1
映像資産に対する両眼視差の付加と強調手法に関する研究
2D to 3D Conversion of Image Archives and the Enhancement Approaches
1W100536-4
吉見 真人 指導教員 河合 隆史 教授
YOSHIMI Masato Prof. KAWAI Takashi
概要: 本研究では, 色彩情報が乏しく画質の劣化した映像資産に両眼立体情報を付加(3D化)し, 「セグメンテーション効果」とい う観点から立体感を強調する新たな表現手法の提案・評価を行った. なお, 本研究でのセグメンテーション効果とは, 両眼視差によ り映像内の主要な被写体への注視や空間情報の受容が容易となる効果と定義する. 1927年に早稲田大学大隈講堂にて撮影され た映像資産「坪内逍遥 最終講義」を, 2D/3D変換により3D化し, 3D化の有効性や効果的な表現手法を探索するためアンケート 調査を実施した. それから「ノイズ」「ぼかし」「ゆらぎ」といった表現手法により3D映像の立体感を強調し, AHPや視線計測による評 価実験を行った. それにより, 視聴者の属性による表現の有効性の違いや, 立体感評価にあたり重要視される基準に関する知見 が得られた.
キーワード: 3D映像, 映像資産, 立体感演出, 2D/3D変換, セグメンテーション
Keyword: 3D image, image resource, improving depth perception, 2D to 3D conversion, segmentation
1. 研究背景と目的
映画やテレビを中心として, 2眼式立体映像(3D映像)
による表現が注目されつつある. 3D 映像の急速な普及 に伴い, 3D 映像コンテンツやそれらを人間工学的に評 価する研究事例が増えてきている. また近年, デジタル アーカイブ化や高臨場感化など, 文化財の新しい表現 が注目されている. 一方で, 絵画や過去の映像などの 元々2Dで表現されたコンテンツを, 3D映像に変換し評 価する事例については, その有効性など具体的な知見 は少ないのが現状である.
本研究では, 両眼視差により主要な被写体への注視 や空間情報受容が容易となる効果を「セグメンテーショ ン効果」と定義した. そして色彩情報が乏しく画質の劣 化した映像資産を3D化し, セグメンテーション効果の観 点から立体感を強調する新たな表現手法を構築すること を目的とした.
2. 実験方法
セグメンテーション効果の観点から表現手法を提案し, 処理を付加した映像を用いて評価実験を行った.
呈示映像には, 早稲田大学が所蔵している「坪内逍
遥 最終講義」(1927 年撮影)を使用した. この映像を 3D化し, 2013年に開催された設計・製造ソリューション 展にて上映しアンケート調査を行い, その調査結果をも とに映像から4つのカットを抽出した. その中から2カッ トずつ選択して, 前方レイヤにグレインノイズを付加する
「ノイズ処理」, 背景レイヤにガウスぼかしを付加する「ぼ かし処理」, 前方レイヤの交差方向視差が連続的に揺 れる「ゆらぎ処理」, 以上3種類のエフェクトを加えた(カ ットの重複あり). 実験条件は「処理なし」と「処理あり」を 設定し, ぼかし処理のみ, 前方レイヤにぼかしをかける
「逆処理」条件を加えた.
実験は暗室内で行い, 参加者は 20 代の大学生 23 例であった. 実験の様子を図1に示す.
図1 実験風景 視距離 1710mm
顎台により頭部固定 3Dディスプレイ
偏光メガネ
2 評価指標として, 主観評価と客観評価を行った. 主観 評価手法として, AHP(Analytic Hierarchy Process)
を用いた. AHP では, 意思決定に至る思考プロセスを 階層化し, 評価基準の重要度を加味した上で, 階層ご とに評価値を求めることができる[1]. 評価基準として,
「興味・面白さ」「わかりやすさ」「自然さ」「存在感」「臨場 感」の 5 つを予備実験などから抽出し, これらの総合点 から「立体感の好ましさ」を評価した. また客観評価手法 として, EMR-9(ナックイメージテクノロジー社)を用いて 視線計測を行い, 停留点の座標や軌跡などを分析した.
3. 結果と考察
AHP の総合結果では(図 2), 有効な処理効果が見 られなかったため, それぞれの結果を使用カットごと及 び参加者の評価基準に対する重要度の付け方や視線 計測の結果ごとに分類した. その結果, 参加者の属性
によっては処理効果が有効に働く結果も見られた. 一例 と して, 評価基準の中で「わかりやすさ」が一定以上重 要であると評価した参加者の結果を集計した. 集計の結 果, 刺激に用いた Cut06 について, ゆらぎ処理を付加 した条件は付加しない条件に比べ評点が 5%水準で有 意に高くなった. その結果を図3に示す.
また, 視線計測では, 各処理効果ともに条件間の視 線移動の仕方に特徴的な差異が見られる参加者が数例 ずつ見られた.
4. まとめ
本研究では, 色彩情報が乏しく画質の劣化した映像 資産である「坪内逍遥 最終講義」を3D化し, 「セグメン テーション効果」という観点から新たな表現手法の提案・
評価を行った.
研究の結果, 3D 映像の立体感を演出する表現手法 をいくつか提案し, 視聴者の属性による表現手法の有 効性の違いや重要視される評価基準, また立体感の好 ましさと視覚特性変化の関係について, いくらかの知見 を得ることができた. 今後の課題として, 更なる新しい表 現手法の提案や, 今回提案した表現手法の改善が望ま れる. AHP の結果などから, 自然さや臨場感など立体 感の好ましさに関して重要とされる要因が明確になった ため, これらの要因を改善した処理を行い評価していく 必要がある.
参考文献
[1] SAATY, Thomas L. What is the analytic hierarchy process?, Springer Berlin Heidelberg, 1988.
p<.01
p<.01 p<.01
図2 AHP総合(上からノイズ, ぼかし, ゆらぎ)
図3 わかりやすさ重視の参加者(ゆらぎ, Cut06)
p<.05