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熱CVDグラフェンの基礎と転写フリーグラフェンMOSFETの電気特性評価

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(1)

CVD

グラフェンの基礎と転写フリーグラフェン

MOSFET

の電気特

性評価

市川

和典

†∗a)

須田

善行

††

Basis of Thermal CVD Guraphene and Electric Characteristic Evaluation of

Guraphene MOSFET without Transfer Process

Kazunori ICHIKAWA

†∗a)

and Yoshiyuki SUDA

††

あらまし Geim と Novoselov が 2004 年に高配向熱分解性グラファイト(HOPG)から機械的にグラフェン

を剥離し,2010 年にノーベル物理学賞を受賞した.グラフェンは高い移動度や機械的柔軟性の点で Si などの既 存の半導体材料を超える物性を有することから,次世代材料として注目されている材料の一つである.一般的に グラフェンをトランジスタなどの電子デバイスに応用する場合,SiO2/Si のような基板にグラフェンを転写する 必要がある.しかし我々は,熱CVD 後の Ni 触媒を調べることで転写せずともトランジスタとして動作するこ とを見出した.本論文ではまず初めに,歴史,構造,物性,合成方法などの基本的なグラフェンに関する知識を 紹介し,熱CVD 法を用いて高品質なグラフェン合成のための様々な合成条件や,近年明らかとなってきた転写 を行わないグラフェンMOSFET の電気特性評価について,著者の研究結果を中心に説明する. キーワード グラフェン,熱化学気相堆積法(熱CVD),電界効果トランジスタ(MOSFET)

1.

ま え が き

近年,スマートフォンやタブレットなどの携帯端末 が次々に発売されており,今後もその市場は成長して いくことが予想される.これらの製品の開発には,小 型化,動作の高速化,省電力化などが不可欠で,電子 機器を構成する素子をムーアの法則に従って微細化し, 集積することでこれらが実現されてきた.しかし微細 化により,トランジスタにおいて高い電圧が印加させ ると,チャネルとソースドレインの区別がつかなくな るパンチスルーや,絶縁膜の極薄化によるトンネル電 流の増加などの問題が生じ,その微細化の技術にも物 理的な限界が訪れつつある[1].そこでこの問題を解 神戸市立工業高等専門学校電気工学科,神戸市

Department of Electronical Engineering, Kobe City College of Technology, 8–3 Gakuen Higashimachi, Nishi-ku, Kobe-shi, 651–2194 Japan

††豊橋技術科学大学電気・電子情報工学系,豊橋市

Department of Electrical and Electronic Information Engineering, Toyohashi University of Technology, 1–1 Hibarigaoka, Tempaku, Toyohashi-shi, 441–8580 Japan

現在,松江工業高等専門学校電子制御工学科 a) E-mail: [email protected] 決する方法の一つとして様々な新材料が探索され,近 年その優れた物性からグラフェンをはじめとするナノ カーボンが注目されている. ナノカーボンはナノメートルサイズの炭素の同素体 の総称であり,フラーレン,カーボンナノチューブ, グラフェンが代表的な材料である.フラーレンは1985 年にKrotoらによって発見された炭素原子がサッカー ボールのように結晶を構成した物質で,1996年にノー ベル化学賞を受賞している[2].カーボンナノチューブ は,炭素原子のみでできたグラフェンシートが円筒状 に丸まった筒状の形状をしている.1991年に飯島に より発見され,その高い電気伝導度から高速トランジ スタや集積回路(LSI)内の配線等へ期待されるなど, 様々な電子機器への応用を目指し研究されている[3]. グラフェンはナノカーボンの中で最も歴史は浅く2004 年にGeimとNovoselovが高配向熱分解性グラファイ ト(HOPG)から機械的にグラフェンを剥離した.室 温で10000 cm2/V · s程度の高い移動度を示したこと がきっかけになり,2010年にノーベル物理学賞を受 賞した[4].その後グラフェンの研究はその高い移動 度を背景に爆発的に増加し,更には電子デバイス応用

(2)

だけに留まらず,グラフェンを透明電極に用いた太陽 電池やセンサーなど様々な分野で盛んに研究されてい る[5], [6].

2.

グラフェンの基本構造とバンドギャップ

グラフェンは,2次元平面上で炭素原子が6員環ネッ トワークを構成した原子1個分の厚みしかもたない非 常に薄いシート状の物質である(図1).このグラフェ ンを積層したものが,鉛筆の芯などに用いられている グラファイト(黒鉛)である.グラフェンシートが1層 のものを単層グラフェン,数層積層されたものを多層 グラフェンと呼ぶ.このシート構造は究極の2次元平 面の材料となる.そのためグラフェンはSiなどの従来 の3次元構造の半導体や金属とは異なり,バンドギャッ プをもたずグラフェンの伝導帯と価電子帯はディラッ ク点と呼ばれる1点で交わるバンド構造を形成してい る(図2)[7].更にバンド構造がディラック点におい て直線的分散関係を示し,キャリアは質量のないよう な振る舞いをする.それにより極めて高い移動度得ら れ,電子と正孔の移動度が同程度となり両極性伝導体 (ambipolor)となる.しかし,バンドギャップをもた ない単層グラフェンは高いOn/Off比が必要とされる ようなトランジスタへ応用することが難しく,バンド ギャップをもつグラフェンの形成が研究されている.こ 図 1 グラフェンの構造 [7]

Fig. 1 Structure of graphene. Copyright 2015 The Japan Society of Applied Physics.

図 2 グラフェンのバンド図 [7]

Fig. 2 Energy band diagram of graphene. Copyright 2015 The Japan Society of Applied Physics.

れまで2層のグラフェンに対して垂直方向に電界を印 加することや,グラフェンをナノリボン構造にすること でバンドギャップが形成することが報告されている[8].

3.

グラフェン合成技術

グラフェンの作製法にはさまざまな方法があり,そ の中でも代表的な合成法を表1に示す.まず,一つ目は 機械的剥離法である.この方法はGeimとNovoselov らが初めてグラフェンを作製した方法であり,スコッ チテープによってHOPGからグラフェンを他の基板 に転写する方法である.これは,簡便に高結晶性のグ ラフェンを得るのに有効である.この機械的剥離法は グラフェンの物理現象の発見に大きく寄与してきた. しかし,機械的剥離法で得られるグラフェンのサイズ は数μmから数十μmと小さく,層数や形状は制御で きない[4]. 二つ目はSiCの熱分解法である.この方法は単結 晶SiC基板を1500C程度の高温に加熱することで, 表面のシリコン原子を脱離させ,SiC表面にグラフェ ンを成長させる方法である.この方法では比較的高結 晶性のグラフェンが得られるものの,原料となるSiC 基板が非常に高価で,基板サイズも小さく,またバッ ファー層と呼ばれるグラフェンとSiCが結合した界面 層をもつため,SiC基板からの転写が非常に困難であ る点などが問題点として挙げられる[9]. 三つ目は,酸化グラフェンを利用する方法である. この方法はグラファイト粉末に強い酸化処理を施して 層間を引き剥がし,溶媒に分散させた酸化グラフェン を利用する方法である.酸化グラフェンは分散液とし て得られるので,塗布するだけで大面積のグラフェン フィルムが得られる.しかし,酸化グラフェンは導電 性が悪いため,水素加熱やヒドラジンとの反応などに より還元する必要があるが,完全に酸素を含まない元 の状態まで還元することができないため,多数の欠陥 が残存し,理想的なグラフェンの特性を得ることが困 難である[10].このように,これらの手法にはそれぞ 表 1 グラフェン合成方法の比較

(3)

れ一長一短がある.そのような中,金属膜上でメタン などの炭化水素原料を接触分解して合成する,CVD (Chemical vapor deposition)法が有効な手法として 脚光を浴びるようになってきた.このCVD法は,グ ラフェンの合成に金属触媒を必要とするものの,金属 の面積を広くするだけで大面積のグラフェンを得るこ とができ,更に金属をエッチングすることで様々な基 板に転写ができるという利点を備えている[11].近年 ではこのCVD法を用いてロールツーロール方式での 大量生産を視野に入れたグラフェンの合成が行われて いる[12]. 2.で示したように2層以上の複数層の形成によって グラフェンのバンドギャップが開くことから,トラン ジスタなどへの応用を目指して我々はNiを触媒に用 いた多層グラフェンの形成を検討している.CVD法 は他の方法に比べて利点が多く,合成条件を最適化す ることでグラフェン合成の主流になる可能性がある. そのため我々は,熱CVD法を用いたグラフェンの合 成を精力的に行っている.

4.

CVD

を用いたグラフェン合成技術

4. 1 合成の各プロセスにおける特徴 熱CVDを用いたグラフェンの合成プロセスを図3 に示す.グラフェンの合成プロセスでは大きく分けて 昇温,炭素導入,冷却があり,グラフェンを合成する には各プロセスが重要な意味をもつ.グラフェンの合 成では金属触媒が必要になるが,昇温プロセス時に水 素雰囲気中で加熱することでその金属触媒の表面を還 元し,純粋なNi触媒上でグラフェンの合成が可能と なる.そのため水素の濃度が重要である.炭素導入プ ロセスでは,グラフェンの原料となる炭素量を決める ため,その供給量やガスの流速が重要である.冷却プ ロセスでは炭素の析出量や析出速度が変わるため,冷 却時の水素濃度や冷却時間がグラフェンの層数や欠陥 に影響を与える.これらの各プロセスにおいて最適条 図 3 グラフェンの合成プロセス Fig. 3 Process flow diagram of graphene.

件を見つけることは,高品質グラフェンを合成する上 で重要な要素となる.今回用いた基本プロセス条件と して触媒金属にはNiを用い,窒素と水素0∼20%の 混合ガス雰囲気中で800Cまで35 minで昇温した. その後水素ガスを流したままで温度調節のため1 min 保持後,メタンガスまたはアセチレンガスを50 sccm の流量で5 min導入し,窒素と水素0∼20%の混合ガ ス雰囲気中11∼100 minの冷却時間で100C程度ま で冷却を行った.ガスの流量や温度制御はマスフロー コントローラや温度コントローラにより精密に制御を した. 4. 2 原料ガス種の影響 グラフェンの合成に使われる原料ガスは一般的にそ の安全性よりメタンが用いられる[13].しかしメタン は強いσ結合をもつため,炭素原子を形成するには 高い温度が必要となる.一方,アセチレンガスは溶接 用のガスとして知られており,メタンに比べ解離エネ ルギーが低く低温でも炭素原子を容易に形成するこ とができる[14].図4に原料ガスにメタンとアセチレ ンを用いて基本プロセス条件で合成したグラフェンの ラマンスペクトルを示す.グラフェンを合成した場合 1582 cm−1付近のピークであるGバンド,2685 cm−1 付近のピークである2Dバンド,1350 cm−1付近のD バンドのピークが現れる.メタンガスを用いた場合で は,グラフェンに起因するピークは現れていないが, アセチレンガスを用いた場合ではグラフェンに起因 する三つのピークが現れている.よってアセチレンガ スを用いることで,より低温でグラフェンの合成が可 能である.一般的にはメタンガスを用いた熱CVDの 合成条件では主に1000C程度の高温が多く用いられ る[15]. 図 4 メタンガス及びアセチレンガスを用いた場合のグラ フェンのラマンスペクトル

Fig. 4 Raman spectra of graphene synthesized from acetylene or methane gas.

(4)

図 5 グラフェン合成のメカニズム(a)Cu を用いた場合 (b)Ni を用いた場合

Fig. 5 A mechanism of graphene synthesis on (a) Cu and (b) Ni. 4. 3 Ni触媒の膜厚の影響 熱CVDを用いたグラフェンの合成では,金属の種 類によって合成のメカニズムが異なる.CuとNiそ れぞれのメカニズムを図5 (a),(b)に示す.Cuを触 媒に用いた場合,メタンなど原料ガスから供給された 炭素がCu表面で結合しグラフェンを作る.一方Ni の場合,原料ガスから炭素がいったんNi中に固溶し, 冷却とともに析出する.そのためCuを用いた場合は 単層のグラフェンが作りやすく,Niの場合多層のグラ フェンが作りやすい[15]. Niの膜厚はグラフェンの結晶性や層数に影響を与 え,厚くなるにつれて結晶性は向上し,層数は少なく なる傾向にある.アセチレンガスと窒素ガスと3%の 水素ガス雰囲気中,Niの膜厚200,400,600,800 nm で合成したグラフェンのラマン分光スペクトルを図6 に示す.Dバンド,Gバンド,2Dバンドのグラフェ ン特有のスペクトルが現れていることから,全ての Ni膜厚においてグラフェンが形成されていることが 分かる.このGバンドと2Dバンドとの強度比であ るIG/I2Dから,合成されたグラフェンの層数を算 出することができる.IG/I2D < 0.7では単層グラ フェン,0.7 < IG/I2D< 1.0では2層のグラフェン, 1.0 < IG/I2Dでは3層以上の多層のグラフェンとな る[16].Ni膜厚200,400,600,800 nmでのIG/I2D は,2.2,1.0,0.8,0.7であり,200 nmの膜厚では多 図 6 様々な Ni 膜厚上に合成したグラフェンのラマンス ペクトル

Fig. 6 Raman spectra of graphene synthesized on dif-ferent Ni film thicknesses. 層,400 nm及び600 nmでは2層,800 nmは単層の グラフェンが合成されている.よって層数はNi膜厚 が200 nmのときに最も多く,800 nmのときに最も少 なくなるためNiの膜厚を厚くするにつれてグラフェ ンの層数が少なくなると言える. またこのラマンスペクトルから得られたID/IGか ら下の式(1)よりグラフェンのドメインサイズ(La) を見積もることができる[17].グラフェンの場合もSi などの材料と同様に,結晶粒界での電子散乱が移動度 の低下する要因となる.そのためドメインサイズはよ り大きい方が望まれる. La (nm) = (2.4 × 10−10 4/(ID/IG) (1) 本研究でのラマン分光測定の励起波長λは532 nm である.Ni膜厚200,400,600,800 nmのドメイン サイズは64,88,85,97 nmである.ドメインサイズ はNi膜厚が200 nmのときに最も小さく,800 nmの ときに最も大きくなる.よってNi膜厚を厚くするに つれてドメインサイズが大きくなる. 4. 4 合成時の水素濃度の影響 水素濃度はグラフェンの結晶性や層数に影響を与え る.少量の水素は欠陥の低減や結晶性の向上をもた らすが,多量の水素は逆にグラフェンの膜質を低下さ せてしまう.様々な水素濃度で合成したグラフェンの ラマンスペクトルを図7に示す.グラフェンの合成 プロセス中に0∼20%の様々な濃度で水素を導入する と,0∼10%では全てのラマンスペクトルにおいてグラ フェン特有のピークが現れている.しかし,水素濃度 20%の場合ではピークが現れていないことが分かる. このGバンドとDバンドの強度比よりドメインサイ ズは,水素濃度0,3,6,10,20%において68,96,

(5)

図 7 様々な水素と窒素の比で合成されたグラフェンのラ マンスペクトル

Fig. 7 Raman spectra of graphene synthesized with different hydrogen concentrations in nitrogen.

107,50,0 nmである.0%∼6%では水素濃度が増加 するにつれてドメインサイズは大きくなるが,10%以 上水素を導入することにより欠陥が増大しドメインサ イズが減少している.更にGバンドについても水素濃 度10%以上でその強度が減少し,20%導入した場合は スペクトルがほぼ得られていない.水素濃度を6%よ りも増加させると結晶性の低下や欠陥が増大し,最終 的にグラフェンを合成できなくなる.通常Siなどの 半導体に対して水素の導入は欠陥を終端する作用があ るが,グラフェンへの多量の水素の導入は合成を阻害 する作用があると言える. 4. 5 冷却時の水素濃度の影響 4.4で多量の水素がグラフェンの結晶性に影響する ことを記載したが,冷却時の水素がグラフェンの結晶 性に最も影響を与える.合成時の水素濃度を6%に固 定し,濃度6%の水素と窒素の混合ガス雰囲気中で冷 却した場合と,窒素のみとした場合で合成したグラ フェンのラマンスペクトルを図8に示す.窒素のみで 冷却時した場合,多層のグラフェンが形成されるがド メインサイズは120 nmと大きくなり,これまでのプ ロセスの中で最もドメインサイズが大きくなり,欠陥 が減少する.冷却時の水素により結晶性が低下するこ とから,冷却時は窒素のみが有効であると言える. 4. 6 冷却時間の影響 冷却時間はグラフェンの結晶性や層数に影響を与え, 短い時間で冷却すると層数は少なくなり結晶性が向上 する.6%の水素と窒素の混合ガスで昇温し,冷却時は 窒素のみとし,冷却時間を11∼100 minと変化させ合 成したグラフェンのラマンスペクトルを図9に示す. ラマンスペクトルから計算した11,30,60,100 min のドメインサイズは240,107,120,69 nmであり冷 図 8 窒素のみで冷却した場合と窒素と水素で冷却した場 合のラマンスペクトル

Fig. 8 Raman spectra of synthesized graphene us-ing hydrogen/nitrogen gas mixture or nitro-gen gas during cooling process.

図 9 様々な冷却時間で合成したグラフェンのラマンスペ クトル

Fig. 9 Raman spectra of graphene synthesized with various cooling periods.

却速度を速くすることでドメインサイズを大きくする ことができる.また11 minで冷却して合成したグラ フェンは単層となり,冷却するにつれて層数が最も少 なくなる. 4. 7 グラフェンのXPS測定 これまでのグラフェンの評価にはラマン分光測定が 主に使用されてきたが,現在ではXPS(X-ray pho-toelectron spectroscopy)測定結果とラマン分光測定 の結果を合わせて詳細に分析が行われている.XPSに おいてC1sスペクトルを測定することでその半値幅 からグラフェンの結晶性を評価することができる[18]. C1sのXPSスペクトルを図10 (a)に示す.11 minと 100 minで冷却したときの半値幅はそれぞれ1.1と 1.8 eVであり冷却時間を短くすることで結晶性の向上 が見られる.4.4で水素濃度6%と窒素の混合ガス中 で合成したグラフェンの半値幅は1.4 eVであったこと から考えると,11 minで冷却することで,より結晶性 が向上していることが分かる.

(6)

図 10 (a)冷却時間を 11 min と 100 min にしたときの C1s XPSスペクトル,(b) 図 10 (a) より得られ た sp2と sp3への波形分離結果

Fig. 10 (a) C1s XPS spectra of the film surfaces for the cooling periods of 11 and 100 min. (b) An example of deconvolution of the C1s spectra in Fig. 10 (a) into sp3and sp2components.

更にXPSではC1sスペクトルのピーク分離を行う ことで,ラマン分光測定では得られないグラフェンの 炭素同士の結合状態を知ることができる.炭素同士の 結合がsp2 の場合284.5 eVにsp3 の場合285.5 eVに ピーグが現れるが,XPSでのC1sのスペクトルでは sp2とsp3の合成成分として現れるため,ピーク分離 が必要となる.グラフェンはsp2の結合により2次元 ネットワークを作るため,sp2のピーク強度が高いほ どより理想的なグラフェンとなる.冷却時間11 min で合成したグラフェンのC1sスペクトルのピーク分 離を行い結合状態をみると,sp2に起因するピークが 非常に高く現れている.このsp2 とsp3の面積から sp2/sp3を計算すると1.8であり,今回合成したグラ フェンについても,ほぼsp2 の結合により形成されて いることが分かる(図10 (b)).

5.

グラフェンの電気特性評価

5. 1 グラフェン除去後のNiXRD測定 4.3のNiの膜厚を厚くすることでグラフェンの層数 が少なくなり,導入した炭素量は変化がないのにもか 図 11 グラフェン除去後の Ni の XRD スペクトル Fig. 11 XRD spectra of Ni film after removal of

graphene. かわらず層数が変化することから,いくらかの炭素原 子はNi中に留まっている可能性がある.そこで4.6の 冷却時間11 minの条件でNi上にグラフェンを形成し た後に300Cに加熱された炉の中にこの基板を入れ, 窒素と水素(20%)の混合ガス雰囲気中で水素のエッ チング効果を利用して基板からグラフェンを除去し た.ラマン分光測定によりグラフェンの除去を確認後, 残ったNiのXRD(X-ray diffraction)の測定を行っ た.そのXRDスペクトルを図11に示す.NiCの標 準サンプルのXRDスペクトルでは明確なNiCのピー クは存在せず少量の炭素(4.9 at.%)では六方最密充 てん構造(hcp)と面心立方格子構造(fcc)の両方の Niのピークが見られ,多量の炭素では(16.3 at.%)で はhcp構造のみとなる[19].今回hcpのメインピーク である44.7の(011)ピークが現れ,fcc特有のピー クである50.5付近の(200)ピークが見られないこ とから,今回のNi薄膜はhcp構造をしていることが 分かる.よってこれまで純Niと考えられていたグラ フェン合成後のNiには炭素が含まれており,Ni薄膜 を触媒としたCVDにおいてグラフェンを急冷にて合 成する場合では,一度Niに固溶した炭素原子は冷却 により全て析出せず,いくらかはNi中に留まること が明かとなった.また43.2付近にNiOのメインピー クが現れていることからNiは酸化されていることが 分かる.グラフェン合成後のNiの分析については今 後SIMS(二次イオン質量分析法)などにより,より 詳細に深さ方向での分析が必要であると考えている. 5. 2 グラフェン除去後のNi中の電気特性評価 5.1においてグラフェン合成後のNiには炭素が含 まれていることが明かになったことから,Ni上に合 成したグラフェン,合成前のNi,合成後グラフェン を除去したNiのそれぞれのI-V(電流–電圧)測定を

(7)

図 12 グラフェン/Ni,Ni,グラフェン除去後 Ni の電流– 電圧測定

Fig. 12 Current-Voltage measurement result of graphene/Ni film, Ni film and Ni film after removal of graphene. 行った.今回は2端子法を用い,これら3種類の基板 に2本のプローブ(プローブ間距離10 μm)を接触さ せI-Vの測定を行った.その結果を図12に示す.グ ラフェンの除去後のNiの電流値は大幅に減少し,抵 抗値がグラフェン除去前や純Niに比べ大幅に増加し た.すなわち形成後のグラフェン及びNiでは大きな 抵抗の差が生じるため,転写せずとも電気特性評価は 可能であると言える. 5. 3 転写フリーグラフェンMOSFETの電気特性 一般的にCVDなどで合成したグラフェンを剥離に よりSiO2/Si基板などに転写し,グラフェンの電気 特性評価を行う.その構造は低抵抗Si基板を用いて ゲートが下となるバックゲート型が主流であるが,グ ラフェン上にアルミを蒸着するとわずかに酸化膜が形 成されることを利用し,トップゲート型も報告されて いる[20].我々は今回転写を行わないバックゲート型 グラフェンMOSFET(Metal oxide semiconductor field effect transistor)を以下の方法で作製した.

低抵抗P型単結晶Si基板(∼1 Ω cm)を洗浄し, 1000Cに加熱した熱酸化炉内で厚さ100 nmのSiO2 を形成した.この基板上にチャネルのみのパターンと チャネルと電極のパターンの2種類をフォトリソグラ フィーより形成し,スパッタによりNiを800 nm蒸 着後リフトオフによりNiのパターニングを行った. 4.6の条件によりこの基板上にグラフェンを合成し た.その後チャネルのみパターニングされたグラフェ ンには電極パターンをフォトリソグラフィーにより形 成し,アルミを真空蒸着により300 nm蒸着後,リフ トオフによりソースドレイン電極の形成を行った.こ のMOSFETの構造を図13に,入力特性及び出力特 図 13 グラフェントランジスタの模式図 Fig. 13 Schematic diagram of graphene transistor.

図 14 グラフェントランジスタの入力特性 Fig. 14 Transfer curve of graphene transistor.

図 15 グラフェントランジスタの出力特性 Fig. 15 Output curve of graphene transistor.

性を図14,15に示す.入力特性においてゲート電圧 0 V付近を中心として電流値が反転するディラックポ イントが現れていることから,グラフェンMOSFET として動作していることが分かる.このドレイン電流 はゲート絶縁膜からの漏れ電流に起因する可能性があ るが,ゲート絶縁膜の膜厚が100 nmと非常に厚いこ とに加え,図15の出力特性からゲート電圧を大きく していくにつれて,ドレイン電流の値も大きくなるこ とから,漏れ電流の可能性は低いと考えられる.また わずかにゲート電圧を変化させた場合でも急激にドレ イン電流が増加していることから,出力特性からもこ のMOSFETはトランジスタとして動作していること が分かる.よってNiを触媒に用いた場合では必ずし も転写せずともトランジスタは動作すると言える.し かしアルミをソースドレイン電極に使用した場合は,

(8)

グラフェンを電極に用いる場合に比べ抵抗が高くなり, 相互コンダクタンスの低下がみられる.よってトラン ジスタなどのデバイスを作製するには,金属とグラ フェンの接触抵抗に注意する必要がある.

6.

む す び

本論文ではグラフェンの歴史から最新の研究まで 紹介した後,我々が勢力的に行っている熱CVDを 用いたグラフェンの合成及び転写フリーグラフェン MOSFETの電気特性評価について記述した.この分 野では幅広く研究が行われており,今回紹介したのは そのごく一部である.誌面の都合上紹介できなかった 研究も多数存在する.本論文以外でもこの分野に関す る論文等もたくさん存在するため,そちらも合わせて お読みいただければ幸いである. 謝 辞 本 研 究 は 科 学 研 究 費 補 助 金 基 盤 C (16K06281)及び豊橋技術科学大学の高専連携教育 研究プロジェクトの支援により遂行されました. 文 献 [1] 北野直樹,“低消費電力・高性能トランジスタを実現する 22 nmトランジスタ技術,”信学誌,vol.96, no.6, pp.429– 434, June 2013.

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[17] L.G. Can¸cado, K. Takai, T. Enoki, M. Endo, Y.A. Kim, H. Mizusaki, A. Jorio, L.N. Coelho, R.M. Paniago, and M.A. Pimenta, “General equation for the determination of the crystallite size L[a] of nanographite by Raman spectroscopy,” Appl. Phys. Lett., vol.88, pp.163106–163111, 2006.

[18] N. Hosoya, Y. Akaho, M. Inoue, S. Sahoo, and M. Tachibana, “Temperature dependence of the Raman spectra of polycrystalline graphene grown by chem-ical vapor deposition,” Appl. Phys. Lett., vol.105, pp.023108–023113, 2014.

[19] A. Furlan, J. Lu, L. Hultman, U. Jansson, and M. Magnuson, “Crystallization characteristics and chemical bonding properties of nickel carbide,” J. Phys-Condens. Mat, vol.26, pp.415501–415511, 2014. [20] H. Miyazaki, K. Tsukagoshi, A. Kanda, M. Otani, and S. Okada, “Influence of disorder on conduc-tance in bilayer graphene under perpendicular elec-tric field,” Nano Lett., vol.10, pp.3888–3892, 2010.

(平成 28 年 1 月 27 日受付,7 月 23 日再受付, 29年 4 月 12 日公開)

(9)

市川 和典 (正員) 2008奈良先端科学技術大学院大学博士 課程修了.博士(工学).現在,神戸高専電 気工学科准教授.カーボンナノチューブや グラフェンなどナノカーボン材料の高品質 化・デバイス化の研究に従事. 須田 善行 1997北海道大学大学院工学研究科修士 課程修了.博士(工学).以後,パロマ工業 株式会社,北海道大学大学院工学研究科助 手などを経て,現在,豊橋技術科学大学電 気・電子情報工学系准教授.カーボンナノ 材料プロセスの研究に従事.

図 2 グラフェンのバンド図 [7]
Fig. 4 Raman spectra of graphene synthesized from acetylene or methane gas.
Fig. 5 A mechanism of graphene synthesis on (a) Cu and (b) Ni. 4. 3 Ni 触媒の膜厚の影響 熱 CVD を用いたグラフェンの合成では,金属の種 類によって合成のメカニズムが異なる. Cu と Ni そ れぞれのメカニズムを図 5 (a) , (b) に示す. Cu を触 媒に用いた場合,メタンなど原料ガスから供給された 炭素が Cu 表面で結合しグラフェンを作る.一方 Ni の場合,原料ガスから炭素がいったん Ni 中に固溶し, 冷却ととも
Fig. 8 Raman spectra of synthesized graphene us- us-ing hydrogen/nitrogen gas mixture or  nitro-gen gas during cooling process.
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参照

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