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教員養成における和楽器"箏"の奏法習得に関する研究

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(1)Title. 教員養成における和楽器"箏"の奏法習得に関する研究. Author(s). 尾藤, 弥生. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 54(1): 153-166. Issue Date. 2003-09. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/313. Rights. 本文ファイルはNIIから提供されたものである。. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第別巻 第1号. 平成15年 9 月. JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.54,No.1. September,2003. 教員養成における和楽器“撃”の奏法習得に関する研究. 尾 藤 弥 生 北海道教育大学函館校 音楽教育研究室. AstudyonthelearnlngmethodfortheJapanesemusicalinstrument. “Koto(Japaneseharp)”attheteacher,college. BITOlねyoI. DepartmentofMusicEducation HokkaidoUniversityofEducationHakodateCampus. キーワード:教員養成,音楽教育,和楽器“撃”,実技学習. 要. 旨:本研究では,教員養成において“筆”の初心者が体験を通して,日本の音の良さを実感できる ための“挙”の学習プログラム作成に生かすことを目的として,次のような学習と調査を実施. し,考察を行う.ここでは,日本の音楽の特徴と関わりの深い撃の奏法の習得状況及びそれら の音の味わい状況,さらにこれらの関連性を,“撃”の初心者の学生15名の体験学習を通して. 調査し考察する.その結果,日本の音の特徴を理解して体験学習することで,日本の音の特徴 を意識して,演奏家の音の良さを十分味わえるという知見を得た.また,奏法の習得状況と自. 分の演奏の音の味わい状況とは相関関係があることが明らかになった.さらに,奏法の習得状 況については,散らし爪やスリ爪は習得が短期間ででき,反村に裏連やヒキイロは習得に時間 がかかることが明らかになった.. 1.研究の背景と目的 教員養成の学生は,音楽の特性を理解し音楽が人間形成に果たす役割を理解した上で,将来教育現場でさ まざまな音楽の良さ,すばらしさ,価値を児童生徒に実感と自信を持って,指導して行かなければならな い.. そのためには自らがまず,その価値を経験として感じ取っていなければならない.そこで,それぞれの音 楽を体験を通して学習し,その良さを実感できることが必要である.この音楽における経験の重要性につい てJ.L.マーセルは,有意義な音楽経験を通じて,新しい態度や物の考え方を育てることができる,そし て,経験が教育の過程であり手段であると,その著書(注(1))の中で述べている.この経験は今日の学生に とって,西洋音楽以上に慣れ親しんでいない日本の伝続音楽について,一層求められるものである.. ここでは,日本の伝統音楽の中で和楽器「撃」に焦点を当て,これらの能力を育成するための方法を研究 する.筆は和楽器の中で教育現場で扱いやすいという調査結果が,文部科学省の「平成14年度公立小中学校. における教育課程の編成状況等の調査結果について」(注(2))により示された.平成14年度からの中学校で 153.

(3) 尾 藤 弥 生. の和楽器導入状況で,多様な和楽器の中で挙が56.8%扱われているという,高い数値結果が示されている・ これは,2校に1校が扱っていることになり,学習が行いやすいことが明らかである・さらに,筆者の平. 成7年度以降の教育現場での実践(注(3))からも有効であるという知見を得ている.そして,小泉(注(4)) も撃は撃柱を立てる位置によって音の高さを自由に変えることができ,あらゆる音階を作りだすことができ るので,オルフの木琴よりもさらに,有効な教育楽器であると述べている.. 本研究は,日本の音楽の特徴と関わりの深い筆の奏法の習得状況及びそれらの音の味わい状況,さらにこ. れらの関連性を,“挙”の初心者の学生15名の体験学習を通して調査し考察し,その結果を現在実践してい る教員養成における初心者の学生のための“肇”の学習プログラムの改善に生かすことを目的としている. これらの学習プログラムの中で,初心者が撃の演奏技術を習得するためには,①演奏方法に慣れる②楽譜. 理解に慣れる③調絃に慣れる④音色の変化の聞き分けに慣れる,の4項目に慣れる必要がある.この中で④ は,日本の音及び音楽の特徴を意識しながら挙の奏法を学習できるので,短時間に撃の良さを実感するのに. は有効な方法であると一考えたため,本研究で取り上げることとした.尚,日本の音楽の特徴には,単音愛好 性,余韻愛好性,嘆音愛好性,声楽愛好性,音色尊重主義がある(注(5)).この中で,初心者の筆の学習で. とりあげることのできる項目は,声楽愛好性以外の4項目であると考える. 2.研究方法 本研究では,筆演奏初心者の音楽科の学生15名を村象に,平成14年度前期,音楽科教育法の授業の7回 (1回の正味の学習時間は60分程度)を利用し,実技を中心とした学習を行い撃の演奏技術の習得を行っ た.この7回の学習内容は「表1」に示す通りであり,詳しい概要は後述する.この学習の前半で,日本の 音及び音楽の特徴を西洋音楽と比較して調べる自己学習を行わせ,その後,日本の音及び音楽の特徴の概要 を学習し認識させた.そして,それらの特徴を撃の実技学習により,実際の挙の音を通して意識的に体験す. るよう計画を立案した.そして,その結果を学習の6回目と7回目に2回質問紙法により5段階評価で回答 を求めた.一つ目は筆の演奏技術習得度,二つ目は撃独特の奏法の味わい度についてである.この味わい度 には,①ビデオによる演奏家の演奏をどれだけ味わえるか,②自ち演奏した音がどれだけ味わえるか,の2. 項目にわけて調査した.さらに不足する点については,理由の記述及び実技発表の結果を加味して分析を行 い,学習結果を考察することとした. (り 本研究のための≪7回の寧の指導内容≫の概要. 全体的に少ない学習時間の中でさまざまな奏法を体験できるよう心掛けて「表1」のような指導計画を立 案した.. 1回目は「さくらさくら」の主旋律の演奏を通して,基本的奏法(親指の爪の腹で絃を弾く演奏法)の演 奏方法を習得することを中心に学習した.ここでは,一昔一昔の音色をよく聴き味わうことに焦点を当て た.. また,押し手の弱押し(音程を半音上げる)を体験し,調絃した絃の挙柱の左側を押すことで音程が上げ られることを学習させた.さらに,日本の音及び音楽と西洋の音及び音楽の相違点を考えることを課題とし て提示し,学生各自に意識して考えさせることを実践した.. 学習楽曲:①「さくらさくら」の主旋律(注(6)),②1オクターブ上の「さくらさくら」の主旋律. 2回目は基本的奏法の定着を図るため,前回の復習に加え「さくらさくら」の様々な村旋律の演奏を実践 した.また,押し手に慣れ,必要な音程を正確に押さえられるよう学習を行った.新しい内容としては,基 本的奏法以外の様々な奏法があることを知るため,「さくらさくら」の後奏の学習でかき爪,割り爪,裏連 154.

(4) 教員養成における和楽器“撃”の奏法習得に関する研究. ≪ 7 回 の 撃 の 指 導 内 容 ≫. (表1). は新しく追加された演奏法 回数 学習する演奏法 調絃. 練 習. 曲 目. さくら(∋(∋. 指 導 の ポ イ ン ト. 課題・備考. ・楽器への構え方,姿勢,手の構え方,音 日本及び西洋の音と. 基本的奏法(親指). の出し方,親指の使い方,薬指の支え. (壁上_圭∼巾の絃の. 方,の指導. 音楽の共通点と相違 点を調べる. 弱押し). 基本的奏法(親指) さくら①②(亘綬)⑧(9 ・前時のポイント復習(ピアノとの比較か 上記提出. (押し手∼Hlの絃の 後奏 2. ら). ・爪を当てる角度・押し手の手の形. 弱押し). かき爪,割り爪. ・人差し指,中指の使い方. 裏連 基本的奏法(親指) さくら(∋②⑥⑦(参⑨ ・前時のポイント復習. スクイ爪,合わせ爪 さくら(釘④⑤. ・新しい演奏法の説明. ピチカート,. ・日本の音・音楽の特徴説明及び撃と関連. かき爪,割り爪 3. 上記のまとめプリン ト配布. のある演奏法の説明. 後奏. ・薙音的演奏法の特徴の説明→裏連,スク. 裏連. イ爪など 六段始め5小節(唱. 後押し,ヒキイロ,. ・弾いた後絃を押す,または引っばること で,音程が変化することを意識させる.. 歌も). 前回の奏法復習. さくらの旋律の長い ・余韻の変化の聞き分け. 壁上壁上. 音に理迎を入れる ・それぞれの演奏法の音色の違い. アンケート1 (手の構え方など). 基本的奏法(親指). スクイ爪,合わせ爪 4. ピチカート. かき爪,割り爪. 後奏. 裏連. 後押し,ヒキイロ, 及び「楽の手」の場所 前回の奏法復習. さくら,六段始め復習. 生壁担宣. B(こきりこ,荒城の. ・前時のポイント復習. トとしての演奏法を理解する. 月,赤とんぼ). 5. ピチカート. (各1コーラス演奏 方法確認). 前回の奏法復習. 6. 流し爪,引き連. 班ごとにBの中か ら選択した曲. しい演奏法及び演奏. さくら(様々な奏法. 法の習得について). スリ爪,散らし爪 入りの編曲) ツキイロ 前回の奏法復習. 7. 流し爪,引き連. アンケート2(挙ら. ・筆による日本の音の特徴を含んでいるこ とを説明. 班ごとにBの中か. アンケート3. ら選択した曲. (挙らしい演奏法及. さくら(様々な奏法. スリ爪,散らし爪 入りの編曲) ツキイロ. び演奏法の習得に ・演奏家の演奏で演奏法の違いを聞き比べ ついて, る. 手の構え方など). 注:◇「さくらさくら」の(D∼(勤は,資料楽譜の楽曲. 155.

(5) 尾 藤 弥 生. 《日本と西洋の音及び音楽の共通点と相違点≫. (表2). 日 項 目 (1)旋律・音の重なり モノフォニーの音楽(単旋律が巾一い. 本. 西. 洋. ポ】 ノフォニーの音楽(多声音楽). →単旋律の中での装飾,音色の変化,微妙な音程の変化,余韻の /ヽ ーモニー(和声的)の音楽,. 変化を付けて味わう(うなり,さわり,あたり,こぶし,かぶ 対イ 立法(複数の旋律の組み合わせ)の音楽 る). 調性がない,順次進行的旋律(飛躍的旋律ほとんどない). (5)間. (7)倍音. 不規則な倍音(基本音と倍音のバランスが音により不規則), 2. 線 の音楽. ンヽ. 点の音楽 一昔で何かを伝えることができる音楽 卜・音一一塊,一期−・会) → 」L. (6)フレージング. 余事 損の変化ない 計頂 軒自勺な間. 巨†. (4)余韻の変化. ー{亡ニ 走に保つ. ゝ二. (3)音程の変化. →′さ 嗣二均整がとれ,統一された音の響きを求める. 微妙な変化好む(アタリ,サワリ グリッサンド的変化,微妙な変化好む(メ.リ,カリ,ヒキイロ, ユリ, ツキイロ,後押し,こぶし,かぶる−・ずり上げずり下げ) 余韻の変化を味わう(ウナリ,こぶし,) 自然な間,余韻,しじまを楽しむ. 二1. (2)音色の変化. → イン・ウエーブ) (8)発声法. 二盲さ二. 卜† 色や音程が途中で揺れないまっすぐな音を好む 一つの音の中に複雑な倍音を含むものを好む 澄んだ声より,さびた声,渋い声を味わいあるものとして′受け 澄 んだ声,ビブラート好む(オペラなど). 入れる.地声が基本.勘所(高音域)も声を張って歌う,鼻音 裏テ 宕 ベルれント発声 I 母コ 首を引き伸ばすこと少ない (鼻腔響)使用.震える声 ,ウイブラート嫌う. 母音を長く引き伸ばす技法→発音,音色(声の色合い)音の長 さの長短,強弱 (9)相子. 高低アクセント→音の強弱で拍をとらない(表間,裏間) 単旋律が中心で個人演奏が中心. 日本語のアクセントが高低アクセント,イントネーションである ため 拍節は圧倒的に2拍子系 非拍節的(自由リズム,追分節)も多い (11)強弱 強弱変化の意識は少ない (12)楽曲の構成・形式 適作形式→繰り返しのない構成 自然の姿を生かしたバランスの美しさを求める “手”と呼ばれる慣用音型の組み合わせによる作曲 (1d)リズム. 強弓 ー弓アクセント→音に強弱を付けて拍子をとる (強拍,弱柏). 享楽が和声的に発展し,多人数での合奏,合唱が 寺われるようになったから 英冨 3才. 柏 ′,基本的に自由リズムない, 強 こ識的 有責 、宥形式→繰り返しのある構成(ソナタ形式,ロ ン ド形式, リトルネロ形式,二部形式,など) 幾イ 可学的でシンメトリソクな美しさを求める. (13)テンポ・速度 アッチエレランド. イ、 /テンポ(−・定のテンポを保つ音楽) →聴き手に気づかれない程度に少しずつテンポを速めていく演 ー→/ 楽章ごとのテンポの変化はあるが,−一つの楽章 奏法 の中で長い時間をかけて徐々にテンポを変化さ 序破急の形式もアツナエレランドが基本 せることはない. 柏の伸縮や速度の変化が多い (14)音階. ペンタトニックスケール(五音音階) わらべうた(2音の音楽,3音の音楽). 7・コ 旨音階(長調,短調),12音技法,全音二百階 和] 声音楽(TSD). テトラコード(4度音程の中に核音と中間音) (15)移調. 声に合わせて移調→絶対音高は重視しない,楽譜は同じ. 絶斉 移焉. 雑音を取り入れる 喋」 音は音楽に使わない音と捕らえ避ける (擦り爪・‘ズー,散らし爪・シュ,スクイ爪,ムラ息,サワ 自舞 黙の音を雑音として感じる リ,能管ヒシギ) 五轟 泉譜. (16)好む音の嗜好性 喋音愛好性,楽器の演奏法にもわざと. 自然の音愛好性(虫の声,鳥の声,凧の音,水「川,せせら ぎ,波,滝,水琴窟」) 奏法譜,タブラチュア(弦名譜),図形的楽譜(胡麻点) (17)楽譜. 楽器によって違う,流派によって違う. (1乳 文化の影響. 仏教文化,声明,神道思想, 総合芸術の一部分. (19)音楽の種類. 声楽中心→声+楽器の音楽が基本. 楽言 普は同じ キl ノスト教,グリゴリオ聖歌 各乙 楽器ごとの音楽が独立し確立している 各). てし. 錮 音と言葉の関係 メリスマの多用→1音を長く伸ばし,その間に音の高さを色々変える シラビック(1字1音的)な部分とメリスマ風に母音を伸ばし 節をつけて叙情的に歌う部分とが交互に組合わされている. 伽 日本語の特徴 一つの母音で意味をなし感情を表現できる,1音1音法で発音する 幾 つかの子音と母音のまとまりで意味を成す 鋤 声と楽器の関係 不即不離→両方の動きが微妙に離れるよう心掛ける 錮 楽器の素材. 間のおもしろさ,味わいを求める 自然の素材中心→(木,竹,皮,糸),単純な構造 肇→桐の木と絹糸(テトロン糸). 錮 音楽学習の制度 家元制度,口唱歌(くちしょうが) 鍋 鐘の音 紳 建築 銅 庭園. 156. 各ノ ヾ−トの縦をそろえることが基本. 金寿 覇などの素材も多く使う→弦も金属,スチール 複本 雑な構造 楽言. 普から学習. 一対一の口頭伝承→微妙なニュアンスは聴いて覚える,まねる 楽言 普伝承 梵鐘(うなりを伴ってゆっくり消えて行く) 敦一 会の鐘→音を次々出すことに焦点を置く 1音が消えた彼のしじまも味わい,その後ゆっくり次の音を出す (「 音が出た瞬間を楽しむ) 石、 造り(上に積み上げる) 木造(ふすま,障子,和紙,畳) 自然を象徴的に取り入れて,耳と目で味わう(滝,水,ししおど 人_ 工的,幾何学的(シンメトリック,均整)美を迫 及 し).

(6) 教員養成における和楽器“争”の奏法習得に関する研究. の体験を取り入れた.. 学習楽曲:・1回目の楽曲,⑥対旋律,⑦主旋律の裏打ち,⑧合いの手のような対旋律,⑨対旋律. 3回目は,1回目の課題のまとめとして日本の音及び音楽の特徴を共通理解するための資料≪日本と西洋. の音及び音楽の共通点と相違点≫「表2」を配布し,その特徴を理解する学習を行った.そして,これら, 余韻,音程,音色の変化,嘆音的効果の特徴を実際の音として体験するため「六段」の冒頭の5小節を演奏. して,ヒキイロ,割り爪,後押し,押し放し,の余韻や音色の変化を体験した.さらに,スクイ爪や裏連の 嘆音的効果についても意識して演奏することを試みた.. 学習楽曲:・2回目の楽曲,③合わせ爪による主旋律,④合わせ爪の分散和音による主旋律,⑤スクイ爪を 加えた主旋律. 4回目は,いままでに学習した教材楽曲の復習を通して,日本の音の特徴である余韻愛好性,嘆音愛好. 性,音色尊重主義,を意識して演奏することを試みた. 5回目は,4回目の内容を繰り返し体験することで,音の味わいを深めることを目指した.それに加え, よく知られている日本の民謡や日本の音階による楽曲の挙二重奏による合奏を取り入れた.これは,ひとつ の楽曲を仕上げて発表することで,筆の演奏に対する自信を深めさせようと考えた為である.. 6回■目は,前回の合奏曲の練習に加え,今まで楽曲に取り入れられていなかった余韻,喋音,音色に関わ る奏法を体験するため,前奏に流し爪,引き連,スリ爪,散らし爪が入った編曲の「さくらさくら」の楽曲 を演奏することを実践した.さらにこの楽曲の主旋律に装飾音的にツキイロや押し放しの奏法を加え,この 二つの奏法の音程やリズムの変化を伴う余韻の違いを味わうことも取り入れた. 7回目は,前回の学習を深め習得の向上を目指す内容である.. (2)学習結果調査表の作成について ひとつ目の調査は,7回の学習でどの程度演奏技術が習得できたかを学生に自己評価させた.この調査の. 各奏法の中の評価項目は,その奏法の演奏手順を分解し,重要な手順を導き出して項目化したものである. 二つ目は各奏法の味わい度の自己評価の実施である.ここでは,日本の音の特徴を味わえたかに焦点を当 て,自らの演奏とプロのビデオでの演奏の二つの面から味わい度を評価させた.これらの調査結果は「表 3」に示す通りである.. 3.調査結果の考察. (1)筆の学習の演奏技術習得度について. 調査結果「表3」のどの項目も,1回目の調査より2回目の調査の方が,習得度が平均で0.3∼0.8成長し. ている.また,学生の次のような自己評価の理由「良い音程で押せた.タイミングがうまくつかめたので」 からも習得度を自己評価することで,各奏法の正確な弾き方を意識するようになったことがわかる.次に, 各奏法の習得状況を考察することとする.. かき爪,割り爪については,「二本の絃を弾くこと」「余分な絃に触らないこと」についての習得状況は平 均で3.3と2.8である.これらについては,意識することである程度改善されたが,過剰に意識すると,かき 爪らしいスピード感と音色が出せない状況であった.スピード感を出すためには,二本の絃を指の力だけで なく,手全体の力と手首の上下運動を使い勢いよく弾き,三本日の絃にさわらないように跳ね上げる必要が ある.これを習得するのには,多くの締習回数を必要とするため,本学習のように「さくらさくら」の後奏 のみの練習では,練習回数も少ないため習得度が低かったものと思われる.今後,この奏法の練習を増やす. 方法を短い練習曲などを考えて考慮したい. 157.

(7) 尾 藤 弥 生. 《拳・演奏技術習得度及び奏法の味わい度調査の集計≫ 調査対象:2回出席した学生15名,評価方法:5段I聴許価. (表3). 学馴寺. 7酎jの. ・具体的な弾き方の項目. 奏法. 期何回. 奏法ごと. 1≡1より. の斗甥ノB−A. 2 かき爪,割り爪 ・二つの萄. ごを弾いているか ・余. ないか. ・スピード感のある演奏か 3 スクイ爪. ・スムーズに弾けているか ■手を45ft. 支柱度倒して演奏しているか. 2.9. 3.3. 2.1 2.1. 2.8 0.7 2.6 0.5. 2.5 2.7. 2.9 3.0. 2.6. 6 流し爪(カーラリン)と引き連・始めと最後をしっかり弾けるか. 3.4. 2.9. 0.4 0.3. 0.21. 2.95. 0.77. 4.77. 3.4. 3.72. 4.88. 0.8. 2.3. 6 散らし爪,スリ爪・シュ,ズーという雑音の効果がたIlているか. 3.5. 4.0. 0.5. 4.0. −0.39. 6 ツキイロ. ・押さえるタイミングと強さは良いか. 2.9. 3.4. 0.5. 3.4. 0.26. 3 押し放し. ・押さえる探さと音程は正確か ・リズムは正確か. 2.9 3.4 0.5 3.45 3.1 3.5 0.4. ・音程は ̄. 2.5. こ▲がっているか. 3.11. 2.6. ・トレ モロの粒はそろっているか. 3 ヒキイロ. 2.93. 0.8. ・中間▼ β分の閉の取り方は良いか 2 裏連(サーラリン)・爪の王l で弾く時人指し指と中指は交互に動いているか. 0.4. 風炉叫廿い度. 2.9. 0.4. 2.9. 3.4. 0.16. 2.66. スクイ爪について,イスムーズに弾けているか」という項目では,調査の2回目で習得状況が0.4改善され 平均2.9であるが,最後の実技発表の結果においてスクウ時十分スムーズでない学生が多かった.スクイ爪. は親指全体と手首をひとつにして,上下運動させながら弾くことが,スムーズに弾くためのひとつのポイン トである.しかし,スムーズに演奏できない学生は親指の先だけですくおうとするため,絃にひっかかりす. くいにくいことがわかった.また,もう1項目の「手を45度程度倒して弾いているか」では,調査の2回目 で0.3改善され平均3.0であるが,最後の実技発表の結果をみると,基本的奏法と変わらない角度で弾いてい る学生や,学生自身は倒して演奏しているつもりでも,あまり変化していない学生が多かった.このことか ら,この項目については,自己評価より低い習得状況であると判断される.今後この奏法の解説方法などを 改善し,正確な理解を図りたいと考えている‥ 流し爪と引き連について,これは学習の6回目に初めて学習した奏法であるが,習得状況の平均が3.4と. 高く,演奏方法を覚えれば,わりあいすぐ演奏できる奏法であることが,自己評価の結果から明らかになっ. た.この奏法の「中間部分の間の取り方」の項目について,調査の2回目には平均3.3まで成長している が,最後の実技発表の結果において,間の取り方に自信がもてない学生がいた.この奏法では,音を出さな い部分の“しじま”を味わおうとすることで,さらに,音を出さない所も出しているつもりになることで, 不自然さが取れて,間の取り方が演奏者に取って自然なものになると思われる. 裏連について,学習の2回目より少しずつ練習しているが,毎回の練習回数も少なく,さらに,幾つかの. 弾き方の手順が組合わされてできている奏法なので,習得状況の平均が2.9と低く,習得が難しいという結. 果が表れている.習得が難しい要因のひとつはトレモロである.トレモロは巾の絃のみで粒を拾えて弾くこ とが求められるが,勢い良くトレモロを演奏しようとすると隣の絃まで弾いてしまう学生がいる.また,絃. に爪を当てる角度が悪いと爪が絃を行き帰りするスピードが偏ってしまう.さらに,打楽器のトレモロと同 様に,手首や腕に力が入り過ぎているとうまくトレモロができないなどの多様な要因がある.次に人差し指 と中指の爪の裏を交互に使い絃を下降する弾き方の手順に進む.ここで学生がうまく演奏できない理由とし て「爪が止まった.音が滑らかに出ない.」が述べられている.これは絃と爪の角度のバランスが悪いため. に起こる現象である.この奏法の最後の手順は,親指で八・七・六の絃を弾くのだが,それを弾く余裕のな 練習すること,そして,最後にそれらを続けてスムーズに弾く練習をすること,つまり「形」の自動化が必 158. 4,.66. 3.66. 3.53. −0.18. い学生もいた.そこで,これらの各手順の難しさの要因を克服するためには,裏連の奏法の各手順を別々に. 3.61. 3.53. 3.61. 4..72. 2.72. 4.88 4.88.

(8) 教員養成における和楽器“筆”の奏法習得に関する研究. 要である.. 散らし爪,スリ爪について,これは学習の7回目の習得状況が4.()と高い平均を示している.これらは 「シュー」「ズー」の擬音で表現される喋音効果の奏法だが,奏法を理解すれば短時間で,喋音効果を味わ いながら演奏できることが明らかになった.. ツキイロについては,学習の7回目の習得状況が3.4の平均で,最後の実技発表の結果から,ツキイロに よる音程変化は聴き取ることができた.しかし,絃を押すまたはツク,そのタイミングが少々ゆっくりで, 鋭さに欠ける学生が多い.また,ツキイロの音程変化が半音に達していない学生もいた.これらを改善する. ため,ツキイロの時の手の形と押す位置に留意して,鋭さを出せるように改善したいと考える. 押し放しについては,学習の3回目から練習していたため習得状況の平均が3.5と高い平均を示してい. る.最後の実技発表の結果から,刀」という規則的なリズムでほぼ全員が押し放しできていることが明らか であり,学生の自己評価以上の習得度であると判断できた.しかし,押さえる音程に関しては全音の音程変 化を求める所と半音の音程変化を求める所があるが,それぞれの部分において求める音程を十分に確保でき ていない学生が多く,その点での改善方法を今後考慮する必要がある. ヒキイロについては,学習の3回目から締習していたが習得状況の平均が,2.9と習得が難しい状況が明. らかになった.最後の実技発表の結果からみると,絃を右に引っ張って音程を下げる時,指が絃の上をす べってしまい,なかなか音程の下降を聞き取ることのできない状況であった.. 今後,各奏法を演奏する手順を再度確認し,難しい部分を分かりやすく分解して説明し,演奏体験を通し て習得できるよう改善したいと考えている.. (2)学生自身の演奏による各奏法の味わい度について 学生自身が各奏法を演奏した時の音の味わい方の度合いについては,学習の6.7回目に2回調査した. が,練習が積み重ねられることで味わい方は少しずつ深まって行った.各奏法の味わい度及び理由について は「表4」に示す通りである.全体的に同じ「3」の段階を選択していても,押し放しの場合,1回目の調 査では「場所がわからない」だった理由が,2回目の調査では,「音の変化が楽しい,慣れて来た」と味わ. いが深まっている.また,かき爪・割り爪では,1回目の調査では「あまりできません」が2回目の調査で は,「音の交ざり方がいい,落ち着いてできた」と味わいが深まると共に自信をもって演奏できるように. なっている.このほかにも音の良さが意識されたり,部分的に奏法に慣れてきたことが窺える理由がある. これに関して,学生Y(表4の中で◎で理由を表示している学生)の変容に焦点を当てて,2回の調査の 状況を調べてみると,学生Yは,ツキイロは2回とも5であるが,理由が「良い音程で押せた」から「タ イミングがうまくつかめたので」と音程変化だけでなく,一瞬に変わるスピード感まで味わえるようになり. 味わいが深まっていることがわかる.押し放しでは,4から5に変容し理由も「弾いている右手に左手がつ いていけない所があった」から「音程を考えて才甲せたから」と味わいだけでなく技術の向上が読み取れる.. ヒキイロは2回とも5であるが,理由が「タイミングをうまくつかめた」から「力を込めて引けたから」と 絃を引く技術が向上し音程が下がることがよくわかったことが読み取れる.スクイ爪は5から4に後退して. いるようにみえるが,理由をみると「裏で弾く時の音色が上手く出せた」から「恐れずできてきた」となっ ており,この奏法の演奏技術のレベルは向上しているものと思われる.この奏法に慣れたことで,あまり意 識せず演奏したため味わいが下がったのではないかと思われる.スリ爪・散らし爪については2回とも4で あるが理由が●「なかなかうまくできた」から「勢いをつけられるようになった」と奏法に慣れたことがわか. る.裏連については2回とも5であるが,理由は「だいぶ慣れてなめらかにできるようになった」から「音 のタイミングがうまくつかめた」と演奏技術の向上がみられる. 学生はこのように,奏法や日本の音の特徴を意識して様々な奏法を体験することで,単に右手だけで挙の 159.

(9) 尾 藤 弥 生. (表4) ≪さまざまな撃の奏法の味わい方調査の集計≫. (5段階評価 5:とても味わえた→1:味わえない,M君→☆,Yさん→◎) 自分が演奏 した時の味わい方の度合い. 奏法. ビデオの演奏家の演奏を. 聴いた時の味わい方の度合い. 及び揮発. ・調査日:学習7回目・人数15名. ・調査日:学習7回目・人数15名. 剛離用. 平均4.72. 平均3.66. 平均3.53. 由. 理 5☆短い時間で昔が変わるから ◎良い音程で押せた ツ. ・勢いが違う.. ・とてもスピード感がある音の変化. キ. ・鋭く音が変わった ・音の揺れが気持ちよい. イ ロ. ・なかなかうまくできた □音は変わったが,音がねらった所を通り過 ぎた(押さえ過ぎて音程が変化し過ぎた). 4・思ったより簡単に出来た. ・音のゆれが好きです ・楽しかったので. 6. 回 冒. (各段階を選んだ理由). ・さすがプロ ・全然違う ・味わえた. ☆きちんと変化できた ◎タイミングがうまくつかめたので ・音程が変わった ・音の揺れが気持ちよい. □一瞬の音の変化が分かる. ・場所がさがせない. 3. ・早すぎて感じ取れなかった. ・あまり慣れない 2・演奏法が十分理解出来ず,演奏する余裕 がなかった.. 平均3.61. 平均3.53. 平均4.88. 由 (各段階を選んだ理由). 理 5☆余韻があっていい ・比較的やりやすかったので. 押. ・音色の変化が良く分かった. ☆あわてずできた ◎音程を考えて押せたから ・きちんと音が上がったから. ・動きが違う. ・味わえた. 4・音程がかわったのがわかった ・おちついてできた ・音の変わり目がとて.もきれい. し. す 放. 所があった し. ◇音の変化が楽しい. 3. ・慣れて来た ・味わえた. 回 目. □ゆっくりの所があまり上手なかった ・右手を弾くので精一▲杯だった. 2◇演奏法が十分理解できず,演奏する余裕 がなかった 平均2.66. 5◎タイミングをうまくつかめた. 平均4.88. 平均2.72 理. ・音が少し下がったのを感じた. ◎力を込めて引けたから. 由. (各段階を選んだ理由). ・味わえた ・音が少し下がったのを感じた ・半音くらい音が下がったのが,はっ. きり聞こえた. ヒ. ・音の変化がおもしろい キ. ・音の変化ができた. 4. イ. 3・指が痛かった ロ. ☆あまり音が変わらない ・手が痛い ・J二11釆ない から. 3. 回 目 ・弾けなかったので(2人). ・難しい ・場所をすぐ探せない(2人). ・演奏法が十分理解出来ず,演奏する余裕 がなかった. 1・できません □音が変わらない. 160. ・私がするとあまり音が変わらない. □音が変わらない ・出来ないから. ・音がきちんと変わっているから.

(10) 教員養成における和楽器“撃”の奏法習得に関する研究. 平均3.11. 平均2.93. 理. 平均4.77 由. 5◎うまく2音をだせるようになった か. (各段階を選んだ理由). ・上手いから ・二つの音が同時に出て絶妙なバラン スを保っていた ・すごいテクニックだった ・早くてよく味わえなかった. ・好きだからです. き 爪. ・きちんとできた. 4. ・音の交ざり方がいい ・落ち着いて出来た. 3・あまりできません. ・うまくできないので 爪 2・なかなか難しい(2人). □絃が−・本しか弾けない暗がある ・4馴吏し、が上手くいかない. 2. 回. ・余計な絃をさわってしまう(2人). 日. がなかった.. ・余計な絃までさわる 平均3.72. 平均3.4. 華Ⅰ!. 5◎裏で弾く時の音色が上手く出せた ス. (各段階を選んだ理由). ・かっこ良かった ∵返す音がしっかり聴こえた ・爪の嚢で弾く感じが良く出ていた. ・同じ場所なので少しはできる. 4・きちんと味わえた. △裏打ちっぼい奏法なので好きです. ・弾くのが楽しいので. イ. ◎恐れずにできてきた ☆前恒はり音が出る ・うまくできた. 爪. ・落ち着いて出来た. 3. 回. 由. ・返す音がしっかり聴こえた △裏を取るリズムが好き. これも好きです. ク. 平均4.88. ・戻りずらい. ロー・応演奏法はあっている.と思うが,音があ まり変わらない. 目. 2・演奏法が十分理解出来ず,演奏する余裕 がなかった.. 理. ス 5・指が気持ちいいです 絃によって少し音 リ. 平均4.66. 平均3.61. 平均3.4. ・指に残る横じがいい. が違う部分を味わいたい. (各段階を選んだ理由). 由. ・勢いある安定した音で気持ち良かっ た ・はっきり聞こえた ・自分でやるのとは違った. ◎勢いをつけられるようになった. ☆のこぎりみたいでおもしろい 爪 ・散らし爪が好きです ・簡単にできた. ち’. ・後になってできるようになった. ・音の変化がおもしろい. ら. ・音がおもしろい. し. □爪が安定しない. 爪 弾いているのかわからない 6. 回 目. ・自信もってできない. ・演奏法が十分理解出来ず,演奏する余裕 がなかった.. ・爪が安定しない 平均3.05. 平均3.0. 理. 5◎だいぶ慣れてなめらかにできるように ・トレモロも袈連もきれいだった ◎音のタイミングがうまくつかめた. なった. 平均4.83 由. (各段階を選んだ理由). ・味わえた ・流れるような音.. きれいに響いていた ・すごくきれいに聞こえたので ・きれいにできているから. 裏. 4・これもできるようになったので 3・なかなかできなかったので. ☆あまりうまくできない 連. ・ひっかかる. 2 回. ・たのしい ・トレモロがむずかしい ☆いい音があまり出ない ・あまり出来ない ・難しかった ・なかなかうまくできない(2人). 2・難しくてなかなかできません. 目. ・演奏法が十分理解出来ず,演奏する余裕 ・ひっかかる がなかった.. 1□音が滑らかに出せない,. 丁まだ不完全 ・トレモロの後がわからない []爪が11二まった. ・音もでない. 161.

(11) 尾 藤 弥 生. 音を鳴らすだけでは,味わうことのできなかった,撃の良さに全員気づくことができた.これらについて. は,学習最後の学生の次の感想「左手の使い方を工夫することで,何通りもの音,音色が作れる.」「余韻の 美しさを改めて感じた.」「撃の音色には,雑音のような音も大切な役割をもっていることが分かった.」「挙 は日本の音楽の特徴である余韻を楽しむ奏法がたくさんあることがわかった.」などからも明らかである. (3)演奏家の演奏による各奏法の味わい度について. ここでは各自の演奏技術と関係なく,鑑賞として各奏法をどの程度味わえるのかについての調査を行った が,すべての項目で平均が4.6以上で,鑑賞として聴く学生の耳が育っていることが明らかになった.この. 結果の裏には,自分たちがそれらを実体験しているということで,演奏の難しさ,技のすごさを強く感じ. 取っていることが,理由から読みとることができる.ツキイロでは「鋭く音が変わった」,才甲し放しでは 「音の変わり目がとてもきれい」,ヒキイロでは「半音くらい音が下がったのが,はっきり聞こえた」,かき 爪では「二つの音が同時に出て絶妙なバランスをたもっていた」,スクイ爪では「爪の裏で弾く感じが良く. でていた」,スリ爪・散らし爪では「勢いある安定した音で気持ちよかった」,裏連では「流れるような音, きれいに響いていた」などと,音色や音程などの変化をよく味わっている理由が述べられている.. 次に,「表3」の自分の奏法の味わい度と演奏家の演奏の味わい度を比較すると,同じ学生が聴いて味. わっているにもかかわらず,自分の奏法の味わい度の方がすべて低い.これは,学生の各奏法の演奏結果が 演奏家と違うためであると思われる.このことは,学生の奏法の習得状況が最高で4.0,最低が2.7,である こと,さらに,最後の実技発表の結果からもすべての奏法を十分にマスターしていないことからもわかる.. (4)(り演奏技術の習得度と(2)学生自身の演奏による各奏法の味わい度,の相関関係について ここでは(1)と(2)の関係を,奏法の習得状況と自分の奏法の味わい度の差から調べることとする.二つの差 は平均0.3と僅かな違いである.このことからもこの二つの内容の間には相関関係があることが明らかであ. る.これに関して,ヒキイロ,散らし爪,スリ爪以外は,味わい度の方が習得度より平均が高い結果となっ ている.これは自分の出している音を楽しみながら音色・音程・余韻などの変化を聴覚で十分味わおうとし ていたためであると思われる.また,奏法の習得度の方が低かった理由は,自分の手の動きについて,十分 冷静に判断することが難しかったためでもあると思われる.. 逆に,散らし爪,スリ爪について味わい度の方が低かった理由は,これらの奏法は習得できたと学生自身 評価しているものの,最後の実技発表の結果を調べると,「ズー」や「シュ」の喋音を出しやすい弾き方を 正確に習得していない学生が半数ほどいたためであることがわかった.これらの奏法は絃に対して爪を直角 に当てて爪の角で絃をこすらなければ暁音効果が出にくいにもかかわらず,絃に対して爪を平行に当てて, 爪の腹で絃をこすっていたためであった.. また,ヒキイロは味わい度の方が低かった.それは,学生がヒキイロの手順を理解したことで,習得でき たつもりになっていたことが原因であると思われる.これについて最後の実技発表の結果を調べると,実際 には十分音程の下がっていない学生が多かったことからわかる.. どの奏法についても,自分がその奏法を正確に演奏することができ,尚且つ演奏することにある程度余裕 がないと,十分その音色の良さを味わうことができないということがわかる.奏法に慣れて余裕のある学生. は,その昔の変化のおもしろさや良さを十分味わって楽しんでいることが,「音程が変わった.音の揺れが 気持ちいい.音の変わり目がとてもきれい.」などの理由から読み取ることができる.このように将来教え る立場に立つものが,そのすばらしさに感動し,ハマるということは,感動をもって子供達に伝えるために 必要なことなので,大変良い傾向であると考える.このことを図式化すると,. 162.

(12) 教員養成における和楽器“拳”の奏法習得に関する研究. 演奏才支術を習得し,コツをつかむ 凸. 音を味わえる 凸. 音の良さがわかる 凸. 感動する. という流れになる.. 4.まとめと今後の課題 本研究では,挙の学習プログラムに有効に働いている点及び,改善に生かすことのできる点を認識するこ とができた. まず,効果的な内容として,学生が日本の音の特徴を学習し理解した上で挙の各奏法を実技学習し習得す. ることで,各奏法の音の変化に対する味わいが深まり,日本の音の良さを感じとることができた.それは, 学生の次の感想「挙の音色には,雑音の様な音も大切な役割をもっていることが分かりました.」「筆は日本 の音楽の特徴である余韻を楽しむ奏法が沢山あることがわかった.」「西洋音楽では感じられない“音の音程. ・余韻を十分味わって曲想を作る”ということをできたことが何よりためになった.」などから明らかであ る.また,学生が自ら演奏体験することで,他者の演奏を味わえる耳が育つことが明らかになった. 次に改善に生かすことのできる点について,奏法の習得状況については,奏法の習得が少ない練習で可能. であるものと多くの練習を必要とするものがあることが明らかになった.嘆音効果を出すことのできるスリ 爪や散らし爪は少ない練習で習得でき,喋音効果を味わうことができるので,日本の音の特徴の一つの側面 を体験的に味わうのに有効である.これに対して,ヒキイロや裏連,かき爪,割り爪は,完全に習得するに. は,奏法の手順とコツを繰り返し練習して身につけなければならない.そして,それらの奏法の自らの演奏 が完全でないと,その昔の良さを自分で十分味わえないことが明らかになった.今後これらの習得状況の違 いを考慮に入れて,奏法を演奏する手順を再度確認し,難しい部分を分かりやすく解説し,学習用楽曲も工 夫して作りたいと考えている. 最後に学習状況の調査方法について,今回,奏法の習得状況の調査項目が,ひとつの奏法の複数の手順を. ひとつの項目に組み入れて質問しているもの,質問項目の言葉が抽象的なもの,さらに音の味わい方の質問. に近い言葉で質問している内容などもあるので,質問項目を吟味する必要があると考えられる. また,味わい度の調査については,項目を設定しなかったため,学生各自の判断による回答となり,味わ. いということの受取方に個人差が存在する可能性があったので,今後は何を味わえればよいのか基準を設け るよう改善したいと考える.. 今回の研究で明らかになった改善点を次年度以降の学習プログラムに反映させたい.. 注. (1)J.L.マーセル若美田節子訳『音楽教育と人間形成』音楽之友杜1967 pp.28【36.. 163.

(13) 尾 藤 弥 生. (2)文部科学省 「平成14年度公立小中学校における教育課程の編成状況等の調査結果について」の「7和楽器を用し、た器楽指導の実施状況. 器楽指導において使用する和楽器別の学校数割合」より (3)尾藤弥生著「日本の伝統音楽を学ぶ、“挙”の体験学習からのアプローチ∼」(束京都高等学校芸術教育研究協議会平成7年度研究紀要pp・15 −30.)及び「教育楽器としての“拳”の可能性へのアプローチ」(東京都高等学校芸術教育研究協議会平成10年度研究紀要PP・3−22・) の生徒の感想と学習結果の考察より明らかである.. (4)′ト泉文夫著『おたまじゃくし無用論』青土杜(1980)pp.174−175. (5)吉川英史著『日本音楽の性格』音楽之友杜(1979)による. (6)学習楽曲の①∼⑨の番号は,≪資料楽譜≫の番号を示す.. 参考文献. ・安藤正輝著『生田流の撃曲』講談社1986. ・眼能義治作曲『まつむしそう』邦楽教育振興会 2001 ・小泉文夫著『おたまじゃくし探聞論』青土社1980 ・沢井忠夫著『沢井忠夫筆数則本第一一集』ミューージックエス1994. ・財団法人音楽文化創造企画・編集『改訂版筆曲集』 音楽文化創造 2000 ・尾藤弥生著「和楽器の教育的活用法の研究」北海道教育大学附属教育実践総合センター紀安第3号. 2002 pp.129−137・. ・J.L.マーセル著美田節子訳『音楽教育と人間形成』音楽之友杜1967. ・文部科学省「平成14年度公立小中学校における教育課杜の編成状況等の調査結果について」2003 ・山川直治編集『日本音楽の流れ』 音楽之友杜1990 ・吉川英史著『日本音楽の性格』音楽之友杜1979. (函館校 助教授). 164.

(14) 教員養成における和楽器“争”の奏法習得に関する研究. 1ニ jL々 十 jL・こ \ 々 ○ Ⅵpム、 ・ヒ 0 Ⅶp石 ゆ ■ ■− ○ 仝了 Jこ ○ A、・ ■ヒ ○ jLた 三■▲ ナ 四 ○ 大・て J亡 ■■l. ■■■ 一■■■■■ ○ ハい. ○ 大!・・. コト ○ 六†. ニー 九 \. 一■一 ▲. ん J・ g ○ ロ. J■ ノヽ ○ jLか. jL 一ヒ. 申l. ⅦpJ. ナ. 眼能義清作曲﹁まつむしそう﹂より. e. jL 十. ノ\. 0 一ヒ ○ 国 仇 ◎ 呼 田 ′\ OJ ニ.ト欠 ノヽ ス. 皇、. ノ\. jL 一ヒ ■亡、− ○ 1=r. ○ ¢. ■■■ 一■■■ ム. 〃. 十 一■一 九. 七 一ヒ ぺ:ハ 大 ¢ J\1. ︽資料 楽 譜 ︾. ﹁さくらさくら︵ ﹂平調子︶. (言ゎ (重D (∃⊃. 七 ・t. ー ′、■ ○. l. ′\. ○ Lぎく. ・七 1= ‥. Ⅵp ○ ・」ヒ丁−. jL ■. 呼 ○ ノ\も 七l. 一 ■■ ■■■■ 巴 十 一■■ 一■■■ 国 ○. ヤ ■■ 日 ■−. ○. 日. ノ\ (重)(:萱:)(二重). tp _′ユ 一■■■ ・七 jこ. 九 事し. 一五. 1. j. 丘 ス. {こ. ナ Ⅶ伊. 九. ざく・㌧ノ■くく・ウキ人長. ty 呼j. 子飼︸. t∫ J⊂ ス. J⊂. 1こ. ′\. ′\. イし. 九 責、. i ■こ. ∂ タ =こj. J\. ′ ニt ーj 一一. 1こJ て ・ヒ 一■−∫ 一■■ll■■. 一ヒ. 一ヒ 久 久. ③、⑥は、尾藤弥生編曲 ④は、改訂版r琴曲集﹄より. l. 七. \j ′\ ′\. ○ ○. 165.

(15) 尾 藤 弥 生. ⑦ (:看)(芝). さく・ り ざ く ● ∼ 東 屋. 千綿︸. 一ヒ. ■⊂. 一七:. 」亡. ′\. ロ. ・▼ 1 9t l ロ. ′\. ′\. サ ▲ ○ヽ ▲. Jゝ Jこ ●l▼. ロ. ・!. ■こ. ・1=. ロ ・ヒ. 一ヒ. tゝ. ′\. \. ∩. I. くp ○ l 」こ. サ. ′. ′\. ー. .ノ. 尾要義曲. ロ.

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