子どもの体力向上のためのラダートレーニングの有効性(その2)
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第64巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.64,No.2. 平成26年2 月 February,2014. 子どもの体力向上のためのラダートレーニングの有効性(その2) 杉山 喜一1). ・神林 勲2)・剛島 恒1)・横田 正義3)・前上里 直3)・須田 康之4)・. 及川 勝也5)・岡安多香子3)・佐々木貴子3)・野寺 克美6)・行徳 義朗7)・佐藤 和8). 1)北海道教育大学岩見沢校スポーツ教育課程,2)北海道教育大学札幌叔保健体育数寄 3)北海道教育大学札幌枚養護教育課程,4)北海道教育大学旭川夜学枚教育課程 5)北海道教育大学付属旭川中学校,6)北海道教育大学付属札幌中学枚,7)北海道教育委員会 8)東京大学身体運動科学研究室. Eff6ctivenessofLadderTrainingfortheImprovementofPhysical FitnessofChildren(Part2). SUGIYAMAKiichil)・KANBAYASHIIsao2)・OKAJIMATsuneshil) YOKOTAMasayoshi3)・MAEUESATOTadasi3)・SUDAYasuyuki4) OKAYASUTakako3)・SASAKITakako3)・0IKAWAKatsuya5)・NODERAKatsumi6). GYOTOKUY。Shir。7).sATOUYamat。8) 1)DepartmentofSportEducation,IwamizawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation 2)DepartmentofPhysicalEducation,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation 3)DepartmentofSchooINurse,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation 4)DepartmentofSehooIEdueation,AsahikawaCampus,HokkaidoUniversityofEdueation. 5)HokkaidoUniversityofEducationAsahikawaLaboratorySchoo1 6)HokkaidoUniversityofEducationSapporoLaboratorySchool 7)EducationBoardofHokkaido,8)TheUniversityofTokyo. Abstract. Accordingtothelocalgovernmentannualreport,itisdocumentedthatthelevelof physicalfitnessofschooIchildreninHokkaidoprefectureislowerthanthenationalaverage. Sugiyamaetal.suggestedthatpolicyandanactionplanforthepromotionofhealthand physicalfitnessshouldbeimplementedinpublicschooleducation.Asastrategytoimprove thephysicalfitnessofchildren,itisrecommendedthatladdertrainingbeincorporatedinto thephysicaleducationprogram.Thepurposeofthisstudywastoinvestigatetheeffectsof laddertrainingonthespeedandagilityofchildren.Participants(n=62)weresix grade students(boysandgirls)ofalocalelementaryschool.Theyweredividedintocontroland experimentalgroups.Insteadofwarm−upeXerCisesforthecontrolgroupintheirphysical. 111.
(3) 杉山 喜一・神林 勲・剛島 恒・横田 正義・前上里 直・須田 康之・及川 勝也・岡安多香子・佐々木貴子・野寺 克美・行徳 義朗・佐藤 和. educationclass,1adderexercisesweresubstitutedintheexperimentalgroup.Thestudy’s. ladderprogramconsistedof5sequentialmotionsfortheimprovementofthephysicalcapa− Citiesofspeedandagility.Theseladderexerciseswereperformedthreetimesaweekfor3 Weeksintheexperimentalgroup.Theseexerciseswererecordedbydigitalvideocamera andtheirachievementlevelswereevaluatedbytheresearcherseveryweek.Bothgroups performedpre−andpost−fundamentalmotorabilitytests(20meterdash,andsidestep test).Thestatisticalanalysisindicatedthattheachievementlevelsofexercisesintheex−. perimentalgroupweresignificantlyimprovedafter3weeks.Comparedwithbothcontrol andexperimentalgroups,theexperimentalgroupshowedimprovementinthemaximum Velocityofthe20meterdashbutnosignificantdifferencewasnotedinthecontrolgroup. Inaddition,thescoresofthesidesteptestoftheonlyexperimentalgroupweresignificant− 1yimprovedinthepost−teSt.Thisstudydemonstratesthatladdertraininghasapositive effectonthephysicalfitnesslevelsofspeedandagilityinchildren.Baseduponthesefind−. ing,itmaybebeneficialtoincludeladdertrainingin thephysicaleducation curriculumfor Studentsofthisagegroup.. Ⅰ.はじめに 杉山ら(2008)は,北海道の子ども達の体力・運動能力が全国平均より低いことに注目して,小学校4年 生,6年生,中学校2年生を対象に,子ども達の体調や生活習慣,生活環境,生活意識等に関する生活実態 について調査している。そして子ども達の体力向上をはかっていく上で,学校教育や行政レベルにおいてス ポーツ活動や運動行動の参画に慣れ親しむための環境面の充実をはかることの必要性を強調している。とり わけ学校教育においては,体育授業がそのニーズに応えるべく主要な役目を果たすべきだとした上で,杉山 ら(2013)は,子ども達の体力向上を目的に小学4年生の授業の中にラダートレーニングを導入した結果,一 部の体力テスト種目においてその有効性を認めている。. ラダートレーニングは,梯子(なわばしご)のような器具を用いて,素早く動くためには,「どう動くべ きか」を判断し,(脳からの指令により)実際に身体を動かすという2つのプロセスをうまく連動させるこ とで、敏捷性や調整能力といった運動神経系の改善が期待される。ラダートレーニングを含むさまざまなコー. ディネーションプログラムが小学生の素早い動きの向上に有効であることを考えると,幼少年期には,神経 系の機能と密接な関係がある調整力(巧敵性,敏捷性,平衡性,協応性)が顕著に発達する可能性があり, 発達途上にある子ども達の体力向上をねらいとしたラダートレーニングの有効性について検討する意義は大 きい。しかもラダートレーニングは,集中力の持続が難しく飽きやすい児童にとって,バリエーション豊か な動作を巧みに用いて,次々と異なるステップを体感させ,成功体験を積み重ねていくことで,連動するこ との楽しさ(運動有能感)を身につけさせるための有効な遊びとなる。. 実際の現場サイドおけるラダートレーニングの導入例として,4∼6学年児童を対象としたハードル走授 業におけるラダートレーニングの展開(瀬戸口他;2008),あるいは小学校5年生を対象としたコーディネー ショントレーニングとしてのラダートレーニングの応用(安光・野川;2010)についての報告がある。ただ しこれら報告にみられるトレーニングの有効性については,ラダーを含むさまざまなトレーニングメニュー を組み合わせた内容のもので,ラダートレーニングそのものの有効性については検討されていない。しかも 子ども達の体力向上の観点からその有効性について検討する場合,導入されたラダーエクササイズの習熟結. 112.
(4) 子どもの体力向上のためのラダートレーニングの有効性(その2). 果を踏まえてその有効性について論じていく必要がある。. そこで本研究では,小学校6年生を対象に体育授業におけるラダープログラムを導入し,そのラダーエク ササイズの習熟に伴う運動能力の向上について検討することで,学校教育における子ども達の体力向上のた めの基礎資料を得ることを目的とする。. Ⅱ.方 法 1.被験者 北海道汁別市市内の′ト学校に在学する′ト学6年生児童62名(男子:36名,女子:26名)とした。. 2.実験期間,場所 本実験は,平成23年11月上旬から下旬にかけて,同小学校体育館にて行った。. 3.手続き. はじめに実験の流れについて表1に示した。まず被験者を統制群と実験群の2つのグループに分け,実験 開始前(Pre)と終了後(Post)に2種目からなる運動能力テストを実施した。運動能力テストは,スピー ドや瞬発力の指標となる20mダッシュと敏捷性の指標となる反復横跳びとした。実験期間中の体育授業(火 曜日・水曜日・木曜日の週3回)の中で,統制群は通常のウォーミングアップを,実験群はウォーミングアッ プをかねたラダープログラムを8分程度実施した。本プログラムでは,様々なステップバリエーションを通 じてボディーコントロール能力を高めるために開発された,クイックラダー(クレーマージャパン製)が使 用された。またラダーエクササイズの内容は,先行研究や専門家の意見等を参考に,最終的には開脚閉脚の ジャンプステップ,1マス1歩ダッシュ,1マス2歩ダッシュ,シャッフルステップ(前方向),サンバステッ プ(左右)の5種目とした。実験試技の際には,最初に指導者が模範を示し,その後を児童が追随する形式 でそれぞれ2回ずつ試技を行った。なおトレーニングセッションは3週間で延べ9回にわたって実施した。. 表1.実験の流れ(プロトコール) 実験内容. Pre. 統制群. 体力測定 (2種目). 実験群. 体育授業(過3回). 毎回通常行っている8分程度のW−upを実施. Post. 体力測定 (2種目). 体育授業(過3回). 毎回8分程度のラダートレーニング(5種目)によ るW−upを実施. 3.分析方法. 20mダッシュについては,走路中央地点から側方15m地点にデジタルカメラを設置して,スタート合図 からゴール通過までの区間をパンニング撮影(60fps)し,ビデオ再生フレーム数から所要時間を算出した。 同時にゴール手前2m区間を側方15m地点に置かれた別の固定カメラから定点撮影(120fps)し,そのビデ オ動画をコンピュータに取り込み,動画解析ソフトsiliconCOACH Pro6(株式会社フォーアシスト)を用 いて,ピッチ,ストライド及びトップスピード(最大疾走速度)を求めた。. 113.
(5) 杉山 喜一・神林 勲・剛島 恒・横田 正義・前上里 直・須田 康之・及川 勝也・岡安多香子・佐々木貴子・野寺 克美・行徳 義朗・佐藤 和. 反復横とびは,文部科学省体育局の定めている新体カテストの手順に従って,1m幅に引いた3本の線 を20秒でまたぎ越した回数をカウントした。なおラインをまたぎ越せなかった場合にはノーカウント扱いと した。. 本ラダープログラムは3週間にわたって9回のセッションが実施されたが,そのうち1回目,5回目,9 回目のセッションにおけるすべての試技について,前方と側方からビデオ撮影を行った。そしてラダーエク ササイズの習熟度について分析するために,5段階評価による判定基準を用いて,映像分析から各被験者の 上達度について判定した。なお判定基準は,ラダーのマスの最後までスムーズ(一回も止まらず)で,正し く,素早く,リズミ カルに行う動作に対して,「とても上手にできる」を5点,「ある程度上手にできる」を 4点,「あまり上手にできない」を2点,「ほとんどできない」を1点とし,「どちらとも判断しにくい」場 合を3点とした。. 4.統計処理. 統制群と実験群毎に,PreとPostの体力測定結果の比較については,対応のあるt検定を用いた。また 実験群における各ラダーエクササイズの習熟度については,一要因分散分析を用い,条件間で有意差が認め られた場合には,Scheffeの多重比較を行った。本研究における統計的有意水準は,5%水準とした。. Ⅱ.結 果 ラダー. トレーニングに伴う、各運動課題の習熟過程を明らかにするために,初回(1回目),中間にあた. る5回目,最終回(9回目)のラダーエクササイズの習熟度について,被験者毎に5段階評価で判定を行っ た。表2は,各ラダーエクササイズの評価得点の平均値(標準偏差)を示している。. 各運動課題の習熟度に注目してみると,5回目,9回目とトレーニングを重ねるにしたがって評価得点が 有意に高くなる傾向がみられ,また一要因分散分析の結果,これら条件間で有意差も認められた。そこで多 重比較を行った結果,平脚開脚ジャンプを除く残り4課題において,1回目に対して5回目,さらに5回目 に対して9回目において,評価得点における有意な向上が認められた。なお平脚開脚ジャンプについては, 1回目に対して9回目において有意な向上が認められたものの,1回目と5回目の間に有意差は認められな かった。. 表2.ラダーエクササイズの5段階評価による平均値(標準偏差)の比較 1回目. 平脚開脚ジャンプ. 5回目. 9回目. 2.3(0.50). 2.6(0.47). 3.5(0.36)**. 1マス1歩ダッシュ. 2.4(0.43). 2.7(0.33)*. 3.6(0.32)**. 1マス2歩ダッシュ. 2.0(0.42). 2.6(0.44)*. 3.5(0.35)**. シャッフルステップ. 2.0(0.56). 2.6(0.67)*. 3.5(0.37)**. サンバステップ. 1.8(0.48). 2.8(0.50)*. 3.3(0.42)**. *:1回目に対して有意に向上, **:1回目,5回目に対して有意に向上. 3週間(延べ9回)に及ぶトレーニングセッション終了後,ラダーエクササイズすべての種目において有 意な向上が認められたことから,このような習熟に伴う運動能力への影響について検討した。表3は,Pre とPostにおける20mダッシュの所要時間,最大疾走速度およびピッチ・ストライドならびに反復横とびの. 114.
(6) 子どもの体力向上のためのラダートレーニングの有効性(その2). 平均値(標準偏差)を示している。. まず20mダッシュの疾走時間の平均値(標準偏差)をみると,統制群では,Preが4.18(0.33)秒,Postが 4.20(0.34)秒で有意差はみられなかった。また実験群でも,Preが4.29(0.32)秒,Postが4.18(0.34)秒で, いずれのグループも有意差がみられなかった。そこで20mダッシュ時にみられる最大疾走速度の平均値(標 準偏差)に注目してみると,統制群では,Preが6.10(0.64)m/秒,Postが6.20(0.67)m/秒で有意差はみ られなかったものの,実験群では,Preが5.88(0.71)m/秒,Postが6.06(0.78)m/秒で有意差が認められ た。そこで最大疾走速度にみられるピッチとストライドの平均値(標準偏差)に注目した結果,統制群では,. Preのピッチが3.59(0.43)歩,ストライドが1.71(0.17)m,Postではピッチが3.52(0.41)歩,ストライド が1.77(0.21)mで,いずれもPreとPostの間で有意差はみられなかった。しかし実験群では,Preのピッ チが3.80(0.61)歩,ス1、ライドが1.60(0.15)m,Postではピッチが3.65(0.43)歩,ス1、ライドが1.67(0.15) mで,ピッチにおいては有意差がみられなかったものの,ストライドにおいて有意差が認められた。 次に反復横とびの平均値(標準偏差)に注目してみると,統制群ではPreが38.3(5.25)回,Postが39.7 (5.15)回で有意差はみられなかったものの,実験群ではPreが37.9(5.42)回,Postが40.3(4.69)回で有意 差が認められた。. 表3.PreおよびPostにおける各運動能力の平均値(標準偏差)による比較 運動能力テスト. 統制群 (n=26). 実験群 (n=36). 実験開始前. 実験終了後. 20mダッシュ(sec). 4.18(0.33). 4.20(0.34). N.S.. 最大疾走速度(m/sec). 6.10(0.64). 6.20(0.67). N.S.. ピッチ(歩/sec). 3.59(0.43). 3.52(0.41). N.S.. ストライド(m). 1.71(0.17). 1.77(0.21). N.S.. 反復横とび(回). 38.3(5.25). 39.7(5.15). N.S.. 20mダッシュ(sec). 4.29(0.32). 4.18(0.34). N.S.. 最大疾走速度(m/sec). 5.88(0.71). 6.06(0.78). ピッチ(歩/sec). 3.80(0.61). 3.65(0.42). ストライド(m). 1.60(0.15). 1.67(0.15). *. 37.9(5.42). 40.3(4.69). *. 反復横とび(回). 有意性. *. N.S.. *:有意差あり,N.S.:有意差なし. Ⅳ.考 察 本実験で導入したラダーエクササイズのうち,1マス1歩ダッシュや1マス2歩ダッシュのような前方向 へ素早く移動するためのスピード要素が大きく,またシャッフルやサンバステップは,ラテラルな動きの要 素を取り入れながら素早くスムーズに移動するといったいわば敏捷性能力が深く関わっている。さらに開脚. 閉脚ジャンプステップは,ジャンプ中に脚を開閉しながら連続的にステップしていくことから,スピードや 敏捷性よりはむしろ(空中)バランス能力や瞬発的能力が重要視される。. 3週間(計9回)のトレーニングセッションによって,すべてのラダーエクササイズで有意な向上がみら れたものの,その中間段階にあたる5回目においては,開脚閉脚ジャンプステップのみに有意な向上がみら れなかった。このようにバランス系・瞬発系のエクササイズと比べ,スピード系や敏捷系のエクササイズが やや早い段階で上達するといった習熟度に違いがみられた理由として,ラダートレーニングがSAQトレー. 115.
(7) 杉山 喜一・神林 勲・剛島 恒・横田 正義・前上里 直・須田 康之・及川 勝也・岡安多香子・佐々木貴子・野寺 克美・行徳 義朗・佐藤 和. ニングすなわちSpeed(スピード),Agility(敏捷生),Quickness(クイックネス)の向上を目的とした トレーニングの一部として行われている(原田他;2007,犬塚・原;2009)ことを考えると,今回のラダー トレーニングによっても,子ども達のスピードや敏捷性が優先的に強化された点が明らかとなった。また山 本・木村(2011)は,一般男子大学生を対象に,週1回の大学体育授業においてラダートレーニングを10週 間行い,その効果について検討している。そして一般の男子大学生を対象にラダートレーニングを行った場 合,トレーニング開始から6週間まで継続することで,敏捷性能力に対する効果が期待できると報告してい る。被験者の特性,トレーニングの量や頻度において本実験条件とは異なるものの,いずれも延べ5∼6回 程度の比較的少ない回数で小学生から大学生にいたる幅広い対象に対して,敏捷生能力の向上が期待できる といった点については今後も注目すべきであろう。. さて本研究ではこのようなラダーエクササイズの習熟に伴って,運動能力にどのような影響がみられるか が主要なテーマであった。今回の運動能力テストが,20mダッシュといったスピードや瞬発力が求められ る種目と反復横とびといった敏捷生が求められる種目であることを考慮すれば,これら種目に対するラダー トレーニングの効果が期待された。今回の実験結果では,実験群で20mダッシュの所要時間がわずかに短 縮されたものの有意差はみられなかった。むしろ統制群ではその所要時間が伸びていることを考えると, PreとPostにおける測定当日のコンディション等の影響についても検討してみる必要があろう。ただ201Tl 区間の最大疾走速度に注目してみると,統制群では有意な変化がみられなかったにもかかわらず,実験群で は有意な増加が認められた。この疾走速度はピッチとストライドの積で決定されることから,このような疾 走速度の増加は,これら要因の変化によるものであろう。そこでPreとPostにみられる疾走時のピッチや ストライドの変化に注目してみると,統制群では,PreとPostにおいてとくに有意な変化がみられなかっ た。その一方で実験群では,ピッチでは特に有意な増加がみられなかったもののストライドにおいて有意な 増加が認められたこのことから,実験群における最大疾走速度の増加は,ストライドの増加によるものと判 断された。. この20mダッシュとその際の最大疾走速度とは密接に関係していると思われたが,実際には前者では有 意な変化がみられず,後者においてのみ有意な向上が認められた。この背景にはさまざまな理由があげられ るが,20mダッシュがスタートから加速,加速からトップスピード至る一連の疾走局面にみられる複雑な 技術が関与している(杉山他;1998)ことから,今回のラダートレーニングでは,このようなスタートから 加速局面における技術的改善をもたらす程の効果をもたらさなかったものと推察される。松本ら(1991)は,. 加速局面における疾走速度の増加は,O mから20mまではピッチの立ち上がりとストライドの急激な増加,. 20m以降ではストライドの横やかな増加が必要である点を指摘している。今回実験群では,20m付近の最 大疾走速度の増加がストライドの増加によることから,今回のラダートレーニングは,むしろストライドを 向上させるための何らかの調整能力を高める上で効果的であったと判断すべきであろう。またこれまでの報. 告(杉山;1986,杉山他;2006)のように,疾走速度とピッチ・ストライドとの関係については,疾走フォー ムとも深く関係していることから,今後は動作分析等も含めて詳細に検討していく必要があろう。 ところで児童3年生を対象としたラダートレーニングを中心としたコーディネーショントレーニングの効 果として,安光・野川(2010)は,反復横跳びのような素早い動きの向上に有効であり,これらの結果を基に 調整力への効果について検証している。宮口他(2011)は,保育所の運動カリキュラムにラダー運動(縄梯 子を使ったステップ運動)を導入し,導入前後で運動能力の変化を検討した結果,反復横跳びの効果量(変 化量)が大きかったことから,敏捷性能力向上にラダー運動は有効であると報告している。さらに大学生の バスケットボール選手を対象にした報告では、ラダートレーニングが新体カテストの測定項目に加え、方向. 変換走などの記録向上に有効であるとの報告もみられる。これらの報告は,それぞれ対象が異なるものの,. 116.
(8) 子どもの体力向上のためのラダートレーニングの有効性(その2). いずれもラダートレーニングによる敏捷性の向上を示唆するもので,その結果として反復横とび等の運動能 力の向上もじゅうぶんに期待させるものであった。本実験結果によれば,統制群においてPreとPostで有 意差がみられなかったものの,ラダートレーニングを導入した実験群においてのみ,反復横跳びにおいて有 意な向上がみられたことから,これらの報告を支持するかたちとなった。このようなラダートレーニングに よる敏捷性の向上をもたらす運動学的要因として,原田他(2007)は,運動中の接地時間の短縮を1つの要因 としてあげている。児童達の動きを実際に眺めてみると,はじめのうちは慣れないラダートレーニングにお いて,ラダーのマスの幅が広いと言っていた児童たちも,次第と運動に慣れはじめ,日常で行うことのない 横方向に対する素早いステップを機敏に行うことで,左右への動きもスムーズに切り替えられるようになっ てきた。ラダートレーニングは,その道動技能の高まりとともに,多くの子どもたちがその道動に興味・関 心を示し,いろいろな運動種目に対して積極的に身体を動かしながら,子ども同上で一緒になって楽しんで 取り組んでくれたことも,このような運動能力の向上につながったものと思われる。 本研究は,体育授業の中にラダートレーニングを導入することによって,スピードや敏捷性を高めること ができ,子ども達の体力向上に貢献できることを明らかにした。しかも本実験条件のように,1回のトレー ニング時間やそのトレーニング期間が短くても,その効果を認めた点についても注目していきたい。授業内 容の制約や時間的に余裕のない小学校においては,いくつかのラダープログラムを構築しながら,子どもの 遊びを兼ねて業間中休みに取り入れることも可能であり,今後は,体力向上プログラムの1つとして,その 普及に努めていくことの意義は大きい.. Ⅴ.まとめ 本研究は,小学6年生を対象に,週3回の体育授業において5種目で構成されるラダートレーニングを3 週間行い,その効果について検討した。その結果,トレーニングセッションが終了後,ラダートレーニング のすべての運動種目における技能の上達が認められた。このような運動習熟に伴って,20mダッシュや反 復横とびといった運動能力テストへの影響について分析した結果,ストライドの向上に伴う最大疾走速度の 向上ならびに反復横とびの記録の向上が認められた。これらのことからラダートレーニングが,スピードや 敏捷性を高める効果があり,子ども達の体力の向上を目指していく上で,有効なプログラムであることが明 らかにされた。. Ⅵ.参考文献 ・蒲真理子,伴野真一,宮口和義,鵜沢典子(2003):幼児期におけるアジリティーラダーを使用した遊びの検討.北陸大学 紀要27,13−23. ・原田剛,烏賀陽信央,金高宏文,山本正嘉:中学生女子バスケットボール選手を対象としたラダートレーニングの効果.ス. ポーツトレーニング科学8,5−12,2007. ・犬塚剛弘,原丈貴(2009):大学生バスケットボール選手の敏捷性能力に及ぼすラダートレーニングの効果.島根大学教育 学部紀要(自然科学)43,137−143.. ・松本拓,宮下憲,阿江通良,関岡康雄,森田正利,五十嵐幸一(1991)100m走における加速疾走局面から最大疾走速度到 達までの下肢の動作変化 日本体青学会大会号(44B),698. ・宮口和義,出村慎一,蒲真理子,鵜沢典子(2010):幼児におけるラダー運動の成就度の年代差・性差および走能力との関 係.スポーツバフォーマンス研究2,1−11. ・瀬戸口明浩,小松隆一,金高宏文(2008):小学生期の発育・発達に応じたハードル走の授業展開を考える,一体育に興味・ 関心をもち,自ら活発に運動をする児童を育てる授業づくりを目指して−.スポーツトレーニング科学9:57−62.. 117.
(9) 杉山 喜一・神林 勲・剛島 恒・横田 正義・前上里 直・須田 康之・及川 勝也・岡安多香子・佐々木貴子・野寺 克美・行徳 義朗・佐藤 和 ・杉山喜一(1986):長距離走の疾走フォームに関する運動学的研究.北海道体育学研究21,47−54. ・杉山喜一,神林勲,村田芳久,菅原克英(2006):女子長距離ランナーの疾走フォームに及ぼす運動学的要因.陸上競技研. 究25,2−8. ・杉山喜一,岡嶋 恒,神林 勲,岡安多香子,佐々木貴子,須田康之,横田正義,及川勝也,行徳義朗(2008):北海道の 子どもの体力・運動能力と生活実態,公開シンポジウム「北海道教育人学は学校・地域・家庭の教育力向上に貢献できるか, 45−52.. ・杉山喜 ▲,神林 勲,岡嶋 恒,横口正義,前上里 直,須口康之,及川勝也,岡安多香了一,佐々木貴了一,野寺克美,行徳 義朗(2013):子供の体力向上のためのラダートレーニングの有効性(その1).北海道教育大学紀要(教育科学編)63−2, 85−93.. ・杉山喜一,渡辺 啓,永井 純,関岡康雄(1998):100m走のスピード曲線にみられる疾走局面に関する因子分析的構造. 北海道教育大学紀要(自然科学編),49−1,24−28. ・山本 正彦,木村 瑞生(2011):10週間に及ぶラダートレーニングが一般男子大学生の敏捷性に及ぼす影響.東京工芸大 学工学部紀要34−1,27−32. ・安光達雄,野川春夫(2010):小学校における業間中休みを使ったコーディネーションプログラムの効果,−すばやい動き に着目して−.スポーツバフォーマンス研究2,233−245.. 付記. 本稿は,本学の平成22年反共同研究推進経費(代表者:札幌校教授横田正義)によるプロジェクト「子ども の体力・運動能力向上及び生活習慣の改善・確立を目指した具体的施策の検討」の成果の一部である。. 杉山 喜一(北海道教育大学岩見沢校 教授) 神林 勲(北海道教育大学札幌校校 教授) 岡嶋 恒(北海道教育大学岩見沢校 教授) 横田 正義(北海道教育大学札幌校 教授) 前上里 直(北海道教育大学札幌校 准教授) 須田 康之(北海道教育大学旭川校 教授) 及川 勝也(北海道教育大学附属旭川中学校 教頭) 岡安多香子(北海道教育大学札幌校 教授) 佐々木貴子(北海道教育大学札幌校 教授). 野寺 克美(北海道教育大学附属札幌中学校 教諭) 行徳 義朗(北海道教育委員会). 佐藤 和(東京大学身体運動科学研究室). 118.
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