教職教育部の思い出・・教職ナビとともに
上 林 正 博
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(KANBAYASHI Masahiro)
平成22年3月に大阪府立高等学校の校長を定年退職し、4月からは帝塚山学院大学アドミッ ションセンターの参与として大学の広報を担当し、大阪府内の高校を回っていました。そこに 首藤先生から教職を目指している学生の指導を担当するお話をいただきました。 私は昭和49年に大阪府立高等学校の教諭として採用されて以来、24年間教壇に立ち授業では 生徒に理科と商業科目の情報処理を教え、担任業務や進路指導部をはじめ教務部や生徒指導部 の校務分掌に携わってきました。 その後、管理職試験を受け大阪府教育委員会に5年間勤務し、主に教員人事や新しい人事制 度及び教員採用業務に携わりました。さらに大阪府立高等学校の校長として7年勤務しました ので、12年間教壇からは離れていました。そのために、再び教員として生徒等を指導したいと いう思いがずっと強くありましたので、首藤先生のお誘いにより近畿大学で教員免許を取得し ようとする学生、さらに教職を強く希望している学生に対し指導できる機会が与えられること に非常にうれしく思いました。 首藤先生からは近畿大学独自の教職教育部のことや教職ナビについて簡単なお話も伺いし ました。その中で、冬に教職ナビの勉強宿泊合宿を実施しているので、一度見学に来たらどう かというお話があり、合宿が始まってから私も1日宿泊させていただき学生たちの様子や先生 方の面接指導の様子を見学させていただきました。 合宿では一般教養と教職教養の勉強について4回生が指導を行い、集団面接の指導は付き添 いの教員である首藤・角森・小口先生が担当されていました。学生たちは私を含め先生方に対 して非常に礼儀正しく、また全ての内容に対してまじめに勉強に取り組んでいました。このよ うな学生を指導できるのか思い、その時に気持ちがわくわくしたのを覚えています。 近畿大学に移り大学での講義をすることになり、現役教員の頃は50分授業しか経験がないの で、1コマ90分授業に対して初めは非常に不安がありました。しかし初めの頃は90分が長く感 * 近畿大学教職教育部教授 〔キーワード〕教職ナビ、教員採用、教育課題集 教職教育部、自立性じられ、時間経過の感覚もなかなか分りませんでしたが、回数を重ねるにつれて次第に慣れて きました。 学生は予想以上に静かに聞いてくれていたのでほっとしました。特に長い間の教師生活で出 会った生徒のことや様々な学校現場での出来事を講義の中に入れて話すと、学生たちは興味深 く聞いてくれていました。 授業と並行して教員採用試験対策としての面接指導や一般教養のスタート講座を受け持つ 中で、教職ナビの組織や学生そのものの良さがよくわかってきました。 教科毎に6つのナビが設けられ、教職ナビに入っている学生は各学年ともに100名を超え、全 体では四百数十人となる大組織でした。この教職ナビでは学部を超えた学生たちが教員採用試 験に合格することを目標に、自分の成長や即戦力として活躍できる教師を目指し、教育課題に 対する意見のやり取りや教科指導力を高める模擬授業、さらに教員採用試験対策としての面接 や集団討論などの練習を行い、お互いに切磋琢磨しながら自身を高め合っていました。 教員採用試験は筆記科目でも一般教養と教職教養そして論作文と専門試験があり、膨大な勉 強量が必要となり精神的にかなりハードとなります。また面接や討論、模擬授業も課せられて いるので自分一人だけでは対応はできません。ナビでは学部を超えた仲間ができるのでお互い に苦手な一般教養科目を教え合うこともでき、何よりもナビという集団の中で教師にとって欠 かすことのできない人間性やコミュニケーション力を高めることができることが大きいと思い ます。 その結果として、近畿大学では毎年約200名の現役生が教員採用試験を受験しますが、その半 数がナビ生でその合格率が50%近くであるのに対して、一般学生の合格率は約20%となってい て明らかに差が生じているのだと思います。 平成23年7月に法学部の改革本部戦略構想チームから首藤先生に教職ナビについての講演 依頼があり、その講演に私もご一緒させていただきました。 法学部では公務員志望者が年々増えてきており、現在よりも合格者の実績を伸ばしていくた めに、教員採用試験で合格実績を次々と更新している「教職ナビ」の組織運営について話して ほしいとのことでした。「公務員ナビ」のような自主サークルを作ろうか考えているようでした。 その時の首藤先生は、採用試験合格者数実績、教職ナビの現状(組織・人数・活動内容等)、 教職教育部教員の支援体制と採用試験対策の具体的なスケジュールおよびその内容について話 されました。
そして最後にナビの組織育成のための3つのポイントを述べられました。1つは、採用試験 に対する教員の指導体制を整えること。これは教職教育部の教員採用試験対策実施計画表を基 に、学生のモチベーションを持続させるための1年間の切れ目のない指導を、教員全員で取り 組む必要性を説明されました。2つ目は、実際の採用試験業務に携わった人物を一人でも採用 すること。採用試験対策のための指導内容を的確に設定していくことや、採用業務を担当した 時の人脈などを通して様々な情報を取ったりするためです。3つ目はナビの自立性を維持して 行くこと。ナビはもともと自主サークルなので自立性を持つのは当然のことですが、実はナビ 全体のモチベーションを維持しさらに高めていくことはなかなか難しいということなのです。 少し話は長くなりますが、教職ナビは平成16年に数人の学生によって発足しましたが、平成18 年には50名になり教職ナビの活動も大変活発となっていき、学生から教員へ様々な指導依頼が 次々と出てくる状況だったそうです。 私がお世話になり始めた平成23年には教職ナビの人数も440名の大所帯となっており、教員 の指導内容も前述の教員採用試験対策実施計画表として1年間びっしりと詰まったものになっ ていました。しかし、大人数になると日常の教職ナビとしての活動において、参加メンバーが 毎回のように変わったり、日常活動に参加しなくて対策講座だけ受講する者も出てきます。又、 日常の活動への参加も対策講座への受講もしなくて名前だけの部員となる者も出てきます。そ うなると、みんなが教職ナビの一員で、みんなで教職ナビを運営していくんだという意識が徐々 に希薄になっていきます。 例えば、教員採用試験対策実施計画表に基づいて教員が指導を行っていく中にスタート講座 があります。課業期間中なので、教員の空き時間帯の中で比較的教職ナビの学生の空き時間の 多い曜日・時間を予め調査しておいて、実施する曜日・時間を決めています。 ところが受講可能な教職ナビの学生が30名余りいるはずなのに20名足らずしか申し込みが なかったり、また10回実施ですが回数を重ねるにつれ受講者が減っていったりします。そのた めに欠席の理由を前もって連絡するよう強く指導すると受講者がまた復活したりするのです。 また年2回の面接講座や宿泊合宿においても、初めの申し込み人数を集計すると教職ナビの 人数からみて少ないので、各ナビ長に一人ひとりの参加できない理由をチェックさせて報告す るよう強く指導すると徐々に増えていくのです。 このような教職ナビの実態が見られるのは、自分たちが主体となって教職ナビを運営してい くんだという気概、そして個人の力に教職ナビの組織としての力が合わさってこそ個人の人間
的な成長とともに厳しい採用試験の突破につながるという認識が薄くなってきているからであ ると思います。 組織が大きくなってきたために、教職ナビの学生同士および教員と学生の日常的なコミュニ ケーションが十分取れなくなり、教職ナビ全体のモチベーションが下がって行くのだと考えら れます。以上、教職ナビの自立性を維持していくことの難しさについて説明させていただきま した。 この後、法学部で「公務員ナビ」について検討されたとは思いますが、なかなか発足は難し いのか実際に「公務員ナビ」の存在については話は聞いていません。 近畿大学にお世話になって3年目に進路委員長となりました。委員長としての役割は言うま でもなく教員採用試験の合格者数を増やし、学生が教壇に一日も早く立てるようにすることで す。 学生への具体的な指導内容については、教職教育部の先生方が長年にわたって積み上げて作 成した「教員採用試験対策実施計画表」があり、これをしっかり実施することが基本だと考え ました。平成25年度の時期からは大学推薦や現職教諭、講師経験などの特別選考を実施する自 治体や、一般選考でも模擬授業を課す自治体が増える等、各自治体の試験形態や試験内容の変 更が目立ってきました。 この年は教職ナビ生の1次試験の合格者数が106人となり合格率は前年よりも上がりました。 続く2次試験への合格者数が増えることを期待していましたが、2次試験に臨んだ106名のう ち最終合格者が57名という予想以上の少ない結果となりました。 その結果を分析するために、当時愛知県が1次2次ともに試験の成績を開示していましたの で、教職ナビからの受験者全員に開示を請求してもらい、それを集計し試験項目別にまとめた のが下記の表です。 *愛知県の1次受験者39名および2次受験者16名の成績。最終合格5名 評価 1次教養.専門 1次 面接 評価 2次 専門 2次 論作 2次 面接 A 4 1 A 1 0 4 B 15 16 B 1 1 7 C 13 15 C 7 5 5 D 4 3 D 4 10 0 E 1 2 E 3 0 0
この結果を見ますと、1次試験では筆記・面接ともにA,B評価がついたのが合わせて半数 近くいるのでまずまずであるが、2次試験での専門試験ではA,B評価がついたのが16人中2 名、また論作文ではA,B評価がついたのが16人中1名となっており、面接点はまずまず取れ ているのですが、筆記試験の得点が合格基準からかなり遠いことが分りました。 毎日図書館に通って遅くまで筆記の試験勉強をし、頑張っているナビ生も結構いたのですが、 それでも十分でなかったか、また専門の勉強を甘く見ていたのかなと思うような結果でした。 筆記試験対策としてはスタート講座や春期集中講座で対応はしていますが、基本的には学生 自身の勉強にかかっています。我々教員の支援することは限られてきます。しかし何とか勉強 をしてもらうためにナビの学生の集まる機会をとらえて、開示された成績の話をしながら専門 の勉強の必要性を訴えました。 また自分でなかなか勉強できない学生には、キャリアセンターの教員採用試験講座を強く勧 めたり、2次試験の直前に東京アカデミー本校が開講している短期集中型の専門試験対策講座 を、特別に安価で受講できるように折衝もしました。 論作文についてはテーマとして教育課題が多いのは当然ですが、学生は其々の教育課題に関 しての知識が非常に少なく、何を書いたらよいかが分らないので、字数も埋まりませんし内容 もお粗末になってしまいます。このことは集団討論や個人面接でもいえることだと思います。 討論のテーマや質問についての基本的な知識が不足していては話すネタがありません。 この対策として、教育課題(いじめ、不登校、人権教育など)30題を取り上げて、各教科ナ ビにテーマを割り当て、それをA4一枚にまとめて提出するようにしました。 テーマごとに予め書く項目を指定し、どういうことを調べてまとめたらよいかが分るように しました。例えばテーマが「いじめ」の場合、1、いじめの定義、2、いじめの現状、3、い じめの要因、4、いじめの事前防止のために、5、いじめの早期発見のために、6、いじめが 起こった時の対応、というような項目を指定し、その内容について調べてそして皆で検討して まとめていくということです。 3回生の夏休み直前に各教科ナビの所属人数に応じたテーマの数を割り当てて、必ず皆で話 し合ってまとめるように伝えて、9月中に私まで提出するように指示しました。提出された原 稿を点検したところ、A4のサイズ1枚に収まっていなかったり、明らかにコピーアンドペー ストで提出したのも結構ありました。 初めての取り組みなのであまりひどい内容は書き直しをさせましたが、ほとんどはその内容
のまま掲載することとして、文字の書体や大きさを統一し、長い文章は改行をこまめに行った り、文章を幾つかに分けたりして読み易くなるように手を加えました。 そして印刷することを初めは考えていましたが、お金や時間がかかるのでこまめにコピーを してホッチキスで閉じて冊子にしました。教職ナビの学生には3役を通して配布してもらい、 時間をかけてきちんと読んで理解して覚えるように伝えておきました。あとで面接指導の際に いくつかの教育課題について質問すると、勉強したと思われる学生もありましたが、全然勉強 していないなと思われる学生の方が多かったと思います。 今年度で教育課題集の作成も3回目になり、各教科ナビから提出された原稿内容について梅 田先生とともに綿密に精査しました。その半数以上は書き直す必要があったのでそれを指示し、 再提出された内容も再度点検しましたので、年々この課題集も向上していくかなと期待してい ます。 この近畿大学在職6年間は、若い学生にエネルギーをもらいながら、講義や採用試験対策指 導に非常にやりがいを持って楽しく過ごさせていただきました。 また、毎日のように教育や学校に関する報道がなされる中で、大学広報課からの要請で新聞 社のインタビュー3回受けました。そのうち2回は電話によるインタビューで翌日の新聞に掲 載され、また1回は研究室にテレビカメラが入り、大阪の子どもの低学力問題について取材を 受けました。これが夜のテレビニュースで放映され、後に広報部から録画したDVDをいただ きました。その時は学校現場で教えている当時の写真を求められて、私の若い時の白衣を着た 写真を提出したのが放映されていました。非常に良い思い出となっています。 この6年間は教職教育部の先生方や学務部の皆さん、そして近畿大学に感謝、感謝しかあり ません。本当にお世話になりました。