中国の職場におけるストレスマネジメント教育の実践的研究 [ PDF
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(2) ストレスの知識を伝え,ストレス対処法を紹介し,スト. して,その概念への理解が深まった。また,一人ずつ自. レスマネジメント教育のプログラムを実践することが必. 分の職場ストレスについての発言を通して, 「納期が短す. 要であると思っている。. ぎる」 「生産現場の人手不足」 「自分の担当している仕事. よって,本研究の目的は以下のようである。 1.中国の職場におけるストレスマネジメント教育の導. が多すぎる」など,さまざまな話を取り上げ,自分自身 のストレスへの気付きができて,他人のストレスへの共. 入: 「導入プログラム」の設定と実施の試み. 感も得られた。続いて,自分にとって, 「ストレス」が溜. 2.中国勤労者用の職場ストレス反応尺度作成の試み. まる時,どのような反応をするのか,一人ずつ具体的に. 3.中国の職場におけるストレスマネジメント教育の実. 発表し, 「怒りっぽくなっている」 「肩が凝る,腰が凝る」. 践: 「実践プログラム」の実施と効果についての検討. など発言が取り上げられた。そして,社会競争や職場競 争が激化されている現代中国社会に生きていくため,ス. Ⅱ【予備研究】. トレスと付き合う「術」を身に付けることの大切さにつ. 中国の職場におけるストレスマネジメント教育の導入. いても十分な認識が得られ,設定目標の「ストレスに対. ∼「導入プログラム」の設定と実施の試み∼. する理解を深めること」は,達成できたと思われる。 「体. 1. 「導入プログラム」の設定理由と目標. 験第一回」では,前回紹介した技法の中で,参加者たち. <テーマ> ストレス社会を生きる. に興味や関心を与える技法(呼吸法、漸進性弛緩法、自. <目標と指導計画>. 律訓練法、動作法)を体験してもらうことにした。 「体験. ① 初回セミナー目標:ストレス概念の導入、自分のス. 第二回」においては,四つの技法を体験した上で,自分. トレスへの気づき、ストレス対処法の紹介 ② 体験第一回目標:ストレスマネジメント技法の体験 と学習(呼吸法・漸進性弛緩法・自律訓練法・動作法). に相応しいと思われる技法を選んでもらい,各自で行え るように練習させた。 表 1 全「導入プログラム」の状態不安得点の測定結果 60.00. ③ 体験第二回目標:技法の体験、習得、活用 2.実施概要と効果測定 1)協力社:中国 A 市にある私有企業 K 社の本社. 初回セミナー前 (pre) 前 実践第一回 . 実験群 (n=9). 統制群 (n=13). 53.22 (2.82). 53.69 (4.42). 52.89 (4.37). 52.23 (7.22). 46.67 (3.00). 53.85 (5.16). 50.56 (5.96). 51.85 (5.70). 43.56 (5.68). 51.92 (4.01). 52.00 (7.89). 53.31 (3.33). 55.00 状 態 不 安 得 点. 50.00 実験群 45.00 統制群 40.00. pre. post. follow up. 図 2 各条件における「 状態不安尺度」 得点の推移. (K 社は4つの子会社を持つ,グループ経営の小規模 私有企業である。主な業務は医薬品と健康食品の生産販 売及び建築材料の輸入、貿易,従業員は 177 名である) 2)対象:K 社本社の社員. 後 前 実践第二回 後 (post) 一ヶ月後 (follow up). 実験群:全プログラムに参加したホワイトカラー9名 (平均年齢:34.89,SD=8.37) 統制群:実験群と同時に質問調査に協力してくれた他 のホワイトカラー13名 (平均年齢:35.62,SD=7.15). その結果,リラクセーションの体験直後で参加者は有 意に不安状態を軽減させていることがわかったが,Pre と Follow 期の間では,有意差が見られなかった。アン ケート調査の結果においても「技法のコツを十分把握で. 3)期間:2002 年 12 月下旬∼2003 年 1 月上旬. きていない・・・」とか「一人ではなかなか定期的に続. 4)場所:K 社の会議室(初回セミナー)と社内にある. けられない・・・」のような感想が書かれていることか. 従業員食堂(2回の体験セッション). ら,設定目標の「その対処法を活用できるようになる」. 5)記録方法:テープ録音. というところまでは,達成されていないと思われる。よ. 6)効果測定: 「導入プログラム効果測定質問紙」. って,今後「実践プログラム」を設定する際,より洗練. ①自己評定質問紙: 「状態不安尺度」STAI FORM Y(大. される指導案を検討する必要がある。. 平,1987)の中国語訳文 ②感想記入用紙:自由記述 ③質問項目:(Follow の継続及び感想を聞く質問). Ⅲ【本研究】 <研究一>「職場ストレス反応尺度」作成の試み. 3.実施と調査の結果(図2と表1参照) 4.全体のまとめと今後の課題 「初回セミナー」において,参加者たちは職場ストレ スの概念を中国語「工作圧力」に翻訳するプロセスを通. (中国勤労者用) 1.目的 ストレスマネジメント教育の効果を測定するため,中 国勤労者用の「職場ストレス反応尺度」を作成する。.
(3) 2.方法. 1)実施上の留意点:. 質問項目を作成するにあたり, 予備調査で行われた 「職. 前回の経験を踏まえ, 「紹介したリラクセーション技法. 場ストレスについての語り合い」プロセスの結果と自由. が多いから,混乱しやすい」 「参加者人数が少ない」 「援. 記述式の感想文から得られた資料,及び筆者自らの経験. 助者不在の各自での実行は継続しにくい」という反省点. をベースとし,日本と欧米の先行研究を参考に,28項. を考慮し,以下のような対策を取り入れた。①全プログ. 目の質問紙を新たに作成した(回答は5件法) 。質問紙の. ラム参加可能な協力者(ブルーカラーを含む)の募集②. 実施は,中国北部都市 A と B 市にある国有、合弁と私有. ストレスマネジメント技法の選択:準備ステップとして. 企業の従業員 400 名を対象に 2003 年 5∼6 月の間,各. 呼吸法を行うこと,各自で継続的に実行しやすい「自律. 会社の人事担当者によって勤務時間中に実施された。有. 訓練法」を体験すること③世話人との意見交換④. 効回答を得た 337 名(平均年齢:39.46,SD=11.33). Follow の工夫:トレーナー指導の録音テープを配るこ. を分析対象者とした。. と⑤効果測定の工夫: 「職場ストレス反応尺度」を用いる. 3.結果と考察. と同時に,各部門の責任者が部下の仕事を評価する質問. 尺度の構成と信頼性の検証:28項目について因子分 析(主因子法、バリマックス回転)を行い,共通性の低. 紙 「仕事のチェックポイント」 調査用紙も用意すること。 2)対象:K 社本社の従業員. い第25項目(会議中,ボーとなることがよくある)を. 実験群:全プログラムに参加した従業員21名(部分. 削除し,その結果は解釈容易な6因子解(怒り、疲労、. 参加者除外)(平均年齢:29.33,SD=10.24). 抑うつ、心配、不安、緊張)を採用することにした。各. 統制群:実験群と同時に質問調査に協力してくれた他. 因子のα係数が.704~.875であった。 妥当性の検証:質問項目の内容的妥当性について,専 門家により評定してもらった。基準関連妥当性について. の従業員24 名(平均年齢:31.29,SD=9.54) 3)期間:2003 年11月週に2回,1セッション 50 分 間で,8セッションを実施した。. は,曽(2003)の既存調査による結果に基づき,データ. 4)場所:オリエンテーションは会議室で,体験セッシ. を一要因(企業形態)分散分析した。 「抑うつ」を除く,. ョン(1∼7)は従業員食堂で行われた。. 各下位尺度において,私有企業の従業員は,国有、合弁. 5)記録:テープ録音。. 企業の従業員よりも有意に強いストレス反応を示してお. 6)効果測定: 「実践プログラム効果測定質問紙」. り,既存調査の結果と一致した。 「抑うつ」については,. ①職場ストレス反応調査用紙. 尺度得点としては分散分析の結果に有意な差が見られな. ②感想記入用紙(自由記録 A&B 二種). かったが,国有、合弁企業の従業員より,私有企業従業. ③仕事のチェックポイント用紙. 員の得点が高くなる傾向があった。これらの結果は,先 行研究の結果と一致し,本尺度の妥当性が示された。. 3.結果と考察(図3と表2参照) 表 2 全「実践プログラム」の職場ストレス反応得点の測定結果. 中国における「職場ストレス反応」の客観的評価とし 実験群 (n=21). 統制群 (n=24). オリエンテーション前 (pre). 71.57 (11.33). 69.33 (12.70). 体験セッション7終了後 (post). 59.90 (14.30). 70.96 (15.35). 一 ヶ 月 後 (follow up). 63.95 (10.69). 71.29 (11.57). て作成された尺度は,今後の研究に対して,職場ストレ スの生起、程度を決定する要因の特定,又は,ストレス を低減するために個人が行うコーピングやリラクセーシ ョン,即ちストレスマネジメントの有効性の評価といっ た研究テーマを実証的に検討するための必要な測定変数 を与えることができる。. 75.00 職 場 ス ト レ ス 反 応 得 点. 70.00. 65.00 実験群. 60.00. 55.00 統制群 50.00. pre. post. follow up. 図 3 各条件における「 職場ストレス反応」 得点の推移. 分散分析の結果は,交互作用が有意であり(F (2,129) <研究二>. =3.09,p<.05) ,実験群において Post 期(F (1,129). 中国の職場におけるストレスマネジメント教育の実践. =6.19,p<.01)と Follow 期(F (1,129)=4.83,. ∼「実践プログラム」の実施と効果∼. p<.05)は,Pre 期より「職場ストレス反応」得点の. 1.目的 中国の職場におけるストレスマネジメント教育「実践. 平均値が有意に低かった。実験群と統制群の間に,単純 主効果が有意であった(F ( 2, 129) =4.51,p<.05) 。. プログラム」の設定と実施,及びその効果について検討. Tukey 法による下位検定を行ったところ,Post 期及び. する。. Follow 期において実験群は統制群より「職場ストレス. 2.方法. 反応」得点の平均が有意に低い値を示した。.
(4) このことから,今回の「実践プログラム」は,中国の. もできて,職場におけるストレスマネジメント教育の実. 職場において,勤労者の職場ストレスを軽減させる効果. 践は,重要な意義があったと思われる。. が表れ,プログラムの設定目標が達成できたと考えられ. 2)ストレスマネジメント教育の効果測定について:. る。特に Follow 期において,リラクセーションを継続. 「導入プログラム」においては,特定のストレス反応(不. している人は,実験群の半数以上(13人)を占め,そ. 安)のみを測定する一次元的尺度「状態不安尺度」を使. の頻度についても週に4回と答えた人は8名であり,実. 用したが, 「実践プログラム」において,中国勤労者を対. 験群の1/3以上を占めている。それが Follow 期の. 象に情動的、認知・行動的反応も含む多様なストレス反. 効果をもたらした主な原因であると説明できる。ブルー. 応を包括的に調べる総合的尺度 「職場ストレス反応尺度」. カラーたちにとって社内宿舎での集団生活は,リラクセ. を開発した。 この尺度に加え, 「仕事のチェックポイント」. ーションを継続することに便宜な条件が備わっている。. 調査用紙も使用した。. Follow 期のアンケート調査の結果においても「特に. その結果として, 「職場ストレス反応尺度」は,一定の. ‘やろう’とは思っていないけど・・・やっている人を. レベルで客観的に職場ストレスの現状やプログラムの効. 見てついでにやった・・・」とか, 「・・・平日に・・・. 果を反映していたが, 「仕事チェックポイント」調査の測. 宿舎の中で・・・皆一緒にやっていた」のような感想が. 定期間(三ヶ月)は,企業現場における従業員の業務評. 書かれていることから,彼らが楽しくリラクセーション. 価を測る期間としてはやや短いということで,その機能. を体験している様子が伺える。ホワイトカラーたちにと. が十分に発揮できなかった。. って,定期的にリラクセーションを継続するのは,まだ. なお,近年のストレスマネジメントに関する研究は,. まだ難しいところがあり,彼らの Follow up アンケー. 効果を測定するために,一次元的尺度と総合的尺度を組. トには, 「たまには・・・家に帰って・・・やってみた・・・」. み合わせて使用する傾向がある。その方向に従って,更. とか「一人でやるより誰かと一緒にやったほうが集中し. に質的な調査や評価するものを取り入れることが期待さ. やすい・・・」など感想が記入されている。. れている。 2.今後の課題と展望. Ⅳ【総合考察】 1.本研究のまとめ. 1)本研究の結果から示された最も重要な課題: ①ストレスマネジメント技法の選択:今回は,欧米や. 1)ストレスマネジメント教育の実施について:. 日本で開発された技法を中国の勤労者に紹介し,その中. 「導入」と「実践」という二回のプログラムの実施を通. から皆に興味や関心を持たせる「呼吸法」と「動作法」. して,職場生活の各側面において,普段目立たない問題. または「自律訓練法」を中心に体験してもらった。しか. が浮かび上がってきた。特に「実践プログラム」におい. し,日常生活の中で勤労者たちはどのような方法で気分. ては,大半のブルーカラー参加者がセッション中,積極. 転換をしているのか,中国の長い歴史の中で伝統的な健. 的に発言できず受動的になりがちであったし,参加後感. 康法,例えば太極拳、気功、禅のようなストレス対処法. 想の中で「おかしいことをしゃべったら,笑われるだろ. らしいものを,リラクセーション技法としてストレスマ. う」のような内容が書かれて,彼らが抱えている「劣等. ネジメント教育プログラムに導入することが可能である. 感コンプレックス」の問題が顕在化された。学歴も社内. か,といった課題が残されている。. 地位も低いブルーカラーたちにとって, 「皆の前で発言す. ②Follow の問題: 現在中国では,心理学者や心理的. るのが恥ずかしい,教材のプリントが難しい・・・」と. 支援を提供する人が少ないため,プログラム実施後の. いったところがあった。トレーナーと世話人,及び現場. Follow 期においては, 「援助者不在」の問題について,. 管理者が適切な介入をした後,彼らが緊張感を解し,こ. その解決法を検討すべきである。. の場にいられるようになった。その後,彼らは「小グル. 2)今後の展望:. ープで体験すること」を希望し,自分にとってより安心. 今後の実践に向けて,中国の職場におけるストレスマ. できるような環境を求めていた。感想の中で「グループ. ネジメント教育の第三弾として「改善プログラム」を設. の中で,暖かく包まれている感じがして,とても落ち着. 定、実施する際に,プログラム自身が一定の期間に渡っ. いた」と,自分が守られている体験を語ってくれた。. て行なわれる一つの「活動」としてではなく,勤労者の. このように,ストレスマネジメント教育プログラムを. 職場生活に織り込まれる 「一部分」 のような形に考案し,. 実施することによって, 勤労者の職場ストレスが軽減し,. ストレスマネジメント教育を職場に定着させるように工. 職場同士間の交流が深まり,人間関係、職場環境の改善. 夫することが望ましいと思われる。.
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