弘
法
大
師
教
学
と
『釈
摩
訶
衍
論
」−
そ の ニー
吉
田
宏
哲
弘法大 師教学と 『釈摩 訶衍論』・ その2
(吉田宏哲) は じめ
に 弘 法 大 師 教 学 と 『 釈摩
訶 衍 論 』 ( 以 下 『 釈 論 』 ) に つ い て 、 前 の 論 文 で そ の 若 干 を 考察
し た 。 そ こ に お い て 予 め 提出
し た 課 題 は 、 一 、 弘 法大
師 教 学 の 構 造 と 『 釈 論 』 二 、 大 師 教 学 の 構 造 に お け る 『 釈 論 』 と そ の 他 の 諸 経 論三 、 『 大 乗 起 信 論 』 と 『 釈 論 』 の 三 つ で あ り 、 そ の う ち
前
の 論 文 で は 、 一 の 課 題 に 関 し て 、大
師 教 学 中 の 『 十 住 心 論 』 『 秒 蔵 宝 鑰 』 『 弁 顕 密 二 教 論 』 の 三 論 と 『 釈 論 』 と の 関 係 を考
察 し た の で あ る 。 そ こ で そ こ に お け る 結 論 を要
約 し て こ こ に 示 す と 、 一 、 『 十 住 心 論 』 に お い て 『 釈 論 』 の 「 摂 不 摂 」 の 文 ( 『 釈 論 』 第 十 巻 ) 及 び 「 得 不得
」 の 文 ( 同 第 一 巻 ) に 依 拠 し て 、第
九 極 無 自 性 心 と 第 十秘
密 荘 厳住
心 の 区 別 を 確 立 し た こ と 。 二 、 『 秘蔵
宝 鑰 』 に お い て 五 重 問 答 ( 同 第 五 巻 . 大 正 第 三 二 巻 六 三 七 頁 下 ) の 文 を 引 用 し て 、 第 六 か ら第
九 ま で の 四 つ の 住 心 と 第 十 住 心 と の相
違 を 論 証 し た こ と 。 三 、 『 弁 顕 密 二 教 論 』 に お い て 、 五 重 問答
の 文 、 「得
不得
」 の 文 、「
摂
不 摂 」 の 文 、 五 種 言 説 の 文 を 引 用 し て 、 果 分 不 可 説 の 顕 よ り 果 分 可 説 の 密 へ の 超 入 を 論証
し た こ と 。 四 、 竪 の 教 判 に お け る 第 十 秘 密 荘 厳住
心 の 確 立 と 、 横 の 教 判 に お け る果
分 可 説 の 立 場 の 提 示 と は 、 同 一 の 事 柄 で あ り 、 こ れ を換
言 す れ ぽ 、 法 身 説 法 の 立 場 、 絶 対 的 根 拠 た る 真 言 の 立 場 が 宣 揚 さ れ た−
真
言 宗 の 立 教 開宗
1
と い う こ と に ほ か な ら な い 。 五 、従
っ て 『 釈論
』 所説
の 「 摂 不 摂 」 の 文 、 「 得 不得
」 の 文 、 五 種 言 説 の文
等 に よ っ て 表 明 さ れ た 不 二摩
訶NII-Electronic Library Service 智山学報第二 十 七輯 衍 の 思 想 、 お よ び 如 義 言 説 の 思 想 は 、 大 師 の 横 竪 の
教
判 の 成 立 、 換 言 す れ ば 真 言 宗 の 立教
開宗
の た め の 理 論 的 根拠
の 確 立 に と っ て 、 そ の 論 理 的 な 核 心 と も い う べ き 位 置 を 占 め て い る と い う こ と が 出来
る 。 こ の 論 文 で は 、 以 上 の 如 き 結 論 を 踏 ま え な が ら 、 残 さ れ た 三 つ の 課 題 の そ れ ぞ れ に つ い て考
察 し て い き た い 。 そ の 際 、 そ の 記述
の 方 法 と し て は 、 既 に 前 の 論 文 に お い て 、 大 師 教 学 の根
本 問 題 に 対 す る 『 釈 論 』 の 役 割 に つ い て 、 一 応 の 結 論 が提
出
さ れ た の で 、 こ れ を 踏 ま え て 次 の よ う な 形 式 を と る こ と に す る 。 一 、 『 大 乗 起 信 論 』 と 『 釈 論 』 二 、 横 竪 の教
判 論 以 外 の 大 師 の 諸 論 と 『 釈 論 』 と の 関 係 三 、 結 論ー
大
師
教 学 に お け る 『 釈 論 』 の 位 置 『大
乘
起
信
論
』 と 『釈
論
』 弘 法 大 師 教学
と 『 釈 摩 訶 衍 論 』 と い う こ の 論 文 の テ ー マ か ら い っ て 、 こ の章
で 論ず
る 事 柄 の 範 囲 は、 『 大 乗 起信
論 』 全体
に 対 す る 『 釈 論 』 の 関 係 で は な く 、 大 師 教学
に 重 大 な 影響
を 及 ぼ し た と 思 わ れ る限
り で の 『 釈 論 』 の 思想
と 『 起 信 論 』 と の 関 係 で あ る 。 勿 論 、 『 起 信 論 』 に 対 す る 註 釈 は 法 蔵 の 『 義 記 』 を は じ め と し て 数 多 く あ り 、 ま た 『 釈 論 』 の 註 釈 書 も そ れ 以 上 に 多 い 。 し か し こ れ ら も こ こ で は 大 師 教 学 と の 関 連 に お い て 必 要 で あ る 場 合 に 限 り考
察
す る に と ど め る 。 さ て 『 釈 論 』 が 『 起 信 論 』 の 単 な る 逐 語 的 註 釈 に 過 ぎ な か っ た な ら ぽ 、大
師 は 『 釈 論 』 で な く、 本 論 で あ る 『 大 乗 起 信 論 』 の文
を 引 用 さ れ た か 、 あ る い は 両 論 と も に 引 用 さ れ る こ と は な か っ た で あ ろ う 。 し か る に 大 師 は 『 大 乗 起 信 論 』 も 引 用 さ れ て は い る が、 こ れ は 『 釈 論 』 の 文 の 引 用 に 比 べ れ ば 殆 ん ど 無 に 等 し い 。 と い う こ と は 『 釈 論 』 が 『 起 信 論 』 の 註 釈 書 で あ る に も拘
わ ら ず 、 本 論 た る 『 起 信 論 』 に は 無 い 思 想 を 打 ち 出 一2
一 N工工一Electronlc Llbrary弘法大師教学と 『釈摩訶衍論』・その
2
(古田宏哲) し て お り 、 こ れ を 大 師 は そ の 教 学 の 形 成 に 際 し て 援 用 さ れ た と 予 測 せ し め る の で あ る 。 す で に 述 べ た よ う に 、 大 師 は そ の 横 竪 の 教 判 の 確 立 に 際 し て 、 『 釈 論 』 中 よ り 不 二 摩 訶 衍 、 如 義 言 説 の 思 想 を援
用 さ れ た 。 い ま 結 論 か ら 先 に い 之 ぽ 、 こ の 二 つ の 思想
お よ び 、 後 に も 論ず
る如
く 、 三 十 三 法 の 思 想 、 平 等 と 差 別 の 思想
が、 『 釈 論 』 に お い て 『 起 信 論 』 の 解 釈 を 通 じ て 、 新 た に 打 ち 出 さ れ た の で あ る 。 そ こ で こ こ で は こ れ ら 四 つ の 思 想 あ る い は 概 念 が 『 釈 論 』 に お い て い か に 説 か れ て い る か 、 そ れ ら の 思 想 は 『起
信 論 』 と い か に関
っ て い る か 、 ま た そ れ ら の 思 想 は お 互 い に い か に 関 連 し て 説 か れ て い る か を 考 察 し よ う 。H
三 十 三 法 門 に つ い て 『 起 信 論 』 は 仏 教 思 想 と し て の 法 の 分 類、 構
成
に お い て、 大 乗 論 書 の 中 で も 抜 群 で あ る が 、 こ れ を 釈 す る 『 釈 論 』 は そ の構
想
に お い て 、 本 論 に 優 る と も 劣 ら な い 力 量 を 示 し て い る 。 そ れ を 端 的 に 示 し て い る の が こ の 三 十 三法
門 な る 構 想 であ
る 。 そ こ で こ れ を 『 起 信 論 』 と対
比 し て 図 示 す る と 前 頁 の よ う に な る 。 さ て こ の 図 に よ っ て み る に 、 『 起 信 論 』 を 釈 す る 『 釈 論 』 の 立 場 の特
徴 が い く つ か指
摘 で き る 。 臼D
『 起 信 論 』 立 義 分 の 全 体 を 三 十 三 法 門 に 分 類 し た こ と 。 圖 三 十 二 法 門 の 分 類 の 根 拠 あ る い は 範疇
( カ テ ゴ リ ー ) は 、 総 ( 普 通 ) と 別 ( 個 あ る い は 特 殊 ) 、 所 入 と 能 入 で あ る 。 あ る い は 総 合 と 個 別 、 同 一 性 と 差 別 性 、 絶 対 と相
対 な る概
念 で あ る 。 圖両 重 の 重 と は か か る
対
立 概 念 が そ こ に含
ま れ て い る と い う こ と で あ り 、 こ れ は 分類
さ れ た事
柄 が 互 い に 他 に 対 し て 総 別 、 能 所 等 の 関 係 の中
に あ る こ と を 示 し て い る 。 凶 『 起 信 論 』 の 「 摩 訶 衍 老 総 」に 記 け る 「 総 」 と は 通 常 の
解
釈 の 如 き 副 詞 と し て で は な く、 前 重 の 総 門 で あ り 、 こ れ に所
入 根 本 総 体 た る 八 法 と 、能
依 趣 入 別 相 た る 八 門 が あ る 。 本 論 の 「 説 有 二 種 云 何 為 二 。 一 者 法 。 二 者義
… … 三 者 用 大 謂 能 生 一 切 世 間 出 世間
善
因 果 故 。 」 ま で が 第 二 重 の 別 門 で あ り 、 こ れ に も 一 心 三 大 の 四 法 を 能 入 門 、 所 入 法 及 び 差 別 性 と 同 一 性 と に 分 類NII-Electronic Library Service 智山学報第二 十七輯 大 乗 起 信 論 … 釈 摩 訶 衍 論 一 体 … 心 摩 訶 衍 三 白 冖 心 摩 訶 衍 無 量 無 辺 諸 法 差 別 不 増 不 減 体 大 摩 訶 衍 寂 静 無 雑 一 味 平 等 不 増 不 減 体 大 摩 訶 衍 所 入 根 本 総 体 門 如 来 蔵 功 徳 相 大 摩 訶 衍 ( 両 重 ア リ 具 足 性 功 徳 相 大 摩 訶 衍 能 生 冖 切 世 間 因 果 用 大 摩 訶 衍 能 生 一 切 出 世 聞 因 果 用 大 摩 訶 衍 摩 訶 衍 者 総 ( 初 重 ) ( 総 門 ) ) )
・ ・ . 鹽 ● ・ ・ の ■ , ・ 唱 , ■ … ■ ・ 5 ● ■ ● ・ ・ 鹽 ・ 9 ■¶.o鹽.・●,ego… .¶・.,.,■・●・o陰… ■o■¶,6… .9.・o・隔
能 依 趣 入 別 相 門 ( 両 重 ア リ 通 達 軌 則 不 動 門 . 本 . 、 い 『 一 イ } ’ 日 1 . 一. 勹 . 、 い 弓 ー 一 〆 日 − 無 量 無 辺 諸 法 差 別 不 増 不 減 体 大 門 寂 静 無 雑 一 味 平 等 不 増 不 減 体 大 門 如 来 蔵 功 徳 相 大 門 具 足 性 功 徳 相 大 門 能 生 一 切 世 間 因 果 用 大 門 能 生 冖 切 出 世 間 囚 果 用 大 門 平 等 平 等 一 皆 無 有 別 異 各 摂 諸 法 故 然 終. 不 雑 乱 一
4
一 N工工一Electronlc Llbrary弘法 大師教学と 『釈摩訶衍論』・その
2
(吉田宏晢) 説 有 二 種 云 何 為 二 一 者 法 二 者 義 ( 第. 一 重 ) ( 別 門、「 所 言 法 謂 衆 娃. 心 出 世 間 法 是 心 即 摂 一 切 世 間 法 依 於 此 心 顕 示 摩 詞 衍 義 ( 何 以 故 是 心 真 如 相 則 示 摩 詞 衍 体 故 心 生 滅 因 縁 相 能 示 摩 訶 衍 自 体 相 用 故ノ 所 言 義 者 即 有一. . 種 云 何 為. 二 不 謂 増 一 不 切 減 法 故 真 如 平 等 者 体 大 本 法 所 依 決 定 門 根 本 摂 末 分 際 門 建 立 二 種 摩 訶 衍 門 心 真 如 門 心 LE 戎 H 上 ノ さ エ ヨ … 体 摩 訶 衍 白 体 自 相 自 用 摩 訶 衍 二 者 相 大 性 功 徳 故 三 者 用 大 田 門 匕 匕 , 二 、 一 一曽 ロ ム 圓 凵 ノー 一 一 謂 如 来 蔵 具 足 無 琶 不i
能 能 二i
生 摩i
− ・ 一・ 訶 衍i
: 一 切 出 世 世i
世 間 間i
間i
因i
因 果 果i
果 門 摩 ; 門 訶i
衍 間 善 因 { 果 故 切 世1
昌1
出 世 所 入 二葉
法ー
i
⊥
目
H
撫鑼
鰾
韈
黝 杯棘
灘
鸛
能 入 二 種 別 門ー
1
⊥
[
H
雛
…鷲
韃
黝 杯轢
覊
所 入 二渠
法ー
1
−
−[
H
製
嬲
離
鸛
能 入 二 種 別 ・ー
[
H
禊
嬲
齲
所丕
法ー
1
ー
宀
口
難
切 出 世閠
果 摩 訶 衍 能 入 二 種ー
[
H
生動
,NII-Electronic Library Service 智山学 報第二十 七輯 し た 十 六
法
門
が あ る 。 幗 前 重 、後
重 の 区 別 は 総 別 の 相 違 で あ り 、 ま た 前後
の 両 重 は 能 所 及 び 同 一 性 と 差 別性
と い う 対 立 概念
に よ っ て 分 類 さ れ て い る 。 ω 両 重 の 諸 法 の 相 互関
係 は、 通 達 軌 則 不 動 門 の 「 平等
平等
一皆 無
有
別 異 各 摂 諸 法 故 然 終 不 雑 乱 」 な る 頌 に よ っ て 示 さ れ て い る 。 以 上 の 三 十 二 法 は い ず れ も 互 い に 他 に 対 す る 関 係 の う ち にあ
り 、 そ の 意 味 で は 相 対 的 法 で あ る 。 そ し て こ の 相待
を 絶 し た と こ ろ に 不 二摩
訶 衍 が 説 か れ る が 、 こ れ は 表 の 最 後 に掲
げ た こ と か ら も わ か る よ う に、 因 縁 が 無 く、 機 根 が 無 く 、教
説 を 離 れ て い る と い う 。 こ れ を 性 徳 円 満 海 と い い 、対
立 を 内包
し な が ら対
立 を 離 れ て い る 絶 待 ( 絶 対 ) の 法 で あ る 。 ( 「 何須
建 立 。 非 建 立 故 」 ) 團 こ れ に 対 し て 修 行種
因 海 は 因 縁 の 法 で あ り 、 相 対 の 立 場 で あ り、 機 根 あ り 、 機 に 応 じ た 教 説 が あ る と い う こ と に な る 。 最 後 に 、 何 故 本 論 た る 『 起 信 論 』 で 、 真如
門 に よ っ て 趣 入 す る 摩 訶 衍 の 法 に は た だ 体 の名
を 立 て ( 「 則 示 摩 訶 衍体
」 ) 、 生 滅 門 に よ っ て 趣 入 す る と こ ろ の 摩 訶 衍 法 に は 自 の 名 を 立 て る か ( 「 能 示 訶 衍 自 体 相 用 」 ) に 対 す る 解 答 が あ る 。 『 釈 論 』 に よ れ ぽ そ れ は 「真
如
門 中無
二 他 相一 故 。 生滅
門
中 有 二他
相一 故 。 他謂
一 切 不 善 品法
。 自 謂 一 切 清浄
品 法 。 若 所 対 治 他 無 。 能 対 治 自 無 故 。 唯 言 レ 体 不 レ 説 レ 自 焉 。 若 所 対 治他
有 。 故 名 言 レ自
不 二 唯 体一焉
。復
次 為 レ 欲 下 顕 中 示 一 法 界 体 平 等 平 等 無 レ 有 二 其 私 一 。 無 量 性 徳 自 然本
有
非 上 レ 得 二 他 力 一 故 。 」 で あ る 。 そ れ 故 、真
如
門 中 に は 生 滅 門 中 の よ う な 自 他 の対
立 は な い と考
え ら れ て い る こ と が わ か る 。 し か し そ れ で は 真 如 門 と 不 二摩
訶 衍 と は ど の よ う に か か わ る の か 。 不 二 摩 訶 衍 も 自 他 の 対 立 を 絶 し て い る の だ か ら真
如 門 と 同 じ で は な い の か 。 こ れ に 対 す る 『 釈 論 』 の 解 答 は な い が 、 私 見 に よ れ ば 、 真 如 門 は そ れ 自 体 と し て は 所 対治
の 他 が な く 、 そ れ 故 能 対 治 の 自 も な い が 、 す で に 生滅
門 と い う 他 に 対 し て存
在 し 、 言 表 さ れ て い る 。 し た が っ て真
如 門 自 体 す で に対
他 的 で あ る故
に 、 こ れ は 不 可 説 の 不 二 摩 訶 衍 と は 同 一 で は な い と い う こ と で あ ろ う 。 口 不 二摩
訶 衍 に つ い て 一6
一 N工工一Electronlc Llbrary弘 法大師 教 学と
r
釈 摩訶衍 論』。 その2
(吉田宏晢) 『 起 信 論 』 に 対 す る 『 釈 論 』 の 特 殊 な 解 釈 と し て 、 す で に 三 十 三 法 門 に つ い て 考 察 し た 。 そ し て そ の 中 で 不 二摩
訶 衍 と い う こ と が 、 三 十 二法
に 対 し て 説 か れ 、 こ の 法 は 機 根 、 因 縁 、 教 説 を離
れ た 円 円 性 徳 海 の 法 で あ る こ と を 見 た 。 『 釈 論 』 は こ の 不 二 摩 訶衍
の 説 を、 『 起 信 論 』 の 立 義 分 の 釈 に お い て 提 出 す る の で あ る が 、 か く し て 確 立 し た 不 二摩
訶 衍 の 説 を 、 こ の 立義
分 の 釈 の 中 だ け で な く 、 他 の い く つ か の 箇 所 に お い て も 説 い て い る 。 そ し て そ の 箇 所 が 実 は 前 に も 指 摘 し た 「 摂 不 摂 」 の 文 、 お よ び 五 重 問 答 の 文 な の で あ る 。 し た が っ て、 不 二 摩 訶 衍 説 の 成 立 の 秘 密 を 明 か す の は 、 『 釈 論 』 に よ る 『 起 信 論 』 の 立 義 分解
釈 、 す な わ ち 前 図 に よ っ て 示 し た如
き 三 十 二 法門
と の 対 応 に こ そ あ る の で あ っ て 、 「 摂 不 摂 」 の 文 あ る い は 五 重 問 答 の文
は 、 単 な る 結 果 を 説 く も の で あ る に過
ぎ な い 。 そ れ で は 、 不 二摩
訶衍
説 の 成 立 の 秘 密 は ど こ に あ る の か 、 ま た そ の 仏 教 思想
史 上 に お け る 意 義 は何
で あ ろ う か 。 す で に見
た よ う に 三 十 二 法 門 は、 起 信 論 立 義 分 所 説 の 全 体 を 、 総 門 ( 前 重 ) と 別 門 (後
重 ) 、 能 入門
と 所 入 門 と に 分 け る こ と に よ っ て 成 立 し て い た 。 こ れ は 換 言 す れ ぽ 『 起信
論 』 立 義 分 所 説 の 全 体 が 、 三 十 二 法門
に よ っ て 重 重 に 説 き 尽 さ れ た と い う こ と で あ る 。 と こ ろ で 所 説 の 法 と は 、 説 く 者 と 説 か れ る 者 、 及 び 説 く 者 と説
か れ る 事柄
と い う 二 重 の 関 係 の う ち で 成 立 し て い る 。 そ し て こ の 能 所 の対
待 が 実 は 『 釈 論 』 で い う 因 縁 の 法 であ
り 、 機 根 あ り 教 説 あ り と さ れ る と こ ろ の 内 容 な の で あ る 。 あ る い は ま た こ れ は 修 行 種 因 海 と も 云 わ れ て い る 。 他 方 、 因 縁 な く 、機
根 な く、 教 説 な く 、 能 所 な き も の が ら と は 、 仏 の 自内
証
の 法、悟
り の内
容 そ の も の に ほ か な ら な い 。 こ れ を 換 言 す れ ば 、 法 を 対 象 化 す る 行 為 そ の も の の 否定
で あ る 。 あ る い は 三 十 二 法 門 を 対象
的 に 捉 え る こ と を 拒 絶 す る と い う こ と で あ る 。 対 象 化 す る働
き そ の も の の 否 定 、沈
黙 。 『 釈 論 』 は こ こ で 維 摩 の 一 黙 の 例 を 挙げ
て い る 。 し か し こ の 不 二 摩 訶 衍 の も つ 意 味 は む し ろ 仏 の 自内
証
、 悟 り の 主体
性、 唯 仏 与 仏 の 世 界 の 開 示 で あ る 。 そ し て そ れ 故 『 釈 論 』 に 説 く如
く 、 不 二摩
訶 衍 と は た だ 不 二摩
訶 衍 で あ る 。NII-Electronic Library Service 智山学報第二 十七輯
H
の で 我 々 は 真如
門 と 生 滅 門 と の相
違 を 体 と 自 と の 区 別 と し て 『 釈 論 』 が 釈 し て い る こ と を見
た 。 し か し な が ら今
こ こ で 明 ら か な こ と は 、 真如
そ れ す ら が 真 如 門 と し て 言 表 さ れ る 限 り 対 象 的 な る も の で あ り 、 対 象 的 な る も の で あ る 限 り、 そ れ は 無 明 の 辺 域 で あ り 、 修行
種
因 海 の 法 門 に 過 ぎず
、 不 二 摩 訶 衍 の 法 仏 に 摂 せ ら れ る と い う こ と で あ る 。 さ て 、 こ の よ う に 見 て く る と 、 『 釈 論 』 に お け る 不 二摩
訶 衍 の 思 想 の 仏 教 思 想 史 上 の 背 景 が 浮 ぴ あ が っ て く る 。 す な わ ち 、 機根
な く 教 説 な き 不 二 摩 訶 衍 と い う こ と に よ っ て 予 測 せ ら れ る も の は 、 『華
厳 経 』 の教
主 で あ り 、 し か も 終 止沈
黙 を 守 る 毘 盧 遮 那 仏 で あ る 。 そ し て 若 し 『 釈 論 』 の 不 二 摩 謫 衍 が 『華
厳 経 』 の 毘 盧 遮 那 仏 を 予 測 し て い る と す れ ぽ 、 不 二摩
訶 衍 を 第 十秘
密 荘 厳 住 心 と し た 大 師 の 立 場 が 、 第 九 住 心 を 超 出 す る も の た る こ と は 自 ら 明 ら か で あ る で あ ろ う 。 し か し 勿 論 こ の 超 出 に は 、 沈 黙 た る 不 二摩
訶衍
が 言 表 さ れ る ( 法 身 説 法 ) と い う 思惟
の 一大
転 換 が 媒 介 項 と し て介
在
し な げ れ ば な ら な い の で あ る 。 一8
一N工工一Electronlc Llbrary Servlce
幗
如 義 言 説 お よ び 一 一 識 心 に つ い て 『 釈 論 』 の 『 起 信
論
』 に 対 す る解
釈 の 特 殊 性 は 、 五 種 言 説 お よ び 一 一 識 心 の 説 に も あ ら わ れ て い る 。 以 下 そ れ を 考 察 し よ う 。 ら 五種
言 説 の 説 と は 『 起 信 論 』 解 釈 分 に 「是
故 一 切法
従 レ 本 已来
離 二言
説 相一 離 二 名字
相一離
二 心縁
相一 」 と あ る を 釈 す る 頌 に 、 「 言 説 有 二 五 種 一 名字
有 二 二 種一 心 量 有 二 十 種一 契 経 異 説 故 」 と い い 、 こ の う ち 言 説 の 五 種 と し て 、 相 言 説 、 夢 言 説 、妄
執 言 説、 無 始 言 説 、 如 義 言 説 を 挙 げ る の で あ る 。 こ れ ら 五 種 言 説 の う ち 問 題 に な る の は 、 い う ま で も な く 如 義 言 説 で あ る 。 こ れ を 『 釈 論 』 の 文 に 依 っ て み る に 、弘法 大師教 学と 『釈摩訶衍論』・その 2 (吉田宏 晢) 「
今
者如
来
云 何 説 法 。仏
言 我 説法
者
。 以 二汝
衆 生在
レ 生 説 一 故 。説
二 不 可 説一 。 是 故 説 レ之
。我
所 説 者 義 語非
レ 文 。 衆 生 説 者文
語 非 レ 義 。 非 ご義
語一 老 皆 悉 空 無 。 空 無 之 言 無 レ 言 二 於 義 一 。 不 レ 言 レ 義 者 皆 妄 語 。 如義
語 者 実 空 不空
。 空 実 不実
。 離・ 一 於 二 相 一 中 間 不 レ 中 。 不 中 之 法 離 二 三 相 一 。 不 レ 見 二 処 所 一如
如 如 説 故 。如
是 五 中 前 四 言説
。 虚妄
説 故 不 レ 能 レ 談 レ 真 。 ア後
一 言 説 。如
実 説 故 得 レ 談 二 真 理一 。 馬 鳴菩
薩
拠 二 前 四 一 故 。 作 二 如 レ 是 説一離
言 説 相 」 と い う 。 そ れ 故 、 こ こ で 指摘
で き る こ と は 、qD
言 説 に 妄 語 と 義 語 と が あ る こ と 。 圖
如 来 は 如 義 言 説 に ょ っ て 説 法 す る こ と 。 圖 如 義 言 説 は 真 を 説 く こ と が 出 来 る 。 凶
如
義 語 は 空 、 実 、 中 の 三 相 を 遠離
し て い る 。『
起
信 論 』 に 説 く 「 離 言 説 相 」 と は 、 四 種妄
語 説 に 拠 っ て 説 か れ た の で あ る こ と 。 次 に 、=
識 心 の 説 と は 、前
掲
の 「 離 心縁
相 」 を 釈 し て 、 「 心 量 有 レ 十 。 云 何 為 レ 十 。 一 者 眼 識 心 … … 。 八 者 阿 梨 耶 識 心 。 九 者多
一 識 心 。 十 者 一 一 識 心 。 如 レ 是 十中
。 初 九 種 心 不 レ 縁 二真
理 一 。後
一 種 心 得 レ 縁 二 真 理 一 而 為 二 境 界 一 。 今 き 拠 二 前 九 一 作 二 如 レ 是 説一 離 心 縁 相 」 と い う 。 そ れ 故 、 こ こ で も 明 ら か な こ と は 、二
識 心 の み が 真 理 を縁
ず る こ と が 出来
、 『 起 信 論 』 で は こ の 一 一 識 心 を 説 か な い 故 に 「離
心 縁 相 」 と い い 、 『 釈 論 』 は こ れ に 反 し て 、真
理 を 縁ず
る 心 の存
在 を説
い て い る と い う こ と で あ る 。 し か ら ば こ れ ら 如 義 言 説 と=
識 心 と は 、 不 二摩
訶 衍 と ど の よ う に か か わ る の で あ ろ う か 。 『 釈 論 』 で は こ れ を 明確
に は 説 い て い な い 。 し か し 乍 ら、 不 二摩
訝 衍 の 思 想 が 『 起 信 論 』 の 解 釈 の ど の よ う な 過 程 か ら 成 立 し た か と い う発
生 の 秘 密 を 見 る と 、 こ の 不 二摩
訶衍
と如
義 言 説 、=
識 心 の思
想 と は 暗 々 裡 に 対 応 し て い る と 考 え る こ と が で き る と 思 う 。 叫法 身 に つ い て 弘 法 大 師 教
学
に お け る 法 身 説 の 位 置 を考
え る と き 、 四 種 法 身 説 、 法身
説 法説
な ど に よ っ て 、 法 身 説 は き わ め て重
NII-Electronic Library Service 智 山学報第二十七輯 要 な
役
割 を 果 た し て い る こ と が わ か る 。 そ こ で こ こ で は 、 『 起 信 論 』 と 『 釈 論 』 に 説 か れ た 法 身説
に つ い て考
察 し た い 。 結 論 か ら 先 に い う な ら ば 、法
身 説 に関
し て 『 釈 論 』 は 『 起 信 論 』 の 説 か ら大
き く離
れ る と い う こ と は な い 。 ま た 、 前 に み た 不 二摩
訶 衍 の 説 、 如 義 言 説 の 説 と 法 身 説 と が関
係 づ け ら れ て 説 か れ る と い う こ と も な い 。 そ こ で 両 論 に お け る 法 身 説 は 次 の 如 く で あ る 。 ま ず 覚 の義
を 釈 す る と こ ろ で 「 離 二 念 相 一 者 等 二 虚 空 界一 。 無 二所
不 ジ 遍 法界
一 相 。 即 是 如 来 平 等 法身
。 依 二 此 法 身 一 説 名 二 本 覚 一 。 」 と あ り 、 『 釈 論 』 は こ れ を 釈 し て 「 本 覚 各有
レ 十 」と い い 、 本 と 覚 と の
字
事 差 別 を各
十 つ つ あ げ て い る 。 こ の う ち 十 本 と は 一 、 根 字 事 本 。 二 、 本字
事
本 … … 十、 総字
事
本 で あ り 、 根 字 事本
と は 「 本有
法
身
能 善 住 二持
一 切功
徳
一 … … 」 、本
字
事 本 と は 「 本 有 法 身 従 二 無始
一来
自
然 性 有 不 二始
起 二 等 で あ る 。 す な わ ち 本 覚 の 本 を 釈 す る に、 本 有 法 身 の 十 の 特 性 を 挙 げ て い る わ け で 、 こ の特
性 を 概 念 化 し て 表 現 す れ ば 、 ω有
徳 性 。 図無
始
性 ( 本 不 生 ) 、 團無 限 性、 永 遠 性 。 幽 自 己 完 結 性 。
根
源 性 不変
性 (常
建
立 )ω 住 於 無 住 無 去 来 圖
不 変 性 ( 常 住 性 ) 剛
堅 固 性 圃
全 体 性 、 普 遍 性 、
遍
満 性 で あ る 。 次 に 『 起 信 論 』 で、 真 如 の 用 を 釈 し て 次 の よ う に い う 。 「 謂如
レ実
知 下 一 切 衆 生 及 与 二 己身
一 真如
平等
無 中 別 異 上 故 。 以 下有
如
レ 是大
方
便 智 除滅
無明
見 申 本 法身
上 。 自 然 而有
二 不 思議
業 種種
之 用 一 。 即 与 二真
如
一 等 遍一 二 切 処 一 。 又 亦 無 レ 有 二 用 相 可 ワ 得 。 何 以 故 謂 諸 仏 如 来 唯 是法
身智
相
之 身 。第
一 義 諦 無有
世諦
境 界離
二 於 施作
一 。 但 随 二 衆 生 見 聞 一得
レ 益故
説 為 レ 用 … … 。 若 諸 仏法
身離
一 於 色 相“ 者 。 云 何 能 現 二 色 相一 。 答 日 。 即 此法
身 是 色体
故 能 現 二 於 色 一 。 所 レ 謂 従 レ本
已 来 色 心 不 二 。 以 二 色 性 却 智一 故 。 色 体 無 形 説 名 二 智 身一 。 以 二智
性 即 色 一 故 説 名 二 法身
一 。遍
二 一 切 処 一 所 現 之 色 無 レ有
二 分斉
} 。随
レ 心bD
能
示 二 十 方 世 界 こ こ れ に 対 し て 『 釈 論 』 は 、 能 所 平等
門
、 無 相 現 応 門 、 随 見 麁 細 門 、 問 答 決 疑 門 に 約 し て 釈 し て い る 。 こ の う ち 問 答決
疑門
は、 ω法 身 出
現
色 相 門 。顕
示 智身
形 相門
幗
顕 示 法 身 顕 相
門
倒広
大
円 満 無 際 門伺
不 可
思
11 議 殊
勝
門 で あ る 。 こ の う ち 、m
法
身
出 現 色 相 門 に お い て 次 の よ う に い う 。 「 能 依 色 法 所 依 心 法 。 従 二 無 始 一 来 平 一10
一 N工工一Electronlc Llbrary弘法 大師 教学 と 『釈摩訶衍 論』・その
2
(吉田宏哲) 等 無 レ 有 二 二 体 鱒 唯 一 心 量 故 。 」 ま た 、 囲顕 示 智
身
形 相 門 で は 「 以 レ智
摂 レ 色 無… 二 一 色 而 非 フ 智 故 。 説 名 二 智 身 こ であ
り 、 圖顕 示 法 身 形 相 門 で は 「 以 レ 色 摂 レ 智 。 無 二
二
智 而 非 7 色 故 説 名 二 法 身 一 」 であ
る 。 は 「 如 レ 是 二 身 所 現 色相
。等
遍 二 一 切 衆 生界
一 切 非 情 界 … … 一 切如
来 界 中 一 。 無 レ 所 レ 不 レ 遍 。 無 レ 所 レ 不 レ 至 。 無 レ 所 レ 不 レ 当 。 無 レ 所 レ 不 レ 会 。 無 レ 所 レ 不 レ 作 。 亦 無 二 分 際一 。 亦 無 二 障 碍一 。 純 純 一 一 無 二 相 乱一 故 」 で あ る 。 し た が っ て 『 起 信 論 』 の 法 身 説 に 対 す る 『 釈 論 』 の 釈 は 、格
別 違 っ た 視 点 か ら な さ れ て い る も の は な く、 た だ 能 所 、 摂 ( 包 摂 関 係 )等
の 概 念 を 用 い て法
身 説 を よ り 明 確 に し て い る と い う こ と が わ か る 。 い ず れ に し て も、 両 論 の 法 身 説 に つ い て い え る こ と は、 ω 分 別事
識 に 依 っ て 応 身 を見
、 業 識 に 依 っ て 報 身 を 見 る が 、 法 身 は自
己 完 結 的 で あ 12 っ て ( 「 唯 自 自 身 無 他 身 。自
性 身 坐 独 存 無 二 」 ) た だ こ れ 寂静
、施
作 を 離 れ て い る 。衆 生 が 見 聞 し 利 益 を
得
る の は 、自
心 量 中 に 利 益 を獲
得 す る の で あ っ て 、 法 身 の体
中 に は あ ず か り 知 ら ぬ こ と で あ る 。 圖し か も 法 身 は 色 相 を 離 れ て い る に も 拘 わ ら ず 色 相 を 現 ず る が 、 こ れ は 色 心 不 二 で あ り 、 唯 一 心 量 で あ る か ら で あ る 。 凶
こ れ は 法 身 の み に 限 っ て 云 う の で は な い 。 『 釈 論 』 に 説 く 能 所 平
等
門 に依
れ ぽ 「 人 法 体 用 理智
平 等 無 二 差 別 一 故 。 謂 法 身 応 化 之 身 及 実実
仮 仮 之 二 理 。 平 等 一 体 無 二 差 別一 故 。 自 性 本 身 及 枝 末身
。一 等 一
体
無 差 別 故 … … 。 以一 二 体一 故 無 レ 有 三 一 体一 。 13 無 二 二 体 … 故 亦 無 レ 一 体一 。 無 レ ニ 無」
亦 無 レ 無 耳 。 以 二 此 義一故
自 然 本 性 具 足 功 徳 不 レ 仮 二 他 力 こ で あ る 。そ し て か か る 法 身 あ る い は 智
身
所 現 の 色 相 は 、 一 切 処 に 遍 満 し 無 障無
碍
で あ る 。こ れ が 真
如
自 在 の 用 に ほ か な ら な い 。 さ て 以 上 に よ っ て 、 『 大 乗 起 信 論 』 と 『 釈 論 』 と の 関係
を 四 つ の 方 面 か ら 考察
し た 。 こ の 考 察 に よ っ て も 明 ら か な よ う に 『 釈 論 』 は 『 起 信 論 』 を 解 釈 す る 過 程 で 、 起 信 論 に は存
在 し な い 思 想 、 す な わ ち 、 三 十 三 法門
の 説 、 不 二 摩 訶 衍 の説
、 如 義 言 説 、=
識 心 の 説 を あ ら た に打
ち 出 し た 。 し か し 法 身 説 に 関 し て は 、 『 釈 論 』 は 『 起 信論
』 の 説 を敷
衍
し た に と ど ま る よ う に 思 わ れ る 。 し か し こ こ で 問 題 に な る の は 、 『 釈 論 』 の 新 説 で あ る 不 二 摩 訂 衍 の 説 と 如 義 言説
の 説 と の 対 応 、 お よ び 不 二摩
訶
NII-Electronic Library Service 智 山学報第二十七輯 衍 の 法 身 説 と の 対 応 で あ る 。 『 釈 論 』 自
体
は 起 信 論 の 註 釈 で あ る か ら 、 こ れ ら の 関 係 に つ い て 統 一 的 な 思 想 を 展開
し て い る わ け で は な く 、 ま た 特 に こ れ ら の 関 係 に つ い て 言 表 も し て い な い 。 そ れ 故 こ れ は あ く ま で も 予 測 の 域 を 出 な い が、 前 述 の 如 く 不 二 摩 訶 衍 の 説 と如
義 言 説 の 説 と は 対 応 す る と こ ろ が あ る と 考 え ら れ る 。 不 二 摩 訶 衍 と 法 身 と は 、 法 身 が真
如 自 在 の 用 と し て 考 察 さ れ て い る為
に 、 こ れ ら 両 者 は直
ち に 一体
化 す る わ け に は い か な い 。 し か し法
身 説 の 中 で 説 か れ た す べ て の 思 想 内容
が 同 時 に 不 二 摩 訶 衍 で も あ る と い う こ と を 、 不 二 摩 訂 衍 は 内 包 し て い る の で あ り 、 こ の こ と は 三 十 二 法 門 と 不 二摩
訂 衍 と の 問 の 関 係 に つ い て も 云 え る 筈 で あ る 。 そ し て 若 し も こ の よ う に 云 え る と す れ ぽ 、 こ れ は 沈 黙 せ る 毘 盧 遮 那如
来 、 不 二 摩 訶 衍 が 法 を 説 き 始 め た こ と を 意 味 し 、 対 象 的 生 を転
換 し た 宗 教 的 主 体 の 生 が そ の 巨 歩 を歩
み 出 し た と い う こ と で あ る 。 弘 法 大 師 空海
の 真 言 密 教 の 成 立 も 、 実 に か く の如
き 事 柄 と 対 応 し て い る の で あ っ て 、宗
教 的 主体
の確
立 が 同 時 に真
言 教 学 の 確 立 と 相 応 じ て い る こ と を洞
察 し な け れ ば な ら な い 。 そ し て 大 師 教 学 の 場合
、 毘 盧 遮 那 如来
の 説 法 の 内 容 と は 『 大 日 経 』 『 金 剛 頂 経 』 等 の 密 教 の 経 論 で あ り 、 そ の 説 法 の 形 式 あ る い は 真 言 教 学 の 骨 格 を 形 成 す る 主 要 な モ メ ソ ト は 、 前 述 の 如 き 『 起 信 論 』 お よ び 特 に 『 釈 論 』 の 思 想 で あ っ た の で あ る 。 二横
竪
の教
判
論
以外
の大
師
の諸
論
と6
『 即 身 成 仏 義 』 と 『 釈 論 』 『
釈
論
』 と の関
係
『 即 身 義 』 に お け る 『 大 乗 起 信 論 』 あ る い は 『 釈 論 』 の 思想
は 、 ω 体 相 用 三 大 の 思 想重 重 無 尽 無 碍 の 思 想 圖
多
一 識 、二
識 心 の 思 想 側 心 鏡 の 比 喩 の 四 で あ る 。 田 体 相 用 三 大 の 思 想 は 前 述 の 如 く 『 起 信 論 』 立 義 分 等 に 説 か れ 、 『 釈 論 』 は こ れ を 三 十 三 法 の う ち に 位 置 づ け て い た 。 し か し 大 師 は こ の 三 大 の 思 想 に 『 起 信 論 』 や 『 釈論
』 と は 違 っ た 内実
、 す な わ ち 密 教 諸 経 論 の 思 想 を 盛 り 一12
一 N工工一Electronlc Llbrary弘法大 師教 学と釈摩訶衍 論 ・その
3
(吉田宏晢 ) 込 ん で 独自
の 思 想 的 立 場 を 打 ち 出 し た の で あ る 。 あ る い は 逆 に 、 真 言 密 教 の 思 想 内 容 を 三 大 お よ び 無 碍 等 の 思想
形
式 に よ っ て 把 え か え し た と い う こ と が 出 来 よ う 。 我 々 は こ れ を 『 起 信論
』 『 釈 論 』 『 即 身 義 』 の そ れ ぞ れ に つ い て対
応 さ せ る こ と も 出 来 る が 、 こ こ で は 煩 瑣 を 恐 れ て 省 略 す る 。 い ず れ に し て も 体 相 用 三 大 に 対 し て 、 六 大 四 曼 三密
な る 対 応 を 試 み た の は 全 く 大 師 の 独 創 と い う ほ か は な い 。 こ こ で 問 題 に な る の は 、 『 釈 論 』 に お け る 不 二 摩 訶衍
の 思 想 と 、 『 即 身 義 』 に お け る 三 大 の 思 想 と の 対 応 で あ る 。 既 述 の よ う に 横 竪 の教
判 に お い て 、 大 師 は 不 二 摩 訶 衍 の 法 仏 を 三 大 義 の 法 仏 に 対 し て性
徳 円 満海
の 法 仏 と し 、 こ れ に よ っ て 顕 密 の 対 弁 、第
十 秘 密 荘 厳 住 心 の優
位 性 、 超 出 性 を 論 証 さ れ た 。 そ れ で は 『 即 身 義 』 に お い て 三 大 の 思想
を 用 い て 、 不 二 摩衍
衍
の 秘 密 荘 厳 住 心 の 世 界 観 を構
築 す る の は 矛盾
で は な い の で あ ろ う か 。 こ の 答 え は、 『 即 身 義 』 に お け る 六 大 四 曼 三密
の 三 大 は 、 修 行 種 因 海 の 法 仏 の 三 大 と は 異 な る と い う こ と に よ っ て 与 え ら れ る と 思 う 。 前 述 の 如 く 、 『 釈 論 』 に お い て は 不 二摩
訶衍
は 三 十 二 法 門 の 外 に あ っ て 沈黙
せ る 毘 盧 遮 那 仏 で あ っ た が 、大
師 は 横 竪 の 教 判 論 を 確 立 す る 過 程 で 、 こ の 不 二 摩 訶 衍 の 説 法 を第
十 秘 密 荘 厳 住 心 と し た か ら で あ る 。 そ れ 故 、 か か る も の と し て の 不 二 摩 訶 衍 は 無 限 に 沈黙
し つ つ 、 し か も 三 十 二 法 門 を説
き 、 秘 密 荘 厳 住 心 の 境 界 を 説 き 、 六 大 四 曼 三 密 の 三 大 を 説 き つ つ あ る こ と を 知 ら な け れ ぽ な ら な い 。 『 即 身 義 』 に お け る 六 大 の 経 証 た る 「 我 覚 本 不 生出 過 語 言 道
諸
過 得 解 脱遠 離 於 因
縁
知 空 等 虚 空 」 も こ の
間
の 事情
を 語 る も の で あ り 、 こ れ は 同 時 に 烈 償 τ爽
夜 爽 な る真
言 で 14 あ る と 大 師 が 説 か れ て い る の も 、 真 言 が 無 限 の 沈 黙 に 対応
し て い る か ら な の で あ る 。 『 即 身 義 』 の 三 大 が 『 起 信 論 』 『 釈 論 』 の 三 大 と 異 っ て い る も う 一 つ の 点 は 、 六 大 能 生 お よ び 三 密 と い う こ と で あ る 。 両論
に お い て能
生 と は 能 生 世 間 出 世 間 因 果 用 大 と い わ れ た よ う に 、 用 大 に 対 応 し て い た 。 こ れ に 対 し て 『 即 身 義 』 で は 六 大 能 生 は体
大 で あ り 、 用 大 は 三密
で あ る 。 そ し て こ の こ と の 持 つ 意 味 は 、 『 即身
義 』 に お い て は 体 大 そ の も の が 能 生 な る働
き を有
し 、 三密
用 大 と い う こ と に よ っ て は 、 存 在 論 の 中 に 実 践論
が 含 ま れ た と い う こ と を意
一 13 一NII-Electronic Library Service 智山学報第二 十七輯 味 し て い る 。 そ し て 四 種 曼 茶 羅 と は
存
在 の 様態
論 で あ ろ う 。 『 即 身義
』 に お け る 六 大 無 碍等
の 二 頌 八 句 の う ち、 前 一 頌 四 句 は 即 身 の 義 を 釈 す る も の で あ る が 、 六 大 四曼
三 密 の い ず れ も が 無 碍 、 瑜 伽 、 相 応 渉 入 、 不 離 、 加 持 等 の 義 に よ っ て 説 か れ て お り 、 こ れ ら の 義 は す な わ ち 即 であ
る と い わ れ て い る 。 そ し て 即 身 と は実
に 三 大 の 同 類、 異 類 の 相 応 渉 入 で あ り 、 我 身 、 仏身
、 衆 生 身 の 重 重帝
網 な る こ と に 名 つ く の で あ る 。 大 師 は こ れ ら の 不 同 而 同 、 不 異 而 異 な る こ と を 『 大 日 経 』 に 説 く 三 等 無 碍 の真
言 に 拠 っ て 経 証 と し て い る が 、 同 時 に ま た 『 釈 論 』 の 「 平 等 平等
一 … … 然 終 不 雑 乱 」 な る 通 達 軌 則 門 の 文 に よ っ て 論 証 し て い る 。 ま た 、 六 大 の 釈 に お け る 色 心 の 不 二 、 能 所 不 二 の 論 証 も 、 『 釈 論 』 の 前 掲 の 法 身 出 現 色 相門
、 顕 示 法身
顕 相 門 、能
所 平 等 門 等 に お い て 説 か れ た 文 を 用 い て い る 。勿
論 そ れ ら は 『 釈 論 』 と 全 く 同 一 の 文 を 用 い て い る わ け で は な い し 、 ( 例 え ば 瑜 伽 、 加持
等 の 語 は 『 釈 論 』 に な し ) ω で も 述 ぺ た よ う に 三 大 の 内 容 が 既 に異
っ て い る の で あ る 。 ま た 、 重 重 無 尽 と は 華 厳 の 法 界 縁 起論
の核
心 で あ る 。 そ れ 故 、 『 起 信 論 』 『 釈 論 』 が 華 厳 思 想 と ど の よ う に 重 な り 合 い 、 ま た 『 即身
義 』 と ど う か か わ っ て く る か は 大 き な 課 題 で あ る が 、 い ま は そ の 詳 細 に は 至 り 得 な い 。 圖 『 即 身 義 』 にコ
切 仏 各 各 具 二 五智
三 十 七 智 乃 至 刹 塵智
一 : … 二 一名
号 皆 不 レ 離 レ 人 。 如 是 人 数 過 二 刹 塵一 。 故 名 二 一 切智
智一 。 不 レ 同 下 顕 家 一 智 以 対 二 一 切 一 得 中 此 号 上 。 心 王 者法
界 体 性 智 等 。 心 数 者多
一 識 。 各 具 五智
者 明】 二 一 心 王 心 15数
各
各
有 フ 之 」 と い う 。 そ れ 故 こ こ で 説 く 密 教 の 一 切 智 智 と は 『 釈 論 』 で 説 く 十 の 心 量 の 第 十 た る 一 一 識 心 、 お よ び 第 九多
一 識 心 に 対 応 し 、 『 釈 論 』 で は こ れ を 「 如 レ 是 十 中 。 初 九 種 心 不 レ 縁 二 真 理一 。後
一種
心得
レ縁
二 真 理一 而 為 二境
界一 。 」 と 説 い て い た の で あ る 。 大 師 が 心 王 を 第 十 一 一 識 心 、 心数
を 多 一 識 心 と 対 応 さ せ て 説 か れ て い る こ と は 言 う 婚 を 俟 た な い 。 ω大 師 は 『 十 住 心 論 』
第
九 巻 に お い て 、 釈 論 に 説 く 四 種 の 鏡 の 愉 を 挙 げ て 、 第 一 如実
空鏡
を 真 如 門 の 法 に 、第
一14
一 N工工一Electronlc Llbrary弘法 大師 教学と
r
釈摩訶衍論』・ その2
(吉田宏哲) 17 二 因 熏 習 鏡 を 三 自 門 の 法 に 、 第 三 法 出 離 鏡 と 第 四縁
熏 習 鏡 と を そ れ ぞ れ 染 浄 本 覚 と 応 化 身 と に 対 応 さ せ て い る 。 そ れ 故 、 『 即 身 義 』 に 説 く 「 円 鏡 力 故 実 覚智
」 な る 成 仏 の 根 拠 は、 『 釈 論 』 の 四 種 心 鏡 に 対 応 す る の で は な く、 不 二摩
訶 衍 の 法 門 に 対 応 す る と 考 え ら れ る 。 以 上 『 即 身 義 』 と 『 釈 論 』 と の 対 応 を 四 つ の 事 柄 に し ぼ っ て 考 察 し た 。 こ れ に よ っ て 『 即 身 義 』 の 構 造 に お け る 『 釈 論 』 の 思 想 の 影響
が ほ ぼ 明 ら か に な っ た こ と と 思 う 。 ま た 大 師 が 、 『 釈 論 』 が 『 起 信 論 』 を 超 え て 提 出 し た論
理 的 結 論 を 、 真 言 密 教 の 教 学 形 成 に 当 っ て 、 さ ら に 大 き く構
想
を 転 換 し 、 内 容 化 し た こ と も 知 る こ と が 出 来 た 。 残 さ れ た 課 題 は 、 沈 黙 の 真 言 化 な る こ と の 意 味 の 宗 教 的 、 哲 学的
追 求 、 重 重 無 尽 な る 論 理 の 思 想 史 的 背 景 、 三 密 行 な る 実 践 論 の 問 題 等 で あ ろ う 。 口『 声 字 実
相
義
』 と 『 釈 論 』 す で にe
に お い て も み た よ う に、 『 即 身 義 』 に お い て 即身
と は 『 釈 論 』 に 説 く 不 二 摩 訶衍
で あ り、 こ れ が 六 大 四 曼 三 密 な る 体 相 用 三 大 、 な ら び に そ れ ら 各 々 の 相 応 渉 入 と し て 、 ま た 所 説 の体
は 不 二摩
訶 衍 な る が 故 に 、 法 然 薩 般 若 具 足 な る成
仏 と し て 説 か れ て い る こ と を 見 た 。 『 声 字 実 相 義 』 は そ の 中 二 箇 所 に お い て 『 即 身 義 』 に 言 及 し て い る 如 く 、 『 即身
義 』 の 基 本 線 を 受 け 継 ぎ な が ら 、 18 『 即 身 義 』 が 身 密 を 明 か す の に 対 し 、 語 密 を 明 か す も の で あ る と い う 。 そ れ 故 、 『 声字
実 相 義 』 と は 存 在論
た る即
身 義 に 対 応 し つ つ 説 か れ た 言 語 論 で あ り、 存 在 と 言 語 、 あ る い は存
在 者 と 言 語 の 問 題 を 論 じ て い る と い う こ と が出
19来
る 。 20前
に 別 の論
文 で 、 大 師 に あ っ て は 身 す な わ ち 即 、 存 在 す な わ ち論
理 な る こ と を 考 察 し た 。 こ の後
者 の存
在 す な わ ち論
理 と い う こ と は 、 『 声字
義
』 に お い て は 、存
在 す な わ ち 声 字 と し て 展 開 す る 。 そ こ で こ こ で は存
在 す な わ ち声
NII-Electronic Library Service 智山学 報第二 十七輯
字
な る 大 師 の 思 想 が 『 釈 論 』 と い か に か か わ る か 、 ま た い か に 相 違 し て い る か を 考 察 し よ う 。す
で に 見 た よ う に 『 釈 論 』 に お け る 不 二摩
訶 衍 な る 法 門 は 、 一体
一 心 摩 訶 衍 、 三 自 一 心 摩 訶 衍 等 の 三 十 二 法 門 に 対 し て 、 そ れ を 包 摂 し 、 こ れ の根
拠 た る こ と を 示 し て い た 。 ま た 『 釈 論 』 で は 明 白 に で は な い が 、 こ の 不 二 摩 訶 衍 を縁
ず る 心 と 、 そ れ を 言 表 す る 如 義 言 説 が あ る こ と を 説き
、 こ の 不 二 摩 訶 衍 と如
義 言 説 、 一 一 識 心 の 思 想 こ そ 『 起 信 論 』 と 区 別 さ れ る 『 釈 論 』 の特
徴 で あ っ た 。 し か る に 大 師 は こ の 『 釈 論 』 に い わ ば 形 式 的 に、 あ る い は 消 極 的 に し か 説 か れ て い な か っ た 不 二 摩 訶 衍 等 の 思 想 に 、 『 大 日 経 』 等 の 密 教 経 典 の 思 想 と い う 内 実 を 与 え 、 秘 密 荘 厳 住 心 、 即 身 成 仏 、 声 字 実 相 な る 真 言密
教 不 共 の 法 門 を 開 顕 し た の であ
る 。 そ れ 故、 大 師 の 思想
が 『 釈 論 』 と 異 っ て い る 点 は 、 不 二 摩 訶 衍 に っ い て い え ば 『 釈 論 』 で は 不 二 摩 訶 衍 は た だ 不 二 摩 訶 衍 で あ る に と ど ま っ た の に 対 し、 大 師 は こ れ を 六 大 四 曼 三 密 の 重 重 帝 網 な る 即 身 と し て、 換 言 す れ ば存
在 と 存 在 者 と の 二 而 不 二 、 不 二 而 二 と し て 説 い た こ と 、 如 義 言 説 に つ い て い え ぽ、 す で に 存 在 と存
在 者 と が 二 而 不 二 、 不 二 而 二 な る 故 に 、 存 在 と 言 語 も 二 而 不 二 、 不 二 而 二 な る こ と を 明 か し た の であ
る 。 す な わ ち 、 『 声 字 義 』 に お け 21 る 「 文 字 所 在 六塵
其
体
。 六 塵 之 本 法 仏 三 密 即 是 也 。 平 等 三 密 遍 法 界 而 常 恒 」 の 文 、 あ る い は 釈 名 体 義 に お け る 「 五 22 大 皆 有 響十 界 具 言 語 六 塵 悉 文 字 法 身 是 実 相 」 の 頌 は 、 い ず れ も 『 釈 論 』 に お い て 語 り
得
な い と さ れ た 不 二 摩 訶 衍 の 法 門 が 、 む し ろ 三 十 二 の 法 門 と し て 、 あ る い は 六 大 四 曼 三密
の 法 門 と し て 、 否 、 存 在す
な わ ち 存 在 者 で あ る 限 り で の 無 限 の 真 言 、 法 門 と し て 、 主体
に 語 り か け て く る 風 光 を 説 い て い る の で あ る 。 こ こ で 主 体 に語
り か け る と い っ た の は 、 す で に 不 二 摩 訶 衍 が 沈黙
な の で あ る か ら 、 真 言 と は 沈 黙 の 仏 の語
り か け で あ り、 そ れ は 冥 冥 の う ち に あ れ ば あ る 程 、 顕 然 と 全 露 し て い る 底 の も の で あ る か ら 、盲
者 は 見 ず、 聾 者 は 聞 かず
、 た だ 対 象 的 な ら ざ る ( 遠 離 因 縁 ) 主 体 に の み 見 え 、 聞 こ え て く る か ら で あ る 。 こ こ の と こ ろ を 大 師 は 「 悟 者 号 一16
一 N工工一Electronlc Llbrary弘法 大師教 学 と 『釈摩 訶衍 論』。 その
2
(吉田宏哲) 23 別 大 覚 。迷
者 名 衆 生 」 「如
是 内 外 諸 色 。 於 愚 為 毒 於 智 為 薬 」 と い わ れ 、 ま た 『 般 若 心 経 秘鍵
』 に 「 顕 密 在 レ 人 声 字 即 拓 非 」 と い わ れ た の で あ る 。 か く の如
き が 、 『 釈 論 』 の 不 二 摩 訶 衍 等 の 思 想 と 『 声 字義
』 と の 同 一 と 差 別 と で あ る が 、 実 は 『 声 字 義 』 そ の も の に は 、 『 即 身 義 』 と 同 様、 不 二 摩 訶 衍 と い う 語 は 一 度 も使
わ れ て い な い 。 む し ろ こ れ に 該 当 す る も の は 『 大 日 経 』 の 「 爾 時 大 日 世尊
入 二 於 等 至 三 昧 一 … … 無 量 菩 薩 随 福 所感
宮 室 殿 堂 意 生 之 座 。 如 来 信 解 願 カ 所 レ 生 。 法 界 慓 幟 大 蓮 華 王 出 現 。 如 来 法 界 性 身 安 二 住其
中 こ な る 文 で あ り 、 ま た 同 じ く 同 経 の 取意
の 文 た る 「 法 身 者 諸 法 本 不 生 義 」 で あ る 。 も と も と 声字
実
相 な る 語 は 、 『 大 日 経 』 所 出 の 文 で あ り、 『 声 字 義 』 も そ の 経証
の ほ と ん ど は 『 大 日 経 』 に 拠 る 文 で あ る が、 そ の内
容 の 理解
に と っ て 『 釈 論 』 の 上 述 の如
き 思 想 の 理 解 は 不 可 欠 で あ る と 考 え る の で あ る 。 こ れ は す で に 論証
し た 如 く 、 『 即 身 義 』 の 構 造 に と っ て の 『 釈 論 』 思 想 の 影 響 、 お よ び 『 十住
心 論 』 『 二 教 論 』 に お い て 果 し た 『 釈 論 』 の 役割
と も 関 わ る 事 で あ る 。 ま た 『 声 字 義 』 理 解 に お い て 、 横 竪 の 教 判 お よ び 『 即 身 義 』 の 理 解 が 不 可 欠 で あ る と い う こ と と も 関 係 し て い る と い え よ う 。 『 声字
義 』 に お け る 個 々 の 用 語 、 例 え ば如
義 言 説 、 法 爾 随 縁 等 の 『 釈 論 』 に あ ら わ れ る 用 語 の 使 用 の 検討
が な お残
さ れ て い る が 、 こ れ ら は 『 釈 論 』 と 『 声 字 義 』 に つ い て の 以 上 の 論 述 に す で に 内 容 的 に 含 ま れ て い る と 考 え ら れ る の で、 以 上 で こ の 項 を終
り た い 。 日 諸 経 開 題 と 『 釈 論 』 大 師 は 『 大 日 経 』 を は じ め と し て 、 『 金 剛頂
経 』 『 理 趣 経 』 『 仁 王 経 』 『 法 華 経 』 『梵
網 経 』 『 最 勝 王 経 』 『 金 剛 般 若 波羅
蜜 経 』 等 、多
く の 経 の 開 題 を作
成 し て お ら れ る 。NII-Electronic Library Service 智山学報第二十 七輯 こ れ ら は 大 師 教 学 の う ち で は 、 横 竪 の 教 判 お よ び 『 即 身 義 』 『 声
字
義 』 『 吽字
義 』 の 三書
に対
し て 、 『 般 若 心経
秘 鍵 』 と 共 に、 い わ ぽ 大 師 教 学 の 流 通 分 と も い う べ き も の に あ た り 、 教 判 論 並 び に 『 即 身 義 』 等 に よ っ て 確 立 し た 深 遠 な 密 教 思 想 を 縦 横 に 駆 使 し て 、 顕 密 の諸
経 を開
題 し た の で あ る 。 こ れ ら の 開 題 に ほ ぼ 共 通 し て み ら れ る の は 、 『 釈 論 』 の 三 十 三 法 門 の 思 想 が 大 師 の 思 想 的 透析
を 受 け た 上 で 、 そ れ ぞ れ の 経 の 位 置 づ け に 用 い ら れ て い る と い う こ と で あ る 。 た と え ば 『 法華
経
開
題 』 に お い て 、 「 妙 法 」 を 釈 す る に 六 重 の 浅 深 あ り と し 、 二 染浄
本覚
妙 法 。 二 清浄
本覚
妙 26 法 。 三 … … 六 不 二本
覚
妙 法 。 」 と し 「今
所 説 経 者 染 浄 本 覚 妙 法 也 。何
以 得 レ 知 。他
受 用身
応 化 仏 随機
所 説 故 」 と す る が 如 き 、 あ る い は 『梵
網 経 開 題 』 に 「 是 三 大 法 具 三 十 二法
門 巻 属 。 加 摂 大 体 性 五 大 則 三 十 七 。是
則 三 十 七 仏 。 所 謂 三 十 七 尊 者 五 仏 四 母 十 六 三 昧 四 摂 八 供 是 也 」 と す る が如
く で あ る 。 そ れ 故、 こ れ ら に よ っ て 大 師 が 『 釈 論 』 の 三 十 三 法 門 等 の 思 想 を 、 ど の よ う に 密 教 教 学 の構
成 に 当 っ て 用 い ら れ た か を 知 る こ と が 出 来 る わ け で あ る 。 し か し こ れ ら は す で に 先 学 に よ っ て 種 々 な る 方 面 か ら 説 か れ て お り 、 こ れ ら 末 釈 を も 検 討 し な け れ ば な ら な い の で 、 ひ と ま ず 以 上 で 筆 を 擱き
た い 。 三結
論
ー
大
師
教
学
にお
ける
『釈
論
』 の位
置
弘 法 大 師 教 学 と 『 釈 摩 訶 衍 論 』 に つ い て 、 そ の ー で は 『 十 住 心 論 』 『 秘 蔵 宝 鑰 』 『 二 教 論 』 の そ れ ぞ れ と 『 釈 論 』 と の 関 係 を 論 じ 、 そ の2
た る こ の 論 で は 『 大 乗 起 信 論 』 と 『 釈 論 』 と の 関 係 、 お よ び そ の 結 論 を ふ ま え つ つ 『 邸 身 義 』 『 声字
義 』 諸 経 開 題 と 『 釈 論 』 と の 関 係 を考
察 し た 。 こ こ で そ の 結 論 を 要 約 し て 示 せ ば 、 『 釈 論 』 は 『 大 乗 起 信 論 』 の 釈 に お い て 、 三 十 三 法 門 、 不 二 摩 訶衍
、 一 一 識 心 、 如 義 言 説 等 の 新 し い 思 想 を 打 ち 出 し 、 大 師 は こ れ ら を 骨格
( 論 理 的 形 式 ) と し 密 教 の 諸 経 論 を 血 肉 ( 思 想 内 容 ) と し て 、 顕 密 の 教 判 論 な ら び に 密 教 の存
在 論 、 言 語 論 、諸
一18
一 N工工一Electronlc Llbrary弘法大師教学 と 『釈摩訶衍論』・ その
2
(吉田宏誓) 経 開 題 等 を 構 成 し た 、 と い う こ と が で き る 。 注 拙 論 「 弘 法 大 師 教 学 と 『 釈 摩 訶 衍 論 』 」1
梶 芳 博 士 古 稀 記 念 『 仏 教 と 哲 学 』 所 収 − 昭 和49
年 − 智 山 勧 学 会 興 教 大 師 『 真 言 所 学 釈 摩 訶 衍 論 指 示 』 全 集 上 七 一 頁 に 「 今 此 論 者 、 居 二 権 実 中 間 一 、 兼 = 顕 密 両 際 一、 調 二 九 種 浅 機一 、 運 二 不 二 秘 宮一 」 と あ る 。 『 釈 摩 訶 衍 論 』 大 正 蔵32
・ 硼 ・ c 玉 城 康 四 郎 「 大 乗 起 信 論 の 根 本 問 題 」 ー 『 止 観 の 研 究 』 所 収 昭 和 52 年 ー 岩 波 書 店1
に こ の 問 題 に つ い て の 詳 細 な 考 察 が あ る 。 大 正 蔵32
・ 鵬 ・ a 同 右32
・ 鰤 ・ c 同 右32
・ 硼 ・ a 同 右32
・ ・b
同 右32
・ 胆 ・ a 〜b
同 右32
・ 鵬 ・b
〜 c 同 右32
・ 脳 。b
〜 c 同 右32
・ 脳 ・b
同 右32
・ 臈 ・b
弘 大 全 集 1 ・ 鵬同 右 − ・ 鵬 な お 『 釈 論 』 に お け る 本 覚 無 為 に つ い て 竹 村 牧 男 「 成 仏 の 根 拠 」 ー 『 仏 の 研 究 』 所 収 − 昭 和 団 年 − 春 秋 社 弘 大 全 集 1 ・ 蹴 〜 跚 同 右
1
・ 謝 な お 森 本 和 夫 「 空 海 と デ リ ダ の 言 語 思 想 」 ー エ ピ ス テ ー メ ー76
年7
月 号1
に 『 声 字 実 相 義 』 に 対 す る 現 代 言 語 哲 学 的 考 察 が あ る 。 拙 論 「 密 教 の 存 在 論 」1
講 座 仏 教 思 想 第 一 巻 『 存 在 論 ・ 時 間 論 』 所 収 − 昭 和49
年 − 理 想 社 弘 大 全 集 1 ・ 剛NII-Electronic Library Service 智山 学報 第二 十七輯 同 同 同 同 同 同 同 右 右 右 右 右 右 右