書評 山田秀 著『人間と社会──自然法研究』
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(2) 観されたのち、第二部において、その今日的意義. 来的意味での法(Rechtlichkeit)を強化する」に. が万民法と私的所有権に焦点をあてながら明らか. 関する報告原稿であり、ドイツ語の Rechtlichkeit. にされる。その考察を通じて、著者は、人間を. のもつ二つの意味に着目しながら、法が権力者の. 「外的事物の管理を任された『管理者』 」であり、. 恣意に委ねられるものであってはならないこと、. 「善良な管理者の注意義務」を負う者として解す. また、法を強化するための絶えざる努力の必要性. る(241 頁)ことによって、伝統的自然法論の立. が提起されている。附録論文Ⅳは、スイスで行わ. 場から近年の環境問題に接近する重要な視点を提. れた著者に対するインタビューを収録したもので. 起している。. あり、そこでは本書で示された著者自身の考えが. 以上の第 5 章までの論考は、伝統的自然法論か. インタビューに応答する形で率直に語られている。. らのある意味、オーソドックスな議論であったの. 以上のように、本書は、伝統的自然法論を基礎. に対し、第 6 章と第 7 章は、本書においてとりわ. に、多様な学問成果を取り入れながら、様々な論. け異彩を放った章となっている。まず第 6 章「孟. 点に関して著者自身の考えを明らかにしたもので. 子、共同善、洞見知」では、中国古典の孟子の思. ある。ただ、本書は、第 7 章を除き、原理的な考. 想に深く分け入り、孟子思想の根元には自然法論. 察を中心としたものであるため、評者が研究関心. と相通じるものがあることが明らかにされる。人. をもっている現代社会の抱える諸問題に関するよ. が人間本性に立ち返って思索を深めていく時、た. り具体的な考察にまで及んではいない。たしかに、. とえ自然法という用語は用いられていなくとも、. 著者は、たとえば第 5 章において、伝統的自然法. 古今東西の別を超え、なにか共通の認識にたどり. 論からの環境問題への接近可能性に言及している. 着きうることが示されたように思われる。. し、また、本書を読めば、具体的諸問題に関する. 最後の第 7 章「生命への畏敬と教育の根源――. 著者の立場をある程度うかがい知ることはできる。. 林竹二博士の人と教育哲学」では、教育学者の林. しかし、評者としては、第 7 章で示されたような. 竹二の人と思想に焦点をあて、本当の意味での教. 形で、現代社会の抱える諸問題に関する著者自身. 育とは何かが明らかにされる。本章の結論では、. の考えをお聞きしたいと思っている。. 「人間の子を人間らしい人間に育てる場」こそが. 評者は、かねてから現代社会は大転換の時代に. 学校であり、「生命への畏敬だけが教育を可能に. あると位置づけている。そうした大転換の時代に. する」ことが、林竹二の言葉を引用する形で述べ. あっては、既存の制度、それを支える価値や規範. られている(397-398 頁)が、これはまさに伝統. が動揺してきている以上、あらたな枠組みを展望. 的自然法論の立場に立つ著者の教育観そのものを. するためには、どうしても人間本性そのものに立. 表しているといえよう。. ち返る必要がある。いまという時代ほど、伝統的. 附録論文についても簡単に記しておきたい。附. 自然法論が求められている時代はない。その意味. 録論文Ⅰは、人間がいかなる存在であるかを人間. で、本書は、いまこそ読まれるべき必読の書であ. 本性に即して明らかにしたうえで、人権思想がた. ろう。. んなる歴史的産物ではなく、深く人間本性に根. 本書を読み終えた後、評者の恩師がご自身の恩. ざしたものであることを明らかにしたものである。. 師の教えとして残された言葉が思い出された。そ. 附録論文Ⅱは、本論第 2 章の内容とも関わるが、. の言葉、 「肝心なことは、仕事の完成よりも仕事. 人間が「家族の中で、また、家族を通してのみ自. をする人の完成である」を添えて、書評を終えた. らの人格性を発展させ、十全に展開しうる人格的. い。. であると同時に家族的存在」(421 頁)であるこ とを明らかにしたものである。附録論文Ⅲは、国 際会議で著者に与えられたテーマ、すなわち「本 194 . (成文堂,2019).
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