原 著
スコア化による聖隷式嚥下質問紙評価法の検討
Examination of the Evaluation Method of the Swallowing
Questionnaire by Scoring
中野 雅徳
1),藤島 一郎
2),大熊 るり
3),吉岡 昌美
1),中江 弘美
1),
西川 啓介
1),十川 悠香
1),富岡 重正
1),藤澤 健司
1)Masanori NAKANO1), Ichiro FUJISHIMA2), Ruri OHKUMA3), Masami YOSHIOKA1), Hiromi NAKAE1), Keisuke NISHIGAWA1), Yuka SOGAWA1), Shigemasa TOMIOKA1), Kenji FUJISAWA1)
要旨 【目的】聖隷式嚥下質問紙は,摂食嚥下障害のスクリーニング質問紙であり,15 の質問項目に対 して重い症状:A,軽い症状:B,症状なし:C の 3 つの選択肢がある.「一つでも重い症状 A の回答があ れば摂食嚥下障害の存在を疑う」という従来の評価法は,高い感度と特異度を有している.本研究では, 回答の選択肢をスコア化し評価する方法を新たに考案し,従来の評価法と比較する.また,本法を健常者 に適用し,嚥下機能が低下した状態のスクリーニングツール開発のための基礎資料を得ることをあわせて 行う. 【方法】聖隷式嚥下質問紙開発時に用いた,嚥下障害があるが経口摂取可能な脳血管障害患者 50 名,嚥下 障害のない脳血管障害患者 145 名,健常者 170 名を対象に行った調査データを使用した.選択肢を,A: 2点,B:1 点,C:0 点,および A の選択肢に重みをつけ,A:4 点,B:1 点,C:0 点としてスコア化し た場合の合計点数に対して,カットオフ値を段階的に変えそれぞれについて感度,特異度を算出した. ROC分析により最適カットオフ値を求め,このカットオフ値に対する感度,特異度を従来の方法と比較 した.また,健常者 170 名のデータについて,年齢階層ごとの合計点数に解析を加えた. 【結果】ROC 分析の結果,A:4 点としてスコア化し,8 点をカットオフ値とする評価法が最適であること が示された.本評価法は,感度 90.0%,特異度 89.8% であり,従来法の感度 92.0%,特異度 90.1% に匹敵 するものであった.健常者における年齢階層別の比較では,75 歳未満と 75 歳以上で明確なスコアの差が 認められた. 【結論】スコア化による聖隷式嚥下質問紙の評価法は,A の回答が一つでもあれば嚥下障害の存在が疑わ れるという従来の評価法とほぼ同程度の感度,特異度を有していた.一般高齢者では,75 歳以上になる とスコアが有意に高くなることが確認され,嚥下機能が低下した状態を評価するためのスクリーニング ツール開発の基礎資料が得られた. key words:聖隷式嚥下質問紙 嚥下障害のスクリーニング スコア化 カットオフ値 <所属> 1)徳島文理大学保健福祉学部口腔保健学科 2)浜松市リハビリテーション病院リハビリテーション科 3)調布東山病院リハビリテーション科
1)Department of Oral Health Sciences, Faculty of Health and Welfare, Tokushima Bunri University
2)Department of Rehabilitation, Hamamatsu City Rehabilita-tion Hospital
3)Department of Rehabilitation, Chofu Touzan Hospital
<連絡先>
〒 770–8514 徳島市山城町西浜傍示 徳島文理大学保健福祉学部口腔保健学科 中野 雅徳
TEL 088–602–8705 FAX 088–602–8783 e-mail address: [email protected]
緒 言 脳血管障害患者や要介護高齢者の中には,摂食嚥下障 害を有する者が少なくない.摂食嚥下障害の評価・診断 においては,まずスクリーニングを行い,摂食嚥下障害 が疑われる場合には精査・診断を行って,それぞれに適 した治療や介護の計画を立案する.嚥下障害のスクリー ニング手段として,反復唾液嚥下テスト(RSST)1,2)や 水飲みテスト3) などのほか,臨床・介護の現場で簡便に 使用できるスクリーニング用の質問紙として,EAT-104,5)や聖隷式嚥下質問紙6)などがある.聖隷式嚥下質 問紙は 15 の質問項目からなり,重い症状:A,軽い症 状:B,症状なし:C の選択肢のうち A の回答が一つで もあれば,嚥下障害の存在を疑うとする評価法により, 高い感度と特異度が得られている(表 1)6,7) .さらに, 30 mL水飲みテストとの関連性も報告されており,スク リーニングツールとしての妥当性が示されている8) . 近年,要介護状態になる前の段階としてフレイルが注 目され9) ,さらにフレイルの前段階として,口腔機能が 低下した状態であるオーラルフレイルの段階があるとい われている10) .また,歯科領域では,口腔機能低下症と いう健康保険病名が新たに採択され,7 つの評価項目の うち,嚥下機能については EAT-10 と聖隷式嚥下質問紙 による評価が求められているが,嚥下障害のスクリーニ ング基準が準用されており,嚥下障害に進行する前の段 階の評価法としては課題が残っているといわれてい る11,12).嚥下機能の低下した状態を定量的に,かつ簡 便に評価できる指標があれば,この課題解決につながる ものと思われる. 中野らは先に,聖隷式嚥下質問紙開発時の基礎データ を用いて,オリジナルの質問紙に改編を加え,さらに口 腔の衛生状態や機能状態の評価項目を加えて,介護の現 場で使いやすい「要介護高齢者の口腔ケアを支援する簡 易版アセスメントシートの開発」を行い,スコア化の評 価法を取り入れ,その有用性を検証し報告した13) . 本研究では,オリジナルの聖隷式嚥下質問紙につい て,回答の選択肢のうち軽い症状である B と症状なしの Cの回答も評価に加えスコア化して,合計点で評価する 方法を考案し,① 従来の評価法と同等の感度,特異度 をもつか,そのうえで ② 今回新たに考案した,スコア 化した評価法を健常高齢者に適用した時にどのようなス コアの分布をするのか,について検証し,今後高齢者の 口腔機能低下状態のスクリーニングツールを開発するに あたっての基礎資料を得ることを目的とした. 対象と方法 1.使用したデータ 聖隷式嚥下質問紙開発時の ① 嚥下障害があるが(臨 床的に嚥下障害が疑われ,嚥下造影などで確定診断がつ いている)経口摂取が可能なレベルの脳血管障害患者 50 表 1 聖隷式嚥下質問紙の質問項目と選択肢 A.繰り返す B.一度だけ C.なし 1.肺炎と診断されたことがありますか? A.明らかに B.わずかに C.なし 2.やせてきましたか? A.しばしば B.ときどき C.なし 3.物が飲みにくいと感じることがありますか? A.しばしば B.ときどき C.なし 4.食事中にむせることがありますか? A.しばしば B.ときどき C.なし 5.お茶を飲むときにむせることがありますか? A.しばしば B.ときどき C.なし 6.食事中や食後,それ以外の時にのどがゴロゴロ(痰が絡 んだ感じ)することがありますか? A.しばしば B.ときどき C.なし 7.のどに食べ物が残る感じがすることがありますか? A.たいへん B.わずかに C.なし 8.食べるのが遅くなりましたか? A.たいへん B.わずかに C.なし 9.硬いものが食べにくくなりましたか? A.たいへん B.ときどき C,なし 10.口から食べ物がこぼれることがありますか? A.しばしば B.ときどき C.なし 11.口の中に食べ物が残ることがありますか? A.しばしば B.ときどき C.なし 12.食物や酸っぱい液が胃からのどに戻ってくることがあり ますか? A.しばしば B.ときどき C.なし 13.胸に食べ物が残ったり,つまった感じがすることがあり ますか? A.しばしば B.ときどき C.なし 14.夜,咳で眠れなかったり目覚めることがありますか? A.たいへん B.わずかに C.なし 15.声がかすれてきましたか?(ガラガラ声,かすれ声など)
名(男性 37 名,女性 13 名,年齢: 36∼92 歳,平均 69 歳,中央値 65 歳),② 嚥下障害のない脳血管障害患者 145名(男性 88 名,女性 57 名,年齢: 36∼88 歳,平均 69歳,中央値 66 歳),③ 病院職員およびその家族など の健常者 170 名(男性 77 名,女性 93 名,年齢: 23∼93 歳,平均 65 歳,中央値 63 歳),を対象に行った調査 データを使用した8) . 2.方 法 聖隷式嚥下質問紙の回答選択肢のスコア化の方法とし て ① 重い症状 A:2 点,軽い症状 B:1 点,症状なし C:0 点とスコア化した場合と,重い症状に重みをつけるため に,② A:4 点,軽い症状 B:1 点,症状なし C:0 点とし た場合について,合計点を算出した.続いて,段階的に 仮のカットオフ値を設定し,それぞれについて感度,特 異 度 を 求 め た.さ ら に,ROC 解 析14) の 手 法 に よ り, ROC曲線のグラフ左上隅の点(0,1)からの距離が最短と なるカットオフ値を最適値とし,上記 2 つの場合の最適 値を比較して,聖隷式嚥下質問紙を用いて嚥下障害のス クリーニングを行うための最適カットオフ値を求めた. なお,感度の計算には,① 嚥下障害があるが経口摂 取可能な脳血管障害患者 50 名のデータを,特異度の計 算には,② 嚥下障害のない脳血管障害患者 145 名と ③ 健常者 170 名のデータを用いた.また,嚥下障害に至る 前の嚥下機能が低下した状態のスクリーニングツールの 開発研究の基礎資料を得るための解析には,「軽い症状 Bあり」の回答を有する者が多くみられた ③ 健常者 170 名のデータを用いた. 3.分 析
解析には IBM SPSS Statistics ver. 24(日本アイ・ビー・ エム株式会社)を用いた. 4.倫理規定 本研究は,徳島文理大学倫理審査委員会の承認を得て 実施した(承認番号 R1-32). 結 果 1.各カットオフ値における感度,特異度 1)A:2 点,B:1 点,C:0 点とした場合(合計点: 0∼30 点) 合計スコアを算出し,仮のカットオフ値を 4∼10 点と したときの,それぞれにおける感度,特異度を表 2 に示 す.設定したカットオフ値の中で,4 点では感度 94.0% と高かったが,特異度が 74.7% と低く,カットオフ値 10点では感度 60.0% に対して特異度は 95.2% で,カット オフ値が大きくなるにつれて感度は低下するが特異度は 高くなった(表 2). 2)A:4 点,B:1 点,C:0 点とした場合(合計点: 0∼60 点) 仮のカットオフ値を 4∼10 点としたときのそれぞれに おける感度,特異度を表 2 に示す.感度は 4 点で 96.0% と最も高かったが,特異度は 70.2% と最も低かった. カットオフ値 10 点では感度 80.0%,特異度 92.4% であっ た(表 2). 3)ROC 分析による最適カットオフ値の決定 ROC 分析において,図 1 に示す ROC 曲線上の各カッ トオフ値に対応する点とグラフ左上隅の点(0,1)からの 表 2 各カットオフ値における感度・特異度 (%) A:4 点の場合 A:2 点の場合 特異度 感度 特異度 感度 カットオフ 値(点) 70.2 96.0 74.7 94.0 4 76.5 92.0 80.6 90.0 5 83.8 90.0 87.0 88.0 6 88.3 90.0 90.0 84.0 7 89.8 90.0 91.0 76.0 8 92.1 86.0 94.3 68.0 9 92.4 80.0 95.2 60.0 10 1.0 1.0 0 0.5 0.5 ״ ౕ ْӆིʤ̏ʖಝҡౕʥ 1.0 1.0 0 0.5 0.5 ״ ౕ ْӆིʤ̏ʖಝҡౕʥ ʕʁAΝ4఼ͲηαΠԿ ˘ʁAΝ2఼ͲηαΠԿ 図 1 ROC 曲線(カットオフ値 1∼10 点に対する感 度・偽陰性率) ●:座標(0,1)から最短距離にある最適条件(A:4 点,カットオフ値 8点).
距離を表 3 に示す.A:2 点,B:1 点,C:0 点でスコア 化した場合はカットオフ値 6 点でこの距離が最短とな り,このカットオフ値では感度 88.0%,特異度 87.0% で あった.また,A:4 点,B:1 点,C:0 点でスコア化し た場合は距離が最短となるのは 8 点でこのカットオフ値 では感度 90.0%,特異度 89.8% であった.両者を比較す ると,(0,1)からの距離は後者のほうが短く,聖隷式嚥 下質問紙を用いて嚥下障害のスクリーニングを行うため には,A:4 点,B:1 点,C:0 点としてスコア化し,カッ トオフ値は 8 点が最適であるという結果であった. なお,嚥下障害のある 50 名の脳血管障害患者のうち, 「A」の回答が一つもないが「スコアの合計が 8 点以上」 すなわち「B」の回答が 8 項目以上あったものが 1 名,1 項目のみに「A」の回答があるがスコアの合計が 8 点未満 の者は 2 名であり,両評価法での不一致の割合は少な かった. 特異度算出には嚥下障害のない脳血管障害患者 145 名 のデータも含んでいるが,健常者 170 名だけについてみ ると,カットオフ値 8 点未満は 4 名で,特異度は 97.6% と高率であった. 2.健常者の年齢階層別スコアの分布 健常者 170 名全体の合計スコアは平均値 1.61 点(標準 偏差 2.41 点,中央値 1 点,最小値 0 点,最大値 15 点, 四分位範囲 2 点)であった.年齢を 65 歳未満,65 歳以上 75歳未満,75 歳以上の 3 つの階層に分けると,各年齢 層の平均値および合計スコアが 2 点以下の者の割合はそ れぞれ,65 歳未満は 1.29±1.64 点,83.3%.65 歳以上 75歳未満は 1.55±2.69 点,82.9%.75 歳以上は 2.76± 3.32点,57.1% であった.各年齢階層の平均値に差があ る こ と が 認 め ら れ(Kruskal-Wallis 検 定,有 意 水 準 0.05),さらに,各年齢階層個々の比較では,65 歳未満 の階層と 75 歳以上の階層の間にのみ有意な差がみられ た(Kruskal-Wallis 法 Bonferroni 補正 有意水準 0.05). 後期高齢者年齢の 75 歳で 2 群に分けると,75 歳未満は 平均 1.29±1.98 点,75 歳以上は 2.76±3.32 点で,2 つの 年 齢 階 層 間 に は 1% 未 満 の 危 険 率 で 差 が み ら れ た (Mann-Whitney U 検定).また,合計スコア 2 点以下と 3点以上の 2 群に分けてカイ二乗検定を行った結果,75 歳以上の群は 75 歳未満の群に比べて,スコア 3 点以上 の人の割合が危険率 1% 未満で有意に高いことがわかっ た(図 2). 考 察 聖隷式嚥下質問紙は,脳血管障害患者の急性期から回 復期にかけて嚥下障害の有無を判定するスクリーニング 法として開発され,高い感度と特異度を有していること もあり,嚥下障害のスクリーニングツールとして広く用 いられている.15 の質問項目に対して重い症状:A,軽 い症状:B,症状なし:C の 3 つの回答選択肢のうち, 一つでも A があれば,嚥下障害の存在が疑われるという 本質問紙の従来の評価法に対して,本研究では選択肢を スコア化し,合計点を評価する方法について検討を行っ た.スコア化の方法について,A:2 点,B:1 点,C:0 点とした場合と,重い症状の A に重みをつけて A:4 点, B:1 点,C:0 点とした場合の各カットオフ値に対する 感度,特異度を比較したところ,両者の感度,特異度の 傾向は近似していたものの差が認められた.ROC 解析 によって,座標左上隅(0,1)から最短距離となる点,す なわち最適のカットオフ値は,後者の場合の 8 点であ 表 3 ROC 解析:各条件に対応する点と座標 左上(0,1)からの距離 A:4 点 の場合 A:2 点 の場合 カットオフ 値(点) 0.30 0.26 4 0.25 0.22 5 0.19 0.18 6 0.15 0.19 7 0.14 0.26 8 0.16 0.33 9 0.21 0.40 10 図 2 健常者 75 歳未満および 75 歳以上の年齢階層に おけるスコア分布 ** :カイ二乗検定(危険率 1% 未満で有意).
り,感度 90.0%,特異度 89.8% と,従来の「回答に A が 一つでもあると嚥下障害の存在が疑われる」の評価法と ほぼ同等であった. 従来の評価法は高い感度と特異度を有しており,スク リーニングツールとして十分ではあるが,「A が一つで もあれば」という評価法は不安定さに懸念があることも 否めない.嚥下障害のある 50 名の脳血管障害患者が回 答した選択肢の傾向を分析すると,「A」の回答が一つだ けあった者は 8 名で,そのうち,合計スコアが 8 点未満 で両評価法の結果が一致しなかった者が 2 名であった. また,他の 6 名は「B」の回答が 4 項目以上ありスコア の合計が 8 点以上となって,両評価法が一致した.「A」 の回答が一つあった計 8 名において「A」と回答した項目 についてみると,「硬いものが食べにくくなりましたか」 の項目が 3 名,「食べるのが遅くなりましたか」が 2 名 で,いずれも本質問紙開発に関する論文中,嚥下障害な し患者群において A 回答が多い項目であった6) .さら に.本質問紙と 30 mL 水飲みテストの関連を調べた研究 においても,水飲みテストでは正常であったが本質問紙 で異常と判定された人数が,最も多い項目であった8) . とくに,「硬いものが食べにくくなりましたか」の質問 項目には本研究の嚥下障害のない脳血管障害者 145 名中 18名が「A」と回答しており,特異度を低下させている 要因であった.さらに,地域に住む 65 歳以上の高齢者 を対象に,本質問紙を使って嚥下障害の有病率を調べた Kawashimaらの研究においては,義歯の使用の影響を 受けるなどの理由でこの項目を除外している15) .以上の ことから,スコアの合計による評価法は,一部の質問項 目の影響が希釈される点で優位性があると思われる.さ らに,スコア化することで,嚥下障害の重症度の推定に も利用できる可能性があり,今後の研究が期待される. また,従来法では軽い症状 B の回答は評価に反映され なかったが,スコア化による本評価法は嚥下機能の状態 を軽い症状も含めて総合的に判定しているという点で, 嚥下障害に至る前の段階のスクリーニングツール開発へ の使用も期待できる. 対象を健常者に限ると,スコア化による評価法でカッ トオフ値 8 点の場合の特異度は 97.6% であり,A が一つ でもあればという従来の評価法の 94.7% より高いという 結果であった6) .嚥下機能は,他の身体および口腔機能 と同様に,加齢に伴って低下する.嚥下障害の存在が疑 われるレベルに至らないまでも,健常高齢者の中にも, 嚥下機能が低下している者は一定程度存在するはずであ る.年齢階層を 65 歳未満,65 歳∼75 歳未満,75 歳以上 の 3 つの階層に分けて比較すると,65 歳未満と 75 歳以 上の年齢階層間に差がみられたが,他の階層間では有意 な差は認められなかった.75 歳未満と 75 歳以上で階層 を分けると,両群には明らかな差が認められ,75 歳は 摂食嚥下機能が低下する分岐点であることを示している と思われる.このような,年齢階層別の合計点の差異 は,加齢による摂食嚥下機能の低下傾向を明確に表して おり,スコア化による本質問紙の妥当性を間接的に裏づ けるものであると考えている.また,高齢者に占める要 介護高齢者の比率が前期高齢者(65∼74 歳)では 3.0% であるのに対して,75 歳以上の後期高齢者では 23.5% に増加するという政府統計があり,摂食嚥下機能と要介 護状態との関連をうかがわせるものである16) . 嚥下障害のスクリーニングツールとして広く用いられ ている EAT-10 は回答をスコア化して評価する方法を採 用しているが,嚥下障害の可能性ありと判定するカット オフ値は 3 点であり,3 点未満のスコアは 0,1,2 の 3 段 階しかない4,5) .これに対して,重みをつけてスコア化 した本法では,カットオフ値 8 点未満は 0∼7 の 8 段階が あり,評価の幅が大きいことは,嚥下障害に至る前段階 の状態を評価するうえで有利であると思われる. 飯島らは,65 歳以上の地域高齢者におけるオーラル フレイルの有症率は 18.4% であったと報告している10) . 81.6%はオーラルフレイルに該当しないということであ り,健常者群のうち 65 歳以上の者 79 名の合計スコアの 81.6パーセントタイル値を求めると 4 点であった.異 なった集団の比較であり,基準値を決定するには,今後 の多数例の詳細な調査と解析が必要であるが,本法にお けるオーラルフレイルのカットオフ値はおおよその目安 として,4 点くらいではないかと推測される. 前述したように,課題となっている口腔機能低下症な どの嚥下機能の低下状態のスクリーニングをより確実な ものとするためには,基準値を求めるためのさらなる研 究が必要であり,スコア化による聖隷式嚥下質問紙の本 評価法は有用なパラメータの一つとなる可能性がある. 今後の課題 本研究によって,聖隷式嚥下質問紙の評価法として, スコア化して合計点で判定する方法は,従来の重い症状 である選択肢 A の有無による判定法と同様,嚥下障害判 定の簡便なスクリーニングツールとして有効であること が示された.さらに,健常者データの解析において,軽 い症状 B もスコアに加えたことにより,嚥下障害に至る 前の嚥下機能が低下した段階のスクリーニングツール開 発への利用が期待され,そのための基礎データが得られ たと考えている.有効なスクリーニングツールとするた
めには,今後,口腔機能を評価する他の検査法などを併 用して多数のデータを集積・解析し評価基準を確立する 必要がある. 健康寿命を延伸させるためにも,嚥下機能が低下した 状態を早期に判別して,必要な治療を行うとともに,訓 練等で機能の回復を図ったり,その進行を抑えたりする ことが重要であると考えている. 結 論 1.聖隷式嚥下質問紙の選択肢をスコア化して合計点 で評価する方法を開発し,従来の評価方法と同等の感 度,特異度を有していることを確認した. 2.健常者への適用で,75 歳を境に嚥下機能が低下す る状況が明確に示されるなどの基礎データが得られ,本 法は,嚥下障害に至る前の嚥下機能の低下した状態のス クリーニングツール開発への利用が期待される. 本研究の一部は,科学研究費助成事業(学術研究助成 基金助成金)基盤研究(c)17K11791 において実施した. 本稿のすべての著者には,開示すべき COI はない. 文 献 1)小口和代,才藤栄一,水野雅康,他:機能的嚥下障害スク リ ー ニ ン グ テ ス ト「反 復 唾 液 嚥 下 テ ス ト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)の検討(1) 正常値の検討,リ ハ医,37:375–382,2000.
2)小口和代,才藤栄一,馬場 尊,他:機能的嚥下障害スク リ ー ニ ン グ テ ス ト「反 復 唾 液 嚥 下 テ ス ト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)の検討(2) 妥当性の検討,リ ハ医,37:383–388,2000.
3)窪田俊夫,三島博信,花田 実,他:脳血管障害における 麻痺性嚥下障害スクリーニングテストとその臨床応用につい て,総合リハ,10:271–276,1982.
4) Belafsky PC, Mouadeb DA, Rees CJ, et al: Validity and reli-ability of the Eating Assessment Tool (EAT-10), Ann Otol Rhinol Laryngol, 117: 919–924, 2008. 5)若林秀隆,栢下 淳:摂食嚥下障害スクリーニング質問紙 票 EAT-10 の日本語版作成と信頼性・妥当性の検証,静脈経腸 栄,29:871–876,2014. 6)大熊るり,藤島一郎,小島千枝子,他:摂食・嚥下障害ス クリーニングのための質問紙の開発,日摂食嚥下リハ会誌, 6:3–8,2002. 7)勝俣明敏,兼岡麻子,小山珠美,他:摂食嚥下障害の評価 2019,日摂食嚥下リハ会誌,23:107–136,2019. 8)大熊るり,藤島一郎:摂食・嚥下障害スクリーニングのた めの聖隷式嚥下質問紙と 30 mL 水飲みテストの関連,日摂食 嚥下リハ会誌,16:192–197,2012. 9)日本老年医学会:フレイルに関する日本老年医学会からの ステートメント.http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/ 20140513_01_01.pdf, (accessed 2019.12.15). 10)飯島勝矢:【高齢者医療での歯科に関する Minimum Skills】 口腔機能低下予防の新たな概念 「オーラル・フレイル」(解 説 / 特集),Geriatr Med,53:1177–1182,2015. 11)水口俊介,津賀一弘,池邉一典,他:高齢期における口腔 機能低下─学会見解論文 2016 年度版─,老年歯医,31:81– 99,2016. 12)口腔機能低下症に関する基本的な考え方(平成 30 年 3 月 日本歯科医学会),https://www.jads.jp/basic/pdf/document_02.pdf, (accessed 2019.9.1). 13)中野雅徳,尾崎和美,白山靖彦,他:要介護高齢者の口腔 ケアを支援する簡易版アセスメントシートの開発,日摂食嚥 下リハ会誌,18:3–12,2014.
14) Akobeng AK: Understanding diagnostic tests 3: Receiver operating characteristic curves, Acta Paediatr, 96: 644–647, 2007.
15) Kawashima K, Motohashi Y, Fujishima I, et. al: Prevalence of dysphagia among community-dwelling elderly individuals as estimated using a questionaire for dysphagia screening, Dysphagia, 19: 266–271, 2004. 16)内閣府ホームページ平成 29 年版高齢社会白書(全体版)3 高 齢者の健康・福祉 (2)高齢者の介護,https://www8.cao.go. jp/kourei/whitepaper/w-2017/zenbun/pdf/1s2s_03.pdf (accessed 2019.12). 17)飯島勝矢(主任研究者).地域高齢者におけるオーラルフレ イルの簡易スクリーニング法の開発;食(栄養)および口腔機 能に着目した加齢症候群の概念の確立と介護予防(虚弱化予 防)から要介護状態に至る口腔機能支援等の包括的対策の構築 および検証を目的とした調査研究事業実施報告書.(平成 26 年 度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進事業),2015. https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Rouken- kyoku/0000140394.pdf, (accessed 2020.1.5).
Examination of the Evaluation Method of the Swallowing
Questionnaire by Scoring
Masanori NAKANO1), Ichiro FUJISHIMA2), Ruri OHKUMA3), Masami YOSHIOKA1), Hiromi NAKAE1),
Keisuke NISHIGAWA1), Yuka SOGAWA1), Shigemasa TOMIOKA1), Kenji FUJISAWA1) 1)Department of Oral Health Sciences, Faculty of Health and Welfare, Tokushima Bunri University 2)Department of Rehabilitation, Hamamatsu City Rehabilitation Hospital
3)Department of Rehabilitation, Chofu Touzan Hospital
Abstract
Purpose: The Seirei dysphagia screening questionnaire has 15 questions and three choices of: severe symptoms (A), mild symptoms (B), and no symptoms (C). The conventional assessment method of “a response of at least one severe symptom A suggests the presence of dysphagia” has high sensitivity and specificity. In this study, a new method for scoring and evaluating the answer choices was devised and compared with the conventional evaluation methods. In addition, this method was applied to healthy subjects to obtain basic data for the development of a screening tool for the condition of impaired swallow-ing function.
Methods: We used survey data from 50 patients with cerebrovascular disease who had dysphagia but were able to swallow orally, 145 patients with cerebrovascular disease who did not have dysphagia, and 170 healthy subjects. All those data were obtained during the development of the Seirei dysphagia screen-ing questionnaire. The sensitivity and specificity of the cutoff values were calculated for each of the alter-natives, A: 2 points, B: 1 point, C: 0 point, and A: 4 points, B: 1 point, C: 0 point. In addition, the data from 170 healthy subjects were analyzed for the total scores for each age group.
Results: The results of ROC analysis showed that the evaluation method with a score of A: 4 points and a cutoff value of 8 points was the most suitable. The sensitivity and specificity of this method were 90.0% and 89.8%, respectively, which were comparable to the sensitivity and specificity of the conven-tional method of 92.0% and 90.1%, respectively. A clear difference in scores was found between those under 75 years and those over 75 years when comparing the age groups in healthy subjects.
Conclusions: The sensitivity and specificity of the Seirei dysphagia screening questionnaire by scoring were almost the same as those of the conventional assessment method in which the presence of dysphagia was suspected if at least one answer in A was given. In the general elderly population, scores were found to be significantly higher after 75 years of age, providing basic data for the development of screening tools to assess impaired swallowing function.