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サルベージ技術の紹介 - サルベージ作業の特異性と潜水技術の移り変わりサルベージ技術の紹介 - サルベージ作業の特異性と潜水技術の移り変わり 木田聡範木田聡範 1. 海難事故とは サルベージとは, 海難事故に遭遇した船舶を救助又 は撤去する作業になりますが, 船舶が浅瀬や暗礁にのりあげる座礁事故,

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(1)

1. 海難事故とは

サルベージとは,海難事故に遭遇した船舶を救助又 は撤去する作業になりますが,船舶が浅瀬や暗礁にの りあげる座礁事故,船舶の主機や発電機などが故障し 自力で航行が出来なくなる機関故障,他の船舶や防波 堤などと衝突し船体に損傷が生じる事故,積荷や主機 などが爆発する事故,航行中の船舶が荒天などに遭遇 し積荷が荷崩し大きく傾斜する事故,また衝突や座礁 などに起因し船体に損傷が生じた結果,船内に浸水が 生じて沈没する事故など,いろいろなケースに対応す ることになります.

また,最近では特に最重要かつ最優先となる作業は,

船体に重油類(燃料油,貨物の油)や,危険物を搭載 している場合は,それらを事前に除去し,環境を守る 行為であり,海難に遭遇した船体を救助する行為より 優先されるようになりました.

1 荒天で二つに分断された座礁船

2.サルベージ作業とは

サルベージ作業は,海難事故が発生した直後に船主 様又は船主様が付保している保険会社様からサルベー ジ会社に連絡が入り,海難事故の種類に応じて必要な 資機材,必要な船舶を海難現場に向かわせることにな ります.しかしながら,乗組員が退船するなど海難事 故に遭遇したのち船舶の状況が不明確な事が多く,ま た乗組員が船に留まっていたとしても船体の情報の殆

どは口頭で伝わる為,船体を救助するための具体的な 工法などの検討は,サルベージ会社の作業隊が現場に 到着してから専門的な調査を通じて行い,船体を無事 に造船所や安全な場所で船体を安全な状態で船主様に お返しするまでが救助作業になります.一方,船舶が 不幸にも破壊された場合や,大水深の場所に沈没する など船体が救助出来ないケースや,船体を救助する費 用と修繕する費用が莫大な金額になる場合は,一般的 に船体は全損となり,船体を撤去する作業にかわりま す.

そのような場合,前述のとおり近年では特に環境保 護に対する問題が大きくなっており,海難に遭遇した 船舶に搭載している重油類や危険物の除去を優先的に 行うことになりますが,一昔前とは異なり大水深に沈 没した船舶からの重油類や危険物の除去のみならず,

船舶そのものの引揚げを行う傾向が世界的にも認めら れます.

2 座礁した船舶からの重油抜き取り作業

3.サルベージに使用する主な船舶

3.1 タグボート

一般的に海難事故が発生したのち,サルベージ会 社の作業隊が現場に行く場合にはタグボートを使用す ることになります.使用するタグボートは,通常港内 にて稼働しているハーバータグを使用することもあり

サルベージ技術の紹介

- サルベージ作業の特異性と潜水技術の移り変わり

木田 聡範

サルベージ技術の紹介

- サルベージ作業の特異性と潜水技術の移り変わり

木 田 聡 範

(2)

ますが,大型船の座礁事故や,機関故障などで漂流し ている場合などは,大型の航洋曳船を使用することに なります.現在国内では曳航力が

100

トンクラスの航 洋曳船が稼働していますが,海外では曳航力が

300

ト ンもある大型の航洋曳船が稼働しています.

3 航洋曳船「新潮丸」

3.2 起重機船

船舶が沈没した場合は,現在のように大型の起重機 船が無い時代では,浮力タンク(鋼製の円筒状のタン クに空気を注入し浮力を持たせたもので,浮力タンク は

50

トン,

100

トンなどがあります)を使用して沈没 した船舶を長い期間をかけて浮揚させていましたが,

現在国内では

4000

トン吊クラスの起重機船も稼働し ており,沈没した船体の引揚げ作業は比較的短期間で 行うことが可能になりました.海外では

12,000

トン 吊クラスの起重機船も出現しています.また,沈没し た船舶が大型船などの場合,

1

隻の大型起重機船では 吊上げられない場合は,複数の大型起重機船を使用す る方法や,重量物の運搬に使用する大型の半潜水式台 船などを使用する方法もあります.

4 起重機船「武蔵」による沈没船吊上げ

4.サルベージと潜水作業の進化

4.1 サルベージと潜水作業

サルベージには潜水作業が欠かせません.例えば

沈没した船舶からの燃料油などの抜き取り作業や引揚 げ作業は,潜水士がいなければ始まりません.また,

座礁船の場合は潜水士による調査作業に始まり,破孔 部などの防水作業など潜水士の力量により作業の可否 が決まることが少なくありません.

なお,潜水士が海中で呼吸するガスは,平成

27

4

月以前は,通常の空気でも問題ありませんでしたが,

潜水士の安全を確保するため,高圧則の改正が行われ,

呼吸ガスに空気を使用する空気潜水の上限は,水深

40m

までとなりました.

以下より弊社の潜水方法の移り変わりを簡単にご説 明致します.

4.2 潜水作業の移り変わり

昭和

40

年後半以降では,自給気式のスクーバ潜水 器を使用し呼吸するガスは,ヘリウムガスと空気の混 合ガスを使用していました.一例をあげれば,水深

80m

で潜水作業を行う時間は

15

分以内とし,減圧に 要する時間は合計で

80

分になりました.しかし,こ の潜水方法では作業水深が

60

80m

で,実作業時間 は約

10

15

分程度となり水中電気切断,溶接など長 時間に連続した作業は、現実的ではありませんでした.

よって昭和

48

年から

50

年にかけて本格的な深海潜 水作業用潜水球(

SDC Submersible Decompression Chamber

)を導入することになりました.

この

SDC

は釣鐘の形をしたベルとなり,その中に 潜水士が入り,潜水士が入った釣鐘状の

SDC

を海底 の水深圧まで加圧すると

SDC

内の海面が海底面まで 下がり,潜水士は

SDC

から出て作業を行う方法にな ります.

SDC

装置は,

SDC

本体,コントロール室,

電動巻取りリール,ヘリウムガス貯気用長尺ボンベ

8

本一組のカードルが

2

基,ヘリウムガス及び高圧空気 製造用コンプレッサー

1

基等により構成され,それら は各々移動及び組立が容易にできるよう設計されてお り,潜水作業に使用する母船は,台船,揚錨船,タグ ボート等に艤装ができる仕組みにしていました.また,

潜水士は

3

1

組を

3

組配置し,隔日ごとに潜水を行 うようにし,

1

回当りの潜水時間は,水深

100m

以内 であれば

40

60

分に増加しました.当時はこの装置 を使用し水深

75m

に沈没した貨物船からの燃料油抜 取りや,沈没船の調査などを行っていました.

しかし,この方法では潜水士の減圧も

SDC

を使用 するため,潜水作業時間よりも船上での減圧時間がは るかに長く,

SDC

を使用しての潜水は,

1

1

回が限 度となります.とくにサルベージ作業は天候の安定し ない海域で行うことが多く,逆に天候が良いときは集 中して作業を行う必要がある為,潜水士の減圧を

SDC

を使用せずに行う方法を検討し,減圧専用の減圧室を

(3)

別途に配備する方法としました.よって減圧室を

2

基 設置することにし,仮に減圧中の潜水士

1

名が減圧症 になった場合は,その

1

名を別の減圧室に入れて再度 加圧するなどの処置ができるようにしました.

この方法を用いることにより水深

100m

の潜水では,

1

回あたり

60

分の潜水作業を連続して

1

日最大

3

回 の潜水作業が可能になりました.そこで,この方法を 用い,沈没船の引き揚げ,油回収のみならず本四架橋 の地盤調査などを施工しました.

5SDCと減圧室の艤装図

その後,飽和潜水(潜水士が予め作業船上に設置 した減圧室に入り,減圧室の気圧を作業を行う水深に 相当する水圧に加圧した後に,作業船上から作業水深 まではダイビングベルに入り,予定された水深まで海 底に降りて,作業を行ったのちにダイビングベルごと 船上に上がり,加圧された減圧室に戻る潜水方法)の 技術も確立されました.

また,当社では平成

27

4

月に改正された法規制 に基づき,水深

90m

で安全な作業が行えるように可 搬式のウエットベル混合ガス潜水システムを導入し現 在に至っています.このシステムは,浅深度潜水と比 べて高額で,準備等にも時間がかかる飽和潜水との中 間水深(

40m

90m

)で有効となり,潜水士の作業内 容も船上のモニターでリアルタイムに確認することが できます.

6 ウエットベル混合ガス潜水システム

7 ダイビングベルに乗り込む潜水士

4.3 大深度への対応

では,水深

100m

を超えた作業の場合についてご説 明致します.この水深

100m

を超えた潜水作業を弊社 では,潜水士で作業を行うのではなく,現在は水深

3,000m

まで潜航し作業が可能なロボット(

ROV

Remotely Operated Vehicle

)を使用して行っています.

弊社が以前から行っている作業は,大水深に沈没した 船舶の引揚げや,墜落した航空機などの捜索、回収に なります.

この大水深からの船舶や航空機などの回収作業はま ず,沈没位置の捜索から始まることになります.

4.4 大水深での捜索作業

大水深の場所に存在する船舶などは,海面から海底 に落下する際に受ける外力(風,潮流など)を受け,

その殆どが海面で確認又は予想された位置から異なる 場所に存在しています.とくに航空機などの場合は,

墜落の衝撃で海面にて複数の部品に別れた場合など捜 索は困難になります.

平成の初期では,国内には大水深で墜落した航空機

(4)

の部品などを正確に捜索できる機器は無く,時間と費 用をかけて海外から捜索用サイドスキャンソナー(作 業船からソナーを海面に投入し,一定の水深にソナー を設置した状態で曳航を行い,音波を利用して海底面 の状況を調査する機器)を国内に搬送して捜索作業を 実施していました.

一方当社は,平成

24

年に海底調査用自律式無人潜 水機(

AUV Autonomous Underwater Vehicle

)を導 入しました.当社が導入した

AUV

は,水深

3,000m

ま で潜水が可能な無人の潜水機で,海中を自動的に航行 し,海底地形図などのデーターを自動的に計測するこ とができるもので,これにより海中に沈没した船舶,

航空機などの発見を迅速に行うことができるようにな りました.

8 AUV及び母船「新海丸」

4.5 大水深からの引揚げ作業

当社は,昭和

55

年に

300m

まで潜水可能な有人潜 水艇を導入し,潜水士が潜水出来ない水深に沈没した 船舶や航空機などの回収を行っていました.この有人 潜水艇は,合計

3

名が乗船することができ,サルベー ジ作業のみならず海洋開発の作業や、海中生物の調査、

研究などにも使用されました.

その後,平成

3

年に国内では民間初となる無人で

2000m

まで潜水士作業が可能な無人潜水艇

ROV

を導 入し,船舶等の引揚げや海洋開発,海洋調査等に使用 してきました.

それまでは水深

300m

を超える水深での作業は,時 間と費用をかけて海外から潜水機器を搬入していまし たが,この

ROV

の導入により,万が一の時に即時対 応が可能になりました.運航初期はトラブルも多く,

トラブル発生時には,その都度海外から技師等を呼ん で対応していましたが,運航開始後

10

年程度後から 自社のオペレーターによるトラブル対応も可能になり ました.

平成

22

年には,それまで使用してきた

2000m

仕様

ROV

の代替え機として

3000m

仕様の

ROV

を導入 すると共に,有人潜水艇の代替機として

2000m

仕様 の

ROV

を導入しています.

当社は,国内では深海潜水機器類をいち早く導入,

運用しており,ただ保有するだけではなく,それらを 通常から稼働させ,技術力の向上,メンテナンス技術 の発展などに努めており、新規事業にもチャレンジし ています.

近年ではメタンハイドレードレアメタルなどの調査 が国の指導で積極的に行われており,それらの事業に も積極的に参加させて頂いています.サルベージ作業 とは目的も方法も少し違いますが,実際はサルベージ で培った技術力,人的資材,ネットワークを十分利用 し対応しているのが実状です.

9 3000m対応ROV

5.終わりに

本稿では,サルベージ作業で使用する主な船舶の一 部及び潜水資機材についてご説明致しましたが,その 他にも,特殊な防爆式の高粘度の重油を抜き取るポン プや,海面などに流出した油を回収する装置など様々 な機器類があります.一般的にサルベージ作業に特化 している資機材類は汎用性も低く高価であり,使用頻 度も少ない中,緊急時には常時稼働が出来るようメン テナンス等も必要となる為,通常の一般港湾建設等で 使用する機器類よりもその使用単価は高額になります.

そもそも海難事故が,いつ,どこで発生するかを予 測することは不可能であり,逆に海難事故が発生しな ければ民間企業とすれば事業が成り立たない事態にな りますが,そのような状況でも海難事故に対応する船 舶、資機材を維持,管理して,緊急時に備えておく必 要があります.

(5)

当社は設立時から大型起重機船やタグボートを多く 所有しており,サルベージだけではなく橋梁架設など の鉄構工事やケーソンの据え付け作業などの海洋土木,

また大型の台船,航洋曳船を使用した重量物の輸送作 業,先に説明した深海潜水機器を使用した海洋開発を 主な業種として,それらの中で培った経験や使用した 資機材などをサルベージ作業に応用しつつ,突発的に 発生した海難事故に対応しています.

著者紹介

木田 聡範

深田サルベージ建設株式会社

 1965

年生.

所属.全社サルベージ統括部長

最終学歴 神戸商船大学 (現 神戸大学)

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