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子どもの怒りに対する認知の歪みモデルに関する基礎研究

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Academic year: 2021

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̶ 81 ̶ 目  的 キレる小中学生による暴力行為が年間 6 万件以上報 告され(文部科学省,2018),大きな社会問題となっ ている。そのため,子どもの怒りに対する適切な早期 介入が求められている。現在,子どもの怒りには認知 行動療法の有効性が確認されており(Sukhodolsky et al., 2004; Sukhodolsky et al., 2012),中心的な介入技 法は,主に怒りを喚起した後に,どのように対処する か,解決できるかという怒りの対処・解決プロセスに 焦点があった。しかし,怒りがどのように発現するか, 維持するかといった怒りの発現・維持のプロセスはこ れまで十分に検討されてこなかった。 精神症状の発現と維持を説明するモデルに認知の歪 みモデルがある(Beck et al., 1979)。このモデルによ ると,認知の誤り(外部からの情報の処理における誤 り)や自動思考(自分の意志とは無関係に心の中に浮 かぶ考え)からなる一連の認知的過程によって,精神 症状が発現・維持されている。認知の歪みモデルは, 子どもの不安症状や抑うつ症状などの様々な精神症状 への適用可能性が検討されてきている(Ishikawa, 2015;佐藤,2008)。しかし,本邦の子どもを対象に した怒りの認知の誤りや怒りの自動思考を測定する尺 度は開発されていない。そのため,子どもの怒りの認 知の歪みモデルについても検討されていない。子ども の怒りに特徴的な認知的変数を測定する尺度の開発, および,子どもの怒りの認知の歪みモデルが新たに構 築することにより,子どもの怒りの維持・発現プロセ スに基づく予防的介入,および,その作用機序の実証 的検証が可能になる。 本研究では,子ども用怒り認知の誤り尺度(Anger Cognitive Errors Questionnaire for Children: ACEQ- C),子ども用怒り自動思考尺度(Anger Children

Automatic Thought Scale: A-CATS)を開発することを 目的とする。さらに,開発された ACEQ-C と A-CATS を用いて,「子どもの怒りの認知の歪みモデル」を新 たに構築することを目的とする。 方  法 予備調査 怒り認知の誤り項目の収集 94 名の児童青年(小 学 4 年から中学 3 年)に対して,怒り喚起場面に関す る自由記述の収集を行った。次に,認知行動療法を専 門とする大学院生 3 名が自由記述の整理検討を行った 結果,児童青年の怒り喚起場面として 9 場面が選定さ れた。次に,9 場面に対して,怒りの認知の誤りを各 1 項目作成し,大学院生 3 名が表面的妥当性の検討を 行った。最後に,9 場面に対して作成された 9 項目に ついて,専門家 2 名が表面的妥当性の検討を行った結 果,2 項目が削除された。以上の手続きにより,7 項 目(e.g.,友達と話がまとまらない場面⇒わざとふざ けているにちがいない,授業中友達が静かにしない場 面⇒じゃまをしたいにちがいない)からなる子ども用 怒り認知の誤り尺度(ACEQ-C)暫定版が作成された。 怒り自動思考項目の収集 94 名の児童青年(小学 4 年から中学 3 年)に対して,怒り喚起場面に関する自 由記述の収集した際,当該場面での認知に関する自由 記述を行った。次に,認知行動療法を専門とする大学 院生 3 名が自由記述の整理検討を行った結果,児童青 年の怒りに関連する認知として 39 項目が選定された。 次に,39 項目に対して,大学院生 3 名が表面的妥当 性の検討を行った結果,8 項目が削除された。最後に, 31 項目について,専門家 2 名が表面的妥当性の検討 を行った結果,17 項目が削除された。以上の手続き により,14 項目(e.g.,だまれよ,ふざけるな,うざ いな)からなる子ども用怒り自動思考尺度(A-CATS) [ストレス科学分野]ストレスマネジメント

子どもの怒りに対する認知の歪みモデルに関する基礎研究

岸田 広平

同志社大学大学院心理学研究科 (ストレス科学研究 2019, 34, 81-82) 研究助成金:400,000 円 doi.org/10.5058/stresskagakukenkyu.34.81

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子どもの怒りに対する認知の歪みモデルに関する基礎研究 ̶ 82 ̶ 暫定版が作成された。 本調査 529 名の児童青年(小学 4 年から中学 3 年) に対して,以下の質問紙調査を実施した。具体的には, (a)子ども用怒り感情尺度(武部ら,2017),(b)ス ペンス児童用不安尺度短縮版(石川ら,2018),(c) 子ども用怒り認知の誤り尺度(ACEQ-C),(d)子ど も用怒り自動思考尺度(A-CATS)を用いた。統計解 析には SPSS25 と AMOS25 を用いた。 結果・考察 分析対象 回答があったものから記入漏れや記入ミ スを除き,485 名(男子 231 名,女子 254 名:平均年 齢 12.07(SD = 1.81)歳)を分析対象とした(有効回 答率 91.68%)。 因子構造と内的整合性 ACEQ-C 暫定版について, 最尤法を用いた探索的因子分析を行った結果,7 項目 の 1 因子構造が示され,十分な因子負荷量が示された (.51-.63)。内的整合性は α = .76 であった。以上のこ とから,ACEQ-C は全 7 項目が最終版として採用さ れた。次に,A-CATS 暫定版について,最尤法を用い た探索的因子分析を行った結果,14 項目の 1 因子構 造が示され,十分な因子負荷量が示された(.49-.83)。 内 的 整 合 性 は α = .94 で あ っ た。 以 上 の こ と か ら, A-CATS は全 14 項目が最終版として採用された。 構成概念妥当性 怒りの認知の誤りおよび怒りの自 動思考の構成概念妥当性を検討するために,各変数の 相関係数を算出した。その結果,怒りの認知の誤りは, 怒り感情と中程度の正の相関が示され(r = .44),不 安症状とは弱い正の相関が示された(r = .32)。次に, 怒りの自動思考は,怒り感情と中程度の正の相関が示 され(r = .59),不安症状とは中程度正の相関が示さ れた(r = .47)。最後に,怒りの認知の誤りと怒りの 自動思考には,中程度の正の相関が示された(r = .47)。 以上のことから,怒りの認知の誤りおよび怒りの自動 思考は怒り感情と中程度の相関を有しており,構成概 念妥当性が支持された。 子どもの怒りの認知の歪みモデル(媒介分析) 怒 りの認知の誤りが怒りの自動思考を媒介して,怒り感 情に影響を及ぼす「子どもの怒りの認知の歪みモデル」 について,怒り感情を目的変数,怒りの自動思考を媒 介変数,怒りの認知の誤りを説明変数とする媒介分析 を行った。媒介分析ではサンプリング数を 2000 回と したバイアス修正ブートストラップ法により,間接効 果の信頼区間を算出した。その結果(Figure 1),認 知の誤りから自動思考への標準化係数(.47),自動思 考から怒り感情への標準化係数(.50),認知の誤りか ら怒り感情への標準化係数(.20)がすべて有意であっ た。媒介分析の結果,信頼区間に 0 が含まれておらず, 自動思考の間接効果の標準化係数(.24)も有意であっ た。 得られた結果の社会貢献性・新規性・独創性 本研究の独創性は,子どもの怒りの認知の歪みモデ ルを新たに構築し,子どもの怒りの発現・維持プロセ スを明らかにした点にある。現在,子どもの怒りに対 する認知行動療法では,怒った後の対処・解決プロセ スに焦点がおかれている。一方,本研究では,怒る前 の認知的過程に着目し,怒りの発現・維持プロセスを 明らかにした。本研究の知見に基づくと,怒り感情は 他者に対する自動思考(e.g.,だまれよ,ふざけるな, うざいな)と強く関連しており,他者に対する否定的 な認知の誤り(e.g.,友達と話がまとまらない場面⇒ わざとふざけているにちがいない,授業中友達が静か にしない場面⇒じゃまをしたいにちがいない)によっ て当該の自動思考が発現・維持されている。現在,子 どもの不安症状や抑うつ症状には,各症状に対する 特徴的な認知的変数を踏まえた上で,臨床現場での 治療的介入や学校教育現場での予防的介入が実施さ れ,有効性の高いプログラムの開発が進められている (Ishikawa et al., 2019;佐藤ら,2013)。先行研究で実 施されている不安症状や抑うつ症状の認知的変数に対 する介入方法の知見を応用することで,本研究で明ら かになった子どもの怒りに特徴的な認知的変数をター ゲットにした治療・予防的介入が実施できる。これに より,将来的には,これまで本邦の学校教育現場にお いて大きな問題となってきたキレる子どもの暴力行為 が大きく低減することが期待される。 Figure 1 子どもの怒りの認知の歪みモデル

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