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精神疾患における運転行動の実態と運転特性 ―統合失調症を中心に― 平成24年度(中間報告)タカタ財団助成研究論文 ISSN 2185

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精神疾患における運転行動の実態と運転特性

―統合失調症を中心に―

― 平成 24 年度(中間報告) タカタ財団助成研究論文 ―

研究代表者

松井 三枝

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研究実施メンバー

研究代表者

富山大学大学院医学薬学研究部心理学 准教授

松井

三枝

研究協力者

富山大学大学院医学薬学研究部心理学 研究員

星野

貴俊

富山大学大学院医学薬学研究部心理学 特命助教

片桐

正敏

富山大学大学院医学薬学研究部精神医学 教授

鈴木

道雄

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報告書概要

統合失調症を中心とした精神疾患における運転行動の実態調査および運転特性に 関する検討を行なうことを目的とした.第 1 に当事者家族に運転免許の有無、運転の 必要性や運転の実際、事故の経験の有無などの質問紙による調査を実施した。結果、 患者の 81.1%が免許保持者であった。現在運転する人は全対象者の 58.0%、免許保持 者のうちの 72.7%であった。全体として当事者の運転への関心と日ごろの運転頻度も 比較的高いことが示されたといえる。さらに、同対象者の家族に当事者の種々の日常 生活上の認知機能の困難さについて評定してもらい、そのことと運転行動との関係を 調べた。結果、免許保持者のほうが非保持者よりも全般的な家族からみた認知機能面 での困難度が低かった。第 2 は運転シミュレーターを用いて統合失調症患者の運転特 性を明らかにすることである。患者の反応時間、注意、エラーなど運転シミュレータ ーによる具体的な運転行動特性の予測を行なう。また、同時に注意や記憶などの心理 学的認知課題を個別に実施し、どういった認知特性と運転行動特性が関連しているか を明らかにする。これまでの結果から、統合失調症患者では健常者より課題によって 反応時間が遅いことがうかがえたが、いくつかの指標では両者で差異が認められなか った。健常者では、シミュレーターによる一部の運転指標と統合失調型パーソナリテ イや記憶や注意機能との関連が認められた。

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目 次

精神疾患における運転行動の実態と運転特性―統合失調症を中心に― 第 1 章 はじめに 1.1 研究背景 1.2 目的 第 2 章 車運転行動の実態調査 2.1

車運転の実態

2.2

方法

2.3

結果

2.3.1 車運転行動の実態 2.3.2 認知機能障害との関連 第 3 章 運転シミュレーターによる検討 3.1

運転シミュレーターによる運転特性

3.2

方法

3.3

結果

第 4 章 運転シミュレーターによる運転特性と認知機能の 関連 4.1 健常者における運転特性と認知機能 4.1 .1 方法 4.1 .2 結果 4.2 統合失調症患者おける運転特性と認知機能 4.2 .1 方法 4.2 .2 結果 第 5 章 まとめと今後の課題 参考文献 付録

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第 1 章

はじめに

1.1 研究背景 精神疾患の中でとくに統合失調症患者は 100 人にひとりの有病率があり、非常に頻 度の高い疾患である.思春期から青年期に好発し、これまで一旦発病した後は生涯治 療が必要と考えられる疾患であった.しかしながら、昨今は生活機能を高めるための アプローチが重視されてきている.ところで、自動車を運転することは現代の生活に おいてかかせないものになってきているはいうまでもない.2010 年に行われた国勢調 査の結果によると,15 歳以上の自宅外通勤・通学の利用交通手段が1種類と答えた人 は 88.6%であり,そのうち自家用車だけと答えた人は 45.5%と最も多い(総務省統計 局,2012).また、自動車を運転するということが交通の手段として必要であるだけで なく,運転ができない場合、行動範囲が狭くなる,日常生活が不便になるといった心 理・社会的側面にマイナスの影響も考えられる.したがって、精神障害のある人たち にとっても、生活の質から考えると、車を運転することの可否は重要なことになって くる.道路交通法施行令において免許の拒否又は保留の事由となる病気等として第三 十三条の二の三で統合失調症が挙げられているが,自動車等の安全な運転に必要な認 知,予測,判断又は操作のいずれかに係わる能力を欠くおそれのある症状を呈しない ものを除くとされている(内閣,国土交通省, 2010).しかしながら、この点に関しては 明白な基準はないのが現状である. 1.2 目的 本研究の目的は、統合失調症を中心とした精神疾患における運転行動の実態調査お よび運転特性に関する検討を行なうことを目的とした. 第 1 の目標は統合失調症を中心とした精神疾患における運転行動についての実態を 明らかにすることである.車の運転免許の有無、運転の必要性や運転の実際、事故の 経験の有無など、患者および患者の家族に調査を行なう. 第 2 の目標は運転シミュレーターを用いて統合失調症患者の運転特性を明らかに することである.患者の反応時間、注意、エラーなど運転シミュレーターによる具体 的な運転行動特性の予測を行なう.そのために健常者と患者双方に運転シミュレータ ー課題を実施し比較検討を行なう.また、同時に注意や記憶などの心理学的認知課題

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6/75 を個別に実施し、どういった認知特性と運転行動特性が関連しているかを明らかにす る.さらに、患者の重症度や臨床症状や服薬状況を同時にチェックして、その関連を 検討することにより、患者の状態や治療と運転行動特性や認知特性との関連を明らか にする. なお、本研究は富山大学倫理委員会の承認を得ている.

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第 2 章

車運転行動の実態調査

2.1 車運転の実態調査 統合失調症患者の実態行動を明らかにするために、質問紙による調査を行なうこと とした.さらに、日常生活における認知機能障害の調査も質問紙により行ない、運転 行動と日常認知機能との関連を検討する. 2.2 方法 協力者: 本調査の協力者は 2012 年度の間に,富山県内で開催された統合失調症 の患者をもつ家族のための心理教育セミナーへの参加者87 名であった.このうち,同 一の患者について回答が複数発生するケースとして,父母が一緒にセミナーに参加し た場合(10 組)および同一の参加者が複数回セミナーに参加した場合(3 名)があっ た.前者の場合は,父母のうち回答の際にイニシアチブを取っていたほうを採用し, 全10 組とも父親側が採用された.後者の場合は,他の回答者との整合性を図るために 初めて行った分の回答を採用することとし,74 名分の回答が分析された.回答者の属 性は,父母58 名(78.4%),兄弟姉妹 14 名(18.8%),配偶者 1 名(1.4%),その他 1名(1.4%)であった. 調査対象患者: 本調査の対象となった統合失調症患者は,男性32 名(43.3%), 女性35 名(47.3%),および不明7名(9.5%)であった.患者の平均年齢は 35.9 歳 (SD=10.2)であり,発症年齢の平均は 24.9 歳(SD=8.6),罹病期間の平均は 10.4 年(SD=8.4)であった(Table 2.1). 調査票 本研究では以下の2 つの調査票を実施した. 1. 運転行動調査票:統合失調症患者本人の運転行動について,「免許の有無」,「運 転する機会の有無」,「運転頻度」,および「事故の経験の有無」の回答を求めた.運転 頻度については,1.たまに~4.毎日の4件法にて調査をおこなった. 2. 日常的認知機能質問紙:種々の日常場面における認知機能障害の程度を評定す る目的で作成された20 項目の尺度であり,注意,記憶/学習,問題解決,ワーキング メモリ,言語処理,および運動機能という6 つの下位領域から構成される(Keefe, Poe, Walker, Kang & Harvey, 2006).項目内容は日常場面を指示しており(「物を置いた 場所を覚える」,「言おうとしたことを覚えておく」など),その際の困難度を4 件法に

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8/75 て回答を求めた(0.全くない ~ 3.いつもある).得点が高いほど認知機能障害の程度 が高いことを示す. Table 2.1. 調査対象者(患者)の背景情報 n=74 min max M SD 年齢(歳) 20 61 35.9 10.2 発症年齢(歳) 14 51 24.9 8.6 罹病期間(年) 0 40 10.4 8.4 統計解析:運転行動実態について,運転行動調査票から免許所持率,運転機会など について基本統計量を算出した.また,運転行動の質的な違い(免許の有無など)に より認知機能レベルあるいは臨床的背景(発症年齢・罹病期間)に差異が見られるか どうかを t 検定および分散分析を用いて検討した.認知機能レベルと臨床状態につい ても単純相関を求めて関連性を検討した. 2.3 結果 2.3.1 車運転行動の実態 運転行動調査: 調査対象患者における免許保持率は 81.1%(60/74 名)であった (Figure 2.1).ただし,1 名が無回答であり,有効回答が得られた 73 名中では免許保 持者が82.2%を占める. 次に,日常生活で運転する機会があるかどうかについて,免許保持者の71.7%(44/60 名)で運転機会が「ある」と回答された. 運転機会のある場合の運転頻度では,「毎日」が21.6%(17 名),「しばしば」が8.1% (6 名),「時折」が18.9%(14 名),「たまに」が10.8%(8 名)であった(Figure 2.2). 運転頻度の高い人(「毎日」,「しばしば」)と低い人(「時折」,「たまに」)の割合は等しく, 調査対象患者74 名で見ると,よく運転している人が 3 割,たまに運転する人が 3 割,運 転しない人と免許を持っていない人が合わせて4 割といった内訳であった(Figure 2.3). 免許保持者60 名に対して,運転中に何らかの損傷(物的あるいは人的)を伴うよう な事故を起こしたことがあるかどうかを調査した結果,「事故の経験あり」との回答は

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9/75 28.3%(17/60 名)であった.事故の詳細については本調査時点では不明であるが, 自由記述の内容から,「駐車場で隣の車にこすった」などの軽い運転ミスも「事故」と して含めている結果であり,道路上で危険を伴うようないわゆる交通事故(追突,衝 突など)の記述は見られなかった. Figure 2.1. 調査対象患者における免許保持率(n=74) Figure 2.2. 患者における運転頻度 Figure 2.3. 対象患者全体での運転頻度 (n=45) (n=74)

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10/75 運転行動と臨床状態との関連:臨床的背景について情報の得られた68 名を分析対象 とし,免許あり群と免許なし群における臨床的背景を Table 2.2 に示した.免許の有 無によって臨床的背景に差異が見られるかどうかを検討した結果,免許の有無によっ て平均年齢や発症年齢に有意差は見られなかった(順に,t(66)=.81, t(66)=1.22, ns). 一方,罹病期間では有意差が見られ,免許あり群のほうが期間は短かった(t(66)=2.81, p=.007). Table2.2. 免許の有無と臨床的背景の関連(N=69) 免許あり (n=55) 免許なし (n=13) M SD M SD 年齢(歳) 35.1 9.2 37.5 12.4 発症年齢(歳) 28.8 7.9 22.5 10.4 罹病期間(年) 8.7 6.7 15.0 9.2 *免許保持者の 5 名について当該データが得られなかった. 免許保持者において,日ごろの運転機会の有無により臨床的背景に差異が見られる かどうか,当該データの得られた54 名について検討した(Table 2.3).その結果,発 症年齢および罹病期間では有意差は認めらなかった(順に,t(53)=.22, t(53)=1.51, ns). 一方で,運転機会あり群の方がなし群よりも年齢が若い傾向が認められた(t(53)=1.87, p=.067). 次に,免許の非保持者も含めて,運転機会の有無と臨床的背景との関連を検討した (Table 2.4).その結果,罹病期間の長さにおいて有意差が認められ,運転機会あり 群の方がなし群に比べて罹病期間が短かった(t(67)=3.28, p=.002).また,運転機会 あり群の方がなし群よりも平均年齢が低い傾向が認められた(t(67)=1.96, p=0.54). 発症年齢では差異は見られなかった(t(67)=1.06, p=.291).

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11/75 Table 2.3. 免許保持者における運転機会の有無と臨床的背景 運転機会あり (n=40) 運転機会なし (n=15) M SD M SD 年齢(歳) 33.8 9.4 39.1 8.2 発症年齢(歳) 25.7 8.7 26.3 5.4 罹病期間(年) 8.0 6.6 11.3 7.1 *免許保持者の 5 名について当該データが得られなかった. Table 2.4. 調査対象患者における運転機会の有無と臨床的背景 運転機会あり (n=40) 運転機会なし (n=29) M SD M SD 年齢(歳) 33.9 9.5 38.7 10.7 発症年齢(歳) 25.9 8.9 23.6 7.8 罹病期間(年) 7.8 6.4 14.2 9.7 *運転機会なし群は免許の非保持者を含む. *調査対象の 5 名(免許保持者 5 名)について当該データが得られなかった. 本調査においては運転頻度を4 段階(「毎日」,「しばしば」,「時折」,「たまに」)に 分類して回答を求めた.そこで,運転頻度と臨床的背景との間に関連があるかどうか を検討した結果,年齢・発症年齢・罹病期間のいずれも運転頻度による差異は見られ なかった(Table 2.5). 次に,運転頻度の高い人(「毎日」,「しばしば」)と低い人(「時折」,「たまに」)に 分類した上で,運転しない人(「機会がない」および免許なし)との比較をおこなった (Table 2.6).その結果,罹病期間において有意差が認められ(F(2,68)=4.00, p=.023), とくに,運転しない人は運転頻度の高い人および運転頻度の低い人に比べて罹病期間 が長い傾向が認められた(順に,p=.057, p=0.41, Tukey’s HSD).

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12/75 Table 2.5. 免許保持者における運転頻度と臨床的背景 「毎日」 (n=17) 「しばしば」 (n=6) 「時折」 (n=14) 「たまに」 (n=8) M SD M SD M SD M SD 年齢(歳) 35.0 8.1 29.0 8.1 33.8 10.8 36.5 10.9 発症年齢(歳) 25.8 9.3 23.5 7.4 25.3 11.0 28.9 5.2 罹病期間(年) 9.3 6.4 5.5 4.2 7.5 6.5 8.3 8.6 *免許保持者の 5 名について当該データが得られなかった. Table 2.6. 調査対象患者における運転頻度と臨床的背景 高頻度 (n=23) 低頻度 (n=22) 運転しない (n=29) M SD M SD M SD 年齢(歳) 33.2 8.4 34.8 10.7 37.9 10.3 発症年齢(歳) 25.1 8.6 26.7 9.2 23.7 8.3 罹病期間(年) 8.2 6.0 7.8 7.2 13.3 8.4 *運転しない群は免許の非保持者を含む. *免許保持者の 5 名について当該データが得られなかった. 最後に,事故経験の有無により臨床的背景が異なるかどうかを検討した結果,年齢・ 発症年齢・罹病期間とも差異は認められなかった(Table 2.7).

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13/75 Table 2.7. 免許保持者における事故経験の有無と臨床的背景 事故あり (n=17) 事故なし (n=34) M SD M SD 年齢(歳) 35.8 9.8 33.1 9.2 発症年齢(歳) 25.2 7.7 25.0 9.0 罹病期間(年) 9.3 8.6 7.8 5.8 *9 名において事故経験あるいは臨床的背景のデータを得られなかった. 2.3.2 認知機能障害との関連 免許の有無と家族によって評定された認知機能障害の程度との間に関連が見られる かどうかを検討した結果,注意を除くすべての認知機能領域および総得点で有意差が 認められ,免許保持者のほうが認知機能上の困難度が低かった(Table 2.8). Table 2.8. 免許の有無と家族評定による認知機能障害との関連(n=73) 免許あり(n=59) 免許なし(n=14) M SD M SD possible range t p 注意 2.3 1.6 2.9 2.1 0-6 1.22 0.23 記憶/学習 2.9 2.1 5.0 4.9 0-15 2.39 0.02 問題解決 2.4 2.1 4.2 2.7 0-9 2.45 0.02 WM 2.0 1.6 3.5 2.9 0-9 2.58 0.01 言語処理 3.5 2.5 5.3 3.4 0-12 2.11 0.04 運動 2.0 1.7 3.7 2.1 0-9 3.18 0.00 総得点 15.1 10.2 23.9 15.8 0-60 2.34 0.02 *免許保持者の 1 名について当該データが得られなかった.

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14/75 免許保持者において,日ごろの運転機会の有無により家族により評定された認知機能 障害の程度に差異が見られるかどうかを検討した結果,すべての認知機能領域および 総得点において有意差は認められなかった(ps > 0.18, n.s.). 次に,免許の非保持者も含めた調査対象患者全体において運転機会の有無により認 知機能障害の程度に差異が見られるかどうかを検討した.その結果,運転機会のある 人のほうが言語処理および運動機能において困難度が有意に低く,ワーキングメモリ および総得点においても同様の傾向が認められた(Table 2.9). Table2.9. 対象患者全体における運転機会と認知機能障害との関連(n=70) 運転機会あり (n=41) 運転機会なし (n=29) M SD M SD possible range t p 注意 2.3 1.5 2.6 1.9 0-6 0.83 .41 記憶/学習 2.9 2.2 3.8 3.7 0-15 1.31 .20 問題解決 2.6 2.3 2.9 2.3 0-9 0.66 .51 WM 1.9 1.6 2.7 2.3 0-9 1.85 .07 言語処理 3.1 2.5 4.8 2.9 0-12 2.59 .01 運動 1.8 1.8 2.9 1.8 0-9 2.46 .01 総得点 14.5 11.0 19.6 12.1 0-60 1.75 .09 *運転機会ありの 4 名について当該データが得られなかった. 免許保持者において,運転頻度により認知機能の差異が見られるかどうかを検討した 結果,すべての認知機能領域および総得点において有意差は認められなかった(ps > 0.23). 次に,運転頻度の高い人(「毎日」,「しばしば」)と低い人(「時折」,「たまに」)に 分類した上で,運転しない人(「運転機会なし」および免許非保持者)との比較をおこ

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15/75 なった(Table2.10).その結果,言語処理および運動機能において有意差が見られた (順に,F(2,68)=3.48, p=0.42; F(2, 68)=3.32, p=0.44).多重比較の結果,言語処理で は低頻度群は運転なし群よりも困難度が低かった(p=.032, Tukey’s HSD).また,運 動機能では運転なし群が他の2 群よりも困難度が高い傾向が認められた(高頻度群 vs. 運転なし群,p=075; 低頻度 vs. 運転なし群,p=.091). 最後に,免許保持者において,事故の経験の有無により認知機能の差異が見られる かどうかを検討した結果,すべての認知機能領域および総得点において有意差は認め られず(ps>0.31),ドライバー内にあっては事故と関連する特異な認知機能領域は検 出されなかった. Table 2.10. 対象患者全体における運転頻度と認知機能障害の関連(n=69) 高頻度 (n=21) 低頻度 (n=20) 運転なし (n=28) M SD M SD M SD F p 注意 2.2 1.7 2.4 1.4 2.6 1.9 .34 .71 記憶/学習 3.2 2.5 2.7 1.8 3.8 3.7 .83 .44 問題解決 2.6 2.4 2.8 2.3 2.9 2.3 .06 .94 WM 2.1 1.7 1.8 1.6 2.7 2.4 1.30 .28 言語処理 3.6 2.9 2.8 2.0 4.8 2.9 3.48 .04 運動 1.8 1.9 1.9 1.8 3.0 1.8 3.32 .04 総得点 15.0 11.9 14.9 10.1 19.6 12.3 1.32 .27 *5 名について当該データが得られなかった 2.3.3 患者の臨床的背景と認知機能障害との関連 年齢・発症年齢・罹病期間と認知機能の各領域における障害の程度との間の相関分 析をおこなった結果,いずれの変数の間にも有意な相関は見られなかった(Table 2.11). ここから,年齢・発症年齢・罹病期間といった要因に影響されて家族が患者をシビア に査定する,といったようなバイアスは見られないと考えられた.

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16/75 Table 2.11. 臨床的背景と認知機能障害との単純相関(n=66) 注意 記憶/学習 問題解決 WM 言語処理 運動 総得点 年齢(歳) .06 .24 .06 .14 .07 .18 .08 発症年齢(歳) .15 .24 .06 .15 .00 .16 -.03 罹病期間(年) -.08 .02 .01 .02 .04 .04 .09 *すべての変数において欠損値のない 66 名を分析の対象とした(df=64).

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第 3 章

運転シミュレーターによる検討

3.1 運転シミュレーターによる運転特性 統合失調症患者および心身ともに健康な健常対象者に運転シミュレーター検査を個 別に実施し、それから導き出される運転特性について検討を行なうこととした。 3. 2 方法 参加者:患者群は、富山大学附属病院神経精神科に通院中ないしは入院中で、国際 疾病分類第 10 版(ICD-10)の診断基準を満たす 統合失調症患者であった。健常者 については、学内掲示版でのポスター等の掲示および心理学教室ホームページにおい て募集を行なった。以下が参加条件であった。 患者の参加条件 1) 精神科医によりICD-10で統合失調症と診断されている患者 2) 病状が比較的安定している患者 3) 本人もしくは代諾者より文書で同意が得られた患者 健常者の参加条件 1) 検査を受検することができる心身ともに健康な人 2) 学生が応募された場合は、担当講義の受講生など、利害関係が生じる恐れの ない健常者 3)本人より文書で同意が得られた健常者 研究対象者の除外基準 患者、健常者とも以下の除外基準を設ける。 1) アルコールや薬物依存をもつ者 2) 暴力や自殺企図、衝動行為などの危険性が高い者 3) 明らかな知的障害がある者 検査の中止

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18/75 以下に該当する場合は検査を中止とする。 1)被験者本人もしくはご家族の方が検査の中止を希望された場合。 2)健康状態等により担当医師ないしは検査担当者がそれ以降の検査を中止した方 がよいと判断した場合。 3)被験者本人の安静保持困難など検査の継続が困難と判断された場合。 統合失調症患者群は 41 名(女性 16 名)がすべてのシミュレーター検査を完了した. 健常群は104 名(女性 38 名)であった.両群の基本情報を Table3.1 に示した.年齢 および推定IQ 値において有意差が見られ,患者群のほうが健常群に比べて平均年齢が 高く(31.6 vs. 25.3, t(143)=3.72, p<0.001),推定 IQ 値が低かった(99.0 vs 108.1, t(143)=6.25, p<0.001).教育年数において有意差は見られなかった. また,患者群における臨床的背景として発症年齢,罹病期間,および症状評定値を Table3.2 に示した.症状評価には The Scale for Assessment of Positive Symptoms (SAPS; Andreasen, 1984a) お よ び The Scale for Assessment of Negative Symptoms (SANS; Andreasen, 1984b) を用いた.

Table 3.1. 参加者の基礎情報 患者群 (n=41) 健常群 (n=104) M SD M SD t p 年齢(歳) 31.6 9.5 25.3 9.0 3.72 <.001 教育年数 14.0 2.2 14.7 2.3 1.81 .07 推定IQ 99.0 7.7 108.1 8.1 6.25 <.001

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19/75 Table 3.2. 患者における臨床的背景情報 min max M SD 発症年齢(歳) 18 40 21.4 5.8 罹病期間(年) 1 30 9.8 7.3 陽性症状 0 81 19.5 18.8 陰性症状 2 80 32.7 20.3

*陽性症状= The Scale for Assessment of Positive Symptoms (SAPS) *陰性症状= The Scale for Assessment of Negative Symptoms (SANS)

運転特性検査 : 本研究では運転特性の測定に運転適性検査器 CG400(竹井機器工 業)を使用した.本検査は視覚的認知に基づいたアクセル,ブレーキのペダル操作, ハンドル操作といった運転行動に必要な基本的動作機能および反応出力の速さ,正確 性などを検出できる(自動車技術会,2005).以下に本検査器における検査項目と検 査指標の詳細を述べる.Table3.3 には検査項目と指標の要約を,Figure 3.1 には各検 査の実施画面を示した. 1. 単純反応検査:道路走行において,前走する車両に追従する場面であり,前走 車両のブレーキランプが点灯したらできるだけ速くアクセルペダルから足を離す(エ ンジンブレーキを掛ける)反応が要求される.本検査での指標は,反応時間,および 反応時間のバラつきを示す変動係数(Coefficient of variation; C.V.)である. 2. 選択反応検査:信号機にランダムに点灯する色別のシグナルに応じて選択的に 応答する検査であり,青ではアクセルを踏み続け(応答せず),黄色ではアクセルペダ ルから足を離す.また赤色ではアクセルペダルから足を離してブレーキペダルを踏む 応答が課される.本検査の指標は,誤反応数,反応時間,および反応時間のバラつき を示す変動係数である. 3. ハンドル操作検査:道路走行場面において,遠方にビルが表示される.このビ ルが画面中央から右または左に表示され,これを目標としてハンドル操作により車体

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20/75 をビルに向ける操作を3 分間おこなう.本検査の指標は,正反応数,左右比(式.3.1), および節約率(式.3.2)である. 左右比 = TL / TR (式.3.1) TL:左ハンドル操作での反応時間 TR:右ハンドル操作での反応時間 節約率 = [(T1 – T3)/ T1] × 100 (式.3.2) T1 : 最初の 1 分間での正反応における平均反応時間 T3:最後の1 分間での正反応における平均反応時間 4. 注意分配・複数作業検査:直線道路の走行場面であり,視野中央部に赤色のス ペースが設けられる.このスペースには右向きまたは左向きの矢印がランダムに呈示 され,できるだけ早くその方向にハンドルを切る操作が要求される.加えて,視野周 辺部には「一時停止(赤)」,「駐車可(青)」,または「その他の危険(黄)」を模した 標識がランダムに呈示される.赤色の標識の場合のみ,アクセルを離してブレーキペ ダルを踏む応答が課され,他の 2 つが呈示されても応答しない.視野中央部と視野周 辺部の刺激は同時呈示されることはないため,ハンドル操作とペダル操作を同時に実 行することはない.本検査の指標は,視野中央部および視野周辺部の各々についての 誤反応数,反応時間,および反応時間のバラつきを示す変動係数である.

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21/75 Table 3.3. 運転特性検査における検査細目と検査指標 検査項目 (修正した名称案) 指標の内容 1.単純反応検査 反応時間 全試行の平均反応時間 変動係数 (個人内での SD)/(個人の平均値)×100 2.選択反応検査 誤反応数 反応時間 全試行の平均反応時間 変動係数 (個人内での SD)/(個人の平均値)×100 3.ハンドル操作検査 正反応数 3分間の正反応の数 左右比 反応時間(左)/反応時間(右) ※正反応までの所要時間 節約率 [(T1-T2)/T1]×100 T1:最初の1分間での正反応における 平均反応時間 T2:最後の1分間での正反応における 平均反応時間 4.注意分配・ 複数作業検査 中央視野 誤反応数 反応時間 中央視野に呈示された刺激への平均反応時間 変動係数 (個人内での SD)/(個人の平均値)×100 周辺視野 誤反応数 反応時間 周辺視野に呈示された刺激への平均反応時間 変動係数 (個人内での SD)/(個人の平均値)×100

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知能検査: 本研究では知的機能の評価のために Japanese Adult Reading Test 50 項目版 (JART-50;松岡・金,2006)を実施した.この検査は変則的な読みを持つ漢字 を音読させることにより推定 IQ(Intelligence Quotient)を算出する.この方法で, 統合失調症のような認知機能障害を伴う疾患の罹患者にあっては病前の推定 IQ を算 出できる(Tracy et al., 1996).

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24/75 手続き: 参加者は検査室に到着後,知的機能評定のために JART-50 を実施した. 次に,運転シミュレーターCG400 により運転特性検査を実施した.運転検査は「単純 反応検査」,「選択反応検査」,「ハンドル操作検査」,「注意分配・複数作業検査」の順 に実施された.所要時間はおよそ40 分であった. 3.3 結果 1. 単純反応検査 参加者の基本情報(年齢,教育年数,推定 IQ)および患者の場 合は臨床的背景(発症年齢,罹病期間,投薬量,陽性症状,陰性症状)が検査の遂行 成績と関連を示すかどうか検討するために単純相関を算出した(Table3.4).その結果, 参加者全体では年齢が反応時間および変動係数の両指標ともに有意な相関を示した (順に,r(143)=.23, r(143)=.37, ps<.01).また,患者における発症年齢も両指標と有 意な相関を示した(順に,r(39)=.34, r(39)=.35, ps<.05).陽性症状得点(SAPS)が 反応時間と有意な相関を示した(r(39)=47, p<.01). Table 3.4. 基本情報および臨床的背景情報と単純反応検査指標との相関 反応時間 変動係数 年齢 0.23* 0.37* 教育年数 0.05 0.06 推定 IQ 0.13 0.08 発症年齢 0.34* 0.35* 罹病期間 0.09 0.24 投薬量 -0.17 0.17 SAPS 0.47** 0.19 SANS -0.05 -0.02 *基本情報は健常群および患者群 *臨床的背景情報は患者群のみ

*陽性症状= The Scale for Assessment of Positive Symptoms (SAPS) *陰性症状= The Scale for Assessment of Negative Symptoms (SANS)

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25/75 次に,単純反応検査指標において患者群の遂行成績が健常群と異なるかどうかを検 討した(Table 3.5).両群において等分散性が得られなかったため群間の比較には Mann-Whitney の U 検定をおこなった.その結果,反応時間および変動係数の両指標 で有意差が認められ,患者群のほうが反応時間は長く,変動係数(反応時間のバラつ き)が大きかった(ps < 0.001). Table 3.5. 単純反応検査における群別平均および標準偏差 単純反応検査 患者群 (n=41) 健常群 (n=104) U 検定 M SD M SD p 反応時間 376.0 106.8 314.4 29.9 <.001 変動係数 16.3 8.0 9.5 4.3 <.001 2. 選択反応検査 参加者の基本情報および患者の場合は臨床的背景が検査の遂行 成績と関連を示すかどうか検討するために単純相関を算出した(Table3.6).その結果, 参加者の年齢と反応時間の間に有意な相関が見られ(r(143)=.20, p<.05),年齢が高い ほど反応時間が長くなる傾向が認められた.また,患者群において罹病期間と変動係 数に有意な相関が認められ(r(39)=42, p<.05),罹病期間が長いほど反応時間のバラつ きが大きかった.

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26/75 Table 3.6. 基本情報および臨床的背景情報と選択反応検査指標との相関 誤反応数 反応時間 変動係数 年齢 0.03 0.20* 0.27 教育年数 0.24 0.14 -0.06 推定IQ 0.24 0.06 -0.05 発症年齢 0.06 0.15 -0.06 罹病期間 0.03 0.17 0.42** 投薬量 -0.19 -0.14 0.23 SAPS -0.08 0.14 -0.03 SANS 0.03 0.13 0.09 *基本情報は健常群および患者群 *臨床的背景情報は患者群のみ 本検査指標においても等分散性が得られなかったため,Mann-Whitney の U 検定に より患者群の遂行成績が健常群と異なるかどうかを検討した(Table 3.7).その結果, 患者群のほうが有意に誤反応数が多く,反応時間が長かった(順に,p<.05, p<.001). 反応むらにおいては有意差が見られなかった(p=.69). Table 3.7. 選択反応検査における群別平均および標準偏差 選択反応検査 患者群 (n=41) 健常群 (n=104) U 検定 M SD M SD p 誤反応数 6.4 5.9 4.9 5.3 <.05 反応時間 982.5 181.1 803.6 132.4 <.001 変動係数 16.2 16.2 14.1 6.1 .69

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27/75 3. ハンドル操作検査 参加者の基本情報および患者の場合は臨床的背景が検査の 遂行成績と関連を示すかどうか検討するために単純相関を算出した(Table3.8).その 結果,年齢と正反応数および節約率との間に有意な相関が認められ(順に,r(143)=-.37, p<.01; r(143)=-.44, p<.01),年齢が高いほど 3 分間での正反応数が少なく,時間の経 過に伴う節約率が小さかった.また,患者群において発症年齢と節約率の間に有意な 相関が認められた(r(39)=-.43, p<.01). Table 3.8. 基本情報および臨床的背景情報とハンドル操作検査指標との相関 正反応数 左右比 節約率 年齢 -0.37 ** 0.11 -0.44** 教育年数 0.11 -0.24 -0.02 推定 IQ -0.02 -0.19 -0.09 発症年齢 -0.28 0.13 -0.43** 罹病期間 -0.20 0.04 -0.26 投薬量 -0.21 -0.19 -0.29 SAPS -0.10 0.10 0.03 SANS 0.03 -0.25 -0.23 *基本情報は健常群および患者群 *臨床的背景情報は患者群のみ 本検査指標においては群間で等分散性を得られたため,t検定により患者群の遂行 成績が健常群と異なるかどうかを検討した(Table 3.9).その結果,患者群で正反応 数が有意に少なかった(t(143)=3.27, p<.001).一方,「左右比」および「節約率」で は有意差は見られなかった(t(143)=1.14, p=.26; t(143)=0.27, p<.79, n.s.).

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28/75 Table 3.9. ハンドル操作検査における群別平均および標準偏差 ハンドル操作検査 患者群 (n=41) 健常群 (n=104) M SD M SD t p 正反応数 59.9 14.5 68.1 13.4 3.27 <.001 左右比 93.5 23.7 90.5 8.3 1.14 0.26 節約率 6.6 18.9 7.6 19.1 0.27 0.79 4. 注意分配・複数作業検査 参加者の基本情報および患者の場合は臨床的背景が検 査の遂行成績と関連を示すかどうか検討するために単純相関を算出した(Table3.10). Table 3.10. 基本情報および臨床的背景情報と注意分配・複数作業検査指標との相関 誤反応数 (中心) 反応時間 (中心) 変動係数 (中心) 誤反応数 (周辺) 反応時間 (周辺) 変動係数 (周辺) 年齢 0.19* 0.36** -0.06 0.26** 0.23** 0.05 教育年数 -0.16 -0.15 -0.08 0.05 -0.19 -0.17 推定 IQ 0.10 -0.24** -0.09 -0.03 -0.37** -0.11 発症年齢 0.31 0.23 -0.26 -0.07 -0.03 -0.06 罹病期間 0.05 0.30 0.17 0.49** 0.01 0.30 投薬量 0.01 0.18 0.26 0.14 -0.12 0.35 SAPS 0.00 0.18 0.28 0.10 0.15 -0.04 SANS -0.01 -0.01 -0.10 0.03 0.00 0.13 *基本情報は健常群および患者群 *臨床的背景情報は患者群のみ この検査の指標は,中心視野に呈示された刺激への「誤反応数」,「反応時間」,およ び「変動係数」と,周辺視野に呈示された刺激に対する「誤反応数」,「反応時間」,お

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29/75 よび「変動係数」である.すべての指標において群間の等分散性が得られなかったた め,Mann-Whitney の U 検定により患者群の遂行成績が健常群と異なるかどうかを検 討した(Table 3.11).その結果,中心視野および周辺視野の双方で患者群のほうが誤 反応数が多く(ps<.01),反応時間も長かった(ps<.001).一方,変動係数については 中心視野および周辺視野とも有意差は見られなかった(p>.12). Table 3.11. 注意分配・複数作業検査における群別平均および標準偏差 注意分配・複数作業検査 患者群 (n=41) 健常群 (n=104) U 検定 M SD M SD p 誤反応数 (中心) 1.6 3.6 0.2 0.55 <.01 反応時間 (中心) 600.8 82.7 517.1 59.2 <.001 変動係数 (中心) 14.5 6.0 12.8 3.1 0.12 誤反応数 (周辺) 2.4 4.4 0.4 0.56 <0.01 反応時間 (周辺) 645.8 90.6 555.3 61.4 <0.001 変動係数 (周辺) 17.4 8.3 16.7 10.2 0.66

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第 4 章

運転シミュレーターによる運転特性と認知機能の関連

4.1 健常者における運転特性と認知機能 まず健常者における運転特性と認知機能との関連を検討するために、運転シミュレ ーター検査の結果と種々の認知機能の測定結果との関連を調べることとした。 4.1.1 方法 参加者: 心身ともに健康な人(3 章の参加条件と同じ)65 名(女性 38 名; 年齢範囲 18-51; 平均年齢 22.0 歳; SD=5.3)が運転シミュレーターおよび認知機能評価のため の神経心理検査を完了した.Table4.1 に参加者の基本情報を示した. Table 4.1. 参加者の基本情報 min max M SD 年齢 18 51 22.0 5.3 教育年数 12 22 14.3 2.0 運転年数 0 33 2.9 5.1 推定IQ 89 123 107.3 7.3 統合失調型パーソナリティ 0 13 5.6 3.3

*統合失調型パーソナリティ= Schizotypal Personality Questionnaire – Brief (SPQ-B; Raine & Benishay, 1995) *運転年数は免許保持者(n=58)のみ.

*推定 IQ=Japanese Adult Reading Test (JART-50)による.

運転行動調査 家族調査時点で使用した運転行動調査票の内容をより詳細に改定し, 参加者の運転行動について聴取をおこなった.「免許の有無」,「運転機会の有無」,「運 転頻度」,「事故の経験の有無」に加えて,事故内容を詳しく聴取し,自損・物損事故 あるいは他車両との交通事故に分類した.

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統合失調型パーソナリティ特性 統合失調型パーソナリティとは,統合失調症の発症 リスクを高める性格特性であるとされ,アメリカ精神医学会による精神疾患の分類と 診 断 の 手 引 き Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-IV-TR (DSM-IV-TR; APA, 2000)では,「親密な関係で急に不快になること,認知的または知 覚的歪曲,および行動の奇妙さ」によって定義付られる.本研究では健常レベルの統 合失調型傾向としてSchizotypal Personality Questionnaire – Brief (SPQ-B; Raine & Benishay, 1995)を用いた測定をおこなった.SPQ-B は一般人口における統合失調 型パーソナリティ傾向を測定する目的で作成されており,DSM の定義に則って項目作 成がなされている(「姿は見えないが,私のまわりに人がいると感じたり,見えない力 が存在すると感じたりしたことがある」,「ときどき,人とは違う言葉の使い方をする ことがある」など).これらの項目に対して「はい」または「いいえ」で回答をおこな う.日本語版は伊藤ら(2008)による. 認知機能評価 シミュレーターによる運転特性との関連を検討するために,以下の 神経心理学的検査を実施した.

1. Japanese Verbal Learning Test (JVLT):言語性短期記憶と言語学習,長期記憶 の検査である.16 単語からなるリストを用いてきめい記銘材料の呈示および即時再生 を3 試行おこなう.リスト中の単語は 4 語ずつ 4 つの意味的クラスターにまとめられ るよう構成されている.3 試行の総再生数を指標とし,可能得点閾は 0-48 である.さ らに,20 分の間隔を開けて同 16 単語の遅延再生が求められる.遅延再生では可能得 点閾は0-16 となる.(Matsui et al, 2006, 2007). 2. WAIS-III 符号検査:視覚―運動協応における処理スピードを測定する.1 から 9 までの数字に各々符号が割り当てられており,その数字に応じた符号を120 秒間でで きるだけ多数回答する.正反応数の総数を指標とする.

3. Trail Making Test:視覚的探索と視覚的注意,および構えの転換を測定する.検 査用紙上にランダムに配された数字(1-25)を数字の順序通りにペンで辿ることが求 められるパート A と,数字(1-13)と五十音(あ-し)に対して「数字-五十音-数字-五十音」と各々を順序通りに辿るパートB から成る.遂行時間(秒)を指標とする. 4. WAIS-III 絵画完成:視覚的構成力を測定する.構成上何らかの要素を 1 か所だ け欠いたイラストを呈示して,その部分を指摘することが求められる.正答数を指標 とする.

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5. 線方向づけ課題:Repeatable Battery for the Assessment of Neuropsychological Status (RBANS;Randolph, Tierney, Mohr &Chase, 1998 ) に含まれる項目であり, 視覚情報判断の検査である.0°から 180°まで 15°区切りになった分度器様の目盛 りを呈示し,その下には分度器を構成する13 本の線分から任意に抽出された 2 本の線 分が描かれる.この2 本の線分が,分度器のどの線分(目盛り)と一致するかの判断 が求められる.10 試行おこない,正答数を指標とする. 6. WAIS-III 数唱課題:注意とワーキングメモリの検査である.呈示された数列を 順序通りに再生する順唱と,数列を呈示順とは逆の順番で回答する逆唱をおこなう. 各条件ともに正答数を指標とする. 7. 言語流暢性課題:前頭葉機能(遂行機能)検査として広く施行される検査である. 本研究では,「か」および「た」から始まる単語を産出する文字流暢性課題と,「動物」, 「果物」,「野菜」に該当する単語を産出するカテゴリー流暢性課題を実施した.1 試 行60 秒間である.各条件における産出数を得点とし,文字流暢性では「か」および「た」 の合計得点を,カテゴリー流暢性では「動物」,「果物」,および「野菜」の合計得点を 指標とした.

8. Wisconsin Card Sorting Test (WCST):認知的構え・概念の転換および抽象的思 考を含む遂行機能の検査である.カードに記載されたマークの色(赤・緑・黄・青),形(三 角形・星型・十字形・円),数(1 個~4 個)という 3 つの分類概念を推測し,1 枚ずつ渡さ れたカードを分類する課題で,逐一なされる検査者からの正誤のフィードバックを手 掛かりとする.総カテゴリー達成数,エラー数,および保続エラー数を指標とした. 運転シ ミュレーター検査 本章でも運転特性測定のためのシミュレーターには CG400 を使用した.検査項目と検査指標は Table 3.3 に要約した. 手続き 疲労の影響を排除するために運転シミュレーター検査と神経心理学的検査 は実施日を変えておこなわれた.運転シミュレーターは「単純反応検査」,「選択反応 検査」,「ハンドル操作検査」,「注意分配・複数作業検査」の順に実施され,終了後に 身体・精神状態の聴取およびパーソナリティ測定のための質問紙に回答を求めた.神 経心理学的検査では,とくに記憶検査において何らかの干渉が生じないように実施順 に留意し,JVLT の即時再生と遅延再生の間には非言語的検査を配した.検査は神経 心理学者のスーパーヴィジョンにより標準的実施手続きを了解した上で実施された.

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33/75 所要時間はおよそ50 分であった.運転シミュレーターと神経心理学的検査の実施順は 参加者間でカウンターバランスを取った.両検査を完了後,参加者には本研究につい て十分なブリーフィングがおこなわれた. 4.1.2 結果 運転行動調査: 本研究参加者のうち,89.2%(58 名/65 名)が免許保持者であった (Figure 4.1).このうち,86.2%(50 名/58 名)は普段から運転していると回答した. 運転の頻度は,「毎日」が50%(25 名),「しばしば」が 34%(17 名),「時折」が 12%(6 名),「たまに」が 4%(2 名)であった. また,運転している50 名のうち,事故の経験のある者が 34%(17 名)おり,回数 の内訳は,1 回が 9 名,2 回が 5 名,3 回が 1 名,4回が 2 名であった.事故の詳細で は,通行中に他の車両との間で生じた「交通事故」の経験者は6 名であり,「前走車へ の追突」,「交差点進入時の接触」が挙げられた.居眠りによる中央分離帯への衝突が 1 例見られた.交通事故の経験のない 11 名については,「狭い道での障害物への接触」, 「駐車場等での接触」,「縁石への乗り上げ」が挙げられた.峠道にて横転した例が 1 名見られた. Figure 4.1 健常者の免許保持率 Figure 4.2 健常者の事故経験率

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34/75 運転行動とシミュレーター遂行成績: 免許の有無,運転頻度,事故といった運転行 動の違いにより運転シミュレーター成績に違いが見られるかどうかを検討した結果, 免許の有無によって単純反応検査における反応時間とハンドル操作検査における正反 応数で有意差が見られ,免許保持者のほうが反応時間が短く,ハンドルの正反応数が 多かった(順に,t(63)=2.08, p=0.04; t(63)=3.15, p=0.002).それ以外の変数の間には 関連性は見られず,運転の頻度などによりシミュレーターの遂行成績が異なるという ことはなかった. Table 4.1. 免許の有無と運転シミュレーターにおける単純反応検査 免許あり (n=58) 免許なし (n=7) M SD M SD t p 反応時間 309.4 32.1 336.1 33.1 2.08 0.04 変動係数 8.81 3.48 10.57 4.18 1.24 0.22 Table 4.2. 免許の有無と運転シミュレーターにおけるハンドル操作検査 免許あり (n=58) 免許なし (n=7) M SD M SD t p 正反応数 74.2 8.9 63.0 8.0 3.15 0.002 左右比 90.9 7.4 92.1 5.3 0.45 0.66 節約率 10.1 10.8 11.5 8.4 0.31 0.76

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35/75 統合失調型パーソナリティとシミュレーター遂行成績: 統合失調型パーソナリティと シミュレーターの遂行成績に関連が見られるかどうかを検討するために,SPQ-B 得点 とシミュレーターにおける各指標との単純相関を算出した(Table 4.3).その結果, 注意分配・複数作業検査の中心視野における反応時間で有意な負の相関が見られ,統 合失調型パーソナリティ傾向が高いほど反応時間が短くなる傾向が示唆された (Figure 4.3).そこで,両者の回帰式を求めてスロープの検定をおこなったところ, 有意な回帰係数は得られず(p>.46),統合失調型パーソナリティとシミュレーターの 遂行成績には一律の関係は認められなかった. Table 4.3. 統合失調型パーソナリティとシミュレーター指標との関連 1.単純反応 2.選択反応 3.ハンドル操作 反応時間 変動係数 誤反応数 反応時間 変動係数 正反応 左右比 節約率 SPQ-B -0.05 -0.02 -0.003 -0.05 0.12 0.05 -0.05 0.08 4.注意分配・複数作業 誤反応数 (中心) 反応時間 (中心) 変動係数 (中心) 誤反応数 (周辺) 反応時間 (周辺) 変動係数 (周辺) SPQ-B 0.08 -0.315 0.001 0.15 -0.07 0.16 *統合失調型パーソナリティ= SPQ-B

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36/75 Figure 4.3 統合失調型パーソナリティと注意分配・複数作業検査における 中心視野刺激への反応時間 認知機能とシミュレーター遂行成績: 神経心理学的検査により評価された認知機能 とシミュレーターの各指標との間に関連が見られるかどうかを相関分析により検討し た(Table 4.4).

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37/75 Table 4.4. 認知機能とシミュレーター指標との関連 [1/2] 1.単純反応 2.選択反応 3.ハンドル操作 反応 時間 変動 係数 誤反 応数 反応 時間 変動 係数 正反応 左右比 節約率 JVLT 直後 0.05 -0.03 -0.28* 0.08 -0.15 -0.06 0.18 0.27* 遅延 0.01 0.01 0.07 0.12 -0.06 -0.20 0.09 0.09 符号 0.08 -0.07 -0.14 -0.10 0.10 0.17 -0.21 0.01 TMT part A -0.07 0.01 0.09 0.16 -0.15 -0.24 0.07 -0.13 part B -0.02 -0.09 0.20 0.02 0.01 -0.05 -0.02 -0.01 絵画完成 0.16 -0.13 0.07 -0.03 0.23 -0.05 -0.08 0.06 線方向づけ -0.09 -0.05 0.10 -0.24 0.23 0.21 0.14 -0.12 数唱 順唱 0.14 0.01 -0.01 -0.05 0.05 -0.04 -0.08 -0.14 逆唱 0.16 0.15 -0.22 -0.15 0.06 0.16 -0.05 -0.12 流暢性 文字 -0.01 0.23 0.00 0.17 0.23 -0.17 0.03 -0.06 カテゴリ 0.22 0.02 -0.04 0.19 0.24 -0.20 -0.02 0.09 WCST エラー -0.22 -0.05 0.07 -0.07 -0.13 0.01 -0.19 -0.18 保続 -0.17 -0.10 -0.04 0.00 -0.16 0.04 -0.07 -0.04

*JVLT = Japanese Verbal Learning Test *TMT = Trail Making Test

*WCST = Wisconsin Card Sorting Test *符号,絵画完成,数唱 = WAIS-III *線方向づけ = RBANS

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38/75 Table 4.4. 認知機能とシミュレーター指標との関連 [2/2] 4.注意分配・複数作業 誤反応数 (中央) 反応時間 (中央) 変動係数 (中央) 誤反応数 (周辺) 反応時間 (周辺) 変動係数 (周辺) JVLT 直後 0.23 0.00 0.01 0.09 0.00 0.06 遅延 0.00 0.15 0.12 0.23 0.03 0.05 符号 0.16 -0.22 0.01 -0.01 -0.26* 0.04 TMT part A -0.19 0.15 0.07 -0.04 0.07 -0.06 part B -0.01 0.22 0.12 0.08 0.05 0.07 絵画完成 0.08 0.11 -0.06 0.22 -0.09 0.01 線方向づけ -0.24 -0.22 -0.20 -0.13 -0.18 0.00 数唱 順唱 0.05 0.04 0.09 -0.17 -0.06 0.15 逆唱 0.16 -0.01 0.09 0.00 -0.04 0.12 流暢性 文字 0.21 0.14 0.01 0.02 0.05 0.23 カテゴリ 0.23 0.23 -0.05 0.03 -0.01 0.03 WCST エラー -0.04 -0.02 -0.09 -0.07 0.07 0.05 保続 -0.05 -0.01 -0.19 -0.07 0.04 -0.03

*JVLT = Japanese Verbal Learning Test *TMT = Trail Making Test

*WCST = Wisconsin Card Sorting Test *符号,絵画完成,数唱 = WAIS-III *線方向づけ = RBANS

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39/75 言語学習および短期記憶の検査であるJVLT 直後再生と関連を示したシミュレータ ー指標は,選択反応検査における「誤反応数」およびハンドル操作検査における「節 約率」であった(順に,r(63)=-.28, p<.05; r(63)=27, p<.05).そこで,各々について 回帰式を求めてスロープの有意性検定をおこなったところ,JVLT 直後再生と選択反 応検査における「誤反応数」では有意な回帰係数が得られず(p>.59),JVLT 再生数 に応じて誤反応数が変動するという関連は見出せなかった(Figure 4.4).一方で, JVLT 直後再生とハンドル操作検査における「節約率」では有意な回帰係数が得られ (p=.002),ハンドル操作は言語的制御を受けて習熟される可能性が示唆された (Figure 4.5). Figure 4.4. JVLT 直後再生と選択反応検査における誤反応数

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40/75 Figure 4.5. JVLT 直後再生とハンドル操作検査における節約率 *節約率 = -12.2 + 0.58 * (JVLT 直後再生数) WAIS 符号と注意分配・複数作業検査における周辺視野への反応時間に有意な相関が 見られた(r(65)=-.26, p=.03).符号処理が速いほど反応時間が短いことを示している (Figure 4.6).WAIS 符号はシミュレーターにおけるその他の反応時間指標とは関連 を示さなかった.WAIS 符号は2分間の持続的注意を要することから,注意分配検査 における周辺視野への反応時間では,単純反応や中心視野への反応などと比べてより 注意の持続が要求される可能性がある.また,両者の回帰式において有意な回帰係数 が得られた(p=.03).

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41/75 Figure 4.6. WAIS 符号と周辺視野への反応時間 *反応時間(周辺視野)= 669 - 0.28 *(WAIS 符号) 4.2 統合失調症患者おける運転特性と認知機能 次に、統合失調患者における運転特性と認知機能を検討することにした。 4.2.1 方法 対象患者: 富山大学病院に通院する統合失調症患者 12 名(女性 4 名; 年齢範囲 20-50; 平均年齢 34.6 歳; SD=9.7)が運転シミュレーターおよび認知機能評価のため の神経心理検査を完了した.Table4.5 に対象患者の基本情報を示した.

また,The Scale for Assessment of Positive Symptoms (SAPS) および The Scale for Assessment of Negative Symptoms (SANS) にて評価された患者の症状の強さを Table 4.6 に示した.

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42/75 Table 4.5. 対象患者の基本情報 min max M SD 年齢 20 50 34.6 9.7 教育年数 12 16 14.6 1.6 運転歴(年) 0 28 9.7 8.5 発症年齢 15 40 22.1 7.0 罹病期間 2 24 11.3 6.4 推定IQ 90 111 102.4 6.3

*推定 IQ=Japanese Adult Reading Test (JART-50) による.

Table 4.6. 対象患者の症状評価 min max M SD 幻覚 0 12 3.3 4.0 妄想 1 17 8.5 5.7 奇異な行動 0 9 4.6 3.5 思考形式 0 30 6.8 9.8 SAPS 合計 4 56 20.2 15.3 感情鈍麻 0 23 13.0 7.6 思考貧困 2 15 7.2 4.4 意欲欠如 3 14 8.6 3.7 快感喪失 0 15 10.1 4.3 注意障害 2 13 6.6 3.2 SANP 合計 19 69 44.0 18.6 運転行動調査: 前節に述べた健常者での検討と同様の調査票を用いて,対象患者の 運転行動について聴取をおこなった. 認知機能評価: 認知機能評価に用いた神経心理学的検査バッテリーは健常者での 検討と同様であった. 運転シミュレーター: 運転特性を測定するシミュレーターの検査項目および検査指

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43/75 標は健常者での検討と同様のものを実施した. 手続き 対象患者は,まず認知機能評価のための神経心理学的検査および症状評価 のための面談をおこない,後日シミュレーター検査を実施した.運転行動に関する聴 取は,健常者での検討と同様にシミュレーター検査を完了した後におこなわれた.検 査終了後,対象患者は本研究について十分にブリーフィングを受けた. 4.2.2 結果 運転行動調査: 本サンプルの12 名は全員が免許保持者であった.そのうち,免許 取得後に運転機会のないものが1名であった.運転年数の平均は9.7 年であった. 運転機会のある11 名のうち,82%(9 名)が週に 2~5 回程度で「しばしば」運転 していると回答した(Figure 4.7). 何らかの破損を伴うような事故は55%(6 名)において報告され,このうち 2 名は 道路走行中において他車両との接触事故を経験していた.ただし,1 名からは「追突 された」といったような巻き込まれ型の事故(もらい事故)のみが報告された.対物・ 自損事故では「狭い場所でウィンカー付近をこすった」,「バックでぶつけた」など健 常群と類似の内容であった. Figure 4.7. 対象患者における運転頻度 Figure 4.8. 対象患者における事故経験率

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44/75 運転行動とシミュレーター遂行成績の関連 健常者での検討と同様に,神経心理学的検査により評価された認知機能とシミュレ ーターの各指標との間に関連が見られるかどうかを相関分析により検討した(Table 4.7). Table 4.7. 統合失調症患者における認知機能とシミュレーター指標との関連 [1/2] 1.単純反応 2.選択反応 3.ハンドル操作 反応 時間 変動 係数 誤反 応数 反応 時間 変動 係数 正反応 左右比 節約率 JVLT 直後 -0.54 -0.28 -0.16 0.11 -0.10 0.45 -0.27 0.51 遅延 0.57 0.40 0.39 0.21 0.07 0.26 0.03 0.39 符号 -0.74 -0.41 0.43 -0.27 0.07 0.53 -0.39 0.54 TMT part A 0.65* 0.20 0.02 0.27 -0.57 -0.38 0.39 -0.35 part B 0.86** 0.55 -0.10 0.34 -0.39 -0.57 0.41 -0.69* 絵画完成 -0.42 -0.07 -0.28 -0.13 0.21 0.46 -0.08 0.19 線方向づけ -0.46 -0.20 0.14 -0.49 0.14 0.34 -0.11 0.20 数唱 順唱 -0.43 -0.39 -0.15 -0.34 -0.24 0.56 0.11 0.35 逆唱 -0.50 -0.48 -0.18 0.17 -0.02 0.41 -0.48 0.58 流暢性 文字 -0.43 -0.58 0.40 -0.39 -0.12 0.54 -0.27 0.54 カテゴリ -0.24 0.27 -0.11 -0.13 0.23 0.10 0.16 -0.04 WCST エラー 0.28 -0.30 -0.19 -0.42 0.45 0.54 0.37 0.57 保続 0.31 0.34 -0.16 -0.14 -0.40 0.51 0.54 -0.04

*JVLT = Japanese Verbal Learning Test *TMT = Trail Making Test

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*WCST = Wisconsin Card Sorting Test *符号,絵画完成,数唱 = WAIS-III *線方向づけ = RBANS

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46/75 Table 4.7. 統合失調症患者における認知機能とシミュレーター指標との関連 [2/2] 4.注意分配・複数作業 誤反応数 (中央) 反応時間 (中央) 変動係数 (中央) 誤反応数 (周辺) 反応時間 (周辺) 変動係数 (周辺) JVLT 直後 -0.49 -0.56 0.10 0.08 -0.16 -0.32 遅延 0.53 0.46 -0.08 -0.42 -0.30 -0.11 符号 -0.53 -0.57 0.15 0.19 -0.56 -0.10 TMT part A 0.39 0.37 -0.41 -0.55 0.53 -0.37 part B 0.50 0.67* -0.51 -0.43 0.66* -0.20 絵画完成 -0.17 -0.29 0.39 0.12 -0.08 -0.09 線方向づけ -0.18 -0.37 0.16 -0.06 -0.42 0.18 数唱 順唱 -0.26 -0.59 -0.08 -0.18 -0.30 -0.24 逆唱 -0.60 -.630* 0.15 0.00 -0.11 -0.16 流暢性 文字 -0.49 -0.23 -0.14 -0.03 -0.19 -0.17 カテゴリ 0.06 -0.06 0.16 0.31 -0.29 0.10 WCST エラー 0.56 -0.50 -0.23 0.12 0.03 -0.39 保続 -0.41 0.04 0.14 0.30 -0.53 0.39

*JVLT = Japanese Verbal Learning Test *TMT = Trail Making Test

*WCST = Wisconsin Card Sorting Test *符号,絵画完成,数唱 = WAIS-III *線方向づけ = RBANS

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Trail Making Test part B (TMT-B)において最多の関連が見られ,シミュレーター の 3 指標と有意な相関を示した.3 指標すべてが反応時間指標であり,単純反応検査, 注意分配・複数作業検査の中央視野および周辺視野で TMT-B と関連を示した(順に, r(10)=.86, p<.01; r(10)=.67, p<.05; r(10)=.66, p<.05).選択反応検査でのみ反応 時間と TMT-B の関連が見られなかった.TMT-B と相関を示した各指標について回帰係 数の検定をおこなった結果,単純反応検査における回帰スロープが有意となった (p<.01).一方,注意分配・複数作業検査の両反応時間とは有意な回帰係数を示さな かった(ps>.10). Figure 4.9. TMT-B と単純反応検査における反応時間との関連 *(反応時間)= 168.55 + 2.55*(TMT-B) その他,TMT-A は単純反応検査の反応時間と,WAIS 数唱の逆唱課題は注意分配・複 数作業検査の中央視野における反応時間と有意な相関を示した(順に,r(10)=.65, p<.05; r(10)=-.63, p<.05).視覚的探索および処理スピードの指標である TMT-A は単 純反応検査と近しい関連を持つことが推測される.また,WAIS 数唱の逆唱課題は注意 分配・複数作業検査と関連をもつことは,マルチタスクにおけるワーキングメモリの

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48/75 重要性を示唆するものと考えられる. 健常者データとの比較: 最後に,認知機能と運転シミュレーター遂行成績の関連 について健常者データと統合失調症患者データを比較すると,一律の対応関係にはな く,患者群には患者群特有のパターンがあることが示唆される.とくに,患者群にお いては TMT-B の有用性が相関分析ならびに回帰分析から示された.

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第 5 章

まとめと今後の課題

運転行動についての実態を明らかににすることを達成するために比較的多数の統合 失調症患者の家族に車の運転免許の有無、運転の必要性や運転の実際、事故の経験の 有無などの自由記述と質問紙による調査を実施した。まず、研究について当大学の倫 理委員会に申請し、承認を得ることができた。現行の家族会および当大学で開催して いる家族心理教育セミナー参加者に研究協力を募り、87名(そのうち有効回答は7 4名)の当事者家族からの調査を実施し、分析した。結果、調査対象となった統合失 調症患者の 81.1%が免許保持者であった。また、現在運転する人は全対象者の 58.0%、 免許保持者のうちの 72.7%であった。また、運転する人のうちの半数はほぼ毎日運転 するとしており(免許所持者のうちの 26.3%は運転頻度が高「毎日」、9.2%は「しばし ば」、21.5%は運転頻度が低「時折」、12.3%は運転しない)、全体として当事者の運転 への関心と日ごろの運転頻度も比較的高いことが示されたといえる。さらに事故の有 無については 23.0%がありと解答しているが、コメント記述に「駐車場で隣の車にこ すった」「自分の運転が下手で物にぶつけた」等があり、実際には警察を呼ぶに至る事 故となっているケースはほとんどない、ないしは大きな事故はほとんどないことが推 測される。このことに関する内容については、さらに詳細な聴取を追加し、検討を加 える予定である。さらに、同対象者の家族に同時に家族からみた当事者の種々の日常 生活上の認知機能(注意、記憶、問題解決、ワーキングメモリ、言語、運動スキル) の困難さについて評定してもらい、そのことと運転行動との関係を調べた。結果、免 許保持者のほうが非保持者よりも全般的な家族からみた認知機能面での困難度が低か った。また、免許保持者のほうが非保持者よりも記憶、問題解決、言語、運動スキル の困難度が低かった。 第 2 に運転シミュレーターを用いて統合失調症患者の運転特性を明らかにすること である。患者の反応時間、注意、エラーなど運転シミュレーターによる具体的な運転 行動特性の予測を行なう。また、同時に注意や記憶などの心理学的認知課題を個別に 実施し、どういった認知特性と運転行動特性が関連しているかを明らかにする。この 目標 2 の達成のためには、運転シミュレーター(運転適性検査器)を配置し、いくつか の運転状況設定下における反応時間やエラーなどの検出をおこなった。また、患者ご

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50/75 とに実施するための認知課題(記憶課題や注意課題など)について作成した。統合失調 患者に対して、運転シミュレーターを用いた運転適性と心理学的認知課題を用いた一 般認知特性双方を測定してきた。他方で精神疾患を有していない健常者についても同 じ課題を実施し、対照群としての比較検討を行なうためのデータも収集してきた。こ れまでの結果から、統合失調症患者では健常者より課題によって反応時間が遅いこと がうかがえたが、いくつかの指標では両者で差異が認められなかった。健常者では、 シミュレーターによる一部の運転指標と統合失調型パーソナリテイや記憶や注意機能 との関連が認められた。 今後は、より多くの患者においての検討をすることが課題である。また、年齢や性 の要因を含めたより詳細な解析を行なうことも課題である。さらに、患者の重症度や 臨床症状や服薬状況との関連を検討することにより、患者の状態や治療と運転行動特 性や認知特性との関連を明らかにしたいと考える。

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参考文献

Andreasen,N.C.(1984).Scale for the Assessment of Negative Symptom.岡崎裕士・安西信雄・ 太田敏男・島悟・北村俊則(共著)(1984).陰性症状尺度評価(SANS).臨床精神医学, 13, 999-1010.

Andreasen,N.C.(1984).Scale for the Assessment of Positive Symptom. 岡崎裕士・北村俊 則・安西信雄・太田敏男・島悟・Mcdonald-Scott,P.(共著)(1992).陽性症状尺度評価 (SAPS).精神科診断学,3,365-377. 星野貴俊・松井三枝(2012). 健常青年における統合失調型パーソナリテイ傾向と Quality of Life との関連、心理学の諸領域、1(1)、27-34. 星野貴俊・松井三枝(2012).統合失調症患者における運転行動の実態と認知特性―家 族へのアンケート調査による予備的検討―、第 182 回北陸精神神経学会抄録 星野貴俊・松井三枝(2012). 統合失調症患者の運転行動と日常的認知機能との関連―家 族への調査の検討から―、第 5 回運転と認知機能研究会抄録 星野貴俊・松井三枝(2012).健常青年における統合失調症型パーソナリテイと主観的 認知機能との関連、第 16 回日本精神保健・予防学会抄録 伊東慎也・大部聡子・太田深秀・高尾哲也・坂本真士(2008).日本語版 Schizotypal personality questionnaire brief の信頼性・妥当性の検討.日社精医誌, 17, 168-176. Matsui M, Yuuki H. Kato K, Kurachi M (2006). Impairment of memory organization in

patients with schizophrenia or schizotypal disorder, Journal of International Neuropsychological Society,12, 750-754.

Matsui M, Yuuki H, Kato K, Takeuchi A, Nishiyama S, Bilker W, Kurachi M(2007). Schizotypal disorder and schizophrenia: A profile analysis of neuropsychological functioning in Japanese patients. Journal of International Neuropsychological Society,13(4), 672-682.

松井三枝・笠井悠一・長崎真梨恵(2010).日本語版神経心理検査 RBANS の信頼性と 妥当性、富山大学医学会誌、21 (1), 31-36.

松井三枝・住吉太幹・加藤奏・倉知正佳(2007). 日本語版単語記憶学習検査(Japanese Verbal Learning Test)代替版の作成、精神医学、49 (1), 31-34.

(52)

52/75

Test(JART).株式会社新興医学出版社

総務省統計局・政策統括官(統計基準担当)・統計研修所 (2012) http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/kihon4/pdf/gaiyou.pdf#page=23

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付録

A 認知機能検査(神経心理検査)

0. フェイスシート 健常者(統制群)用フェイスシート 統合失調症患者用フェイスシート 1. 言語学習・記憶

Japanese Verbval Learning Test (JVLT) (省略) 2. 処理速度

Trail Making Test – A 検査用紙 Trail Making Test – B 検査用紙 符号検査(WAIS-III)_検査用紙 3. 視覚的統合・処理 絵画完成(WAIS-III)_記録用紙 線方向づけ課題(RBANS)_記録用紙 線方向づけ課題(RBANS)_検査用刺激例 4. 注意・ワーキングメモリ 数唱課題(WAIS-III)_記録用紙 5. 言語的流暢性

語彙流暢性課題(Verbal Fluency Test)_記録用紙 6. 遂行機能

Wisconsin Card Sorting Test_記録用紙 Wisconsin Card Sorting Test_検査用刺激例 7. 知的機能評価

Table 3.1.  参加者の基礎情報  患者群 ( n=41 ) 健常群(n=104 ) M  SD  M  SD  t p 年齢 ( 歳 )  31.6  9.5  25.3  9.0  3.72  &lt;.001  教育年数   14.0  2.2  14.7  2.3  1.81  .07  推定 IQ  99.0  7.7  108.1  8.1  6.25  &lt;.001
Figure 3.1.  運転特性検査の実施画面
Table 4.6.  対象患者の症状評価  min  max  M  SD  幻覚  0  12  3.3  4.0  妄想  1  17  8.5  5.7  奇異な行動  0  9  4.6  3.5  思考形式  0  30  6.8  9.8  SAPS 合計  4  56  20.2  15.3  感情鈍麻  0  23  13.0  7.6  思考貧困  2  15  7.2  4.4  意欲欠如  3  14  8.6  3.7  快感喪失  0  15  10.1  4.3  注意障害

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