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デスティネーション・デマーケティングの類型に関する考察

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デスティネーション・デマーケティングの類型に関する考察

〜尾瀬国立公園の事例〜

A study on the destination demarketing of types  A Case of Oze National Park

小原 満春

Mitsuharu OHARA

【要 旨】

 地域社会にとって観光を振興することによるメリットがある反面、デメリットも存在する。自 然環境の破壊、生活環境の悪化、観光資源の損傷および地域社会の変容などである。破壊された 環境を元に戻すことは容易ではない。そのため持続可能な観光、サスティナブルツーリズムの考 えが重要となる。そこで、持続可能な観光を目指しあえて観光客の需要を調整するという、デ・

マーケティングに焦点を当て、その方法を類型化し、事例を通して考察を行った。

【目 次】

  1.デマーケティング 

  2.デスティネーション・デマーケティングの類型

  3.尾瀬による事例

  4.環境保護と観光振興のジレンマ

  5.まとめと考察

1.デマーケティング  1)デマーケティングとは

 マーケティングは主に需要を喚起し売り上 げを伸ばし利益を獲得し、永続的に売れ続け る仕組みを作ることと一般には理解されてい る。しかし、それはマーケティングのある一 面をとらえたものであり、マーケティングに は需要の調整という役目もある。需要の喚起 だけではなく、売れすぎたときの調整という 役目である。それを売らないマーケティング とするなら、一般的な意味でのマーケティン グとのアンチテーゼになるために、コトラー

(1972)は、売らないマーケティングを、デ マーケティングとしている。コトラーによる と、デマーケティングは4つに分けられると している。まず「一般的デマーケティング」

これは、供給量を総需要が上回った場合、需 要を抑制しなければならなくなるため、需要 水準を引き下げる際に用いるとしている。次 に「選択的デマーケティング」これは、特定 の顧客グループの需要を抑制する際に用いら れる方法である。そして「表面的デマーケティ ング」これは本来のデマーケティングの意味 合いとは少し変わり、需要を抑制しようと見

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せかけつつ、実は需要増を図る方法である。

最後に「無意識のデマーケティング」これは 需要を増やそうと努力したが逆に顧客を逃が すことになってしまったというマーケティン グの失敗ともとれるものである。無意識のデ マーケティング以外の3つのデマーケティン グ戦略について、観光地に当てはめるとどの ような状況が考えられるであろうか。コト ラーは観光地のデマーケティングの例として バリ島の事例をあげている。バリ島では収容 力を超える観光客が訪れるようになり、観光 地としての荒廃の危機に瀕するということで、

中間所得者層の観光客誘致を減少させ、高所 得者層へのアピールを強化することにした。

そのためにハイクラスのメディア広告や高所 得者層が好むイメージづくりに精を出したと される事例を出している。それでは観光地の デマーケティングとはどのようなものなのか、

まずは明確にする。

2)デスティネーション・デマーケティング  メーカーやサービス業者が行うデマーケ ティングとして考えられるのは先述した3つ のデマーケティング戦略であるが、これを観 光地のデマーケティングに当てはめた場合、

何を抑制するかを明確しなければならない。

そもそも観光地において、デマーケティング を行わないといけない理由とはなんだろうか。

観光地は観光客が多く訪れるようにマーケ ティングを行っているが、そのアンチテーゼ であるデマーケティングは、すなわち観光客 を減らすということになる。増えすぎた観光 客を減らす理由、それは観光振興の弊害とも 受け取れる。長谷(1996)は観光振興のマイ ナスの影響として「自然環境の破壊、生活環

境の悪化、観光資源の損傷および地域社会の 変容など」としている。観光地にとって受け 入れ可能なキャパシティを超えるほどの観光 客が訪れることにより、観光振興より観光弊 害が大きくなった時がその観光地のキャパシ ティをオーバーしたことになり、その観光地 はデマーケティングを行わないといけなくな るのである。そこで観光地にて抑制するのは、

観光客がその観光地に来ないようにするため、

または増えすぎた観光客が、それ以上増えな いようにするために行う活動を観光地におけ るデマーケティングとして、これを「デスティ ネーション・デマーケティング」と称して、

上記の意味含んだ上で本稿にて用いる。

2.デスティネーション・デマーケティング の類型

 需要過剰で供給を制限しなければならない 状況、観光客数が観光地のキャパシティを超 えた時に、いかに観光客を減らすか、観光客 数を調整するかというのが、デスティネー ション・デマーケティングとするならば、実 際にそのような状況にある観光地は日本全国 にどの程度あるのだろうか。また、実際にど のような形で観光客数の調整を行っているの であろうか。日本各地のデスティネーション・

デマーケティングの事例を概観し類型を試み た。

①入域規制

 観光地に入ることを規制する方法である。

この方法はストレートに観光客数減少に効果 が発揮されるが、厳密には規制という方法を デマーケティングと一色単にすることには問 題もある。すなわちマーケティングとは企業

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自身がコントロールできる要素にて需要喚 起を行うからである。観光地が規制をかける というのは、関係省庁等国との調整が必要で あるため、規制はどちらかというと、マーケ ティングというよりは法的拘束力的な意味合 いが強い。しかし現実には、観光地における デマーケティングの事例として入域規制に関 するものが多い。そのため今回は、デスティ ネーション・デマーケティングの一つとして 類型することにした。また入域規制も大きく 分けると、観光客自身、人間としての入域規 制の他、観光客自身は入域可能だが、乗って いる乗用車の乗り入れを規制するマイカー規 制型、そして、マイカー規制に団体客が利用 する観光バス(タクシーも含む)の乗り入れ も規制する、マイカーおよび観光バス規制型 に分けられる。

a.入域規制型

 観光客数が観光地のキャパシティを大幅に 超えた状態が続く場合など、日時を指定し、

その日時の入域規制が行われる。入域規制は 観光客の流入を蛇口の元栓を止めるようにす るため、効果としてはもっとも高く、また即 効性があるデマーケティングといえる。それ だけに、観光業者からの反発も非常に大きく なる恐れがあるため容易には実行には移せな い。また、テーマパークなどの観光施設は安 全上の問題のもさることながら、観光客を入 れすぎた場合の観光客の不満からブランド力 の低下を懸念するために、あえて入域規制を かける場合もある。また自然保護のために入 域規制をする場合もあるが、そもそも観光客 の需要そのものがない地域の規制などは需要 調整の必要性もないため、そのような地域の

規制は厳密にはデマーケティングといえな い。なぜなら、買い手がいない商品の販売を 規制するようなものであるからである。マー ケティングの需要調整とは厳密には異なるが、

そこまで類型すると、類型自体がより複雑に なるために、今回入域規制はすべて含めるこ とにする。

観光地事例:知床国立公園(北海道) 吉野 熊野国立公園大台ヶ原(奈良県)

b.入域規制セグメント型

 入域規制はもっともわかりやすく効果ので やすいデマーケティングである。そのような 入域規制は基本的に男女や年齢などの区分は しない。そこをマーケティングでいうところ のセグメンテーションの方法により、特定の セグメントの入域を規制しようとするものが この入域規制セグメント型である。もっとも わかりやすい事例として、いわゆる高級ホテ ルなどでは、ある年齢以下の子供の入場を制 限したりする例である。デスティネーション における入域規制セグメント型の例として女 性のみの入域を規制している事例がある。す なわち、性別で入域規制をしているのが、吉 野熊野国立公園内にある大峯山である。しか し、この規制は宗教上の理由からの規制であ るため、デマーケティングの効果を期待して 行っているものではない。しかし似たよう なセグメント型として構想段階ではあるが、

観光客の入域抑制効果を期待した事例がある。

沖縄県にある斎場御嶽(せいふぁーうたき)

は琉球王国最高の聖地とされており観光客に 人気の観光地である。増え続ける観光客によ り施設設備の整備が必要となり、平成19年 から有料化した。一人当たり200円を徴収し

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たが、平成22年頃から始まったパワースポッ トブームより有料化後も観光客が急増。その ため急激に環境が悪化したため、観光客抑制 を行うため、新たな方法として、男子禁制と いう方法を検討している。そもそも琉球王 国の聖地、祈りの場というのは女性のみ入域 が許される場所であり、元来は男子禁制の場 である。しかし観光地化により男女分け隔て なく入場できるようになったのであるが、そ れをまた観光客抑制のために男子禁制にする という構想が持ち上がっている。実施行われ た場合、吉野熊野国立公園とは違い純粋に観 光客抑制効果を期待した性別による初の入域 規制となる。

観光地事例:吉野熊野国立公園 大峯山(奈 良県)

c.マイカー規制型 

 自動車での乗り入れを規制するのがマイ カー規制である。日本においてマイカー規制 は昭和49年に本格的に導入され、現在では 多数の地域で月別、週別、曜日別、時間別な ど様々期間で規制が行われている。マイカー 規制は自動車の乗り入れにて発生する問題を 軽減するために行われるものである。マイ カーによる問題は地域住民の住環境の悪化や 排気ガスによる環境汚染、駐車場不足、渋滞 などである。マイカー規制は自動車での乗り 入れが、その観光地を訪れる主要な移動手段 の場合効果的である。

観光地事例:上高地(長野県)白川郷(岐阜 県)富士山(静岡県)

d.マイカーおよび観光バス規制型

 マイカー規制型では主に個人観光客のみ対

象の規制となるが、観光バスも同時に規制す るのがマイカーおよび観光バス規制型であ る。観光バスを利用して訪れる観光客は社員 旅行などの団体か旅行会社やバス会社主催の ツアー客であり、いわゆるどちらも団体旅行 といわれる観光客である。するとマイカーと 観光バスを規制するというのは、個人旅行と 団体旅行のどちらも規制を行うということに なる。デマーケティングとしての効果は高く、

入場規制のように蛇口の元栓を閉めるまでは いかないにしても、元栓をかなりの部分閉め るということになる。そのためこの方法につ いても観光客が大幅に減少することが考えら れるため、この規制を実施するとなると、観 光関連業者からの反発も大きくなる。

観光地事例:上高地(長野県)尾瀬(福島県)

②有料化

 観光地への入域や入山、または通行料を徴 収することによりデマーケティングを行う方 法である。平成22年に行われた、高速道路 無料化実験では、無料化し交通量が急増した が、実験が終了し有料になると元の水準に 戻っているところが多い。社会実験から無料 化は交通量増加に大きな効果があったことが 証明された。これを観光地に当てはめると、

もともとは入場が無料であった観光地を有料 化するというのはデマーケティングとして効 果的であるということが言える。またその効 果も入域金額の設定により調整できる。その 観光地にとって高額だと観光客が知覚する金 額に設定すれば、観光客は入域しなくなるが、

観光客にとって低額だと知覚した場合はデ マーケティングとしての効果もほとんどなく

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なる。そのため金額設定次第で需要調整が行 いやすいと考えられる。想定以上の効果が出 すぎるなどの事態を避けるためにも、金額の 設定には細心の注意が必要である。

a.入域料徴収型

 当初は無料だった観光地が、観光客の増加 によりデマーケティングが必要になった際に、

環境保全などを目的に入場料や入山料を徴収 または、環境保全税など課税することで観光 客増加を抑制する効果を狙ったものである。

知床国立公園では、入場規制とともに、入場 する際には指定のガイドツアーを申し込みし なければならず、その金額がおよそ一人当た り4,500円〜 5,000円となっている。知床の 事例では入場規制と入場料の徴収の2つによ りデマーケティングの効果は高いと考えられ る。富士山でも世界遺産に登録後に入山者が 急増したため、環境が悪化。そこで任意で富 士山保全協力金として1,000円の入山料を徴 収している。しかし、1,000円という比較的 観光客が負担しやすい金額と、任意という強 制力のない入山料であるために、デマーケ ティングとしての効果は限定的だと考えられ る。

観光地事例:知床国立公園(北海道)富士山

(静岡県・山梨県)竹田城跡(兵 庫県)他

b.パークアンドライド

 都市部や観光地の乗用車による渋滞や混雑 を緩和するために、混雑する都市部や観光地 へ向かう途中で乗用車を駐車場に停め、鉄道 やバスやタクシーなど乗り換え目的地に向か う方法である。観光地においては、マイカー

規制と連絡バスのセットで行われることが多 い。鎌倉市においてはマイカー規制等は行っ ていないが、約2000円の料金を支払うと、4

〜 6時間の駐車代金および江ノ島電鉄の1日 フリーパス乗車券が2枚付いてくる仕組みで ある。鎌倉市の事例においても、マイカー規 制と連絡バスのセットにせよ、自動車で直接 目的地へ向かうよりも駐車料金がかかる上、

人数が多ければ多いほど、乗り換えるバス代 も人数分かかる計算になる。すなわち、観光 客にとって自動車で直接目的地へ向かう場合 と比べ、パークアンドライドは余計に料金を 支払うことになる。愛知県のパークアンドラ イド社会実験の調査によると、自動車所有者 がパークアンドライドをしない理由として、

「移動するには車が便利」が43.5%「駐車料 金が高い」という理由が約13.9%となってい 。和歌山県の調査でも愛知県と同様の 結果になっているため、パークアンドライド は「面倒くさい」や「お金がかかる」という イメージがあるため、観光地にとってはパー クアンドライドを実施するだけで、デマーケ ティングの効果があると考えられる。

観光地事例:鎌倉市(神奈川県)京都市(京 都府)

c.ロードプライシング

 構想段階であるのが、域内に乗り入れる 際に課金するロードプライシングである。人 気の観光地であり住宅地である鎌倉では、観 光客と住民との間に種々の問題が発生してい る。観光客による生活道路へ進入、歩行環境 の低下、交通渋滞による緊急車両の到着の遅 れなど住環境が悪化している。交通渋滞の緩 和のため自動車による観光客を抑制する効果

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狙ったのがロードプライシングである。鎌倉 と同様に交通渋滞の解消、観光地としての質 の向上を目指し京都においても検討されてい る。

観光地事例:鎌倉市(神奈川県) 京都市(京 都府)いずれも検討段階。

③交通機関抑制型

 陸路で比較的容易にいける観光地の場合に は、マイカー規制や観光バス規制などを行え ばよいが、陸路では訪れることが不可能な島 嶼などは、航空機や船に頼らざるを得ない。

例えば、小笠原諸島は世界遺産に登録され、

観光客が増加した。観光客増加による自然環 境の悪化や外来種の持ち込みによる動植物へ の影響を抑えるために、東京と小笠原村を結 ぶ定期船の定員を30%減少させ、観光客の 抑制を行った。小笠原諸島への交通機関は基 本的に定期船のみになるので、定期船の定員 減はストレートに観光客減に繋がる。そのた めデマーケティングとしては大きな効果があ ると考えられる。定員減以外にも、交通機関 の便数を減らしたり、交通機関の運賃を値上 げするのも、観光客の抑制に効果的である。

観光地事例:小笠原諸島

④販売抑制型

 観光客に対してのメッセージを抑制または 取りやめる。すなわちマーケティングでい う販売 ʻ促進ʼ ではなく販売 ʻ抑制ʼ である。

具体的にはテレビやラジオ、新聞などの広告 の抑制または取りやめ、観光担当者による観 光地の売り込みの抑制、取りやめ、キャンペー ンなどの縮小など、観光客へのメッセージを 極端に抑制するか取りやめることにより、観

光地を想起させないようにするか、認知率を 意図的に下げて来訪を妨げようとするもので ある。また、この方法は観光客のセグメント を変える場合でも有効である。たとえば、中 所得者から富裕層へターゲットを変更するな ど、中所得者へのメッセージを減らし、富裕 層へのメッセージを増やすことより、中所得 者層へはデマーケティングとなる。販売抑制 の事例として兵庫県にある神池寺では、紅葉 の名所として人気の観光地であったが、寺へ の経路が狭い山道で渋滞が頻発。事故を懸念 した寺側は市の観光協会から脱退。インター ネットなどによるPRを自粛し観光客抑制を 図っている。

観光地事例:神池寺(兵庫県)

⑤インセンティブ型

 観光客になんらかのインセンティブを与え、

観光行動に変化を起こさせ、全体の需要を調 整しようというものである。

 これまでのように、強制的に入場規制をし たり、料金を徴収するなど、観光客に不利な 条件を与え、観光行動を変化させようとする ものではなく、インセンティブにより行動に 変化を与えようとするものであるから、観光 客自身も不快な印象を持つことが少ないと考 えられ、よりマーケティング的な発想といえ る。しかし、インセンティブ自体が観光客に とって魅力的ではなかったりすると効果的な 需要調整ができず、逆にそのインセンティブ の魅力を上げるためにコストがかかりすぎる 場合も効果的な方法とはいえない。

観光地事例:尾瀬国立公園(群馬県)

 以上、日本国内のデスティネーション・デ

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マーケティングを事例とともに類型化を試み た。その結果、マーケティングの4Pである Product(製品)Place(流通)Price(価格)

Promotion(販売促進))というフレームワー クで考えると、表1のようになる。今回の調 査によりデスティネーション・デマーケティ ングの類型として大きく、①入場規制、②有 料化、③交通機関抑制、④販売抑制、インセ ンティブの5つに分類できた。その中で、最 も古くから行われているデスティネーショ ン・デマーケティングであるマイカー規制を 中心に、尾瀬を事例に取り上げ、その成り立 ちと効果について概観する。

3.尾瀬による事例 1)尾瀬の概要

 尾瀬は、福島県南会津郡檜枝岐村、新潟県 魚沼市湯之谷地区、群馬県片品村の3県にま たがる高地にある盆地状の高原であり、中心 の尾瀬ヶ原は只見川の源流となっている湿原 である。平成19年日光国立公園から尾瀬地 域を分離、会津駒ヶ岳等を編入し単独で尾瀬 国立公園となった。本州最大の高層湿原であ

る尾瀬ヶ原と高山湖の尾瀬沼を中心とした一 大原生地帯であり、貴重な動植物が生息す ることから、「高山植物の宝庫」と表現され、

我が国を代表するような自然を有した地域で ある。そのような原生の自然を有した地域で ありながら、地理的に関東から近いこともあ り、観光客が多く訪れる観光地となっている。

そのため自然保護の重要性が早くから意識さ れていたため、自然保護の原点としても知ら れている。

2)尾瀬のデマーケティングの必要性  尾瀬は、昭和31年に国指定天然記念物と なり、尾瀬ブームが起こった。日本の高度経 済成長の波に乗り、全国各地で道路開発が始 まると、尾瀬の周辺も道路開発が行われた。

昭和41年大清水から尾瀬湖畔を通る沼田街 道を車道として利用するために拡幅工事が始 まった。昭和46年環境庁が発足。当時の環 境庁長官大石武一が尾瀬を視察し直後に建設 が中止された。そして、そこから尾瀬の自然 環境保護にむけた活動が本格的に始まる。昭 和49年からマイカー規制が始まり、平成元 出所:長谷(1996)を参考に筆者作成

表1:デスティネーション・デマーケティングの類型

マーケティング4P デスティネーション マーケティング4P

デスティネーション デマーケティング類型 Product

(製品)

文化 環境 自然 Place

(流通)

交通アクセス 立地 ①入域規制

②有料化

③交通機関抑制

⑤インセンティブ Price

(価格)

移動費 滞在費 活動費 ②有料化

⑤インセンティブ Promotion

(販売促進)

広告 パブリシティ セールスマン

④販売抑制

⑤インセンティブ

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出所:財団法人尾瀬保護財団(2013)『平成24年度版 尾瀬保護レポート』

表2:尾瀬の歴史(道路開発と規制関係のみ)

尾瀬の歴史(道路開発と規制関係のみ)

年月 記事

昭和31年 1957年 8月 国指定天然記念物となり、尾瀬ブームが起こる。

昭和35年 1960年 9月 七入〜御池線道路着工 9月 奥鬼怒スーパー林道一部着工 昭和38年 1963年 戸倉〜鳩待峠間の車道開通

9月 七入〜御池線完工。御池までバス運行開始

昭和39年 1964年 新潟・福島・群馬3県の建設促進会議で、特別保護区特別天然記念物 地区に車道を通すことを3県連合で要求することを求める。

昭和40年 1965年 7月 御池〜尾瀬沼(沼山峠)線着工。

10月 金精有料道路8.2km(片品村〜日光湯元)開通。

昭和41年 1966年 大清水から奥の道路拡幅工事開始。

昭和45年 1970年 5月 御池〜沼山峠の車道(9.6km)が開通。

奥鬼怒スーパー林道着工

昭和46年 1971年

5月 一ノ瀬〜岩清水間の車道工事開始。

7月 環境庁発足。

7月 平野長靖氏、大石環境庁長官に大清水から尾瀬沼湖畔を通り沼山峠 を通る県道建設中止を直訴。

8月 大石環境庁長官、尾瀬視察、中止または路線変更の意向表明。

8月 神田群馬県知事「工事中止と路線変更を検討」竹片品尊重「規定コ ース通りの建設促進」陳情。

8月 大清水から尾瀬沼湖畔を通り沼山峠を通る県道の現ルートでの車道 建設断念。

8月 尾瀬の自然を守る会発足。

昭和47年 1972年 6月 銀山湖〜沼山峠間、尾瀬只見観光ルートとして開通。

12月 湯之谷村〜桧枝岐村村道開通

昭和49年 1974年 6月 環境庁「自動車利用適正化要綱」打ち出す。尾瀬で交通規制が始まる。

(マイカー規制の始まり)

平成元年 1989年 7月 環境庁、国立公園の一部(尾瀬湿原)有料化構想を発表。

平成2年 1990年 1月 環境庁、入山料構想を断念。

平成8年 1996年 尾瀬の入山者が1988年の計測開始から最高の647,523人になった。

平成10年 1998年 6月 尾瀬入山適正化検討委員会沼山峠マイカー通年規制、観光バス規制、

鳩待峠での観光バス規制の具体案を発表。

平成11年 1999年

御池〜沼山峠マイカー対年規制始まり、観光バス・タクシー規制が 始まる(69日)

津奈木〜鳩待峠マイカー規制が121日と過去最高の日数になる。

平成12年 2000年 御池〜沼山峠観光バス・タクシー規制日数を前年より大幅に緩和(45 日)。

平成17年 2005年 11月 ラムサール条約湿地に登録

尾瀬の入山者が317,500人で過去最低を記録。

平成19年 2007年 御池〜沼山峠観光バス・タクシー通年規制始まる。

8月 尾瀬国立公園誕生。

平成20年 2008年 尾瀬入山者数が381,700人で5年ぶりに380,000人を超える。

平成23年 2011年

3月 東北地方太平洋沖地震発生

入山者数が281,300人となり、過去最低を記録。また初の300,000人 を下回る。

平成25年 2013年 入山者数が344,000人となり、震災前の入山者数に戻る。

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年には環境庁より山小屋などの下水処理、植 生、回復などを実施するために入山料の徴収 を想定した保全対策案を打ち出した。日本の 国立公園では始めての試みとなったが、周辺 自治体の反対により平成2年に構想を断念し た。その後も尾瀬の人気はとどまることなく、

平成8年には入山者数647,523人となり過去 最高を記録。この入山者数の増大をきっかけ に、尾瀬保護財団内に、尾瀬の適正利用のあ り方を検討し、理事会や評議委員会に提言す る組織として尾瀬入山適正化委員会が設置さ れた。平成10年に検討委員会の中で、自然 への負荷をこれ以上大きくすることなく、利 用者の満足を充足するように努力するという 基本的な考えのもと、入山総量規制は今後の 検討課題として、入山者の集中を分散を図る ことが適当として具体案を策定した。そこで 特定日の入山抑制を図るために1日1万人を 目安にマイカー規制の強化および観光バスの 規制を始めるように提言。他にも尾瀬ボラン ティアによる平日の自然解説や平日利用キャ ンペーンの実施、混雑カレンダーの作成、配

布など入山の分散と抑制を図るための具体的 な施策が実行された。その結果、同年の入山 者数は455,400人となり、前年の614,300人 より約16万人と大幅に減少した。この減少 により山小屋等の観光関連産業の経営が悪化 したため、翌年平成12年には観光バス・タ クシーの規制日数を大幅に緩和した。しか し、その後も入山者数が大きく増えることな く、平成15年には400,000人を下回り、平成 17年には過去最低の317,500人となった。同 年にはラムサール条約湿地に登録され、再び 認知され始め、平成18年から入山者数は年 を追うごとに微増し、平成19年日光国立公 園より尾瀬地域が独立し、尾瀬国立公園が 誕生。これをきっかけに平成20年には入山 者数が381,700人となり、平成15年以来5年 ぶりに380,000人台にまで入山者数が増加し た。その後、平成23年には東北地方太平洋 沖地震が発生し、入山者数が281,300人と激 減し初の300,000人を下回った。平成25年は 344,200人となり、震災前の入山者数に戻っ ている。

出所:環境省ホームページ

図1:尾瀬国立公園入山口

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3)尾瀬のデスティネーション・デマーケティ ングの実施内容

 尾瀬初のデマーケティングは昭和49年か らのマイカー規制が始まりである。自動車に よる入山者の増大によってもたらされる渋滞 や環境の悪化によるもので、当初の規制日 数は福島県側(沼山峠)と群馬県側(鳩待 峠)合わせて年間10日から20日ほどあった が、昭和63年より53日になり、平成8年の過 去最高の64万人以上の入山者数を記録した 年の規制に数は149日になった。その後、尾 瀬入山適正化委員会が発足し、入山者の抑制 と分散の具体案が示されることになった。そ こで、尾瀬入山適正化委員会が示した具体案 と入山者数の推移を細かく検証することによ り、その効果を概観する。尾瀬入山適正化委 員会による対策の基本的な考えとして「入山 適正化」とは「自然への負荷をこれ以上大き くすることなく将来に向かって着実に軽減化 を図るとともに、合わせて利用者の満足感を 充足するように努力すること」とある。ま た、「入山総量の規制については、今後の課 題として、入山者の集中に着目し、これを緩 和する手段(抑制と分散)を摂ることが適当

」としている。すなわち、尾瀬入山適正化 検討委員会が発足した当時の尾瀬の基本課題 は三点である。

【尾瀬の基本課題】

①オーバーユース

②特定の時期に入山者が集中

③特定の入山口に入山者が集中

 ①のオーバーユースは、むろん平成8年度 に過去最高を記録した64万人以上の入山者 への対応である。入山者の混雑によるゴミや 踏み荒らしによる環境への影響が非常に深刻 になっていたため入山者を抑制する必要が

あったためである。②の特定の時期とは具体 的には5月〜 10月にかけての土日への集中で あり、土日だけの入山者で全体の5割を占め ている。③の特定の入山口とは群馬県側の鳩 待口と福島県側の沼山口である。この2つの 入山口で入山者全体の8割以上がこの入山口 へ集中している。以上のような基本課題につ いて尾瀬入山適正化検討委員会は次のような 対策案を提言している。

【具体的な対策案】

①特定入山抑制1日1万人を目安にこれを

「特定混雑予想日」として交通システム の見直しを図る。

②入山抑制と分散に関する啓発広報

③入山者へのサービス強化〜入山口までの バスの中や尾瀬地区内における自然解説 入山口へのスタッフ(ボランティア)の 配置

 以上の具体案を実行に移すために行った対 策が以下の通りである。

【実際に行われた対策】

①沼山峠でのマイカー通年規制、観光バス 特定混雑日に規制、鳩待峠では、特定混 雑日に観光バスを規制

②混雑カレンダーの作成、配布。マスコミ や出版社への協力要請。尾瀬ガイダンス の実施

③平日利用キャンペーン、尾瀬ボランティ アによる平日の自然解説

①マイカー規制

  昭 和49年 に 全 国 初 の 上 高 地 に 続 き マ イ カー規制を行ったが、平成10年の尾瀬入山 適正化委員会の提言により平成11年にはま ず、御池〜沼山峠間がマイカーの通年規制に なった。そして、同区間は平成19年には観 光バス・タクシーも通年規制となった。駐車 場に関しては大清水口の駐車場が1日500円 であるのに対し、鳩待峠では5倍の2500円と いう設定を行い入山口の分散化を図っている。

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平成18年には大清水〜鳩待峠間に無料バス を運行し、バス利用者に限り駐車場を無料に した。平成19年には新潟県魚沼から入山す るルートが開拓され、奥只見ダムから遊覧船 と予約制バスを乗り継ぎ沼山口に入山する ルートも開拓された。

 ②集中日の分散に関しては、尾瀬ボラン ティアによる平日限定のおはなしボランティ ア(スポット解説)の実施や、平日利用キャ ンペーンを行いホームページ、パンフレット、

ポスターなどで平日利用の広報活動や、旅行 会社、出版社等を対象に開催する「尾瀬ガイ ダンス」においても平日利用促進の依頼を 行っている。

 そして、山小屋等においては平日の宿泊者 割引を実施している。混雑カレンダーの作成、

配布を行い入山予定者に事前に混雑日を知ら せることで、混雑日を回避して入山するよう に啓発している。

4)尾瀬のデスティネーション・デマーケティ ングの検証

 以上のような尾瀬入山適正化検討委員会に よる尾瀬の基本課題の指摘とその対策を講じ てきた結果、入山者数の総数や曜日別の入山

者の割合また、入山口集中の割合がどの程度 変化したのかを、環境省が平成元年より入山 口に設置している赤外線センサーのデータを 下に検証を行う。検証は、最も古いデータで ある平成元年と、最も入山者数が多かった平 成8年、そして直近の平成25年を比較するこ とにした。

5)入山者数と規制日数

 図2を見ると、平成元年の入山者数は約 46万人でありマイカー規制日数は群馬県側

(鳩待峠)24日、福島県側(沼山峠)は30日 である。平成8年度には規制日数が群馬県側 では78日、福島県側では71日となっており、

徐々に規制日数が増加、平成10年では群馬 県側91日、福島県側91日となり、その年の 入山者数が急激に減少し約45万人となった。

その後平成11年では群馬県側の規制日数は 過去最高の121日、福島県側では通年規制と なり、同時に観光バス・タクシーの規制も始 まった。そこから平成17年まで入山者数は 31万人まで減少した。その後平成23年に東 北地方太平洋沖地震が発生し入山者数は約 28万人まで減少した。マイカー規制の日数 自体に変化はなく、福島県側は自動車、バス、

タクシーともに通年規制、群馬県側の規制日 数は平成14年から114日前後で推移しており、

平成25年では116日となっている。

 次に曜日別の入山者についてである。(図 3)平成元年の土日の入山者割合は、土曜日 23.8%日曜日26.7%合計で50.5%と、土日 だけで入山者数の半数が集中している。平 成8年 に は 土 曜 日 に28.5 % 日 曜 日21.6 % 合 計が50.1%と土日の合計はほぼ変わらない が、土日の割合が逆転している。そして、平 出所:『平成24年度版 尾瀬保護レポート』

表3:駐車場料金

駐車場名称 駐車台数 区分 料金 駐車場~入山口 シャトルバス

尾瀬第一 280台 マイカー専用 24時間 1,000円 戸倉~鳩待峠(12km)900円 尾瀬第二 250台 マイカー専用 24時間 1,000円 戸倉~富士見下(3km)390円

鳩待峠 120台

二輪車 1日 500円 入山口

(規制中は駐車禁止)

マイカー 1日 2,500円 マイクロバス 1日 3,500円

大清水 240台

二輪車 無料

入山口 マイカー 1日 500円 バス 1日 1,000円

富士見下 30台 無料 入山口

御池 420台 マイカー 1回 1,000円 入山口

御池~沼山峠(9.6km)500円 バス 1回 2,000円

七入 880台 マイカー 無料 七入~沼山峠(16.5km)700円

バス 無料 ※御池が満車時のみ運行

(12)

成25年では土曜日24.6%日曜日20.0%合計 で44.6%となり、平成元年と比較すると▲

5.9%、平成8年と比較しても▲5.5%となっ ているため、土日分散化対策の効果はあった ものだと考えられる。

 そして最後に、入山口の分散化である。(図 4)平成元年には群馬県側(鳩待口)44.4%

福島県側(沼山口)36.3%合計で80.7%の

出所:『平成24年度版 尾瀬保護レポート』

図4:入山口別入山者数の割合 出所:『平成24年度版 尾瀬保護レポート』

図2:入山者数と規制日数

出所:『平成24年度版 尾瀬保護レポート』

図3:曜日別入山者数の割合

(13)

入山者が鳩待口か沼山口を基点に尾瀬へ入山 している。平成8年は鳩待口53.8%、沼山口 29.8%合計で83.6%となり、平成元年に比 べ平成8年はより一層入山口の集中化か進ん でいる。そして平成25年には鳩待口63.4%、

沼山口19.8%の合計83.2%で平成8年よりも さらに集中化が進んだ結果となった。特に沼 山口はマイカー通年規制の影響で平成8年か ら平成25年には10%以上割合が下がってい るにもかかわらず、鳩待口が10%近く上昇 したため、入山口の集中化、特に鳩待口への 一極集中が深刻に進んでいる状況である。

5)尾瀬のデスティネーション・デマーケティ ングの分析

 以上のように尾瀬におけるデマーケティン グの施策とその結果について概観した。そこ で、今回の尾瀬におけるデマーケティングの 類型とその効果についてまとめてみる。今回 の尾瀬におけるデマーケティングを類型して みると、群馬県側(鳩待峠)は①入域規制a マイカー規制型、福島県側(沼山峠)は①入 域規制cのマイカー・観光バス規制型である。

すなわちこの型は選択的デマーケティングで あり、この場合、鳩待峠では個人旅行である マイカーの入山客のみをデマーケティングの 対象にしているのに対し、沼山峠では個人旅 行であるマイカーとタクシーおよび団体旅行 である観光バスを対象にしている。当然のこ とながらデマーケティングの効果としては、

理論的にcのマイカー・観光バス規制型の効 果が高いわけである。実際、検証においても、

沼山口側は平成8年から平成25年の比較にお いて10%減少しているため、デマーケティ ングの効果が発揮されたといってもよいだろ

う。

 次に鳩待峠の駐車場である。こちらは大清 水口に比べ駐車料金を5倍にすることによる デマーケティングを行っている。こちらも選 択的デマーケティングであり、駐車料金の差 別化により料金が高くても鳩待峠に自動車を 駐車したい入山者に対する選択的デマーケ ティングである。これを類型すると②有料化 bパークアンドライド型である。観光客は 500円で大清水口に駐車し、パークアンドラ イドで鳩待峠へ移動する手段、もしくは、大 清水口から直接入山する手段、または富士見 下口から入山する手段の3つの入山方法があ る。鳩待峠の分散を狙っているわけであるの で、高額な駐車料金によるデマーケティング 効果とパークアンドライドのデマーケティン グ効果により、大清水に駐車しパークアンド ライドで鳩待峠へ移動するのを抑制させる効 果を狙ったものだと考えられる。すなわち、

観光客にとっては大清水口から直接入山する 手段が支払う費用が少なく、パークアンドラ イドもせずに済む。しかし、そのような施策 をとっても平成25年現在鳩待峠への集中は 進んでしまった結果となった。

 最後に曜日分散化では、平日利用キャン ペーン、混雑カレンダーなどは④の販売抑 制で、土日集中の販売を抑制するという効 果を狙ったものであり、同時に平日限定の自 然解説や平日の山小屋の割引などは⑤インセ ンティブに類型される。こちらは平成8年か ら平成25年を比較すると、土日の集中が▲

5.9%になっているため、⑤インセンティブ と④販売抑制の同時に行うことで効果的にデ マーケティングの結果がでたものだと考えら れる。

(14)

 以上のように、今回の尾瀬のケースでは

①入域規制の観光バス・タクシー規制型が 最も効果が高く、次に⑤インセンティブと

④販売抑制の同時実施による効果もデマーケ ティングとしての効果が発揮された。②有料 化bパークアンドライドは今回の事例と今回 の検証方法では効果は確認できなかった。む ろんすべての事例において、この検証方法で は、デマーケティング以外の外的要因(天候、

景気、デスティネーションの流行など)は考 慮に入れていないため、一概に入山者が減少 したり、入山口の分散が進展したのは全てデ マーケティングだけの効果とはいえないのは もちろんである。

4.環境保護と観光振興のジレンマ

 昭和63年尾瀬を守る懇話会より、入山者 規制の一環として入山料(大人二千円、小人 千円)の徴収を環境省に申し入れた。観光客 の増加により入山料を徴収し排水処理費用な どをまかなうという計画であった。そして平 成元年受益者負担の観点から、環境庁が入山 料徴収を検討する。しかし、尾瀬観光で成り 立っている、福島県の桧枝岐村と群馬県の片 品村が、入山料徴収により観光客が減少すれ ば、観光関連産業で成り立っている村は死活 問題になるとして村議会が反対議決。また、

当時の群馬県知事も「入園料を取るのは良く ない。(環境保全に向けた)補助金を出すべ きだ」と反対を表明した。その結果、法的 な問題もあり、平成2年環境庁は入山料徴収 を断念した。

 環境保護と観光振興は常にジレンマをかか えている。観光振興はすなわち、いかに観光 客を呼び寄せて人を多く集めるかが伴である。

しかし、環境保護の観点からすると、今日的 には観光客が多く集まることが環境保護につ ながるとは言いがたい。逆に観光客を少なく する、すなわち人がその観光地に入り込まな いことが最も良い環境保護となるのである。

では、環境保護と観光振興は両立できないも のなのであろうか。決してそんなことはなく、

地元住民と観光関連業者が協力し環境を保護 しながら観光を振興するバランスが重要なの である。

 日本各地で世界遺産に登録を目指す観光地 は数多くあり、実際に世界遺産に登録される 観光地もある。2013年日本を代表する山で ある富士山が世界文化遺産に登録された。し かしながら観光地を取り巻く現状を概観する と次のようなことがよく起こり得る。深見 (2011)は「世界遺産登録は保護が目的であ り、エコツーリズムなどの観光振興が目的で はない。しかし、知名度向上で大なり小なり 観光客の増加が起こる。現実に世界遺産に多 くの観光客が訪れ本来の保護の役割が果たし にくくなっているのは紛れもない事実であ る。」と述べている。尾瀬においても平成17 年にラムサール条約湿地となり、翌年平成 18年から5年ぶりに観光客が増加した。そし て平成19年日光国立公園から尾瀬が分離し、

尾瀬国立公園となった際も、観光関連業者は 観光振興に大きな期待を寄せたのも事実であ る。世の中をにぎわせているのは、地域ブラ ンドやご当地グルメ、近年ではキャラクター マーケティングである、ゆるキャラなどを用 いて地域振興、観光振興に日本各地が取り組 んでいる。しかし観光振興にも前述したとお り弊害がある。永続的に観光発展させ、地域 の産業として根付かせるためには、その弊害

(15)

をいかに減らしつつ、観光客を減らし過ぎず 増やしすぎずうまく需要調整するか。すなわ ち売り方ばかりではなく、「売らないマーケ ティング」であるデマーケティングをうまく するかにかかっている。

5.まとめと考察

 近年日本各地において、観光による町おこ しや地域経済の活性化など、観光がまちづく りの中心となっている地域も数多い。一方 でサスティナブルツーリズム(sustainable  tourism) という考え方も1990年代から重 要課題として取り上げられている。たとえば 優れた観光資源があり、それを目的にやって くる観光客をすべて受け入れ、その受け入れ 人数がその観光資源のキャパシティをオー バーしていては、いずれその観光資源は損耗 し衰退し、魅力がなくなれば、もうそこには 観光客は来なくなってしまう。それでは観光 でのまちづくりという目的からすると本末転 倒である。そのような状況にならないために も、優れた観光資源があり、それを目的に やってくる観光客に対して、デマーケティン グは必ず考えなければならないはずである。

しかしながら、そのような議論はあまりに少 ないと感じる。また本稿ではいわゆる規制を デマーケティングとして扱ったが、規制は本 来の意味でのデマーケティングではない。そ れはマーケティング的発想すなわち、顧客 志向でいかに需要調整をするか、観光地側 がコントロール可能な4Pで需要を調整する かである。たとえばProductである文化や環 境などの観光資源、Placeである交通アクセ ス、Priceである宿泊費や交通費などの価格、

Promotionである観光地の販売促進をコン

トロールして、顧客志向に立ち観光客の需要 調整を図るのが本来のデスティネーション・

デマーケティングだと考える。しかし、本稿 でも取り上げたとおり、需要調整はもっぱら 規制が中心となっている。なぜならば観光地 が観光客を断ることは基本的には規制以外で はできない。規制という方法はどうしても強 制力があるため観光客の不満が発生しやすい という問題もある。観光客の不満はネガティ ブな口コミやインターネット等での情報発信 により観光地のイメージ悪化につながりかね ない。

 そのようなデメリットを解消し需要調整し ようとしている新しい試みがロードプライ シングである。これはまさに4Pのpriceと placeをコントロールすることにより、入域 観光客を調整しようとする試みである。この 方法であれば、お金を払ってでも自動車で行 きたい観光客と、お金を払うくらいなら別の 観光地に行くか、公共の交通機関を使って入 域するという観光客を選択的デマーケティン グできるのである。理論的に需要調整は観光 客が多すぎれば料金を上げ、観光客が少なす ぎた場合は料金を下げればよいという方法で 可能である。これはまさに観光地側が需要調 整をできる真のデスティネーション・デマー ケティングと言える。しかしながら、価格の 上げ下げで調整する事は理論的には可能だが、

現実的に実施するとなると、ドライバー側か らは一般道路有料化による反発や、地域から は観光産業にとって観光客の減少は死活問題 となる。そのため鎌倉と京都では試験的に導 入を検討しているが、いまだ本格的に運用が できない状態となっている。

 ロードプライシングの実施には種々の問題

(16)

があり、実施できないというのはロードプラ イシングのみの問題ではなく、これは結局デ スティネーション・デマーケティング全体の 問題でもある。観光で地域活性化を考える 人々にとって、観光客が多く訪れることによ り、観光という裾野の広い産業で町の経済は 活性化し人々の暮らしは豊かになる。しか し、逆に観光客が減ることは観光関連産業に とっては死活問題になるのである。その地域 にやってくる観光客の数を調整し時には「わ ざと」減らそうとするデスティネーション・

デマーケティングは非難の対象となるのは致 し方ないことである。しかし、冒頭でも述べ たとおり、観光客がその地域のキャパシティ を超えて来訪し、長期的に観光資源を衰退・

枯渇・破壊させることは、結局は地域の衰退 につながる。では、いったい適正な観光客数、

キャパシティとは誰がどのように決めるのか。

観光による振興と観光による弊害の均衡点は どこにあるのか。その均衡点を地域住民と観 光関連業者が一緒になって考えることが結局 は、サスティナブルツーリズムにつながるの である。

ⅰ デスティネーション(destination)旅行 目的地のこと。その範囲は国や都市、さら に地域全体を指すこともあり、行政区単位 とは限らない。

  デ ス テ ィ ネ ー シ ョ ン・ マ ー ケ テ ィ ン グ

(Destination marketing)旅行目的地を 商品として捉え、最大の経済効果を上げる ために消費者のニーズを満たそうとする誘 客活動。(引用:JTB総合研究所観光用語 集 http://www.tourism.jp/glossary/des-

tination/(2014.12.20取得)以上のように デスティネーション・マーケティングは観 光地自体を商品として捉える活動であるか ら、その商品を売らない、すなわち観光客 を誘客しない活動という意味で、本稿では、

マーケティングのアンチテーゼである、デ マーケティングという用語を用いることに した。すなわち、デスティネーション・デ マーケティングの意味として「観光地にて 観光客増加により起こる弊害を避けるため、

観光客の総需要を減少させる、または特定 の観光客の需要を減少させる活動。」とい うことができる。表面的デマーケティング と無意識のデマーケティングについては、

本来のデマーケティングの意味とは異なる ため、デスティネーション・デマーケティ ングの意味には含まれていない。

ⅱ いわゆるマーケティング4P(product(商 品 ) price( 価 格 )place( 流 通 ) promo- tion(販売促進))をコントロールして需 要を喚起している。いずれも企業がコント ロール可能である。法的なものは企業がコ ントロールすることは不可能である。

ⅲ 長谷政弘著の観光マーケティングにおける デマーケティングでは「行動制限、入り込 み制限」森下昌美編著の観光マーケティン グ入門では「観光地の入り込みを制限する」

とある。観光のデマーケティングとして入 り込み制限に関する記述が以上の2例でも ある。

ⅳ 2014年12月20日時点で構想段階である。

ⅴ 2011月12  月27  日に沖縄県の南城市より 発表された。南城市ホームページに概要が 掲示されている。http://www.city.nanjo.

okinawa.jp/tourism/2011/11/sefa.html

参照

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