虫は幼虫を1週間に1匹ず つ (1 0 〜1 5 匹 ) ゆ っ く り 産み 付 け て い く。蛹は約1カ月後に羽化し、成虫になると 吸血が始まる。本種は全生涯を体表で送る。
イ.症 状
感染は冬期に多い。全身の皮膚に寄生し、
吸血性が強く、掻痒性があり、重度感染で
図 羊シラミバエ成虫(藤崎)
は、シラミバエの糞による染毛やかび臭、あ 17 るいは貧血により、羊毛が細く切れやすくな
り、羊毛品質の価値を減じ、羊毛生産に被害を与える。また、皮膚の傷により、皮革工業 に損失を与える。
③ ヒロズキンバエ・羊キンバエ幼虫 ア.発 育
羽化した成虫は、約1週間後に宿主の皮膚あるいは腐肉に ,3 000個もの卵を150〜200群 に分けて産卵する。幼虫は12〜24時間後に孵化し、 〜4 6日間の間3齢まで発育し、消化 液による液状化物や微小な固形物を食べて発育する。3 齢幼虫が成熟すると地面に落下し て地中で蛹化する。発育環は約8日間で完了する。
イ.症 状
幼虫が体表に寄生し、羊ハエウジ症を起こす。脱毛により、羊毛生産に損害を与える。
重度感染では、皮膚組織分解で生じた有毒産物の吸収により毒血症死する。
) 防除プログラム 2
外部寄生虫の防除は、専門機関の疫学調査結果に基づいて、ある種の外部寄生虫症の多 発地域ではそれに焦点を当て適切な薬剤を選択し、適時適切な使用による防除を計画的に 継続実行する。
薬剤は有機燐系、カーバーメイト系、イベルメクテン系など有効かつ生体への残留性の ないものが市販されている。しかし、外部寄生虫の駆除には、薬剤耐性種の出現が常に同 居している。そのため、使用薬剤は、その牧場で駆除しなければならない外部寄生虫に対 して最も感受性の高い薬剤を、数年毎に専門機関に調査してもらい、選択することが望ま しい。
薬浴には、多頭数を一度に処理する施設による方法と、浴槽あるいは噴霧器を用いる簡
易な方法とがある。晴天の日が持続する時期を選んで実施し、薬剤がめん羊・山羊の頭部
、 。
に充分にかかるように噴き付けると共に 薬浴槽で行う場合には道具を用いて水没させる 外部寄生虫の被害が多い場合、めん羊では通常労毛の1カ月後に行う。
) 治療と予防対策 3
( ) シラミ類(昆虫類)1 ア.治 療
、 、 。 、 、 、
二硫化セレン トリクロルホン クマホスの薬浴 クマホス セセン トリクロルホン
(バリゾン 、プロポクスルによる噴霧。イベルメクテンのプアオン。
BPMC )
イ.予 防
、 、 。
全頭の治療と畜舎の噴霧は シラミの数が少なく シラミの繁殖が始まる前の秋に行う ( ) ハエ頬(昆虫類)2
① 羊バエ幼虫 ア.治 療
30mg/
トリクロルホンとジクロルポスの噴霧 イベルメクチンのプアオン フェンチオン。 。
、ニトロキシニル 〜 の経口投与。
kg 15 20mg/kg
イ.予 防
鼻道・諸洞に寄生する幼虫の休眠は寒冷時期に起こるので、駆虫は秋に行う。
② 羊シラミバエ ア.治 療
クマホス、ダイアジノンの薬浴。クマホス、セビン、トリクロルホン、BPMC(バリゾ ン 、プロポクスルによる噴霧。イベルメクチンのプアオン。)
イ.予 防
多数の幼虫と蛹は、勢毛の際に除去され、その後2〜4週間以内に薬浴を行う。
③ ヒロズキンバエ・羊キンバエ幼虫 ア.治 療
ダイアジノンを含む粉末を軟膏に混ぜた殺虫処置とともに、傷の手当を行う。
イ.予 防
罹患羊を早急に処置することと、死体と罹患羊の毛の屑毛は、表面で発育する幼虫が成 熟する前に殺ウジ剤を撒布するか、または72時間以内に焼却する。めん羊のハエウジ症は 剪毛後に発生頻度が高くなるため、予防的にダイアジノン、クマホスによる薬浴や、イベ ルメクナンのプアオンを行う。
第 章 腰麻痺(脳脊髄糸状虫症) 2
.はじめに 1
夏から秋にかけてめん羊・山羊に発生する腰麻痺と言う病気について、その原因が明ら かになり、予防治療法が開発されたのは1940年代のことである。それ以前は、原因不明の 病気として、細菌などの微生物感染、特定栄養素の欠乏、ある種の毒素による中毒、日射 病の一症状など様々な説が推測されていた。本病は、日本の本州以南と朝鮮半島地域に限っ て発生しており、昭和初期に朝鮮半島におけるめん羊被害が大きな問題となったため、昭 和13年(1938年)に「朝鮮緬羊腰麻痺調査会」が組織された。原因究明に向けて多方面か らの研究が行われた結果、病理学者が病羊の脳の組織標本多数から糸状虫の幼虫を発見し たことをきっかけに、本来は牛に寄生する指状糸状虫が脳脊髄神経を破壊していること、
その感染は蚊が媒介することなどが明らかになった。
腰麻痺の原因が糸状虫(フィラリア)の 1 種であることが判明し、犬フィラリア症、馬 フィラリア症の薬を応用する形で予防治療法が開発された。毒性の強い「アンチモン」製 剤が多用された時期もあったが、その後安全性の高い「ジエチルカルバマジン」が販売さ れ、最近はめん羊・山羊用ではないものの、獣医師の判断により「イベルメクナン」製剤 が広く使用されている。
現在では、めん羊・山羊の飼養規模が小さくなり、腰麻痺による畜産上の被害はさほど 大きくないが、気候条件などで一時期に多発する可能性もある。「腰麻痺」と言う一風変 わった病気の性質を理解し、飼養管理上の対策を講じることで大切な家畜の損耗防止につ なげて欲しい。
.原 因 2
) 病原体 1
腰麻痺は、脳脊髄糸状虫症、脳脊髄セ夕リア症とも呼ばれており、一種の寄生虫病であ グ る。病原寄生虫は、線虫綱糸状虫上科オンコセルカ科に属する指状糸状虫Setaria digitata(
) 。 、 、
ラビアG2参照 である 指状糸状虫は日本各地の牛に普通に見られ 牛腹腔内の成虫は 雌で体長8〜10cm、雄で4〜5cmの白い素麺状を呈する。固有宿主である牛に対しては殆 ど病害を与えないが、牛以外の非固有宿主の体内に子虫が入った場合、本来の寄生場所で ない器官組織に迷人することがある。非固有宿主でも、犬、猫、豚など肉食性、雑食性の 動物に病害は見られず、草食性のめん羊・山羊・馬で病害が生じている。脳脊髄神経に迷 人した場合には腰麻痺症を、眼房に迷人した場合には混晴虫症と言う病気を起こす。
) 指状糸状虫の生活環 2
糸状虫上科の寄生虫は、その発育過程に必ず吸血昆虫の中間宿主を必要とし、固有宿主 動物から別の動物に直接感染することはない。子虫は、中間宿主体内で一定の発育を経な いと、再び家畜に感染発育することはできないため、感染する時期は中間宿主が活動する
期間に限定される。
指状糸状虫も通常は、牛→蚊→牛と言う生活環を営んでおり、中間宿主として、シナハ マダラカ、オオクロヤブカ、トウゴウシマカの3種が知られている。
、 ( )
牛腹腔に寄生している雌雄成虫が交尾した後 雌成虫は第1期子虫 ミクロフィラリア を多数産生する。約0.2mmのミクロフィラリアは、牛の末梢血流中に出現し、蚊が吸血し た際に血液と共に蚊の体内に入る。蚊体内で子虫が発育するには、一定温度以上の気温条 件が必要とされている。ミクロフィラリアは蚊の胃壁を穿通して胸筋内に移動し、2 回の 脱皮を経て、約 2 週間で感染子虫となる。口吻に出現した感染子虫は、蚊の吸血時に再び 動物体内に入る。
牛の体内に入った場合は、腹腔に移動して成虫に発育し、翌春には再び子虫を産出する サイクルを営む。しかし、めん羊・山羊の体内に入った場合は、非固有宿主であるため大 部分の子虫は死滅するが、一部は脳や脊髄など中枢神経に入り込み、神経組織を破壊する 結果、運動機能障害などを引き起こす。
指状糸状虫の感染経路
.症 状 3
) 発病時期 1
腰麻痺は蚊の媒介を必要としており、感染する時期は初夏から秋に限定される。感染子 虫がめん羊・山羊の体内に入ってから症状が出るまでの潜伏期間は、短い場合で 2 週間、
40 1 1.5
長い場合は 日位とされており 蚊体内での発育期間を含めると 蚊の出始めから、 、 〜 カ月後に腰麻痺の発病が見られる。東北地域では 7 月下旬以降が発病時期となるが、関東 以南ではより早い時期( 月頃)から発生する。6
) 症 状 2
腰麻痺では、障害を受けた脳脊髄神経の部位や範囲、破壊の程度によって、運動機能障 害の現れる部位や症状の重さが異なる。典型的な症状は、文字通り後躯の麻痺症状である が、少し後肢が痛むかのように軽く足を引きずる程度から、歩くと腰がふらつく場合、起 立する際に人の助けが必要な場合、全く起立不能状態になる場合など様々な程度が見られ る。突然に起立不能となることもあるが、たいてい発病の始まりは軽い症状で、時間が経 過すると重症化していく。また、後躯ばかりでなく、頭頚部に障害が出ることもあり、片 側の麻痺で斜頚を呈したり、顔面の麻痺では口唇が脱力し、涎を流したり、採食した飼料 が口からこぼれたりする。
多くの場合、腰麻痺の症状は運動機能障害に限定されており、内臓機能は損なわれず、
食欲・排糞・排尿があり、体温・脈拍・呼吸も正常である。指状糸状虫による神経組織の 破壊が軽微な場合は自然治癒することがあり、また、早期の治療により速やかに虫体が死 滅吸収された場合など、容易に健康を回復することができる。しかし、長期間起立困難な 状態になると、採食や飲水が不足して栄養状態が悪化し、段々と衰弱していく。また、体 下部の血行が悪くなるため皮膚や皮下識に褥創が生じ、そこからの細菌感染が全身に広が り、死に至ることも少なくない。また、歩行できる状態に回復しても、筋肉の萎縮や軽度 の麻痺、跛行(びっこ)が後遺症として残ることもある。後遺症が軽度であれば、雌畜を 繁殖供用することが可能だが、雄畜を交配に使うことは難しい。
) 類症鑑別 3
跛行や起立不能など腰麻痺の特徴的な症状は、他の病気でも出現するので、発生時期や 運動麻痺以外の症状など、総合的に見て腰麻痺かどうかを判断する必要がある。まず、軽 度の跛行を示すような例では、腐蹄症など蹄疾患がないか、関節炎など四肢の腫脹・熱感・
痛みがないかなどを確認する。重度の跛行は脱臼の可能性があり、左右後肢の長さを比べ るとよい。起立不能状態になっている場合、体温や心拍、呼吸数の増加があれば、細菌な どによる感染症の可能性が高く、盛夏の昼間に意識障害を伴うような場合は、熱射病・日 射病も考えられる。その他神経症状を呈する病気として、低カルシウム血症、大脳皮質壊 死症、分娩後の神経麻痺、各種中毒症などとの鑑別が必要である。
.予防対策と治療 4
) 予防対策 1
腰麻痺は、発病後に治療しても完全な回復が難しいため、予防的な措置が重要である。
予防対策には、予防薬の定期的投与とその他の飼養管理対策の2点があげられる。
( ) 予防薬の投与1
指状糸状虫がめん羊・山羊の体内に入ってから神経組織を破壊するまでに発育するには
、 、 。
1カ月程度かかるため その間に殺虫することにより 腰麻痺の発病を防ぐことができる 予防には治療と同様の薬剤を、蚊の活動期間とその後約 1 カ月の間、定期的に投与する。
腰麻癖の予防薬
薬剤の選択に当たっては、獣医師の指示が必要かどうか、肉や乳の出荷制限期間がどれく らいかについて、注意する必要がある(表)。薬剤の投与間隔は、半月〜1カ月に1回とす る。
( ) 飼養管理上の対策2
乳や肉を出荷するために、薬剤を投与することができない場合には、以下のような飼養 管理上の対策に重点を置く。腰麻痺の発生を100%阻止することはできないが、感染の可能 性を減らすことはその後の発病を減らすことにつながる。予防薬を投与している場合も、
飼養管理面の対策には留意したい。
① 蚊の出る時期は、めん羊・山羊を牛から離れた場所で飼う。
② 牛の近くで飼う場合には、予め牛に線虫駆除剤を投与する。
③ 畜舎や放牧地周辺に蚊の発生するような場所(水たまり、貯水池等)を作らない。
④ 畜舎や放牧地周辺に蚊の発生場所があれば、殺虫剤を散布する。
⑤ 畜舎に網戸を張ったり、蚊取り線香を焚き、蚊を防除する。
) 治 療 2
( ) 駆虫薬投与1
腰麻痺の症状が出た場合は、予防薬と同じ薬剤の1 〜2借用量を2 〜4 日間連続投与す る。薬剤により、虫体は死滅するが、すでに破壊された神経組織は回復しないため、投薬
。 、 、
しても症状の改善が見られないこともある 腰麻痺の治療では いかに早く発病に気付き 早期に治療を開始するかが、その後の回復状況を左右する。
なお、アンチモン化合物は肝臓等に対する毒性があるので、投与の際は用量、あるいは 患畜の一般状態に注意が必要である。
( ) 看護と補助療法2
、 。
運動機能の回復には良好な身体状態を保つことが重要であり 手厚い看護を心掛けたい
成分名 商品名 発売元 用法 用量
体重10kg当り 出荷制限期間 クエン酸ジエチル 動物用スパトニン錠 内 服 1錠
カルバマジン 動物用スパトニン注射液 皮下注射 1cc
グルコン酸アンチモン めん羊:1cc
ナトリウム 山羊:1.5cc
リペルコールL 武田薬品 レバミゾール
「コーキン」-100
レバミゾール「住友」 住友製薬
イベルメクチン アイボメック注 塩野義製薬 皮下注射 0.2〜0.3cc (牛で40日)
塩酸レバミゾール コーキン化学 内 服 0.5〜0.75g (牛で7日)
田辺製薬 5日
アンチコリン100mg注 理研畜産化薬 皮下注射 30日
まず、病畜の探食状態を把握し、飼料と水が充分に摂取できるように管理しなくてはな らない。起立困難あるいは起立不能の状態であれば、褥創を防止するため、畜舎床に敷料 を十分に入れ、定期的に伏臥姿勢の向きを変える。体下部が尿等で湿ると感染しやすいの で、床面の乾燥状態を保つことも重要である。横臥すると鼓張症を起こしやすいので、伏 臥姿勢を保つようにする。運動機能を回復させるために、胸腹部にべルト等を回してしば らく吊り上げたり、人が腰部を支えて歩かせることも有効である。
補助療法として、アンチモン化合物を投与した場合には強肝剤を併用したり、運動機能 の回復のためにどタミンB剤を投与しても良い。その他、栄養剤、整腸剤等を症状に応じて 投与したり、が生じた場合には、消毒等の手当ても必要である。
第 章 腐蹄症 3
.はじめに 1
めん羊・山羊が跛行を呈する場合の多くは腐蹄症である。本症はめん羊・山羊の代表的 な伝染性疾病の一つであり、1 頭でも患畜がいれば、早急に治療を行わないかぎり同居群 はもちろん、放牧地やパドックを共有する他の健康な群にまで被害が及ぶ。
一度腐蹄症が蔓延すれば、その治療のために多くの労力と出費を強いられるほか、発育 や繁殖にも悪影響を及ぼすため、多大な損失を被ることとなる。このため、日頃から剪蹄 や脚浴などの予防対策を講じておくことが重要である。
. 原 因 2
) 原因菌 1
主な原因はフソバクテリウム属の細菌感染 である。この細菌は通性嫌気性菌であり、土 壌中では10日間程度しか生存できず増殖もし ないが、蹄の内部では無期限に増殖を続け、
痛状を進行させる。さらにブドウ球菌属や連 鎖球菌属、コリネバクテリウム属の細菌に二 次感染すると症状は重度となる。また、スピ ロヘータやバクテロイド属の細菌も初期の感 染に関与していると言われる(図1)。
これらの細菌は息畜によって放牧地やパ
図 腐蹄症の原因は細菌感染 ドックを汚染し、新たな息畜を発生させる。 1
特に高温多湿の状況下では、急速に伝播する。
) 発症の要因 2
土壌や敷ワラが原因菌に汚染されていると、肢蹄が健康であっても皮膚から細菌が侵入
、 。 。
し 腐蹄症が引き起こされる 蹄や址間に傷がある場合には極めて容易に感染してしまう このため、地盤が泥浮化しているところや牧草が長く伸びすぎた草地での放牧、あるいは 勢蹄が行われず蹄が不整に伸びている場合などは、祉蹄に傷を負いやすく、感染の危険性 を高めることになる。また、温度と湿度も腐蹄症の発症に深く関係しており、梅雨や秋雨 の時期に発生が多く、冬期間は少ないが、畜舎内の敷ワラが不潔で湿っている場合には感 染する可能性が高い。このほか、亜鉛の不足などの栄養状態も発症要因の一つである。
. 症状と治療 3
) 症 状 1
蹄冠部に炎症を起こして化膿し、跛行を呈する。初期の段階では趾間部に軽度の炎症が 見られ、一見、蹄自体には異常が認められないこともあるが、雁息蹄には熱感があり、化
膿部位を圧迫すると疼痛を示す(図2)。剪蹄 を行うことで患部を発見でき、わずかな腐敗 臭がある。さらに症状が悪化すると、蹄冠部 が腫脹し、蹄のひび割れた部分や蹄冠部の皮 膚と蹄壁の境に化膿部が認められ、特有の強 い悪臭を発する。炎症は蹄壁の内面に沿って 上部に拡大し、組織を破壊するため、重症の 場合には蹄が脱落することもある。
図 蹄部の名称 患畜は激痛のため歩行困難となり、充分な 2
採食ができず、体重減少、衰弱を呈する。
) 治 療 2
腐蹄症を発見した場合、まず第一に行うべきことは息畜を他の健康な群から隔離するこ とである。その上で図3に示した手順で治療を行う。
初めに、蹄部の汚れをブラシなどを使って良く洗い落とし、蹄を切って壊死部分をでき るだけ取り除き、膿を排出させる。患部を空気にさらすことは、原因となる嫌気性細菌の 増殖を阻止する意味で有効である。次に患部を逆性石鹸液などで洗浄し、抗生物質軟膏を 塗るか、軽症の場合には硫酸銅または硫酸亜鉛の10%溶液で消毒を行う。重症では、抗生
、 、 、 、
物質の全身投与が必要であり また 蹄の切除部分が大きい場合には 傷口の保護のため 包帯を巻いておく。
図3 腐蹄症の治療手順
治療を終えた息畜は、コンクリートの飼育場など床面が乾燥した場所に別飼いにし、2
〜 3 日後に患部の状態を確認する。必要があれば治療を継続し、治癒するまで群に戻して はならない。
.予防対策 4
腐蹄症を予防するためには、日頃から蹄を清潔で健全な状態に保つことが重要である。
そのためには定期的な勢蹄の実施、脚浴の励行、そして放牧地やパドックなど飼養環境の 整備を行うことが必要である。
海外では、ワクチンによる予防対策も行われているが、残念ながらわが国ではこのよう な薬剤を手に入れることはできない。
) 勢 蹄 1
めん羊・山羊の蹄は周辺部から薄く伸び始める(図 4)。これを放置するとひび割れやさ さくれができて細菌に感染しやすくなる。また、伸びた部分が厚みを増して堅く変形する と(図 5)、正常な状態に修復することが難しくなる。このため、 カ月に2 1回を目安に四 肢の蹄をハサミで切り整えてやる。定期的な努蹄は、蹄部の異常をチェックする機会でも あり、腐蹄症の早期発見につながる。もし、勢蹄の途中で患畜を発見した場合は、使用し たハサミは必ず消毒液に漬けてから次の勢蹄を行う。
図4 剪蹄前の蹄 図5 伸び過ぎて変形した蹄 ) 脚 浴
2
( ) 薬1 剤
脚浴は、薬液で定期的に蹄部の消毒を行う作業である。予防のためには、腐蹄症が多発 する放牧期に過1〜2回程度実施する。薬剤には一般に5〜10%の硫酸銅溶液や10%ホル マリンが用いられるが、硫酸銅は毒性が強いため、諸外国においては硫酸亜鉛の使用を推 奨している。溶液の濃度は硫酸銅の場合と同様である。また、ホルマリンについては蹄を 堅くする作用があり、労蹄作業を困難にすることもあるので、頻繁には使用しない方が良 い。
なお、硫酸銅や硫酸亜鉛は通常、水に溶かした溶液として用いられるが、これらを消石 灰に混ぜて粉剤として使用する方法もある。この場合には使用後の汚水処理の問題が解消 されるが、効果的な消毒を行うためには、事前に蹄部に付着した泥や糞などの汚れを良く 落としておく必要がある。
( ) 脚浴施設2
脚浴を行うためには脚浴場が必要となる が、少頭数飼養の場合にはあまり立派な施設 を作る必要はないし、また、多額の経費をか けられなノいことも現実である。経費をかけ ず、簡易的に脚浴を行うためには、図6に示 したような踏込消毒盤を利用する方法があ
図 踏込消毒盤の作成例 る。木などで簡単に作成できて持ち運びも可 6
能なので、畜舎の出入ロや誘導用通路など、必要に応じて設置場所を移動することができ る。大きさも既存の施設に合わせて作れば良い。
一方、多頭飼育の場合には、図7のような脚浴場を放牧地かパドックに設置しておく と、腐蹄症の予防管理を行う上で非常に便利である。基本的な構造は通路に浴槽を設けた ものであるが、通路の幅が広すぎたり浴槽が短すぎると、めん羊・山羊が一挙に駆け抜け てしまい、消毒の効果はほとんど期待できない。このため、通路の幅は60cm程度、薬液槽 の長さは 4〜 6m 程度とし、作業はめん羊・山羊が普通に歩く早さで行う。また、図 7に 示した洗脚槽については必ずしも必要ではないが、薬液槽に入る前に蹄部の汚れを落とす ことで消毒の効果を高め、薬液の汚れを防止できる。
なお、軽度の腐蹄症では、勢蹄を行った後に患畜を薬液の中に数分間立たせておくこと
図7 脚 浴 場
でも治療の効果があり、薬液槽の前後にゲートを取り付けておくと良い。
) 環境整備と蔓延防止策 3
放牧地やパドックの泥棒化を防止し、家畜の集合場所や水槽の周辺に石灰を散布するな ど、蹄部に損傷を与える可能性のある要因を排除すると共に、飼養環境を清浄な状態に保 つことが腐蹄症を予防する上で不可欠である。万一、患畜を発見した場合には、早急に隔 離すると同時に、同居群については脚浴を行った上で他の放牧地に移動すべきである。腐 蹄症が発生した放牧地は息畜によって汚染されているため、原因菌が死滅するまでの少な くとも2週間は休牧とし、新たな感染を防止する。
腐蹄症の蔓延を防止するためには、日頃から歩様に異常がないかを良く観察し、患畜の 早期発見、早期治療に努めることが大切である。四肢に異常のあるものを絶対に放置して はならない。
4 Q A 第 章 &
.日常の衛生管理 l
めん羊・山羊の健康状態を見る場合 どのような点に気を付ければよいでしょうか?
Q. 、
.めん羊・山羊は、痛気と分かった時には手遅れの状態になっていることが往々にし A
て起きます。日頃から正常な状態を把握した上で、以下のような点に気を付けて観察する と良いでしょう。
① 食欲・反魂はいつものとおりあるか。
② 排便、排尿は正常か。
③ 呼吸、脈拍、体温は正常か。
④ 姿勢や歩様に異常がなく、活発に動いているか。
また、徐々に痩せてきたり、被毛の状態が悪くなるような場合は、慢性的な病気が考え られるので、獣医師に診療を依頼すべきでしょう。
.めん羊・山羊の躍りやすい病気には、どんな病気がありますか?
Q
.一般に、めん羊・山羊は丈夫で病気に雁りにくいものですが、気を付けるべき病気と A
しては、寄生虫症、蹄病、腰麻痺があります(第1章、第2章、第3章参照)。また、幼君 期には下痢と肺炎に雁りやすく、成雌では妊娠・分娩に伴う病気(膣脱、ケトーシス、低 カルシウム血症など)に注意が必要です。
.放牧管理では、どのようなことに気を付けたらいいですか?
Q
.放牧前には放牧地を見て回り、柵や水飲み場、危険個所の点検をします。また放牧中 A
は、草の生育状態や有毒植物がないかなどに注意します。また、飼料を急激に放牧草に切
、 ( ) 。
り替えると胃腸障害の原因になるので 徐々に慣らしていくこと 放牧馴致 が大切です クローバーなどマメ科牧草の多い草地では、第一胃の鼓張症にも注意しましょう。
.有毒植物には、どんな植物がありますか?
Q
.放牧地で見られる有毒植物は、ワラビ、スズラン、レンゲツツジなどがあり、放牧草 A
が不足している場合に摂取しやすくなります。また、最近は毒素を含んだ輸入牧草が原因 となって中毒事故が発生しているので、産地や品質を確認してから購入しましょう。
.めん羊・山羊は、牛と一緒に飼わない方がいいと聞きましたが、本当ですか?
Q
.ある特定の病原体は、牛とめん羊・山羊の双方に感染するのですが、片方にのみ病原 A
。 、 、 、
性を持っています 例えば 指状糸状虫と言う寄生虫は 牛にとっては害がありませんが 蚊が媒介してめん羊・山羊に感染すると腰麻痺の原因となります(第2章参照)。また、悪
性カタール熱のウイルスは、めん羊が感染していても一見健康な場合があり、そのウイル スが牛に感染すると重篤な症状を引き起こします。牛とめん羊・山羊の両方がこうした病 原体を持っていないことが明らかであれば、山緒に飼うことに問題はないのですが、感染
、 。
の可能性が考えられるような場合は めん羊・山羊を牛と離して飼った方が良いでしょう
.簡単な薬の飲ませ方はありますか? 薬によって飲ませ方は遣うのですか?
Q
.粉剤は、配合飼料などに混ぜたり振りかけて食べさせれば手間がかかりません。液剤 A
や粉剤を水に溶かして確実に投与するときは、口径2cm程のボトルや50ccの注射器、ピス トル式の投薬器を使って口に流し込みます。この際、頭部をしっかり固定し、薬液が誤っ て気管に入らないよう注意します。錠剤は、そのまま口の奥に入れて、飲み下すまで口を 開かないように上下の顎を押さえておくか、砕いて細かくして粉剤と同様に投与します。
.足をびっこ引くのですが、どのような処置をすればいいでしょうか? 原因は?
Q
.跛行(びっこ)の原因の多くは腐蹄症ですが、四肢の脱臼、捻挫、関節炎、打撲、外 A
傷などによっても跛行が起きます。まず、どこの具合が悪いのか確認するために、歩様を よく観察し、背中から下肢に向かって手で触りながら、腫れや熱感がないか、痛がる場所 がないかを確認します。また、蹄の汚れを落とし、必要であれば労蹄をして、蹄の状態を 観察します。原因が分ったら、消毒や消炎剤、鎮痛剤など必要な治療を行います。四肢に 異常がない場合は、全身性の病気、例えば自筋症などの栄養障害や、腰麻痺、熱射病、リ ステリア症など神経病も考えられます。
.めん羊(山羊)が足を折ってしまいました。もう治らないのですか?
Q
.骨が複雑に折れている場合、患畜の体重が重い場合、皮膚の外傷が大きい場合は治り A
にくいですが、単純な骨折の場合のは、折れた骨を元の位置関係に整復して、ギプスや包 帯、テープ等で固定すると、治る可能性があります。
.痒がって身体を壁や柵などに擦り付けています。皮膚炎のようですが、どんな処置を Q
したらいいでしょうか?
.皮膚炎の多くは、シラミ等外寄生虫によることが多く、患部を良く観察すると虫を発 A
見でき、この場合には殺虫剤を散布あるいは噴霧します(第1章参照)。外寄生虫以外の原 因としては、真菌(カビ類)の感染、アレルギー反応、全身性の病気の一症状などが考え られるので、獣医師の診療を依頼した方が良いでしょう。
.肉や乳を出荷する前に使用してはいけない薬はありますか?
Q
.動物用医薬品の中には、人の食用になる畜産物に薬剤が混入しないよう、使用禁止期 A
間(出荷制限期間)が決められているものがあり、駆虫薬、抗生物質、殺虫剤等が該当し ます。このような薬品の多くは獣医師の処方が必要な薬品ですが、家畜飼養者は自ら使用 できる場合でも、使用上の注意を守り、安全な畜産物を出荷する義務があります。
.めん羊・山羊の病気で人間に移るものはありますか?
Q
.細菌やウイルスなどの病原体は、大抵の場合宿主特異性があり、異種動物間であまり A
伝染していかないものです。しかし中には伝染していく病気もあり、めん羊・山羊から人 に移る病気として、伝染性膿胞性皮膚炎、破傷風、サルモネラ症、大腸菌症、結核等があ ります。病気になった家畜を扱った場合だけでなく、日頃から家畜に接した後は手洗いや うがいを行うこと、家畜管理専用の作業衣や長靴を用意することを勧めます。
.めん羊・山羊の衛生管理について知りたいのですが、どうしたらいいですか?
Q
.めん羊・山羊の衛生管理に関する参考書として 「めん羊・山羊技術ガイドブック」
A 、
〔(社)日本緬羊協会発行〕があります。問い合わせ先として、下記の機関があります。
・めん羊・山羊:都道府県の家畜保健衛生所、獣医師会
( 、 )
・めん羊:農林水産省家畜改良センター十勝牧場 北海道音更町 電話0155−44−2131
( 、 )
・ 〃 〃 岩手牧場 岩手県盛岡市 電話019−641−2130
( 、 )
・山 羊: 〃 長野牧場 長野県佐久市 電話0267−67−2501
.子畜の疾病 2
.生まれたばかりの子羊(子山羊)が冷たくなって元気がありません。どうしたら治り Q
ますか? 原因は?
.生まれたばかりの子畜は、エネルギーが不足しており、いわゆる「低体温症」になり A
やすいものです。この場合、まず体を温めることと、水分と栄養の補給が必要です。暖か い場所に移し、湿った体をタオルで拭いて乾かします。ビニール袋に子畜を入れ(体が濡 れないように 、お湯に浸けると全身が暖まります。保温マット、保温ランプを使用しても) 良いでしょう。水分と栄養の補給は、初乳が一番ですが、なければ常乳、あるいは牛乳や 薄い砂糖湯で代用します。自力で飲めなければチューブを使って経口投与します。
.生まれてすぐに初乳を飲ませないといけないのはなぜですか? 具体的には何時間以 Q
内に飲ませないといけませんか?
.めん羊・山羊では、母畜の免疫抗体が胎内で移行しないため、子畜の病気に対する抵 A
抗力が初乳によって与えられます。子畜の腸管粘膜が初乳の免疫抗体を吸収できる期間 は、生後 1 日以内とされており、出生後できるだけ早く初乳を飲ませる必要があります。
1 1 18 11 5
具体的には生後 時間以内に 回目の哺乳をして、 時間以内に合計で 回程度(体重