厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)
「歯科衛生士及び歯科技工士の復職支援等の推進に関する研究」
(H28-医療-一般-005)
分担研究報告書
医療施設静態調査を用いた歯科診療所に就業する歯科衛生士および歯科技工士の 市区町村別分布等に関する研究
研究分担者 大島 克郎(日本歯科大学東京短期大学 教授)
研究代表者 安藤 雄一(国立保健医療科学院 統括研究官)
研究要旨
本研究では、医療施設静態調査を用いて、歯科診療所における歯科衛生士や歯科技工士を 中心とした歯科医療従事者数の推移を把握するとともに、市区町村別にみた地域分布につ いて分析を行った。
1975~2014 年における1歯科診療所あたりの歯科衛生士数・歯科技工士数の推移につい
て、近年では歯科衛生士は増加傾向を示しており、歯科技工士は減少傾向を示していた。
2014年における市区町村ごとの人口10万対歯科衛生士数・歯科技工士数別にみた市区町 村数について、歯科衛生士では51-60人の市区町村が最も多く、歯科技工士では1-10人の 市区町村が最も多かった。また、市区町村別にみた人口10万対歯科衛生士数・歯科技工士 数の分布については、歯科衛生士では中四国地方や九州地方で多く、歯科技工士では東北地 方、北陸地方、中四国地方、九州地方において多い傾向にあることが認められた。
歯科衛生士と歯科技工士の安定供給に関する方策等を検討するために、各地域における歯 科診療所の従事者の状況を把握することは不可欠であり、今回得られたデータを基礎資料 として、今後より詳密な需給分析を行っていく必要がある。
A.研究目的
歯科衛生士および歯科技工士の安定供給に関する方策等の検討を進めていくうえで、各地域に おける歯科診療所の従事者の状況を把握することは重要であり、これを知る資料として医療施設 静態調査1)がある。医療施設静態調査は全国すべての歯科診療所等を対象として、施設の設備状 況や従事者数等を把握するものであり、3年ごとの10月1日時点での状況を調査している。衛生 行政報告例においても、歯科衛生士と歯科技工士の就業状況が報告されているが、この調査では、
都道府県等が就業場所・年齢階級別にとりまとめて厚生労働省に調査票を提出する方法を用いて いることから、国が保有し公表しているデータは都道府県別での状況のみであり、市区町村別等 の詳細な情報までは得られない2)。
これまでの研究として、2010年度厚生労働科学研究の報告3)(研究代表者:安藤雄一)におい
て、歯科診療所に勤務する歯科衛生士等の市区町村別での分布を把握するため、2008年医療施設 静態調査を用いて評価を行っている。この報告からは、歯科衛生士数には地域差が認められるこ と等の結果が得られている。
そこで今回の研究では、1975~2014年の医療施設静態調査を用いて、歯科診療所における歯科 衛生士や歯科技工士を中心とした歯科医療従事者数の推移を把握するとともに、2014年医療施設 静態調査の調査票情報から市区町村別にみた地域分布を分析することにより、各職種の安定供給 方策を検討するうえでの基礎資料を得ることを目的とした。
B.研究方法
1.分析に用いる資料
歯科衛生士、歯科技工士、歯科医師および歯科業務補助者(以下、「歯科医療従事者」とする。) の推移を把握するため、1975年から2014年までの医療施設静態調査1)の公表データを収集した。
また、市区町村別での歯科医療従事者の分布等を把握するため、統計法第32条の規定に基づく 目的外利用申請によって得られた2014年医療施設静態調査の調査票情報4)を使用した。併せて、
各市区町村での人口 10万人あたりの従事者数を算出するため、人口データとして、2014 年の市 区町村別住民基本台帳年齢階級別人口を用いた5)。
2.分析方法
1975~2014年医療施設静態調査から、歯科診療所数と歯科医療従事者数の推移と、1歯科診療
所あたりの歯科医療従事者数の推移を分析した。この際に、職種により常勤・非常勤の区分があ る場合には和を算出して当該従事者数とした。なお、医療施設静態調査は、調査年により常勤と 非常勤とを区分したり、常勤換算を用いたりしているなど、従事者数の算出方法が異なっており、
時系列データとしては必ずしも正確な数値を示したものとは言えない。しかし、今回の研究では、
2014年医療施設静態調査から市区町村別での歯科衛生士・歯科技工士の地理的分布をみることを 主眼としており、参考として各職種の推移の把握を行った。この調査年による従事者数の算出方 法の差異や留意点として、具体的には次の点が挙げられる。(1)歯科医師に関して、非常勤数につ いては、1984年までは実人員を示していたが、1987年からは常勤換算により算出されている。(2) 歯科衛生士と歯科技工士に関して、1999年までは常勤・非常勤の区分はなく実人員で示していた が、2002年から常勤換算により算出することになり、2011年からは常勤・非常勤が区分され、常 勤数については実人員を、非常勤数については常勤換算により算出されている。(3)歯科業務補助 者に関しては、1999年までは実人員を示していたが、2002年から常勤換算により算出されている。
(4)すべての職種において、2011年は宮城県の石巻医療圏、気仙沼医療圏および福島県の全域を除
いた数値となっている。
次に、市区町村別での歯科衛生士・歯科技工士等の地域分布を把握するため、2014年医療施設 静態調査の調査票情報から、市区町村別での歯科医療従事者数の統計表を作成した。この際に、
歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士については、常勤数と常勤換算をした非常勤数との和を算出 し、歯科業務補助者は常勤換算をした数値を用いた。人口データを用いて市区町村ごとの人口10
万人あたりの従業者数を算出したのちに、従事者数別にみた市区町村数や地域分布等について分 析を行った。地域分布の分析は市区町村別の地図として示し、色分けは五分位にて行った。本研 究での分析には、Stata 14 6,7)を使用し、地図作成についてはMANDARA 8)を用いて作図を行った。
なお、今回の研究では、政令指定都市に設置される区(行政区)についても分別したうえで、
市区町村別の歯科医療従事者数の状況を示している。このため、2014 年10月1 日時点での全国 の市区町村数は、1,741市区町村(政令指定都市:20市、それ以外の市区町村:1,721)であるが、
本研究での市区町村数は各行政区を含めていることから計1,896市区町村となっている。
(倫理的配慮)
本研究の一部では、統計法第32条の規定に基づく目的外利用申請によって得られた調査票情報 を使用していることから、この分析にあたっては、申請書に記載した利用場所、利用環境、保管 場所および管理方法に十分留意した。
C.研究結果
1.歯科診療所に勤務する歯科医療従事者の経年変化
歯科診療所数および歯科診療所に勤務する歯科医療従事者の推移を図1に示す。歯科診療所数 が経年的に増加している中で、歯科医師数と歯科衛生士数については増加傾向を示している一方 で、歯科技工士は1987年から、歯科業務補助者は1996年をピークとして減少傾向を示していた。
また、1歯科診療所あたりの歯科医療従事者数の推移を図 2に示す。近年の傾向として、歯科 衛生士は増加傾向を、歯科技工士は減少傾向にあることが認められた。なお、歯科医師は横ばい 傾向に、歯科業務補助者は減少傾向にあった。
図1 歯科診療所数と歯科診療所に勤務する歯科医療従事者数の推移
(1975~2014年医療施設静態調査〔公表値〕)
図2 1歯科診療所あたりの歯科医療従事者数の推移
(1975~2014年医療施設静態調査〔公表値〕)
2.人口10万対歯科衛生士数・歯科技工士数別にみた市区町村数の分布
各市区町村における人口10万対歯科衛生士数・歯科技工士数別にみた市区町村数を図3と図4 にそれぞれ示す。人口10万対歯科衛生士では、51-60人の市区町村が最も多く、また、人口10万 対歯科技工士では、1-10人の市区町村が最も多かった。
参考データとして、人口10万対歯科医師数別にみた市区町村数を図5に、人口10万対歯科業 務補助者数別にみた市区町村数を図6に示す。
なお、本研究では 2014 年医療施設静態調査の調査票情報を用いて、市区町村別の歯科衛生士 数・歯科技工士数等に関する統計表を作成しており、本研究班において作成するWebサイトにお いても閲覧可能となっている。
図3 人口10万対歯科衛生士数別にみた市区町村数 図4 人口10万対歯科技工士数別にみた市区町村数
図5 人口10万対歯科医師数別にみた市区町村数 図6 人口10万対歯科業務補助者数別にみた市区町村数
※ 図3~6については、医療施設静態調査(目的外利用申請により得られた調査票情報)および人口推計の データを使用した。
3.市区町村別にみた人口10万対歯科衛生士数・歯科技工士数等の分布
市区町村別にみた人口10万対歯科衛生士数・歯科技工士数の分布を地図として示した結果を図 7と図8にそれぞれ示す。人口10万対歯科衛生士数では、北海道や東北地方等の東日本では少な く、中四国地方や九州地方等の西日本で多い傾向にあることが認められた。また、人口10万対歯 科技工士では、東北地方、北陸地方、中四国地方、九州地方で多く、北海道、関東地方、東海地 方、近畿地方では前者に比べると少ない傾向にあることが認められた。
なお、参考データとして、市区町村別にみた人口10万対歯科医師数と歯科業務補助者数の分布 を図9と図10にそれぞれ示す。
図7 市区町村別にみた人口10万対歯科衛生士数の分布 図8 市区町村別にみた人口10万対歯科技工士数の分布
0 400km
(人) 86.6 66.7 50.5 29.0
0 400km
(人) 13.1 7.5 3.7 0.0
図9 市区町村別にみた人口10万対歯科医師数の分布 図10 市区町村別にみた人口10万対歯科業務補助者数の分布
※ 図7~10については、医療施設静態調査(目的外利用申請により得られた調査票情報)および人口推計の データを使用した。
4.市区町村別にみた人口10万対歯科衛生士数・歯科技工士数等の関係
表1に、市区町村別における人口10万人あたりの各歯科医療従事者数と歯科診療所数での相関 関係を示す。とりわけ歯科衛生士数に関しては、歯科診療所数(r=0.666)や歯科医師数(r=0.726)
と正の相関があることが認められた。
表1 市町村別での人口10万対歯科医療従事者数と歯科診療所数との相関関係
※Pearsonの相関係数はすべてp<0.001
D.考察
本研究では、1975~2014年の医療施設静態調査を用いて、歯科診療所に就業する歯科衛生士や 歯科技工士等の推移を確認するとともに、2014年医療施設静態調査の調査票情報から市区町村別
0 400km
(人) 75.4 61.7 51.4 38.7
0 400km
(人) 70.7 54.8 41.6 24.5
歯科診療所数 歯科医師数 歯科衛生士数 歯科技工士数 歯科業務補助者数 歯科診療所数
歯科医師数 0.877
歯科衛生士数 0.666 0.726
歯科技工士数 0.273 0.313 0.403
歯科業務補助者数 0.514 0.504 0.264 0.108
にみた地域分布の分析を行った。その結果、1975~2014年における1歯科診療所あたりの歯科衛 生士数・歯科技工士数の推移について、近年では歯科衛生士は増加傾向を示しており、歯科技工 士は減少傾向を示していた。また、市区町村別にみた人口10万対歯科衛生士数・歯科技工士数の 分布については、歯科衛生士では中四国地方や九州地方において多く、歯科技工士では東北地方、
北陸地方、中四国地方、九州地方で多いなど、いずれも一定の傾向が認められた。
歯科衛生士の市区町村別での分布に関して、2010年度厚生労働科学研究3)では2008 年医療施 設静態調査を用いて分析しており、この結果によれば、歯科衛生士は東日本に比し西日本の方が 多く、いわゆる西高東低の状態にあることを示している。その一方で、歯科助手(本稿では、「歯 科業務補助者」と表記している。)については、東日本で多く従事している傾向にあり、すなわち、
東日本では歯科衛生士が少ないため、それを補うために歯科助手が多くなり、西日本では歯科衛 生士が多いので歯科助手が少ない傾向になる可能性を示唆している。この地域分布の傾向は今回 の研究においても変わらず、歯科衛生士は西日本で多く、歯科業務補助者は東日本で多い傾向に あった。この状況を踏まえると、近年指摘されている慢性的な歯科衛生士不足は東日本において 多く生じると考えられるが、この実態はまだ不明瞭な点が多い。本報告書の分担研究報告9)にお いて、不足している歯科衛生士数は約45,000人と推計しており、今後さらに調査・分析等を加え ていく必要がある。
他方で、歯科技工士に関しては、近年では歯科診療所への従事者は減少傾向にあり、これは衛 生行政報告例においても同様の結果を示している 2)。同調査によれば、近年の就業歯科技工士数 がほぼ横ばい傾向にある中で、病院・診療所に就業する歯科技工士数は減少傾向にあり、歯科技 工所に就業する歯科技工士数は漸増傾向にある。今回の研究においても、地域分布の傾向はみら れたものの、全体的に従事者数そのものが少なく、地域間の大きな差は見受けられなかった。実 際に、全国の歯科診療所の約9割が国内の歯科技工所に全部または一部委託をしている状況1)に あることからも、今後、歯科診療所に就業する歯科技工士の減少傾向はさらに進むことが考えら れる。
今回の研究により、市区町村別での歯科診療所における歯科衛生士と歯科技工士の地域分布を 示した資料を得られたが、各職種の安定供給に関する方策等を検討するために、今後さらなる需 給分析を行っていく予定である。
E.結論
本研究では、医療施設静態調査を用いて、歯科診療所における歯科衛生士や歯科技工士を中心 とした歯科医療従事者数の推移を把握するとともに、市区町村別にみた地域分布について分析し た。その結果、1975~2014年における1歯科診療所あたりの歯科衛生士数・歯科技工士数の推移 について、近年では歯科衛生士は増加傾向を示しており、歯科技工士は減少傾向を示していた。
また、市区町村別にみた人口10万対歯科衛生士数・歯科技工士数の分布については、歯科衛生士 では中四国地方や九州地方で多く、歯科技工士では東北地方、北陸地方、中四国地方、九州地方 において多い傾向にあることが認められた。
F.健康危険情報
(総括研究報告書において記載)
G.研究発表 なし
H.知的財産権の出願・登録状況 1.特許取得
なし
2.実用新案登録 なし
3.その他 なし
I.参考文献
1) 厚生労働省:医療施設調査,http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/79-1.html(2016年12月5 日アクセス)
2) 厚生労働省:衛生行政報告例,http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/36-19.html(2016年12 月5日アクセス)
3) 古田美智子,青山 旬,大内章嗣,安藤雄一:医療施設静態調査からみた歯科衛生士数,歯科 助手数等の地域別分布,平成22年度厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究 事業)分担研究報告書,2011年5月.
4) 厚生労働省:2014年医療施設静態調査(統計法第32条に基づく届出により得た調査票情報),
(2017年2月取得)
5) 総務省:住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数,http://www.soumu.go.jp/menu_n ews/s-news/01gyosei02_02000062.html(2017年1月10日アクセス)
6) Stata:http://www.stata.com/(2017年3月20日アクセス)
7) 統計解析ソフト Stata(Light Stone 社),http://www.lightstone.co.jp/stata/index.html
(2017年3月20日アクセス)
8) 谷謙二:地理情報分析支援システムMANDARA、http://ktgis.net/mandara/(2017年3月20日 アクセス)
9) 小原由紀,安藤雄一:歯科診療所における歯科衛生士不足の現状に関する研究,平成28年度 厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)分担研究報告書,2017年5月.