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複合微生物系で誰が何をしているか?

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Academic year: 2021

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144 生物工学 第96巻 第3号(2018) 著者紹介 石川県立大学 生物資源工学研究所(助教) E-mail: [email protected] この原稿を執筆している頃,2018年FIFAワールドカッ プの対戦国決定のニュースが流れた.点の取り合いをす るサッカーでは,多くのゴールを決める選手は目立つ. しかし,彼らのみでゴールを量産できるわけではなく, パスを出してくれる選手や守備の選手は欠かせない.複 数人が絶えずプレーを続けるサッカー競技において,ど の選手がどれほど効果的なプレーをしているか見定める ことは至難の業である.目立たずともいぶし銀の働きを する選手がいるため,誰を選手交代させるか,監督をし ばしば悩ませる.11人のサッカーチームでも見定めが 大変であるゆえ,もし何千人規模でプレーする団体競技 があったとしたら,誰が何をしているか把握することは 困難を極めるだろう.われわれの身の回りには,そのよ うな団体競技を日夜行っている小さな集団があり,生活 と密接に関係している. “複合微生物系”という言葉を耳にしたことはあるだ ろうか.何種類もの微生物が共存する環境のことで,身 近なところでは,私たちの腸内環境があげられる.腸内 細菌が,いくつかの疾患に影響を与えることが示される ようになったことから,健康長寿に向けて腸内環境をデ ザインするという考え方まで提唱されるようになった1). 腸内環境をより望ましくデザインするためには,これら 複合微生物系の“誰が何をしているか”を理解すること が不可欠である.これを理解するために,複数のオミク ス解析を組み合わせた統合オミクス解析が試みられてい る.たとえば,古くから腸内細菌代謝物とがんとの関連 性が知られているが,Yoshimotoらは,メタボロミクス とメタゲノミクスを併用することで,原因細菌を同定す るに至った2).すなわち,血清メタボローム解析を行い, 高脂肪食摂食時に腸管内に分泌された胆汁酸(コール酸) が,腸内細菌によりデオキシコール酸へと代謝され,こ れが腸管から再吸収された後,炎症性サイトカインの分 泌を促し,肝臓がんを誘発することを報告した.そして, 消化管内容物の16Sメタゲノム解析から,高脂肪食摂食 時に特徴的に増加する配列を見いだし,これがデオキシ コール酸生産能を有するClostridium sordelliiであること を見いだした.この他に,自閉症スペクトラム障害も, 腸内細菌に起因することが報告される3)など,この分野 ではメタボロミクス+メタゲノミクスの統合解析によ り,複合微生物系で“誰が何をしているか”が解き明か され始めている. 一方,人工的な複合微生物系であるバイオリアクター に対しても,オミクス解析が用いられはじめた.腸内細 菌分野のように,ホストとのインタラクションを考える 必要はないため,シンプルかと思いきや,微生物群集の 限られた情報から事象を明らかにすることも,簡単では ない.DNAを解析対象とする場合,死菌および活動を していない菌も検出されるため,メタゲノミクスを実施 しても,実際に活躍している菌なのか否か判断がつかな いことがある.たとえば,植物バイオマスからのバイオ ガス生産を行う場合,植物細胞壁の可溶化が重要である. 可溶化槽の16Sメタゲノム解析では,植物細胞壁分解酵 素を生産する菌は優占種として検出され続けているにも 関わらず,その酵素活性はある時間から消失した事例も ある4).優占種=現場のキーマン,というケースばかり ではないことが,複合微生物系の理解を難しくさせてい る.こういった場合,mRNAを解析対象にすると,有 益となることがありうる.佐藤らは,メタトランスクリ プトミクスを併用することで,メタゲノミクスだけでは 理解できなかった事象を明らかにした5).彼らが運転し ていた2基の重油廃水処理リアクターは,同じ条件で運 転していたにもかかわらず,Reactor 1とReactor 2間の 重油分解効率に大きな差が生じた.16Sメタゲノム解析 では重油分解を担う微生物を明らかにすることはできな かった.しかし,メタトランスクリプトーム解析を実施 した結果,脱窒菌が嫌気的に重油を分解していたこと, そしてその呼吸基質である硝酸イオンの供給系(アンモ ニア酸化)の活性はReactor 1でだけ高く,これによっ て重油分解活性が促進されていたことを明らかにした. このアンモニア酸化細菌群の存在量は,全体の0.25% 未満であり,このマイナー種がリアクター全体の重油処 理能を左右したキーマンであった.このように,複数の オミクス解析を併用する技術は,これまでブラックボッ クスであった複合微生物系が駆動するバイオリアクター に対しても,“誰が何をしているか”を明らかにしはじ めている. 今後,複合微生物系のメカニズム解明が益々進むこと で,われわれの健康や地球環境に資する技術が,大きく 進展することが期待される. 1) 株式会社メタジェン:http://metagen.co.jp/ (2017/12/9)

2) Yoshimoto, S. et al.: Nature, 499, 97 (2013). 3) Hsiao, E. Y. et al.: Cell, 155, 1451 (2013). 4) Baba, Y. et al.: J. Biosci. Bioeng., 123, 489 (2017). 5) 佐藤由也ら:日本生物工学会大会講演要旨集,3P-I136

(2017).

複合微生物系で誰が何をしているか?

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