• 検索結果がありません。

めん羊・山羊の特定疾病手引書

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "めん羊・山羊の特定疾病手引書"

Copied!
62
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

地方競馬益金 補 助 事 業

平成 年度 9

めん羊・山羊の特定疾病対策事業

めん羊・山羊の特定疾病手引書

(スクレイピー・ヨーネ病)

日本面妖協会

平成 10 年 3 月

日 本 緬 羊 協 会

法 人 社 団

(2)

ま え が き

(社)日本緬羊協会は平成 9 年度、地方競馬全国協会が推進している 畜産振興補助事業の 補助を受けて「めん羊・山羊の特定疾病対策事業」を実施し、この事業の中でスクレイピー とヨーネ病に関する手引書を作成して関係者に配布することとなりました。

めん羊は、需要の強いラム肉生産やふれあい牧場、羊毛加工への関心の高まりにより、

また、山羊は、山羊乳の利用や肉消費の拡大等により、中山間地等における地域振興の一 作目として期待が寄せられています 。

しかし、平成 8 年 3 月、スクレイピーを原因とする狂牛病が発生し、これが人へも感染 する可能性が示唆され、さらに、国内におけるスクレイピーやヨーネ病の発生の事実が発 表されるに及び、これらの病気に対する的確な情報の不足から、生産者等関係者はもとよ り一般国民 の不安も高まりました。

このような状況の中でめん羊・山羊の振興を図るためには、これら病気への不安を払拭 することが不可欠であり、そのためには正しい知識の啓蒙普及が緊急の課題となったこと から、関係資料等を収集して取りまとめ、平易な手引書として「めん羊・山羊の特定疾病 手引書(スクレイピー・ヨーネ病)」を作成することといたしました。この手引書がめん 羊・山羊飼養の関係者や関係機関に広く活用されることを期待してやみません。

手引書作成に当りましては、企画・編集を煩わせました 各位を初め執筆を賜った諸先生 方、さらに委員会の取りまとめ及び監修の労を賜りました 吉本正氏、品川森一氏、横溝祐 一氏など関係された多数の方々のご努力に対し、衷心より厚くお礼を申し上げます。

また、今回も絶大なご援助を賜りました地方競馬全国協会とご指導をいただきました農 林水産省ご当局に対しましても深く感謝の意を表します。

平成10年3月

社団法人 日本緬羊協会

豊 田 晋

会 長

(3)

平成9年度

めん羊・山羊の特定疾病対策事業 企画検討委員・編集委員・執筆者

(敬称略・順不同)

○ 修 括

吉 本 正 麻布大学 獣医学部 動物応用科学科

○ スクレイピー編

品 川 森 一 帯広畜産大学 獣医学科

○ ヨ ー ネ病編

横 溝 祐 一 農林水産省 家畜衛生試験場 製剤研究部 企画検討委長

吉 本 正(委月長) 麻布大学 獣医学部 動物応用科学科 分 部 喜久男 農林水産省 畜産局 家畜生産謀 大 塚 誠 也 農林水産省 畜産局 衛生課 坂 田 光 弘 農林水産省 畜産局 家畜生産課

横 溝 祐 一 農林水産省 家畜衛生試験場 製剤研究部 白 戸 綾 子 農林水産省 家畜改良センター 岩手牧場 播 谷 亮 農林水産省 家畜衛生試験場 絵合診断研究部 品 川 森 一 帯広畜産大学 獣医学科

出 岡 謙太郎 北海道立滝川畜産試験場 めん羊科 星 井 静 一 社団法人 酪農ヘルパー全国協会 近 藤 知 彦 日本緬羊研究会

吉 本 正

俵積田 守 農林水産省 畜産局 家畜生産課 大 塚 誠 也 農林水産省 畜産局 衛生課

横 溝 祐 一 農林水産省 家畜衛生試験場 製剤研究部 白 戸 綾 子 農林水産省 家畜改良センター 岩手牧場 品 川 森 一 帯広畜産大学 獣医学科

○ スクレイピー編

播 谷 亮 農林水産省 家畜衛生試験場 絵合診断研究部 自 戸 綾 子 農林水産省

品 川 森 一 帯広畜産大学 獣医学科 松 井 高 峯 帯広畜産大学 獣医学科

○ ヨーネ病編

横 溝 祐 一 農林水産省 家畜衛生試験場 製剤研究部 百 渓 英 一 家畜衛生試験場 生体防御研究部

白 戸 綾 子 農林水産省 家畜改良センター 岩手牧場 松 井 高 峯 帯広畜産大学 獣医学科

(4)

目 次

スクレイピー編

カラーグラビア

第1章 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 播谷 亮 3 1.概 要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 2.病気の概要と特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 3.スクレイピーの歴史 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 4.世界における発生状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 第2章 発症と診断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 品川 森一 8 1.スクレイピーの感染と発症 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 2.スクレイピーの病原体 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 3.スクレイピーの発症と宿主遺伝子 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 4.スクレイピーの発症と診断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 松井 高峯 11

1) 症 状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 2) 診 断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 3) 類症鑑別等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

3 13

第 章 発生予防 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.スクレイピーの伝染防止と清浄化対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 播谷 亮 13 2.海外からの侵入防止策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 3.人への感染の危険性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 品川 森一 15

4 16

第 章 国内におけるスクレイピー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.発生の事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 松井 高峯 16 2.発生の経緯 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 播谷 亮 17 3.発生後の処置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 4.法的措置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 5.今後の対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

5 Q A 19

第 章 & ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 白戸 綾子 ヨ ー ネ 病 編

第1章 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 横溝 祐一 27 1.概 要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27 2.病気の特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 3.世界における発生状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 4.経済的損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30

2 30

第 章 発病と診断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.病原体の分類と特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 横溝 祐一 30 2.ヨーネ病の感染と発病機構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 百渓 英一 32

1) ヨーネ病の感染 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32 2) 腸粘膜への侵入と初期変化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

(5)

3)病変の形成過程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 4)病変形成と臨床症状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 5)潜伏期聞から発症にいたるメカニズム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 6)ヨーネ菌の排菌機構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 3.ヨーネ病の病理学的診断法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 1)肉眼的病変の特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 2)病理組織学的分類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35 3)病変と免疫の関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 4)病理学的に鑑別すべき疾病 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 4.ヨーネ病の病原学的診断法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 横溝 祐一 36 1)塗抹染色鏡検法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 2)培養分離法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37 3)PCR法(poIymerasechainreaction)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38 5.ヨーネ病の免疫学的診断法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39 1)CF 反応(補体結合反応)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 2)ELI5A(酵素抗体法)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 3)ID 反応(免疫拡散反応)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 4)ヨーニン反応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41 5)IFNγ一ELISA ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41 6)免疫学的診断法の利用法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41

3 42

第 章 発生予防 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.ヨーネ病の伝染防止と清浄化対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 白戸 綾子 42 1)ヨーネ病の特殊性と防疫対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42 2)ヨーネ病の伝染防止と清浄化の具体策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42

1 43

( )清浄群あるいは汚染の可能性が小さい群における対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2 43

( )ヨーネ病汚染の可能性がある群における対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3 43

( )ヨーネ病による汚染が確認された群における対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3)ヨーネ菌の消毒・殺菌方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44

1 44

( )加熱殺菌 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2 44

( )有効な消毒薬 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3 44

( )畜舎の石灰乳消毒の手順 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2.海外からの侵入防止対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 3.人への感染の危険性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 横溝 祐一 46

4 47

第 章 国内におけるヨーネ病 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.国内における発生状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 松井 高峯 47 2.発生事例と防疫処置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 横溝 祐一 48

5 Q A 51

第 章 & ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 白戸 綾子 索 引 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53

(6)

カラーグラビア

スクレイピー

脳の結合組織 に沈着したプリオンアミロイ G2 脱毛症状を示したサフォーク種のスクレイ G1

ド(青〜青緑色部分 品川森一原図) ピー(我が国初発例 松井高峯原図)

G3 発育不良と協調運動失調を伴った、コリ G4 スクレイピーに特徴的な神経細胞における デール種、17ヵ月齢のスクレイピー 単胞性の空胞形成(松井高峯原図)

G5 スクレイピーに特徴的な神経細胞における G6 スクレイピー羊の脳に認められた アミロイ ぶどうの房状の空胞形成(松井高峯原図) ド斑(松井高峯原図)

(7)

カラーグラビア

ヨーネ病

G1 ヨーネ病発病めん羊の下顎部の浮腫 G2 腸管粘膜組織中の増殖ヨーネ菌

(松井高峯原図) (赤染 横溝祐一原図)

G4 腸間膜リンパ節の塗抹染色標本中のヨーネ 菌集塊(赤染 横溝祐一原図)

G3 Herrold培地上の発育ヨーネ菌コロニー

(横溝祐一原図)

G5 PCR産物の電気泳動バンドからのヨーネ菌 G6 尾根部の皮膚の腫脹度から判定する の迅速同定(森康行原図) ヨーニン反応(横溝祐一原図)

(8)

スクレイピー編

(9)

第 1 章 はじめに

.概 1

世紀以来西ヨーロッパを中心にしてめん羊にスクレイピーという病気が流行し、畜産に 18

大きな被害を及ぼしてきた。発病しためん羊は激しいかゆみのために身体を柵などにこすり付

。 。

ける スクレイピーという英語の病名はこのこすり付けることを意味する"escrape"に由来する この病気はまた、フランスでは"1a tremblante(震え) 、ドイツでは" "traberkrankheit(小走り する) 、あるいはアイスランドでは" "rida(運動失調あるいは振せん) などと、国や地域によっ"

ていろいろな名前で呼ばれてきた。これらはいずれもその症状から付けられた病名である。ス クレイピーに罹っためん羊は脳を冒され、様々な神経症状を示して死亡するのである。

スクレイピーが伝染性の病気であることは、1930 年代にすでに明らかにされていた。しか し、ウイルス、細菌、カビあるいは寄生虫などの病原体は分離されず、その病原体の本体は長 い間謎であった。1980 年代初めに米国のプルシナーは、スクレイピーの病原体は核酸を持た ない蛋白性の感染粒子(proteinaceous infectious particle : prion)であるというプリオン説を掟 喝した(図1)。その後、プリオンの蛋白は哺乳動物から酵母にいたるまで様々な生物の細胞 が持っているプリオン遺伝子が産生する蛋白であることが明らかになった。そして、細胞が普 通に持っている正常プリオン蛋白がなんらかの

機構で修飾を受けると異常な構造に変わったプ リオンとなり、スクレイピーを含む一連の病気 の原因となることが分かってきたのである。そ の結果、これらの病気はプリオン病と呼ばれる ようになった。なお、プリオン説の提唱者プル シナーは、1997年度のノーベル医学・生理学賞

スクレイピーの病原体(著者原図)

を受賞した。 1

.病気の概要と特徴 2

プリオン病は以下のような特徴を持つ。これらの特徴から、プリオン病という病名が一般に 定着する以前は、スクレイピーを含む一連の疾病は伝達性海綿状脳症と呼ばれていた。

① 感染してから発病するまで数カ月あるいは何年もかかる。すなわち潜伏期が長い。

② 進行性の神経疾患で、発病すると必ず死亡する。

③ 病変は中枢神経系(脳と脊髄)に限定されている。顕微鏡で脳の組織を観察したときの 主な病変は空胞化であり、病変が高度な場合に組織はスポンジ状(海綿状)に見える。

④ 炎症あるいは免疫反応が認められない。

⑤ 脳内接種等によって他の動物に伝達できる。

には、プリオン病に属する病気を発生報告が古い順に列挙した。最も古くから知られて 表1

いるプリオン病が羊のスクレイピーである。スクレイピーは山羊でも発生している。人では、

クールー 、クロイツフェルトヤコブ 病及びゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー

(10)

痛が知られている。クールーはパプアニューギニアのフォア族という種族で 1960 年頃まで流 行していた病気である。フォア族は死者を弔う儀式として食人の習慣を持っていたので、人か ら人へ異常プリオンが感染したのである 。クロイツフェルトヤコブ 病は100万人に1人の発 生率といわれる稀な病気で、40〜60歳くらいに起こる。そのうち約10%がプリオン遺伝子に 変異のある遺伝型のものである。また、極めて少数であるがクロイツフェルトヤコブ病患者 の角膜や脳硬膜を移植されたり、脳下垂体由来の成長ホルモンを投与されたりして発病した例 がある。これらは医原病型と呼ばれる。クロイツフェルト・ヤコブ病の 90 %近くは散発型で あって、その発病の原因は不明である。これに対して、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャ インカー病は主として遺伝型の発生様式をとる。伝達性ミンク脳症は米国のミンク農場で初め て発見されたが、餌として与えられていた羊の肉からスクレイピーの異常プリオンがミンクに

宿  主 病  名 分   布 最古の発生記録

めん羊 スクレイピー オーストラリアとニュー    1732年

ジーランドを除く全世界

山羊 スクレイピー 不明    不明

人 クールー パプアニューギニア    1900年頃

人 クロイツフェルト・ヤコ

プ病(CJD) 全世界    1920年

人 ゲルストマン・シュトロ

イスラー・シャインカー病(CSS) 全世界    1926年

ミンク 伝達性ミンク脳病(TME) 北アメリカとヨーロッパ    1947年

ミュールジカ、ヘラジカ 慢性消耗病(CWD) 北アメリカ    1967年

牛 牛海綿状脳病(BSE) 英国、スイス、アイルラン    1985年

ド、ポルトガル、フランス、

ドイツ、イタリア、オマー ン、デンマーク、オランダ、

フォークランド諸島

ニアラ(レイヨウの一種) 海綿状脳病 英国    1986年

ゲムスポック(レイヨウの一種) 海綿状脳病 英国    1987年

クーズ(レイヨウの一種) 海綿状脳病 英国    1989年

オリックス(レイヨウの一種) 海綿状脳病 英国    1989年

エランド(レイヨウの一種) 海綿状脳病 英国    1989年

猫 猫海綿状脳病(FSE) 主として英国    1990年

チータ 海綿状脳病 主として英国    1991年

ピューマ 海綿状脳病 英国    1991年

アンコーレ牛 海綿状脳病 英国    1991年

人 致死性家族性不眠症(FFI) 全世界    1992年

オセロット(レイヨウの一種) 海綿状脳病 英国    1994年

トラ 海綿状脳病 英国    1995年

人 新変異型クロイツフェルト

・ヤコブ病(nvCJD) 主として英国    1996年

バイソン 海綿状脳病 英国    1996年

表1 プリオン病の発生状況

(11)

感染したものと疑われている。慢性消耗病と名 付けられた病気が米国で飼われていたミュール ジカヤヘラジカで発生し、その後、この病気も プリオン病に属する疾病であることが明らかに なった。しかし、今のところその伝播様式は不 明である。

年以降、様々な動物で新たにプリオン 1985

病が発生した。なかでも一番問題となったのが 英国で大発生した牛海綿状脳症である。英国で

スクレイピー と牛海綿状脳症 の関連 はこれまでに17万頭以上の牛が牛海綿状脳症と 2

(著者原図 ) 診断されている。英国以外での発生例は少な

く、我が国では発生報告がない。この牛海綿状脳症は、広範な疫学調査の結果、スクレイピー が餌を介して牛に移ったものと考えられている( 2)。すなわち、スクレイピーに感染して 死亡しためん羊がレンダリング(家畜の肉、皮、骨、臓器など人の食用とならない部分及び死 亡畜を原料として、皮革、油脂、飼料、肥料等を製造すること)材料に混入し、レンダリング 産物である肉骨粉にスクレイピーの異常プリオンが不括化されないまま移行し、その肉骨粉が 牛に蛋白源として与えられたために牛海綿状脳症が発生したと考えられているのである。さら に、牛海綿状脳症に罹った牛の死体もまたレンダリング材料となり汚染が増幅されたことも、

今回の大発生の要因であると考えられる。このようなことが起こった背景として次の点があげ られる。

① 1970 年代の石油危機により石油の値段が高騰したため、これまで実施されてきたバッ チ方式というレンダリング方法がより低コストの連続方式という方法に変更されたこと。

② 1980年代になって英国におけるめん羊の飼養頭数が急増したこと。

牛海綿状脳症の発生原因となった肉骨粉の牛への給与は1988年に禁止された。このため、牛 海綿状脳症の発生頭数は1993年をピークに減少し続けており、21世紀初頭には英国からなく なると推定されている。

牛以外の動物でも、それぞれ少数ではあるが、1986 年以降、種々の動物でプリオン病が発 生している。これらにはペットとして家庭で飼われていた猫や動物園で飼われていたレイヨ ウ、トラ、ピューマなどが含まれる。これらはいずれも牛海綿状脳症の異常プリオンに汚染さ れた餌を食べたために発生したと考えられている。また、1996年、人で新変異型クロイツフェ ルトヤコブ病の発生が報告された。この新変異型クロイツフェルトヤコブ病と、従来のク ロイツフェルトヤコブ病は、好発年齢、発症してから死亡するまでの期間及び脳の病変など が異なっている。現在までのデータでは、牛海綿状脳症の異常プリオンが人に移り新変異型タ ロイツフェルト・ヤコブ病が発生した可能性が高いと考えられている。

(12)

.スクレピーの歴史(表 )

3 2

スクレイピーの歴史は大変古い。英国で 1732 年に発生したというものが最も古い記録であ る。さらに、1750 年にドイツ、1810 年にフランスとスペインで発生したという記録が残って いる。その後長い間スクレイピーに関する研究は進歩しなかったが、1936 年になってスクレ イピーが感染性の病気であることが証明された。フランスのキュイエらがスクレイピーのめん 羊の脳を健康なめん羊の日に接種する実験を行い、14〜22 カ月の潜伏期で病気が伝達できる ことを報告したのである。また、1939 年、スクレイピー病原体がホルマリン処理に対して強 い抵抗性を有することを示す事件が起こった。めん羊にはルーピング病(louping ill)という 病気がある。"Louping"とはスコットランド 語で、やや飛び跳ねるような感じで走るという意 味がある。このルービング病はトガウイルスの一種による感染症であって、ワクチンによる予 防が行われていた。このワクチンはルーピング病ウイルスを接種しためん羊からウイルスが含 まれている脳を採取し、その乳剤にホルマリンを加えてウイルスを不活化したものであっ た。1939 年に英国でこのルービング病ワクチン の接種を受けた18,000頭のめん羊のうち、

頭あまりがスクレイピーに罹ってしまったのである。たまたま、ワクチン材料となった 1,200

めん羊のなかにスクレイピーに感染したものがいて、そのスクレイピー病原体がホルマリン処 理でも不活化されずに残っていたことが原因と推定された。その後、1961 年に英国のチャン ドラーはスクレイピーをマウスに伝達することに成功した。それまでのめん羊における実験と 異なり、品質の均一なマウスを多数用いるシステムが確立され、スクレイピー病原体の様々な

。 、 、

性状が明らかになっていった 一方 1960年代以降の米国のガイジュセックらの研究により クールー、クロイツフェルトヤコブ病、スクレイピーなどの一連の病気の概念が確立され、

これらの病気は伝達性海綿状脳症と呼ばれるようになった。1982 年には、前述のように、プ

表2 スクレイピーの歴史

ドイツで発生報告 1750

フランスとスペインで発生報告 1810

英国でスクレイピーが大発生し、サフォーク種のめん羊で大被害 1920 50

フランスのキュイエらが接種実験を実施し、スクレイピーが伝達できることを証明 1936

カナダで英国から輸入された羊で初めてスクレイピーが確認された 1938

汚染されためん羊のルービング病ワクチンによって多数のめん羊がスクレイピーに感染 1939

米国ミシガン州でスクレイピーが発生 1947

英国のチャンドラーがスクレイピーをマウスに順化させることに成功 1961

米国のガイジュセッタがクールーのチンパンジーへの伝達試験に着手 1963

米国のプルシナーがプリオン鋭を発表 1982

帯広畜産大学の品川らが日本でのスクレイピー初発例について報告 1984

牛海綿状脳症が英国で発生 1985

スイスのエツシュが細胞からプリオン遺伝子を分離 1985

日本においてスクレイピーを含む伝達性海綿状脳症がいわゆる届出伝染病に指定される 1996

日本においてスクレイピーを含む伝達性海綿状脳症がいわゆる法定伝染病に指定される 1997

(13)

ルシナーがプリオン説を提唱した。

一方、日本では、帯広畜産大学において昭和 59 年(1984)に初めてスクレイピーの存在が 確認された。スクレイピーと診断されためん羊は、昭和 49 年(1974)にカナダから輸入した ものの子であった。平成8年(1996) 月には、スクレイピーを含む伝達性海綿状脳症(法4 律上は伝染性海綿状脳症という名称が用いられている)が家畜伝染病予防法第 62 条の疾病の 種類(いわゆる法定伝染病)に指定された。さらに、翌平成9年(1997)には、伝達性海綿 状脳症は家畜伝染病予防法第2条によって定められる家畜伝染病(いわゆる法定伝染病)に加 えられた。

.世界における発生状況 4

スクレイピーは、英国を含む西ヨーロッパ諸国において古くから知られていたが、めん羊の 移動に伴い世界各副こ拡散した。現在のところ、図3に示した国々でスクレイピーが発生して いる。なお、これら各国でもその発生状況は異なり、英国では散発的に発生しているが、他の ヨーロッパ諸国では稀に発生しているか、数年前に最後の発生があった程度であると報告され ている。日本では、平成8年(1996) 月を最後に、スクレイピーの発生はない。6

でスクレイピー発生国に区分されていない国々の中には、診断体制が不備な国やスクレ 図3

イピー発生状況の報告がきちんとなされていない国も含まれている。現在のところ、スクレイ ピーが存在していないと国際的に認められているのは、オーストラリアとニュージーランドの みである。両国では、昭和 27年(1952年)に英国からのめん羊の輸入に伴いスクレイピーが 発生した。しかし、スクレイピーが1頸でも発生したらその牧場のめん羊を全部淘汰するとい う徹底した対策により、スクレイピーの定着は阻止された。

図3 スクレイピーの発生状況

(14)

第 2 章 発症と診断

.スクレイピーの感染と発症 1

母親がスクレイピーを発症すると、その子供もスクレイピーになる可能性が高い。これは、

出生前に感染したと考えられる場合もあるが、多くの場合、スクレイピーは生後間もない時期 に母親から感染するためである。この理由から多くのスクレイピーの症例では、その潜伏期は 発症年齢とほ呼一致する。発症後の経過は数週間から数カ月である。正確な感染経路は分かっ ていないが、経口感染が主と推定されている。実験的にはどのような経路であれ、病原体が宿 主に侵入すれば発症する。マウスを用いた実験では、擦り傷等の外傷による経皮感染も効率よ く起こるため、めん羊でも同様であると考えられる。感染している雌が出産すると、たとえ発 症の前であっても、そのような雌の胎盤や胎膜等にはプリオンが存在して感染源となる。胎盤 や胎膜等が直接、あるいは、これらによって汚染された環境を介して、気付かぬうちに他のめ ん羊に水平感染する。後に述べるように、精液、糞及び尿には感染性がほとんどないことか ら、雌めん羊に比べて雄めん羊が感染していても病気の伝播に果たす役割は小さい。

好発年齢は 2.5 歳から 4.5 歳で、 歳より若い症例は極めて稀である。アイスランドでは、1 めん羊のウイルス性疾病であるマエディ・ヴイスナとスクレイピーを撲滅するために、1940 年代の初めから30年間かけて汚染牧場のめん羊合計65万頭を淘汰して、最低1年間空けた後 にこれらの疾病がないめん羊を導入した。マエディ・ヴイスナは完全になくなったがスクレイ ピーは導入後4ないし5年目から発生が見られるようになった。このことから、一旦スクレイ ピーで汚染された畜舎や牧場は、病原体の抵抗性が高いために汚染が長く続く可能性がある。

プリオン はスクレイピー のめん羊体内に広く分布するが、その濃度は観劇こよって 大きく違 う。WHOは1991年に、組織をマウスに接種して含まれる感染性の量を調べて、次の4とおり に区分した。

区分1 高濃度 区分2 中程度 区分3 微 量 区分4 検出限界以下

区分1には脳と脊髄、区分2には脾臓、扁桃、リンパ節、回腸及び近位結腸、区分3には坐 骨神経、脳下垂体、副腎、遠位結腸、鼻粘膜、脊髄液、胸腺、骨髄、肝臓、肺及びすい臓、区 分4には骨格筋、心臓、乳腺、初乳、乳、血餅、血清、糞便、腎臓、甲状腺、唾液腺、唾液、

卵巣、子宮、精巣及び精嚢が含まれる。皮膚も感染性はない。しかし、卵巣、子宮、胎盤、胎 膜及び羊水にはしばしば感染性が認められる。腸管の感染性は付属するリンパ装置、バイエル 仮に存在していると推定される。また、リンパ系組織の感染性は、免疫染色によってプリオン が濾胞の樹状細胞に証明されることから 、この細胞に存在すると考えられる。プリオン感染 後、感染性はまず腸管及びリンパ系の組織に出現し、その後、中程度の感染価まで上昇して留 まる。これらリンパ系組織に出現した後、スクレイピーを発症するしばらく前から中枢神経系

(15)

に感染性が現れ、発症時には感染価が高くなり、多量のプリオンが蓄積される。これら感染価 はマウスを使って調べられた成績であり、マウスは異種動物であることから後に述べる種の壁 の現象のため、得られた感染価は一般にめん羊で調べた場合に比べて低い。このため、感染性 が検出できなかったということが必ずしもプリオンが全くないということを意味しているわけ ではない。

.スクレイピーの病原体 2

先に述べたように、母親がスクレイピーを発症するとその子供もスクレイピーになることが 多いため、遺伝性の病気と考えられていた時期もあった。しかし、1940 年代に伝達試験が成 功して、感染性の病気であることが分かった。しかし、前述のルービング・イルのホルマリン 不活化ワクチン接種によるスクレイピーの大発生の事故から、スクレイピーの病原体はホルマ リンでは死滅しない異常なウイルスと考えられ、unconventional virus(非通常ウイルス)と呼 ばれた。病原体の精製が困難であったためどのようなウイルスか分かっていなかったが、1970 年代の終わりから 1980 年代の初めにかけて、カリフォルニア大学のプルシナーは界面活性剤 と蛋白分解酵素処理及び分画遠心を組み合わせた感染性画分の精製法を確立した。精製画分を 電子顕微鏡で観察するとウイルス様の粒子ではなく、アミロイド繊維状の物質が見られた(

)。また、この画分に蛋白は検出されたが、ウイルスに含まれる特異な核酸を検出すること 4

はできなかった。このことからプルシナーは 1982 年にスクレイピーの病原体を蛋自性の感染 粒子を意味するプリオンと名付けた。この発表より僅かに早く、マーツは脳のシナプトソーム scrapie 画分を界面活性剤処理して電子顕微鏡で観察し、やはりアミロイド繊維様物を発見し、

( )として発表している。スクレイピーを発症した動物脳の結合組織をコ associated fibrils SAF

ンゴーレッドで染色して偏光顕微鏡で観察する と、カラーグラビアGlに示すように、沈着し ているプリオンのアミロイドが偏光の状態に よって青〜青緑色に染まって観察される(左右 の着色部の違い)。プリオンは宿主の細胞膜に 存在する糖蛋白の一つ、プリオン蛋白(PrP)が その構造を変えて凝集したものである。細胞膜 に存在している正常な PrP をPrPc と呼び、病 原 体 で あ るプ リ オ ン を構 成 し て い る も の を

と呼んで区別している。 は身体の中の

PrPsc PrPc

どの組織にも存在するが、中枢神経系組織に一 番多く存在し、ここにプリオンが高度に蓄積し て病変が現れる。

精製プリオンをSDSで溶解して、SDSポリ

4 精製プリオン

プリオンは発症した動物の脳から、界面活性剤処 理、蛋白分解酵素処理、分画遠心の組み合わせで、ア ミロイド繊維として精製される。陰影染色して電子 顕微鏡観察を行うと、帽およそ 25nm ほどで長さは 精製法で変わり、数十nm〜数百mmに達する繊維状

(16)

アクリルアミドゲル 電気泳動後、染色あるいはメンプ レン・フィルターに移して抗PrP抗体でウエスタンプ ロット解析を行うと、15キロドルトンから27キロドル トンの領域にわたって幅の広い3本のバンドとして検 出される(図5)。これはプリオン蛋白には糖鎖が付着 する部位が2カ所あり、糖鎖が2カ所付いた分子、一 カ所に付いた分子及び糖鎖を持たない分子が混じって いるためである。

スクレイピーのプリオンには多くの株が存在するこ とが知られている。英国では数種類の近交系のマウス を使用して伝達したときの潜伏期の長さと、中枢神経 系の一定の部位の病変の強さの違いによって株を区別 している。この方法ではスクレイピープリオンは20以

上の株に区別されるが、牛海綿状脳症のプリオンは一つの株であることが分かった。牛海綿状 脳症が感染したために発生した猫の海綿状脳症も動物園の大型カモシカ類の海綿状脳症も、さ らに、牛海綿状脳症が人に感染したために発生したのではないかと推定された新型の変異クロ イツフェルトヤコブ病のプリオンも牛海綿状脳症のプリオンと同じ株であると判定された。

株の違いは、プリオン蛋白が凝集したときの構造にいくらかの違いがあるために起きると推定 される。

プリオンは熱、酸、紫外線、電離放射線、ホルマリン、あるいは一般の消毒剤に高い抵抗性 を示す。強アルカリによって不活化され、蛋白分解酵素でもいくらか感染性が減少する。この ような性質は、プリオンが核酸を持たず、蛋白が規則正しく強固に凝集したアミロイドである

131 1 1 1 1

ことを反映している。組織の滅菌には ℃ 時間の加熱、 規定苛性ソーダ 時間浸漬、

〜5 %次亜塩素酸ソーダ2 時間浸潰等がある。器具などは3%以上の SDSに浸漬して5分間 煮沸する。スクレイピー動物の組織や汚染した各種焼却可能なものを、完全に不活化はできな いが通常のオートクレーブで121度30分間以上滅菌して感染性を減少させ、周辺に飛散しない ようにして焼却処理する方法もある。

.スクレイピーの発症と宿主遺伝子 3

スクレイピーの潜伏期の長さ、あるいは感受性は一対の対立遺伝子型sip sA/Sip pA(この 遺伝子はプリオン蛋白の遺伝子と同じであることが分かった)に支配されている。一般に発生 しているスクレイピーではsip sA/sAの場合は潜伏期が短く、一方、Sip pA/pAは潜伏期が長 Sip sA Sip く、時には発症しない。しかし、特殊なスクレイピーでは逆になることもある。 、

をプリオン遺伝子と対応させると、アミノ酸置換があることが分かった。めん羊のプリオ pA

ン遺伝子には256個のアミノ酸がコードされている。他の哺乳動物もおおよそ同程度のアミノ 酸がコードされており、その配列の相同性が高い。めん羊には5カ所のアミノ酸に置換が知ら

5 PrP

プリオン蛋白、 s c のウエスタンプロット プ リ オ ン を 含 む 試 料 を

−ポリアクリルアミドゲ SDS

ル電気泳動 した後ニトロセル ロース膜に電気的 に移し、抗 プリオン蛋白抗体 によって 染 色した。PrPsc は糖鎖の付き具 合により、 カ所に付いたも2 の(上 、 1 カ所(中央 、及 び糖鎖を持たないもの(下)

3 本のバンドとして検出さ れる(著者原図)

(17)

れていて、通常はコドン136はアラニンであるが、バリンの個体があり、このような個体は感

受性のsipsAに相当し、抵抗性のsip pAはアラニンである。さらに通常のコドン171グルタ

ミンがアルギニンに変わった場合はコドン136がバリンでも潜伏期が長くsipsAに相当し、ホ モの場合はほほ完全に抵抗性である。フランスでサフォークを除く幾品種かのめん羊PrPの 遺伝子型とスクレイピーの関係が調査されたところ、スクレイピーのめん羊は必ず136バリン をホモあるいはヘテロに持っていた。英国のスウェルデール及びチェビオット種の抵抗性と感 受性の系統を調べた成績でも、感受性の系統は136バリンを持っていた。日本で多数飼育され ているサフォークではこの遺伝子とスクレイピー感受性の関係は完全には当てはまらない。サ フォークではコドン136バリンは稀であり、ほとんどがコドン136アラニンをホモに持つがス クレイピーを発生している。171アルギニンが抵抗性であることは他の品種と同じである。

めん羊の白血球のDNAを調べれば容易にプリオン 蛋白の遺伝子型 が分かる。英国、ヨー ロッパではコドン136バリンを持っためん羊を排除し、コドン171アルギニンを持っためん羊 を選択することによってスクレイピー抵抗性のめん羊を選択するという試みが始まった。この ように選択されためん羊はほほスクレイピーに耐性であろう。しかし、先に述べたように、特 殊なスクレイピーのプリオンはsip pA/pAの方が好発系となるため、全てのスクレイピーに耐 性というわけではないことも考慮する必要がある。プリオン蛋白の遺伝子を破壊してプリオン 蛋白をつくらなくしたノックアウトマウスはスクレイピーに絶対的に抵抗性である。また数系 統つくられたこのようなマウスのうち、一系統以外はプリオン蛋白がなくても特に障害が現れ ない。このため、スクレイピーに対し完全に抵抗性を持っためん羊をつくるために、英国では プリオン蛋白の遺伝子を破壊しためん羊をつくりだすことも試みられている。

プリオン遺伝子はスクレイピーの感受性を決めているだけではない。スクレイピーをめん羊 や山羊以外の異種の動物、たとえば 、マウスに伝達すると初代伝達時には潜伏期が長かった り、一部のマウスにしか伝達できないかあるいは全く伝達できないということがある。しか し、一旦伝達できれば、 代目2 3代目は確実に伝達できるようになり潜伏期も短くなる。この ような現象を、 種の壁 呼んでいる。種の壁には動物種間のプリオン蛋白の僅かなアミノ" "

酸の不一敦が一つの原因となっている。

.スクレイピーの発症と診断 4

)症 1

前述のようにスクレイピー(scrapie)という病名は、スクレイピーを発症しためん羊がしば カラーグラ しば牧柵・壁・柱・立木などに身体を絶え間なくこすり付けて脱毛症状を呈する(

) 、「 」、「 」 ( )

ビアG2参照 ことから 引っ掻く こすり付ける を意味する英語のスクレイプ scrape に由来している。しかしながら、全てのめん羊がこのような症状を示すわけではなく、一定し た症状はない。

スクレイピーは中枢神経系(大脳、中脳、間脳、小脳、橋、延髄、脊髄)の神経細胞とその 突起に病的な変化(病変という)が現れる疾患で、病変の位置及び分布状況・程度、また羊の

(18)

種類、病原株の遠い等により様々な症状を呈するとされているが、その詳細については明らか にされていない。発症(病的症状の出現)は一般的には2〜 5歳で . 歳における発症が最3 5 も多く、2 歳未満での発症は稀であるとされているが、少なからず発症例が認められている。

発症初期の臨床症状は極く僅かな異常として認められるため見逃されることが多いが、最初は 落ち着きがなくなる、音に対して敏感となり驚きやすくなる、群れから離れ一点を凝視しボー ッとする、あるいは、移動時に群れから遅れるなどの行動異常や歯ぎしり等が認められる。こ のような初期症状を経た後、最初は唇をピクピクさせていた筋肉の痙攣が肩及び腰部筋肉に波 カラーグ 及したり、鳴声が変わったりする。その後身体をこすり付ける掻痒症状に伴う脱毛(

、つまずき、あるいは、脚を高く上げて歩くトロッティング( )様の

ラビア G2 参照trotting

歩行異常 などの協調運動失調 、頭・頚部の震顫、また、驚いたときに短時間のテンカン様発 作が現れることもある。掻痒症状は必発のものではなく 、我が国の場合はむしろ掻痒症状を 欠くもの(カラーグラビアG3参照)が多いように 思われる。症状は進行性、特に運動失調 が増悪しておおむね1カ月から半年の経過で起立不能に陥り死亡する。

) 診 2

スクレイピーを生前に診断することは現在では一般的に不可能とされている。それは前述の 症状が後述するように、スクレイピー以外の疾患においても出現し得ること、また、病変が 脳・脊髄等の中枢神経系に限られ、臨床血液学的所見においてもスクレイピーに特徴的な変化 が認められないこと等に起因している。スクレイピーの確定診断には脳・脊髄等の中枢神経系 臓器を病理学的に検査する必要がある。病理学的な検査とは臨床的にスクレイピーが疑われて 斃死した動物、あるいは、予後不良(治る見込みがないと診断された動物)と診断されて安楽 死させた動物を解剖し、取り出した臓器の異常の有無を検査することである。肉眼的に異常の 認められない場合は、臓器の病理組織切片を作成して組織学的な変化(病変あるいは異常)を 顕微鏡で観察することによりなされる。

病理学的な検査の際に注意しなくてはならな いことは死後速やかに臓器(脳及び脊髄)を取 り出して検査することである。死後の時間が経 過した場合、死後変化(一種の腐敗現象)が起 こり検索不能となる。肉眼的にスクレイピーに だけ出現するような特異変化はない。病理組織 学的検査では脊髄及び脳幹部(中脳、橋、延髄)

の神経細胞の細胞質に単一(カラーグラビアG

)あるいはぶどうの 房状の空 4参照 HE染色

胞形成(カラーグラビアG5参照 LFB染色) が認められる。空胞形成が激しい場合は海綿状

(スポンジ状)を呈する。また、神経細胞が徐々

6 スクレイピーマウス脳に謎められた星状 膠細胞の増数と肥大化

右の未接種の対照に比べて左のスクレイピー感染 脳では著明な星状膠細胞の増数と肥大化が認められ る(著者原図 。

(19)

に脱落することに起因して星状膠細胞(アストログリア:神経細胞と神経細胞の間に存在する

、 、 ) ( )。

細胞で神経細胞の支持 栄養 代謝などを司っている の増数と肥大化が認められる 図6 極く稀ではあるが、発症後の経過が長い症例においてはアミロイド斑というシミのような病変 が見られることもある。この斑を形成しているアミロイドという繊維性物質はスクレイピーの 感染因子(今までに様々な説や名称があったが現在ではプリオンと呼ばれる:詳しくは病原体 の項参照)そのものであり、PrP に対する抗体を用いて免疫組織染色を行うと陽性に染色され る(カラーグラビア G6 参照)。さらに、アミロイド斑以外にも陽性の領域として PrPsc の沈 着が認めらる。スクレイピー以外の感染症では必ず見られる炎症反応(生体の防御反応)は全 く認められない。このためスクレイピーは、脳炎とは呼ばれずに病理組織学的特徴より海綿状 脳症と呼ばれている。

病理組織学的診断以外の診断法としては、病原体の項あるいは上に述べられた病原体を構成 している PrPsc の免疫学的手法による検出がある。この方法は極めて鋭敏で極少量のサンプル からの検出が可能であると共に、死後かなり時間がたち、病理組織学的検索ができない症例に ついても検索が可能である。しかしながら、特殊な用具と試薬を必要とし病理組織学的な検査 ほどに一般化されにくい現状であるが、将来的には病理組織学的検索と併用することにより、

未発症あるいは発症初期で組織病変が非常に軽微で診断に苦慮する症例についても確定診断が 容易になされるものと思われる。なお、この免疫学的手法による病原蛋白の検出に際しては、

病理組織学的検索のために処理(固定)されたものからは検出不能であり、生のものを凍結さ せておく必要がある。

) 類症鑑別等 3

スクレイピーを発症しためん羊に現れる行動異常、歩行異常、協調運動失調等の神経症状は スクレイピー以外の脳・神経疾患(リステリア症等の脳炎、大脳皮質壊死症等の変性疾患、脳 腫瘍等)においても出現するため、必ず病性鑑定を行っておくことが望ましい。また掻痒症状 に伴う脱毛は虫刺され、あるいは、アレルギー性皮膚炎等においても起こり得ることであり、

暫く症状の経過観察を行い、上記の神経症状が出現した場合には病性鑑定を行うことが望まし い。

なお、病性鑑定については各都道府県の家畜保健衛生所等に連絡を取って依頼する。

第 3 章 発生予防

.スクレイピーの伝染防止と清浄化対策 1

スクレイピーの撲滅は大変困難であり、オーストラリアとニュージーランド以外では成功し ていない。米国では、汚染群を徹底的に淘汰することによりスクレイピーの発生を抑制できた が、撲滅にはいたっていない 。我が国では、平成9年(1997)にスクレイピーを含む伝達性 海綿状脳症がいわゆる法定伝染病に指定された。この法律に基づき、徹底した対策が実施され れば、スクレイピーの伝染防止と清浄化が可能となるであろう。

(20)

スクレイピーを疑う疾病が発生した場合、速やかに家畜保健衛生所に報告し、確定診断とそ の後の処置を依頼する。全ての感染病の伝染防止の基本は感染源を断つことである。スクレイ ピーの場合は、感染している可能性のあるめん羊の徹底した淘汰がその方法である。この疾患 では、母親から子への垂直感染の他に出産時の胎盤から水平感染が起きると考えられる。さら に、潜伏が極めて長く、潜伏感染の有無を確かめる方法がない。したがって、淘汰の対象は発 症しためん羊だけでなく、その兄弟や子など血のつながりのあるもの、さらに、同居している めん羊にも広げられる必要がある。後産も感染源となり得るので速やかに焼却する。消毒は表

に示した方法で行う。後産等により汚染され 3

た牧野を完全に消毒するのは困難であるので、

牧野の継続使用は避けるべきである。最近のア イスランドの研究では、ダニのような媒介昆虫 によりスクレイピーが伝染する可能性が示唆さ れているので、ダニの駆除も視野に入れる必要 がある。

.海外からの侵入防止策 2

海外からスクレイピーが持ち込まれる危険を回避する方策は、めん羊・山羊の生体及びめん 羊・山羊製品の輸入を禁止するか、あるいはスクレイピーが存在しない国からだけ輸入を行う ことである。現在のところ、スクレイピーが存在しないと国際的に認められている国は、オー ストラリアとニュージーランドだけである。たとえ現時点でスクレイピーが存在しない国で も、かってスクレイピーが発生していた場合、最後の発生があってから5年間以上は注意する 必要がある。もちろんその国に厳重な検疫体制が整っていることが重要である。侵入の危険性 を減らすもう一つの方法は、めん羊の輸入を雄に制限することである。前述のように雄の羊は スクレイピーの伝播にあまり関わっていないと考えられるからである。

我が国の農林水産省は、アイスランドや英国のようなスクレイピー発生国の羊を輸入する際 は次のような条件を要求している。

① 農場の無病証明:輸出めん羊は、5 年間、スクレイピーの発生が摘発されなかった農場 由来であり、かつ、放牧などによりスクレイピーが摘発された群と接触しなかったこと。

② 輸出めん羊は、出国検査を受け、輸出国政府獣医官による臨床検査の結果、異常が認め られないこと。

また、以下のように、国々によってそれぞれ異なった条件を要求している。

① 米 国:種めん羊は、輸出検疫施設に繋留される日以前の18カ月以内にスクレイピーの 発生がなかった群由来のものであること。

② カナダ:スクレイピーの清浄群から生産されたものであること。

③ ニュージーランドとオーストラリア:国内にはスクレイピーが存在しないこと。

④ 台 湾:輸入めん羊は、出国検疫の検査開始前5年の間スクレイピー、マエディ・ビス 表3 消毒方法

時 間

焼却する

℃のオートクレープ 分間

136 30

規定の苛性ソーダ 時間

1 2 1

%以上の次亜塩素酸ナトリウム 時間

0.5 2

ドデシル硫酸ナトリウム 分間

3 SDS 10

(21)

ナ及びヨーネ病が臨床的、微生物学的または血清学的に摘発されなかった群、または農場由 来のものであること。

.人への感染の危険性 3

スクレイピーは、その脳乳剤を脳内接種することにより、マウス、ラットなどの齧歯類から サル等の霊長類まで各種動物に伝達できるし、経口的に与えても発症することがある。また、

スクレイピー の羊肉などを餌として与えたために伝達性ミンク脳症や牛海綿状脳症 が発生し た。種類の違った動物にスクレイピーが伝達するのは 、哺乳動物のPrPのアミノ酸配列が人 を含めて共通した部分が多いためと考えられる。このような観点から見れば、スクレイピーが 人に感染する可能性は否定できない。平成8年(1996)に発表された新変異型のクロイツフェ ルトヤコブ病は牛海綿状脳症 に感染した牛肉(中枢神経系組織 )を食べたために牛海綿状脳 症のプリオンが感染して起きた可能性があると指摘された。最近の研究報告は牛海綿状脳症と 同じプリオンで起きたことを示している。スクレイピーが直接人に感染するか否かは、我が国 を含めて世界各地にスクレイピーが広がっている点からも重要である。

スクレイピーを含めて動物のプリオン病が人のプリオン病の原因となっているか否かを直接 人に接種し、あるいは、摂取させて発症の有無を調べることはできない。スクレイピーは非常 に古くから存在が知られており、人との係わりが深かったと推定される。しかし、幸いにもこ れまでスクレイピーが人のプリオン病の原因となったことを示す証拠は間接的なものすら見つ かっていない。間接的な疫学調査によってスクレイピーの人への感染の可能性について調べら れたが、これまでの調査では、いずれも人プリオン病の原因にはならないという結果になって いる。すなわち、スクレイピーの存在する国としない国、スクレイピーの存在する国で、肉、

羊毛あるいは飼育などでめん羊に職業的に接触する人と、接触を持たない人、めん羊の脳を好 んで食べるか否かなどの点で人プリオン病の発生頻度が比較されたが、両者に変わりがなかっ た。また、アイスランドはスクレイピーの発生が知られているが、人プリオン病の発生は平均 的な世界の頻度より低い。一方、イスラエルのリビア系ユダヤ人は、ヨーロッパ系に比べ人プ リオン病の発生頻度が30倍以上高い。これは、めん羊の眼球を好んで食べる食習慣からスクレ イピーの感染のためではないかと推定された。また、チェコスロバキアにおいて一農村で高頻 度に人プリオン痛が見られた。この地域でスクレイピーが発生していたため、スクレイピーの 感染が疑われた。しかし、何れの場合もPrP遺伝子解析の結果、遺伝性プリオン病であるこ とが分かり、スクレイピーと関連が否定された。このような成績から、現在のところスクレイ ピーは人のプリオン病の原因とはならないとされている。ただし、プリオンには遺伝子がない ため、スクレイゼーが異種の動物に伝達されたとき、そこで複製したプリオンはその新しい宿 主のプリオン蛋白を使ってつくられたものであり、プリオンの構造は受け継いでいることはあ るとしても、元のスクレイピーのプリオンではない。このため、牛海綿状脳症に見られるよう に、スクレイピーは人に伝達しないが、異種の動物に伝達したとき、そのプリオンの感染性が 元のめん羊のスクレイピープリオン と同じであるという保証はない。人のPrPだけを発現し

(22)

ているトランスジェニックマウスを用いてスクレイピーが人に感染するか否かをより直接的に 調べることが可能になってきたため、近い将来より直接的な回答が得られると思われる。

第 4 章 国内におけるスクレイピー

.発生の事例 1

我が国においてスクレイピーの発生は、昭和56年(1981)までには知られていなかった。同 年12月より翌年7月の期間に、北海道・帯広市の近郊の1牧場で飼育中のめん羊10頭(サ フォーク 種、雌、 〜3 4歳)が高度の削痩、全身性掻痒、脱毛及び共同運動不能を主徴とし

9 6 92 2

た特異な臨床症状を呈して、 頭が 〜 日間の発病経過をもって死亡した。死亡した 例と生き残った1例を病理組織学的に検査したところ、中枢神経系の神経細胞に多数の空胞が 認められ、これらの症例が我が国における初発例とされた。なお、その後の調査でこれら発症 羊は、いずれもが昭和49年(1974)にカナダより輸入された雌羊の2代目の子孫であった ことから、輸入羊により我が国に病原因子が導入されたとされている。

当牧場では、発症羊等の淘汰が繰り返されその後暫くは発症が見られなかったが、昭和 59 年(1984)に新たな発症例3頭が確認されている。その後、当牧場ではめん羊の飼育を止め たためその後の発症は認められていない。しかしながら、昭和 49 年(1974)の輸入から初発 例発見までの8年間にこの牧場生まれの羊が全国に配布されており、その後、北海道以外に東 北、関東及び九州において発生が認めらた。

平成元年、帯広市近郊のある施設で飼育されていた 17 カ月齢のコリデール種の雌羊が発育 不良と歩様異常により予後不良とされ安楽死後、病理組織学的検索と共に、PrPsc の検出がな されスクレイピーと診断された。この症例は、当時の我が国のスクレイピーの概念を覆すほど の大きな警鐘を与えた。今までの発症例の年齢が全て3歳以上で、サフォーク種で臨床症状 として何らかの掻痒あるいは脱毛が認められていた。本例については、臨床的にスクレイピー は全く疑われていなかった。また、発症年齢及び経過が短いにも係わらず、病変の程度(空胞 の量及び星状膠細胞の肥大化)は、これまでのサフォーク種におけるものとは軟べものになら ないほど強いものであった。

3 1991 3 2

平成 年( )、帯広市近郊のある農家で飼育されていた 歳のコリデール種の雌が 頭の子羊を分娩後4カ月で起立不能に陥り死亡した。ほとんど同時期に、他の3歳のコリデー ル種の雌が起立不能に陥ったため、安楽死後の病性鑑定でスクレイピーと診断された。これら 頭の母羊から生まれた 頭の子羊のうち 頭が 、 、そして カ月齢で起立不能とな

2 4 3 12 14 19

り、病性鑑定の結果スクレイピーと診断された。いずれの症例も脱毛等は観察されなかった。

平成6年、帯広市近郊のある牧場より購入し実験用に飼育中の2歳のコリデール種とサ フォーク種の雄羊が起立不能に陥り病性鑑定によりスクレイピーと診断された。両例共脱毛等 は観察されなかった。この牧場では飼育中のめん羊を全頭処分した。

以上、帯広市近郊での発生事例を紹介したが、この他に、全国的には今までに 50 例を超す

図 3 マイコバクチンの化学構造 色のコロニーを示す。ヨーネ菌は鳥結核菌 と共にⅢ群に属する。各群内の菌種は生化 学的性状や薬剤感受性による鑑別セットを 用いて同定する。 ところで、ヨーネ菌は鳥結核菌とほとん ど同じ生化学的性質を示すので、両者を区 別するポイントは、培地上での発育速度と イコバクチン発育依存性である。鳥結核マ 菌は 3 週間前後で可視コロニーが増殖して くるが、超遅育菌のヨーネ菌は、コロニーが見えてくるまでに 6 週間以上の培養期間を要す 。 。 、る 特にめん羊・山羊由来のヨーネ菌の発育
図 7a 上段左:腸粘膜固有層内の類 上皮細胞内芽腫〔へマトキシリ ン・ 工オ ジ ン( HE ) 染色〕 図 7b 上段中:肉芽腫内 のヨーネ 菌 (抗酸菌染色 ) 7c HE図上段右:腸の小型肉芽腫( 染色) 図 7d 右中段:腸のラングハンス型 巨 細 胞 〔 矢 印 ( H E 染 色 〕 図 7e 下段左:膿粘膜の乾酪化 (矢 印)を伴う肉芽腫( HE 染色) 図 7f 下段右:腸間膜リンパ節の石 灰化(矢印)を伴う肉芽腫( HE 染色) (著者原図) ) 病理組織学的分類 2 ① カテゴリー 1
図 9 PCR 法による 病牛糞便からの ヨーネ菌の検出( lDEXX キット の原法) によるヨーネ菌 の増幅と酵素標識 プローブによるドットプロット検出PCRDNADNA 牛の糞便からヨーネ菌をイオン交換カラムにより分画し、遠心集菌後に 110 ℃/ 10 分間加熱こより DNA を抽 出する。次いで、抽出 DNA を PCR カクテル(ヨーネ菌に特異的な 側、5' 3 側の 2 種類のオリゴヌクレオチド プライマー、 種類のヌクレオチド及び耐熱性 4 DNA ポリメラーゼ)に添加し、 94 ℃/ 1
図 13 めん羊のヨーネ病症例の肥厚した 図 14 小腸粘腰における類上皮細胞中に 小腸粘膜(松井高車原図) 認められる多数の抗酸菌 (ヨーネ菌 著者原図) 発生事例 2 平成 7 年( 1995 )の北海道の某牧場での発生 例である。成めん羊 224 頭規模の群で慢性下痢 を呈する症例が発生し、帯広畜産大学において 病理学的、細菌学的にヨーネ病と鑑定された。 鑑定殺された病羊の下顎部は浮腫による腫脹 ( カラーグラビア Gl 参照 )を示していた。 図小腸粘膜の肉眼所見として中程度の肥厚( )が、また、顕

参照

関連したドキュメント

 今後5年間で特許切れにより 約2兆円 ※1 のジェネリック医薬品 への置き換え市場が出現. 

前章 / 節からの流れで、計算可能な関数のもつ性質を抽象的に捉えることから始めよう。話を 単純にするために、以下では次のような型のプログラム を考える。 は部分関数 (

※ 硬化時 間につ いては 使用材 料によ って異 なるの で使用 材料の 特性を 十分熟 知する こと

、肩 かた 深 ふかさ を掛け合わせて、ある定数で 割り、積石数を算出する近似計算法が 使われるようになりました。この定数は船

 このようなパヤタスゴミ処分場の歴史について説明を受けた後,パヤタスに 住む人の家庭を訪問した。そこでは 3 畳あるかないかほどの部屋に

燃料デブリを周到な準備と 技術によって速やかに 取り出し、安定保管する 燃料デブリを 安全に取り出す 冷却取り出しまでの間の

町の中心にある「田中 さん家」は、自分の家 のように、料理をした り、畑を作ったり、時 にはのんびり寝てみた

上記⑴により期限内に意見を提出した利害関係者から追加意見書の提出の申出があり、やむ