Title
〈書評〉『宮古島市neo 歴史文化ロード 綾道 : 戦争遺跡
編』
Author(s)
山本, 正昭
Citation
沖縄史料編集紀要 = BULLETIN OF THE
HISTORIOGRAPHICAL INSTITUTE(40): 87-88
Issue Date
2017-03
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/22073
87 -沖縄史料編集紀要 第 40 号(2017)
〈書評〉
『宮古島市 neo 歴史文化ロード 綾道―戦争遺跡編―』
山本 正昭 『宮古島市 neo 歴史文化ロード 綾道―戦争遺跡編―』(宮古島市教育委員会編 2016 年 3 月)が刊行された。本書は宮古諸島地域内に残る代表的な戦争遺跡を 20 遺跡取り上げ、 イラストと写真入りで概説している。使用実態がイメージできるように当時の使用状況や 軍器類などをイラストで描くといった工夫もなされている。また、戦争遺跡の分布図や壕 の平面図も多く掲載していることから、可能な限りモノに則した説明に徹している内容と なっている。 沖縄県内には 1077 カ所の戦争遺跡の所在が確認されている。そのうち 78 カ所は宮古島 に所在している。全体数から見ると宮古諸島地域にある当該遺跡数の割合が約 7%と低い ことから、太平洋戦争と宮古諸島地域の関わりは薄いとの印象を受ける。 しかし、宮古諸島地域の戦争遺跡を実際に見て回ると、その印象は誤りであることに気 がつく。それは、一区域内に集中して相当数の壕が分布していることや、壕以外にも砲台 跡や塹壕などがセットとなる戦争遺跡が多く見られることなどから、単純に数量ではなく その内容量から見て、非常に濃密なあり方をしているといえるからである。このことに鑑 みると当該地域は太平洋戦争時には旧日本軍(以下、軍と略記する)にとって要所として 位置づけられていたということが容易に理解できる。 とくに軍が直接関与している戦争遺跡について、宮古諸島地域の特徴をいくつか挙げる ことができる。まず、その残存状況が良好な事例が多く見られる点である。これは当該地 域では地上戦が展開されていないことから、戦闘時の影響を受けていないことが主な要因 とされる。とくに壕においては自然崩落などの時間的経過による劣化や戦後の金属回収に よる損壊が見られる以外、極めて良好な状態で残存している。 次に、壕内部において長期間の利用が行われなかったことから、遺物をあまり表採でき ないといった点も特徴として挙げることができる。遺物は、坑木の一部や、モルタル材と いった壕構築、修復に係る資材が主に見られ、弾丸や薬莢、砲弾片はほぼ皆無であること から、戦後の武装解除に伴う壕内の整理を軍が徹底的に行ったことが読み取れる。YAMAMOTO Masaaki: A Book Review: AYANTSU The Road of New Historical Culture in Miyakojima City -a
88 -沖縄史料編集紀要 第 40 号(2017) 更に宮古諸島地域における戦争遺跡は他の離島地域の戦争遺跡と比較して、大規模な事 例が多く見られる。例えば、宮古島でも内陸部に位置する海軍第 313 設営隊地下壕群は 34 カ所もの壕が低丘陵の裾部に集中して構築されており、その中には総延長約 500 mに及ぶ 壕も確認されている。また、宮古島東側の洋上を睨む位置にあるパナタガー嶺の海軍砲台 は半地下式の壕となっており、開口部は厚いコンクリートで覆われた本格的な構造物と なっている。加えて、本体部の周辺には弾薬庫や測距器が設置されていたと想定される部 屋も確認できることから、同遺跡は沖縄県内に残る同形式の砲台跡の中でも大規模な範疇 に入る。 以上のような特徴が見られる宮古諸島地域の戦争遺跡であるが、一般向けにそれらを紹 介した冊子は 1995 年に刊行された『宮古の戦争と平和をあるく』(宮古郷土史研究会編) のみであり、一般にはその実態を知る機会があまり無かった。一方で宮古諸島地域では 2004 年と 2011 ~ 2014 年に沖縄県立埋蔵文化財センター、そして 2015 年には宮古島市教 育委員会による戦争遺跡の調査が行われており、ここ 10 年ほどで当該地域における戦争 遺跡の実態がかなり明確になってきている状況にあることから今回、宮古島市教育委員会 が一般向けの戦争遺跡概説書を新たに刊行した意義は大きいと言える。 90 年代まで戦争遺跡の概説書においては戦時体験者からの聞き取りによる使用実態を説 明した内容が中心であった。しかし、近年における戦争遺跡の調査では、現状として読み 取れる実態を記録化していくことに重点が置かれるようになってきたことから、本書では モノとして戦争遺跡を把握していくことを試みている。このように戦争遺跡を取り巻く状 況を踏まえて、戦争遺跡の見方を新たに示している画期的な概説書と言える。 ただし、一つ注文を付け加えると掲載されている戦争遺跡は全て現状として確認されて いる戦争遺跡であり、すでに開発などで失われた戦争遺跡については全く触れられていな い。あまり知られていないが従来までに、開発を要因とする記録保存を目的として発掘調 査された宮古諸島地域の戦争遺跡は 10 遺跡以上存在する。これらを発掘調査報告書だけ ではなく、一般向けの概説書で取り上げることで、更なる戦争遺跡の情報を引き出せたも のと思われる。また、現代における戦争遺跡が抱える問題として、新たな論点が提示でき たとも言える。概説書として宮古諸島地域の戦争遺跡を再度、取り上げるならば『発掘調 査された戦争遺跡』というテーマでまとめていただくことを期待して、本評を締めたい。