博 士 ( 医 学 ) 中 井 之 人
学 位 論 文 題 名
動脈硬化病巣進展におけるナチュラルキラー T 細胞の 役割に関する研究
―マウス動脈硬化モデルを用いてー
学位論文内容の要旨
I. 背 景
近年 、動 脈硬 化病 巣 は炎 症性 疾患 であ る との 認識 が浸 透し、その進展には変 性脂質を貪食 し 泡沫 化す るマ クロ フ ァー ジの みな らず 、 リン パ球 など の免疫担当細胞が重要 な役割を担っ て いる こと が、 明ら か にさ れつ っあ る。 ヒ トお よび マウ スの動脈硬化病巣には りンパ球の存 在 が 確 認 さ れ て お り 、 な か で もCD4陽 性 の ヘ ル パ ーT(Th)細 胞 に 関 す る 報 告 が 多 い 。Thl 細 胞は 動脈 硬化 促進 に 、Th2細 胞は 動脈 硬化 抑制 に 寄与 する と考 えら れ てい る。 実際、サイ ト カ イ ン に タ ー ゲ ッ ト を 絞 っ た 研 究 に よ り 、Thlサ イ ト カ イ ン で あ る イ ン タ ー フ ェ ロ ン (IFN)‑Y、 イ ン タ ー ロ イ キ ン(IL)‑12な どは 動脈 硬化 に 促進 的に 、Th2サ イト カイ ン であ る IL‑10は 抑制 的 に機 能し てい る と報 告さ れて いる 。
ナ チ ュ ラ ル キ ラ ーT (NKT)細 胞 は 、T細 胞 とNK細 胞 両 者 の 表 面 マ ー カ ー を 有 し 、 ユ ニ ー クな 機能 特性 を有 す る細 胞集 団で ある 。NKT細 胞 に関 して は、 これ ま で動 脈硬 化への直接 的 関 与 を 実 証 し た 報 告 は な い 。 し か し 、NKT細 胞 はVa14Ja18な ど のinvariantなT細 胞 受 容 体(TCR)を 介 し てCDld分 子 に よ り 提 示 さ れ る 脂 質 を 認 識 す る こ と 、 ま た 活 性 化 状 態 で 強カ なIFN‑y,IL‑4の 産生 能 を示 すこ とか ら、 動 脈硬 化進 展過 程に 関 与す る可 能性は十分 に 考 え ら れ る 。 実際 ヒト 動 脈硬 化病 巣に おい て 、CDld陽 性細 胞 の存 在が 確認 され て いる こ と もNKT細胞 の 関与 を示 唆し て いる 。
II. 目 的
マ ウ ス動 脈硬 化モ デル を 用い 、動 脈硬 化 病巣 進展 にお けるNKT細胞 の 役割 を検 討する。
III. 方 法
C57BL/6 (WT)マ ウ ス と 、NKT細 胞 を 欠 くCDld欠 損(CDld. ′ ル マ ウ ス に10‐30週 齢 の間 、動 脈硬 化 食( 以下AD、 脂肪15%,コレステロール1.25%含有)を与えたのち 屠殺し、
実験 に用 いた 。 コン トロ ール マウ ス は正 常食 (chow) を 与えた。次に動脈硬化自然 発症モデ ルの アポE欠 損(apoE.′ . )マ ウス (8週齢 )に 、NKT細 胞のりガンドであるa‐ガ ラクトシ ルセラミド(a−GalCer)O.1pg/g体重、あるいはvehicleのみを(a)2週間間隔で計3回、(b) 隔週 毎計11回、腹腔内投与し た。(a)は13週齢、(b) は19週齢で屠殺し実験に用い た。これ らのマウスの末梢血を採取 し、血清を分離後、酵素法 により血清脂質を測定した。apoE.′.マ ウス を用 いる実験においては 、a‐GalCer投与直前から投 与72時間後までの血清IFN‐Y,IL‐4 濃 度 を 測 定 し た 。組 織学 的検 索 とし ては 、心 基部 周 囲を 凍結 包埋 し 、大 動脈 弁直 上よ り80 Hm間 隔 、8連 続 切 片 を 作 製 、OilRedーOで 脂 肪 染 色 し た 。 病 巣 面 積 はコ ンピ ュー タ処 理 に
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より測定した。動脈硬化病巣の質的評価には各種免疫染色、およびElastica‑Masson染色を 行った。また脾臓・肝臓を摘出し、脾細胞・肝リンパ球を調整、各種抗体を用いてフローサ イトメトリー解析を行った。 食餌によるNKT細胞の反応性の差違を検討するため、ADまた はchow飼育 下WTマウ スにa‑GalCerを静 注し 、2ま たは12時 間後 に脾細胞を採 取、1.5 時 間 培 養 の 後 、 上 清 中 のIFNーY,IL‑4,IL‑10濃度 を測 定し た。 動脈 硬化 病巣 での Va14Ja18mRNAの発 現を 解析 する ため 、ADあ るい はchow飼 育下WTマ ウス 、apoE‑t・マ ウスより採取した大動脈サン プルを用いRT‑PCRを施行した。最後に、WTマウス、CDld‑/‑
マウスより腹腔マクロファージを採取し、24‑48時間10‑ 50yg/mlの低比重リポ蛋白(LDL)、 あるいは酸化LDL (OxLDL)と培養した。フローサイトメトリーにてMacー1゛細胞上のCDld, H̲2Kb,I̲Ab,CD40の発現を調べた。さらにりポタンパク添加、洗浄後にWTマウスの肝リ ンパ球を加え、IL‑2存在下で24時間共培養後上清を採取し、IFN‑y,IL‑4濃度を測定した。
IV. 結 果
NKT細 胞の著減するCDld‑i‑マウスにADを負荷した際に形成される動脈硬化病巣面積は、
同条件下のWTマウスと比し、有意に小であった。脂質プロファイルは両群で差がなかった。
chow飼 育 下 に 比 し てAD飼 育 下WTマ ウ ス で は 、NKT細 胞 の 減 少 が 観 察 さ れ た が 、 a‑GalCer投与直後の脾細胞からのサイトカイン産生能は十分に保たれており、その産生パ ターンはThlタイプに偏倚していた。apoE‑i.マウスにa‑GalCerを投与しNKT細胞を活性 化すると、脂質プロフんイルが同等であるにもかかわらず、初期動脈硬化病巣は有意に拡大 した。さらにapoE‑/.マウスに長期的にa,‑GalCer投与すると、対照群との病巣面積の有意差 は消失したが、病巣中のコラーゲン含有量が有意に減少した。apoE‑i‑マウスおよびAD飼育 下WTマ ウ ス の 大 動 脈 サ ン プ ル に お いて 、Va14Ja18のTCR再 構成 がmRNAレ ベル で 確認 さ れ た 。一 方、chow飼 育下WTマ ウス のサ ンプ ルに はVa14Ja18mRNAは 検出 され な かっ た。 腹腔 マク ロ ファ ージ にLDL、OxLDLを 添加、培養すると、CDld発現が増強した。し かし、Hー2Kb,I̲Ab,CD40の発現には明らかな変化を認めなかった。これらのマクロファー ジ と 肝 リ ン パ 球 の 共 培 養 に よ り 、NKT細 胞 か ら のIFN‑'y産 生 が 認 め ら れ た 。
v. 考 案
WTマ ウス 、お よびCDld‑/‑マ ウス にADを負荷するモデルの実験より、NKT細胞の欠損 は動脈硬化進展の抑制にっながることが判明した。またapoE一/‑マウスにa ‑GalCer投与する 実験より、NKT細胞の活性化は動脈硬化を進展させることが示された。これらの結果より、
NKT細胞 は動 脈硬 化に 促進 性に 寄与 する と結 論し た。AD飼 育 下WTマウスでは、脾臓お よび肝臓でNKT細胞の減少が観察されたが、 サイトカイン産生能は十分に保たれており、
その産生パター ンはThlタイプに偏倚していた。この結果は、Thl反応が動脈硬化促進性で あるという従来 の報告に沿った結果といえる。NKT細胞減少の機序としては、NKT細胞の 活性化誘発性細胞死(AICD)、表面マーカ丶一Iの持続的down‑modulation、動脈硬化病巣など 末梢組織へのNKT細胞の遊走、な,どが考えられた。実際、NKT細胞のメジャーポピュレー シ ョ ン に 発 現 さ れ るVa14Ja18のTCR mRNAが 、chow飼 育 下WTマ ウ ス の大 動脈 サン プ ル では 検出 されず、AD飼育下のサン プルで検出された。従って、NKT細胞がねsituに遊 走し機能すると考えられた。apoE‑'‑マウスに長期的にa‑GalCer投与する実験において、対 照群との病巣面積の有意差は消失した。この結果は、リンパ球は主に動脈硬化進展過程の初 期段階に影響す るという、Songらの報告と一致する。一方、a‑GalCer投与により病巣中の コラーゲン含有量が有意に減少したことは、NKT細胞を介して産生されるIFNーYが,コラー ゲン合成を低下させ、動脈硬化病巣を不安定化させると考えられた。っまり、NKT細胞は進 展した動脈硬化病巣に対しては質的変化をもたらすことが示唆された。これらの機序を検討 するため、血vitroで腹腔マクロファージにOxLDLを添加、培養すると、CDld発現の増強
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が認められた。さらにこれらマクロファージとNKT細胞との共培養により、低レベルでは あるが有意なIFN‑‑(産生が観察された。動脈硬化病巣には変性脂質が多量に存在することか ら、この中のある種の成分がNKT細胞の生理的リガンドとなっている可能性が考えられた。
VI. 結 語
マウス動 脈硬化 モデルに おいてNKT細胞 は動脈硬 化促進 性に寄与すること、またNKT 細胞の活性化に変性脂質によるマクロファージ上のCDld発現亢進が関与することが判明し た 。 NKT細 胞 は 動 脈 硬 化 病 巣 に 存 在 し 、 機 能 し て い る と 考 え ら れ た 。
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学位論文審査の要旨 主 査 教授 北畠 顕 副査 教授 小野江和則 副 査 教授 上出利光
学 位 論 文 題 名
動脈硬化病巣進展におけるナチュラルキラーT 細胞の 役割に関する研究
ーマウス動脈硬化モデルを用いて―
動脈 硬化進展過程においては免疫担当細胞が重要な役割を担っている。ヒトおよびマウ スの動 脈硬化病巣にはりンバ球の存在が確認されており、これ まで主にT細胞を中心に報 告がな されてきた。ナチュラルキラーT (NKT)細胞に関しては、これまで動脈硬化への直 接 的関 与を 実 証し た報 告は ない 。NKT細 胞 はVa14Ja18な どのinvariantなT細胞 受容 体
(1℃R)を介 してCDld分子 によ り提 示さ れ る脂 質を 認識 する。またNKT細胞は活性化状 態で強カなIFNーY,IL‑4の産生能を示すが、これらのサイトカインは動脈硬化の病態生理に も深く 関与することが知られている。こうした背景に基づき、本研究ではマウス動脈硬化 モ デ ル を 用 い 、 動 脈 硬 化 病 巣 進 展 に お け る NKT細 胞 の 役 割 を 検 討 し た 。 C57BL/6 (WT)マ ウ ス と 、NKT細 胞 を 欠 くCDld欠 損(CDld+)マ ウ ス に10ー30週 齢 の 間、コ レステロール1.25%を含有す る動脈硬化食(以下AD)を与えたところ、CDl d‑i‑マウ スの動 脈硬化病巣面積は、WTマウスに比し、有意に減少していた。脂質ブロファイルは両 群 で 差 が な か っ た 。AD飼 育 下WTマ ウ ス で は 、 正 常 食 ( 以 下chow)飼 育下WTマ ウス よ りNKT細胞の減少が観察されたが、a‑GaICer投与直後の脾細胞からのサイトカイン産生能 は 十 分 に 保 た れ て お り 、 そ の 産 生 パ タ ー ン はThl夕 イ プ に 偏 倚 し て い た 。 次に 動脈硬化自然発症モデルのアボE欠損(apo E‑t‑)マウス(8週齢)に、NKT細胞の りガンドであるa―ガラクトシルセラミド(a‑GalCer) O.lLLg/g体重、あるいはvebjcleのみを
(a)2週間間隔で計3回、0)隔週毎計n回、腹腔内投与し、NKT細胞を活性化した際の動脈 硬化への影響を解析した。(a)は13週齢、O)は19週齢で屠殺し実験に用いた。(a)では脂質 プロフ ァイルが同等であるにもかかわらず、Q.GalCer投与により初期動脈硬化病巣は有意 に拡大した。さらに長期的にa・GalCer投与した0)では、対照群との病巣面積の有意差は消
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失したが、病巣中のコラーゲン含有量が有意に減少し不安定プラーク的病巣となっていた。
NKl'細胞 のメジヤ ーボピ ュレーシ ョンに 発現され るVa14Ja18のTCR mRNAが、動脈 硬 化 病変で発 現してい るか、ADあるいはchow飼育下WTマウス、apo E‑/‑マウスより採取し た 大動脈サ ンプルを 用いRT‑PCRを 施行し たところ 、apoE‑t‑マウスおよびAD飼育下WTマ ウ ス の 大動 脈 サ ンプ ル に おい て のみ、Va14Ja18のTCR再 構成がmRNAレベル で確認さ れ た 。 こ の こ と よ り 、 NKT細 胞 が mJぬ に 遊 走 し 機 能 す る と 考 え ら れ た 。 最 後に、Wrマ ウス、CD1〆マ ウスよ り腹腔マ クロファ ージを 採取し、24・48時間10‐ 50嵋′mlの低比重リボ蛋白(LDL)、あるいは酸化LDL(OxLDL)と培養した。フローサイト メトリーにてMac−1゛細胞上のCD1心H‐2Kb,I‐パ,CD40の発現を調べたところ、OxLDLを添 加時にWrマウス腹腔マクロファージ上のCDld発現が増強した。さらにりボタンバク添加、
洗 浄 後 にWTマ ウス のNKT細 胞 を多 量に含 有する肝 リンバ球 を加え 、nー2存在 下で24時 間 共培養後 上清を採取し、IFN・Y濃度を測定したところ、OxLDL処理WT腹腔マクロフアー ジ とNKT細 胞との共 培養に より有意 なIFN‐Y産生が観察されたが、CD1ぴマウス腹腔マク ロファージではこの反応は得られなかった。動脈硬化病巣には変性脂質が多量に存在する こ とから、 この中のある種の成分がNKT細胞の生理的リガンドとなっている可能性が考え られた。
以 上よルマウス動脈硬化モデルにおいてNKT細胞は動脈硬化促進性に寄与すること、ま たNKT細胞 の活性化 に変性 脂質によ るマク ロファー ジ上のCDld発現亢進が関与すること が 判 明 し た 。NKT細 胞 は 動 脈 硬 化 病 巣 に 存 在 し 、 機 能 し て い る と 考 え ら れ た 。 口 頭発表に 際し、 上出教授 から動脈 硬化食負荷時のNKT細胞減少の機序、病巣中NKT細 胞 と動脈硬 化病巣の量的関係およびNKT細胞が動脈硬化に影響するサイトカイン以外の機 序 について 質問がなされた。次いで小野江教授からNKT細胞が制御するサイトカインネヅ トワークの動脈硬化への影響、老化としての動脈硬化の現代的解釈について質問がなされ た。最後に北畠教授から臨床面での新たな動脈硬化診断・治療の可能性ついて質問がなさ れた。いずれの質問に対しても、申請者は研究結果に基づいて、あるいは文献的知識によ り、概ね適切な回答を行った。
本 論文は、動脈硬化病巣進展におけるNKT細胞の役割を明らかにしたものとして意義が あると評価され、審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑚や 取得単位なども併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと 判定した。
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