キャリアデザイン構築プロセスの探索的研究
学籍番号 12022041
宮崎陽平
指導教員
立木茂雄
目次
はじめに …3
1 定義
1.1 キャリアデザインとは …3-4 1.2 大卒離職率3年3割 …4 2 分析の枠組み
2.1 目的 …4-5
2.2 調査対象と調査方法 …5 2.3 調査内容 …5-6
2.4 モデル化の試み …6-9 3 各ケースの結果とモデル化
3.1 Aくん …9-13 3.2 Bくん …13-17 3.3 Cくん …17-23 3.4 Dくん …23-29 3.5 Eさん …29-36 3.6 Fさん …36-44
3.7 self reflection …45-49 4 全体の結果と考察
4.1 現実自己と現実状況の相互作用による理想自己の推移 …49-52 4.2 理想自己の変化の要因 …52-54
4.3 大卒離職率との因果関係 …54 おわりに …54
注・文献
はじめに
私は,就職活動を苦労したけれども,就職活動をやってよかったと思えることが多くあ る.それは,様々な視点から自分というものを見るための助力になったこと,社会という ものに触れ合うきっかけになったこと,成果達成の行動特性であるコンピテンシーの増長,
自己受容などがあげられる.つまり,私は就職活動によって様々なことで良い点を感じて いた.しかし,既に就職し,企業で働いている友人にあったとき,その友人は会社を辞め ると言った.苦労して就職したにも関わらずおよそ半年で辞めると言ったのである.それ は,自分のしたいことがあることが他にあるからだと彼は言う.この企業では自分のなり たい自分にはなれないと言う.しかし,それは未然には防げなかったのだろうか.入社す るまでにできることがあるのではないだろうかと私は感じた.
昨今,キャリアデザインという言葉がよく聞かれるようになった.また,あちらこちら でキャリアデザインスクール,はたまた,キャリアデザイン学科というものまでが存在す るようになった.逆に考えれば,それは働く人のキャリアデザインというものの行い方に 疑問を呈するものであると私は思う.
そして,私自身,友人の言動から学生時代の就職活動期におけるキャリアデザインがう まく行われていないのではないかということを疑問に思った.そして,不適切なキャリア デザインが,昨今問題になっている若者,とりわけ大卒の離職率 3 年 3 割という問題の一 因をかっているのではないかという考えに至った.つまり,私は,就職活動期のキャリア デザインを研究することによって,その問題の糸口をつかめると考えた.
1 定義
1.1 キャリアデザインとは
キャリアデザインとは,「個人の現在から将来のキャリア生活において,満足感,納得感 を高めるために,現実と自己概念の統合を図り,自分なりのシナリオに落としていく作業」
(古野 1999: 6)である.この概念を初めて導入したのは,D.E.スーパー(1957)であ り,彼は自己概念が青年期に明確化するとし,それは現実吟味を通して興味,価値,能力 が統合されつつ職業的意味への翻訳がなされるとした.また,足立(1990)は,自己概念 が職業的用語に翻訳して得られるものを,「職業的自己概念」として,この「職業的自己概
念」を実際に実現していくことが「職業的自己実現」であり,つまり,「今の自分=現実の 自己がなりたい自分(=理想自己)=理想の自己になること」であると定義した.
しかしながら,このように理想自己が個人の価値と方向性を示すものであったとしても,
現実の職業経験を持たない学生が抱く理想自己はまだ漠然としていて,現実から遊離した ものである可能性が高いと梅村・金井(2004)は考えた.つまり,「こうなりたい」という 姿を,そのまま単純に職業に結びつけるのではなく,「学生時における理想自己が,今の自 分(=現実自己1))とあなたが実際におかれていた社会状況,例えば経済状況や雇用情勢
(=現実状況2))という 2 つのギャップの認知,対処,統合で明確化されるとした.
1.2 大卒離職率 3 年 3 割
昨今,大学を卒業して 3 年以内に離職をする人が 3 割いるということが問題視されてい る.中でも,第二新卒と呼ばれる 20 から 24 歳の人々は 22.36%が自発的に離職している ということがわかっている(阿部 2005).つまり,半数以上の大卒者は自発的に離職する ことがわかる.その問題の原因として,ひとつに労働力の高学歴化が挙げられる.採用側 の企業の本音として,本来は高卒者で間に合っていた職務に対して,大学進学率の上昇か ら,高卒で優秀な人が採用しにくくなったがゆえに,やむを得ず大卒を採用しているとい う指摘がなされている.その結果として,データは古くなるが,総合研究開発機構の調査 によれば,1965 年から 1975 年にかけて増加した大学卒業生 332 万人のうち,約 3 分の1 は,経済成長に伴う大卒向け職務の増大によって吸収されたが,残りの約 3 分の 2 は以前 は高卒ないしは中卒向けであった職務で吸収されたことがあきらかになっており(笹島 2002),仕事のやりがいの面での不満から仕事を辞めていく人が多いことが示唆されている.
2 分析の枠組み
2.1 目的
これまで,大学生の就職活動については多くの研究がなされてきた.梅村・金井(2004)
は理想自己と現実自己及び現実状況のギャップの認知,対処,統合によって,理想自己が 明確化されるとした.また,学生は就職活動を通して自己受容度,コンピテンスともに大 きな伸び率が認められた(岡村・玉野・山中・三嶋 1998)り,ありのままの自分を出せる ように変化する(=アイデンティティの統合)(高村和代 1995)ことから,学生は就職活
動により,現実自己と現実状況を理想自己と照らし合わせ,統合させようとそれぞれ変化 させているといえる.
しかし,これらの研究では就職活動におけるポジティブな面は見えても,ネガティブな 面は見えないと考える.私は就職活動のあり方を把握するためにネガティブな面も考察す ることが必要であると考える.内定を取るための就職活動をすることにより,自分の理想 をねじ曲げたり,社会を絶対的なものとして捉え,自分を卑下するようになったりするの ではないだろうか.
また,就職活動を終わってすぐは,達成感や個人の事情などにより,理想自己について 考えることは少ないが,時間が経つにつれ,また就職してからのギャップにより理想自己 と現実自己及び現実状況の統合について再検討されると思われる.
そこで,梅村・金井の研究に付け加えて,現実自己と現実状況のギャップの認知,対処,
統合を検討することにより,理想自己と現実自己と現実状況の 3 つのバランス,もしくは その 3 つ以外の理想自己に与える要因について考察する.そして,理想自己がどのように 推移していくのかを検討し,その裏側にある要因を考察することにより,キャリアデザイ ンのあり方と大卒者の入社 3 年以内の離職との関係を明らかにしたい.
2.2 調査対象と調査方法
調査対象として,立木ゼミ受講者の就職活動を始めようとしている 3 年生,就職活動を 終了した 4 年生,社会人からそれぞれ男性 2 人ずつ選んだ.性差を避けるために調査対象 を男性のみに限った.また,昨今仕事の在り方が多様化しているが,この研究では仕事を want ではなく must と考えるものに限定した.調査方法は 1 対 1 の半構造化面接を行い,
面接の所要時間は平均 30 分であった.
2.3 調査内容
調査内容は,以下のとおりである.①就職活動初期に理想自己(「こんな仕事がしたい」
「仕事においてこういう風になりたい」)を持っていた(持っている)か.持っていた(持 っている)としたら,それはどういったものだった(どういうものである)か.②現実自 己(「今の自分(本当の自分)」について吟味した(吟味している)か.③現実状況(「あな たが実際におかれていた社会状況,例えば経済状況や雇用情勢」)について吟味した(吟味 している)か.④理想自己が明確化した(している)か.⑤就職活動において理想自己を
実現するに当たって,現実自己との間でギャップを感じた(感じている)か.感じた(感 じている)時には,どのように対処した(対処しようとしている)か.現在はどうか.⑥ 就職活動において理想自己を実現するに当たって,現実状況との間でギャップを感じた(感 じている)か.感じた(感じている)時にどのように対処した(対処しようとしている)
か.現在はどうか.⑦就職活動において現実自己と現実状況にギャップを感じたか.ギャ ップを感じたとき,どのように対処したか.現在はどうか.⑧理想自己を実現するために,
現実自己と現実状況のどちらかを優先したか.優先したとしたら,どちらを優先したか.
⑨理想自己の実現にあたり,現実自己と現実状況以外に影響を与えたものがあるか.それ は何か.
2.4 モデル化の試み
私はこの研究で用いるモデルを図 1 のように作成した.それぞれに調査項目をあてはめ,
それらをモデル化することによって,キャリアデザインプロセスを可視できる形に表す.
そうすることにより,私はキャリアデザインプロセスの特徴がより見えてくると考える.
また,キャリアデザインのプロセスに伴って理想自己がどのように変化するのかが,より わかると思われる.そして,理想自己が個人の最終的な目標になるので,理想自己が現実 自己と現実状況からどのように影響を受けているのかを考察することにより,キャリアデ ザインの傾向がわかると考える.
そのように,調査対象をそれぞれケースごとに個別にモデル化し,検討することにより,
キャリアデザインプロセスの特徴がより浮き彫りになると考える.
図 1 キャリアデザイン構築プロセスモデル
この図に見方について以下 9 つの項目について説明をしておく.まず,図 1 中の①のは 調査項目①の就職活動初期に理想自己(「こんな仕事がしたい」「仕事においてこういう風 になりたい」)を持っていた(持っている)か.持っていた(持っている)としたら,それ
④ 明 確 化 さ れ た 理 想 自己
② 現 実 自己
③ 現 実 状況
①就職活動初期の理想自己
将来
内定
就 職 活 動初期
時 間 軸
⑨ そ の 他 の要因
⑤ ⑥
⑦
⑤ ⑥
はどういったものだった(どういうものである)かという調査内容に対応する.次に、図 1 中の②は調査項目②の現実自己(「今の自分(本当の自分)」)について吟味した(吟味し ている)かという調査内容に対応し,その大きさは理想自己に与える相対的な吟味の度合 いを表す.第 3 に,図 1 中の③は調査項目③の現実状況(「あなたが実際におかれていた社 会状況,例えば経済状況や雇用情勢」)について吟味した(吟味している)かという調査内 容に対応し,その大きさは理想自己に与える相対的な吟味の度合いを表す.第 4 に,図 1 中の④は調査項目④の理想自己が明確化した(している)かという調査内容に対応する.
第 5 に,図 1 中の⑤は調査項目⑤の就職活動において理想自己を実現するに当たって,現 実自己との間でギャップを感じた(感じている)か.感じた(感じている)時には,どの ように対処した(対処しようとしている)か.現在はどうかという調査内容に対応し,そ の太さは相対的な影響力の大きさを表し,矢印の方向は優先する方向を表す.また, は すでに起こったこと及び実行したことを表し, はまだ起こっていないこと及び実行し ていないことを表す.第 6 に,図 1 中の⑥は調査内容⑥の就職活動において理想自己を実 現するに当たって,現実状況との間でギャップを感じた(感じている)か.感じた(感じ ている)時にどのように対処した(対処しようとしている)か.現在はどうかという調査 内容に対応し,その太さは相対的な影響力の大きさを表し,矢印の方向は優先する方向を 表す.また, はすでに起こったこと及び実行したことを表し, はまだ起こってい ないこと及び実行していないことを表す.第 7 に,図 1 中の⑦は調査項目⑦の就職活動に おいて現実自己と現実状況にギャップを感じたか.ギャップを感じたとき,どのように対 処したか.現在はどうかという調査内容に対応し,その太さは相対的な影響力の大きさを 表し,矢印の方向は優先する方向を表す.また, はすでに起こったこと及び実行した ことを表し, はまだ起こっていないこと及び実行していないことを表す.第 8 に,図 1 中の⑨は調査項目⑨の理想自己の実現にあたり,現実自己と現実状況以外に影響を与え たものがあるか.それは何かという調査内容に対応し,その太さは相対的な影響力の大き さを表す.第 9 に,時間の流れは図 1 中の①就職活動初期から④の明確化された理想自己 に向かって推移しており,真ん中より①の就職活動初期の方が就職活動期,真ん中より④ の明確化された理想自己の方が内定後及び将来を表す.
これらを要約すると,理想自己は,時間軸のある一点を抽出したときに,現実自己と現 実状況,そしてその他の要因によって定められるものである.このモデルにおいては時間 軸を縦にとり,ブロック矢印はキャリアデザインのプロセスを表す.矢印は二つの概念間
のどちらを優先するのかを表し,太さは影響力を表す.つまり,どちらが目的となってい るかを表すものであり,矢印が向かっている方が目的である.例えば,現実自己から理想 自己に太い矢印が向かっているような場合は,理想自己が現実自己に優先し,その影響力 が強いということになる.現実自己及び現実状況の大きさに関しては,どれだけ吟味され ているかによって大きさが定められる.例えば,現実自己が大きく現実状況が小さければ,
現実自己はよく吟味されているが,現実状況はあまり吟味されていないということになる.
このようにしてできたモデルは就職活動を始めたときの理想自己が,現段階における将 来こうなりたいと描いている理想自己になるプロセスにおいて,現実自己と現実状況の影 響をどのように受けているかを表している.
3 各ケースの結果とモデル化
3.1 A くん
A くんは真面目で堅実そうな印象を受ける大学 3 年生である.話し好きというよりかは 聞き上手といったタイプの A くんはこれから就職活動を行う予定である.
(1) 就職活動初期の理想自己
A くんは調査内容①の就職活動初期の理想自己について以下のように語った.
文字を通じて何か主張することとか好きやし,あとは,薬とか,物流とか.物を運 んだりすることが好きなんですよ.物の移動とか.あとは,本を出したいってのもあ りますし.
業種で言ったら,新聞,マスコミ.
A くんの理想自己はまだ現実状況の干渉は受けていないが,文字を通じて主張すること が好きという現実自己からマスコミに行きたいという志向があることがわかった.これは,
現実自己の影響を強く受け,理想自己が出来ているといえる.
(2) 現実自己の吟味
調査内容②の現実自己の吟味について A くんは以下のように語る.
やりがいと貢献ですかね.正直僕は,そんなにお金はいらないんですよ.あの,仕 事に何を求めるかつって,ま,一千万二千万,一億とか,全然いらないし.ま,安い のは困りますけど.別に高くなくてもいいんで,やっててやりがいのある仕事がした いです.
A くんの現実自己は理想自己と密接に関連している印象を受けた.だが,金額の単位に 現実味がなく,現実状況の吟味が行われていないといえる.
(3) 現実状況の吟味
調査内容③の現実状況の吟味について A くんは以下のように語る.
内定をもらえる人と,もらえない人の差は広がってきてて,で,もらえる人は 5 個 も 6 個ももらえるけど,もらえない人はせいぜい 1 つか 2 つくらい.全然もらえない 人も中にはいるって聞いて,バブルの時は学歴だけで,誰でもいいから取ったってい う時代があったけども,今はそうじゃないっていうふうに聞いて,やっぱりそれなり の対策とか必要だろうと思うし.
A くんは現実状況について漠然と知識はあるが,吟味はまだ行っていないといえる.し かしながら,現実状況を吟味しなければならないという姿勢は伺えた.
(4) 理想自己と現実自己のギャップ
調査内容⑤の就職活動期の理想自己と現実自己とのギャップの認知と対処について A く んは以下のように語る.
いやもう,ほんとたくさんあるんですけど,やっぱり世間知らずやなあっていうの がまず最初に思い浮かぶことで,世の中のことをもっと知らないといけないなって.
知識面でもそうですし,礼儀とか,その,付き合いとか,そういうのをまったく知ら ない状態で.そういうのはもっと勉強していかないといけないと思うし.仕事の具体
的な技術面とかでも,心配はしてますけど,ま,やっぱりそこですね.
やっぱり勉強するしかないでしょうね.
A くんは理想自己と現実自己とのギャップを知識不足という点で感じていることがわか る.そして,そのギャップを勉強して知識を得ることで対処していこうとしていることが わかった.つまり,理想自己が現実自己に優先していることがわかる.
(5) 理想自己と現実状況のギャップ
調査内容⑥の就職活動期の理想自己と現実状況とのギャップの認知と対処について A く んは以下のように語る.
僕が行きたいところは,第一志望はマスコミなんで,新聞と出版なんで,ものすご い激務やってのを聞いてるんですよ.7 時に起きて,8 時か 9 時には出勤して,仕事が 終わるのが 1 時とか 2 時とかで,もう休憩もほとんどなくて,次から次に猛烈に仕事 をこなしていかないといけないっていうふうに聞くんで,やはりその自分の性格を考 えたときに,すごいギャップはありますよ.あるけど,でも,それを埋めていく努力 は必要やと思うし,完全にそういう違う自分にならなくてもいいとは思うんですけど.
ギャップは感じてるんだけども,そこまで業界に合わせたいって思わないのが本音.
自分勝手な意見なんですよ.
A くんは自分の知っている現実状況の範囲で,理想自己と現実状況のギャップを性格と いう点で感じていた.対処としては,ギャップを感じながらも,自分の理想を尊重し,社 会に合せたくないと思っていることがわかる.現実状況を理想自己に合わせて行こうとす る姿勢が伺える.つまり,理想自己が現実状況に優先することがいえる.
(6) 現実自己と現実状況のギャップ
調査内容⑦の就職活動期の現実自己と現実状況のギャップの認知と対処について A くん は以下のように述べる.
努力さえすれば入れるもんやと.自分の夢は叶えられるというか.大学入るまでは,
勉強さえしてたら,これをやったら正解やってのがあって,勉強して大学に入ったわ けじゃないですか.就職っていうのはたぶんそれがないじゃないですか.こうすれば 正解ってのがなくて,でもまだ自分の中では,勉強をがんばったら新聞しっかり読ん だら入れるような気になってしまってるところがあって.
A くんは現実状況を知ることにより,現実自己の再編が求められている時期にいるとい うことがわかった.つまり,今現実自己と現実状況の吟味の過程にいることが明らかにな った.だが,現段階では現実自己が現実状況に優先していることがわかった.
(7) モデル化
以上のことをモデル化する図 2 のようになる.
図 2 A くんのキャリアデザイン構築プロセスモデル
A くんの理想自己は就職活動初期ということもあり,将来の理想自己は未定であるから,
点線である.現実自己の大きさは(2)で一千万二千万,一億とか,というようにお金の単 位に現実味がなく,あまり吟味されていないので,小さく,現実状況も(3)で見たように
文字を通 じて主張
激務
マスコミ
もらえる一般的な内定の数といったような漠然とした就職活動についての知識があるくら いなので小さい.そして,現実状況に関しては,まだ就職活動を始める前なので,実際に 現実状況に触れていないということから,実を伴っていないので点線である.また,就職 活動初期の理想自己が現実自己により近いのは,(1)で,文字を通じて主張したいからマ スコミとあるように,相対的に見て現実自己の方が現実状況よりも大きく影響しているか らである.現実自己と理想自己間を説明すると,文字を通じて何かを主張したいという現 実自己がマスコミで働きたいという理想自己の形成に相対的に大きな影響を与えているこ とから現実自己と理想自己の矢印は太く,また(4)で見たように,理想自己に現実自己を 合わせていくために勉強しようとしているといったように,理想自己が現実自己に優先す ることから,矢印は理想自己に向かっている.現実状況と理想自己間を説明すると,マス コミは激務という知識はあるが,それは相対的にはあまり理想自己には影響を与えていな いので矢印は細く,(5)でギャップを感じても本音としては業界に合わせたくないという ように,理想自己が現実状況に優先することから矢印は理想自己に向かっている.現実自 己と現実状況間について説明すると,(6)で努力さえすれば企業に入れると思っていると あることから現実自己は現実状況に優先するので,矢印は現実自己に向かうが,まだ行動 を移していないから,点線になる.
3.2 B くん
B くんはマイペースであまり人の干渉を受けない印象を受ける大学 3 年生である.努力 家でやるときはやるといったタイプの B くんはまだ就職活動はやっていないが,これから 行う予定である.
(1) 就職活動初期理想自己
B くんは調査内容①の就職活動初期の理想自己について以下のように語った.
けっこうな稼ぎは欲しい.希望するならばの話.
なーんか,作るのがいいなあ.例えばコンピューターでそれこそ,ソフト作ったり,
とか,そういうのができる人はすごくいいと思う.手に職かんあるし.
B くんの理想自己はまだ吟味は行われておらず,現実状況の干渉はほとんど受けていな い.
(2) 現実自己の吟味
調査内容②の現実自己の吟味について B くんは以下のように語る.
まあ,ことなかれな感じとか.まあ,めんどくささを考えたりとか.ま,結局,快 楽優先主義みたいなとこある.んー.全部の基準が楽しいか否かみたいな.そういう ふうに生きとるね.
B くんは,自己分析は行っておらず,漠然と自分ってこんなものというくらいにしか理 解していないことがわかった.つまり,現実自己をまだ吟味していないといえる.
(3) 現実状況の吟味
調査内容③の現実状況の吟味について B くんは以下のように語る.
就職難やあいう昨今でありますけれども,まあ別に就職できないとはまあ,そやな あ,別にできないと思うこともないし.あんまり社会って関係ないような.そんなに あるとは絶対いいきれんけれども,そんな大きな,5割以上を占めるようなファクタ ーではないと思う.自分の中で.社会状況とか,企業の状況とかはあんまり気にしな いよねー.
B くんは現実状況について漠然と知識はあるが,吟味は行っていないといえる.また,
現実状況はあまり関係ないと感じていることがわかる.
(4) 理想自己と現実自己のギャップ
調査内容⑤の就職活動期の理想自己と現実自己とのギャップの認知と対処について B く んは以下のように語る.
ギャップがないっていったのは多分,もう,保守的な性格もあるから.今とかわらない
感じでずっといきたいわけ.根本は変わらずに,付加的なもんがあがっていければいいと いう考え方やから,その理想と,把握している自分にギャップがないんやと思う.
B くんは理想自己と現実自己との間にギャップを感じていない.それは,現実自己に理 想自己を近づけようとしているからであり,現実自己が理想自己に優先していることがわ かる.
(5) 理想自己と現実状況のギャップ
調査内容⑥の就職活動期の理想自己と現実状況とのギャップの認知と対処について B く んは以下のように語る.
んー,いやあ,どうやろ,そりゃわからへんねえ.それはもう就活前線にも,踏み 込んでないから,判断しようがないね.それは.
そこまでして意固地になって,おれがおれがっていうのもないし.確固たるこうい うのがしたいっていうのもない.ほんまにないっていうわけではないけれども,まあ まあまあまあ,その,その都度多分自分で考えて,そのギャップでどっちがええんや ろかあっていうんを考えたら,多分社会の方を選ぶんやと.
就職活動を始めていない B くんは理想自己と現実状況の間でギャップをまだ感じていな い.だが,もしギャップを感じたならば,現実状況に理想自己を合わせるということがわ かった.つまり,現実状況が理想自己に優先することがわかる.
(6) 現実自己と現実状況のギャップ
調査内容⑦の就職活動期の現実自己と現実状況のギャップの認知と対処について B くん は以下のように述べる.
ギャップっていうのが,まずわからへんわな.
それが具体的に何かはおれはわからんけど.その場合仕事やし,やっぱりお金もら
う仕事っていうんはしんどいもんがあるし,まあまあまあ,楽していきたい人間やか ら,人間やけども,お金は欲しいし,働くということをなめてはいないし,大変なこ とやと思うし,まあ,だから,それはそれとして,生きてくためには,仕事はせない かんから,変わる必要があるなら,変わるね.
就職活動を体験していない B くんにとっては現実状況の吟味が行われていないことから,
ギャップというものはわからないことがわかる.しかし,もし現実自己と現実状況との間 にギャップが感じられたら,現実自己を現実状況に合わせるということがわかった.つま り,現実状況が現実自己に優先するということがわかる.
(7) モデル化
以上のことをモデル化すると図 3 のようになる.
図 3 B くんのキャリアデザイン構築プロセスモデル
B くんの理想自己も A くんと同様に,就職活動初期ということもあり,将来の理想自己 は未定であるから,まだ点線である.現実自己の大きさは(2)で自己分析をしておらず,
漠然と自分はこうであるとあるようにあまり吟味されていないので,小さく,現実状況も
(3)で社会状況や企業の状況はあまり関係ないとあるように同様に吟味されていないので 快楽優先
主義
けっこうな稼ぎ
就職難
小さい.また,現実状況に関しては,まだ就職活動を始める前なので,実際に現実状況に 触れていないということから,実を伴っていないので点線である.また,就職活動初期の 理想自己が現実状況により近いのは,自分を押し通してしんどい思いをするよりも,社会 に合わせる方が楽でいいという考えから,相対的に見て,現実状況の方が現実状況よりも 大きく影響しているといえるからである.現実自己と理想自己間を説明すると,快楽優先 主義という現実自己が結構な稼ぎは欲しいという理想自己の形成に相対的に影響をほとん ど与えていないことから現実自己と理想自己間の矢印は細く,また(4)で見たように,今 の自分を変えたくないといったように,現実自己が理想自己に優先することから,矢印は 現実自己に向かっている.現実状況と理想自己間を説明すると,昨今は就職難だという知 識はあるが,それは相対的にはあまり理想自己には影響を与えていないので矢印は細く,
また,もしギャップを感じたなら社会を選ぶということから,まだ実行には起こしていな いので,点線である.そして,(5)にあるように就職活動を始めてないから判断は出来な いが,もしギャップがあるなら社会を選ぶと答えていることから,現実状況が現理想自己 に優先するので矢印は現実状況に向かっている.現実自己と現実状況間について説明する と,(6)で見たように,生きていくために仕事はしないといけないから,変わる必要があ るなら変わるとあることから,現実状況は現実自己に優先するので,矢印は現実自己に向 かうが,まだ行動を移していないから,点線になる.
3.3 C くん
C くんは穏やかな,人のよさそうな大学 4 年生である.芯の強いタイプで,真面目な印 象を受ける C くんは,最終的に地元のケーブルテレビ局に就職が決まった.
(1) 就職活動初期の理想自己
C くんは調査内容①の就職活動初期の理想自己について以下のように語った.
ひとまずはアナウンサーで,局で,活躍というか,できればと思っておって,でも,
一方で実は,自宅が建築の会社と,お袋がリトミックと音楽教室をしておると.いう ことで,いずれは,うちに帰らなけりゃいけないと,いう思いもあったんよね.で,
どっちかというとそっちの方が強かったから,とりあえずやりたいことをやる.
就職活動初期の C くんにとって,結局は家業を継ぐということから,現実状況を加味す ることなく,理想自己には現実自己のみが大きく関与している.つまり,理想自己にアナ ウンサーという職種をあげているものの,それに具体性はなく,ただそれをやりたいとい う思いが漠然とあるように思われる.
(2) 現実自己の吟味
調査内容②の現実自己の吟味について C くんは以下のように語る.
いろんな人からアドバイスをもらったりもして,大体,今はほぼこれだろうという ような形では,うん,確定できるようになったね.
人と接したい.んで,人にサービスをしたい.人を喜ばせたい.そういう志向はあ るなあと.だから逆にルーティーンで,一人でもくもくとする仕事は嫌だなあと思っ た.
C くんは現実自己を,他人のアドバイスによって明確化した.つまり,他者を通して現 実自己を明確化したといえる.そして,その現実自己が理想自己に与える影響が大きいと うことがわかった.
(3) 現実状況の吟味
調査内容③の現実状況の吟味について C くんは以下のように語る.
アナウンサースクールに通ってた.あと,京都市内のコミュニティーFM でもうかれ これ 1 年半くらい,ニュース読みのボランティアをしてたのね.その他,司会のお仕 事とか.
どんな業種があるか,この業界はどうなっているのかっていうほんまにそのまんま やけど,例えばこんな企業があるんだとか,この企業は業界の中でトップなんだとか,
実はこの業界にあの企業がはいってたんだとか,いうような,ほんとに基本的なこと をわかってなかったから,そこわかったなあというのが結構あった.
C くんは,喋ることが好きということから,アナウンサーの特訓として様々なことをし てきている.しかしながら,現実状況はあまり吟味していない感じを受けた.それは,い ずれ家に帰り,家業を継ぐということがきまっているからであり,前述のとおり,アナウ ンサーはとりあえずやりたいことをやるということが前提にあり,C くんのキャリアデザ インにおいては,現実自己と理想自己が大きな影響を持っているという印象を受けた.
(4) 現在の理想自己
調査内容④の就職活動を終えたあとの理想自己について C くんは以下のように語る.
リトミックやその他音楽などを,主軸に,もちろん付加価値やプラスアルファも考 えながら,活動を広げていけることをやりたいなと.漠然としていたところから,具 体性が出てきたということが,ちょっと変わったところかな.具体的に言うと,一人 前ということ,社会的地位とかそういうものよりも,人とパートナーシップを築きな がら,クリエイティブな仕事をしていくことが理想やね.
就職活動を終えて,理想自己は活動を広げていくことをやりたいということに変化した.
リトミックを広げるということであるが,C くんは卒論でリトミックを研究していること から,その効果,リトミックの現状をわかっている.しかし,キャリアデザインの観点で は,それはあまり社会状況の影響を受けていない.つまり,理想自己は具体化したが,そ れは主に現実自己に影響を受けていると言える.
(5) 理想自己と現実自己のギャップ
調査内容⑤の就職活動期の理想自己と現実自己とのギャップの認知と対処について C く んは以下のように語る.
アナウンサーになりたいという希望の自分が投げかける自己矛盾かなあ.あまりテ レビが好きではないのよ.喋るのが好きってのがむしろテレビはダメなんじゃないっ てのが自分の暗いところから出てきて,それがギャップっていうか,いや,もっと大 きなギャップっていうか.
地元に特化したケーブルテレビっていうところが緩衝材になったのかなと.一般的 な放送局だと,どうも普遍的なニュースを扱う場合が多いけど,ケーブルテレビって いうのはテレビの仕事をするよりも,地元の人のために働いているっていう意味あい が強いから,それが,一番自分の中の納得点.
C くんは就職活動中に理想自己と現実自己の間にギャップを感じていて,それは喋るの が好きからテレビ局アナウンサーを受けているが,テレビはあまり好きではないというこ とであった.そして,そのギャップの対処法としては,内定をもらったところが地元密着 型のケーブルテレビで,やりたいことができることからそのギャップは解消された.つま り,C くんにとって,理想自己が現実自己に優先することが明らかになった.
(6) 理想自己と現実状況のギャップ
調査内容⑥の就職活動期の理想自己と現実状況とのギャップの認知と対処について C く んは以下のように語る.
そこはとくに考えてなかった.いや,なんかもともと,溝はあるもんだろうってい うふうに,多分暗黙に思って部分もあるんやと思うけど,特に意識上,そういうんは 考えんかった.
C くんは理想自己と現実状況とのギャップを意識していなかった.ここからも,現実状 況の吟味があまりなされていないことが伺える.つまり,理想自己が現実状況に優先して いることがわかる.
(7) 現実自己と現実状況のギャップ
調査内容⑦の就職活動期の現実自己と現実状況のギャップの認知と対処について C くん は以下のように述べる.
テレビを見てると,やっぱりこう画面をにぎわすのは,アナウンサーで美男美女だ と.ベクトルがそういうふうに,局がね,てか,放送業界がそういうふうな人材とい
うか,もちろんうまくしゃべれるってことよりも,どうしても見てくれのほうだとか,
そういった芸能人的な,そういう嗜好があるような感じが見えて,そしたらどうして も,自分とは違うなっていうふうに,合わんなっていうのは薄々感じてたね,そう言 えば.
これは,もう開き直ってた.しゃあないやろって思って.それで,いらないんなら きられるやろうし,それでも,自分みたいな人が必要なら,とってくれるだろうって いう.だから,ぼくも対処のしようがないというか,ある意味ね.
C くんは現実自己と現実状況のギャップは感じていた.けれども,そのギャップの対処 は行わず,まずは自分ありきという考え方を持っていた.つまり,現実自己が現実状況に 優先するということが明らかになった.
(8) 理想自己に影響を与えたその他の要因
調査内容⑩の就職活動期に理想自己を実現をするにあたり影響を与えたものについて,C くんは以下のように語る.
常に方向が変わったり,考え方に示唆を与えてくれたものは,他者の助言だったな と,ほんまにそれに尽きるなと.だからそれは親であったり,友人であったり,先輩 であったり,恩師であったり.そういうものが結局今のある自分のところに全て影響 してきてるなって思う.
他者を通して自分の考えが変化し,また統一されたりすることがわかる.つまり,他者 を通して自分の位置付けをすることをできたということがわかる.
(9) モデル化
以上のことをモデル化すると図 4 のようになる.
図 4 C くんのキャリアデザイン構築プロセスモデル
就職活動初期の C くんの理想自己はアナウンサーで,喋ることが好き,サービスをした いという現実自己のみの影響を受けているので,理想自己は現実自己に近づいている.現 実自己の大きさは(2)でいろんな人からアドバイスを受けて自分は大体こうだろうという ことが確定できるようになったとあるように,よく吟味されているので大きいが,現実状 況は(3)で見たように最終的には家業を継ぐという目標があるためか,漠然とした業界の 知識があるくらいなので小さい.現実自己と理想自己間を説明すると,人を喜びが自分の 喜びという志向に強く関連していることから現実自己と理想自己の矢印は太く,また(5)
で見たように,理想自己実現するためにアナウンサースクールに通ったり,ボランティア をしたりといったように,理想自己が現実自己に優先することから,矢印は理想自己に向 かっている.現実状況と理想自己間を説明すると,ずっとアナウンサーを目指し続けてい たことから,まったく理想自己には影響を与えていないことがわかるので,矢印は細く,
(6)で最終的には家業を継ぐということから現実状況の吟味はさほど必要ではなく,ギャ ップは考えたことがないとあることから理想自己が現実状況に優先するので矢印は理想自 己に向かっている.現実自己と現実状況間について説明すると,(7)で見たように,ギャ ップの影響力は大きいが開き直っているので,矢印は現実自己に向かい,太さは太い.
現在の D くんの理想自己は一人前になって,リトミックを広めて人の役に立ちたいとい うことであり,それは親がやっていることで,C くんは卒論でリトミックを研究している
アナウンサー 一人前になって,リト ミックを広めたい
業界・企 業情報 人を喜び
が自分の 喜び
他者の助言.
いすれは家に帰らなけ ればいけない.
ことから,その効果,リトミックの現状をわかっているが,相対的にそれをやりたいとい う現実自己がとても強いために理想自己は現実自己に近づいている.現実自己と理想自己 間を説明すると,内定をもらったために現実状況が影響力を持ち始めたことから,相対的 に現実自己が理想自己に与える影響はほんの少し弱くなったが,まだ強く影響を受けてい るので太く,(5)で実はテレビはそれほど好きではないが地元のために働けるから納得し ているというように,理想自己は現実自己に優先するので,矢印は理想自己に向かう.現 段階の現実状況と理想自己間について説明すると,やりたいことがやれる状況のためにギ ャップはないが,もしギャップがでてきたなら会社を優先することから現実状況を優先す るということがわかるので矢印は現実状況に向かっていて,その矢印は点線である.
理想自己に与える現実自己と現実状況以外の要因としては,(8)で見たように他者の助 言挙げられる.そして,その助言は現実自己のふりかえりとして影響を及ぼしているので,
矢印が現実自己の推移に向かっている.
3.4 D くん
D くんは明るく,活発そうな印象を受ける大学 4 年生である.頭脳派というよりは行動 派といった感じで,誰にでも好かれるタイプの D くんは某証券会社に就職が決まった.
(1) 就職活動初期の理想自己
D くんは調査内容①の就職活動初期の理想自己について以下のように語った.
とにかく一番が金儲けをしたい.
自分が楽しく働けて,なおかつ,金がはいってくればそれでいい.それが,一番の 最終的なものであるけど,具体的にってのは多分ないと思う.
就職活動初期の D くんの理想自己は現実状況とはかけ離れたものであった.現実自己を 具現化したものとして理想自己があるという印象を受けた.
(2) 現実自己の吟味
調査内容②の現実自己の吟味について D くんは以下のように語る.
とにかく自分っていうのは人に対して,あまり興味をもっていないようで,意外に 興味をもっているとか.あとは,なんていうのかな,とにかく考える前に行動するこ とであるとか,あとはなんだろ,やっぱエントリーシートに書いた酒と人脈だね.酒 を通していろんな人と付き合える.
D くんは現実自己を,酒を通して人と接することにより明確化したといえる.つまり,
他者を通して現実自己を明確化したといえる.そして,色んな人と酒を通して接したいと いう気持ちから金と自分の楽しみというものが理想自己としてあるのだというように,現 実自己が理想自己に与える影響が大きいとうことがわかった.
(3) 現実状況の吟味
調査内容③の現実状況の吟味について D くんは以下のように語る.
とりあえず,仕事をしてて楽しいときもあれば,つらいときも絶対ある.けど,つ らいときの方が絶対多い.それを我慢できるやつがいるかどうかって言ったら,今は 少ないってさ.
後半から絶対金融に行こうって思ってたから,金融のことについては聞いて,で,具 体的な情報っていったら,朝の 5 時には起きてて,新聞も全部目通してて,で,今日 の為替取引きだったりとか,その証券取引で行われる始まりの時間はいくらだとかわ ってる.で,あとは,大体仕事おわんの9時 10 時.金融の場合はセキュリティーとか の問題もあるから,10 時以降は会社は閉まるっていう状況.とにかく毎日が勉強.
D くんは現実状況について,金融業界で働く先輩から仕事の大枠については詳しく聞い ていて,知っているようだった.現実吟味は行われることができないが,現実状況は吟味 されていることがわかった.
(4) 現在の理想自己
調査内容④の就職活動を終えたあとの理想自己について D くんは以下のように語る.
営業で一番をとるっていう.
うちの会社ていうのが,会社から課題を出されている.毎月一回.そういうのやっ てって,やっぱり,成績次第でいろいろ決められてしまう.多分今おれらが,出され ている課題っていうのが,今,勤務地に響いてくるわけ.一応勤務地の希望は出した んだけど,多分,課題の成績とかで,決めていくんちゃうかなって.やっぱ,今の時 点から,成果第一主義みたいな話になっているから,だからそういうので,営業で一 番とりたいっていうのも考えてきたのかなってのもある.
就職活動を終えて,D くんの理想自己の大枠は変わっていないが,営業で一番というよ うに具体化された.就職先からの毎月の課題により,理想自己と現実状況を離して考えら れなくなった結果であり,現実状況との関わりにより理想自己の明確化が行われたものだ といえる.
(5) 理想自己と現実自己のギャップ
調査内容⑤の就職活動期の理想自己と現実自己とのギャップの認知と対処について D く んは以下のように語る.
証券マンは毎日勉強しなきゃいけないけど,あんま勉強したくない.でも,なんで 証券マンになったかというと,もし自分が社会に一人でほっぽり出されて,生きてい けるだけの知識を経験値をもっているかっていう意味で,証券マンやったほうがある 程度有利になるんじゃないかなっていうのもあったし,それが証券マンになった一番 の理由かも.
自分の飯かかってるから,自分がこういう風にならなければならないっていうより かは,こういう風にならざるを得ない窮地を作る.そこで,ギャップがあったからっ て折れる気はない.
D くんは就職活動中に理想自己と現実自己の間にギャップを感じていて,それは自分の
理想自己には勉強がつきものだが,勉強が嫌いだということだった.しかし,理想自己に 近づくために勉強が必要なら,それは厭わないという気持ちを持っていることがわかった.
つまり,理想自己は現実自己に優先するといえる.
(6) 理想自己と現実状況のギャップ
調査内容⑥の就職活動期の理想自己と現実状況とのギャップの認知と対処について D く んは以下のように語る.
証券業界っていうと,証券業界に限らず金融業界っていうのは,今年とかの場合は 団塊の世代ってのがどんどん抜けてく年やから,新卒の社員をいっぱいいれてく.例 えばみずほは 1500 人,銀行の場合は 1500 人とったし,うちがいく証券の方も 200 人 くらい.けっこう大量採用してるけど,でも結局金融系で残っていくのが,5割以下 だから,そういうので,ギャップていうか,自分がほんとにがんばっていけるのかな っていう不安は多少はある.
証券業界も苦しいって言われてるけど,なにかしら続けていけるし,楽しいことも あるだろなっていうのがあるからかな.
D くんは就職活動中,理想自己と現実状況とのギャップを採用人数の点で感じていた.
しかし,現実自己を吟味した結果,がんばれるという自信が見うけられた.また,理想自 己を実現するためには避けられないから,がんばらなければならないという気持ちも見え た.つまり,D くんにとって,理想自己は現実状況に優先するということがわかった.
(7) 現実自己と現実状況のギャップ
調査内容⑦の就職活動期の現実自己と現実状況のギャップの認知と対処について D くん は以下のように述べる.
溝っていうか,課題.やりたくない.
課題っていうのもぎりぎりにならないとやんない.やりださないっていうのもある
し,これ働いていったら絶対しばかれるだろうなあって思ってるから,だから最近は ちょっとずつでも,課題をこなしていこうとは思ってる.だんだん自分をそっちの働 くモードっていうほうに切り替えていかないと,やっぱりね,最初の仕事をし始めた ときに絶対つまづくとこだから.そういう自分の生活リズムっていうか習慣は変えて いこうとはおもってる.
就職活動期の現実自己と現実状況のギャップは影響力を持たなかったが,就職活動を終 えて,現実自己と現実状況のギャップは感じるようになった.そこで,D くんは現実自己 を現実状況に合わせていこうとしている姿勢が伺える.ここから,現実状況が実質的な意 味合いを持ち始めると,現実自己は現実状況に合すように近づくということがわかる.つ まり,就職活動が終わり,現実状況が明確になると,現実状況は現実自己に優先すること がわかった.
(8) 理想自己に影響を与えたその他の要因
調査内容⑩の就職活動期に理想自己を実現をするにあたり影響を与えたものについて,D くんは以下のように語る.
それは先輩やな.あのー,おれもういっこ経済のゼミ入ってて,そのおれの一個上 の先輩にみずほ銀行にいっためっちゃ頭いい先輩がいたんやんか.んで,おれその人 と,ま,お門違いだけど,将来的に勝負をしようってことになって.(…中略…)そう いう金融業界で勝負をしようっていうみたいな約束をしたから,自分としても負けた くないっていうのもあったし.そういう目標とする人がいた.
D くんは就職活動でロールモデルを使った理想自己へのアプローチをしていたことが明 らかになった.つまり,目標とする先輩を通して,働く自分像を明確していることがわか る.また,その先輩を通して,理想自己,現実自己を明確していることもわかった.
(9) モデル化
以上のことをモデル化すると図 5 のようになる.
先輩の存在 営業で一番
図 5 D くんのキャリアデザイン構築プロセスモデル
就職活動初期の D くんの理想自己は世界で戦える仕事で,相対的に現実状況よりも現実 自己の影響を強く受けているので,理想自己は現実自己に近づいている.現実自己の大き さは(2)で見たように酒を飲んで他者と関わることにより,自己はよく吟味されているの で,大きく,現実状況も(3)で見たように先輩に金融の仕事についての詳細な情報を得て いるので同様に大きい.現実自己と理想自己間を説明すると,いろんな人と接したいとい う現実自己が世界で戦える仕事という理想自己の形成に強く関連していることから現実自 己と理想自己の矢印は太く,また(5)で見たように,理想自己に現実自己を合わせていく ために勉強しているといったように,理想自己が現実自己に優先することから,矢印は理 想自己に向かっている.現実状況と理想自己間を説明すると,採用人数が多いということ でやっていけるのだろうかという不安はあるが,楽しいこともあるということで自分自身 を納得させていることから,現実状況は相対的にはあまり理想自己には影響を与えていな いので矢印は細く,また理想自己が現実状況に優先することから矢印は理想自己に向かっ ている.現実自己と現実状況間について説明すると,(7)で見たように自己と社会とのギ ャップは感じておらず,まず自分ありきの考えであることから,現実状況は現実自己に優 先するので,矢印は現実状況に向かう.また,課題をやってはいるが,ぎりぎりにならな いとやらないということから矢印は細い.
現在の D くんの理想自己は営業で一番をとることであり,それは現実自己と現実状況か 成果第一 主義 いろんな
人と接し たい
世界で戦える仕事