1.研究の概要(要旨に代えて)
本稿では、Dewey の「探究の理論」を実践的に展開することとなる高等学校の「総合的な探 究の時間」及び望ましい集団活動を通しての生徒の自主的な活動を主軸とする「特別活動」に おけるいわゆる「主体的・対話的な深い学び」を実現する一つの方法としてのジグソー法の可 能性とその効果について考察する。その際に「協同学習」としての数種のジグソー法の特徴に ついて言及し、加えて我が国では現時点で顕著な実践例が報告されていないリバースジグソー 法(後述32参照)による大学教職課程科目「特別活動の理論と方法」での実践をもとに、 高等学校段階でリバースジグソー法を展開する可能性についても検討をおこなう。 また、高等学校「総合的な探究の時間」に想定されている探究的な学習が、前述の「探究の 理論」をタイプ3(注1)のプロジェクト(問題解決プロジェクト)として方法論化した Kilpatrick の「プロジェクト・メソッド」に原型を置くものと考えた場合に、問題解決プロジェクトとし てのこの時間にはタイプ1及びタイプ4プロジェクトにおける四つのステップである「目的設 定・計画・実行・評価判断」は想定されていないことになる(Kilpatrick, 1918, pp. 333334)。 その代わりにこの時間には思考分析のステップ(①疑問点の抽出、②疑問点の整理、③疑問点 解決の仮説設定、④推理による仮説の吟味、⑤調査・実験等による検証)が適用されることに なる(Dewey, 1938 ; 魚津訳,1968, pp. 491499)。こうして身につく「探究する力」が社会に 出たときの「生きる力」であることに着目し、「協調」ではなく「協同」の観点からこの問題 解決プロジェクトの上記①から④に至る段階にリバースジグソー法がどのように適用するかに【研究ノート】リバースジグソー法による
協同学習の可能性に関する一考察
上
藤 伊知郎*
A Study on Possibilities of Cooperative Learning
Based on“The Reverse Jigsaw Method”
(UEFUJI Ichiro)
*近畿大学教職教育部非常勤講師 〔キーワード〕協同学習、ジグソー学習、リバースジグソー法、 総合的な探究の時間、特別活動
ついて考えてみたい。 さらに「総合的な探究の時間」で想定される「探究」を Dewey による「探究の理論」の具 現化と考えれば、彼の「探究は、不確定な状況を統一され確定した状況に、方向付けられコン トロールされた仕方で転化させることである。」(Dewey, 1938 ; 魚津訳,1968, p. 504)との記 述はある意味この時間の目的であるとも解釈できる。この「探究」を社会構成主義的な学習と して成立させるには、「協同学習」が同じくマクロ的には「共同」の範疇であるいわゆる「協 調学習」とどのように区別されるかを明確にする必要がある。このため「協同学習」とされる 改良版を含むジグソー法と「協調学習」とされる知識構成型ジグソー法に言及する。
2.
Collaborative learning(協調・協力学習あるいは時として協働学習)とジグソー
法等の Cooperative learning(協同学習)
用語の問題としてではなく、初等及び中等教育における学習指導要領で「主体的・対話的な 深い学び」が強調されるに至り、教育界ではそれぞれの定義とグループ活動の実施方法に若干 の錯綜が見受けられる。Collaborative learning の「協調学習」と「協働学習」については、 前者が一時的なグループメンバーによるプロジェクト学習(一つの目的を達成する過程で互い に考えを出し合うことで完成を目指す)であり、後者は比較的長期的なグループ学習(複数の メンバーでともに協議を含めた種々の作業を行う)であると考えれば筋が通る。他方で Cooperative learning としての「協同学習」についてはその起点を Dewey の教育哲学にみることができる。 Dewey による民主主義教育理念のなかで、教室における民主的学習形態の一つとして彼が「協 同学習」を奨励したとみれば(杉田,2014,p. 51)、今の時代背景は大きく異なり自ずとその 「協同学習」の展開方法や目的にも相違点が存在する。しかし Dewey がそれを民主的学習形態 として見ていたことは後述する Aronson のジグソー法(以下オリジナルジグソー法)やその 派生型ジグソー法における教室の民主化にも影響していると考えられる。このように Dewey の教育哲学は、現代教育における民主的学習としての「協同学習」に教室の民主化という視点 を投げかけている。 加えて、この「協同学習」で重要となるのは、指導者としての教師の役割をどのように認識 するかである。その一つとしてはプロジェクト学習における教師の指導観がポイントとなる。 教師の指導的介入を極力避けるべき(ただし目的設定・計画・実行・評価判断の間の「舵取り」 は必要)とした Kilpatrick のプロジェクト観と、すべての段階に教師の指導が必須であると考えた Dewey の問題解決プロジェクト観との相違(上藤,2018,p. 17)に注目すべきである。 「協同学習」を実施する対象が大学生あるいは大学院生であれば Kilpatrick のプロジェクト観 もって、高校生や中学生では Dewey のプロジェクト観をもって指導することが重要となろう。 また長澤によれば、Vygotsky の「最近接発達領域(ZPD)」が社会構成主義的な教育観を前提 とした「協同学習」の場を考慮しており、その「協同学習」が実施されている教室では教師の 適切な声掛けによるスキャフォールディングは児童間で連鎖するという事実が確認されている (長澤,2016,pp. 8992)。この連鎖は「協同学習」を指導する教師の適切な助言といった基本 的な役割の遂行から始まっており、リバースジグソー法によって「特別活動」を指導する者と してもその基本的な役割の重要性を認識しておきたい。また「主体的・対話的で深い学び」に おいてはどのように教師が関わるべきかが焦点となるが、「協同学習」としてのジグソー法に おける教師の役割については Aronson が言及しているところである(31に後述)。 Collaborative learning(協調・協力学習)が学習者自体に各協議活動やそれを運営するファ シリテータとしても個人に対してそれほどの責任(それによって学習者の自主的学習が担保さ れると見られがちではあるが)を求めることはないのに対して、Cooperative learning(協同 学習)としてのリバースジグソー法では、混合グループ(オリジナルジグソー法ではジグソー グループに相当)における全員のファシリテートとトピックグループ(オリジナルジグソー法 ではエキスパートグループに相当)における責任ある協議・議論が要求されることになる。こ のため、この方法は大学の学部課程や大学院課程レベルのアクティブラーニングとされており (Hedeen, 2003, p. 330)、中学校段階での活用に関しては困難であると考える。 本稿においては、リバースジグソー法では受講学生又は高校生徒が活動の中でそれぞれが責 任をもって協議とファシリテーションを行うという点に着目し、Cooperative learning(協同 学習)としての議論を進めている。ただし、Collaborative learning と Cooperative learning の用語としての適用については種々な解釈が存在している状況ではあるが、「協同学習」と「協 調学習」には一定の区別が必要である。関田と安永によれば「協同」と「協調」との相違に関 して、 二人以上の者がことを行うもっとも広い意味が共同であり、特に心を合わせて助け合いな がら事を行う場合に協同という言葉が用いられるようである。(中略)また、 協調とは立場 の異なる者同士が何らかの問題解決のために連携し合う状態を指した言葉のようである。あ
えて言えば、協調とは立場の違いを残したまま協力し合うのであり、必ずしも心を合わせる かどうかは問わないところが協同と異なるのではないか。(関田・安永,2003,p. 16)
と考えることから、「共同学習」、「協同学習」、「協働学習」、「協調学習」の適用を差異化して いる。
さらに Collaborative learning と Cooperative learning に関して次のように述べている。 Collaborative learning(協調学習)とは協調作業が組み込まれた学習活動と考え、協調作業と は研究などで一つの成果を追求する事態でそのプロジェクトに立場や利害を異にする人々が参 加して一緒に学習を行う場合が想定される(前掲論文,p. 17)。 この点と現在我が国の初等教 育から中等教育において実践研究が進められている知識構成型ジグソー法が一つの問題に対す る解を深く学習することに焦点を当てていることから、これを「協調学習」としていることは ある意味において適切であると考える。 他方でジグソー法(知識構成型を除く)を含む Cooperative learning(協同学習)は、「教 育技法あるいは教授術(ストラテジーやテクニック)の一つとする考え方と、教育論あるいは 教育理念を具現化した教授法(ペダゴジィ)とする見方がある。」(前掲論文,p. 18)としてお り、またその教授術の観点から広義の定義として ①グループ全員の成長が目標とされる(互恵的目標設定) ②目標と達成条件をグループ全員が承知している(目標共有と個人責任の明確化) ③目標達成には構成員相互の協力、助け合い・貢献が不可欠である(肯定的相互依存関係) の三つを挙げている(前掲論文,p. 18)。 もう一方の教育論として捉える見方からは、「協同それ自体を文化的価値とみなして、 学習 活動を通してその価値の体現を目指す試みともいえよう。」(前掲論文,p. 19)と強調しており、 この点で手段的活動ではなく自己実現活動である「特別活動」の指導におけるジグソー法がま さしく「協同学習」であると本稿で考える根拠ともなる。 加えて関田・安永によれば課題遂行に際しての人間関係パターンは、否定的相互関係が「競 争」であることに対して肯定的相互依存が「協同」であり、「切磋琢磨し合う好敵手同士の関 係は、表面的な対立の奥で互いの成長を認め促しており、競争ではなく協同ととらえる必要が ある。」(前掲論文,p. 18)という見解である。 図1に彼らの論文より参考として最も広義な概念である「共同学習」の範疇で「協同学習」
と「協調学習」がどのような位置にあるか に関しての考えを表した概念図を示す。図 1の「協働学習」に関しては、「協調」と 「協同」両学習の重複部分から「協調学習」 の概念領域に傾倒しながらも「協同学習」 にもあてはまるとするこの考え方を本稿で は支持する立場をとっている。また図1で 各エリアが重複していることは、福嶋が彼 の論文のなかで述べていることと共通する 部分が多く非常に興味深いことである(福 嶋,2018,pp. 396397)。すなわち本稿における各議論には、根本的に「協同学習」と「協調 学習」を二分化する考え方ではなく福嶋が指摘するように類型論からの多元的な捉え方が最も 適していると考える。
3.ジグソー法について
以下にジグソー法を「協同学習」や「協調学習」の具体的方法として大きく三つに分類して おく。 31 Aronson によるオリジナルジグソー法と Slavin のジグソーⅡ法 Aronson によるオリジナルジグソー法(Aronson, 1997, pp. 3852)では生徒または学生に 必要な能力として読解力と理解力を要求しており、適する領域としては歴史、公民、地理等の 社会科領域であるとしている。一方で数学、国語、理科などでは新しい内容の学習ではなく通 常の学習方法で教えられた教材の再調整のために用いられているとしている。また対象とする 生徒については10歳以下でこの方法を勧めていない。彼らの授業実践を通した研究は、主に小 学校高学年を対象として進められたようであるが、彼自身「特に中学校や高等学校レベルのグ ループワークにおいては良好である。大学レベルでは授業外の時間の自分たちの都合でジグ ソーグループとして集まることができる。(注2)」(前掲書,p. 38)と述べており、大学レベルで の適用にも言及している。この方法の難点として彼は次の点を挙げている。積み上げられて成 り立つような題材について教師が各教材ジグソー部品を筋の通ったものにする必要がある。各 図1 共同、協同、協調、協働の概念 関田・安永(2003)を参考に作成教材部品は生徒がほかの部品を知らなくても その教材部品自体の内容を理解できるように する必要がある。これによって教師は教材作 成により多くの時間をとられることになると いうことであろう。また、カリキュラム的に は単発の教科時間でこの方法を適用するので はなく、ジグソーグループ自体は6週から10 週と長期的なスタンスで形成し、複数の教科・ 科目にこのジグソーグループを基にしたオリ ジナルジグソー法が実施されることを想定し ている。その間ジグソーグループが固定化されているのに対して、エキスパートグループはそ の教科・科目・単元ごとに別編成となり、これによってジグソーグループ間での競争意識を緩 和する役目も果たすことになるとも指摘している(Aronson, 1997, pp. 3943)。 このオリジナルジグソー法のグループワークを図2に示すが、次に述べるジグソーⅡ法も手 順的には一部を除いてほぼ同様である。 また、Aronson はこの後に述べる進行役としての教師の役割の重要性とともに、生徒のリー ダーシップの重要性を認めている。前述のように彼は同一クラスの複数教科を対象としたオリ ジナルジグソー法で比較的長期に同じメンバーのジグソーグループ継続を想定しており、ジグ ソー活動を始めるにあたって責任を果たすことが可能な頼りになる生徒をリーダーとして教師 が選出するとしている。そして、そのジグソーグループのリーダーにはリーダーとしての訓練 が必要で、教師は授業時間以外で彼らに対しジグソー活動の説明をし、リーダーの役割につい て生徒たちと話し合うことを勧めている。これによっていったんジグソーグループのリーダー が確立すれば、その後に教師が継続的な支援を続けることで活動はスムーズに進行するとして いる。しかし、Aronson は学年を通して各生徒にグループリーダーの訓練を受ける機会が与え られることを強調しており、長期的にはこのジグソーグループのリーダーとなる責任を全員に 分散させることを勧めている(前掲書,p. 48)。 一方でエキスパート活動については「エキスパートグループは日ごとに構成員を変えて活動 を行うために、そのなかではリーダーをもつことが重要となる。(中略)その日の協議活動の 前に教師がエキスパートリーダーを選んでクラスに告知することを推奨する。(注2)」(Aronson, 図2 オリジナルジグソー法
1997, pp. 4344)と述べており、このエキスパート活動での生徒のリーダーシップもかなり重 要であることを指摘している。 もう一点 Aronson が重要とした教師の役割に関しては彼による興味深い以下の記述がある。 「学習することの責任が教師から生徒に移行することは刺激的である。(中略)教師の役割は生 徒に情報を注ぐことではなく、学習における庭師であることであり、学習にふさわしい雰囲気 と環境を構成することである。(注2)」(前掲書,p. 46)この記述はまさしく Vygotsky の教育心 理学的教育観である。彼によれば教育は生徒を教えるのではなく生徒自身によって教えられる ように組織されるべきであり、教育の過程において教師はレールであり、その上を生徒が自由 に自主的に動くものでなければならない。園芸家がある植物の成長に影響を与えようとして土 から直接引き抜こうとすることが非難されるように、教師も子どもに直接に影響を与えようと するのは教育の本質ではない。園芸家が温度湿度を管理し、土や肥料の調合で間接的に環境を 適切に変化させることで花の発芽に影響を及ぼすように、教師も環境を変えることで子どもを 教育する。また教師自体もその環境であるなどと教育を捉えており(Vygotsky, 1926 ; 柴田・ 宮坂訳,2003,pp. 2627)、これらは前述の適切な教師助言によりスキャフォールディングが 連鎖したとの見解(長澤,2016,pp. 8992)と呼応するものである。結果として多くのジグソー 法ではグループリーダーが教師からの質問や文言を模倣することで、グループ活動の効果的な 展開へとつながることになる。これらの記述は、「協同学習」における教師の役割を如実に表 している。 ここで、本稿のテーマであるリバースジグソー法の適用考察に対して、後述(43参照) するいくつかの改良情報が含まれると考えられるジグソーⅡ法について言及しておく。このジ グソーⅡ法は、オリジナルジグソー法の修正版として Slavin によって考案された「協同学習」 の方法である。以下にその概要とオリジナルジグソー法との比較を Slavin の記述( Slavin, 1995, pp. 122128)から要約する。 ジグソーⅡ法は対象の題材資料が文脈のある記述形式の説明的なものであれば使用が可能で、 学習の目標がスキルではなく概念の理解である場合が最適であるとされており、次の手順で実 施される。 READING 全体教材テキストとエキスパートシート(専門トピックシート)の配付と各生徒に対するト ピックの割り当てを行う。この教材は宿題として割り当てる場合があり、最初にその教材テキ
ストを読んでからエキスパートシートを配付することを可とする。 EXPERT-GROUP DISCUSSIONS 同じエキスパートのトピックを担当する学生でグループを形成させ、そのトピックについて の協議用アウトライン資料を配付する。各エキスパートグループに協議リーダーを任命し、グ ループでそのトピックについて協議を行う。 TEAMREPORT 生徒はもとのチームに戻り、それぞれのトピックをチームメイトに教える。 ここでエキス パートグループでのリーディングや協議からトピックについて学んだことすべてを論評するの に各々が約5分を費やす。その後に協同学習者が各エキスパートに質問をし、次の TEST の準 備を確認し合う。 TEST 各トピックに関する質問用紙を配付し十分な時間をもって解答させ、他のチームと交換し生 徒自身で点数を付ける。 以上のような手順でジグソーⅡ法は実施されるが、Slavin 自身「Aronson のオリジナルジ グソー法はほとんどの点でジグソーⅡ法に類似している。(注2)」(Slavin, 1995, p. 126)と述べる 一方でいくつかの重要な違いを挙げている。オリジナルジグソー法では協同学習者が読んだ教 材部品とは違う部分を読むことになるため、エキスパートが独自の情報を所有するメリットが ある。これによって協同学習者のエキスパート担当者に対する依存度は高くなり、チームでは 各メンバーの貢献度が高く評価されることになる。また、オリジナルジグソー法では最初の段 階でのリーディングが研究されるべき主題単元の一部分のみであり、ジグソーⅡ法よりも短時 間で実施可能である。ただしオリジナルジグソー法では前述のごとく主題単元の一部分である 各教材部品がそれ自体で理解できるように教材を作成しなければならないという点が難点であ るとしている。要するにジグソーⅡ法とは違いオリジナルジグソー法では既存の資料をそのま ま教材として適用することは不可能であり、題材をジグソー法の様式に合わせて書き替える必 要があるということである。それに対してジグソーⅡ法ではテキストを分割し、それ自体では 完結せずともそのまま教材化することができる。さらに、ジグソーⅡ法はすべての生徒がすべ ての資料を読むことで、統一された概念の理解を容易にすると指摘している。 リバースジグソー法の考案者である Hedeen が指摘するもう一点のジグソーⅡ法の特徴は、 「グループメンバーによるテスト点数改善の競争的要素を追加している。(注2)」( Hedeen, 2003,
p. 326)ということである。これは Aronson が教室の民主化を目的とし、学校における個人の 競争的文化を排除することを念頭に置いたことからは逆行する感も否めないが、 友野は「(ジ グソー)Ⅱが競争的要素を取り入れたのは、生徒に動機付けを与える方法としてはやはり競争 が有効であるとの判断によるものと推測できる。」(友野,2016a,p. 54)と述べている。また 前章で紹介した関田・安永による「切磋琢磨し合う好敵手同士の関係は、表面的な対立の奥で 互いの成長を認め促しており、競争ではなく協同ととらえる必要がある」という見解にも合致 する。ただし、次に述べるリバースジグソー法に、この競争的要素をあてはめることは適して いない。 32 リバースジグソー法 リバースジグソー法は Aronson らのジグソー法(「協同学習」としてのオリジナルジグソー 法を含めその派生改良型ジグソー法)に関する様々なレポートをもとに、大人や大学での「協 同学習」の方法として参加者の積極的な関与と相互依存の要素を統合し、協力や議論を通して 学習を促進させる方法として、Hedeen により考案された学習方法である。以下に彼の論文(Hedeen, 2003, pp. 327329)よりリバースジグソー法の概要と特徴を要約する。 基本的にジグソー法が教師の用意した教材を学生(生徒)が理解するための仕組みであるの に対し、このリバースジグソー法はジグソー法と同じグループ構造をもちながら、参加型の構 造を通してトピックについての多くの認識及び判断などで解釈範囲を広げることを目標として いる。以下はその実施手順である(図3参照)。 学生は四つ(場合によっては三つまたは 五つ)の混合グループに集まり、各学生に は四つのシナリオまたはジレンマについて のそれぞれに関する質問、複雑な問いかけ やヒントが配られる。ここで、それぞれに 与えられたトピックや質問についてそれぞ れがファシリテータとなることによって協 議を運営し、混合グループの各メンバーは それらの要点や成果を記述する。 混合グループで四つのシナリオがすべて 図3 リバースジグソー法 (出典:Hedeen, 2003, p. 328)
協議された後、学生はトピックごとのグループに集まり、混合グループでの特徴的な意見を共 有することで共通なしかも多様なテーマを識別する。 ここで各トピックグループにこれらの テーマについての口頭発表やその資料の準備をさせておく。 クラス全体が大きなグループとして集まり、各トピックグループから1名の報告者からクラ ス全体に対して発表を行う。 Hedeen によると、上記で述べられたトピックグループでのレポート準備時やそれぞれの プレゼンテーション構築場面で行われる情報収集作業により、学生間の権力関係は非集中化し 教室の民主化が促進されるとしている。また、このリバースジグソー法は次の二つの使われ方 が彼によって実践されている。第一の方法は講義のテーマや焦点に関する四つのケーススタ ディをトピックとした学習である。この場合、関連はあるものの各トピックは独立しており、 トピックグループではそれぞれのトピックに関する独立した協議が行われることになる。第二 の方法は一連の質問を通してより深く、なおかつトピックの異なる側面を探究する場合である。 この場合は大きな協議テーマに関して三つないしは四つのトピックがつながったシナリオとし て提供される。そして混合グループではより多様な意見が求められ、協議テーマやトピックを 多角的に考察していくことになる。今回このリバースジグソー法の適用の可能性を検討する高 等学校の「特別活動」や「総合的な探究の時間」では、後者が適していると考える。 オリジナルジグソー法等では、エキスパートグループでの見解が、活動における中核部分で あるその後のジグソーグループにおける協議に影響する。しかしリバースジグソー法では、反 対に混合グループ(ジグソーグループ)での協議がトピックグループ(エキスパートグループ) におけるそれぞれのトピックに関する協議の参考となる。すなわち、混合グループで各シナリ オの説明を受けたそれぞれの担当者がグループに集まることで、様々な考え方やトピックを背 景としたそのトピックグループのテーマについて考察していくことになる。 このリバースジグソー法の特徴として、Hedeen の論文より以下の8項目を挙げておく。 ①参加することを通してそれぞれの参加者同士が敬意と責任をもとにして進められる多くの方 法の一つである。 ②参加者それぞれのスタイルや意見の差異を幅広く表現する機会が提供されている。 ③すべての参加者(学生・生徒)に対してワークと責任を均等に分担させる。 ④最終的な正解を要求しないオープンクエッションに対する協同的な学習方法である。 ⑤参加者全員の相互依存と交流を根拠として協力を促進させる。
⑥問題への考察と分析は参加者全員に依存し、このために経験と批判的考えが尊重される。 ⑦不確実性、不一致、多様性を安全に保障する民主的空間が前提である。 ⑧学部や大学院だけではなく専門的な開発トレーニングやセミナーにも適用できる。 またそれぞれのトピックがその中で完結しているとはいえ、各トピック間には一定の共通項 目(Hedeen による下記様式では“X”)をもたせることが重要なポイントであると考えられ、 これを実現するために Hedeen は自身の論文の中で、リバースジグソー法で設定するトピック の様式を次の①から④と提案している。 ① “Why do X ?”(どのような必然性でXを行うのか) ② “How to do X ?”(どのようにして Xを実行するのか) ③ “Why not do X ?”(それでもXを行わない理由は何か),or“In what situations would X not be advised ?”(どのような場合にはXが望まれないのか) ④ “Give an example”(上記に共通するXの例はどのようなものがあるか) リバースジグソー法ではどのようなトピックをシナリオとして設定するかがキーポイントで あり、今回の大学教職課程での演習においても上述の様式を踏襲している。またオリジナルジ グソー法がグループにリーダー一人を要求することに対し、全構成員が協議を主催することに なるリバースジグソー法の特徴も重要なポイントである。 33 知識構成型ジグソー法について 標記のジグソー法は、前章で述べた Collaborative learning(協調学習)として大学発教育 コンソーシアム( CoREF )により2011年に東京大学の三宅らの研究から広められた学習方法 で、現在我が国の教員がジグソー法を想定する場合に多くの場合この知識構成型ジグソー法を 対象としているものと考える。この知識構成型ジグソー法は当該コンソーシアムによって全国 の小・中・高等学校との連携研究が進められている。各地で同様の授業実践研究は増加する傾 向にあり、2017年と2018年に実施された東大阪市立若江小学校における一連の授業実践も、上 藤によって導入の提案がされたこの知識構成型ジグソー法を活用するものであった(注3)。 この学習法では、学習手順として Aronson のオリジナルジグソー法を用いているが、その 目的自体が「協同学習」であるオリジナルジグソー法を含め従来のジグソー法とは異にしてい る点で興味深い。友野によれば、「協同学習」としてのジグソー法で重要視されている参加生 徒のコミュニケーション能力の養成やグループとしての活動活性ではなく、ジグソー法の仕組 みを利用することで授業の中心的課題における「協調学習」を通じた知識の構成に焦点を置い
ている学習方法であるとしている。すなわち三宅自身や友野が評価しているように、知識の構 成を助けるきっかけや動機を助長する仕組みをグループワークに提供し、個人の理解の深化を 最大の目的としている方法と考えることができる(友野,2015,p. 7)。具体的には、一つの問 題の正解を構成する三つの課題をエキスパート資料として与え、その三つの答えが合わさって 正解を求めるときにそれぞれのエキスパート担当者の説明に依存し、ジグソーグループで教え 合うことで理解の深化を図ろうとするものである。このためにこのジグソー法実施の前後に問 題に対する生徒個々の解答を求めており、生徒自身が前後の解答を振り返ることでより深い学 びとなるように設計された組織的かつ体系的な「協調学習」の方法であると考えられる。しか し、考え方の多様性を生かすという意味においては「協同学習」であるリバースジグソー法と の共通点も内包している。 三宅らによれば「協調学習」は「協調による個人の理解深化」(三宅・齋藤他,2011,p. 449) の過程であり、知識構成型ジグソー法については「建設的相互作用を活用して知識構成を支援 する」(前掲論文,p. 448)と述べている。ただし、コミュニケーション能力の発揮をその前提 と考え、それぞれの多様性を生かす環境によって建設的相互作用が担保されるとしている点で は、上述の多様性の観点も含めてあながち個人の学習・理解の深化のみを到達点とはしていな いようにも考えることができよう。既に2章で言及したように「協調学習」を多元的に捉えれ ば、知識構成型ジグソー法とそれ以外のジグソー法におけるある種の対立構造は自ずと解消さ れる。
4.教職課程科目におけるリバースジグソー法の実践
41 課題設定の理由とその経緯 教職課程科目である「特別活動の理論と方法」では、講義の前半での理論展開を踏まえて後 半日程に中学校及び高等学校での「特別活動」における3領域(学級・ホームルーム活動、生 徒会活動、学校行事)に関するロールプレイをここ数年来実施している。そしてこのロールプ レイの第3回目が学校行事である卒業証書授与式に関するホームルーム指導を題材としている。 実施前に学生に示すテーマとしては、高等学校第3学年で外国籍生徒が在籍するクラスにおけ る卒業式前のホームルームでの国家斉唱指導である。学生がグループである程度シナリオを作 成する際の参考資料としては、高等学校学習指導要領解説特別活動編の国歌指導に関する解説 (文部科学省,2009a,p. 80)を配付している。この科目の講義内容として、これまでは「特別活動」の理論展開に加え評価と学習指導案の 作成についてと、 中学校や高等学校での「主体的・対話的な深い学び」とされるアクティブ ラーニングの各種方法を扱っていたが、実際にその方法を演習する十分な時間が確保できない ことでそれぞれの方法を紹介する程度にとどまっていた。今回はこの点に関してリバースジグ ソー法による高等学校の卒業証書授与式における教職員の行動について教員を目指す学生自身 が考えることによって、前述のロールプレイを行う上でシナリオ作成の根拠を与えることがで きるのではないかと考えた。 大学教職課程の「特別活動」関係科目(文部科学省,2009b )におけるこのいわゆる「卒業 式などにおける国歌斉唱問題」をジグソー法で扱った先行事例は、2016年にオリジナルジグ ソー法の実践として報告されている(421参照)。一方で中学及び高等学校の「特別活動」 に関しては、小学校から高等学校に至る各教科・科目で近年広く実践されている知識構成型ジ グソー法ではなく、Aronson によるオリジナルジグソー法が取り入れられてきている(東京都 教育委員会,2012,pp. 921)。この点に関しては「特別活動」の特質を考えた場合、ある知識 の獲得を目指す手段的活動よりも活動すること自体に意味があり、学習それ自体によって充実 感をもつことを目標とする自己実現活動であることから、知識構成型ジグソー法はこれに適し ていないことは明白である。他方で大学の専門科目においてはその講義手法として知識構成型 ジグソー法を用いることはそれなりに有用ではある。しかし今回対象とした講義では、一つの 答え(あるいは正解)を深く学ぶということではなく、より多くの意見を参考とし、自分自身 の意見に取り入れ、あるいは批判的意見を構成することで多面的に問題を捉えることが目標で ある。そしてこの様々な考え方をその後のロールプレイに活かすことが目的であるために、敢 えてオリジナルジグソー法やその派生方法ではなくリバースジグソー法を用いた。 なお、今回の大学教職課程での実践では、Hedeen が実践した第二の方法(32参照)であ る一連の質問を通じて単一のテーマを多角的に探索する方法を用いた。 42 大学教職課程における先行研究および本実践の特徴 今回の実践とはその問題点に対する焦点の当て方や扱い方を大きく異にしているが、比較す るために先に触れた先行事例としての友野によるジグソー法の実践事例に言及しておく(友野, 2016b,pp. 6162)。この事例では題材として東京都立高校での卒業証書授与式における国歌斉 唱を実行しなかった教職員の再任用拒否に関する問題についての2011年最高裁判所上告審判決
を題材として、ジグソーグループを4人で形成し、エキスパート資料を以下の4資料として検 討させている。 ①事実関係と上告人(裁判を起こした教職員)の主張 ②裁判所の多数意見と判決の結論 ③裁判所内における多数意見に対する反対意見 ④裁判所内における多数意見に対する反対意見 この友野の実践では、オリジナルジグソー法との記述はないが論文内容からはこれが受講生 に対する一連のジグソー法実践の最終回の取り組みであることから、Aronson が提唱したよう な長期の同一ジグソーグループを活用した基本的なオリジナルジグソー法を用いたと考えられ る。 ここで友野のエキスパート資料の構成を後述するリバースジグソー法を用いた本実践におけ るトピック構成と対比すれば、本実践は友野の実践とは大きく異なったものであることが以下 に述べるとおり明確である。本実践で報告するリバースジグソー法では、題材として広島県立 学校教職員が友野の実践とほぼ同様の卒業証書授与式における国歌起立斉唱拒否に対する戒告 処分取消請求案件の2011年最高裁判所上告審判決を選定した。演習講義の概要については次の 43に述べることとするが、このリバースジグソー法演習は高等学校の「特別活動」に関す るロールプレイ演習の前段となっている。もちろん友野のジグソー法実践とはジグソー法その ものが異なるが、取り扱う題材の大枠自体は類似している。しかし、友野の場合が実践目的を 「学習者がより主体的に,協同的に学ぶことで内容の理解を深めることが目的である。」(友野, 2016b,p. 54)とし、事件の概要、判決の内容(結論と理由)、反対意見の内容理解をジグソー カードとしていることに対して、本実践ではその事案や判決の内容を理解することそのものを 目的としていない。学生が事案と判例を通して様々な考え方や生き方のスタイルを意見として 受け入れ、多角的にいわゆる「間接的な制約」について学生が探究することにより次のロール プレイに深みを出すことを最大の焦点としている。このためにもオリジナルジグソー法ではな く批判的意見も含め多様な意見がクロストーク段階で重要となるリバースジグソー法を敢えて 用いている。
43 実践の内容 具体の演習目的 以下のような目的で本演習を実施した。 ・この演習の後に予定されている講義(演習)内容である学校行事に関するホームルーム指導 のロールプレイ実施に向けて、各自が儀式的行事における学習指導内容の根拠を考える。 ・混合グループで全員が担当トピック協議の推進リーダーと、他者トピックの協議参加の両方 に責任をもって務めることで、それぞれがグループ学習におけるリーダーの役割を確認する。 ・リバースジグソー法を通して、一つの問題に関して多様な意見があることを理解する。 ・「特別活動」の指導者として、思想及び自由に対する「間接的な制約」を考察する。 ・「協同学習」としてのリバースジグソー法を経験し、 教育現場における展開の可能性を各自 が考える。 演習時の資料 全体配布資料 ・最高裁判決概要(約2,300字) ・参考資料:東京都立学校教員の場合における上告審判決文抜粋(約1,500字) トピック資料 トピックとしてはリバースジグソー法のトピック様式にほぼ従う形(32参照)で次の三 つの問題を設定している(Hedeen は四つのトピックを想定しているが)。それぞれのトピック に関して判決解説文の関連部分の抜粋を1,800~2,000字程度トピック用紙のそれぞれに記載し ている。 ①トピックA:「なぜ卒業式で教職員の思想及び自由についての間接的制約があると判断す るのか(どのような理由で裁判所はその制約が存在すること自体は認めているか)」:“Why do X ?”(32 Hedeen によるリバースジグソー法のトピック様式参照) ②トピックB:「思想及び自由について間接的な制約がどのような場合には許容されると判断 しているか(どの場面でその制約は公に職務命令として認められる範囲であるとするのか)」: “How to do X ?” ③トピックC:「どのような場合に間接的な制約が許容されないと一部の裁判官が意見してい るか」:“In what situations would X not be advised ?”
その他の配付物 ・協議用アウトライン資料 ・担当トピック解答用紙(混合グループ協議記録用紙を兼ねている) ・トピックグループ協議記録用紙(発表メモ用紙を兼ねている) ・振り返り用紙 演習の進め方 このクラスのほとんどの学生にはジグソー法自体についての予備知識もなく(知識構成型ジ グソー法を除く)、 ましてやジグソー法の改良版で演習を行うことは説明していない状況で実 施することにした。この理由として、中高の「特別活動」で実施することが望ましい授業方法 としてのオリジナルジグソー法に関する紹介を講義題目として講義日程の最後半部に予定して いることもあり、敢えてこの演習がジグソー法であるということを知る必要はないと考え、こ の時点ではジグソー法やリバースジグソー法自体についての説明を省略している。 ◎第1回演習(90分) 後日予定している高等学校第3学年の卒業式に向けたホームルーム指導に関するロールプレ イの参考として、学校行事における儀式的行事指導の問題点と現状を説明することから演習を 始めた。(約10分) 三つの混合グループを各3人で構成させ、全体資料と補足資料を配付し、その内容を説明し た後でそれぞれの混合グループ内でトピックAからCの分担を決定させる。 この時点で各ト ピックが何を問題としているかは不明にしている。また、全体資料の配付に先立って、取り扱 う最高裁事案の概要を口頭で説明している。(約10分) それぞれが各トピックの検討に入る前に、本件判決にたびたび登場する卒業式等における教 職員の思想及び自由に対する「間接的な制約」とはどのようなことを指しているのかについて 全体で検討をおこなった。(約10分) 判決で述べられている「間接的な制約」をそれぞれが理解することが前提となって、各担当 のトピックについて考察し担当トピック解答用紙に意見を記録する。(30分) この後に混合グループ内でAからCのトピックについて、それぞれの担当者が司会すること で3回の協議を実施した。(10分×3回=約30分) ◎第2回演習(90分)
前回の演習内容の振り返りと今回の内容の説明。(約10分) 三つのトピックグループに再編成し、それぞれのトピックについて混合グループでの協議結 果を踏まえて検討し、トピックグループ協議用紙に記入。(約30分) 各トピックグループで代表者を決定し、それぞれのトピックについて全員に口頭による説明 を実施し、 質疑応答を行った。(5分×3グループ≒約20分)この質疑には授業者からも質問 を行っている。 授業者による三つのトピックについての解説を実施した後でジグソー法とリバースジグソー 法についての簡単な説明を行い、 最後に振り返り用紙にて演習全体の振り返りを行った。(約 30分) 44 振り返りにみる受講学生の意見 ・トピックC担当であったが、AとBの発表を聞いてトピック間に難しさのばらつきがあった と感じた。 ・リバースジグソー法が難しかったというよりも、題材自体がかなり高度であったと考える。 ・トピックグループでの協議時に、同じ資料を担当して同じ文章を読んでいるのに、それぞれ の解釈がここまで違うのかと驚いた。「自分はそうは思わないな」と感じるものもあれば、 「確かにその考え方もできるな」と思うものもあって興味深かった。 ・混合グループでの協議では、ファシリテートする各トピック担当者の意見に影響を受けてし まい、自分の意見が出しにくい。 (上記の二点ではリバースジグソー法の目的である批判的意見の尊重〔Hedeen, 2003, p. 331〕 がこの点で良好に行われているグループとそうでないグループがあった) ・他学年、他学部の人が多かったので授業内でしか話し合うことができなかった。講義時間外 にでも話し合う時間をもう少し多くとれば、もう少し面白く頭を悩ませることができたと思 う。 (この点に関しては、大学レベルでは授業外に集まり話し合うことができるという前述の Aronson の考え方と逆行した結果となっている) ・回を重ねるとうまく機能するかもしれないと思った。 (この点に関しては、Aronson がジグソーグループを短期ではなく長期的な集団として機能さ せることを前提としていることが当てはまるようである)
・先にトピックごとに集まらなかったおかげで、自分の意見を言うために考えることができた。 (この点はリバースジグソー法の恩恵であろう) ・混合グループでそれぞれが自分とは違う観点から課題を捉えているので自分自身なるほどと 思うことが多かった。 45 リバースジグソー法演習の成果と課題 今回のトピックそれぞれがかなり高度な内容であり、一般のジグソー法であればエキスパー ト活動の後でジグソー活動があり、それぞれのトピックの深化が図られやすいが、リバースジ グソー法では初めの混合グループにおけるトピック担当者以外の者からはその内容故に意見が 出にくい状態であった。実施対象の学部が自然科学系の学生でもあり、今回のような抽象的と もとれる判決文の理解が個人差もあるが困難であったようであり、混合グループでの協議で自 分が担当するトピックの説明自体にかなり苦慮していたようである。 また、トピックグループからの発表時にメモを読む形で発表したグループがあった。記述さ れた文章を読んでも、他のトピックグループの学生にはその説明内容は伝わりにくく、原稿を 読まずに身振り手振りあるいは板書等をまじえて説明するスタイルが望まれていた。そのグ ループの担当トピックがAで、三つのトピックの中では一番の難易度の高さであったことが原 因とも考えられる。このトピックについては「なぜ間接的な制約があると裁判所は判断するの か」という問いかけの趣旨は、その「本件職務命令では憲法上保証されている思想や自由に対 する制約がある」との原告側の主張を却下する方向の判決を下そうとしている裁判所が何故原 告側のその主張を一部であるにしろ認めたのかというところにあった。このトピック担当の学 生にはその点の理解が困難であったようである。発表者が学部低学年の学生であったことも影 響した可能性があり、様々なグループ協議活動を経験している比較的高学年の学生ではこの現 象は見られなかった。この点に関しては授業者側の課題でもあり、Aronson による授業者の事 前指示に関する以下の記述はこのリバースジグソー法にも当てはまることを認識しておく必要 があった。「技術的な専門分野の報告では、指示を学生が受けていない場合においては報告自 体が過度に詳しすぎたり逆に貧弱であったりしがちである。報告の複雑さにおける適当な度合 について小講義を行うことは重要である。(注2)」(Aronson, 1997, p. 38) リバースジグソー法で特に重要であると考える部分は、各トピック担当者が混合グループに おける担当者以外からの多角的な意見を取り入れることであると考えるが、受講学生の振り返
りにもあったように、この部分で混合グループの協議がうまく機能していないグループがあっ た。この時点で授業者として各混合グループに助言を行うことになったが、いみじくもこの点 に関しては Hedeen によって「インストラクターはグループにおける協議の間、説明や援助を 提供するために“float”している必要がある。(注2)」(Hedeen, 2003, p. 330)と指摘されている ところでもある。 グループでのスコアを競わせることは全くそぐわないが、今回のようにかなり難解な題材の 場合は、ジグソーⅡ法の特徴として Aronson が挙げているように(Aronson, 1997, p. 17)、 事前に全トピックを全員に公開してから(三つのトピック資料のリーディングをホームワーク とする等)進める方法をとれば、第一段階である混合グループでの協議が活発なものとなった と考える。また、今回のトピック作成にはかなりの試行錯誤を要したが、ジグソーⅡ法の形式 を取り入れることは、リバースジグソー法における各トピックや質問が密接な関連性をもたせ て作成しなくてもよくなるという利点があり、この点からも改善の必要性は大きい。
5.リバースジグソー法の「特別活動」と「総合的な探究の時間」への展開
既に述べたように Aronson によるオリジナルジグソー法は「協同学習」の方法として、し かも単発ではない比較的長期間のジグソーグループの形成を想定し、その固定されたジグソー グループで複数の題材に対応することを前提としている。この理由もあって中学校と高等学校 の「特別活動」における「学級活動」及び「ホームルーム活動」の指導でオリジナルジグソー 法が現在実践されてきている(注4)。Aronson の想定教科である社会科では手段的活動の側面も 持ち合わせることになるが、「特別活動」ではその「協同学習」自体が重要である自己実現活 動により重きを置くことになる。この意味においては、全体協議活動でクラス全体としての一 定の方向性を出すことよりも、多様な考え方を理解し、どのように全員が考えているのかをク ラス全員が認知することに授業目標をおく場合ではリバースジグソー法が有効であろう。 高等学校「総合的な探究の時間」に関し、「学びに向かう力と人間性等については、 自分自 身に関すること及び他者や社会との関わりに関することの両方の視点を踏まえること」(文部 科学省,2018,p.34)が留意点として挙げられているならば、混合グループにおける担当トピッ クに対する他者の広くあるいは批判的な意見を参考とするリバースジグソー法は適していると も考えられる。加えて、この時間が想定している国際理解、情報、環境、福祉・健康などの現 代的な諸課題、生徒の興味・関心に基づく課題、職業や自己の進路に関する課題などを題材とするならば、前述の「特別活動」と同様のことは考えられる。特に探究に協働的に取り組むこ とを通して、より良い社会を実現するため互いの良さを生かしながら新たな価値を創造するこ とを特徴的な目標としている(文部科学省,2018,p. 11)この時間では、意見の多様性を認識 することがその重要な学習過程であるリバースジグソー法は有効な学習方法となりうる。反面、 既に述べたようにリバースジグソー法では前半の混合グループ活動において全トピック担当者 が自分のトピックに関しての協議を進める役割をもっており、今回の大学生での実践において さえも学生の個人的なスキルと経験に左右されてしまう状況が見受けられたことから、高校生 段階でこの方法が有効性を発揮できるかについては疑問が残る結果となっている。 題材とト ピックの設定如何にもよるが、おそらく中学校の「特別活動」や「総合的な学習の時間」では 有効性を確認することは困難であろう。一方で高等学校での活用のキーポイントとしては、こ のリバースジグソー法を実施する以前の長期的なオリジナルジグソー法の展開が実現できるか どうかであろう。すなわち、高等学校ではリバースジグソー法は単独で用いるべきではない。 年間を通じたオリジナルジグソー法の経験を経てクラス全体にグループリーダーの素養をもつ 生徒が創出されれば、ほぼ全員がトピック担当者として混合グループで自分のトピックに関す る協議を主催できる。なおかつトピックグループをも含めてそこで行われる協議にほぼ全員が 責任をもって臨めるようになる。このためオリジナルジグソー法等の「協同学習」が浸透して きているクラスの学年後期に用いられることは十分に可能であると考える。
6.まとめ(結論に代えて)
今回の学習指導要領改訂でも強調されている三つの学力が、 それぞれ重なりのある関連を もっていることに異論はない。しかし、これまでの学習評価に関するそれぞれの観点の重みは 「知識・理解」に傾きながらも各教科・科目の各単元に異なった設定がなされたことを鑑みれ ば、「特別活動」はいうに及ばず高等学校「総合的な探究の時間」においても「学びに向かう 力・人間性等」が評価対象学力の中心となる場面が必ずや存在する。これ故に Aronson のオ リジナルジグソー法が適用されるごとき比較的長期間に活動を共にするジグソーグループを基 盤としたグループ学習は、1年間のホームルーム活動における「学びに向かう力・人間性等」 の向上に対応することができる。一方で、学習の目標がスキルではなく概念の理解である場合 に最適であるとされるジグソーⅡ法(31参照)の一部を取り入れたリバースジグソー法は、 一つの結論で解決できない社会科学的課題を探究課題とした「総合的な探究の時間」の冒頭で述べた探究過程に於ける①疑問点の抽出、②疑問点の整理、③疑問点解決の仮説設定、④推理 による仮説の吟味に適用することができよう。ただし、グループにおける特定生徒のリーダー シップを求めない反面でリバースジグソー法が責任をおしなべて取り組む生徒全員に課し、全 員にファシリテート能力を要求するといった点に関しては、高等学校段階での適用を困難化す る可能性は否めない。この問題点に対処する方法を最後に提案しておく。他教科との横断的な 学習を前提とする「総合的な探究の時間」ではもちろん「特別活動」との融合的かつ横断的な カリキュラムの実施が望まれる。ここに結論的な提案として敢えて繰り返すが、この「特別活 動」との連携といった観点から、リバースジグソー法を「総合的な探究の時間」に用いる以前 (もしくは並行して)に「ホームルーム活動」を学年当初よりジグソーグループを導入したオ リジナルジグソー法で継続的に指導することが前提条件となるものと考える。この長期的なジ グソーグループによる活動よって、生徒たちの多くがグループリーダーの素養を身に付けるこ とになる。これが高等学校段階でのリバースジグソー法の展開を容易にする。また、各種ジグ ソー学習法(知識構成型ジグソー法を多元的に見た場合には部分的にこれを含む)による「協 同学習」の成否の大部分は、既に31にて述べたことであるが、Vygotsky や Aronson が主 張するように、その教育環境を組織することで教師がどれだけ園芸技師になりきることができ るかにその担保が大きく左右される。学校の教育現場で「協同学習」を進める上では、指導者 がこれらを認識し確認しながら実践に取り組むことが必要であるとの提言をもって本稿を締め くくることとする。 注 (注1)Kilpatrick はプロジェクト・メソッドを四つのタイプに分類している。タイプ1はも のづくりや演劇上演などのアイデアや計画を外部に具体化する形態。「目的設定・計画・実 行・評価判断」の4ステップが提案されている。タイプ2は審美的経験(物語や交響曲を聴 く、絵画を鑑賞する等)を楽しむことを目的とするプロジェクト。タイプ3は問題を解決す るために、そこに介在する知的困難を平易にするプロジェクト。先行する Dewey や McMurry の問題解決型学習を取り入れた。タイプ4は特定の項目や知的なスキルの習熟、知識の習得 を目的とするプロジェクト。このプロジェクトの目的が特定の知的スキルと関係している場 合は、「目的設定・計画・実行・評価判断」の4ステップが提案されている( Kilpatrick, 1918, pp. 333334)。
(注2)海外文献の直接引用に際しては筆者訳を用いている。 (注3) 2017年 中村教諭他(第5学年担任団) 第5学年 算数「台形の面積」 2017年 山教諭 第5学年 家庭「ごはんとみそ汁」 2018年 辻本教諭他(第5学年担任団)第5学年 算数「体積」 (注4)「特別活動」におけるジグソー法では、「エキスパートグループ」を「カウンターパー トグループ」としている例が多い。 文献リスト
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