我々が生活している社会は,常に変化し続けている。 経済状況や社会状況は年々変化しており,その中で生 活する私たち自身も何かしらの影響を受けると予想さ れる。では実際に私たちの心理的特性は,社会経済的 状況の変化を反映すると言えるのだろうか。 心理変数の時代変化を検討するひとつの手法に,調 査年ごとに平均値等の統計値を統合する時間横断的メ タ分析(cross-temporal meta-analysis; 小塩・岡田・茂垣・ 並川・脇田,2014; Twenge, 2000)がある。この手法 を用いて,日本では 1980 年代から 2010 年代にかけて 自尊感情の平均値が低下してきたことが報告されてい る(小塩他,2014)。また小塩・市村・汀・三枝(2020) は,日本でもっともよく使用されている心理検査のひ とつである YG 性格検査(辻岡,1972)に注目し,50 年以上の期間を経て,各特性の平均値が曲線的に変化 してきたことを示している。 これらの検討は,時代とともに心理特性の平均値が 変化することを示唆している。しかしながら,その変 化がどのような社会指標に関連するのかという問題に ついては残されたままとなっている。米国では,児童 期に測定された自尊感情尺度(Coopersmith, 1975)と 社会指標との関連が検討されており,自尊感情の平均 値はその年の国全体の離婚率や犯罪発生率に関連する ことが報告されている(Twenge & Campbell, 2001)。 しかし,わが国ではそのような試みは行われていない。 調査年ごとに統合された心理的特性の平均値と社会 指標との間の安定した関連を見出すためには,長期間 にわたりその測度が使用されており,ある程度多くの 研究が報告されている必要がある。そこで本研究では, 小塩他(2020)による YG 性格検査のメタ分析データ に注目する。YG 性格検査は,抑うつ性(D),回帰性 傾向(C),劣等感(I),神経質(N),客観性の欠如(O), 協調性の欠如(Co),攻撃性(Ag),一般的活動性(G), のんきさ(R),思考的外向(T),支配性(A),社会 的外向(S)の 12 尺度で構成される。これらは DCI-NOCo と AgGRTAS という 2 つの大きなまとまりとし て解釈されるが,因子分析によって情緒不安定性因子 (DCINOCo),主導性因子(ASGAg),非内省性因子(RT) という 3 因子構造も報告されている(清水・山本, 2017)。 小 塩 他(2020) の デ ー タ に は 1957 年 か ら 2012 年までの 12 特性の平均値が含まれており,日本
パーソナリティ特性と社会指標の関連
1─時系列分析による検討─
小塩 真司
早稲田大学岡田 涼
香川大学Personality traits and social indicators in Japan: A time-series analysis Atsushi Oshio (Waseda University) and Ryo Okada (Kagawa University)
A previous study revealed curvilinear changes over time in 12 traits of the Yatabe-Guilford Personality Invento-ry in Japan (Oshio et al., 2020). The purpose of the present study was to examine relationships between the sur-vey-year change of the inventory and social indices. A cross-temporal meta-analysis was conducted on 171 to 181 samples (68 to 74 papers) of Japanese undergraduates who completed the inventory from 1957 to 2012 (total N = 29,524–29,847). The dataset was partially identical to the previous study. Partial correlation with previous control scores of personality traits indicated that mean scores for seven personality traits are associated with changes in social indices. Results of time series analyses indicated that the change of social indices has significant associa-tions with the following mean score changes of personality traits. Implicaassocia-tions of the results are discussed.
Key words: personality traits, cross-temporal meta-analysis, social index, changes with time. The Japanese Journal of Psychology
2021, Vol. 92, No. 1, pp. 46-51
J-STAGE Advanced published date: March 31, 2021, https://doi.org/10.4992/jjpsy.92.20310
Correspondence concerning this article should be sent to: Atsushi Oshio, Faculty of Letters, Arts and Sciences, Waseda University, Toyama, Shinjuku, Tokyo 1628644, Japan. (E-mail: [email protected])
1 本研究の一部は,科学研究費補助金(課題番号:17K04376,
における高度経済成長期からバブル経済崩壊以降まで の長期にわたる社会指標との関連の検討を可能にする。
なお,このデータには幅広い年齢段階の調査結果が 含まれており,年齢段階によって発達的に平均値が異 なることも示されている(小塩他,2020)。Soto, John, Gosling, & Potter(2011)によれば,パーソナリティ 特性は児童期から 10 代後半までの変動が大きく,大 学生から成人期以降は長期的な変化を示すものの 10 代のような急激な変化は生じない傾向がある。そこで 本研究では,ある程度のパーソナリティの安定性が見 られるようになる年齢段階であり,小塩他(2020)で 最も研究数が多かった大学生から得られた平均値に焦 点を当てる。 恋愛や結婚,就職といったライフイベントはパーソ ナリティの形成に影響を与える(Bleidorn, Hopwood, & Lucas, 2018)。そしてこれらのライフイベントのタ イミングや内容が時代に伴って変化するのであれば, パーソナリティも影響を受けることが示唆される。先 に述べたように,Twenge & Campbell(2001)は年ご とに統合された自尊感情平均値とその年の社会指標と の関連を報告している。しかしながら心理特性の発達 プロセスを考慮すると,ある年の社会指標が即座に心 理的指標に影響を及ぼすとは考えにくい。たとえば久 米・花岡・水谷・大竹・奥山(2014)は,中学生時代 に集団による部活動を経験した者は成人期に外向性が 高く,個人で行う文化系活動に従事した者は神経症傾 向が低い傾向にあること,その一方で就職後の経験の 影響は小さいことを報告している。このことは,発達 段階における特定時期の経験が,数年後のパーソナリ ティに影響することを示唆する。 そこで本研究では時系列分析を用いることで,過去 の社会指標が YG 性格検査の各下位尺度の平均値に及 ぼす効果を検討する。第 1 に,時系列分析によって社 会指標の変動とパーソナリティの変動のどちらが先に 生じるかを推定する。パーソナリティの変動が社会全 体の変化に応じて生じるのであれば,社会指標の変動 が時間的に先に生じると予想される。第 2 に,時系列 分析を用いることで,社会指標の変動が生じてから何 年後にパーソナリティの平均値が変動するかを推定す る。これらを通じて,発達を考慮した社会の変化とパー ソナリティとの関連を検討する。 方 法 データ YG性格検査の平均値 小塩他(2020)の時間横断 的メタ分析で推定された文献のうち , 大学生を調査対 象としており,調査年が 1957 年から 2012 年までの研 究から抽出された各下位尺度の平均値を用いた2。分 析に用いられた総論文数は 95 本中 74 本(77.9%), 研究数(平均値の数)は 171(Ag)から 181(D)ま でであり,総サンプルサイズは 29,524 名(Ag)から 29,847 名(D)であった。先行研究と同様の手続きに よって,調査年ごとにサンプルサイズ統制後の推定周 辺平均値が算出された。この値は,調査年を独立変数, サンプルサイズを共変量とした共分散分析で推定され た回帰係数と切片を用いて計算した,共変量に平均値 を利用した際の,調査年ごとの平均値の推定値である。 なおデータセットにおいて,研究が存在しないために 欠損している年が 11 年分あった(19.64%)。その年 の YG 性格検査の値は他の年の値を用いて式(1)の 重回帰式を推定し,そこから各年の推定値を求め,単 一代入によって補完した。y は YG 性格検査の各下位 尺度の平均値,t は時点(調査年),e は誤差を示す。 yt= α + β1×t + β2×t2+ et (1) 社会指標 YG 性格検査の平均値を予測し得る社会 指標として,時間横断的メタ分析でパーソナリティ変 数との関連が検討されてきた指標(Twenge & Campbell, 2001),OECD による指標(Organisation for Economic Co-Operation and Development, 2019),経済学において 各国の幸福度決定要因として扱われている指標(田辺・ 鈴木,2014)をもとに,わが国における人口動態や経 済動向,精神的健康の状況などを全体的に反映すると 考えられる社会指標を選択した。検討の結果,合計特 殊出生率,死亡率,自殺率,婚姻率,離婚率,失業率, 一人当たり GDP 成長率の 7 つの指標を用いた。合計 特殊出生率,死亡率,自殺率,婚姻率,離婚率,失業 率については e-Stat(https://www.e-stat.go.jp/)から抽 出した3。一人当たり GDP 成長率については,THE WORLD BANK(https://www.worldbank.org/)のデータ ベースから抽出した4。 分析手続き 時系列分析を用いて社会指標と YG 性格検査の関連 を検討した。まず,社会指標について主成分分析を行 い,合成得点を求めた。次に,Vector Autoregressive model(ベクトル自己回帰モデル:VAR モデル)によっ て,過去の社会指標の合成得点から YG 性格検査の各 2 研究の収集方法の詳細は小塩他(2020)を参照されたい。使 用された文献は,J-STAGE の電子付録に収録した。 3 政府統計の総合窓口(e-Stat)において,合計特殊出生率(人 口動態調査より),死亡率(人口動態統計。人口千人当たり。 1947 年─1972 年は沖縄県を含まない),自殺率(社会・人口統 計体系。人口十万人当たり),婚姻率(人口動態調査。人口千人 当たり),離婚率(人口動態調査。人口千人当たり),失業率(労 働力調査。15 歳以上人口。1947 年─1973 年は沖縄県を含まない) を抽出した。 4 一人当たり GDP 成長率について,当該データベースに 1957 年─1960 年のデータが保有されていなかったため,他の 6 指標 から推定した値を代入した。
下位尺度の平均値に対する効果を検討した。VAR モ デルは,複数の時系列データに対して,変数間の関連 や予測を分析するためのモデルである(馬場,2018; 村尾,2019)。変数 y の t 時点の得点に対して,当該 の変数 y の t-1 時点以前の得点と他の変数の t-1 時 点以前の得点からの効果を想定する。2 変数,1 時点 前(1 次)の VAR モデルの場合は式(2)(3)となる。 ここで x は社会指標の合成得点,y は YG 性格検査の いずれかの下位尺度の平均値を示す。係数である φ は 変数 x もしくは y の効果を示す傾きである。また ε は 誤差項,時系列分析におけるホワイトノイズであり, 異なる時点の得点と関連しない成分である。 yt= c1+ φ11 yt-1+ φ12 xt-1+ ε1t (2) xt= c2+ φ21 yt-1+ φ22 xt-1+ ε2t (3) 分析には R version 3.6.1 を用いた。VAR モデルの分 析は vars パッケージの VARselect 関数を用いた。 結 果 社会指標の統合 7 つの社会指標に対して主成分分析を行ったとこ ろ,第 1 主成分の説明率が 70.99% と高い値を示した ため,年ごとの主成分得点を算出し,社会指標総合値 とした。主成分負荷量は,合計特殊出生率(.93),婚 姻率(.85),一人当たり GDP 成長率(.71)が正,失 業率(.97),離婚率(.96),自殺率(.76),死亡率 (.66)が負の値であった。結果から,推定された主 成分得点の高さは全体的な社会的状況の良好さを表し ていると考えられた5。 変数間の関連 各調査年における YG 性格検査各特性の平均値と社 会指標総合値との対応関係を検討するために,t-1 時 点の YG 性格検査各得点を統制した,t 時点の YG 性 格検査と t-1 時点の社会指標総合値との偏相関係数 を算出した(Table 1)。社会指標総合値と YG 性格検 査の攻撃性(Ag)および一般的活動性(G)とは有意 な正の関連,劣等感(I),神経質(N),客観性の欠 如(O)は有意な負の関連,そして協調性の欠如(Co), 支配性(A)は |.20| 以上の負の関連を示した。これら の結果は,YG 性格検査の中に,前の時点の社会的な 指標と対応する側面が含まれていることを示唆する。 社会指標総合値と YG 性格検査の平均値との前後関連 社会指標総合値と YG 性格検査 12 特性の平均値と の時間的な前後関係を検討するために VAR モデルを 用いた。分析に際しては社会指標総合値と 12 特性の 平均値のいずれか 1 つを用いる 2 変量の VAR モデル を設定し,特性ごとに分析を行った。最大次数は 5 と し,AIC を基準としてモデル選択を行った。ここでは, 社会指標総合値から YG 性格検査の平均値を予測する 回帰係数に注目して結果を記述する(Table 2)。 劣等感(I),神経質(N),客観性の欠如(O),攻 撃性(Ag),一般的活動性(G)については,1 次の ラグをもつモデルが選択された。劣等感(I)(φ = 0.23, p < .01),神経質(N)(φ = 0.14, p < .05),客観性の 欠如(O)(φ = 0.24, p < .001)に対しては,1 年前の 社会指標総合値が有意な負の関連を示し,攻撃性(Ag) (φ = 0.13, p < .05), 一 般 的 活 動 性(G)(φ = 0.21, p < .01)に対しては 1 年前の社会指標総合値が有意な 正の関連を示した。のんきさ(R)については,5 次 のラグをもつモデルが選択され,3 年前の社会指標総 合値が有意な負の関連を示した(φ = 0.88, p < .05)。 思考的外向(T)については,2 次のラグをもつモデ ルが選択され,2 年前の社会指標総合値が有意な正の 関連を示した(φ = 0.56, p < .05)。いずれのモデルに おいても,YG 性格検査の平均値から社会指標総合値 に対する関連は有意ではなかった6。 5 年ごとの社会指標総合値は,J-STAGE の電子付録 Figure S1 に示されている。 Table 1 YG 性格検査の調査年ごとの平均値と 社会指標総合値との関係 GSI r p value 抑うつ性 (D) .12 .405 回帰性傾向 (C) .18 .183 劣等感 (I) .37 .005 神経質 (N) .28 .043 客観性の欠如 (O) .50 < .001 協調性の欠如 (Co) .24 .081 攻撃性 (Ag) .34 .013 一般的活動性 (G) .41 .002 のんきさ (R) .12 .374 思考的外向 (T) .12 .381 支配性 (A) .24 .087 社会的外向 (S) .15 .268 注)N = 55, df = 52, GSI = 社会指標総合値。数値は t-1 時点の YG 性格検査各得点を統制した t 時点の YG 性格検査各得点と t-1 時点の社会指標総合値との偏相関係数。 6 劣等感(I),客観性の欠如(O),一般的活動性(G),のん きさ(R),思考的外向(T)の調査年ごとの平均値と移動平均は, J-STAGE の電子付録 Figure S1 に示されている。
考 察 本研究では,時系列分析を用いることでパーソナリ ティ平均値の変動と社会指標の変動の関連を検討し た。まず小塩他(2020)で収集された文献から大学生 を対象とした平均値を調査年ごとに集計し,1 年前の 自身の得点を統制した上で, 1 年前の社会指標総合値 との偏相関係数を算出した。その結果,一般的活動性 (G)や攻撃性(Ag)との間に正の関連,5 つの特性 (INOCoA)との間に負の関連が見られた。これまで にわが国では調査年ごとのパーソナリティ平均値の変 動は示されているものの(小塩他,2020),本研究の Table 2 VAR モデルにおける社会指標総合値から YG 性格検査の調査年ごとの平均値に対する効果(推定値と 95% 信頼区間) D C I N O Co Intercept B 7.03 9.16 8.42 6.48 7.34 6.50 95% CI [4.49, 9.56] [6.61, 11.70] [6.02, 10.82] [4.12, 8.83] [5.12, 9.57] [4.57, 8.44] Slope YG PI(t-1) B 0.30*** 0.06 0.05 0.31* 0.13 0.09 95% CI [0.05, 0.55] [.19, 0.32] [0.22, 0.32] [0.06, 0.56] [0.13, 0.39] [0.18, 0.36] GSI(t-1) B 0.06 0.08 0.23** 0.14* 0.24*** 0.10 95% CI [0.21, 0.09] [0.19, 0.04] [0.39, 0.07] [0.28, 0.01] [0.36, 0.12] [0.22, 0.01] R2 .11* .04 .17** .21*** .39*** .07 Ag G R T A S Intercept B 9.40 8.02 1.01 5.52 8.50 5.59 95% CI [6.64, 12.16] [4.97, 11.06] [2.35, 4.37] [2.25, 8.79] [5.67, 11.33] [2.64, 8.54] Slope YG PI(t-1) B 0.09 0.28* 0.17 0.16 0.16 0.54*** 95% CI [0.18, 0.35] [0.02, 0.55] [0.13, 0.48] [0.11, 0.43] [0.12, 0.44] [0.30, 0.78] GSI(t-1) B 0.13* 0.21** 0.34 0.51 0.11 0.11 95% CI [0.03, 0.22] [0.08, 0.35] [0.96, 0.27] [1.03, 0.02] [0.23, 0.02] [0.31, 0.09] YG PI(t-2) B 0.19 0.27* 95% CI [0.12, 0.50] [0.01, 0.53] GSI(t2) B 0.58 0.56* 95% CI [0.25, 1.41] [0.02, 1.09] YG PI(t3) B 0.05 95% CI [0.26, 0.37] GSI(t-3) B 0.88* 95% CI [1.75, 0.01] YG PI(t-4) B 0.18 95% CI [0.13, 0.48] GSI(t-4) B 0.84 95% CI [0.06, 1.74] YG PI(t-5) B 0.32* 95% CI [0.01, 0.63] GSI(t-5) B 0.07 95% CI [0.73, 0.59] R2 .15*** .35*** .61*** .19* .11 .39***
注)YG PI = YG 性格検査 ; GSI = 社会指標総合値 ; D = 抑うつ性,C = 回帰性傾向,I = 劣等感,N = 神経質,O = 客観性の欠如,Co = 協調性の欠如,Ag = 攻撃性,G = 一般的活動性,R = のんきさ,T = 思考的外向,A = 支配性,S = 社会的外向。
結果はそれらの変動が社会指標総合値に関連する可能 性を示している。本研究で統合された社会指標総合値 は高得点ほど全体的な社会状況の良好さを表すことか ら,社会的状況が良くなるほど一般的活動性(G)や 攻撃性(Ag)が高くなり,5 つの特性(INOCoA)が 低くなることを意味している。特に劣等感(I)と客 観性の欠如(O)との比較的高い負の相関,一般的活 動性(G)や攻撃性(Ag)との正の関連を考慮すると, 社会的状況の好転が活動的で自信があり,自分の意見 を優先し,現実的な思考をする傾向に反映すると考え られる。ただしこれらの関連は社会指標と 1 年後の パーソナリティとの対応であり,前後関係やより離れ た年との対応については明確ではない。 そこで本研究では VAR モデルによって YG 性格検 査と社会指標総合値との時間的な前後関係を検討し た。VAR モデルによる分析結果から,YG 性格検査の 特性の中には 1 年前,2 年前,3 年前の社会指標が関 連するものが見られることが明らかにされた。劣等感 (I),神経質(N),客観性の欠如(O)については 1 年前の社会指標が負の関連,攻撃性(Ag)と一般的 活動性(G)については 1 年前の社会指標が正の関連 を示しており,思考的外向(T)やのんきさ(R)は 2 年から 3 年前の社会指標に関連していた。その一方で, YG 性格検査の平均値から社会指標に対する影響はい ずれも有意ではなかった。これらの結果から,パーソ ナリティの変動は社会指標の変動が生じた後に生じて おり,社会的な変化がパーソナリティの平均値の変化 に影響を及ぼす可能性が示唆される。 VAR モデルの結果では,同じ非内省性因子である のんきさ(R)が 3 年前の社会指標総合値と負の関連 を示すのに対し,思考的外向(T)については 2 年前 の社会的指標の変動と正の関連を示していた。両者は 内省の欠如という面で共通するが,のんきさ(R)は より衝動的で情緒不安定な側面を併せもつ(辻岡・ 藤村,1975)。また Big Five モデルとのジョイント因 子分析の結果から,のんきさ(R)は外向性に関連す る一方で,思考的外向(T)は神経症傾向と誠実性の 低さに関連することが示されている(山本・清水, 2010)。これらを考慮すると,のんきさ(R)が刺激 希求的で衝動的な内容を,思考的外向(T)が衝動性 を抑制する実行機能の低さに関連すると考えられる。 青 年 期 前 期 に は 刺 激 希 求 性 や 衝 動 性 が 高 ま り (Steinberg et al., 2008),衝動の抑制や誠実性の高さに もかかわるエフォートフル・コントロールはそれ以降 の時期に発達する(Atherton, Lawson, & Robins, 2020) ことが知られている。本研究で用いたデータが大学生 という青年期後期にあたる時期に得られたものである ことを考慮に入れると,刺激希求性や衝動性が発達す る時期の社会状況がのんきさ(R)に,その後の時期 の社会状況が思考的外向(T)に対応するようにも見 える。これらの結果は,青年期におけるパーソナリティ 発達に対して社会的状況が影響する可能性を示唆して いる。このような青年期の発達過程と社会的状況との 対応関係については,今後も検討が必要であろう。 本研究の結果は,時間横断的メタ分析によって得ら れたパーソナリティ特性の平均値の変化が,社会指標 を反映する可能性を示している。あくまでも本研究の 結果は,先行研究に記載された平均値を集約すること によって得られたものである点を考慮しておく必要が ある。また,わが国のパーソナリティ特性の長期的な 平均値の変化を検討する上で YG 性格検査を用いるこ とは有用ではあるが,その一方で尺度の作成過程や妥 当性の観点から批判がなされている点については留意 が必要である(村上,2005; 續・織田・鈴木,1970)。 さらに,本研究では YG 性格検査の平均値が得られな かった年のデータについて,調査年から回帰予測した 単一の値を代入したデータセットによる結果を報告し ている。このことから,推定精度の問題や結果の安定 性の問題が残されている点を考慮する必要がある。本 研究の結果をより一般化するためには,他の心理学的 指標に対する時間横断的メタ分析による検討や,長期 的かつ定点観測的に測定されている心理学的指標を分 析の対象とするなど,検討を重ねる必要がある。 利益相反に関する情報開示 本論文に関して,開示すべき利益相反に関する事項 はない。 引 用 文 献
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