• 検索結果がありません。

歌才ブナ自生北限地におけるブナ優占林の樹種構成と林分構造

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "歌才ブナ自生北限地におけるブナ優占林の樹種構成と林分構造"

Copied!
12
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. 歌才ブナ自生北限地におけるブナ優占林の樹種構成と林分構造. Author(s). 並川, 寛司; 斎藤, 均; 山田, 真矢. Citation. 北海道教育大学紀要. 自然科学編, 68(1): 27-37. Issue Date. 2017-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9574. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(自然科学編)第68巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Natural Sciences)Vol. 68, No.1. 平 成 29 年 8 月 August, 2017. 歌才ブナ自生北限地におけるブナ優占林の樹種構成と林分構造 並川 寛司・斎藤 均*・山田 真矢** 北海道教育大学札幌校生物学教室 *. 黒松内町ブナセンター. **. さっぽろ青少年女性活動協会. Tree composition and stand structure of a Fagus crenata dominated forest in their northern-most habitat of Utasai, Kuromatsunai, Hokkaido, northern Japan NAMIKAWA Kanji, SAITO Hitoshi* and YAMADA Maya** Department of Biology, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education, Sapporo 002-8502 *. Kuromatsunai-cho Beech center, Kuromatsunai-cho 048-0101. **. Sapporo Youth and Woman Activity Association, Sapporo 063-0051. ABSTRACT _ 5 cm in diameter at Tree composition and stand structure were investigated by tree (> breast height, DBH) census in a plot of 1.0 ha Fagus crenata dominated forest in their northern-most habitat of Utasai, Kuromatsunai, southeastern Hokkaido, northern Japan. There were 24 species and 304 trees in the plot, and F. crenata showed the largest relative dominance (mean of relative number of trees and basal area). The comparatively large dominance of pioneer species Betula ermanii was a feature of this plot indicating past disturbances. Spatial distribution of canopy tree in relation to micro-topography of the plot demonstrated that canopy trees of F. crenata were distributed mostly on the lower part of the plot. On the other hand, major canopy trees of Quercus crispula and B. ermanii were distributed mainly on the higher part of the plot. The correlation between number of sapling and canopy states defined by dominated species or gap in 10 m grids showed that canopy gaps might not be sites for the regeneration of major canopy trees. Regeneration processes of six species with more than 16 trees, F. crenata, Q. crispula, B. ermanii, Tilia japonica, Magnolia obovate and Acer pictum subsp. mayrii, were discussed by their frequency distribution of DBH. The most dominant of F. crenata two DBH class groups, and trees in the smaller size of DBH class might be regenerating simultaneously as inferred from the relation between age and DBH obtained from the forest stands adjacent to the plot. Further, Quercus crispula and Betula ermanii had a unimodal frequency distribution of DBH. 27.

(3) 並川 寛司・斎藤 均・山田 真矢. indicating synchronous regeneration, while Magnolia obovata had an inverse J-shaped distribution suggesting successive regeneration.. はじめに. 応は遅く,気付くのには時間を要する。しかし, 同じ場所で定期的にモニタリング(毎木調査)を. ブナFagus crenata Blumeは日本の冷温帯に広. 行うことによって,対象とする森林の種組成や構. く分布し,その北限は北海道の寿都と長万部を結. 造,バイオマスの変化などを定量的に把握するこ. ぶ黒松内低地帯にある。ブナ北限地帯の代表的な. とが可能である。また,個体の生死や成長を追跡. 森林の一つである歌才ブナ自生北限地は(以下,. することで,構成樹種の個体群動態を推測するこ. 歌才ブナ林と記述する) ,黒松内低地帯のほぼ中. とが可能になる(自然環境センター2010)。この. 央部に位置するブナを主体とする落葉広葉樹林で. ようなモニタリングの成果の一例として,カヤノ. ある。歌才ブナ林は,昭和3年,「史跡名勝天然. 平ブナ原生保護林の30年間(1980-2010)の調査. 記念物保存法(大正八年四月十日法律第四十四. を挙げることができる(渡邊・渡辺2012)。この. 号) 」に基づき国の天然記念物に指定された(指. 調査によって,対象とする森林では,ササが更新. 定の理由としては, 「著しい植物分布の限界地で. の強力な阻害要因であり,ブナ以外の樹種の幼木. あること」 [昭和二十六年文化財保護委員会告示. が新たに加入することにより材木量は補われる. 第二号(国宝及び重要文化財指定基準並びに特別. が,林分全体として衰退期が継続していることが. 史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定. 明らかになっている。. 基準) ]による)。歌才ブナ林は,この後二度の伐. 本報告は,森林の変化をとらえるのに有効な,. 採危機に直面したが,舘脇操北海道大学教授や地. 長期の継続的なモニタリングを行っていくための. 域の住民の力によって危機を乗り越え,黒松内町. 固定調査区を歌才ブナ林に設置し,そこで行った. の人々にとって現在も「北限のブナ」を象徴する. 毎木調査の結果から樹種構成の特徴,主要樹種の. 存在として精神的なよりどころとなっている(黒. 空間分布と更新状態について報告するものである。. 松内町環境政策課2012)。 近年,日本各地の森林において,地球温暖化と いう環境の変化が森林の構成種の成長や更新に何. 調査地. らかの変化をもたらすことが懸念されている(田. 歌才ブナ自生北限地(歌才ブナ林)の概況. 中ほか2006;松井ほか2009) 。また,林床の植物. 歌才ブナ林は,後志支庁管内黒松内町の中南部,. が食べ尽くされたり樹皮が食べられたりするな. 北緯42°38′37″,東経140° 19′44″に位置する(面. ど,動物による採食被害が報告されている(南野. 積92.43ha,標高40~160m,傾斜6~32°;図1)。. 2005;佐野2009;伊東2010;石川2010)。北海道. 地質は第三紀溶岩で,土壌はBD型(適潤性褐色. 内でも,東部や西部地域で生息数が増加し続けて. 森林土)に分類される。歌才ブナ林での気象観測. いるエゾシカは(南野2005;石川2010) ,黒松内. データはないが,北西方向約2kmに位置する黒. 町を含む南部地域でも徐々に増加傾向にあり,こ. 松内観測所の観測データ(1981~2010年)によれ. れまで町の中心部ではほとんど確認されていな. ば,年平均気温は7.4℃,月平均気温の最高月は. かったエゾシカによる農業被害なども発生してい. 8 月 で25.1 ℃, 月 平 均 気 温 の 最 低 月 は 1 月 で. ることから,今後,歌才ブナ林についても被害が. -4.4 ℃ で あ る。 ま た, 年 平 均 降 水 量 は1461.8. 危惧されている(黒松内町環境政策課2012)。. mm,最深積雪は2月が最高で130cmである。. 上に示したような環境の変化に対する森林の反. 林床にはササ類(主にクマイザサ)が密に生育. 28.

(4) 歌才ブナ自生北限地におけるブナ優占林の樹種構成と林分構造. 固定調査区. 図1 歌才ブナ自生北限地 と 固 定 調 査 区 の 位 置。 陰の部分は自生北限地 (天然記念物)の範囲。. し,その高さは1.2~1.8m程で,ギャップのよう. さ10m以上の樹木を「亜林冠木」,高さ10m未満. に光条件の良い場所では2.0mを越える。林床に. の樹木を「幼木」と区分した。林冠木については,. はツルアジサイ,ハイイヌガヤ,ツルシキミなど. その樹冠の広がりを測定し投影図を作成した。. が生育するが,ササ類が優占するため被度は小さ く,その密度も非常に低い。. 微地形の記載 調査区内の微地形を記載するために,調査区を. 固定調査区の設定と毎木調査. 幅2.5mの格子状に細分し,その交点でレベル測. 歌才ブナ林のうち,ブナとブナ以外の落葉広葉. 量を行った。. 樹を含む部分を選び,2013年に固定調査区を設定 した(以後,調査区と記述する;図1) 。なお,. 林冠型. 場所を選定する際には,登山道からのアプローチ. 調査区を10m四方の区画に細分し,各区画で,. の容易さも考慮した。調査区は1辺100mの方形. 各種の占める樹冠面積あるいはギャップの面積か. とした(面積1ha) 。この部分の林分は,馬渡ほ. ら,次の6つの林冠型に区分した;. か(2012)によれば,歌才ブナ林の中で最も樹木. 1.ブナ型:ブナの樹冠面積が最も大きな区画。. 密度の高い部分である。. 2.ミズナラ型:ミズナラの樹冠面積が最も大. 調査区内に出現した高さ2m以上の樹木個体に. きな区画。. ついて種名を記録し,胸高(地上より1.3mの高さ). 3.ブナ・ミズナラ型:ブナとミズナラの樹冠. 周囲長,調査区内における位置を測定した。立枯. が同じくらいの割合を占めている区画。. 木についても同様に記録,測定した。また,調査. 4.ダケカンバ型:ダケカンバの樹冠面積が最. 区内において林冠層(高さ14mから30m)を形成 する樹木を「林冠木」 ,林冠層に達していない高. も大きな区画。 5.落葉広葉樹型:ブナ,ミズナラ,ダケカンバ. 29.

(5) 並川 寛司・斎藤 均・山田 真矢. 以外の落葉広葉樹の樹冠面積が最も大きな区画。. 均値)を見るとブナが最も大きく(34.76%) ,次. 6.ギャップ:ギャップの面積が最も大きな区画。. いでミズナラ(20.11)が大きな値を示した。相 対優占度が大きい高木性の5種(ブナ,ミズナラ,. 分布パターンの解析. アカイタヤ,ダケカンバ,シナノキ)で,全体の. 林冠木における種間の連関を明らかにするため. 約4分の3(75.10%)を占め,ブナはその約2. に, ペア相関〔L 関数, (島谷2001)〕を竹中(http://. 分の1を占めていた。. takenaka-akio.org/etc/pair-cor/index.html) の プログラムを用いて計算した。L(r)の値が正な. 調査区の等高線図. らば正の連関(分布が重なる)があることを,負. 調査地の等高線図を図2に示す。等高線の間隔. ならば負の連関 (相互に排他的) があることを示す。. は0.2mで,北西端(図の右下)が最も相対高度. 林冠型と各林冠型の区画に出現した幼木の個体. が小さく,南端(図の上)の中央やや西寄りの部. 2. 数との間の相関を,モンテ・カルロ法を用いてχ. 分が最も高く13.6mであった。北西端の急傾斜地. 値を算出し検定した。. を除くと,調査地は南西から北東へ向けて緩やか に傾斜する斜面であったが,中央部に浅い窪地が. 結 果. あり,そこから北西端の急傾斜地へと続く沢状の 地形がみられた。中央部の浅い窪地では,降雨後. 調査区の樹種構成. に滞水がみられ,そこにはミズバショウの生育も. 調査区に出現した高さ2m以上の樹木個体につ. 見られた。. いて, 樹種毎に個体数と胸高断面積を算出した(表 1) 。調査区には24種,304個体が生育していた。. 個体分散図と樹冠投影図. 胸高断面積を見ると,ブナが最も大きく(16.62m2/. 林冠層を形成する個体の分散図および樹冠投影. ha) ,次いでミズナラ(12.08)であった。個体数. 図を図3に示す。調査区の等高線図(図2)と対. で見た場合もブナが最大(83個体/ha)で,以下. 比すると,ブナは相対的に高度の低い部分および. ハウチワカエデ(43),アカイタヤ(32)と続いた。. 北西端の急傾斜地とそこに至る斜面に偏って分布. 相対優占度(相対胸高断面積と相対個体数の平. する傾向を示した。一方,ミズナラは相対高度の. N. 図2 調査区の等高線図 (等高線の間隔は0.2m)。. 30.

(6) Acer pictum subsp. mayrii. A. japonicum. Betula ermanii. Tilia japonica. Magnolia obovata. Chengiopanax sciadophylloides. Kalopanax septemlobus. Aria alnifolia. Fraxinus mandshurica. Hydrangea paniculata. Phellodendron amurense. Padus grayana. Betula maximowicziana. Cerasus sargentii. Sorbus commixta. Carpinus cordata. A. pictum subsp. mono. Viburnum furcatum. Cornus controversa. Ulmus davidiana var. japonica. Morus australis. Euonymus oxyphyllus var. oxyphyllus. アカイタヤ. ハウチワカエデ. ダケカンバ. シナノキ. ホオノキ. コシアブラ. ハリギリ. アズキナシ. ヤチダモ. ノリウツギ. キハダ. ウワミズザクラ. ウダイカンバ. オオヤマザクラ. ナナカマド. サワシバ. エゾイタヤ. オオカメノキ. ミズキ. ハルニレ. ヤマグワ. ツリバナ. +<0.01m2あるいは0.01%.  . Quercus crispula. ミズナラ. 計. Fagus crenata. 学 名. ブナ. 種 名. 表1 固定調査区の樹種構成。. 39.37. +. 0.01. 0.01. 0.05. +. 0.01. 0.02. 0.04. 0.06. 0.23. 0.23. 0.21. 0.01. 0.75. 0.10. 0.57. 0.37. 0.41. 2.64. 2.69. 0.34. 1.92. 12.08. 16.62. 胸高断面積 (m2/ ha). 100. +. 0.03. 0.03. 0.12. +. 0.03. 0.05. 0.11. 0.14. 0.58. 0.59. 0.53. 0.04. 1.90. 0.24. 1.45. 0.94. 1.05. 6.70. 6.83. 0.85. 4.88. 30.67. 42.22. 304. 1. 1. 1. 1. 2. 2. 2. 2. 2. 1. 2. 3. 6. 3. 9. 8. 13. 23. 16. 19. 43. 32. 29. 83. 相対胸高断面積(A) 個体数 (%) (本/ ha). 100. 0.33. 0.33. 0.33. 0.33. 0.66. 0.66. 0.66. 0.66. 0.66. 0.33. 0.66. 0.99. 1.97. 0.99. 2.96. 2.63. 4.28. 7.57. 5.26. 6.25. 14.14. 10.53. 9.54. 27.30. 相対個体数(B) (%). 100. 0.17. 0.18. 0.18. 0.23. 0.33. 0.35. 0.36. 0.39. 0.40. 0.46. 0.63. 0.76. 1.01. 1.45. 1.60. 2.04. 2.61. 4.31. 5.98. 6.54. 7.50. 7.71. 20.11. 34.76. 相対優占度[(A+B)÷2] (%). 歌才ブナ自生北限地におけるブナ優占林の樹種構成と林分構造. 31.

(7) 並川 寛司・斎藤 均・山田 真矢. 高い部分(11m以上)の部分に偏って分布する傾. 樹冠面積の合計は12686.9m2であった。最も個体. 向がみられた。その他の樹種をみると,ダケカン. 数が多かったのはブナで(76個体/ha),ミズナ. バが調査区の南端(図では上)の中央部にややま. ラ(26),ダケカンバ(15),シナノキ(12)と続. とまって分布し,ヤチダモが調査区中央部の窪地. い た。 樹 冠 面 積 の 合 計 は ブ ナ が 最 も 大 き く. 付近に分布していた。. (6342.6m2),これにミズナラ(3185.0)の樹冠 面積を合わせると9527.6m2であり,この2種で固. 林冠木の樹冠特性. 定調査区の総樹冠面積の75.1%を占めていた。ま. 林冠層を形成する種とその個体数,樹冠面積合. た,林冠ギャップの面積合計は1691.9m2で,調査. 計,平均樹冠面積,および林冠ギャップの数とそ. 区面積の16.9%を占めていた。. の面積合計および平均面積について表2に併せて 示す。調査区の林冠層は12種152個体で構成され,. N. 図3 林冠木の個体分散図と 樹冠投影図。 表2 林冠構成種の個体数,樹冠面積合計,平均樹冠面積とギャップの数,面積合計,平均面積。 個体数(本/ ha). 樹冠面積合計(m2). 平均樹冠面積(m2). ブナ.  76. 6342.6.  83.5. ミズナラ.  26. 3185.0. 122.5. 種 名. 32. ダケカンバ.  15. 921.5.  61.4. シナノキ.  12. 828.5.  69.0. アカイタヤ. 8. 517.6.  64.7. ハリギリ. 4. 208.7.  52.2. ヤチダモ. 3. 302.2. 100.7. コシアブラ. 3. 112.1.  37.4. キハダ. 2. 78.3.  39.1. その他. 3. 190.3.  63.4. 合計. 152. 12686.9.  83.5. ギャップ.  19. 1691.9.  89.0.

(8) 歌才ブナ自生北限地におけるブナ優占林の樹種構成と林分構造. 主要3種の空間分布. ラの175.9cmであった。. 個体数の多かった3種について,距離(r)と. 個体数が16以上の高木種6種についてみると,. L関数の関係を図4に示す。ブナ林冠木とミズナ. ミズナラはDBH55~65cmにモードがみられ,そ. ラ林冠木のL関数は,個体間距離が3mの時を除. の前後40~80cmの階に個体がまとまって一山型. くと負の値を示し相互に排他的であった。また,. の分布を示し,この範囲よりも小さいあるいは大. ブナ林冠木とダケカンバ林冠木のL関数は,何れ. きい個体は少なく不連続に分布していた。また,. の距離においても負の値を示した。一方,ダケカ. ブナは,DBH15~20cmおよび60~65cmの階を中. ンバ林冠木とミズナラ林冠木のL関数は,個体間. 心にほぼ二山型の分布を示し,ミズナラと同様. の距離が35m以下の場合は負の値を,これを越え. モードの数は違うが山型の分布を示した。一方,. ると正の値を示した。. ダケカンバは,DBH40~45cmの階にモードを持 つが,DBH5~75cmの間に,個体数は少ないが. 主要樹種の胸高直径階分布. 不連続に分布していた。シナノキの胸高直径階分. 調査区に出現した全個体の胸高直径階分布をみ. 布 は ダ ケ カ ン バ に 似 る が, モ ー ド が 不 明 瞭 で. ると(図5) ,胸高直径(以後,DBHとする)5~. DBH10~85cmの範囲にほぼ一定数の個体が不連. 10cmにモード(最頻値)がみられ,DBH20cmま. 続に分布していた。. で比較的多数の個体がみられた。また,DBH20. アカイタヤおよびホオノキの胸高直径階分布を. ~90cmに か け て10数 個 体 が 連 続 的 に 分 布 す る. みると,その最大サイズは上に挙げた種に比べ小. が,90cmを越える個体は乏しく,最大はミズナ. さく,それぞれ59.2および41.6cmであった。両種 ともにDBHの小さい個体が比較的多く,前者で はDBH25cm以下の,後者では20cm以下の個体が 大きな割合を占めていた。特にホオノキは,いわ ゆる逆J型の分布を示していた。 立枯木の種と胸高直径 調査区内に見られた立枯木の種,個体数,平均 胸高直径を表3に示す。種が不明の立枯木を含め 24個体みられたが,最も多かったのはダケカンバ 6個体,平均直径は41.5cmであった。他の種は何 れも個体数が少なく5個体以下であった。. 表3 立枯木の個体数と平均胸高直径。 種名. 図4 主要林冠構成3種の間の距離(r)とL関数。. 個体数(本/ ha) 平均胸高直径 (cm). ダケカンバ.  6. 41.5. ホオノキ.  5. 20.0. ブナ.  3. 35.3. カエデ類.  2. 16.1. コシアブラ.  1.  6.1. 不明.  7. 19.5. 24. 26.5. 計. 33.

(9) 並川 寛司・斎藤 均・山田 真矢. 図5 主要高木種の胸高直径階分布。. 幼木の分布と林冠型 各林冠タイプに出現した幼木の個体数を表4に 示す。幼木の個体数と林冠タイプの相関を見ると 2. ,ホオノキとブナで有意な相関が見ら (χ 検定) 2. 考 察 樹種構成と林分構造 馬渡ほか(2012)は,調査地である天然記念物. 。 れた (χ =21.2および11.6, P=0.0021および0.0451). に指定された範囲を広く網羅するように設定した. ホオノキの幼木は,ギャップおよびダケカンバ型. 5つの調査区(面積0.2ha,40m×50m)において,. の林冠型に偏って分布していたのに対し,ブナ型. 本調査と同様胸高直径5cm以上の個体を対象に. には全く見られなかった。一方,ブナの幼木はブ. 毎木調査を行った。その結果,胸高断面積に相当. ナ型の林冠型に偏って分布していた。. する材積で見た場合,ブナが最も大きな割合を示 し(39%),ついでミズナラ(16),カエデ類(10), ニレ(9),シナノキ(9)と続くことを示した。 本調査の結果と比較すると(表1),胸高断面積. 34.

(10) 歌才ブナ自生北限地におけるブナ優占林の樹種構成と林分構造. 表4 林冠型と幼木の分布。 林冠型. *. 区画数. ホオノキ *. ブナ型.  35. 0(8). ミズナラ型.  21. 4(5). ブナ. アカイタヤ. アズキナシ. その他. 11(5). 1(5). 2(3). 14(27). 0(3). 6(3). 2(2). 22(16). ブナ・ミズナラ型. 7. 3(2). 1(1). 0(1). 0(1). 13 (5). ダケカンバ型. 5. 4(1). 0(1). 0(1). 0(0). 4 (4). 落葉広葉樹型.  20. 5(4). 1(3). 4(3). 2(2). 15(16). ギャップ.  12. 2(1). 10 (9). 計. 100. 22. 6(3). 15. 2(2). 13. 2(2). 8. 78. χ2値. -. 21.2. 11.6. 9.1. 2.5. 18.9. P. -. 0.0021. 0.0451. 0.0963. 0.8238. 0.0030. 数値は実測値,括弧内の数値は一様分布を仮定した場合の期待値。. 割合でみた場合ブナが最も大きく44.2%,次いで. 述べた林冠木の分布はこの二つの特徴と一致して. ミズナラ30.7%で,調査区ではこの2種が大きな. おり,相対高度のわずかな違いが,ブナとミズナ. 割合を占めていることが一つの特徴である。また,. ラおよびダケカンバの間に見られる排他的な関係. 馬渡ほか(2012)の結果に比べ,ダケカンバが比. をもたらしている要因の一つであると考えられる。. 較的大きな値(8.9%)を示すことも特徴として 挙げられる。ダケカンバは何らかの攪乱の後に住. ギャップと更新. み着き定着する先駆種である(酒井ほか1983)こ. 調査区の平均ギャップ面積は89.0m2で(表2),. とから,この種の割合が比較的高いことは,調査. これを林冠木の平均樹冠面積(83.5m2)で除する. 区の林分が林冠を破壊するような何らかの攪乱を. と,ギャップ当たりの倒木は約1本となる。この. 過去に受けた可能性を示している。. ことは,対象とした林分における攪乱の規模(強. 調査区の地形は,北西端のやや深い沢を除くと,. さ)は,林冠木が単独で枯死する程度であること. 多少の起伏はあるが緩やかな斜面であった(図. を示している。. 2) 。しかし,林冠木の分布は一様ではなく,ブ. ギャップと更新との関係を明らかにするため. ナとミズナラおよびダケカンバの間に負の連関が. に,幼木と林冠型の相関を求めた(表4)。その. みられ(図4) ,ブナ林冠木が連続して分布する. 結果,幼木が8個体以上あった4種および残りの. 部分とミズナラおよびダケカンバ林冠木がまと. 種を込みにした「その他」において,幼木がギャッ. まって分布する部分が見られた(図3)。ブナ林. プに偏って分布していたのはホオノキのみで,そ. 冠木が連続して分布する部分は,相対高度が低い. の全てが倒木の根元からの萌芽幹であった。ホウ. のに対し,ミズナラおよびダケカンバ林冠木がま. ノキは陽樹であり(Hara 1983; Yamamoto 1989;. とまって分布している部分は,相対高度が高かっ. Masaki et al. 1992),本調査区のようにササが林. た。渡邊(1987)は,歌才ブナ林全体の踏査に基. 床を密に覆うような林分では,本調査の結果と同. づいて幾つかの林分構造に関わる特徴を挙げてい. 様萌芽幹で更新することが報告されている. る。その一つとして,「ミズナラ,シナノキ,ハ. (Yamamoto et al. 1995)。ホオノキ以外の3種. リギリ,ダケカンバ等の優占木は,ブナと林冠層. および「その他」の幼木の分布と林冠型の相関を. を共有しない」ことを挙げている。また,もう一. みると,ブナはブナ型林冠下に,「その他」では. つの関連する特徴として, 「群生するブナ優占木. ミズナラ型およびブナ・ミズナラ型林冠下に有意. 個体間では林冠をモザイク的に拡げ,全体として. に偏って分布しており,本調査区ではギャップが. 一つの林冠群をつくる」ことを挙げている。上に. 更新の場として機能していないことが推察された。. 35.

(11) 並川 寛司・斎藤 均・山田 真矢. 調査区のギャップ面積は1691.9m2(16.9%)で. 調査区のブナにみられたDBH10~40cmのサイズ. あった(表2) 。日浦(1993)は,四国を除くブ. の小さな集団は,チョボシナイ川流域の林分と同. ナの分布範囲にある20の成熟林分のギャップ率を. 様,ほぼ同齢の集団である可能性が高く,一斉に. 示した。その値を見ると,最大20.6%(飯豊山),. 更新したと考えられる。一方,チョボシナイ川流. 最小4.1%(大山),平均14.3%で,その95%信頼. 域の林分では,DBH40cmを越える個体は少なく. 区間は10.9%から17.7%の範囲にあった(日浦の. 最大でも約60cmで,その樹齢は約110年から最大. 示したギャップ率から算出) 。調査区における. 301年までと大きくばらついていたことから,本. ギャップ率は16.9%で,他の成熟したブナ林の平. 調査区のDBH40~80cmの集団の樹齢もばらつい. 均値と比べ有意な差はなかったが,比較的大きな. ている可能性が高く,更新の時期については推定. 値を示した。既に述べてきたように,調査区の林. できなかった。. 床にはササが密に生育していた。林床がササで覆. ミズナラの胸高直径階分布には,ブナと同様,. われるブナ林では,光不足やそこに生息する野鼠. DBH40~80cmに山型の分布を示す集団がみられ. 類の捕食などを通じ,ブナや他の樹種の更新が妨. た。一方,ブナにみられたDBH10~40cmのサイ. げられ,林冠ギャップが形成されても更新が進ま. ズの小さな集団は認められなかった。調査地周辺. ずササ原になる場合が多いことが知られている. でのミズナラの樹齢と成長との関係についての報. (中静1984) 。幼木の分布と林冠型の相関から,. 告はないが,DBHの大きさの違いを考慮すると,. ホオノキのように倒木の根元からの萌芽個体を除. ミズナラの一山型の集団はブナにみられる小さな. き,幼木はギャップではなくむしろ林冠下に偏っ. サイズの集団と同時期に更新した可能性は低く,. て分布していた。したがって,本調査区の比較的. それ以前に更新したと考えられる。. 高いギャップ率は,林床でのササの密な生育がブ. 分布が平坦で不連続だったダケカンバ,シナノ. ナをはじめとする種の更新を妨げていることに一. キの更新過程については不明であるが,ダケカン. つの原因があると考えられる。. バについては,立枯木の平均胸高直径が41cmで あったことからDBH40cm前後にモードを持つ集. 主要樹種の更新過程. 団で,今後も枯死個体が増え衰退していくものと. 調査区における主要樹種の更新過程を,胸高直. 推察される。. 径階分布 (サイズ構造)に基づいて以下検討する。. 胸高直径階の逆J型の分布は連続的に更新が起. 最も個体数の多かったブナのサイズ構造を見る. こる場合,あるいはギャップ形成とその後の更新. と,DBH40cm前後を境に2つの山型を示す集団. が比較的頻繁に起こる種にみられる。事実,逆J. が見られた。また,ミズナラにも,ブナに見られ. 型の分布を示したホオノキは,先に述べたように. た大きなサイズとほぼ同じ胸高直径階に山型を示. 倒木の根元からの萌芽によってギャップで更新し. す集団がみられた。ブナやミズナラにみられる. ていた。アカイタヤは耐陰性の高い種で,樹冠下. モードを持った山型の直径階分布は,比較的広い. あるいはギャップと独立に幼木が分布しており,. 範囲で,相対的に限られた期間に一斉に更新する. 少数ではあるが,連続的に林冠下で更新している. 種にみられる分布型である。松井ほか(2012)は,. と考えられる。. ブナの連続分布ライン(紀藤2003)付近に分布す る下チョポシナイ川流域の林分(歌才ブナ林から 北約10km)において,ブナの樹齢と成長につい. まとめ. て明らかにした。その結果によると,DBH10~. 調査区設定の際に行った毎木調査の結果から,. 40cmの個体の齢は,その大きさに関わらず90~. 歌才ブナ林の樹種構成の特徴と,林分構造の一つ. 100年前後の値を示していた。このことから,本. である主要構成種の空間分布と更新過程について. 36.

(12) 歌才ブナ自生北限地におけるブナ優占林の樹種構成と林分構造. 述べてきた。これらのうち更新過程については, 成長錐などによる樹齢推定によって直接的に確か めることも可能であるが,天然記念物であること から現状変更を伴う調査は実施できない。した. 2012.ブナ北限域・下チョポシナイ川流域におけるブ ナの樹齢と成長.北方森林研究,60: 103-106. 松井哲哉・田中信行・八木橋勉・小南裕志・津山幾多 郎・高橋 潔 2009.温暖化にともなうブナ林の適域 の変化予測と影響評価.地球環境,14⑵: 165-174.. がって,主要樹種の更新過程について明らかにす. 馬渡郁弥・井上 純・深川勝彦 2012. 「歌才ブナ林」は,. るためにも,今後の長期にわたる継続観察が必要. 世代交代できるのか? 北の国・森林づくり技術交流. である。また,はじめに述べたように,周辺の農 地では近年エゾシカによる被害が報告されている. 発表会集,2011: 49-53. 南野一博 2005.空知地方のトドマツ人工林におけるシ カの角こすり被害.光珠内季報,138: 7-10.. が,今回の調査時に樹木の枝や幹あるいは林床植. 中静 透 1984.ブナ林の更新.遺伝,38⑷: 62-66.. 物に角砥ぎや樹皮剥ぎあるいは食痕などは見られ. 酒井寛一・千葉 茂・井上審也・松浦 堯 1983.天然. なかった。この点について,今後の調査において 特に留意しながら観察することが必要である。. 林における先駆性樹種と先駆性指数.「天然林の生態遺 伝と管理技術の研究」 (北方林業会) ,27-39.北方林業 会,札幌. 佐野 明 2009.ニホンジカによるスギ,ヒノキ若・壮. 謝 辞 本研究を行うに当たり,黒松内町より研究の助. 齢木の剥皮害の発生時期と被害痕の特徴.哺乳類科学, 49⑵: 237-243. 島谷健一郎 2001.点過程による樹木分布地図の解析と モデリング.日本生態学会誌,51: 87-106.. 成をいただき(平成25年度ブナセンター賞;黒松. 自然環境センター 2010.モニタリングサイト1000 森. 内生物多様性保全奨励事業),黒松内ブナセンター. 林・草原調査 コアサイト設定・毎木用マニュアル.. の職員の方々に種々の便宜をはかっていただい た。黒松内生物多様性保全奨励事業の選考委員の 先生方には,本研究の意義をお認めいただき,ご 支援をいただいた。ここに記して感謝申し上げる。. 環境省自然環境局生物多様性センター,東京. 田中信行・松井哲哉・八木橋勉・峠田 宏 2006.天然 林の分布を規定する気候要因と温暖化の影響予測.地 球環境,11⑴: 11-20. 渡邊 絵・渡辺隆一 2012.カヤノ平ブナ原生林の研究 7.30年間(1980-2010)の動態(速報) .滋賀自然教育 研究施設研究業績,49: 6-9.. 引用文献. 渡邊定元 1987.北限のブナ林.北海道林業改良普及協会,. Hara M. 1983. A study of the regeneration process of a. Yamamoto S. 1989. Gap dynamics in climax Fagus. Japanese beech forest. Ecological Review Sendai, 20: 115-129. 日浦 勉 1993.日本列島におけるブナの形質と林分構 造の地理変異.北海道大学学位論文. 石川幸男 2010.北海道の夏緑広葉樹林などにおけるエ ゾシカの採食状況.植生情報,14: 9-12.. 札幌. crenata forests. Botanical Magazine Tokyo, 102: 93114. Yamamoto S., Nishimura N. & Mitsui K. 1995. Natural disturbance and tree species coexistence in an oldgrowth beech–dwarf bamboo forest, southwestern Japan. Journal of Vegetation Science, 6: 875-886.. 伊東吉夫 2010.高山におけるシカ食害の状況.共生の ひろば,5: 119-122. 紀藤典夫 2003.北限のブナ:その地史的背景.森林科 学,37: 46-50. 黒松内町環境政策課 2012.黒松内町生物多様性戦略. 黒松内町環境政策課,黒松内町.. (並川 寛司 札幌校教授) (斉藤 均 黒松内ブナセンター学芸員) (山田 真矢 さっぽろ青少年女性活動協会 指導員) . Masaki T., Suzuki W., Niiyama K., Iida S., Tanaka H. & Nakashizuka T. 1992. Community structure of a species rich temperate forests, Ogawa Forest Reserve, central Japan. Vegetatio, 98: 97-112. 松井哲哉・並川寛司・本間祐希・斎藤 均・板谷明美 . 37.

(13)

参照

関連したドキュメント

中空 ★発生時期:夏〜秋 ★発生場所:広葉樹林、マツ混生林の地上に発生する ★毒成分:不明 ★症状:胃腸障害...

bridge UP, pp. The Movement of English Prose, Longmans. The Philosophy of Grammar. George Allen & Unwin. A Modem English Grammar on Historical Principles, Part IV.

Josef Isensee, Grundrecht als A bwehrrecht und als staatliche Schutzpflicht, in: Isensee/ Kirchhof ( Hrsg... 六八五憲法における構成要件の理論(工藤) des

Amount of Remuneration, etc. The Company does not pay to Directors who concurrently serve as Executive Officer the remuneration paid to Directors. Therefore, “Number of Persons”

○珠洲市宝立町春日野地内における林地開発許可の経緯(参考) 平成元年11月13日

[r]

影響はほとんど見られず、B線で約3

森林には、木材資源としてだけでなく、防災機能や水源かん養