− 49 −
地 域 で 祭 を 支 え る 意 義
ー 岸 和 田 だ ん じ り 祭 を 通 し て ー人 間 教 育 専 攻 現 代 教 育 課 題 総 合 コ ー ス 楠 田 裕 介
はじめに
現在、少子高齢化や過疎化による祭の担い手 の減少、過密化や価値観の多様化による特定の 居住地が自分には特別のかかわりを持つという 郷土愛あるいは地元意識の減退もグローパル化 に加わり、祭の継承が難しくなってきた地域が 多い。このような状況下で、約
300
年の歴史と 伝統を誇る岸和田だんじり祭を姐上に挙げ、地 域で支える祭の意義を改めて考察したい。第
1
章 岸和田だんじり祭の発展と変容 岸和田だんじり祭も他の地域は同じ、都市祭 礼化傾向に中にあるということは否定できない。一方で祭礼に関して蓄積されたノウハウは、寄 合を通じて口承によって伝承されていくなど、
都市祭礼化以前の姿も、色濃く残している。つ まり、伝統を受け継ぎながら合理的で現代的な 運営を行っているところにだんじり祭の特徴が ある。岸和田市は、大阪府南部に位置する市で ある。伝統あるだんじり祭は長い間、多くの人々 が関わって継承されてきたと同時に、その有様 が時代を経るとともに変化してきている。
第
2
章 岸 和 田 だ ん じ り 祭 の 位 置 づ け現在の岸和田だんじり祭の位置づけを
5
点挙 げている。1
点目は、祭礼としての岸和田だん じり祭である。直接的に五穀豊穣を祈願すると指 導 教 員 金 野 誠 志
いう祭の要素は低下しているとはいえ、祭の目 的から五穀豊穣を祈願が消えたわけではない。
2
点目は観光資源としての岸和田だんじり祭 である。行政の後方支援なども厚くなり、全国 観光客を岸和田に呼び込む資源として広く位置 づけている。3
点目は、産業資源としての岸和 田だんじり祭である。だんじりには、地車の製 作に関する産業をはじめ、祭礼衣装に関係する 産業などは、一地域の祭が大きな需要を満たし ている。産業として成立するだけのそれなりの 需要があり、地域社会を潤している。4
点目は、文化資源としての岸和田だんじり祭である。だ んじり製作の継承や鳴物の技術などは口承によ って伝えられている。様々な側面からだんじり 祭に関する経験を共有することで、文化資源と してのだんじり祭を生かすことで市民としての 安心感や秩序を保つことで地域社会を潤してい る。 5点目は、ソーシャルキャピタルとしての 岸和田だんじり祭である。集団としての協調性 や「ご近所の底力」といった市場では評価しに くい価値が生み出され、人々は互いに信用し合 い自発的に協力する協調行動が活発である。
第
3
章 ソーシヤルキャピタルの機能を支える 祭礼組織祭礼組織は地縁を重視しつつ、祭を成功させ るという共通目標の下で、年齢層別の役割が明
− 50 − 確になっており、同世代での関係性の中で、連 帯感や協働意識が醸成されていく。同時に異世 代間では、近代以前にあったような弟子と師匠 の関係の中で、祭を継承していくための技術や 心構えが醸成されていく。
祭礼組織の中で生起する人と人との関係性と は、「小屋掃除」や「走り込みJがある。論者の ように地元出身ではない多くの団員が祭礼組織 に所属するようなってきた状況下では、仲間意 識とお互いの信頼関係を醸成する時間と場を特
に設けることができた。
祭礼組織の外でも生起する人と人との関係性 には、「夜警巡視
J
や「夕涼み会」がある。祭礼 組織の団員と地域内外の子どもたちゃ保護者と のコミュニケーションとしての機能を果たすこ とが期待されている。同年齢だけではなく異年 齢の地域の子どもたちゃ保護者が、集まって一 緒に楽しんだり話したりする機会自体が減って きているので、この会はそういう貴重な機会として地域に根付いている。
第 4章 地域の伝統・文化の継承と創造という 意義
伝統と文化を尊重すること、とりわけ地域の 伝統・文化を尊重することは、郷土を愛するこ とにつながり、それが拡大して我が国や他国を 尊重することになる。「地域の伝統・文化Jとい う自覚は、他の地域との対比において、その地 域の内で共有された表象としての自己像であり、
ローカリティ(その土地の固有性やその土地ら しさ)差として意識され、内面的文化としては 地域住民の道徳的価値の根拠となり、また、ほ かの住民との情緒的結合の共有によってコミュ ニティ感覚を生み出すのである。「その社会を生 きる者のその存在意義」を自覚できる「伝統・
文化jの継承するということで、「祭を地域で支 える意義」は大きいはずである。
2
節では結合契機の並立による地域社会の活 性化からという題で考察していく。過疎地域で あれ、岸和田市のような都市地域であれ、人口 動態が不安定で昔からある特定の地域に居住し 続ける現象ということは、「伝統・文化J
の継承 と創造が危機であるという見方もできる。「伝 統・文化」の継承と創造を地縁にしか頼らない 場合であり、社縁や選択縁を、傾向契機として 考慮すると事態も変わってくる。岸和田だんじ り祭は地縁、社会縁、選択縁が並立したことで、そのバランスを保ちながら成り立っている。祭 を地域で支える意義は狭い地域社会の「伝統・
文化」ではなく、意味ある地域社会そのものを 継承しながら、他地域と協力や連帯を幅広く進 め、身となる地域の相互理解を図る新たな創造 という点からも大きいと考える。
おわりに
「伝統・文化Jだからこそ、時代が変わって もその変化に応じつつ、継承していく意義は大 きいと考える。そういう面からしても、岸和田 だんじり祭も始まった当初からすると、試行錯 誤を繰り返しながら、より良い社会の在り方を 目指して変化してきたといえよう。一方で、岸 和田だんじり祭の継承が、安泰というわけでは ない。祭りの担い手は、確かに減ってきている という現実があるからである。また、地縁だけ では、祭の運営に支障をきたしていることも事 実である。だからこそ、今の社会に合った地域 で祭を支える意義をより多くの人で確認しなが
ら、継承していきたい。