環 境 シ ス テ ム 研 究 論 文 集Vol.36,2008年10月
CVMとTCMに
よる干潟 の経 済 価値 の計測
大 野 栄 治1・ 佐尾 博 志2
王正 会員 博(工)名 城大学 教授 都市情報 学部(〒509-261岐 阜県可児市虹 ヶ丘4-3-3)E-mail:
[email protected]
3非会員 名城 大学大学院都 市信報学研究 科修士課程(〒509-0261岐 阜県 可児 市虹 ヶ丘4-3-3) 干潟の よ うな生態系 を育む場所 が地球 温暖化に よって破 壊 され,そ こに生息す る動 植物た ちが急速 な勢 いで絶滅 の危機 に追いや られ てい る.本 研究で は,地 球 温暖 化対策 としての干潟保 全に関す る費用 対効果 を検討す る際に必要 となる貨 幣評 価原 単位 の提供 を 目的 として,CVMお よびTCMに よ り都 道府県別 の干 潟の経済価値 を計測 した.そ の結 果,CVMに よる干 潟の環 境経 済価値は,一 人 あた りで は1,599円/年/人(39,976円/人),日 本全 国では2,043億 円/ 年(51,066億 円)と なった.ま た,TCMに よ る干潟(潮 干狩 り)の レク リエーシ ョン価値 は,一 回 あた りでは2,099 円/回,日 本全 国では47.0億 円/年(1,175億 円)と な った.そ して,干 潟の貨幣 評価 原単位 は全 国平均で10,163円 /m2となった.Key Words:
global warming tidal
flat, economic
value, contingent
valuation methoct
travel cost method
1.は
じめ に
環 境庁 による第4回 自然環 境保全基 礎調査 にお いて,
日本 の海辺 には約145ヶ 所 の干潟 が確 認 され,そ の総 面
積 は約514km2で あるこ とが把握 された1).干 潟には独 自
の環 境によって育まれ た豊富な生物 資源 が存在 し,生 物
多様 生の維持 に重 要な役 割を果 た してい る.ま た,ゴ カ
イや アサ リな どに よってその海 域の浄化 が行 われ てお り,
水産業や 海運業 な どの産業や 人々の生活を支 えてい る。
さらに,干 潟 での潮干狩 りや バー ドウォ ッチ ングな どを
通 して 「
憩いの場 」や 癒 しの場」 としての精神 的 ・文
化 的価値 が認 め られてい る.
一方
,地 球上 のすべ ての生物 は食 物連鎖に よってつな
がれてお り,特 に生物種の多い場所で1種 の生物が絶滅
す ると,その生物を食 物に してい る10∼30種 の生物が絶
滅 の危機に陥 ると言われてい る.そ して,干 潟の よ うな
生態系を育む場所が地球 温暖化 によって破壊 され,そ こ
に生息す る動植物た ちが急速な勢いで絶滅の危機に追い
や られてい る.
本研 究では,地 球 膿 化対策 と しての干
潟 保全に関す
る費用対効果 を検討す る際 に必要 とな る貨幣評価原単位
の 提 供 を 目的 と し て,CVM(Conntingent
Valuation
Method:仮 想 市 場評 価 法)お よびTCM(Travel
Cost
Method:旅 行 費 用 法)に よ り都 道 府県 別 の干 潟 の経 済 価 値 を計 測 した。 2.干 潟 の 経 済 評 価 に 関 す る 既 存 研 究 日本 にお け る干 潟 の経 済 評価 に 関す る既 存 研 究 は,十 分 に 蓄積 され て い る とは言 え な い が,主 と してCVMを 採 用 し,環 境資源 と して の干 潟 の利 用 価 値 や 非 利 用 価 値 を 評 価 して い る(表-1を 参 照). 鷲 田 ・栗 山 ・竹 内(1998)は,藤 前干 潟(愛 知 県名 古屋 市)の 環 境経 済価 値 を 計測 し,名 古屋 市 民 のWTPは10,260 円/世 帯,名 古屋 市 民 以外 のWTPは6,555円/世 帯 で あ る こ と,す な わ ち干 潟 に対 して認 識 され る価 値 が干 潟 か ら の 距 離 に 反 比 例 す る こ と,ま た藤 前 干 潟 の 総 価 値 が約 2,960億 円 で あ る こ とを示 した2). 伊 藤(2000)は,三 番 瀬(千 葉 県 市川 市 ・船橋 市)の 環 境 経 済価 値 を 計測 し,周 辺4市 の住 民 のWTPは13,672 円/世 帯 で あ る こ と,ま た 周 辺4市 に お け る三番 瀬 の 総価 値 が 約69億 円 で あ る こ と を示 した3). 四 角 ・小 島 ・AHMED・後 藤(2003)は,諫 早 干潟(長 崎県 諫 早 市)の 環 境経 済 価 値 を計 測 し,諌 早 市 民 のWTPは 1,282円/世 帯/年,長 崎 市 民 のWTPは2,516円/世 帯/年, 北 九 州 市 民 のWTPは3,845円/世 帯/年 で あ り,他 の 評 価
事 例 とは 逆 に 干 潟 に 対 して認 識 され る価 値 が 干 潟 か らの 距 離 に 比 例す る こ とを 示 した4). 安 田 ・川 村(2004)は,盤 州干潟(千 葉 県木 更 津 市)の 環 境経 済価 値 を 計測 し,木 更津 市 民 のWTPは5,408円/ 世 帯,東 京 都 ・神 奈 川 県 ・埼 玉 県 ・千葉 県(木 更 津 市 を 除 く)の 住 民 のWTPは4,326円/世 帯,東 京 都 ・神 奈 川 県 ・ 埼 玉 県 ・千葉 県 を 除 く地 域 の住 民 のWTPは3,245円/世 帯 で あ る こ と,す な わ ち干 潟 に対 して認 識 され る価 値 が干 潟 か らの距 離 に反 比 例 す る こ と,ま た盤 州干 潟 の総 価 値 が約1,671億 円 で あ る こ とを示 した5). こ こ で,CVMに お け るWTPに 関 す る質 問 は,(1)ど の よ うな支 払 手 段(税 金,負 担金,寄 付 金 な ど)で,(2)ど の よ うな支 払 形 式(毎 年 払 い,一 括 払 い な ど)で,(3)ど の よ うな支 払 単 位(世 帯 単 位,個 人 単 位 な ど)で,(4)い く ら支 払 え るか,と い う4つ の 側 面 で 構 成 され て い る.こ れ らの 支 払 方 法 はWTPの 評 価 結 果 を左 右 す る要 素 の一 つ で あ るが,表-1に 示 され るCVM研 究 の 支 払 方 法 は ま ちま ちで あ り,こ れ らの 評 価 結 果 を同 じ土 俵 で 比 較 検 討す る こ とは 難 しい.
表-1干
潟の経済評価の既存研究
注1)木更津市民以外1:東 京都,神 奈川県,埼 玉県,千
葉県(木 更津市 を除 く)の 住民
注2)木更津市民以外2:東 京都,神 奈川県,埼 玉県,千
葉県 を除 く地域の住民
一 方,玉 置(2003)は,TCMに よ り三河 湾(愛 知 県)に お け る潮 干狩 りの レク リエ ー シ ョン価 値 を 計測 した.そ の結 果,訪 問者 一 人 あ た り平均 値 は年 間4,900円 で あ り, こ の数 値 に愛 知 県 の年 間潮 干 狩 り客 数 を乗 じて求 め られ た 総 価 値 が 愛 知 県 の 年 間 ア サ リ生 産 額 の84%に 匹 敵 す る こ とを 明 らか に した の. 以 上 の既 存 研 究 は,個 別 干 潟 の評 価 事 例 に とど ま って い る.本 研 究 で は,地 球 温暖 化 対 策 と して の干 潟 保 全 に 関 す る費 用 対 効 果 の検 討 を念 頭 に置 く こ と か ら,ま だ 前 例 の ない 全 国 規 模 の 干 潟 の経 済 評 価 を試 み る. 3.CVMに よ る 干 潟 の 経 済 評 価 (1)ア ンケ ー ト調 査 の 実 施 2007年3月 上旬 に全 国 の成 人男 女 を対 象 に して,イ ン ター ネ ッ ト利 用 のCVW調 査 を実 施 した.こ こで,定 量 分 析 に お け るイ ン ター ネ ッ ト調 査 に は,オ ー プ ン型,ク ロ ー ズ型,セ ミク ロー ズ型 の3タ イ プ が あ るが,今 回 の 調 査 は ク ロー ズ型 で あ る.被 験 者 は あ らか じめ イ ン ター ネ ッ ト調 査 会 社 に登 録 して い る一般 人 で あ るた め,多 様 な 個 人属 性 を把 握す る こ とが で き,回 収 の 予 測 が 立 て や す い とい うメ リ ッ トが あ る.今 回 は,NTTレ ゾナ ン トと三 菱総 合 研 究所 が共 同 で行 っ て い る イ ンタ ー ネ ッ ト調 査 サ ー ビス 『gooリ サ ー チ 』 を利 用 した7) .こ の サー ビス は 約200万 人 の ア ン ケ ー ト専用 モ ニ タ ー を有 して お り,か つ て懸 念 され て い た標 本 集 団 の属 性 分 布(イ ン ター ネ ッ ト利 用 者 の年 齢 ・収 入 ・学 歴 等 の分 布)の 偏 りは ほ ぼ解 消 され て い る と思 われ る. 本 調 査 で は1,196件 の 回 答 が 得 られ た.こ こで,最 初 の回 答 の受 け付 けか ら最 後 の 回答 の受 け付 け ま で に要 し た 時 間 は72時 間42分 で あ っ た.な お,回 答 者 の地 域 分 布 と年 齢 分 布 が偏 らな い よ うに ア ン ケー ト票 を配 信,回 答 を受 信 した,回 答 者 の属 性 分 布(性 別 ・年 齢 ・職 業 ・ 年 収)は 以 下 の とお りで あ る. 【性 別 】 男 性:53.7%,女 性:46.3% 【年 齢 】20∼29歳:19.5%,30∼39歳:20.2%,40∼49 歳:20.2%,50∼59歳:20.2%,60∼69歳: 16.9%,70歳 以 上:3.2% 【職 業 】 給 与 所 得 者:47.1%,自 営 業 者:8.3%,自 由 業 者:3.9%,主 婦 ・主 夫:23.7%,学 生:3.8%, 無 職:11.1%,そ の 他:2.0% 【年 収 】200万 円 未 満:6.6%,200∼399万 円:18.5%, 400∼599万 円:24.6%,600∼799万 円:15.2%, 800∼999万 円:10.5%,1000万 円 以 上:10.6%, 未 回 答:14.0%(2)アンケー ト調査 の内容
アンケー ト調査 の表題 は 『
地斑 温暖化 問題 に関す る意
識調査』 であ り,ア ンケー ト票 の質問内容 は,以 下の と
お りである.
問1地
球温暖化 の問題 に対す る関心度
問2地
球温暖 化 に よる生態 系の破壊 に対す る関心度
問3干
潟 の破壊 を回避 するための支 払意思額
問4地
球温暖化 に よる熱 中症 の増加 に対す る関心度
問5熱
中症 患者数 の増加 を回避す るための支払 意思額
問6熱
中症 死者数 の増加 を回避す るための支払 意思額
ここで,本 研 究の中心部分 は質問3で あ り,表-2に 示
す とお りである.評 価対象は,日 本 中の干潟(約514km2)
であ り,特 にその機能(前 述 した生物 多様 性の維持)に
限定 した.し たがって,後 述す る干潟 の レク リエーシ ョ
ン価値 につ いて,こ こでは評価対 象外である.
また,質問形式 は『
多段 階二項選択(マル チバ ウン ド)』,
支払 手段 は 『
負担剣,支
払形式 は 『
毎年払 い』,支 払単
位 は 『
個人単位』 とした.な お,提 示金 額の大 き さは84
人の事前 調査(プ レテス ト)に より決 定 した.
(3)環境経済価値 の評価 モデル
表-2に 示す質 問の回答 デー タにつ いて,提 示金額tに
対す る賛成割合の累積分布関数F(t)を 次式で特定化す
る.(1)
た だ し,α,b:未 知 のパ ラ メー タ. こ の と き,一 人 あ た り の 支 払 意 思 額 の 中 央 値 Median お よび 平 均値Meanは,統 計 学 の定 義 よ り次 式 で与 え られ る.(2)
(3)
ここで,一 人 あた りの価値 としてMedianとMean
の どち らを採用す るかが問題 となる.そ の値 に対象人 口
を掛 けて全体の価値 を評価す る とい う観 点で は,Mean
の方が理論的 に望 ま しい.し か し,Meanに
は過大評価
や不 安定評価 の問題 が指摘 されて い るので,こ こで は
Median
を採用す る.式(1)(2)よ り,一 人 あた りの支
払意思額は次式で与 え られ る.
(4)
表-2干
潟 の破壊 を回避す るための支払意思額
に関す る質問
(4)累積 分布関数 のパ ラメー タ推 定結 果
まず,干 潟 の破壊 を回避す るための政策 の負担金 の提
示金額 に対す る賛成割合 の集計結果(累 積分布)は 図-1
に示す とお りである。図-1よ り,提 示金額が高 くなるに
つれ て賛成割合が低 くなるこ とが わか る.な お,最 小提
示金額100円 と最大提示金額50,000円 に対す る賛成割合
は,そ れぞれ92,7%と3.6%で
ある.
次に,非集 計分析 による式(1)のパ ラメー タ推定結果 は
表-3に 示す とお りで ある.こ こで,回 答者数は1,196人
であ るが,一 人が9回 の一対比較質問に答 えてい ること
か ら,標 本数 は10,764件 である.な お,す べ ての 回答
者 にお い て整 合性(あ
る提 示 金額 の政 策 に反 対 を表
明 した ら,そ れ よ り大 きい提示 金 額の 政策 に賛成 を
表 明 しない こ と)が 保 た れ て いた.ま た,最 小提 示
金額 の政 策に反対 を表明 した回答者 の うち,そ の理 由 と
して 「3.全国民 か ら負 担 金 を集 め る とい う仕 組 み に
反 対 だ か ら」や 「4.こ
れ だ け の情 報 で は判 断 で きな
いか ら」 な どを挙 げた もの につ い て は,調 査 の趣 旨
が十 分 に理 解 され て い ない と思 わ れ るが,控 え めな
評 価 とい う観 点か らゼ ロ回答 と して採 用 した.し た
が っ て,す べて の回答 を有効回答 と して採用 した.
表-3よ り,推定パ ラメー タのt値 が十分 に大 きい こ と
よ り,帰 無仮説が有意水準0.0005(t臨
界値3.291)で
も棄 却され ることがわか る.ま た,的 中率 は0.827と い
う十分 な値で ある.し たが って,統 計的有意 な関数が推
定 された と言 える.
図-1提 示金額 に対す る賛成 割合 の累積分布
表-3累
積分布 関数 のパ ラメータ推 定結果
(5)環境 経 済 価 値 の 評 価 結 果 式(4)お よ び表-3よ り,干 潟 の破 壊 を回 避 す るた め の 一 人 あた りの支 払 意 思 額(干 潟 の 環 境経 済 価 値)は ,1,599 円/年/人 と な る.こ の数 値 を社 会 的 割 引 率(現 在 の 日本 にお け る公 共 事 業 評 価 の費 用 便 益 分 析 で 用 い られ て い る 年 間4%を 適 用)8)で 現 在 価 値 化 す る と,一 人 あ た りの 干 潟 の 環 境経 済 価 値 は39,976円/人 とな る.ま た,こ れ ら の 数 値 に 日本 の 総 人 口12,774万 人 を 掛 け る と,全 国 の 干 潟 の 環 境経 済価 値 は2,043億 円/年(51,066億 円)と な る.一 方,日 本 の海 辺 で 現 在確 認 され て い る干潟 の 総 面 積 は514km2で あ る こ とか ら,干 潟 単位 面積 あ た りの 環 境 経 済価 値 は9,935円/m2と な る. こ こ で,鷲 田 ・栗 山 ・竹 内(1988)に よる藤 前 干 潟 の価 値 の評 価 結 果2)と 比 較検 討 して み る.鷲 田 らは,本 研 究 と同様 にCVMを 用 い て,約2.5km2の 干 潟 の保 全 に対 して 一 人 あ た りの支 払 意 思 額6 ,555∼10,260円/人 を算 出 し, 総 額 約2,960億 円 の価 値 を 見 出 した.こ れ よ り,単 位 面 積 あ た りの藤 前 干 潟 の価 値 は118,400円/m2と な り,本研 究 の評 価 結 果 はそ の12分 の1で あ る こ とが わか る.両 者 の違 い は,評 価 対 象 地 域 の 特 定性(全 国 の 干 潟:不 特 定, 藤 前 干 潟:特 定),保 全 の緊 急 性(全 国 の干 潟:長 期 の 温 暖 化 問 題 藤 前 干 潟:緊 急 の ゴ ミ処 理 問 題)な ど に よ る もの と考 え られ る. 4.TCMに よ る 干 潟 の 経 済 評 価 (1)交 通 需 要 関 数 の 定 義 本 章 で は,干 潟 に お け る潮 干 狩 りの レ ク リエ ー シ ョン 価 値 を 計 測 す る.TCMの 適 用 に 際 し,潮 干 狩 り目的 交 通 の 需 要 関数 を 次 式 で 定 義 した,(5)
ただ し,xij地
域i-j間
の潮干狩 り目的交通量
pij
:地域i-j問
の一般化交通費用(往 復)
i-j
:出 発地-到 着地(都 道 府県)
α,β:未 知のパ ラメー タ
この とき,潮 干狩 り目的交通需 要関数 は,次 式 で与え
られ る,
(6)
(2)レク リエー シ ョン価値の評価モ デル
TCMで は,レ ク リエー シ ョン価値 は当該 レク リエー シ
ョン活動 の代理市場 としての交通市場 にお ける消費者余
剩で定義 され る.し たが って,干 潟 にお ける潮干狩 りの
レク リエー シ ョン価値 は,式(6)で与 えられ る潮干狩 り目
的交通需要の消費者余剰CSで
評価 され る.
(7)
(8)
(9)
(10)
こ こで,式(8)か ら式(9)へ の展 開 に お い て,β<0と い う条 件 を適 用 した. ま た,式(10)は 交 通 市 場 全 体 の 消 費 者 余 剰 が 総 交 通 量 の 定 数 倍 で 表 され る こ と を示 して い る.し た が って,式 (10)よ り潮 干 狩 り一 回 あ た りの 消 費 者 余 剰CSが 次 式 で 与 え られ る.(11)
ここで,式(11)は 干潟 か ら近い人 も遠 い人 も,潮 干狩 り
回数 の多い人 も少 ない人 も,潮 干狩 り一回あた りの消費
者余剰 が一定 である ことを示 している.こ のこ とは,干
潟 の レク リエー シ ョン価値 を集 計す る際,当 該干潟 への
訪 問者数 をカ ウン トす るだけでよ く,訪 問者 が どこか ら
来 たかを特定す る必要 がないこ とを意 味す る.
(3)デー タ収集
本研究では,干 潟 にお ける潮干狩 りの レク リエー シ ョ
ン価値 を計測対象 とす るので,潮 干狩 り目的交通量お よ
び干潟までの一般化交通費用(往 復)の デー タが必要で
あ る.し か し,こ れ らのデー タは未調査であ るので,平
成11年 度道路 交通セ ンサスOD集 計用マ スターデー タ の
お よび平成15年
度海洋性 レク リエー シ ョン施設年間利
用客数(潮 干狩 り)10)に基づ いて作成 した.
まず,平 成11年 度 道路交通セ ンサスOD調 査の休 日OD
集 計用データ より,観 光 ・
行楽 レジャー(日 常生活圏外)
の うちで遊園地 ・
潮 干狩 り ・写真 ・写生 ・
飲食 ドライブ
な どの体験 を 目的に持 つ トリップデータを抽 出 し,都 道
府 県間OD表 に集計 した.今 回,集 計の対象 とした トリッ
プは,海 に接す る市区町村 を 目的地 に持 つ トリップ(地
域 内々 トリップお よび離 島関連ODト リップを除 く)とし
た.ま た,集 計 の対象 とした車種 は,自 家用乗用 車の個
人使 用車(世 帯 で保有す る軽 乗用車,乗 用車,バ ス)と
した.
次 に,上 記の都道府県間交通量 にお ける 目的地都道府
県毎 の出発地都道 府県構成比 は,潮 干狩 り目的交通量 に
おけ るそれ と同 じであ ると仮定 した.
(12)
ただ し ΣXij:地
域i-j間
の潮干狩 り目的交通量xij
,
の合計値
ΣYij:地
域i-j間
の レジヤー 目的交通量yij,
の合計値ここで,式(8)
におけるyijのデータは上記の都道府県間交通量で与えられ,またΣXijのデータは都道府県別
の海洋 性 レク リエー シ ョン施 設年間利用客数(潮干狩 り)
で与 え られ る.し たが って,潮 干狩 り目的交通量 は,次
式で求 めた.
(13)
一 方 ,干 潟 ま で の 一般 化 交 通費 用(往 復)は,次 式 で 求 め た.(14)
ただ し,Pij:地
域i-j間
の一般化交通費用,cij:地
域i-j間
の所要費用(道 路距離+有料 道路料 金),tij
地域i-j間
の所要時間,w:時
間価値
ここで,都 道 府県 間の所要時間,道 路距離,有 料道路
料金 につ いて は,平 成11年 度全国Bゾ ー ン間(6,336ゾ
ー ン×6
,336ゾ ー ン)の 所要時間お よびそ のときの道路
距離 と有料道路料金 を算 出 し,Bゾ ー ン間 のレジャー 目
的交通量(観 光 ・行楽 レジャーの うちで遊園地 ・潮干狩
り ・写真 ・写生 ・飲食 ドライブな どの体験 を目的 に持つ
トリップ)で 加 重平均 した.な お,Bゾ
ー ン間の所要時
間は道路網におけ る最短経路探索に よって求めた.
これ らのデータ収集 において設定 した条件は,以 下の
とお りであ る.
条件1)乗
車率:
自家用乗用 車一台につき平均2.5人(現
在の 日
本 にお け る都 市公 園 の駐 車 場設計 で用 い られ
ている数値)と す る.
条件2)道
路網:
全 国一般都道府 県道,一 般 国道,高 速 自動 車国
道,都 市高速道路,そ の他有料道路お よび幅員
5.5m以 上 の路線(平 成11年 度供用済み路線)
を取 り上 げる.
条件3)有
料道路料金:
平成11年 度 にお ける各路線の料金体系 とす る.
条件4)リ
ンク速度:
各 リンクの法定速度 とす る.
こ こ で,式(8)に お け るyijの デ ー タ は上 記 の都 道 府 県 間交通 量で与 えられ,ま た ΣXijの
デー タは髄
府 県別
の海洋 性 レク リエー シ ョン施 設年間利用客数(潮干狩 り)
で 与 え られ る.し た が って,潮 干 狩 り 目的 交 通 量 は,次 式 で 求 めた.条件5)時 間価 値: 平成11年 度 道 路行 政(国 土 交 通省)に お け る乗 用 車 一 台 あ た りの 時 間 価 値 は54.30円/分 で あ る が,そ の と きの 平 均 乗 車 率 が1.3人 で あ る こ と,ま た レク リエ ー シ ョン 目的 交 通 の 時 間価 値 は 賃 金 率(業 務 目的 交 通 の 時 間 価 値)の25∼ 50%程 度 で あ る とい わ れ て い る こ と11)より,1 トリ ップ あ た りの 時 間 価 値 は54.30円/分 の4分 の1と す る. 条 件6)そ の他: 所 要 時 間(片 道)が6時 間 を超 え るサ ン プ ル に つ い て は評 価 モ デ ル の パ ラ メ ー タ推 定 か ら除 外 す る. (4)交 通 需 要 関 数 の 推 定 結 果 式(5)の パ ラメ ー タ推 定結 果 は,表-4に 示 す とお りで あ る.推 定 され た パ ラ メー タに つ い て は,十 分 なt値 に よ り,統 計 的有 意性 が 認 め られ る.し か し,重 相 関係 数 が 高 くな い こ とか ら,回 帰 モ デル の 現 況 再 現性 に お い て 少 々 の 問題 が あ る.
表-4交
通需要 関数 のパ ラメータ推 定結果
(5)レ ク リエー シ ョン価 値 の 評 価 結 果 まず,図-2に 示 す 都 道 府 県 別 の干 潟 の面 積 よ り,熊 本 県:108.4km2,佐 賀 県:99.6km2,長 崎 県:44.3km2の 順 に 大 き く,九 州 地 方 に多 く分 布 して い る こ とが わ か る.な お,8県(栃 木,群 馬,埼 玉,山 梨,長 野,岐 阜,滋 賀, 奈 良)に お け る干 潟 面 積 はゼ ロで あ るが,別 の8府 県(秋 田,山 形,新 潟,富 山,石 川,福 井,京 都,島 根)の 干 潟 面積 に つ て は,未 調 査 の た め ゼ ロ とな っ て い る.ま た, 図-3に 示 す 都 道 府 県 別 の 干 潟 の 年 間利 用 客 数(潮 干 狩 り)よ り,千 葉 県:60.0万 人/年,愛 知 県:36.1万 人/ 年,茨 城 県:33.0万 人/年 の順 に 多 く,東 京湾 や 伊 勢 湾 に 多 く分 布 して い る こ とが わ か る.な お,前 述 の 後者8 府 県 に2県(鳥 取,徳 島)を 加 え た10府 県 の利 用 客数 に つ い て は,未 調 査 の た めゼ ロ とな っ て い る. 次 に,式(11)お よ び表-4よ り,干 潟 利用 一 回 あ た りの レク リエ ー シ ョン価 値 は,2,099円/回 で あ る こ とが わ か っ た.こ こ で,玉 置(2003)に よ る三 河 湾 にお け る潮 干 狩 りの レク リエ ー シ ョン価 値 の評 価 結 果6)と 比 較 検 討 して み る.本 研 究 の評 価 結 果(2,099円/回)は,干 潟 利 用 者 の 平 均 利 用 回 数 が2.33回/人/年 で あれ ば,玉 置 の評 価 結図-2干
潟の面積
図-5干
潟単位 面積あた りの資産価値
果(平 均4,900円/人/年)と 同値 とな る.し た が っ て, 干潟 利 用者 の 平均 利 用 回 数 が2.33回/人/年 よ り少 な け れ ば,本 研 究 の評 価 結 果 は 相 対 的 に低 い と書 え る. そ して,こ の原 単位 を都 道 府 県別 の 干潟 の 年 間利 用 客 数 (潮干狩 り)に 掛 け る こ とに よっ て,干 潟 の 年 間 レク リ エ ー シ ョン価 値 が 求 め られ る.そ の結 果,全 国 の 干潟 の 年 間 レ ク リエ ー シ ョ ン価 値 は47.0億 円/年 とな る.こ の 数 値 を年 間4%の 社 会 的 割 引 率 で 現在 価 値 を 算 出す る と, 全 国 の 干 潟 の レク リエ ー シ ョ ン価 値 は1,175億 円 とな る. な お,都 道 府 県別 の 干 潟 の レク リエ ー シ ョ ン価 値 は,図 -4に 示 す とお りで あ る.図-4よ り,千 葉 県:12.6億 円/ 年(315.2億 円),愛 知 県:7.6億 円/年(189.5億 円), 茨城 県:6.9億 円/年(173.2億 円)の 順 に多 く,東 京 湾 や伊 勢 湾 に多 く分 布 して い る こ とが わ か る. 5.干 潟 の 経 済 価 値 の 評 価 結 果 日本 に現 存す る干 潟 の 面積 は514km2で あ る こ とか ら, 干 潟 単 位 面 積 あた りの レ ク リエ ー ショ ン価 値 は228円 /m2と な る. 一 方 ,CVMで 求 め た 干 潟 単 位 面 積 あた りの環 境経 済 価 値 は9,935円/m2で あ る.こ の価 値 を評 価す る際,ア ンケ ー ト票 の 問2に お い て ,評 価対 象 が 干 潟 の生 物 多 様 性 維 持 機 能 に限 定 され る こ とを被 験 者 に認 識 して も ら うた め の 質 問 を用 意 した 。 そ のた め,手 続 きの 上 で は9,935円 /m2 の 中 に レク リエ ー シ ョン価 値 は 含 まれ て い な い はず で あ る.し か し,実 際 に被 験 者 の 意 識 か ら レク リエ ー シ ョン価 値 が除 外 され た か ど うか につ い て は,客 観的 に確 認 す る方 法 は な く,CVMの 課 題 と して 残 され る. した が って,本 研 究 で 算 出 した 干 潟 の資 産価 値 は 両者 合 計 の10,163円/m2で あ り,こ れ が 干潟 の 貨 幣 評価 原 単 位 とな る.な お,都 道 府 県別 の干 潟 単 位 面積 あ た りの 資 産 価 値 は,図-5に 示 す とお りで あ る.図-5よ り,大 阪府: 79,733円/m2,静 岡 県:23,623円/m2,兵 庫 県:20,241円 /m2の 順 に 多 い こ とが わ か る.ま た,図-5と 図-2(都 道 府 県 別 干 潟 面 積)を 見 比べ る と,こ れ らのベ ス ト3に ラ ン キ ン グ され た主 な理 由 は 干潟 面積 の小 さ さで あ る と言 え る. 6.ま と め 本 研 究 で は,地 球 温暖 化 対策 と して の 干潟 保 全 に 関 す る 費用 対 効 果 を検 討 す る際 に 必 要 とな る貨 幣 評 価 原 単 位 の提 供 を 目的 と して,CVMお よびTCMに よ り都 道府 県別 の 干潟 の 経 済価 値 を 計 測 した.そ の結 果,CVMに よる 干潟 の 環 境経 済価 値 は,一 人 あ た りで は1,599円/年/人(39,976 円/人),日 本 全 国 で は2,043億 円/年(51,066億 円)と な っ た.ま た,TCMに よ る干 潟(潮 干狩 り)の レ ク リエ ー ション価値 は,一 回 あた りでは2,099円/回,日 本全国で は
47.0億 円/年(1,175億 円)と なった.そ して,干 潟 の貨
幣評価原単位 は全国平均 で10,163円/m2となった.
しか し,本 研究 にはまだ検討すべ き課題が残 され てい
る.ま ず,CVMに
よる経済評価 にお いて,評 価対象 が全
国 の干潟 であるこ とか ら,評 価結果 は全国一律の貨幣評
価原単位 としてい る.都 道府県別 の貨幣評価原単位 を評
価す るた めには,現 在 の評価 技術で都道府県毎 に数 百サ
ンプル を確保す る,あ るいは少 ない サンプル で評価 でき
る新 たな技術 を開発す る必要 がある.ま た,TCMに
よる
経 済評価 におい て,本 研 究で用 いた潮干狩 り目的交通 量
は,都 道府 県別 の利用 客数(潮 干狩 り)を 都市 間道 路交
通 量に基づ いて都道 府県間OD表
に再集計 したものであ
るため,近 距離地域 か らの潮干狩 り目的交通 が軽視 ある
いは無 視 され ている.近 距離 か らの利用 客(潮 干狩 り)
を十分 に考慮す るためには,OD表 の集 計方法 を見直す必
要がある.さ らに,今 回の評価 対象 は干潟 の生物 多様性
維持機能(CVMに よる評価)と 潮干狩 り機 能(TCMに よる
評 価)の みである.干 潟には市場経 済(水 産業,海 運業
な ど)に おける価値 や他の非 市場 経済(バ ー ドウォ ッチ
ングな ど)に おけ る価 値 も認 め られてお り,こ れ らの価
値 も評価す る必要があ る.
謝辞:本 研 究は,環 境省 の平成19年 度地球環 境研 究総合
推進費(研 究課題:温 暖化の危険な水準お よび温室効果
ガス安定化 レベル検討のための温暖化影 響の総合的評価
に関す る研究,代 表者:三 村 信男)を 受 けた研 究成果の
一部であ る.ま た,本 研究の遂行において森杉壽芳特任
教授 ・林山泰久教授(東 北大学大学院経済学研究科)よ
り貴重な助言 を賜 った ことを付記す るとともに,謝 意 を
表 した い. 参 考 文 献 1) 環 境 庁 編: 日本 の 干 潟 ・藻 場 ・サ ン ゴ礁 の 現 況 (第 1巻 干潟), 海 中公 園 セ ンタ ー, 1997. 2) 鷲 田豊 明 ・栗 山 浩 一 ・竹 内 憲 司: 藤 前 干潟 のCVMに よ る全 国 調 査 結 果, 名 古 屋 市 政 記 者 ク ラブ ・記 者 発 表 資 料, 1998. 3) 伊 藤 康: 三 番 瀬 の 経 済 的 価 値-CVMに よ る評 価, 国 府 台 経 済研 究, Vol.11, No.3, pp,113-138, 2000. 4) 四 角 公 一 ・小 島 治 幸 ・K.S. Sarwar Uddin AHMED・ 後藤 恵 之 輔: CVMに よ る干 潟 海 岸 の環 境価 値 に関 す る 研究, 海洋 開発 論 文 集, No.19, pp.279-284, 2003. 5) 安 田八 十 五 ・川 村 久 幸: 東 京 湾 の 盤 用干 潟 に関 す る 環 境経 済 価 値 の 計 測 と評 価, 関 東 学 院 大 学 『経 済 系 』, No.220,pp.1-24, 2004. 6) 玉 置 泰 司: 漁 場 整 備 と都 市 交 流 に よ る漁 村 活 性 化 効 果 に 関 す る 研 究, 水 研 セ ン タ ー 研 報, No.8, pp.22-111, 2003. 7) NTTレ ゾナ ン ト・三 菱 総 合研 究 所: gooリ サ ー チ ・ホ ー ムペ ー ジ, http://research.goo,ne.jp/ 8) 国 土 交 通 省: 公 共 事 業 評 価 の費 用 便 益 分 析 に 関す る 技 術 指 針, 2004. 9) 国 土交 通 省: 平 成11年 度 道 路 交通 セ ンサ スOD集 計 用 マ ス ター デ ー タ, 2000 10) 農 林 水 産 省: 平成15年 度海 洋 性 レク リエ ー シ ョン施 設 年 間 利 用 客 数 (潮干 狩 り), 2004.