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対外政策決定者の脅威認識と「情報欲求」(1) : 1994年の朝鮮半島核危機を巡る米国の対外政策決定過程から

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(1)対外政策決定者の脅威認識と「情報欲求」⑴ ── 1994 年の朝鮮半島核危機を巡る米国の対外政策決定過程から── 田 中 啓 介. 目次. 月まで). はじめに Ⅰ 「情報欲求」に基づく脅威認識,対外行動 のメカニズム ⑴ 対外政策決定過程における脅威認識と「情. ⑹ 第 5 区 分:北 朝 鮮 の NPT 脱 退 後( 1993 年 3 月から 1994 年 10 月まで) おわりに 参考文献. 報」 ⑵「情報」の定義 ⑶ 対外政策決定者の脅威認識, 「情報欲求」 , 対外行動の分析モデル Ⅱ 脅威認識, 「情報欲求」 ,対外行動の変化の 仮説. はじめに 国家に対する脅威が多様化している.国家関 係を中心とした伝統的安全保障上の脅威だけで なく,国家に対する安全保障上の新たな脅威の. ⑴ 脅威と脅威認識の判断要素. 出現を促している.2001 年 9 月 11 日の米国同. ⑵ 脅威認識のメカニズム. 時多発テロ事件に象徴されるように,グローバ. ⑶ 対外政策決定者の脅威認識, 「情報欲求」 ,. リゼーションによって,これまで特定地域での. 対外行動の相関性の仮説 ―以上,本号―. 活動に制限されていたテロリストが国際的な ネットワークを構築し,国家に対する大規模テ ロを容易に実行できる環境を得た.さらに,テ. Ⅲ 1982 年から 1994 年までの米朝関係におけ. ロリストだけでなく,軍事的優位を志向する国. る 米国 の 対外政策決定者の脅威認識, 「情. 家にとっても,通常兵器だけでなく,核兵器の. 報欲求」 ,対外行動の相関性の検証. 開発技術を容易に得ることを可能にした.. ⑴ 期 間 の 区分 と 脅威認識, 「ニーズ」 , 「欲 求」の判定基準 ⑵ 第 1 区分:北朝鮮 の 核疑惑 の 兆候(1980 年代初頭から 1985 年 12 月まで) ⑶ 第 2 区分:北朝鮮 の 核兵器開発 へ の 確信 (1985 年 12 月から 1989 年頃まで) ⑷ 第 3 区 分:北 朝 鮮 の 保 障 措 置 協 定 締 結 (1990 年から 1992 年 5 月まで) ⑸ 第 4 区分:核査察 に よ る 北朝鮮 の 核兵器 開発 の 露呈(1992 年 5 月 か ら 1993 年 3. 多様化した脅威に対処するために,各国は脅 威認識に基づき軍事技術の開発,多国間協力体 制の構築,情報機能の活用など,様々な対外行 動を実行している.国際政治におけるリアリズ ムでは,国家を脅威主体とした場合の対外行動 のメカニズムにおいて,国家は,自国の生存を 目的として他国との勢力均衡の維持を志向する ため,安全保障のジレンマが過度に高まる時に 攻撃的行動に出るとの仮説を導くことが可能で ある(須藤,2007 年,45─60 頁)..

(2) 138 (846). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). しかし,実際には,国家はその仮説と異なる. 報──を吸収する過程が存在する.「情報」吸. 対外行動をとる事例が散見される.1994 年の. 収の過程から,「情報」の性質に応じて脅威認. 北朝鮮核危機を見ると,米国は,核開発計画を. 識も変化し,その結果として対外行動にも影響. 隠蔽 し て い る 北朝鮮 が 1993 年 に NPT 脱退 を. を与えるとのプロセスが導かれる.その「情. 宣言したことによって,米朝関係における安全. 報」の提供には情報機関──米国・中央情報局. 保障のジレンマが急激に高まったものの,事態. (CIA),英国・秘密情報部(SIS)に 代表 さ れ. 対処の方法として北朝鮮との直接交渉を選択し. る,脅威に関する「情報」を対外政策決定者に. た.一方,直接交渉 の 結果,北朝鮮 が NPT 脱. 提供する行政機関──及びその集合体であるイ. 退を留保したことによって事態の改善が見られ. ンテリジェンス・コミュニティ(IC)が携わっ. たにも関わらず,その後の交渉が滞っていたと. ており,脅威認識のメカニズムにおいて不可欠. は言え,国際社会で圧倒的なパワーを有する米. な役割を担っている.. 国が,日本,中国, ロシアという大国に囲まれ,. 本稿では,脅威認識という国家の内部要素に. 繊細な対応が必要とされる地域環境の下,核開. 注目し,脅威認識のメカニズムと対外行動の相. 発計画の初期段階にあったに過ぎない北朝鮮に. 関性を検討することで,安全保障のジレンマに. 対して具体的な軍事行使を計画した.これらの. 対する脅威認識の意義の明確化を促し,上記の. 事実は,安全保障のジレンマの高まりという国. リアリズムの仮説と現実と乖離を埋める議論の. 際政治における構造的な基準だけでは国家の対. 一端を占めることを目的とする.特に,脅威認. 外行動を正確に説明できないことを示唆してい. 識のメカニズムに不可欠である情報機関の役割. る.. と対外政策決定者との関係を議論の中心に据え. リアリズムから導かれる上記の仮説と現実と. る.その際に,対外政策決定者と情報機関の関. の乖離の原因の一つとして,脅威認識とは,諸. 係を説明する概念として,対外政策決定者が脅. 国家が国際政治の構造から自国や周辺国の対外. 威に関する「情報」を欲する要素である「情報. 行動を把握し,安全保障のジレンマの程度を認. 欲求」を提示し,「情報欲求」の変化を通じて. 識することと理解されている点にある. つまり,. 対外政策決定者の脅威認識と情報機関の関係,. 国家をブラックボックスとして理解し,国家の. そして対外行動との相関性への説明を試みる.. 内部要素の対外行動への影響を軽視又は無視す. また情報機関の役割に着目した国家の対外行. るという姿勢で,まるで諸国家が世界全体を鳥. 動論を考察することで,インテリジェンス研究. 瞰しているように全体的な国際政治の構造を把. に不足している国際政治の理論研究に基づく議. 握した上で脅威を認識し,対外行動を決定して. 論を展開することになる.インテリジェンス研. いることを意味している.これはリアリズムに. 究は,情報機関の活動や機能を対象とした学術. 対する批判とも符合する.. 研究であり,米英では一般の大学などでインテ. 本稿での議論を先取りすることになるが,国. リジェンス研究が広く行われている1).さらに,. 家の内部要素である,合理的意思決定過程を前. 日本でも,近年,歴史学の範疇で情報機関が外. 提とした脅威認識のメカニズムに着目すると, 対外政策決定者──本稿 で は,大統領,首相, 閣僚などの政府高官や各省庁の政策部門を一つ の合理的行為主体として想定した際の呼称── は脅威を認識する前提として,脅威に関する 「情報」──一般の情報ではなく,分析・評価 の過程を経て生産されたプロダクトとしての情. . 1)冷戦後,民主義諸国 に お い て 情報活動 は な くてはならない本来的な国家の機能であり,単に 国益の観点のみならず民主的な検証を支えるため にも,アカデミズムの対象として位置づけなけれ ばならない,との意見が米英を中心としたアカデ ミズムでのコンセンサスとなったと指摘されてい る(中西,2007 年,7 頁) ..

(3) 対外政策決定者の脅威認識と「情報欲求」⑴(田中). (847) 139. 交政策に果たした役割について研究が進められ. 59─63 頁).. ているほか, 「情報」を生産しカスタマーに提. しかし,対外政策決定者と情報機関の関係が. 供する過程(インテリジェンス・サイクル)に. 政策プロセスの中で重要の要素にあるにも関わ. 関する理論研究なども散見されるようになった. らず,情報収集や情報評価などの情報機関の活. 2). (北岡,2003 年) .. 動そのものに焦点を当てた研究と比べて対外政. 理論研究に視点を移してみると,インテリ. 策決定者と情報機関の関係の理論研究の遅れが. ジェンス研究の創始的役割を担ったケントは,. 指摘されている.さらに,国際政治の環境変化. 対外政策決定者 と 情報機関 の 関係 を イ ン テ リ. に対応する対外政策決定者と情報機関の関係の. ジェンス活動における最も重要な問題とし,対. 現状を分析し,理論化を試みるという国際政治. 外政策決定者 と 情報機関 を 分離 し つ つ,対外. の対外政策研究に基づく理論研究はなされてこ. 政策決定者 の 指導 に よって 情報機関 が 活動 す. なかった.. る程度に両者は密接な関係を構築する必要が. そのような学術研究の状況において,本稿. あると論じた(Kent,1949 年;情報史研究会,. は,対外政策決定者と情報機関の関係を対外政. 2008 年,34─44 頁) .さ ら に,ローウェン ソ ル. 策決定者の視点から考察することで,「情報機. は,情報機関の存在意義は対外政策決定者を支. 関の役割・機能は対外政策決定への支援という. 援することに集約され,対外政策決定者は単な. 対外政策決定者に従属するものである」との固. る受動的に「情報」を受け取る主体ではなく,. 定化された認識に新しい見解を提示することに. IC に対してあらゆる側面から積極的に影響を. なる.さらに,脅威という国際環境によって影. 与え, 「情報」の形成に関わっていると指摘し,. 響される対外政策決定者と情報機関の関係の変. 両者の関係に基づくインテリジェンス研究の重. 化を理論的に考察することで,これまでのイン. 要性を示唆している(Lowenthal,2007 年,2・. テリジェンスの理論研究の主流であった組織管. 174 頁) .また,日本国内のインテリジェンス. 理的な研究を越えた,対外政策研究に基づく対. 理論研究の先駆者と言える北岡も,対外政策決. 外政策決定者と IC の関係の特徴を示すことを. 定者3)の政策立案・執行を支援する情報機関の. 目指す.. 機能の存在を前提とした上で,情報機関の「情. 本稿では,「情報欲求」を中心とした対外行. 報」生産プロセスの開始には対外政策決定者の. 動に関する理論・仮説を提示した後,事例を用. 「情報」の 要求(requirement)が 必要不可欠. いて理論・仮説を検証する.とりわけ対外行動. であるため,対外政策決定者の様態が情報機関. に関する理論研究に説得力を付与するには,論. に与える影響は大きいとする(北岡,2003 年,. 理的整合性はもちろんのこと,経験的妥当性に も合致していることが必要と認識されている. . 2)しかし,中西によれば,日本のインテリジェ ンス研究は始まる前の段階であり,日本における インテリジェンス問題への知的な理解水準(イン テリジェンス・リテラシー)の早急な向上が望ま れると言及し,日本国民のインテリジェンスへの 知識・関心の低さとともに,日本のインテリジェ ンス研究の低調さを憂慮している(情報史研究会, 2008 年,6─7 頁). 3)北岡をはじめとして対外政策決定者を「情報」 の提供を受ける「カスタマー」と呼称することが 多いが(北岡,2003 年),本稿では対外政策決定者 に統一する.. (石田,1997 年,61─64 頁).Ⅰでは,脅威認識 と対外行動を考察する前提として,対外政策決 定過程における脅威認識と「情報」の役割を議 論する.さらに,対外政策決定者の脅威認識と 対外行動の関係を,「情報欲求」の概念を使用 した分析モデルとして整理し,Ⅱで同モデルに 基づく脅威認識,「情報欲求」,対外行動の変化 の仮説を提示する.Ⅲでは,1980 年代初頭か ら 1994 年までの米国の対北朝鮮政策を事例と して取り上げて同仮説を検証する.本事例を取.

(4) 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). 140 (848). り上げた理由として,米国の IC は他国と比較. してモデルを構成する各要素における議論を限. して大規模であり,予算・人員などからも対外. 定するために,対外政策決定過程における脅威. 政策決定者の脅威認識に必要な 「情報」の生産・. 認識の位置付け,対外政策決定過程・脅威認識. 提供拠点として大きく影響を与えていること,. における「情報」の意義を確定する.. 1994 年 の 朝鮮半島核危機 は 米国 の 脅威認識 が 短期間で急激に変動した事例であり,脅威認識 の変化を観察しやすいことが挙げられる.. ⑴ 対 外 政 策 決 定 過 程 における 脅 威 認 識 と 「情報」. 本事例 を 検証 す る 上 で,一次史料 と し て,. 対外政策決定者が合理性に基づいて意思決定. オ ン ラ イ ン・データ ベース の「ア メ リ カ 外. することを前提とした場合,対外政策決定者は,. 交 政 策 極 秘 文 書 シ リ ー ズ( Digital National. 自ら明確な政策目標又は複数の目標の中から優. SecurityArchive:Thedocumentsthatmade. 先順位を設定し,それを実現するための手段と. 4). U.S. policy)」 及 び 米 国 中 央 情 報 局( CIA:. しての複数の選択肢を提示し,目的を最も効果. Central Intelligence Agency) が ホーム ペー. 的に実現する,もしくは目的との関係において. ジ 上 で 開設 し て い る「情報公開法・電子閲. 最小のコストで最良の効果をもたらす選択肢を. 覧 室( Freedom of Information Act Electric. 選ぶ(佐藤,1989 年,35─36 頁)7).. ReadingRoom)」5)で公開している政府文書を. さらに,脅威への対応に目標を限定して合理. 使用した.なお,本事例は 1980 年代から 1990. 的意思決定過程を考察すると,対外政策決定者. 年代の米国の外交政策を対象としており,公. は,①脅威を認識し,②脅威への対応策を複数. 開されている一次史料の質量ともに限界があ. 設定し,③設定された複数の対応策の結果を分. る.そのため,一次史料ともに,当時の報道,. 析し,④政策を決定する過程を採る.このメカ. ジャーナリストや当事者が執筆した書籍等を. ニズムに基づくと,脅威認識は,対外政策決定. 活用して本事例を検証する6).. 過程の第一段階,つまり,政策を決定する上で. Ⅰ 「情報欲求」に 基 づ く 脅威認識,対外行動 のメカニズム 本節では「情報欲求」を中心とした対外政策 決定者の脅威認識と対外行動のメカニズムをモ デル化し,脅威認識と対外行動の変化の相関性 を検証する分析ツールを提示する.その前提と . 4)同 コ レ ク ション は,米国 の 非営利団体 の 国 家 安 全 保 障 資 料 館(The National Security Archive:NSA)が現代米国の国家安全保障に関す る一次史料に関する所蔵文献の中から特に重要な テーマに関するものをデータベース化したもので あ る.NSA は,重要 な 国家政策 の 形成・施行過 程に関する公文書に対して情報公開法(Freedom of Information Act: FOIA) に 基 づ き 体 系 的 に 公開請求 を 行って お り,米国政府 に 次 ぐ 米国 の 安全保障関連 の 一次史料 を 所蔵 す る と 評価 さ れ て い る.(取 扱; 紀 伊 國 屋 書 店,<http://www. kinokuniya.co.jp/03f/denhan/chadwyck/dnsa/ dnsa.htm#gaiyo>,2009 年 10 月 20 日アクセス).. 最も基礎的な要素を構成していると理解できる (図 1).. .  5)<http://www.foia.cia.gov/>, accessed on October20,2009 6)特に活用した二次的な文書として〔オーバー ドーファー,2002 年〕が挙げられる.同書は,元 ジャーナリストである著者が,ジョンズ・ホプキ ン ス 大学 ニッツ 高等国際問題研究大学院(SAIS) に在籍した時に公文書,当事者へのインタビュー, 情報公開 さ れ た 文書 な ど を 基 に 執筆 し た も の で あ り,引用文献・情報源 に つ い て も 脚注 に 詳細 に記述されている.また,米朝交渉の当事者が執 筆 し た 書籍 と し て, 〔キ ノ ネ ス,2000 年〕 , 〔 Wit, 2004 〕等を使用した. 7)これは合理的選択理論と言われ, スナイダー・ モデルでも,政策決定を「問題となっている社会 的に定義され,限定された択一的な諸計画の中か ら,政策決定者が期待する特定の状況をもたらす 一つの計画の選択に帰結する過程」としている(佐 藤,1989 年,35 頁;須藤,2007 年,30 頁) ..

(5) 対外政策決定者の脅威認識と「情報欲求」⑴(田中). ①脅威の認識. ②対応策を 複数設定. 「情報」 (認識の前提). ③予測される 結果の分析. (849) 141. ④決定. 「情報」 (補足的役割). 佐藤,1989 年,35 項を基に作成. 図 1 対外政策決定過程(脅威対応型)の理念モデルと「情報」関係. 対外政策決定者は,対外政策決定過程の各段. 準が最も米国の脅威となるという最悪のケース. 階で,関連する「情報」を吸収して政策決定を. を評価した「情報」に対応して,米国の軍事力. 8). 進めている .但し,対外政策決定者は必ず 「情. を 計画 す る 旨強調 し た(Freedman,1986 年,. 報」を吸収するとは限らない.特に②③のよう. 1 頁).. に対外政策決定者が能動的に実施する政策過程. 対外政策決定者が脅威を認識するために必要. の場合, 「情報」が対外政策決定における補足. な「情報」は主に IC によって提供される.本. 的 な 役割 に と ど ま る 以上,対外政策決定者 が. 来,IC だ け で な く 対外政策決定者自身 も,個. 「情報」を必要ではないと判断すればそれを無. 人又は組織内で意識的・無意識的を問わず報道. 視して政策決定を行うこともある(Lowenthal,. や 外交交渉 の 過程 で 得 た イ ン フォメーション. 2006 年,4─8 頁) .ま た,②③自体 を 対外政策. ──分析・加工・評価をしていない生情報──. 決定者の指示により IC が実施する可能性もあ. を 独自 に 収集,加工,分析 し て 脅威 に 関 す る. る が,最終判断 は 対外政策決定者 に あ り,IC. 「情報」を生産,吸収している(北岡,2003 年,. の行為は補足的性質にとどまる.. 17─20 頁).し か し,「情報」の 生産 が 専門化・. しかし,①は対外政策決定者の受動的行為で. 組織化 さ れ た 現在,IC は,対外政策決定者自. あるため,対外政策決定者が脅威を認識するた. 身が生産するよりも質量共に優れた「情報」を. めには,それに関する「情報」の存在が前提と. 迅速に生産することができる.さらに,一般に. なる.すなわち,対外政策決定者は,脅威の有. 脅威する主体は脅威となる行為を秘匿する傾向. 無・様態に関する「情報」を提供されて初めて. があるため,その情報収集には組織・資本を有. 脅威を認識するのである.実際,米国の国防長. し,情報収集の専門家によって構成されている. 官であったマクナマラは,ソ連の将来の軍事水. 組織が適当である.そのため,対外政策決定者. . 8)米国政府 は,国家安全保障 に お け る 政策決 定の結果を改善・理解するために「情報」を利用 す る.つ ま り,米国政府 は,「情報」を 政策決定, 軍事行動,国際交渉などを支援するものと理解し ている(ODNI,2009 年,6 頁).. の脅威認識は IC が生産する「情報」に大きく 依存していると言える.1962 年のキューバミ サイル危機の場合,米国政府がキューバのミサ イル基地建設という脅威を認識したのは,米国 の偵察機が収集したインフォメーションを基に.

(6) 142 (850). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). IC によって生産された「情報」の提供によっ. 本稿で使用する「情報」は,安全保障に活用. てであった(アリソン,1977 年,136─137 頁) .. される「知識」としての意味に限定し,「国家. さらに,本稿で取り上げる 1990 年代前半の北. の安全保障政策において,政府の対外政策決定. 朝鮮の核開発疑惑においても,米国が北朝鮮に. 者に提供することを目的として,対外政策決定. よる核拡散という脅威を認識した契機は,1982. 者の『情報欲求』及びそれに基づく要求を受け. 年に偵察衛星が収集したインフォメーションに. て,インフォメーションの収集,加工,分析の. よる核施設の建設に関する「情報」が提供され. 過程を経て生産したプロダクト」と定義する9).. たことであった(CIA,1982 年) .. こ の 定義 の 特徴 は,対外政策決定者 に よ る. なお,同モデルは理念型であり,現実には対. 「情報」の要求を生み出す源泉として,対外政. 応策の提示へ進む前提として脅威を完全に認識. 策決定者の「情報欲求」という内部要素を導入. することは不可能である.物理的・時間的制限. していることである.このことから,「情報欲. があるうえ,脅威は常に変化を続けていくから. 求」が変化すれば,IC の活動も変化し,結果. である.そのため,対外政策決定者の「情報」. として「情報」も変化することを示唆している.. の理解と脅威の認識は対外政策決定過程全体を. 「情報」の生産過程は,一般的にインテリジェ. 通して常時実施される.. ンス・サイクルで表現され(図 2) ,IC が「情報」 を生産し,対外政策決定者に配布するための循. ⑵「情報」の定義. 環過程である.すなわち,①「情報」の生産計. そ れ で は,脅威認識に不可欠な要素である. 画を指示し,②そのために必要なインフォメー. 「情報」とはどのような性質を持っているのか.. ションを収集し,③インフォメーションを利用. 本稿で使用する「情報」は, 「インテリジェン. 可能な状態に加工(外国語の翻訳,暗号解読な. ス(intelligence) 」を日本語に翻訳した用語で. ど)し,④分析 す る こ と で「情報」を 生産 し,. あるが, インテリジェンス研究で使用される 「イ. ⑤対外政策決定者に配布する.その前提として,. ンテリジェンス」には共通した定義が存在せず. 対外政策決定者の「情報」の要求が存在する10).. 多義的に使用されている.そのため,インテ リジェンス研究に関する書籍・論文の冒頭で, 「インテリジェンス」の意味を限定するものが 多い. 一般的 に 多用 さ れ て い る「イ ン テ リ ジェン ス」は,安全保障政策 に 活用 さ れ る「知識」 , その知識を生産する「組織」 ,その組織が行う 情報収集・分析・評価・対外政策決定者 へ の 情報提供などの「活動(過程) 」の意味を有す る(Kent,1949 年) .さらに,それ以外にも防 諜・工作活動も含める見解もある(Lowenthal, 2006 年) .すなわち, 「インテリジェンス」は, 情報機関そのもの,情報機関が行う情報収集・ 情報分析・情報提供・工作活動 な ど の 活動全 般,情報機関が生産する情報など,情報機関を 取り巻くすべての事象を指す概念と推察でき る.. . 9)北岡,2003 年で示したインテリジェンスの 定義を参考にした. 10)インテリジェンス・サイクルは,情報機関 の政策循環過程として,政策プロセスの循環過程モ デ ル(政策課題設定→政策作成→政策決定→政策 実施→政策評価)を応用したものと評価できる(今 村,2006 年,69─70 頁;宮川,2002 年,210─211 頁) . な お,北岡 は,図 2 に 対 し て,対外政策決定者 の 関心の変化や現実の変化に応じて,インテリジェ ンス・サイクルが連続して何回も回転しているに も関わらず,一回転分のサイクルしか描写してい ないと指摘し,時間の経過を想定した螺旋型のイ ンテリジェンス・サイクルを複数提示して「情報」 を取り巻く現実の具体的な図式化を試みている(北 岡,2003 年,15─51 頁) .しかし,一般的なインテ リジェンス・サイクルは, 「サイクル」である以上, 「情報」生産が繰り返し行われることを当然前提と している上, 「情報」生産過程を簡略化して説明す る趣旨で示されたものであるため,インテリジェ ンス・サイクルに対して現実を正確に示していな.

(7) 対外政策決定者の脅威認識と「情報欲求」⑴(田中). (851) 143. 㽲⸘↹╷ቯ. 㽳䉟䊮䊐䉤䊜䊷 䉲䊢䊮䈱෼㓸. 㽴ടᎿ. 㽶㈩Ꮣ. (ർ ጟ 㧘. 㽵ಽᨆ䊶↢↥. ODNI, 2009 年,Lowenthal,2006 年,65 頁を基に作成. 図2 インテリジェンス・サイクル. ⑶ 対 外政策決定者 の 脅威認識, 「情報欲求」 , 対外行動の分析モデル. 客の「ニーズ」・「欲求」を満たす過程である. マーケティングはビジネスにのみ当てはまるも. IC は,対外政策決定者 の「情報」へ の「欲. のではなく,政府,大学,病院,警察などの非. 求」を理解して「情報」を生産,提供している.. 営利分野にも適用される(コトラー,1983 年,. この対外政策決定者と IC の関係はマーケティ. 9─26 頁;片山,2003 年,20 頁).こ の 定義 に. ング学における顧客と企業の関係と類似してい. よ れ ば,マーケ ティン グ は 対外政策決定者 と. る.. IC の関係にも当てはまる.すなわち,対外政. マーケティング学の第一人者であるコトラー. 策決定者 が IC が 生産 し た「情報」と IC に 対. は,マーケティングを「個人や集団が,製品11). するインセンティブとの交換を通じて,対外政. 及び価値の創造と交換を通じて,その『ニー. 策決定者の「ニーズ」と「欲求」を満たすので. ズ』や『欲求』を満たす社会的・管理的プロセ. ある.. ス」と定義する.すなわち,企業が顧客の「ニー. この定義の中で対外政策決定者の内面的特徴. ズ」・ 「欲求」を 的確 に 把握 し,そ れ を 製品・. に関係する重要な概念は「ニーズ」と「欲求」. サービスの創造に反映させることによって,顧. である.「ニーズ」とは,マーケティングの最 も基礎となる概念であり,欠乏感を意味する.. . いと指摘して複雑な螺旋型サイクルを提示するこ とは図式化した目的を埋没させかねない. 11)この場合の製品とは,いわゆるモノだけで なく,有形・無形を問わず,「ニーズ」・「欲求」を 満たすことができるすべてを指す(片山,2003 年, 24 頁).そのため,対外政策決定者の「欲求」を満 たす「情報」も製品として認められる.. 人間は常に多種多様な欠乏感を有しており,生 存の保障を求める生理的ニーズ,他人と差をつ けたいとする差別化ニーズ,主体的に自分の生 活を構築したいという自己実現ニーズがある. 人間は環境の変化に合わせて無意識のうちにい ずれかの「ニーズ」が支配的になるが,企業に.

(8) 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). 144 (852). ኻᄖ᡽╷᳿ቯ⠪. ኻᄖⴕേ. 㽴. ⢿ᆭ䈱ਇ᣿⏕ᕈ 䈱䇸䊆䊷䉵䇹. ౕ૕ൻ 䇸ᖱႎ᰼᳞䇹. 㽳. ⢿ ᆭ. 㽲. 㽵. IC. 筆者が作成. 図3 対外政策決定者の脅威認識と「情報欲求」 の関係. よって「ニーズ」を創造・変化させることはで. 対外政策決定者の「ニーズ」・「欲求」に基づき,. き な い(コ ト ラー,1983 年,13─15 頁;片山,. 製品である「情報」を生産し,提供する(図 3).. 2003 年,22 頁) .. 図 3 は,対外政策決定者の脅威認識,脅威の. 「欲求」は, 「ニーズ」を具体化した欠乏感を. 不確実性 の「ニーズ」,「情報欲求」,対外行動. 満たすための製品・サービスを求めることであ. と IC の活動の関係を示したモデルである.こ. る.ただし,顧客は具体的にある特定の製品・. のモデルによると,IC は,①脅威の不明確性. サービスを求めているのではない.例えば,ド. の「ニーズ」と「情報欲求」に基づいて脅威の. リルの刃の製造業者は,顧客である建設業者は. 兆候を察知して「情報」を生産し,②対外政策. ドリルの刃の「ニーズ」を持っていると認識し. 決定者に提供する.対外政策決定者は,③提供. ているかもしれないが,顧客の本当の「ニー. を受けた「情報」により脅威を認識し,脅威に. ズ」は穴であり, 「欲求」は穴を空けるために. 対処する対外行動を実施するとともに,脅威の. 必要な道具である(コトラー,1983 年,15─16. 不明確性の「ニーズ」の程度を変化させる.そ. 頁.片山,2003 年,20─21 頁) .. の「ニーズ」を具体化した「情報欲求」に基づ. この「ニーズ」と「欲求」の概念に基づく顧. き,④ IC に対して明示的又は黙示的に「情報」. 客と企業の関係は,それぞれ脅威を対処する対. を要求する.これを受けて,① IC は脅威に関. 外政策決定者と IC の関係に置き換えることが. する「情報」をさらに生産し,②対外政策決定. できる.つまり,対外政策決定者が,脅威が不. 者に提供する.この①から④までのプロセスが. 明確であるという生理的「ニーズ」によって,. 循環される.. 脅威 の 認識 の た め に 必要 な「情報」へ の「欲. このモデルの脅威認識と「情報欲求」の相関. 求」 ,すなわち「情報欲求」を構築する.IC は,. 性を考察する上で重要な特徴として,「情報欲.

(9) 対外政策決定者の脅威認識と「情報欲求」⑴(田中). (853) 145. 求」が脅威認識より先行して形成され, 「情報. ない,決定できない又は伝達しない場合もある.. 欲求」は現在の脅威認識の内容を受けて,更に. また,IC は,任務として脅威の兆候を察知し. 詳細な事実を把握するために生み出される.つ. て対外政策決定者に警告を与える役割も担って. まり,脅威を認識していない段階から, 「情報. いることを指摘している(Lowenthal,2006 年,. 欲求」は脅威の不確実性の「ニーズ」に連動し. 2・55─59 頁).. て形成されるため,脅威認識よりも早く変化す. 他方,北岡 は,「要求」を「対外政策決定者. ると性格づけられるのである.. が有する,このような『情報』が欲しい,とい. 対外政策決定者は,提供を受けた「情報」の. う 要求」と し,対外政策決定者 に よ る 明示的. 内容によってこれまでの脅威認識を変更する場. な「要求」がインテリジェンス・サイクル開始. 合も あ り,そ の 際は脅威の不明確性の「ニー. の 前提 で あ る た め,「要求」の IC へ の 伝達 な. ズ」の程度, 「情報欲求」の性質を変化するこ. しにインテリジェンス・サイクルが循環するこ. と に な る.し か し,脅威対処 の 対外政策決定. とは問題である旨言及している12).北岡によれ. 過程においては,対外政策決定者の脅威の不確. ば,対外政策決定者は自覚する利益に基づく判. 実性の「ニーズ」の特徴はその性質上,生理的. 断・行動に必要なあらゆる脅威に関する「情報」. ニーズであることは確定的であり,情勢に変化. を IC に対して明示的に「要求」しているため,. が起こっても「ニーズ」の特徴自体には大きな. IC はその「要求」を完全に理解しなければなら. 変化 は な い.一方, 「情報欲求」は,脅威認識. 13) ないと指摘する(北岡,2003 年,15─65 頁) .. の変化に対応してその性質を大きく変える.例. ま た,両者 と も,対外政策決定者 の「要求」. えば,建設業者が持つ「穴を空けたい」という. が広範にわたるため,IC 自身が対外政策決定. 気持ち( 「ニーズ」 )には,転職でもしない限り. 者の「要求」の優先順位を設定してしまう問題. 大きな変化は起こりにくいが,建設業者の顧客. について指摘している.IC が対外政策決定者. の要望などは常に変化する状況にあるため,そ. の要求の優先順位を設定すると,①政策部門と. れに応じて穴を空けるドリルや刃( 「欲求」 )も. 情報部門の分離原則が保てなくなる,② IC が. 取り替えなければならないのである. 本稿では,. 中長期的視点で見れば脅威となる可能性がある. 脅威認識と対外行動の変化の相関性を観察する. と判断する問題を,短期的な脅威に関心を持つ. ことが目的であるため,性質を大きく変化させ. 傾向がある対外政策決定者に伝達することは難. る「情報欲求」に注目して考察する.. しい,③ IC にとって都合の良い対外政策決定. 先行研究 で は, 「情報欲求」と類似した「要 求」 (requirement)に 基 づ い て「情報」を 生産 ・提供するとの理解が一般的である. ローウェン ソ ル は, 「情報」の「要求」に お ける明示的・黙示的な側面を考慮している.対 外政策決定者 は,IC に 対 し て 特定分野 の「情 報」への「要求」を明確に示すことがある一 方,IC が既に「要求」を把握していると想定 して, 「情報」の「要求」を明示しないことも 多い.冷戦期における米国の対ソ連政策のよう に,議論の余地がないほど「情報」の「要求」 が明確かつ長期的な場合もあるが,対外政策決 定者 が「情報」の「要求」 ・優先順位 を 決定 し. . 12)北岡は, 「はじめにリクワイアメント(要 求)ありき」として,対外政策決定者の要求が第 一に発生し, その源泉には対外政策決定者の「利益」 が存在するとした(北岡,2003 年,41 頁) .しかし, 本稿のモデルでは,表出される最初の活動が対外 政策決定者の要求であるとは限らず,IC が直接的 に対外政策決定者の内面的特徴である「情報欲求」 から影響を受けることを示している. 13)北岡によると,対外政策決定者が,脅威に 対処する際に見落としがないように,実際には脅 威が顕在化する可能性がほとんどない案件につい てもそれに関する要求を IC に伝達する.それには, 脅威に対処できなかった場合の責任逃れのための 「保険」の意味も含まれる(北岡,2003 年,76─77 頁) ..

(10) 146 (854). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). 者の選好を優先する,などの問題が指摘されて. であり,「プッシュ」が対外政策決定者の何に. い る( Lowenthal,2006 年,55─59 頁; 北 岡,. 対応して作動するかについては述べていない. 2003 年,75─79 頁) .. (Herman,1996 年,293─296 頁).. 一方,ハーマンは, 「要求」よりも IC による. ま た,IC 自 ら が「要求」の 優先順位 を 設定. 自発的な「情報」の提供を強調する対外政策決. することについても,これまでの議論では,対. 定者と IC の関係を提示している.ハーマンは,. 外政策決定者が「利益」に基づいて「要求」す. 対外政策決定者 と IC の 関係 を「プッシュ」と. ることが必要であると主張しつつも,対外政策. 「プル」で表現した. 「プッシュ」とは IC が対. 決定者の「要求」が曖昧であることを原因とす. 外政策決定者にとって有益であると考えた「情. る IC の恣意的判断のみが指摘されてきた.だ. 報」を提供する作用であり, 「プル」は対外政. が,IC が自分自身の利益追求のために対外政. 策決定者自身で「情報」を「要求」する作用で. 策決定者の「要求」の優先順位を判断するだけ. ある.ハーマンは,IC が持つ起業家的性格を. でなく,対外政策決定者を支援する任務に基づ. 活用することによって, 「プル」よりも「プッ. き対外政策決定者の「利益」を自発的に把握し. シュ」の重要性が強調されるべきであると主張. て「要求」の優先順位を決定する可能性を見逃. している(Herman,1996 年,293─296 頁) .. している.これらの議論の前提である「要求」. 先行研究 で の「要求」に 関 す る 議論 に お い. の概念と対外政策決定者と IC の関係を現実に. て,それぞれ「要求」の意味に相違が見られる. 基づいて理解するには,「要求」の源泉である. ものの,議論の根幹について共通する点が指摘. 対外政策決定者の内面的特徴について考察する. できる.すなわち, 「要求」という対外政策決. 必要がある.. 定者の表層的な対外行動に注目する一方, 「要 求」する対外政策決定者の内面的特徴,すなわ ち「要求」の源泉についての考察がなされて. Ⅱ 脅威認識 と「情報欲求」,対外行動 の 変化 の仮説. いない点である.確かに,北岡は,対外政策決. 本節では,前節で提示したモデルに基づき,. 定者の「利益」を反映した「要求」に基づいて. 本稿の目的である,脅威認識の拡大に対する. 「情報」の生産が開始されるため,IC による対. 「情報欲求」と対外行動の変化の相関性に関す. 外政策決定者の「利益」の把握が重要であると. る仮説を示す.一般的に脅威という用語は国際. して,対外政策決定者の内面的特徴について言. 政治において多義的に使用されており,対象国. 及し て い る(北岡,2003 年,64─69 頁) .しか. 家そのもの,アクター間で生み出される事象だ. し,北岡は対外政策決定者の「利益」が何を指. けでなく,新しい安全保障の文脈の中では自然. すのかについて明確にしていないうえ,対外政. 災害・疫病なども指す場合がある.そのため,. 策決定者が「利益」に基づく「要求」を行うこ. 脅威認識の変化を観察するために,脅威の意味. とが必要であると規範的に説明しているにとど. と脅威認識のメカニズムを確定した後,仮説を. まり14),現実の「利益」と「要求」の関係につ. 提示する.. いての構造を説明していない.これは「要求」 の限界を指摘しているハーマンの見解でも同様 . 14)米 国 で は,国 家 情 報 長 官 が 大 統 領 の 承 認 を 経 て,「国家情報 の 優先順位 に 関 す る 枠組 み」(NIPF: The National Intelligence Priorities Framework)を 作成 し て い る(ODNI,2009 年, 20 頁).. ⑴ 脅威と脅威認識の判断要素 安全保障の概念は万人に受け入れられた明確 な定義が存在しない.その理由として,定義者 の価値観・世界観が不可避的に反映すること及 び安全保障の内容は時代や状況によって変化す ることが指摘される.ただし,一般的に,安全.

(11) 対外政策決定者の脅威認識と「情報欲求」⑴(田中). (855) 147. 保障は, 「ある主体が」 , 「その主体にとってか. によると,国家を主体とするアナーキーな国際. けがえのない何らかの価値」を, 「何らかの脅. システムの中では,自国の軍事力を中心とする. 威から」 , 「何らかの手段によって守る」という 観点から検討される(神谷,2003 年,3 頁;久. パワーをめぐる競争と対立を基調とするため, 「阻害 す る 主体」は 国家 で あ り,「能力」・「意. 米,2003 年,155 頁) .. 図」について軍事的な側面が強調される(神. その観点に含まれる脅威の定義についても,. 谷,2003 年,4 頁).しかし,2001 年の米国同. 安全保障 の 定義 の 場合 と 同様,定義者 の 価値. 時多発テロに象徴されるとおり,冷戦後,「阻. 観・世界観や時代・状況の影響を受ける.一般. 害する主体」もテロ組織などの非国家主体にま. 的に,脅威を「ある主体が対象となるべき相手. で拡大している.「阻害する主体」が国家であ. の持つ基本的な機能・目的・役割などを阻害し. るか非国家主体であるかによって,その主体が. ようとする能力・意図・手段・行動を,対象の. 対象国を脅威する方法も当然に異なってくる.. 側から総称したもの」と定義することができる. 国家の場合,その脅威する方法は侵略,武力介. 15) が(森本,2002 年,19 頁) ,その定義は抽象. 入などの軍事に基づく行為が中心となってくる. 的であり,そのまま分析概念として活用できな. が18),非国家主体の場合,テロリズム,内戦な. い.そ の 定義 の 要素である「阻害する主体」 ,. どの行為が実行される(防衛大学校,2007 年,. 「阻害される価値」 , 「能力」 , 「意図」の概念を. 13・90─101 頁).. 更に限定する必要がある.. 「阻害される価値」は,国家の生存に関する. そ こ で 本稿 で は,森本の定義を基に,脅威. 価値を対象とし,対象国が持つ国家目的・国家. を「国家又は非国家主体が,対象国が持つ国家. 主権・独立,領土・領域,国民 の 生命・財産,. の生存に関する価値を阻害しようとする意図及. 国際社会・関係地域の安定,同盟国の安全など. び能力に基づく行為,を対象国側から総称した. が例示される(森本,2002 年,20 頁).武力に. もの」とする.そして,対外政策決定者は,脅. よる領土変更が抑制されるにつれて,国家の生. 威を構成する「阻害する主体」 , 「阻害される価. 存そのものだけでなく,生存のための諸条件や. 値」 , 「能力」 , 「意図」の検討によって脅威の有. 生存の質が含まれるようになってきたが,国家. 16). 無・様態を認識する .. の生存そのものが「阻害される価値」の中核で. 「阻害 す る 主体」に は,国家,国家群 だ け で 17). あることに変化はない(武田,2003 年,192─. なくテロリストなどの非国家主体も含まれる .. 19) 193 頁) .さらに,「阻害される価値」には物. リアリズムの影響を受ける伝統的な安全保障観. 理的生存,生活水準の生存,政治的・精神的生. . . 15)脅威を「敵ないし潜在的な敵」と定義する 見解もあるが(佐島,2007 年,48 頁),「敵ないし 潜在的な敵」の用語自体が不明確であるため,脅 威の定義としては疑問が残る. 16)伝統的な脅威の認識においては,脅威の主 体は国家であり,阻害されるものは自国の領土, 独立及び国民の生命・財産と理解されていたため, 脅威の認識は,軍事的侵略の意図と能力の検討に 向けられていた(佐島,2007 年,48 頁).これは, 自国の独立をソ連の脅威から守り通すことを最大 の目標と定めていた冷戦期の米国の安全保障政策 の影響が大きい(神谷,2003 年,6 頁). 17)本稿での非国家主体は個人又は集団を想定 している.脅威を環境問題,感染症などの自然現 象にまで拡大させる立場や(中島,2008 年),阻害 される個々の人間を中心に考える「人間の安全保. 障」なども近年議論されているが(神谷,2003 年, 16─18 頁) ,本稿では考察の対象には含めない. 18)国家による対象国に対する脅威する方法と して,全面的な侵略のほか,ミサイルなどによる 遠隔地 か ら の 領土 の 一部 の 破壊,軍事的 な 威嚇, 第三国による対象国への侵攻支援などが挙げられ る(西原,2007 年,96─97 頁) . 19)伝統的な安全保障は,国家と軍事を中心に 据 え,侵略,軍事介入,大量破破壊兵器 の 拡散 な どの国家の物理的生存に対する脅威を対象として おり,非国家・非軍事を対象に含めた新しい安全 保障の関係においても,国家の軍事的安全がなけ れば経済・環境などの安全も成立しえないと言う 点で,新しい安全保障の中核に位置する(防衛大 学校,2007 年,10─14 頁) ..

(12) 148 (856). 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). 存などの要素が含まれるが,物理的生存が他. 判断を通じて,脅威の存在の有無と自国の「阻. の要素の前提となる(武田,2003 年,192─193. 害される価値」の物理的生存への阻害の程度を. 20). 頁) .国家の物理的生存への阻害の程度は脅. 確定させる.しかし,対外政策決定者が脅威す. 威の様態に応じて変化し,物理的生存への阻害. る主体の内面的特徴を外部から認識するため,. の程度が大きくなればそれだけ認識される脅威. その存在の正確な解明には困難を伴う.そのた. が高まることになる.. め,対外政策決定者 は,脅威 す る 主体 の「能. また,それぞれの「阻害される価値」の優先. 力」,「意図」の 判断 の た め,IC に よって 提供. 度は時代や状況によって異なってくる.例え. された両要素に関する「情報」を基に脅威を認. ば,米国の安全保障政策を長期的視点で概観す. 21) 識する(佐島,2007 年,48─53 頁) .. ると,冷戦期の米国の安全保障とは,第一義的 に自国の独立をソ連の軍事的脅威から軍事力に. ⑵ 脅威認識のメカニズム. よって守ることであった.しかし,冷戦後,米. 対外政策決定者 は,「阻害 す る 主体」を 国家. 国は自国の軍事的安全が当面保障されていると. に限定した場合,脅威の様態を確定する前に. いう認識の下,核兵器などの大量破壊兵器の拡. 「能力」,「意図」の判断を通じて脅威の有無を. 散,国連の平和機能などの冷戦期では副次的な. 評価し,その過程で「阻害される価値」の物理. 関心しかなかったものへ,さらには経済,エネ. 的生存への阻害の程度を同時に検討すること. ルギーをはじめとする安全保障上の非軍事的側. よって,脅威 の 様態 を 確定 さ せ る(図 4).実. 面へと相当程度移行した(神谷,2003 年,6─7. 際に,CIA は 1983 年に作成した分析資料の冒. 頁) .それと対応して,米国の「阻害される価. 頭で,「核拡散は能力と意図を要件とする.す. 値」も,物理的生存との関連が強い領土の保全,. なわち,核爆弾を製造する能力とそれを実行す. 国民の生命・財産の保護,政府組織の維持など. る意図である」と明記しており,情報機関が「能. から,比較的物理的生存との関係が弱い国際社. 力」「意図」の 2 要件を基に脅威を判定してい. 会・関係地域の安定,さらには経済などの非軍. ることが伺える(CIA,1983 年).. 事的価値へ拡大したと言える.. 図 4 では対外政策決定者が脅威認識の際に判. 「阻害される価値」はあらかじめ明確に定義. 定する要素の順序を示している.対外政策決定. されるべきであるが,実際にはそれが脅威にさ. 者は脅威認識の過程で「能力」,「意図」を同時. らされるまで「阻害される価値」の内容が理解 されることは少ない(武田,2003 年,193 頁) .. に意識するものの,その有無の判定は「能力」, 「意図」の順に進められる.そして,対外政策. そのため, 「阻害される価値」の物理的生存へ. 決定者が,「阻害する主体」が阻害する「意図」. の阻害の程度を判断して, 「阻害される価値」. を持っていないものの阻害する「能力」を持っ. を理解することになる.. ていると判断した場合,「潜在的脅威」と認識. 「能力」及び「意図」は,脅威する主体の内. す る(防衛大学校,2007 年,99 頁).つ ま り,. 面的特徴に関する要素である.対外政策決定者 は,脅威する主体の「能力」 ・ 「意図」の有無の . 20)武田は,軍事的脅威からの生存という最低 限の目標が確保されると,さまざまな非軍事的撹 乱に応じて安全保障目標が多様化すると言及して おり(武田,2003 年,193 頁),物理的生存が国家 として守るべき価値・目標の最も基礎的な要素で あることを示唆している.. . 21) 「能力」 , 「意図」の 解明 の た め に は,民主 主義国家 の 場合,議会,政府文書,報道 な ど を 通 じて対外政策過程の透明性が一定程度確保されて いるため,それらに関する情報が入手しやすい. 一方,非民主主義国家 の 場合,対外政策過程 の 透 明性が不十分であることが多いため,それらの把 握のためには,IC による諜報活動などによって情 報を収集することになる(佐島,2007 年,49 頁) ..

(13) 対外政策決定者の脅威認識と「情報欲求」⑴(田中). (857) 149. ో㕙⊛ଚ⇛ ㇱಽ⊛ଚ⇛. 䇸ᗧ࿑䇹䈱᦭ή. ァ੐⊛ᆭྋ 䂾 㬍 . ẜ࿷⊛⢿ᆭ. ዊ. 䇸⢻ജ䇹䈱᦭ή. ‛ℂ⊛↢ሽ䷄䶺㒖ኂ䶺⒟ᐲ. 䂾. ᆭ. ᄢ. ⢿. 䇸⢻ജ䇹䊶䇸ᗧ࿑䇹䈱್ᢿ䈫หᤨ䈮䋬㒖ኂ䈘䉏䉎ଔ ୯䇹䈱‛ℂ⊛↢ሽ䈻䈱㒖ኂ䈱⒟ᐲ䉕್ᢿ. 㬍 ⢿ᆭ䈪䈲䈭䈇. 武田, 2007 年, 13 頁, 西原,2007 年,90─101 頁を参考に作成. 図4 脅威認識のメカニズム. 対外政策決定者は, 「阻害する主体」の「能力」. 的として実施される軍事的措置を指す.部分的. が あ る と 判断 し た 段階 で「潜在的脅威」と 認. 侵略とは,領土の併合以外の目的を持って対象. 識し,その後, 「意図」があると判定した場合,. 国の領土の一部を破壊する軍事的措置を指す.. 「脅威」と認識する.. 具体例として,1981 年のイスラエルによるイ. 「阻害する主体」が対象国の物理的生存を阻. ラク・オシラクの核施設の空爆などが挙げられ. 害 す る 方法,つ ま り「脅威」の 様態 と し て,. る.軍事的威嚇とは,軍事的措置までは至らな. 物理的生存への阻害の程度が大きい順に,全. い軍事力を利用した挑発行為であり,対象国周. 面的侵略,部分的侵略,軍事的威嚇 が 挙 げ ら. 辺への兵力移動などが想定される.北朝鮮によ. れる22).これらの行為は国家が直接的に対象国. る核実験やミサイル発射なども軍事的威嚇に含. に対して実行する具体的な軍事的行為であり,. 23) まれる(防衛大学校,2007 年,90─99 頁) .. それらの物理的生存への阻害の程度も大きい. 全面的侵略 と は,1991 年 の イ ラ ク に よ る ク ウェート侵攻のような対象国の領土の併合を目. ⑶ 対 外政策決定者 の 脅威認識,「情報欲求」, 対外行動の相関性の仮説 以上の脅威認識のメカニズムに基づき,脅威. . 22)侵略国からすれば自衛戦争である場合も, 対象国からすれば侵略になるため,侵略と自衛の 区別が明確ではない(防衛大学校,2007 年,94─95 頁).なお,侵略の定義についても論争があったが, 国連総会 は,安全保障理事会・総会 に 一応 の 指針 を示すため,1974 年に「侵略の定義」を採択した (山本,1995 年,719 頁).. 認識の拡大と「情報欲求」,対外行動の変化の 連関性を図で示すと図 5 となる. . 23)全面的侵略とそれ以外の侵略に分類し,そ れ以外の侵略に部分的侵略,軍事的威嚇を含める 見解もある(防衛大学校,2007 年,90─99 頁) ..

(14) 横浜国際社会科学研究 第 15 巻第 6 号(2011 年 2 月). 150 (858). 認識せず. 「阻害 する能 力」の 解明(脅 威の探 知). 通常の 外交政 策の維 持. 兆候の察知. 潜在的脅威. 脅. 威. 「阻害する能力」の解明 「阻害する意図」の解明 脅威の様態の解明. 国際協調での問題解決を志向 交渉 軍事的行動. 筆者が作成. 図5 対外政策決定者の脅威認識,「情報欲求」 ,対外行動の変化の相関性. 図 5 で,対外政策決定者が認識する脅威が拡. さ ら に,IC は,対象 が「意図」も 有 す る「脅. 大 す る こ と で, 「情報欲求」の 重心 が「能力」. 威」である可能性が高まると,脅威の様態に関. から「意図」 ,脅威の様態の解明へ,対外行動. する「情報」も生産・提供を進めていく.そして,. がより攻撃的行為へ変化するとの仮説が導かれ. 対外政策決定者が対象の「能力」,「意図」の存. る.具体的には,対外政策決定者は,脅威認識. 在を確信したことで「脅威」を認識し,「欲求」. の要件である「能力」 ・ 「意図」に基づき「情報」. は脅威の有無の判定から脅威の様態を解明する. を「欲求」し,脅威がない段階では,IC は対. ための「情報」へ向かう.. 外政策決定者 の「能力」に 関 す る「情報欲求」. この仮説の特徴として,「情報欲求」が脅威. に基づき,脅威する可能性がある対象の有無を. 認識よりも先行して変化するため,対外政策決. 検証する. 「潜在的脅威」と認識されていく過. 定者が対象を脅威の兆候,「潜在的脅威」,「脅. 程で,対外政策決定者の「能力」解明への「情. 威」と認識するよりも早く,「情報欲求」の重. 報欲求」はさらに強まり,IC はその対象の「能. 心を「能力」の解明から「意図」の解明,「脅. 力」に 関 す る「情報」を 生産 し,対外政策決. 威」の 様態 へ と 徐々に 変化 さ せ る.そ し て,. 定者の「能力」の有無の判断を促す.それと同. 対外行動は,脅威認識よりも早い,「情報欲求」. 時に IC は対象の「意図」に関する「情報」も. の変化と同じタイミングで対外行動が攻撃的に. 提供し始める.対外政策決定者が,対象を「能. 徐々に変化していくと想定する.. 力」 を有する「潜在的脅威」と認識した段階で,. (続く). 「情報欲求」の 重心は「能力」の解明から「意 図」の解明へと移行し,IC もその「情報欲求」 に対応して生産する「情報」の内容も変える.. [た な か け い す け 横浜国立大学大学院国際社 会科学研究科博士課程後期].

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参照

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