190 ( 24 ) 国際交通安全学会誌 Vol. 45, No. 3 2021 年 2 月 2017年11月以降、高速道路の一部区間において、 試行としてではあるが、わが国で初めて100km/h を超える最高速度が登場した。これは、2016年の 「高規格の高速道路における速度規制見直しに関す る検討委員会」から出された提言1)を受けたもので、 わが国ではそれまで、1963年7月の名神高速道路の 開通以来、最高速度は100km/h(普通自動車)を 上限とする運用が50年以上続いてきた。それ故、 わが国における高速道路の最高速度の変化、しかも 100km/hを超えての引き上げによる交通状況への 影響が実証的に検証されたことはない。そこで、筆 者らの研究室では、今回の最高速度引き上げに合わ せ、それによる交通流や交通挙動への影響を調べる 研究を実施することとなった。本稿では、それらの 研究で得られた知見を報告する。 特集●速度マネジメントと道路交通/報告
高規格の高速道路における最高速度の引き上げの影響
1. はじめに 1963年7月の名神高速道路の開通に合わせ、法定 の最高速度は普通乗用自動車100km/h、その他の 自動車80km/hと定められた(同月施行の道路交通 法施行令の一部改正)。設計速度が120km/hの区間 もあったが、それよりも低い値になっており、「将 来、自動車性能が向上し、運転者が高速走行に慣れ た段階で再検討することを前提としたもの」であっ たと記録されている2)。規制速度(道路標識等によ る最高速度の指定)も100km/hを上限として設定 され、これが2017年まで続いた。 法定最高速度が車種別に設定されていることもあ り、以後の最高速度の引き上げも車種別に行われた。 まず、名神高速道路開通2年後の1965年には、車両 性能の向上や速度差の解消を理由として3)、大型バ スや当時の普通貨物自動車(三輪を除く)の法定最 高速度が100km/hに引き上げられた。さらに2000 年には、軽自動車やバイク等の法定最高速度も 100km/hに引き上げられた。この時は、速度差解 消の他、1997年の道路交通法改正により、トレー ラーの第1通行帯走行が義務付けられたことなどに 伴い、第1通行帯での混在が予想され、「軽自動車 とバイクの安全な走行環境を確保するための措置」 という側面があったようである4)。また、1990年代 後半に軽自動車の規格が変更され、安全基準等が向 上したことも背景にあると思われる。 その後、2006∼2008年度に行われた警察庁の「規 制速度決定の在り方に関する調査研究」5)では、 従来のインターチェンジ間単位で設定される設計速 度に換わり、道路構造の主要な要素から導かれる「構 造適合速度」を目安として規制速度を決定すること が提案された。しかしこの時点ではまだ、構造適合 速度が100km/hを超えても、最高速度を100km/h を超えて引き上げるには「更なる検証が必要であり、 直ちに引上げられる状況にはない」5)とされた。 2012年、「140km/hでの走行を担保した構造」で 設計された新東名高速道路が開通すると、100km/h を超える最高速度に向けての議論も本格的に動き出 していく。翌2013年に国家公安委員長の主催で「交 通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に 関する懇談会」が設置され、「構造適合速度120km/h で、かつ片側三車線以上の道路に関して、最高速度 100km/hを超える速度への引き上げについて早急 に検討を開始すべき」とする提言6)が取りまとめ られた。これを受け、2015年度に設置された「高 規格の高速道路における速度規制見直しに関する検 討委員会」において、引き上げ箇所についての道路 構造等の条件や安全確保方策、規制速度見直しの方 向性等が示され、併せて100km/h超の規制速度の試 行的な導入と導入後のモニタリングの実施が提言1) された。 以上のようなプロセスを経て、2017年11月に新 東名高速道路の新静岡IC ∼森掛川IC間、12月に東 北自動車道花巻南IC∼盛岡南IC間において、普通 自動車や大型バス等に対する規制速度を110km/h に引き上げる試行が開始された。その試行結果を踏 まえ、2019年3月には、さらに両区間で120km/h に引き上げられた。なお、これらはいずれも100km/h を超える規制速度の指定による最高速度の引き上げ であり、従前のような道路交通法施行令の改正によ る法定最高速度の引き上げは行われていない。また、 大型貨物自動車等に対する最高速度は80km/hのま ま引き上げられていない。 これら2区間における試行結果を検討し、特に大 きな問題はないと確認されたことから、2020年8月、 警察庁は交通規制基準を変更し7)、これにより条件 を満たす高速道路区間の最高速度を120km/hに引 き上げることが可能となった。実際の規制速度は各 県の公安委員会が決定するが、100km/h超えの最 高速度がこれまでの新東名高速道路、東北自動車道 の一部区間から拡大される流れとなった。なお、前 述の2箇所の試行区間は、2020年9月(東北道)と 12月(新東名)に、それぞれ本運用に移行している。 本章では、筆者らが所属する研究室が実施してい る研究事例をいくつか紹介する。交通事故に対する 影響については、研究ベースで分析できるほど十分 な事故データ数が得られていないため、検討を行っ ていない(規制速度110km/h試行開始前後での事 故件数の変化については、警察庁の資料等8)参照)。 本稿では、紙面の都合で各研究の概要を記述するに とどめており、詳細は挙げられた参考文献や今後の 論文発表等を参照していただきたい。 3-1 走行速度への影響 規制速度を引き上げるのであるから、まず走行速 度への影響を確認することが不可欠である。そこで 本節では、引き上げの前後で走行速度特性がどのよ うに変化するかを分析した結果9)を報告する。なEffects of Raising the Maximum Speed on a High-Standard Expressway お、本節で示す分析結果は、元の文献9)の時点よ りデータの追加や分析方法の変更があり、現時点で の最新のものである。 ここでは、新東名高速道路を対象とした。100km/h 超えの規制速度の試行区間は新静岡IC∼森掛川IC 間であった。本研究の速度分析地点として、引き上 げ区間内の上り169.4kp地点(以後、引き上げ有り 地点と表記)と引き上げ区間外の下り175.5kp地点 (以後、引き上げ無し地点と表記)を選定した。こ れらの地点は、①前方5km以内に速度違反自動取締 装置が設置されていない、②前方1km以内にICや SA等の合流や分流がない、③トンネル内ではない、 ④3車線部、の4条件を基準に選んだものであった。 走行速度の分析のために、本研究では株式会社ナ ビタイムジャパンが提供するプローブデータ10)を 利用した。本データは、同社が運営するカーナビゲー ションアプリから取得した走行実績データ(1秒ご との緯度経度情報)や車種等の属性情報に加え、道 路リンク情報などを利用して作成されている。走行 速度を比較したのは、規制速度引き上げ1年前の 2016年11月、110km/hへの引き上げ直後の2017年 11月、110km/hへの引き上げ1年後の2018年11月、 120km/hへの引き上げ直後の2019年3月、の4つの 時期(各1カ月間)であった。これら4つの時期に 前述の2地点で取得されたプローブデータから、登 録車種が普通車の速度データを抽出した。なお、 70km/h未満の走行速度や降雨日のデータは除いた。 Fig.1は、走行速度の85%タイル値と平均値の推 移を規制速度引き上げの有無別に示したものであ る。引き上げ有り地点の平均速度は、110km/h規制 に引き上げられた直後の2017年11月には、2.5km/h 程度の若干の上昇をみせた(統計的には有意)。し かし、その1年後の2018年11月には、ほぼ引き上げ 前の水準に戻っており、120km/h規制に引き上げ られた直後の2019年3月もあまり変化がなかった。 引き上げ有り地点の平均速度は、引き上げ無し地点 よりは上回っているが、その差は大きくない。また、 高速の車両群の速度が反映されやすい85%タイル 速度については、引き上げ地点では一貫して121∼ 122km/hであり、高速走行を好む運転者グループ が規制速度引き上げを機に、さらに速度を高めたよ うにはみえない。Fig.2の地点別の速度の相対度数 分布の推移をみると、引き上げ有り地点では、2017 年11月の分布が最も高速度領域に寄っており、 120km/h規制に引き上げられた直後の2019年3月 の分布は、むしろ引き上げ試行前の100km/h規制 だった2016年11月の分布に近づいているようにみ える。以上より、2017年11月以降、規制速度は最 終的に20km/hも引き上げられたが、平均速度の上 昇はその幅に遠く及ばず、走行速度に与えた影響は それほど大きくなかったといえるであろう。 規制速度を引き上げても走行速度に大きな影響が ないのであれば、結果的に規制速度を遵守した車両 が増加すると予想される。Fig.3は、規制速度‘違反’ 車両の割合の推移を地点別に示したものである。引 き上げ有り地点では、規制速度引き上げ試行前の 2016年11月 に お け る 違 反 車 両 の 割 合 は57.9%で あ っ た が、規 制 速 度 引 き 上 げ と と も に 減 少 し、 120km/h規制に引き上げられた直後の2019年3月 には16.3%にまで低下した。この間、引き上げ無し 地点では、速度違反の割合は56∼60%とほとんど 変わっていない。当該区間での規制速度の引き上げ は、走行実態に合ったものと捉えて良いと思われる。 速度差の拡大は、事故防止の上で望ましいことで はない。速度差の観点から規制速度引き上げの影響 を検討するため、規制速度引き上げの対象である普 通車の85%タイル速度と15%タイル速度の差の推 移を地点別に示したものがFig.4である。引き上げ 有り地点では、引き上げ試行前の2016年11月と比 べて、2017年11月の引き上げ試行開始以降、その 差が1∼3km/h広がっており、速度差が若干拡大し たようにもみえる。この程度の差の拡大が実際に事 故発生に影響するかどうかは定かでない。ただ、こ の間、引き上げ無し地点では、85%タイル速度と 15%タイル速度の差が一貫して低下しており、グラ フの上では規制速度引き上げの有無によって対照的 である。速度差については、今後も検討する必要が あろう。 これまでの分析では、高速道路における100km/h を超えた規制速度の引き上げは、少なくともその引 き上げ幅の割には、走行速度にあまり影響を与えて いないと思われる結果であった。まるで、ドライバー たちは、もともとそれぞれの好みの速度で走行して おり、それは規制速度引き上げ後も変化がなかった かのようである。今後、120km/h規制が定着した と思われる2020年に入ってからのデータも加えて 分析し、規制速度引き上げの影響を確認する予定で ある。 3-2 車線変更挙動への影響 本節では、規制速度の引き上げによって、車線変 更の回数がどのような影響を受けたのかを述べる。 第2章でも言及したが、今回の規制速度110km/hお よび120km/hへの引き上げは、全ての車両を対象 としているわけではない。対象車両は、従来の最高 速度が100km/hであった乗用車やバス、普通貨物 車、軽 自 動 車、バ イ ク 等 で あ り、最 高 速 度 が 80km/hであった大型貨物車や一部の中型貨物車、 トレーラー等は対象外のため、最高速度は据え置か れている。つまり、もともとあった最高速度の差が さらに広がることになり、走行時の速度差を拡大さ せる一因になることが考えられる。速度差の発生・ 拡大は、追い抜きや追い越し行動の頻度を増加させ る懸念がある11)。特に追い越し時においては、車線 変更が生じるため、ハンドル操作や後方から追い越 してくる車両の有無の確認が必要となり、単純な直 進走行時より事故につながる危険性が高くなる12) 13)。実際、次節でも言及するように、速度差の大き な車両同士による事故では、追い越し時の構成率が 高い11)。 そこで、100km/hを超える規制速度引き上げに よる追い越し行動の回数への影響を確認するため に、高速道路に架かる跨道橋にビデオカメラを設置 して高速道路の車両の流れを撮影し、その映像から 車線変更の回数を目視で計測することとした14)。 なるあたりから、最小値が1を下回るケースが散見 された。評価のタイミングが車線変更開始時である ため、ハンドル操作で衝突を回避する選択肢がある ことから、この値のみで追突リスクの絶対的な評価 ができるわけではないが、速度差が大きいほど相対 的にリスクが高まるということは、それだけ運転者 の車間距離調節機能が甘くなることを示唆するもの である。速度差によるこうした傾向は、交通事故の 実態とも整合するものである。 さらに、規制速度による違いをより明確に示すた めに、MTCの代表値として中央値に着目して、3 時点で比較した結果をFig.10に示す。これをみる と、全体的に100km/h規制から110km/h規制への 引き上げによって、いったんはMTCが大きな値、 すなわち安全側にシフトしたが、120km/h規制へ の再引き上げによって、小さな値へとシフトすると いう変化をした。こうした変化は、特に速度差10 ∼20km/hと20∼30km/hというレベルにおいて確 認された。一方、速度差10km/h未満および30∼ 40km/hでは、規制速度による値の変化は比較的少 ない結果となった。 そもそもこの分析は、速度差が大きい状態におけ る追突リスクに焦点を当てたものであるが、速度差 40km/h以上という最も速度差が大きいカテゴリー についてはサンプルが少なく、十分な考察ができな い結果となった。これに対して二番目に大きなカテ ゴリーとなる速度差レベル30∼40km/hについて は、規制速度による追突リスクの相違は比較的少な いという結果となり、懸念していた速度差が大きな 状況におけるリスクの悪化はなかったと判断でき る。一方、速度差がより小さな状況において、リス クに変化の傾向がみられており、速度差レベル別に、 このような傾向の違いが生じたことは興味深いが、 その理由については今後の課題である。 なお、速度差と車間距離によって表されるリスク 指標は、MTCの他にも提案されている。本節と同 様に中央値によってその相違を調べたところ、規制 速度との関係については、いずれも似た傾向を示す ことが確認されている19)。 前章で紹介した研究は、まだ途上のものも含まれ、 今後さらに分析を進めたものを発表していく予定で ある。規制速度の引き上げによる事故への影響など は、長期的なスパンで検証する必要があり、ドライ バーの行動変容も含め、今後も継続的に推移をモニ タリングすることが望ましい。 参考文献 1 ) 高規格の高速道路における速度規制の見直しに 関する調査研究委員会『高規格の高速道路にお ける速度規制の見直しに関する提言』2016年 2 ) 『高速道路五十年史』編集委員会『高速道路五 十年史』公益財団法人高速道路調査会、pp.35-36、 2016年 ▶https://www.express-highway.or.jp/info/study/ index.html#50history (2020年9月25日閲覧) 3 ) 星埜和「高速道路の最高速度について」『高速 道路と自動車』Vol.8、No.9、pp.6-9、1965年 4 ) 財団法人日本交通管理技術協会『高速道路にお ける自動車の速度差と安全対策に関する調査研 究報告書』1999年 5 ) 規制速度決定の在り方に関する調査研究検討委 員会『平成20年度調査研究報告書』pp.40-41、 2009年 ▶https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/ kisei/mokuteki/kiseisokudo/pdf/ H20houkokusyo.pdf (2020年9月25日閲覧) 6 ) 交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の 在り方に関する懇談会『交通事故抑止に資す る取締り・速度規制等の在り方に関する提言』 2013年 7 ) 警察庁交通局「「交通規制基準」の改正につい て(通達)」令和2年8月26日、2020年 8 ) 宇都宮理「高速道路の交通規制等について」『月 刊交通』Vol.51、No.6、pp.6-14、2020年 9 ) 矢野伸裕、森健二、横関俊也「新東名高速道 路における規制速度引き上げと実勢速度の推 移」『交通科学研究会令和元年度研究発表会』 2019年 ▶http://www.kokaken.or.jp/r01_happyo_ program.html(2020年9月25日閲覧) 10 ) 梶原康至、小竹輝幸、塚本周平、髙木知里、加 賀谷駿「プローブと属性データを用いた道路プ ロファイリング」『第55回土木計画学研究発表 会・講演集』46-7、2017年 11 ) 横関俊也、森健二、矢野伸裕、萩田賢司「高速 道路での追越追抜時等における交通実態の特徴」 『科学警察研究所報告』Vol.68、No.1、pp.29-38、 2019年 12 ) 今山健「追越度数と事故発生率の相関性」『交 通工学』Vol.2、No.4、pp.17-23、1967年 13 ) 梅沢千鶴子「車の追越しによる危険率のシミュ レーション」『交通工学研究発表会論文報告集』 Vol.1、pp.34-37、1972年 14 ) 横関俊也、森健二、矢野伸裕、萩田賢司「東北自 動車道における規制速度引き上げが走行車両の 挙動に与えた影響について」『土木学会論文集D3 (土木計画学)』Vol.75、No.5、pp.I_1021-I_1028、 2019年 15 ) 岩崎真純、野中康弘「高速道路における車線 変更モデルに関する研究レビュー」『土木計画 学 研 究 発 表 会・講 演 集』Vol.55、No.20-02、 2017年 16 ) 塩見康博、谷口知己、宇野伸宏「車線交通量の 均衡メカニズムを内生化した多車線交通流モデ ル の 構 築」『交 通 工 学 論 文 集』Vol.1、No.3、 pp.1-10、2015年
17 ) Knoop, V. L., Hoogendoorn, S. P., Shiomi Y., Buisson C.: Quantifying the Number of Lane Changes in Traffic An empirical analysis, Journal of Transportation Research Board Vol.2278, pp.31-41, 2012. 18 ) 森健二「高速道路における速度差の大きな事故 の 特 徴」『月 刊 交 通』Vol.48、No.8、pp.90-98、 2017年 19 ) 森健二、矢野伸裕、横関俊也、萩田賢司「高速 道路の規制速度引き上げが追い越し挙動に与え る影響」『第40回交通工学研究発表会論文集』 pp.113-118、2020年 20 ) 北島創、久保登、荒井紀博、片山硬「映像記録 型ドライブレコーダによる追突事故発生メカニ ズムの解析」『自動車技術会論文集』Vol.38、 No.4、pp.191-196、2007年 調査地点は、周囲の道路構造等を考慮し、東北自 動車道の規制速度引き上げ試行区間内(花巻南IC ∼盛岡南IC)に位置する岩手県花巻市糠塚の北湯 口跨道橋とした。計測は上り線のみで実施しており、 483.0∼483.4kp間の400mにおいて発生した車線変 更の回数を計上している(Fig.5参照)。一般的な追 い越し行動は、走行車線から追越車線への車線変更 と、追い抜き後における追越車線から走行車線への 車線変更という計2回の車線変更から構成される が、高速道路の短い計測区間内において2回の車線 変更を観測することは困難であるため、それぞれの 車線変更を別々に計上することとした。同一の車両 が計測区間内で複数回の車線変更をした場合は、重 複して計上した。また、調査日時は、 ・2017年11月17日(金) (試行開始の約2週間前で最高速度100km/h) ・2018年11月27日(火) (110km/h規制試行開始から約1年後) ・2019年11月26日(火) (120km/h規制試行開始から約9カ月後) の計3回で、時間帯は10:30∼15:30、いずれも晴天 であった。 Table 1は、映像データから通過車両の車線変更 回数を計測した結果である。単純な車線変更回数の 比較では、試行前100km/h規制中が867回、110km/h 規制試行中が849回、120km/h規制試行中が965回 となっていた。いずれの計測日においても、走行車 線から追越車線への車線変更よりも、追越車線から 走行車線への車線変更が多くなっていた。それぞれ の計測日において、交通量が異なるため、計測時間 中の交通量で正規化したところ、Fig.6に示すとお り、100km/h規制中が0.18回/台、110km/h規制試 行中が0.20回/台、120km/h規制試行中が0.23回/ 台と、交通量当たりの車線変更回数は増加傾向とな り、最終的には3割程度の上昇となった。これは 100km/h規制中では2.3kmで1回であった車線変更 が、120km/h規制試行中に1.7kmで1回の車線変更 になったことを意味する。ある地点での車線変更の 発生頻度は、前後区間を含めた道路構造や交通量、 交通規制の状況によって異なると考えられ15)16)、今回 の計測結果を一般化して評価することは難しい。高 速道路単路部における車線変更回数についての海外 の調査事例17)をみると、おおむね2kmで1回の車 線変更が観測されている。この値と比較すると、 100km/h規制では車線変更の発生頻度がより少な く、120km/h規制試行中は頻度がより多いことに なる。 前述のように、車線変更挙動は事故の要因になり 得るとしても、ここで見られた程度の車線変更の頻 度の増加が、実際にどの程度、事故のリスクを高め るかは定かでない。また、この調査では走行速度は 計測していないが、車両間の速度差と車線変更頻度 との関係もいまだ明らかになっていない。前述のと おり、車線変更回数は各種条件により変動するセン シティブな指標である。今後、さまざまな条件の下 で、交通事故の発生状況と併せて、長期間での観測 結果を確認することが望ましい。 3-3 追い越し時の追突リスク 本節では、規制速度の引き上げによって、追突事 故の危険性に変化があったかについて述べる。追突 にはさまざまな要因があるが、ここでは車線変更を 伴う「追い越し」という場面に着目し、追い越し車 両の被追い越し車両に対する追突リスクを取り上げ る。この事象に着目した理由は、既存研究において、 速度差の大きな車両同士による事故では、追突の構 成率が高いこと18)、それに加えて、追い越し時の構 成率が高い11)との知見を得ていたためである。 追突リスクに関係の深い要素としては、先行車と 後続車の速度差および車間距離がある。そこで、追 い越しのための車線変更直前のタイミングにおける 速度差と車間距離の実態を把握するための観測調査 を行うこととした19)。この調査は、規制速度の引き 上げ試行前の100km/h規制の状況下と、110km/h 規制試行中および120km/h規制試行中の3度にわた り実施した。 調査スタイルは、高速道路に観測用の車両を巡行 させ、それを追い越していく一般車両を観測すると いうものとした。観測車には速度計やGPS、後方の 様子を捉えるためのビデオカメラと車間距離計を搭 載した。観測車の速度は80∼90km/h程度とした。 追突の危険性を表すリスク指標として、ここでは 衝 突 余 裕 度20)(Margin-To-Collision、以 下MTCと 称す。)の結果を紹介する。MTCは(1)式で表され、 「後続車の制動距離」に対する「先行車の制動距離 と車間距離の和」の比である。今回の調査では、観 測車両が先行車、追い越しを行う一般車両が後続車 という関係になる。 分析に当たり、追い越しのための車線変更直前の タイミングを、車線変更を試みた追越車の右前輪が 車線境界線上に達した時点と定義し、その時の各車 両の速度と車間距離からMTCを算出した。このタ イミングに着目した理由は、先行する観測車と追い 越しを行う一般車が、同一車線上で最も接近する状 態となるためである。 調査を実施した場所は、規制速度引き上げの試行 区間である新東名高速道路の新静岡IC∼森掛川IC 間とした。調査日数は、3種類の規制速度ごとにそ れぞれ4∼5日間とした。追い越しを行った一般車 のうち、普通車のみを分析の対象とし、得られたサ ンプル数は、規制速度引き上げ試行前の100km/h 規制時における調査で111台、110km/h規制試行中 が155台、120km/h規制試行中が114台となった。 実際の車両挙動は大きくばらつくものである。加 えてMTCには、速度差が大きいと小さな値をとる という傾向がある。従って、比較に当たっては速度 差別に分布を記述することとした。Fig.7∼9は、 それぞれの規制速度におけるMTCの分布を、速度 差別に箱ひげ図にまとめた結果である。箱ひげ図に おいて箱の部分は四分位範囲を、そして箱を左右に 分ける線は中央値を表している。箱の端から伸びて いる線は、箱から最も遠い値と箱の端を結んだ線 で、箱ひげ図の「ひげ」である。ひげの長さは最大 で箱の長さの1.5倍であり、それより遠いデータは 外れ値としてプロットされる。 Fig.7∼9をみると、速度差の拡大に伴い、MTC は小さい領域に分布する傾向が確認された。すなわ ち、速度差が大きい状態では追突リスクが大きいと いう関係にあるといえる。一般に、ドライバーは速 度が高いと車間距離を広くとることから、速度差が 大きい状態で追い越しをする場合、早めの車線変更 をする傾向がある。しかし、MTCで評価すると、 その判断は速度差が大きくなるほど甘くなっている といえる。こうした傾向は、規制速度に関わらず共 通して確認された。 また、MTCは(1)式で表されるように、先行車 の制動を考慮しているという点で現実的な安全マー ジンといえる。この値が1を下回るということは、 理屈の上では、先行車が何らかの事態に直面し急制 動で停止した場合、後続車は制動によって衝突を避 けることができないことを意味する。 この観点からFig.7∼9をみると、いずれの規制 速度においても、速度差が20∼30km/hより大きく 科学警察研究所
National Research Institute of Police Science 原稿受付日 2020 年 9 月29日 掲載決定日 2020 年11月 4 日 *
矢野伸裕
*横関俊也
*森 健二
* Nobuhiro YANO*Toshiya YOKOZEKI* Kenji MORI*
2017年11月より、高速道路の一部区間において最高速度が試行的に100km/hを超えて 引き上げられた。本稿では、この引き上げによる交通状況への影響を検討した研究事例 を報告する。そこでは、110km/h規制や120km/h規制への引き上げによる影響が、走行 速度の変化、車線変更回数の変化、衝突余裕度(Margin-To-Collision)を指標とした追い 越し時の追突リスクの変化、の3つの観点から検討された。2019年3月までのデータでは、 総じて最高速度引き上げによる大きな影響はなかったが、一部には興味深い変化も確認 された。今後、影響を長期的なスパンで観察する必要がある。
The maximum speed of certain sections of expressway were raised above 100km/h on a trial basis starting in November 2017. This paper reports the results of a study case that examines the impact this increase in the maximum speed had on traffic conditions. This study looked at the effect that the increase in the speed limit to 110km/h and 120km/h had from three different perspectives ‒ changes in the travel speed, changes in the frequency of lane changes, and changes in the risk of collision when overtaking based on the margin-to-collision index. Although the data collected through to March 2019 did not show any significant effect of raising the maximum speed limit, some interesting changes were brought to light. The effects of raising the maximum speed limit will require further observation over a longer time span in the future.
2017年11月以降、高速道路の一部区間において、 試行としてではあるが、わが国で初めて100km/h を超える最高速度が登場した。これは、2016年の 「高規格の高速道路における速度規制見直しに関す る検討委員会」から出された提言1)を受けたもので、 わが国ではそれまで、1963年7月の名神高速道路の 開通以来、最高速度は100km/h(普通自動車)を 上限とする運用が50年以上続いてきた。それ故、 わが国における高速道路の最高速度の変化、しかも 100km/hを超えての引き上げによる交通状況への 影響が実証的に検証されたことはない。そこで、筆 者らの研究室では、今回の最高速度引き上げに合わ せ、それによる交通流や交通挙動への影響を調べる 研究を実施することとなった。本稿では、それらの 研究で得られた知見を報告する。 2. 高速道路の最高速度についての過去の経緯 ( 25 ) 191
IATSS Review Vol. 45, No. 3 Feb., 2021
高規格の高速道路における最高速度の引き上げの影響 1963年7月の名神高速道路の開通に合わせ、法定 の最高速度は普通乗用自動車100km/h、その他の 自動車80km/hと定められた(同月施行の道路交通 法施行令の一部改正)。設計速度が120km/hの区間 もあったが、それよりも低い値になっており、「将 来、自動車性能が向上し、運転者が高速走行に慣れ た段階で再検討することを前提としたもの」であっ たと記録されている2)。規制速度(道路標識等によ る最高速度の指定)も100km/hを上限として設定 され、これが2017年まで続いた。 法定最高速度が車種別に設定されていることもあ り、以後の最高速度の引き上げも車種別に行われた。 まず、名神高速道路開通2年後の1965年には、車両 性能の向上や速度差の解消を理由として3)、大型バ スや当時の普通貨物自動車(三輪を除く)の法定最 高速度が100km/hに引き上げられた。さらに2000 年には、軽自動車やバイク等の法定最高速度も 100km/hに引き上げられた。この時は、速度差解 消の他、1997年の道路交通法改正により、トレー ラーの第1通行帯走行が義務付けられたことなどに 伴い、第1通行帯での混在が予想され、「軽自動車 とバイクの安全な走行環境を確保するための措置」 という側面があったようである4)。また、1990年代 後半に軽自動車の規格が変更され、安全基準等が向 上したことも背景にあると思われる。 その後、2006∼2008年度に行われた警察庁の「規 制速度決定の在り方に関する調査研究」5)では、 従来のインターチェンジ間単位で設定される設計速 度に換わり、道路構造の主要な要素から導かれる「構 造適合速度」を目安として規制速度を決定すること が提案された。しかしこの時点ではまだ、構造適合 速度が100km/hを超えても、最高速度を100km/h を超えて引き上げるには「更なる検証が必要であり、 直ちに引上げられる状況にはない」5)とされた。 2012年、「140km/hでの走行を担保した構造」で 設計された新東名高速道路が開通すると、100km/h を超える最高速度に向けての議論も本格的に動き出 していく。翌2013年に国家公安委員長の主催で「交 通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に 関する懇談会」が設置され、「構造適合速度120km/h で、かつ片側三車線以上の道路に関して、最高速度 100km/hを超える速度への引き上げについて早急 に検討を開始すべき」とする提言6)が取りまとめ られた。これを受け、2015年度に設置された「高 規格の高速道路における速度規制見直しに関する検 討委員会」において、引き上げ箇所についての道路 構造等の条件や安全確保方策、規制速度見直しの方 向性等が示され、併せて100km/h超の規制速度の試 行的な導入と導入後のモニタリングの実施が提言1) された。 以上のようなプロセスを経て、2017年11月に新 東名高速道路の新静岡IC ∼森掛川IC間、12月に東 北自動車道花巻南IC∼盛岡南IC間において、普通 自動車や大型バス等に対する規制速度を110km/h に引き上げる試行が開始された。その試行結果を踏 まえ、2019年3月には、さらに両区間で120km/h に引き上げられた。なお、これらはいずれも100km/h を超える規制速度の指定による最高速度の引き上げ であり、従前のような道路交通法施行令の改正によ る法定最高速度の引き上げは行われていない。また、 大型貨物自動車等に対する最高速度は80km/hのま ま引き上げられていない。 これら2区間における試行結果を検討し、特に大 きな問題はないと確認されたことから、2020年8月、 警察庁は交通規制基準を変更し7)、これにより条件 を満たす高速道路区間の最高速度を120km/hに引 き上げることが可能となった。実際の規制速度は各 県の公安委員会が決定するが、100km/h超えの最 高速度がこれまでの新東名高速道路、東北自動車道 の一部区間から拡大される流れとなった。なお、前 述の2箇所の試行区間は、2020年9月(東北道)と 12月(新東名)に、それぞれ本運用に移行している。 本章では、筆者らが所属する研究室が実施してい る研究事例をいくつか紹介する。交通事故に対する 影響については、研究ベースで分析できるほど十分 な事故データ数が得られていないため、検討を行っ ていない(規制速度110km/h試行開始前後での事 故件数の変化については、警察庁の資料等8)参照)。 本稿では、紙面の都合で各研究の概要を記述するに とどめており、詳細は挙げられた参考文献や今後の 論文発表等を参照していただきたい。 3-1 走行速度への影響 規制速度を引き上げるのであるから、まず走行速 度への影響を確認することが不可欠である。そこで 本節では、引き上げの前後で走行速度特性がどのよ うに変化するかを分析した結果9)を報告する。な 3. 100km/hを超える規制速度引き上げによる影響 お、本節で示す分析結果は、元の文献9)の時点よ りデータの追加や分析方法の変更があり、現時点で の最新のものである。 ここでは、新東名高速道路を対象とした。100km/h 超えの規制速度の試行区間は新静岡IC∼森掛川IC 間であった。本研究の速度分析地点として、引き上 げ区間内の上り169.4kp地点(以後、引き上げ有り 地点と表記)と引き上げ区間外の下り175.5kp地点 (以後、引き上げ無し地点と表記)を選定した。こ れらの地点は、①前方5km以内に速度違反自動取締 装置が設置されていない、②前方1km以内にICや SA等の合流や分流がない、③トンネル内ではない、 ④3車線部、の4条件を基準に選んだものであった。 走行速度の分析のために、本研究では株式会社ナ ビタイムジャパンが提供するプローブデータ10)を 利用した。本データは、同社が運営するカーナビゲー ションアプリから取得した走行実績データ(1秒ご との緯度経度情報)や車種等の属性情報に加え、道 路リンク情報などを利用して作成されている。走行 速度を比較したのは、規制速度引き上げ1年前の 2016年11月、110km/hへの引き上げ直後の2017年 11月、110km/hへの引き上げ1年後の2018年11月、 120km/hへの引き上げ直後の2019年3月、の4つの 時期(各1カ月間)であった。これら4つの時期に 前述の2地点で取得されたプローブデータから、登 録車種が普通車の速度データを抽出した。なお、 70km/h未満の走行速度や降雨日のデータは除いた。 Fig.1は、走行速度の85%タイル値と平均値の推 移を規制速度引き上げの有無別に示したものであ る。引き上げ有り地点の平均速度は、110km/h規制 に引き上げられた直後の2017年11月には、2.5km/h 程度の若干の上昇をみせた(統計的には有意)。し かし、その1年後の2018年11月には、ほぼ引き上げ 前の水準に戻っており、120km/h規制に引き上げ られた直後の2019年3月もあまり変化がなかった。 引き上げ有り地点の平均速度は、引き上げ無し地点 よりは上回っているが、その差は大きくない。また、 高速の車両群の速度が反映されやすい85%タイル 速度については、引き上げ地点では一貫して121∼ 122km/hであり、高速走行を好む運転者グループ が規制速度引き上げを機に、さらに速度を高めたよ うにはみえない。Fig.2の地点別の速度の相対度数 分布の推移をみると、引き上げ有り地点では、2017 年11月の分布が最も高速度領域に寄っており、 120km/h規制に引き上げられた直後の2019年3月 の分布は、むしろ引き上げ試行前の100km/h規制 だった2016年11月の分布に近づいているようにみ える。以上より、2017年11月以降、規制速度は最 終的に20km/hも引き上げられたが、平均速度の上 昇はその幅に遠く及ばず、走行速度に与えた影響は それほど大きくなかったといえるであろう。 規制速度を引き上げても走行速度に大きな影響が ないのであれば、結果的に規制速度を遵守した車両 が増加すると予想される。Fig.3は、規制速度‘違反’ 車両の割合の推移を地点別に示したものである。引 き上げ有り地点では、規制速度引き上げ試行前の 2016年11月 に お け る 違 反 車 両 の 割 合 は57.9%で あ っ た が、規 制 速 度 引 き 上 げ と と も に 減 少 し、 120km/h規制に引き上げられた直後の2019年3月 には16.3%にまで低下した。この間、引き上げ無し 地点では、速度違反の割合は56∼60%とほとんど 変わっていない。当該区間での規制速度の引き上げ は、走行実態に合ったものと捉えて良いと思われる。 速度差の拡大は、事故防止の上で望ましいことで はない。速度差の観点から規制速度引き上げの影響 を検討するため、規制速度引き上げの対象である普 通車の85%タイル速度と15%タイル速度の差の推 移を地点別に示したものがFig.4である。引き上げ 有り地点では、引き上げ試行前の2016年11月と比 べて、2017年11月の引き上げ試行開始以降、その 差が1∼3km/h広がっており、速度差が若干拡大し たようにもみえる。この程度の差の拡大が実際に事 故発生に影響するかどうかは定かでない。ただ、こ の間、引き上げ無し地点では、85%タイル速度と 15%タイル速度の差が一貫して低下しており、グラ フの上では規制速度引き上げの有無によって対照的 である。速度差については、今後も検討する必要が あろう。 これまでの分析では、高速道路における100km/h を超えた規制速度の引き上げは、少なくともその引 き上げ幅の割には、走行速度にあまり影響を与えて いないと思われる結果であった。まるで、ドライバー たちは、もともとそれぞれの好みの速度で走行して おり、それは規制速度引き上げ後も変化がなかった かのようである。今後、120km/h規制が定着した と思われる2020年に入ってからのデータも加えて 分析し、規制速度引き上げの影響を確認する予定で ある。 3-2 車線変更挙動への影響 本節では、規制速度の引き上げによって、車線変 更の回数がどのような影響を受けたのかを述べる。 第2章でも言及したが、今回の規制速度110km/hお よび120km/hへの引き上げは、全ての車両を対象 としているわけではない。対象車両は、従来の最高 速度が100km/hであった乗用車やバス、普通貨物 車、軽 自 動 車、バ イ ク 等 で あ り、最 高 速 度 が 80km/hであった大型貨物車や一部の中型貨物車、 トレーラー等は対象外のため、最高速度は据え置か れている。つまり、もともとあった最高速度の差が さらに広がることになり、走行時の速度差を拡大さ せる一因になることが考えられる。速度差の発生・ 拡大は、追い抜きや追い越し行動の頻度を増加させ る懸念がある11)。特に追い越し時においては、車線 変更が生じるため、ハンドル操作や後方から追い越 してくる車両の有無の確認が必要となり、単純な直 進走行時より事故につながる危険性が高くなる12) 13)。実際、次節でも言及するように、速度差の大き な車両同士による事故では、追い越し時の構成率が 高い11)。 そこで、100km/hを超える規制速度引き上げに よる追い越し行動の回数への影響を確認するため に、高速道路に架かる跨道橋にビデオカメラを設置 して高速道路の車両の流れを撮影し、その映像から 車線変更の回数を目視で計測することとした14)。 なるあたりから、最小値が1を下回るケースが散見 された。評価のタイミングが車線変更開始時である ため、ハンドル操作で衝突を回避する選択肢がある ことから、この値のみで追突リスクの絶対的な評価 ができるわけではないが、速度差が大きいほど相対 的にリスクが高まるということは、それだけ運転者 の再引き上げによって、小さな値へとシフトすると いう変化をした。こうした変化は、特に速度差10 ∼20km/hと20∼30km/hというレベルにおいて確 認された。一方、速度差10km/h未満および30∼ 40km/hでは、規制速度による値の変化は比較的少 ない結果となった。 そもそもこの分析は、速度差が大きい状態におけ る追突リスクに焦点を当てたものであるが、速度差 40km/h以上という最も速度差が大きいカテゴリー についてはサンプルが少なく、十分な考察ができな い結果となった。これに対して二番目に大きなカテ ゴリーとなる速度差レベル30∼40km/hについて は、規制速度による追突リスクの相違は比較的少な いという結果となり、懸念していた速度差が大きな 状況におけるリスクの悪化はなかったと判断でき る。一方、速度差がより小さな状況において、リス クに変化の傾向がみられており、速度差レベル別に、 このような傾向の違いが生じたことは興味深いが、 その理由については今後の課題である。 なお、速度差と車間距離によって表されるリスク 指標は、MTCの他にも提案されている。本節と同 様に中央値によってその相違を調べたところ、規制 速度との関係については、いずれも似た傾向を示す ことが確認されている19)。 参考文献 1 ) 高規格の高速道路における速度規制の見直しに 関する調査研究委員会『高規格の高速道路にお ける速度規制の見直しに関する提言』2016年 2 ) 『高速道路五十年史』編集委員会『高速道路五 十年史』公益財団法人高速道路調査会、pp.35-36、 2016年 ▶https://www.express-highway.or.jp/info/study/ index.html#50history (2020年9月25日閲覧) 3 ) 星埜和「高速道路の最高速度について」『高速 道路と自動車』Vol.8、No.9、pp.6-9、1965年 4 ) 財団法人日本交通管理技術協会『高速道路にお ける自動車の速度差と安全対策に関する調査研 究報告書』1999年 5 ) 規制速度決定の在り方に関する調査研究検討委 員会『平成20年度調査研究報告書』pp.40-41、 2009年 ▶https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/ kisei/mokuteki/kiseisokudo/pdf/ H20houkokusyo.pdf (2020年9月25日閲覧) 6 ) 交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の 在り方に関する懇談会『交通事故抑止に資す る取締り・速度規制等の在り方に関する提言』 2013年 7 ) 警察庁交通局「「交通規制基準」の改正につい て(通達)」令和2年8月26日、2020年 8 ) 宇都宮理「高速道路の交通規制等について」『月 刊交通』Vol.51、No.6、pp.6-14、2020年 9 ) 矢野伸裕、森健二、横関俊也「新東名高速道 路における規制速度引き上げと実勢速度の推 移」『交通科学研究会令和元年度研究発表会』 2019年 ▶http://www.kokaken.or.jp/r01_happyo_ program.html(2020年9月25日閲覧) 10 ) 梶原康至、小竹輝幸、塚本周平、髙木知里、加 賀谷駿「プローブと属性データを用いた道路プ 11 ) 横関俊也、森健二、矢野伸裕、萩田賢司「高速 道路での追越追抜時等における交通実態の特徴」 『科学警察研究所報告』Vol.68、No.1、pp.29-38、 2019年 12 ) 今山健「追越度数と事故発生率の相関性」『交 通工学』Vol.2、No.4、pp.17-23、1967年 13 ) 梅沢千鶴子「車の追越しによる危険率のシミュ レーション」『交通工学研究発表会論文報告集』 Vol.1、pp.34-37、1972年 14 ) 横関俊也、森健二、矢野伸裕、萩田賢司「東北自 動車道における規制速度引き上げが走行車両の 挙動に与えた影響について」『土木学会論文集D3 (土木計画学)』Vol.75、No.5、pp.I_1021-I_1028、 2019年 15 ) 岩崎真純、野中康弘「高速道路における車線 変更モデルに関する研究レビュー」『土木計画 学 研 究 発 表 会・講 演 集』Vol.55、No.20-02、 2017年 16 ) 塩見康博、谷口知己、宇野伸宏「車線交通量の 均衡メカニズムを内生化した多車線交通流モデ ル の 構 築」『交 通 工 学 論 文 集』Vol.1、No.3、 pp.1-10、2015年
17 ) Knoop, V. L., Hoogendoorn, S. P., Shiomi Y., Buisson C.: Quantifying the Number of Lane Changes in Traffic An empirical analysis, Journal of Transportation Research Board Vol.2278, pp.31-41, 2012. 18 ) 森健二「高速道路における速度差の大きな事故 の 特 徴」『月 刊 交 通』Vol.48、No.8、pp.90-98、 2017年 19 ) 森健二、矢野伸裕、横関俊也、萩田賢司「高速 道路の規制速度引き上げが追い越し挙動に与え る影響」『第40回交通工学研究発表会論文集』 pp.113-118、2020年 20 ) 北島創、久保登、荒井紀博、片山硬「映像記録 型ドライブレコーダによる追突事故発生メカニ 調査地点は、周囲の道路構造等を考慮し、東北自 動車道の規制速度引き上げ試行区間内(花巻南IC ∼盛岡南IC)に位置する岩手県花巻市糠塚の北湯 口跨道橋とした。計測は上り線のみで実施しており、 483.0∼483.4kp間の400mにおいて発生した車線変 更の回数を計上している(Fig.5参照)。一般的な追 い越し行動は、走行車線から追越車線への車線変更 と、追い抜き後における追越車線から走行車線への 車線変更という計2回の車線変更から構成される が、高速道路の短い計測区間内において2回の車線 変更を観測することは困難であるため、それぞれの 車線変更を別々に計上することとした。同一の車両 が計測区間内で複数回の車線変更をした場合は、重 複して計上した。また、調査日時は、 ・2017年11月17日(金) (試行開始の約2週間前で最高速度100km/h) ・2018年11月27日(火) (110km/h規制試行開始から約1年後) ・2019年11月26日(火) (120km/h規制試行開始から約9カ月後) の計3回で、時間帯は10:30∼15:30、いずれも晴天 であった。 Table 1は、映像データから通過車両の車線変更 回数を計測した結果である。単純な車線変更回数の 比較では、試行前100km/h規制中が867回、110km/h 規制試行中が849回、120km/h規制試行中が965回 となっていた。いずれの計測日においても、走行車 線から追越車線への車線変更よりも、追越車線から 走行車線への車線変更が多くなっていた。それぞれ の計測日において、交通量が異なるため、計測時間 中の交通量で正規化したところ、Fig.6に示すとお り、100km/h規制中が0.18回/台、110km/h規制試 行中が0.20回/台、120km/h規制試行中が0.23回/ 台と、交通量当たりの車線変更回数は増加傾向とな り、最終的には3割程度の上昇となった。これは 100km/h規制中では2.3kmで1回であった車線変更 が、120km/h規制試行中に1.7kmで1回の車線変更 になったことを意味する。ある地点での車線変更の 発生頻度は、前後区間を含めた道路構造や交通量、 交通規制の状況によって異なると考えられ15)16)、今回 の計測結果を一般化して評価することは難しい。高 速道路単路部における車線変更回数についての海外 の調査事例17)をみると、おおむね2kmで1回の車 線変更が観測されている。この値と比較すると、 100km/h規制では車線変更の発生頻度がより少な く、120km/h規制試行中は頻度がより多いことに なる。 前述のように、車線変更挙動は事故の要因になり 得るとしても、ここで見られた程度の車線変更の頻 度の増加が、実際にどの程度、事故のリスクを高め るかは定かでない。また、この調査では走行速度は 計測していないが、車両間の速度差と車線変更頻度 との関係もいまだ明らかになっていない。前述のと おり、車線変更回数は各種条件により変動するセン シティブな指標である。今後、さまざまな条件の下 で、交通事故の発生状況と併せて、長期間での観測 結果を確認することが望ましい。 3-3 追い越し時の追突リスク 本節では、規制速度の引き上げによって、追突事 故の危険性に変化があったかについて述べる。追突 にはさまざまな要因があるが、ここでは車線変更を 伴う「追い越し」という場面に着目し、追い越し車 両の被追い越し車両に対する追突リスクを取り上げ る。この事象に着目した理由は、既存研究において、 速度差の大きな車両同士による事故では、追突の構 成率が高いこと18)、それに加えて、追い越し時の構 成率が高い11)との知見を得ていたためである。 追突リスクに関係の深い要素としては、先行車と 後続車の速度差および車間距離がある。そこで、追 い越しのための車線変更直前のタイミングにおける 速度差と車間距離の実態を把握するための観測調査 を行うこととした19)。この調査は、規制速度の引き 上げ試行前の100km/h規制の状況下と、110km/h 規制試行中および120km/h規制試行中の3度にわた り実施した。 調査スタイルは、高速道路に観測用の車両を巡行 させ、それを追い越していく一般車両を観測すると いうものとした。観測車には速度計やGPS、後方の 様子を捉えるためのビデオカメラと車間距離計を搭 載した。観測車の速度は80∼90km/h程度とした。 追突の危険性を表すリスク指標として、ここでは 衝 突 余 裕 度20)(Margin-To-Collision、以 下MTCと 称す。)の結果を紹介する。MTCは(1)式で表され、 「後続車の制動距離」に対する「先行車の制動距離 と車間距離の和」の比である。今回の調査では、観 測車両が先行車、追い越しを行う一般車両が後続車 という関係になる。 分析に当たり、追い越しのための車線変更直前の タイミングを、車線変更を試みた追越車の右前輪が 車線境界線上に達した時点と定義し、その時の各車 両の速度と車間距離からMTCを算出した。このタ イミングに着目した理由は、先行する観測車と追い 越しを行う一般車が、同一車線上で最も接近する状 態となるためである。 調査を実施した場所は、規制速度引き上げの試行 区間である新東名高速道路の新静岡IC∼森掛川IC 間とした。調査日数は、3種類の規制速度ごとにそ れぞれ4∼5日間とした。追い越しを行った一般車 のうち、普通車のみを分析の対象とし、得られたサ ンプル数は、規制速度引き上げ試行前の100km/h 規制時における調査で111台、110km/h規制試行中 が155台、120km/h規制試行中が114台となった。 実際の車両挙動は大きくばらつくものである。加 えてMTCには、速度差が大きいと小さな値をとる という傾向がある。従って、比較に当たっては速度 差別に分布を記述することとした。Fig.7∼9は、 それぞれの規制速度におけるMTCの分布を、速度 差別に箱ひげ図にまとめた結果である。箱ひげ図に おいて箱の部分は四分位範囲を、そして箱を左右に 分ける線は中央値を表している。箱の端から伸びて いる線は、箱から最も遠い値と箱の端を結んだ線 で、箱ひげ図の「ひげ」である。ひげの長さは最大 で箱の長さの1.5倍であり、それより遠いデータは 外れ値としてプロットされる。 Fig.7∼9をみると、速度差の拡大に伴い、MTC は小さい領域に分布する傾向が確認された。すなわ ち、速度差が大きい状態では追突リスクが大きいと いう関係にあるといえる。一般に、ドライバーは速 度が高いと車間距離を広くとることから、速度差が 大きい状態で追い越しをする場合、早めの車線変更 をする傾向がある。しかし、MTCで評価すると、 その判断は速度差が大きくなるほど甘くなっている といえる。こうした傾向は、規制速度に関わらず共 通して確認された。 また、MTCは(1)式で表されるように、先行車 の制動を考慮しているという点で現実的な安全マー ジンといえる。この値が1を下回るということは、 理屈の上では、先行車が何らかの事態に直面し急制 動で停止した場合、後続車は制動によって衝突を避 けることができないことを意味する。 この観点からFig.7∼9をみると、いずれの規制 速度においても、速度差が20∼30km/hより大きく