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No.87
関西学院大学図書館報『時計台』No.87
関西学院大学図書館報『時計台』No.87
(表紙 題字:山﨑掃雪)
巻頭言 借りることと返すこと 大学図書館長 田和 正孝
第24回(2016年度)大学図書館学術資料講演会要旨
映画雑誌の草創期 ―― 『キネマ旬報』以前・以後
早稲田大学名誉教授 岩本 憲児
ショーペンハウアー 『充足根拠律の四方向に分岐した根について』初版について
─もう一つのショーペンハウアー伝─
関西学院大学名誉教授 鎌田 康男
私の電子情報活用事例(vol.6)
The Bible in English ─ 英語の歴史を映す貴重な資料 ─
社会学部教授 内田 充美
大学図書館の新しい取り組み 大学図書館利用サービス課
第17回 J.C.C.Newton賞
最優秀賞受賞作「八秒間の水面」 社会学部4年 橋本 麻由
ネブラスカ大学オマハ校の大学図書館の動向
大学図書館運営課業務主担当 南光 実希
図書館こぼれ話(12)
三年たったら楽しい思い出 大学図書館事務部長 安本 裕和
専門知識を活かした職員の館外活動 大学図書館長 田和 正孝
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借りることと返すこと
30 年ほど前、ある漁業協同組合から大量の仕切書を借りたことがある。魚市場での競
りを記録した伝票の束である。誰が、いつ、何を、どれだけ漁獲し、それらにいくらの
浜値がついたかわかるものだ。地域漁業の姿を理解できる貴重な資料であった。今なら、
個人情報として、とても借りだせるものではないだろう。職員さんは、借用証も求めず、
自宅へ送る梱包まで手伝ってくださった。5,000 枚以上の綴りをコピーするのにそれほど
の時間はかからなかった。ところが仕切書はそれから 1 年間、自宅に置いたままにして
しまった。後年、民俗学者の宮本常一によるエッセー「調査地被害−される側のさまざ
まな迷惑」を繰り返し読むたびに、このことを思い出した。研究を錦の御旗にして、調
査される側の論理を一顧だにしない行為であった。
今春、大学図書館が数十年にわたって収蔵してきた段ボール箱 10 数箱におよぶ近隣都
市の大正・昭和初期の行政資料を、当の市へ返却することになった。旧役場が廃棄処分
したものを譲り受けたのか、はたまた誰かが借りだしたものか。長い時間を経過した今、
来歴すらわからない。歴史学者の網野善彦が『古文書返却の旅』で語ったいくつものストー
リーが浮かぶ。身勝手ではあるが、本学が保管し散逸を免れてきたことに安堵しながら、
十分に活用されずにきた状況を残念に思う。これから公立図書館に収められ、市民や研
究者によって広く利用されることを願うばかりである。我々も惜しまず協力したい。
図書館の書籍は、貸出と返却のルールのもと、多くの学生諸君が利用している。教員
には研究目的のためとして、学生以上に長い貸出期間が認められている。本当にありが
たい。とはいえ、書庫の中で読みたい本が見当たらず、すでに借りだされていることが
わかった時には、すぐさま出会いたい気持ちが募り、それがかなわないことに苛立ちす
ら覚えることもある。借りだすことは自らの論理だ。しかし、返却することには自らの
論理とともに、本を待つ他の人々へのまなざしという重要な論理が潜んでいることを改
めて感じる。
机の上には 3 週間前に借りだし、必要ページをコピーし終えた書物を放ったらかしに
してあった。拙いこの文を書いている途中、恥ずかしくなり、その 3 冊を携えて、図書
館へ急いだ。
大学図書館長 田和 正孝
巻 頭 言