学 位 論 文 題 名
博 士 ( 医 学 ) 松 岡 伸 一
肝癌に対する血管新生抑制剤TNP ―470(AGM ―1470 )単独 およびcisplatin 併用による抗腫瘍効果韜よび血清銅値の意義
学位論文内容の要旨
I緒 言
固 形 腫 癌 の 生 体 内 増 殖 に は 継 続 的 な 血 管 新 生 が 必 須 で あ る 。 し た が っ て 、 血 管 新 生 の 抑 制 は 腫 癌 の 増 殖 を 抑 制 す る と 考 え ら れ る 。 現 在 ま で に 血 管 新 生 を 抑 制 す る さ ま ざ ま な 物 質 が 報 告 さ れ て き た が 、 臨 床 応 用 に 至 っ た も の は な か っ た 。 . し か し 、 最 近 開 発 さ れ たT NP−470 (AGM―14 70)は 、 血 管 新 生 抑 制 効 果 が 高 く 副 作 用 が 少 な ぃ た め 、 血 管 新 生 抑 制 剤 と し て の 臨 床 応 用 が 可 能 と さ れ 、 現 在 米 国 で 第 1相 試 験 が 行 わ れ て い る 。 本 研 究 で は 、 ラ ッ ト 肝 癌 に 対 す る 本 剤 単 独 お よ ぴcisplatinと の 併 用 に よ る 抗 腫 癌 効 果 を み る と 共 に 、 本 剤 投 与 後 に 、 血 管 新 生 のco―factorと 言 わ れ て い る 銅 の 血 清 値 の 変 化 を 検 討 し た 。
I I方 法
1. 実 験 動 物 と 腫 癌 細 胞 : 実 験 動 物 は5な い し6週 齢 、 体 重150か ら200gのWistar‐Kin gA雄 性 ラ ッ 卜 を 用 い た 。 腫 癌 細 胞 は 、3 ‑ntet hyI‐4ーdimethylaminoazobenzenの 経 口 投 与 に よ り 教 室 で 樹 立 し 、 継 代 し て い る ラ ッ ト 肝 癌 細 胞 を 用 い た 。 培 養 肝 癌 細 胞l 07個 を ラ ッ ト の 背 部 皮 下 に 接 種 し 担 癌 ラ ッ ト を 作 成 し た 。
2. 薬 剤 の 投 与 方 法 :
実 験1; 担 癌 ラ ッ ト に 対 しTNP−470を 腫 癌 接 種 当 日 よ り7日 間 連 日 皮 下 投 与 し 、 腫 癌 接 種4週 後 ま で の 期 間 に お け る 腫 癌 体 積 を 算 出 し 、 本 剤 の 抗 腫 癌 効 果 を 検 討 し た 。 薬 剤 の 投 与 量 は5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、30mg/kgと し た 。
実 験2; 担 癌 ラ ッ 卜 に 対 しTNP‐47020mg/kgとcisplatinO.5mg/kgの 同 時 併 用 投 与 を 腫 瘍 接 種 日 よ り7日 間 連 日 行 な い (A群 ) 、 そ れ ぞ れ の 薬 剤 を 単 独 で 投 与 し た2群 (B. l
C群 ) お よ ぴ コ ン ト ロ ー ル 群 (D群 ) と 抗 腫 癌 効 果 を 比 較 し た 。 ま た 、TNP−47020mg/k gを 腫 癌 接 種 当 日 よ り7日 間 投 与 し 、 次 の7日 間 にcisplatinO.5mg/kgを 投 与 す る 群 ( E群 ) と 、 薬 剤 投 与 順 序 をE群 の 逆 に し た 群 (F群 ) の 抗 腫 癌 効 果 を 比 較 し た 。 観 察 期 間 は 実 験1と 同 様 と し た 。
‑83―
3. 血 清 銅 の 測 定 : 実 験1の 各 群 の 血 清 銅 値 を 原 子 吸 光 光 度 計 ( 日 立 社2‑8000) を 用 い て 週1回 、4週 に わ た り 測 定 し た 。 ま た 、 腫 癌 を 接 種 せ ず 薬 剤 の 投 与 を 実 験1と 同 様 に 行 っ た 非 担 癌 ラ ッ 卜 に 対 し て も 血 清 銅 を 同 様 の 方 法 で 測 定 し た 。 4. 組 織 学 的 検 討:HematoxylinーEosin染色 で、 腫 瘍組 織の 変化 を観 察 する とと もに 、 腫 癌 内 で 毛 細 血 管 に 富 む 部 位 を200倍 の 視 野 で5か 所 選ぴ 、毛 細血 管数 を 数え て平 均し た も の を 、 毛 細 血 管 密 度 と し 、 検 討 項 目 に 加 え た 。
m結 果
1.TNP−470の 腫 瘍 増殖 への 効果 :TNI'ー470の5mg/kg投 与群 は コン 卜ロ ール 群と 比 較し て 、 腫 癌 増 殖 抑 制 効 果 を 認 め な か っ た が 、 投 与量 を10mg/kg、20mg/kg、30mg/kgに 増 量す る と 用 量 依 存 性 に 増 殖 抑 制 効 果 が 増 強 し 、 抑 制 の 期 間 が 延 長 し た 。 2.TNP−470とcisplatinの 併 用 に よ る 抗 腫 瘍 効 果 : 両 薬 剤 を 同 時 に 併 用 し たA群 の 抗 腫 瘍 効 果 は 、B群 お よ びD群 と 比 較 し て 有 意 に 増 強 さ れ た が 、cisplatin単 独 投 与 のC群 と の 間 に は 有 意 差 が な か っ た 。 ま た 、 両 薬 剤 を 異 時 性 に 併 用 し たE、F群 の 抗 腫 癌 効 果 は コ ン ト ロ ー ル 群 と の 比 較 で は 、 と も に 有 意 に 抑 制 さ れ た 。E、F群 問 は 、3週 ま で は 有 意 差 が な か っ た が 、 そ れ 以 降 はF群 の 体 積 がE群 と 比 較 し て 有 意 に 小 さ か っ た 。 同 時 併 用 と 異 時 併 用 と の 比 較 、 す な わ ちA群 とE、F群 と の 比 較 で は 、A‑E群 間 に は 有 意 差 は な く 、 A.F群 問 で は 、F群 の 腫 癌 増 殖 がA群 と 比 較 し て 有 意 に 掫 制 さ れ た 。 3.TNP−470の 血 清 銅 値 へ の 影 響 : 薬 剤 非 投 与 の 正 常 ラ ッ ト の 血 清 銅 値は100p g/dl前 後 の 値 を 維 持 し た が、 担癌 ラ ット では 腫癌 の 増殖 に伴 って 血清 銅 値は 漸増 した 。TNP−470 投 与 群 に お い て は 、 投 与 終 了 直 後 に コ ン 卜 ロ ー ル 群 と 比 較 し て 有 意 な 血 清飼 値の 上 昇が み ら れ た が 、 担 癌 ・ 非 担 癌 群 間 に は 有 意 差 は な か っ た 。 薬 剤 投 与 終 了1週 以 降 の 血 清 銅 値 は 、 非 担 癌 ラ ッ トで は正 常ラ ット と同 様 の値 を維 持し たの に 対し 、担 癌ラ ット で は、
低 下 後 、 再 上 昇 を し た 。 担 癌 コ ン ト ロ ー ル 群 と の 比 較 で は 、TNP―4705mg/kg、10mg/kg 投 与 群 の 血 清 銅 値 は 腫 癌 接 種3週 後 に お い て コ ン ト ロ ー ル 群 よ り 有 意 に 高 値 で あ っ た 。 腫 癌 接 種2週 以 降 に お け る 各 治 療 群 閲 の 比 較 では 、TNPー470の 授 与量 が少 ない ほど 血 清銅 値 が 高 い 傾 向 が み ら れ た ‐ ゛
4. 組 織 学 的 血 管 新 生 へ の 効 果 :TNPー470単独 投与 群で は、 腫 癌細 胞自 体の 変性 は みら れ ず 、 巣 状 、 帯 状 あ る い は び 漫 性 の 壊 死 が 主 な所 見で あ った 。cisplatin併用 群で は 、前 述 の 所 見 に 細 胞 単 位 で の 変 性 、 壊 死 の 所 見 が 加 わ っ て い た が 、 薬 剤 の 投 与順 序に よ る組 1
繊 学 的 差 異 は 明 ら かで はな か 、っ た。 毛際 血 管密 度は 、TNP―47020mg/kg、30mg/kg投 与群 と も に3週 後 ま で は コ ン ト ロ ー ル 群 よ り 有 意 に 少 な く 、4週 後 に は 有 意 差 が な か っ た 。
W考 察
本 研究 では 、ま ずTNP―470のラ ット 実 験肝 癌に 対す る抗 腫 瘍効 果を 検討 し た。その 結果、
本 剤 単 独 で 、 用 量 依 存 性 の 抗 腫 瘍 効 果 を が 認 め た 。 文 献 的 に は 、 本 剤 は 転 移 抑 制 効 果 が 高 く 、 原 発 巣 に 対 す る 効 果 は 少 な い と の 報 告 が あ る 。 そ の 理 由 と し て は 、 あ る 程 度 の 大 き さ に 成 長 し た 腫 瘍 の 血 管 新 生 を 抑 制 し て も 、 既 存 の 血 管 か ら の 栄 養 に よ り 腫 癌 の 増 殖 が 持 続 す る た め と 考 え ら れ る が 、 本 研 究 で は 腫 瘍 接 種 当 日 よ り 本 剤 の 投 与 を 開 始 し た た
ー84一
め 、 腫 瘍 の 着 床 に 必 要 な 血 管 の 新 生 が 抑 制 さ れ 抗 腫 瘍 効 果 が 現 れ た と 考 え ら れ た 。 本 剤 とcisplatinと の 併 用 に 関 し て は 、 両 剤 を 同 時 に 併 用 し た 場 合 や 本 剤 投 与 後 にcisp latinを 投 与 し た 場 合 の 抗 腫 瘍 効 果 の 増 強 は 明 ら か で は な か っ た 。 一 方 、cisplatin投 与 後 に 本 剤 を 投 与 し た 場 合 に は 、 著 明 な 抗 腫 瘍 効 果 の 増 強 と そ の 期 間 の 延 長 を 認 め た 。 そ の 機 序 に 関 し て は 、cisplatin投 与 に よ , り 変 性 を 受 け た 腫 癌 細 胞 が 再 度 増 殖 す る た め に 必 要 な 血 管 新 生 をTNPー470が 抑 制 し た た め と 推 察 さ れ た 。 両 剤 の 同 時 投 与 やTNP―470の 投 与 を 先 行 さ せ た 場 合 で は 、TNP−470の 血 管 新 生 抑 制 作 用 に よ りcisplatinの 腫 癌 組 織 内 へ の 移 行 が 抑 制 的 に 働 い た た め に 抗 腫 瘍 効 果 の 増 強 が 得 ら れ な か っ た と 考 え ら れ た 。 TNPー470の 投 与 直 後 に 血 清 銅 の 有 意 な 上 昇 が 認 め ら れ た が 、 担 癌 、 非 担 癌 群 間 に 差 を 認 め な か っ た 。 す な わ ち 、 こ れ は 担 癌 の 有 無 に 関 係 の な ぃTNP−470投 与 自 体 の 影 響 で あ る と 考 え ら れ た 。 非 担 癌 群 で は 本 剤 の 投 与 中 止 後1週 以 降 で は 血 清 銅 値 の 上 昇 は な く 、 正 常 ラ ッ ト と 差 が な か っ た 。 す な わ ち 、 本 剤 の 血 清 銅 増 加 作 用 は 投 与 中 止1週 ま で に は 消 失 す る と 考 え ら れ た 。 担 癌 ラ ッ ト で は 本 剤 投 与 中 止 後1週 目 に 血 清 鋼 は 一 旦 低 下 す る が 、 そ の 後 腫 癌 の 増 殖 に 伴 い 、 再 上 昇 が 認 め ら れ た 。 コ ン 卜 口 一 ル 群 に お い て も 腫 癌 増 殖 に 伴 っ て 血 清 銅 は 漸 増 傾 向 を 示 し た た め 、 こ の 血 清 銅 の 上 昇 はTNP−470の 効 果 で は な く 、 担 癌 の 影 響 と 考 え ら れ た 。 し か し 、TNP―470治 療 群 (5mg/kg、10mg/kg) の 血 清 銅 値 は 腫 癌 接 種3遇 後 に は コ ン ト ロ ー ル 群 よ り 有 意 に 高 値 で あ り 、 ま たTNP−470治 療 群 問 に も2、3 週 後 の 値 に 有 意 差 が あ っ た こ と か ら 、 こ れ ら の 群 の 血 清 銅 値 は 担 癌 の 影 奮 だ け で な く 、 血 管 新 生 抑 制 効 果 の 消 失 の 影 響 を 受 け て い る も の と 推 察 さ れ た 。TNP−470治 療 群 (20mg/k g、30mg/kg) に お い て 腫 癌 内 毛 細 血 管 密 度 と 血 清 銅 値 が 正 の 相 関 を 示 し て い た こ と か ら も 腫 瘍 内 毛 細 血 管 の 再 増 殖 と 血 清 銅 と の 関 連 性 が 推 察 さ れ た 。
V結 語
1. TNP― 470は ラ ッ ト 肝 癌 に 対 し て 用 量 依 存 性 の 抗 腫 瘍 効 果 を 示 し た 。 2. cisplatin投 与 後 に TNPー 470を 投 与 す る と 、 強 い 併 用 効 果 を 認 め た 。 3. TNP− 470の 腫 癌 血 管 新 生 个 の 効 果 は 抗 腫 癌 効 果 と ほ ば 平 行 し た 。 4.TNP−470自 体 に 血 清 銅 値 を 増 加 さ せ る 効 果 が あ っ た 。
5.TNP−470の 抗 腫 癌 効 果 の 消 失 に よ る 腫 癌 の 急 激 な 増 殖 、 腫 癌 内 血 管 の 増 加 に 伴 い 血 清 銅 値 が 上 昇 し た 。
―85―
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 内野純一 副 査 教 授 齊藤秀哉 副査 教授 細川真澄男
学 位 論 文 題 名
肝癌に対する血管新生抑制剤TNP 一470(AGM ―1470 )単独 およびcisplatin 併用による抗腫瘍効果謂よび血清銅値の意義
固形 腫瘍の生体内 増殖のために は継続的な血管新生が必須である の で、血管新生 の抑制は腫瘍の 増殖を抑制すると考えられる。現在 ま でに血管新生 を抑制するさま ざまな物質が報告されてきたが、臨 床応用に至ったものはなかった。しかし、最近開発され・たTNP −470 (A GM ― 1470 )は、血管新生抑制効果が高く副作用が少なぃため、血管新 生 抑 制剤としての 臨床応用が可 能であり、現 在米国で第 1 相試 験が 行われている。
そこで著者は、ラット肝癌に対する本剤単独および cisplatin との 併用による抗腫瘍効果をみると共に、本剤投与後に、血管新生のCO ― factor と 言 わ れ て い る 銅 の 血 清 値 の 変 化 を 検 討 し た 。
研 究 方 法
1 .実験動 物と腫瘍細胞 :実験動物は Wistar ― KingA 雄性ラットを 用いた。腫瘍細胞は、3 −methyl 一4 −dimethylaminoazobenzen の経口 投与に より教室で誘 発し、継代して いるラット肝癌細胞を用いた。
培 養肝 癌細胞 107 個 をラットの背部 皮下に接種し 担癌ラットを 作成 した。
2 .薬剤の 投与方法:実 験( 1 );担癌ラットに対しTNP ― 470 を腫 瘍 接種 当日より 7 日間違日皮下 投与した。薬 剤の投与量は 5mg/kg 、 10mg/kg 、 20mg/kg 、 30mg/kg とした。実験( 2 );担癌ラットに対し
―86−
TNP ― 47020mg/kg とcisplatinO . 5mg/kg の同時併用投与を腫瘍接種 日より 7 日間連日行なぃ(A 群)、それぞれの薬剤を単独で投与し た 2 群( B , C 群 )およびコン卜ロール群( D 群)と抗腫瘍効果を 比較した。また、TNP ー47020mgi/kg を腫瘍接種当日より7 日間投与 し、次の7 日間に cisplatinO .5mg/kg を投与する群(E 群)と、薬 剤投与順序をE 群の逆にした群( F 群)の抗腫瘍効果を比較した。
観察期間は実験 1 、2 とも4 週までとした。
3 .血清銅の測定:実験1 の各群の血清銅値を原子吸光光度計(日 立社 Z −8000 )を用いて週1 回、4 週にわたり測定した。また、腫瘍 を接種せず薬剤の投与を実験1 と同様に行った非担癌ラットに対し ても血清銅を測定した。
4 .組織学的検討:腫瘍組織の変化を観察するとともに、腫瘍内 で毛細血管に富む部位を200 倍の視野で5 か所選んでその数を数えて 平 均 し た も の を 、 毛 細 血 管 密 度 と し 、 検 討 項 目 に 加 えた 。 研究結果
1 .TNP −470 の腫瘍増殖への効果:TNP ―470 の単独投与により用量 依 存 性 に 増 殖 抑 制 効 果 が 増 強 し 、 抑制 の 期 間 が 延長 し た 。 2 .TNP ―470 とcisplatin の併用による抗腫瘍効果:両薬剤を同時 に併用したA 群の抗腫瘍効果は、cisplatin 単独投与群と有意差がな かった。また、両薬剤を異時性に併用したE 、F 群の間の比較では、
3 週以降では F 群の体積が E 群と比較して有意に小さかった。同時 併用と異時併用との比較では、 A‑E 群間には有意差はなく、 A . F 群間では、 F 群の腫瘍増殖が A 群と比較して有意に抑制された。
3 .TNP ―470 の血清銅値への影響:TNP −470 投与群においては、投 与終了直後にコントロール群と比較して有意な血清銅値の上昇がみ られたが、担癌・非担癌群間には有意差はなかった。薬剤投与終了 1 週以降の血清銅値は、非担癌ラッ卜では正常ラットと同様の値を 維持したのに対し、担癌ラットでは、低下、再上昇を認めたが、各 群間の比較では、TNP ー470 の投与量が少なぃほど血清銅値が高い傾向 がみられた。
4 .組織学的血管新生への効果:TNP ー470 単独投与群では、腫瘍細
―87ー