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木本喜美子 編著『家族・地域のなかの女性と労働―共稼ぎ労働文化のもとで』 (明石書店、2018年9月、288ページ、3,800円+税)

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Academic year: 2021

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— 98 —  本書は、戦後日本の高度経済成長期における女 性の労働と生活の変容を、主婦化と賃労働者化の せめぎあいの「共稼ぎ文化」の存続として描き、 近代家族モデルの浸透という通説を相対化して、 女性労働史の再構成をめざそうとするものである。  織物産地として知られる福井県勝山市を対象地 とし、かつての女性労働者約30人の他、男性労働 者、舎監、農村部の農家機屋にもインタビューを 行っている。工場での労働や職場環境、賃金や福 利厚生といった労働条件、労働組合の運動、そし て就職から結婚、その後の家庭生活に至るまでを 視野に入れた分析は、社会学・歴史学・地理学・ 教育学など複数の専門領域の研究者チームによる 共同研究の強みを生かしたものとなっている。周 知のとおり繊維産業は女性の主要な労働現場であ りつづけてきたが、彼女たちが結婚・出産後も働 き続けた経験を取り上げて本格的に論じた研究は ほとんどなかった。本書は、そこに迫るものであ り、職場と生活(家庭)と地域社会とのかかわり あいを見据えながら女性たちの生きた軌跡を描く ことを探求している。構成(目次)と各著者は以 下の通りである。 序章 本書の課題と方法(木本喜美子・中澤高 志・勝俣達也) 第1章 織物産地の労働市場と女性たちの働き 方・生き方――労働の比較地誌学にむけて (中澤高志) 第2章 大規模機業場における生産・労務管理 の近代化――女性の働き方と労働意識の変 容(勝俣達也) 第3章 女性の継続的就労と家族――女性が「働 く意味」を問う(木本喜美子) 第4章 織物産地における託児所の変遷と女性 労働者――女性労働と保育(野依智子) 第5章 全繊同盟加盟組合にみる女性労働運動 の展開――女性労働者と組合(早川紀代) 第6章 農業を基盤とする零細家族経営機業― ―農村と女性労働(千葉悦子) 補論 戦前における繊維女性労働の多様な展開 と勝山機業の位置づけについて(勝俣達也) 終章にかえて(木本喜美子)  第1章は、他地域と比較しつつ結婚・出産を経 ながらも織布工として一社勤続で働き続ける勝山 の特徴を指摘し、遠方からの「集団就職」を多数 受け入れる織物産地であったことを確認する。つ づく第2章では、職工という働き方・生き方が目 指されるべきものとして規範的な意味を持ってい た当該地域には、自らが稼ぐ主体であるとの強い 意識が女性たちの中に存在し、労働・賃金などの 時代的な変化にあっても共働きを当然とする規範 に後押しされてその労働が継続されたことを指摘 する。それを受けて第3章では、女性にとって雇 用労働が持つ意味を、就労へ至る家族的背景、家 族にとっての女性就労の意味、女性自身による就 労の意味づけという視点から迫り、家族と職場に 加え地域の慣行や規範が関与する点に注目してい る。第4章は、戦前からつづく町営託児所や工場

書評

木本喜美子 編著

『家族・地域のなかの女性と労働―共稼ぎ労働文化のもとで』

(明石書店、2018年9月、288ページ、3,800円+税)

北海道大学      智 子

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— 99 — 書  評 内託児所の変遷の中で、高度経済成長期は託児所 増設運動の展開など女性労働者による就労継続が 意思表示されるようになった時代ととらえる。同 時に、女性たちの家計における稼得役割が縮小し たことが、かえってそれに反発する女性たちの労 組活動への積極的参画を促したと述べる。これを 受けて第5章は、労働組合について論じている。 女性が多数派であるにもかかわらず労働組合役員 を担うのは男性であったことなどから(女性役員 の登場は1960年代後半)、「共働き文化」は固定的 な性別役割や男女間の賃金格差と矛盾せずに存在 してきたとする。これは次の第6章の農業機屋(農 村部)における「嫁」の現実とも符合する。そし て、機屋を営む零細農家で身を粉にして働く女性 たちの中に、現状を受容しこれを肯定的に受けと める人、次世代には継承させまいと努力する人、 親世代と異なる生活様式に切り替えるべくイニシ アチブを発揮する人など農家女性労働の多様性を 確認している。補論(戦前の繊維産業と勝山地域) を経て結論では、再度、当該地域において「共稼 ぎこそがあるべき姿だという認識」の「揺らぐこ とのない根強さ」を指摘している。  様々な観点から読み解くことが可能であるが、 ここでは社会教育研究の視点から見て特に印象に 残った点を取り上げたい。それは、女性たちが自 分の労働によって得た報酬(賃金)をどのように 取り扱うか、自宅からの通勤者と寮生活者では対 照的であったという点である。通勤者はそのまま 家に報酬を入れるのに対し、寮生活者は自分自身 のために使っていたが、これは家族との物理的な 距離が女性に対して「個」としての意識と行動を 促すことを鮮やかに示す事実だと言える。そして 冬場、通勤者の一部が寮生活を経験する中で異な る生活様式に触れ、同様の変化を見せていったと もいう。時代の変化の速さとともに織物工場の寮 生活の実態への関心がかきたてられた。自治会や 労組の活動の他、様々なレクリエーションも行わ れたというが(115頁)、その実態をもっと知りた いところである。  さらに、こうした経験を経ながらも、結婚後は、 夫婦のみの家族か、義父母など年長世代との同居 家族かによって事情が異なっていったことも見逃 せない。工場労働で得た報酬は、夫婦のみ家族で は女性個人も自由に使えるのに対して、同居家族 では「嫁」ならば舅姑に差し出すのが当然とされ たという。一度、自由を味わった女性たちは、こ の同居家族の中でいったいどのように生きていっ たのだろうか。また、こうした状況の中にあって 工場とは、女性たちにとってどのような場になっ ていただろうか。にぎやかなおしゃべりが充満す る井戸端か、愚痴を言い合うストレス発散の場か、 切磋琢磨して競い合う過酷な戦場か、それとも辛 いこと悲しいことをわかちあう共感の場か。さら に深く工場生活の中に分け入って女性たちの息づ かいを感じてみたいという思いをかきたてられた。  本書を構成する各章はそれぞれに異なる研究領 域の研究者の手によるもので個々に読みごたえが ある。かなうならば今度はぜひそれらを横につな いで織物工場と地域と女性たちの姿を立体的に描 き出してもらえたらとも思った。これは社会教育 研究への課題として受けとめてゆきたい。       

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