1960
年代のミニ開発住宅地に関する研究-埼玉県川口市S地区の住宅について-
日大生産工(院) ○松村 朋 日大生産工(院) 黒川 詠子 日大生産工(院) 武田 有紀 日大生産工 曽根 陽子
1 研究の背景と目的
東京都心から15~40㎞圏には、敷地面積が100
㎡に満たない小規模戸建持家の住宅地が多く見 られる。これらは1950~60年代にかけて、都市 の周辺に大量に建設された建売住宅地で「ミニ 開発」と呼ばれる。
「ミニ開発」は一般的に1,000㎡未満の土地
(開発規模)を100㎡未満の宅地(敷地規模)に 分割し、二項道路によって開発された分譲戸建 住宅地と定義される。「ミニ開発」は安価な戸 建持家を求める勤労者向けに供給されたが、開 発当時からその密集・狭小性により将来市場性 が著しく低下し荒廃するのではないかと懸念さ れ、社会問題とされてきた。
本報告では,首都圏の典型的なミニ開発地域 である埼玉県川口市S地区の内、最も建蔽率およ び人口密度の高い場所を研究対象地区に選定 し、ミニ開発住宅地の現状、更新状況を明確に する。
2 研究対象地区の概要
研究対象地区は最寄り駅より徒歩約15分(約 1.2㎞)、最寄り駅から東京駅までの所要時間が 35分程の場所に位置し、交通の便の良いところ だと言える。
図1 調査対象地区の町並み
この地区は第一種住居地域(建蔽率60%、容積 率200%)で、高度地区や防火・準防火地区には 指定されていない。
図2 調査対象地区
1967年に区画整理区域に決定されたが現在に いたるまで事業認可はされていない。地震時に 火災の可能性があり、重点的に改善すべき密集 市街地に指定されている。面積は約8.7ha。2003 年の住戸密度は約102戸/haである。
3 研究の方法と内容 3-1.住宅地図
航空写真(1966、1970、1975、1980、1985、1990 年) とゼンリン社・住宅地図(1970~2003年)の うち30年分を使用して研究対象地区の開発の過 程を調査した。
3-2.アンケート
研究対象地区内の各住戸に町会を通じ、アン ケートを配布、回収した。アンケートには前居 住地、入居年、入居当時の状況、増改築、今後 の希望など、該当するものに関しては○印をつ けるという形式で行い、延べ床面積、家族構成 は記述式で行った。S地区の全住戸、1660件に配 布を行い、704件から回収した。そのうち調査対 象地区の住戸804件からは335件回収した。
回収率:335件/804件(約41.7%)
回答率:313件/804件(約38.9%)
Research on the mini-development residential section of the 1960s
-
About the residence in the Kawaguchi-shi, Saitama S area
-Tomo MATSUMURA, Eiko KUROKAWA, Yuki TAKEDA and Yoko SONE
-20% -15% -10% -5% 0% 5% 10% 15% 20%
0~4歳 10~14 20~24 30~34 40~44 50~54 60~64
20.0
% 18.0
% 16.0
% 14.0
% 12.0
% 10.0
% -8.0%
-6.0%
-4.0%
-2.0%
0.0%
2.0%
4.0%
6.0%
8.0%
10.0%
12.0%
14.0%
16.0%
18.0%
20.0%
2000年 1985年
852 857 867 897 904 888
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
1973 1978 1983 1988 1993 1998
総件数 アキヤ
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000
1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 2000 2003
人口
世帯
4 調査結果および検討 4-1.住宅地図による検討
図3 調査対象地区の総戸数
住宅地図から研究対象地区内の総棟数(図 3)を調べた。1965年と1966年は航空写真から 総棟数を数えた。1年間(1966年)で現在戸数の 約65.5%(580棟)が開発され、5年後(1970年)に は現在戸数の約85.6%(758棟)の住戸が確認で きた。このことは、極めて短期間に開発が行 われていたことを裏付けている。
図4 S地区の人口・世帯数
図4に示すように川口市統計資料によれば 1979年の住居表示整備後、S地区の人口は1991 年までほぼ変化なく、それ以降1000人弱の人 口の減少が見られる。一方、世帯数は1979年 から多少増加している。このことは世帯規模 の縮小を意味している。
図5 1985年・2000年のS地区5歳階級別人口比
国勢調査報告より1985年と2000年の人口構 成を比較する。1985年は45-49歳と15-29歳を ピークにした構成になっており、1965年の開 発当時20-24歳の夫婦が入居し0歳児または入 居してから子供が生まれたと考えられる。人 口構成上の変化は見られず、65歳以上の人口 が増えていることから、S地区の高齢化が示さ れる。
図6 研究対象地区の総棟数に対する空き家の割合
1973年から1998年まで5年ごとに空き家率を 調べた。空き家は住宅地図の中から世帯主の書 かれていないものとした。調査対象地区では空 き家率がそれぞれ5%未満である。
国勢調査の全国空き家率は9.2~12.5%であ り、全国に比べて空き家率は低い。住宅地図か らは空き家が隣家により離れのように使用され たり、増改築のための敷地として使われている ことが読み取れる。高密なミニ開発地では空き 家が更新のために多く使われていることが分か る。
図7 更新パターン1、2、3
30年分の住宅地図より対象地区内で85棟の更 新が見られた。これは敷地規模が150~200㎡の 建売住宅地に比べて1/3以下である。更新パター ンとしては数棟分の敷地に1棟の住宅を新築・増 築するパターンが一番多く約82% (70軒/85棟)を しめる。(図7 更新パターン1)
その中で数棟分の空き家が取り壊され新築さ れるパターンが約41% (35棟/85棟)、隣が空き家 になった際に、増築・新築するパターンが約38%
(32棟/85棟)である。隣家が空いたときに購入し 数年後に増築を行うことが多く見られる。
隣地に空地・駐車場があり、それらを利用し て増築・新築するパターン(図7 更新パターン 2)は全体の約12%(10棟/85棟)である。
背中合わせの土地を購入し増築するパターン (図7更新パターン3)も5%(4棟/85棟)見られた が①、②のほうが数は多い。
全体の更新の中で、隣に住んでいる住民が増 築・新築する割合は約46%(39棟/85棟)で、残 りの約54%(46棟/85棟)は増築前の所有者以外 が入居している。
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900
1965 197
0 197
5
1980 19 85 199
0
1995 2000
0 20 40 60 80 100 120 140
195019 56196219
68197419 8019
8619 9219
9820 04
地区内
浦和・蕨・川口市内 関東圏内
24 その他
0 - 250 220
- 230 200
- 210 180
- 190 160
- 17 0 140
- 15 0 120 -
130 100
- 110 80 -
90 60 -
70 40 - 50 20 - 30 0 -
10 40
30
20
10
0 22
5 2 7 9 6 9 12 27
15 26 35
21 36
18
2 2
2000 - 2005 1995
- 2000 1990
- 1995 1985 -
1990 1980
- 1985 1975
- 1980 1970
- 1975 1965 -
1970 1960
- 1965 1955
- 1960 1950 -
1955 1945
- 1950 70 60 50 40 30 20
10 0
38 35
19 20 25 29 30 58
35
4-2.アンケートによる検討 1)住宅について
図8 入居時の状況と入居年数
図8より入居時の状況を見ると、「新築の建 売住宅を購入した」世帯が多く、約34%(103 件/304件)を占める。これは「宅地を購入後、
住宅を新築した」世帯約13%(39件/304件)の 2.7倍にあたり建売住宅の多い地区であると いえる。
中古住宅を購入後、建替えを行なった世帯 は約17%(52件/304件)、中古住宅を購入した 世帯は15%(47件/304件)。建替えの有無にか かわらず中古住宅を購入した世帯は約32%(99 件/304件)にあたり、中古住宅の取引が活発 に行なわれてことが分かる。
借家は近年多くなっているが、10%程度(31 件/304件)である。
図9 建物の延べ床面積
地区内にある建物の延べ床面積は100㎡未満 が約76%(182件/239件)を占める。特に40~
50㎡、60~70㎡の狭小な建物が多いといえる 2)居住者動向について
入居当時 現在 図10 入居当時・現在の家族人数と構成
図10を見ると、入居当時は家族人数4人が多か ったが、現在は約38%(108件/284件)の世帯が2 人で住んでいる。
家族構成を見てみると、入居当時は約半分
(117件/240件)が核家族だったが、現在は約1/3 程度(93件/284件)になっている。一世帯家族
(夫婦のみ)や単身者が増えていることから世 帯規模が縮小しているといえる。
図11 研究対象地区に入居した年
1965年に研究対象地区に入居した世帯が多 く、開発後、すぐに転居し住み続けている。近 年、入居してくる人も多く、市場性が著しく低 下しているとはいえない。
図12 以前住んでいた地域
図12より1960年代は関東圏内から移転してき た世帯が多かったことが分かる。特に東京から 移転してきた世帯が多かったようだ。近年は関 東圏内から移転してくる世帯は少なく、開発当 時の短期間に都市から流入してきたといえる。
地区内に住んでいた世帯が開発当時よりほぼ 一定量で増加し続け、現在は約43%(131件/307 件)を占めている。1995年以降若干転居してく る世帯数が増えている。1995年は開発より35年 がたっており、開発当時住宅を購入した人が建 替えを行ったり、子世代が同地区内に住宅を購 入した、相続が行われた、などいろいろな要因 が考えられる。
0 20 40 60 80 100 120
19501960196319661969 1972 197 5197
81981198419871991 1994 199 7200
02003 新築建売 宅地購入後 中古住宅 中古建替 相続 親類借りている 借家 その他
7 6 5 4 3 2 1 100
80 60 40
20 0
21 77 64 60
16
8 7 6 5 4 3 2 1 120
100
80 60
40 20
0 7
17 62 56 108
32
その他 46/19%
夫婦+子3 15/6%
夫婦+子2 61/26% 夫婦+子
41/17%
夫婦 57/24%
単身者
20/8% その他
72/25%
夫婦+子3,
8/3%
夫婦+子2 40/14% 夫婦+子
45/ 16%
単身者 34/ 12%
夫婦 85/30%
12 18
16
3 18 18
6 11
18
3
0 1
14
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
玄関 居間 台所 食堂 風呂場 トイレ 洗面所 寝室 子供室 客間 書斎 庭 その他
26 22
39
10 57
41
19
9 9 7
1 1
14
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60
玄関 居間 台所 食堂 風呂場 トイレ 洗面所 寝室 子供室 客間 書斎 庭 その他 145.0 / 59.9%
97.0 / 40.1%
改築していない
改築した
168.0 / 69.1%
75.0 / 30.9%
増築していない 増築した
4 11 4
21
6 15 12 23
2 2
20 6
1 1
17 2 3
2
2 1
9 5
7
6 11 34
10 13
3 6
10 22
3
7 5
14
5 6
7 4
0 10 20 30 40 50 60 70
子供の成長 高齢化 二世帯 内外装 狭い 老朽化 間取り 設備 仕事 その他
未記入 建替え 増築 改築
3)住宅更新について
増築 改築 図12 増改築の割合
図13 増築箇所
増築した世帯は約31%(75件/243件)と少な い。増築箇所としては水廻りの他、子供部屋 が多い。図5より開発当時は夫婦2人きり、も しくは0歳児と入居したことから子供の成長 にあわせて、増改築したことが想像できる。
図14 改築箇所
改築した世帯は約40%(97件/242件)と増築 に比べて多い。改築箇所としては、風呂場、
トイレ、台所といった水廻りが目立つ。風呂 場を改築した世帯は、改築をした世帯の約59%
(57件/97件)にあたり、極めて多い。
図15 増改築理由
図15より増築理由として子供の成長や、狭さ があげられる。
改築理由としては「内外装の汚れが気にな る」、「設備を良くする為」が多い。「開発当 時は風呂がついていなく、新設した。」「薪、
石炭、ガス、電気と湯沸しの方法が変わってい った。」といった住民の声より、開発当時の住 宅の状況や時代によって設備の改築が行なわれ たようだ。
5 今後について
研究対象地区の多くが20~50年経過し、老朽 化と住宅更新・新開発が平行進行している。
今回、住宅地図上から、住宅更新を3タイプに 分類した。またアンケートにより、各住戸の基 本的データや住宅更新方法、理由、居住者の動 向などを得た。
以上のデータをもとに、住宅更新の各タイプ が地区に与える影響を調べ、今後はミニ開発住 宅地のより良い更新の仕方を研究する。
「参考文献」
1)森本信明・勝又済・松本暢子・藤家寛・前田享宏「暮 らし・住まい―大都市の戸建住宅に住む」 日本統計 協会,2001.10
2)森本信明:「建売住宅」「ミニ開発」「ミニ戸建」
―「零細」宅地上に供給される戸建住宅をめぐって, 都市住宅学46号2004 SUMMER,pp3-9
3)勝又済:高度経済成長期に形成された郊外ミニ開発 住宅地の現状と課題,都市住宅学46号 2004 ,pp24-
29
4)上山肇:協同建て替え・地区計画によるミニ開発住 宅への対応 東京都江戸川区一之江駅周辺地域を事 例に, 都市住宅学46号2004,pp30-33
5)天野博:「再建築不可」物件の商品性と市場性―低 廉住宅問題の一視点―, 都市住宅学46号 2004,pp49
-54
6)高木恒一:新しい地域社会としての郊外と住民活動 の可能性, 都市住宅学46号2004 ,pp55-59
7)勝又済:ミニ開発住宅地の持続可能性―高度経済成 長期に形成された郊外ミニ開発住宅地は今どうなっ ているか,すまいろん2004年春号,pp28-31 8)川口市町丁字別人口世帯数の推移, 川口市企画財 政部総合政策課,平成16年3月
9)ゼンリンの住宅地図, 株式会社ゼンリン(旧日本住 宅地図出版株式会社),1970-2003