氏 名 FOMICHOVA, Kseniya 博士の専攻分野の名称 博士(学術) 学 位 記 番 号 医工博甲第340号 学 位 授 与 年 月 日 平成27年3月18日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 環境社会創生工学専攻
学 位 論 文 題 目 Analysis of positioning of life and environmental science education in Japanese secondary school by international comparison.
(日本の中等学校における生物および環境科学教育の位置づけについて の国際比較による分析) 論 文 審 査 委 員 主査 教 授 御園生 拓 教 授 風間 ふたば 教 授 北村 眞一 准教授 高橋 智子 准教授 金 基 成 准教授 岩田 智也
学位論文内容の要旨
本研究の目的は,学校カリキュラム(計画・実践)および関係者の態度・挙 動を規定する要素の比較により,日本ならびに国際的な生命科学および環境科 学の教育方法の改善につながる要因を提示することにある. 研究は以下の二つの視点から行われた.1)さまざまな国の初等中等教育課 程(7〜12 年生)における生命科学および環境科学カリキュラムの比較分析;2) 生命科学および環境科学および,実際に行われている内容に対する学校教育関 係者(生徒,両親および教員)の評価.すなわち,以下の目標に沿ったカリキ ュラムおよび社会的な認識の分析を通して,日本の生命科学教育および環境教 育の理念,実践,傾向および社会的位置づけについての国際比較分析を行った. 目標1:生命科学および環境科学の「地位」,すなわち日本および諸国の中等 学校において,物理,化学,地球科学との間でどのような量的・質的優先順位 付けがなされているのかを分析する. 目標2:学校教育関係者の自然科学に対する社会的意識を規定する要因を特定する. 結果と考察 科学教育の国家規格とその実践についての国際分析 目標1について,生命科学および環境科学教育に関して日本の中学校・高等 学校学習指導要領を5カ国の国家規程と比較した.日本は9年次までについて 生物および環境科学のカリキュラムの単元数が少なく,それを受ける生徒の割 合も調査国の中で最も少なく,国際平均よりも低かった.物理と化学について は,そのような傾向が見られないことから,生命科学および環境科学は,日本 の中等教育においては優先されていないことが示された. 現行の学校理科教育に対する教員の評価 カリキュラムの国際比較の結果より,日本においては生命科学および環境科 学は物理・化学と比較して優先されていなかったことが結論づけられた.しか し,新たに2012 年の学習指導要領改訂後の調査が必要であることから,現行の 教育実践状況と改訂の影響について,教員に対するアンケート調査を行った. 中学の全学年において,生物の授業時間および内容は物理および化学よりも 少なかった.物理と化学の時間を増やすために,教員によって生物に関わる授 業時間が削られており,生物の内容は表面的にしか教えられないかあるいは教 えられていない場合が多いことが示された.すなわち,日本の中学校において 生物は物理・化学よりも重視されていないといえる. 一方,ウクライナでは日本とは異なり理科の授業時間は削減された.しかし, 改革の前後でも生物および環境科学教育の形態は物理および化学に比べて同等 かそれ以上で,個々の教員や学校による再配分は不可能である.従って,ウクラ イナでは理科の教科による優位性の違いは見られなかった. 学校関係者の理科分野についての社会的認知 理科各分野の教育実践と認識について日本の教員の意識調査を行った.この 認識については,本研究の目標2 として生徒と両親に対する調査を行った. それぞれ,学校理科教育の各分野についての個人的・社会的イメージについ て質問した.
両親および教員 両親へのアンケートは日本のみで行った.各教科に対する教員と両親の評価 はほぼ同様であった.特に,男子生徒については理科の他の分野よりも化学ま たは物理を選好し,女子生徒は生物を選好すると考えられている.また,成績 上位の生徒は,生物や地球科学にくらべて物理および化学の方をはるかに好む とされている.このような回答の理由は不明であるが,生命科学および環境科 学の分野は男子生徒および理科の成績上位者には合わないという社会的なイメ ージがあるものと考えられる. 生徒 アンケートでは,以下に挙げた国の生徒を対象として,理科の各分野に対す るa)理解,b)学習興味と将来の職業,c)難しさ,d)得られる知識の有用性, e)経済的動機(利益),社会的利益(人気,社会的認知)f)国の教育政策につ いて質問した.さらに,地域および世界的な環境問題に対する認知レベルにつ いて訊いた.年齢16 歳〜17 歳の生徒から両性とも 100 以上の十分な回答数が得 られたのは,中国,ギニア,日本,マレーシア,ウクライナおよびベトナムの6 カ国である. 生徒の社会—文化的側面からの分析において,いくつかの特徴的な傾向が得 られた.国際比較により,日本については以下のような特徴が見られた. 日本 1.理科全分野に対する興味が最も低い.特に女子生徒で目立つ. 2.理科全分野について,女子生徒では将来の職業との関係が最も低い.男 子生徒でも低い評価である. 3.理科全分野に対して,有用性,優位性,一般性の評価が最も低い. 4.他の生徒,特に女子生徒および成績下位者の意識についての評価が最も 低い. 5.男子生徒に比べて,女子生徒の環境問題への関わり方が少ない. 結論 日本の中学校理科教育の現場において,物理と化学は生物および環境科学に 対して優先されているといえる.また,生物および環境科学に対する社会的認 識度は特に大人で低く,物理と化学はこれらに対して上位の分野であると評価
されている.しかし学校生徒においては,このような評価,特に生物について の評価は異なっている.理科の他分野と比較すると生物に対する意識は両性で むしろ高く,特に女子でより高いが,環境科学は優先度が低いことが示された. このような傾向は本研究で扱った他の国でも同様に見られた.また,理科全分 野に対する日本の生徒の認識は他国に比べ否定的で,女子生徒による他女子生 徒の評価において特に顕著である.本研究では,理科に対する日本の生徒の社 会的評価は低いということが示された.生徒と,教員および両親による評価の 違いの理由は不明であるが,性の社会的役割および他の社会的通念の年代によ る違いに関わっているのかもしれない. 理科教育システムをより効率的なものにするためには,理科教育関係者の認 識と行動に影響を与える,社会/文化的な要素と生物学的に決定される性とい う要素をより詳細に評価し,取り入れていく必要がある.
論文審査結果の要旨
本論文は,学校カリキュラム(計画・実践)および関係者の意識・挙動の比 較により,日本ならびに国際的な生命科学および環境科学の教育方法の現状を 分析し,教育システム改革の際に考慮するべき要素を抽出することを目的とし ている. 研究は以下の二つの視点から行われた.1)さまざまな国の初等中等教育課 程(7〜12 年生)における生命科学および環境科学カリキュラムの比較分析;2) 生命科学および環境科学および,実際に行われている内容に対する学校教育関 係者(生徒,両親および教員)の評価.すなわち,カリキュラムおよび社会的 な評価を通じて,日本の教育の理念,実践,傾向および社会的位置づけについ て国際比較により分析した.具体的な目標として以下の2点を挙げ,それぞれ について研究を進めた.. 目標1:日本および諸国の中等学校において,物理,化学,地球科学との間 でどのような量的・質的優先順位付けがなされているのかを明らかにする:生 命科学および環境科学教育に関して日本の中学校・高等学校学習指導要領を5 カ国の国家規程と比較し,さらにウクライナの教育システムとの違いを詳細に 調べた.日本は9年次までについて生物および環境科学のカリキュラムの単元 数が少なく,それを受ける生徒の割合も調査国の中で最も少なく,国際平均よりも低かった.物理と化学については,そのような傾向が見られないことから, 生命科学および環境科学は,日本の中等教育においては優先されていないこと が示された.これは教育現場の意識・授業時間等の調査でも裏付けられた 目標2:学校教育関係者の自然科学に対する社会的意識を規定する要因を特 定する:日本の教師および両親は,社会的な傾向として物理および化学を生物 に優先させ,男子および成績上位者は生物よりもこれらを選ぶとしているが, 日本および各国の生徒は必ずしもそのような意識はなく,日本の特徴として以 下が抽出された. 1.理科全分野に対する興味が最も低い.特に女子生徒で目立つ. 2.理科全分野について,女子生徒では将来の職業との関係が最も低い.男 子生徒でも評価が低い. 3.理科全分野に対して,有用性,優位性,一般性の評価が最も低い. 4.他の生徒,特に女子生徒および成績下位者の意識についての評価が最も 低い. 5.男子生徒に比べて,女子生徒の環境問題への関わり方が少ない. 上記を踏まえ.理科教育システムをより効率的なものにするためには,理科 教育関係者の認識と行動に影響を与える社会/文化的な要素と,生物学的に決 定される性という要素をより詳細に評価し,取り入れていく必要があると結論 づけている. 以上のように,本論文は日本の中等理科教育における教科間の違いについて, カリキュラムの規定を始めとした教育システムの国際比較および日本における 教育現場での実践状況を明らかにし,さらに教科に対する生徒自身,ならびに 教師および両親の意識の違いを示すことによって,理科教育システムの将来の 改善につながる新たな知見を与えるものである.さらに,生徒の意識について の国際比較により,理科教育システムと生徒の興味関心を始めとした意識の関 係についての新たな情報を与えるものであり,審査委員会は,本論文の学術的 価値は高く、博士(学術)論文と認められる水準にあるものと判断した。