Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
Pulp Responses After CO2 Laser Irradiation of Rat
Dentin
Author(s)
李, 東瑚
Journal
歯科学報, 113(4): 444-445
URL
http://hdl.handle.net/10130/3198
Right
論 文 内 容 の 要 旨 1.研 究 目 的 炭酸ガスレーザーは波長が10.6μm と長く,深部組織に対して為害作用の少ないレーザーで,近年,これら の特性を利用しメラニン色素沈着症や象牙質知覚過敏症の治療に用いられている。しかしながら,象牙質知覚 過敏症の治療の多くは高出力による露出した象牙細管を物理的に封鎖することによるものであり,象牙細管を 通した歯髄組織に及ぼす影響の詳細,特にサイトカインネットワークへの影響についてはほとんど知られてい ない。そこで今回,我々はラット上顎臼歯部への炭酸ガスレーザー照射による歯髄組織への影響を組織学的, 免疫組織化学的ならびに分子生物学的に検討した。 2.研 究 方 法 実験動物は体重200g の Sprague-Dawley 系雄性ラット65匹を用いた。ラットは腹腔内麻酔後,上顎第一臼 歯咬合面に炭酸ガスレーザーを照射した。炭酸ガスレーザー装置はパナラス C05∑(パナソニックデンタル社 製)を用いた。照射条件はパルス波(SP モード:パルス;0.6ミリ秒),出力2ワットに設定し,先端チップは 直径0.15mm のディフォーカスチップを用い,チップの先端と粘膜を接触させ8.8秒間照射した。なお,総エ ネルギーは4J であり,エネルギー密度は203.84J/cm2 と算出された。ラット臼歯象牙質を介した炭酸ガス レーザー照射による歯髄腔側の象牙質の温度変化を観察するために,抜去したラット上顎第一臼歯歯冠部を歯 軸に直行する面で切断し,髄角部に相当する歯髄側の象牙質に先端径0.1mm の Type K シース熱電対温度計 (岡崎製作所製)を固定し,炭酸ガスレーザー照射による温度変化を記録した。ラットは照射直後,6,12, 24,48時間後に第一臼歯を含む口蓋部を摘出し標本とした。対照群はレーザー照射を行わなかった反対側の同 部位とした。標本は光学顕微鏡的観察のために,10%中性緩衝ホルマリン溶液で浸漬固定し,通法に従いパラ フィン切片を作製した後,HE 染色し観察した。免疫組織化学的観察として熱やストレスの影響を検索するた めに HSP-70(Heat Shock Protein-70),修復性変化の観察として VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor), 神経系幹細胞もしくは象牙芽細胞の検索のために Nestin,神経線維束の観察のために NFP(Neurofilament Protein)を一次抗体として免疫組織化学染色を行なった。分子生物学的検討のために,炎症性サイトカインで ある TNF-α(Tumor Necrotizing Factor-α)および IL-1(Interleukin-1)の mRNA の発現を RT-PCR を用いて 測定し,得られた結果は ANOVA(p<0.05)および Sheffe s test を用いて検定した。
氏 名(本 籍) イ ドン ホ
李
東
瑚
(韓国) 学 位 の 種 類 博 士(歯 学) 学 位 記 番 号 第 1882 号(乙第748号) 学 位 授 与 の 日 付 平成23年3月9日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第2項該当学 位 論 文 題 目 Pulp Responses After CO2Laser Irradiation of Rat Dentin
掲 載 雑 誌 名 Photomedicine and Laser Surgery 第31巻 2号 59−64頁
2013年2月 論 文 審 査 委 員 (主査) 井上 孝教授 (副査) 中川 寛一教授 一戸 達也教授 下野 正基教授 栁澤 孝彰教授 歯科学報 Vol.113,No.4(2013) 444 ― 96 ―
3.研究成績および結論 象牙質を介して炭酸ガスレーザーを照射した時の歯髄腔側での温度変化の結果からは22.5℃の温度上昇で あった。光学顕微鏡的観察では,ラット上顎第一臼歯には咬耗した咬合面と内側の歯髄組織とが交通する巨大 な象牙細管が開口し,露髄している像がみられた。また,照射直後には髄角部の象牙芽細胞直下の歯髄組織に 明らかな炎症性細胞の集簇像は認めなかったものの,わずかな硝子様変性や空胞変性がみられた。免疫組織化 学染色の結果からは,HSP-70,VEGF は炭酸ガスレーザー照射直後から陽性反応が見られたが,5日後には 弱い発現を示した。Nestin と NFP は対照群と照射直後の象牙芽細胞,象牙細管および象牙芽細胞層直下の歯 髄細胞に陽性がみられたが,5日後では深部の歯髄細胞にのみ陽性反応が見られた。分子生物学的検討では, TNF-α mRNA,IL-1 mRNA ともに,照射6時間後から12時間後,24時間後と経時的に増加し,24時間後を ピークとする発現の上昇がみられた。しかしながら,48時間後にはコントロール群と比較して明らかな差はみ られなかった。 これらの結果より,炭酸ガスレーザーによるラット歯髄組織に対する影響は,主に炭酸ガスレーザーの熱作 用の影響により象牙質直下の歯髄細胞がわずかに変質する軽度の影響であっても,歯髄組織における炎症性サ イトカインの発現を惹起し,経時的に増加させることが明らかとなり,歯髄組織の炎症反応と修復性変化とし ての複雑なサイトカインネットワークが始動し,神経線維ならびに神経幹細胞が一過性に消失することが示唆 された。 論 文 審 査 の 要 旨 炭酸ガスレーザーは深部組織への為害性が少なく,臨床では象牙質知覚過敏症の治療に際し,露出した象牙 質,象牙細管の表層を物理的に封鎖することを期待して用いられている。しかしながら細管を通した歯髄組織 への影響やメカニズムの基礎的研究は少なく不明な点が多く,本論文ではラット上顎第一臼歯咬合面に炭酸ガ スレーザーを照射した際の歯髄組織での影響について検討したものである。 本審査委員会は平成23年2月10日(木曜日)に行われた。まず李専攻生から論文内容について説明がなされ た。次いで,各委員より1)分子生物学的検討において TNF-α mRNA,IL-1 mRNA を用いた理由,2)免 疫組織化学的観察において HSP-70,VEGF,Nestin および NFP を用いた理由,3)温度上昇と歯髄組織への 影響について質問された。これらの質問に対して1)TNF-α mRNA,IL-1 mRNA は炎症性サイトカインの 初期に反応するものであるため,2)HSP-70は熱やストレスによる歯髄細胞への影響を検討し,VEGF は歯 髄組織の修復性変化の発現を観察するため,Nestin および NFP は象牙芽細胞や神経系幹細胞ならびに神経線 維への影響を検討するために今回用いた,3)温度変化測定時は乾燥した歯冠部組織での測定であったため, 実際の組織では病理組織所見での髄角部歯髄の退行性変化はごくわずかである点から,象牙細管内の組織液や 歯髄の血流などを考慮すると温度上昇はもっと低く抑えられている可能性が考えられる,など概ね妥当な解答 を得た。その他,論文の整理,用語の統一,図の表現方法および適切性など多くの修正すべき点が指摘され, 訂正が行われた。 本研究で得られた炭酸ガスレーザーの歯髄組織に関する知見は歯科医学の進歩発展に貢献するところが大で あり,学位授与に値すると判定された。 歯科学報 Vol.113,No.4(2013) 445 ― 97 ―