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労働者の安全認識に対する影響因子に関する研究

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Academic year: 2021

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1 はじめに

Industrialsafety,workplace safety,occupational

safety等で表される産業界の安全は,職業従事者の福祉 のみならず,その産業活動全体の生産力へ影響する.こ れまで,人文科学・社会科学・応用科学に渡って多くの 研究がなされてきた.例えば,労働者が死亡・負傷・疾 患を被るリスクを直接低減することを目的とする工学的 技術の開発研究や,労働者に対して安全規則に則った作 業を促す,あるいは阻害する内的要因を検討する心理学 的なアプローチなどがあげられる.このように多様な研 究は,労働現場における事故防止および疾病予防を達成 するためには多面的な働きかけが必要であることを示し ているといえる. なかでも労働災害の防止のためには,労働者本人の安 全に対する前向きな意識が重要である.仮にシステムを 整備し安全対策を行っても,それを有効に活用して安全 な作業環境を維持するのも,あるいは無効にするのも、 労働災害を防止する上で労働者の認識に根差した行動が 無視できないためである.そこで本稿では,労働安全衛 生に関する研究の中でも,英語で発表されている労働者 の安全に関する認識に関する先行研究を収集し,安全に 関する労働者の認識に影響を与える因子について分析し た結果を報告する. 2 研究方法 論文の分析は,著者らがデータベースから情報抽出し て要素を分類した手法を用いて行った1). 多数の研究論 文から目的に合致する論文を抽出するために,まず論文 データベースWebofScienceを用いて,分析目的に合致 する可能性のある論文を機械的に抽出した.『安全』『労 働』『態度・認識・考え・意識』を表す英単語を検索語句 として用い,該当する単語がキーワードとして含まれる 論文を検索した.本稿は平成27年度厚生労働科学研究 費補助金(労働安全衛生総合研究事業)にて実施したこ とから、検索範囲を2001年からプロジェクト開始年度 である2014年までとした.『安全』についてはsafety,

safe,safer等 を漏れなく抽出するために “safe*” と検索

にワイルドカードを用いた.同様に,『労働』は“work*”

としてwork,worker,workforce等が含まれる論文を抽

出した.『態度・認識・考え』については“behave*”ある いは“attitude”を用いた. 機械的に得られた論文は315件であった.この315件 を同数ずつ5名で分担して分析した.また,63件の論文 数が抽出された各期間について,2001年~2007年を第 1期,2007年~2009年を第2期,2009年~2010年を第 3期,2011~2013年を第4期,2013~2014年を第5期と した.すなわち,63件の論文が上梓されるまでに当初 は7年かかっていたのが,徐々に短縮し,2014年にはそ の期間は1年と短くなっていることが分かる. 5名の研究メンバーがそれぞれ担当論文を概観して, 「労働者の認識に影響を与える因子について調査する」 という本調査の目的から明らかに外れている報文を取り 除く作業を行った(first-roundreview).除いた論文と しては,例えば安全に作業するためのデザインについて の研究といった工学的な研究,喫煙についての研究など の労働者の健康管理に関する研究などが該当する.機械 的な検索では医療現場における安全についての論文も抽 出されたが,医療行為の提供先である患者の安全を検討 課題とした研究は,分析の趣旨に合致しないため除いて いる.一方,医療関係者の作業時の安全については分析 に含めた.過去の論文を整理した総説は除いているが, 過去の論文から得られたデータをさらに処理するメタ分 析を行った研究は今回の分析に含めた. 次いで,取捨選択後に残った論文を全て読み(

second-労働者の安全認識に対する影響因子に関する研究

熊 﨑 美枝子

*

1

,岡 田   賢

*

2

,清 水 芳 忠

*

3

,庄 司 卓 郎

*

4

,牧 野 良 次

*

5 事業所の安全衛生管理には,労働者の積極的な参加が必須である.そのためには,労働者の認識,彼らの 価値観や取り組む動機,取組みに対する反応などを,形式化して個別の事業所・産業に留めることなく共有で きるようにすることが有効であると考えられる.本研究では,労働安全衛生に関する研究のうち,労働者の認 識に関する先行研究を収集し,安全に関する労働者の認識に影響を与える因子について分析した. 分析の結果,認識に影響を与える因子には大きく分けて「労働者の周りの人々・組織」「システム・安全プ ログラム・規則」「仕事環境」「労働者個人の資質・状況」に分けることが出来た.これらが実際に労働者の安全 行動に寄与するかどうか,またその程度は,研究対象である組織,産業,研究手法によって変わるが,労働者 の安全意識に働きかけるうえで,これらの視点を活用したアプローチは有効であると考えられる. キーワード:労働者の認識,影響要因,先行研究分析

原稿受付 2019年4月17日(Received date: April 17, 2019) 原稿受理 2019年6月11日(Accepted date: June 11, 2019) J-STAGE Advance published date: September 20, 2019 *1横浜国立大学 *2産業技術総合研究所 安全科学研究部門 爆発安全研究グループ *3地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 *4産業医科大学 *5産業技術総合研究所 安全科学研究部門 爆発利用・産業保安研究グル ープ 連絡先:〒240-8501 神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台79-7 横浜国立大学 熊﨑美枝子 E-mail: [email protected] doi: 10.2486/josh.JOSH-2019-0014-SO 総 説

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roundreview),各研究内で設定された検討課題と,研 究の結果得られた知見を抽出した.そのうえで,もう一 度該当論文の内容を確認しながら検討課題を整理・分類 ・数え上げた(third-round review).整理の過程で2つ 以上の分類に当てはまると考えられた場合,例えば,主 な検討課題は「国際比較」であるが,主要な比較対象が 「マネジメントの姿勢」を測定したものであれば,「国際 比較」と「マネジメント」の両方に分類した.「安全文化」 「組織文化」が調査対象である場合,安全文化・風土が様々 な評価軸を通して捉えられることから,労働者の認識に 影響を与えると考えられる因子が複数含まれている.そ の場合,「組織文化」として分類したうえで,さらに労 働安全衛生に寄与し,組織文化に対して顕著な影響を与 えるような因子があれば,因子名で新たに分類項目を立 てた. なお,検索に該当した論文の多くは,論文のタイトル やキーワードに「安全文化(safetyculture)」「安全風土 (safetyclimate)」を用いている.「安全文化」や「安全 風土」は多くの定義が存在するものの,その核となる概 念は「集団で共有される安全についての信念や考え(安 全文化)」「集団の構成員の行動など,安全文化が表出し たもの(安全風土)」等として説明されているため,本 分析の対象である「労働者の安全に対する『認識』」を 対象としている論文が,安全文化・風土の研究と重なる 部分があるのは当然であるといえる. 最後にもう一度,検討課題ごとに分類した論文を見直 して内容を確認した. 3 分析結果 3回の取捨選択後,最終的に残った文献数は132報で あった.図1は発行された論文数の推移を表したもので ある.2008年より大幅な件数の増加が見られる.分類 結果と分布を表したのが図2-1~4である.論文選定 ・精読過程で残った報文数よりも総件数が多くなってい るが,これは前述の通り,労働者の認識に影響を与える ものとして検討課題となった項目が複数ある報文の存在 による. 研究手法については,アンケートが主な手法であり, その結果を統計的に処理した上で各質問項目の関連・因 果関係を分析する手法が多数を占めていた.分析対象期 間 の 後 半 で は, 構 造 方 程 式 モ デ リ ン グ(Structural 図1 発表年数と論文数 図2-1 労働者の周りの人々・組織 図2-2 システム・安全プログラム・規則 図2-3 仕事環境 図2-4 労働者個人の資質・状況

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EquationModeling:SEM)を用いて,直接観測はでき ない潜在変数も含めた要素間の因果関係,全体構造を解 明しようとする論文も見られた. インタビュー調査がデータ取得の唯一の方法である研 究も多く見られたが,インタビューとアンケートを組み 合わせるものも見られる.研究対象は多くが欧州及び米 国であったが,年を経るごとに研究対象となる国の多様 性が広がってきた.研究対象となった国を集計したもの が図3である.第1期に研究対象となった国が7ヶ国で あったのに対し,第5期には18ヶ国に達し,また,国別 比較も行われるようになり,労働者の安全に関する認識 への関心が世界的に高まっている様子が捉えられた.人 口比でみるとノルウェーが突出していたが,これはノル ウェーでは北海油田があり,その安全性について大規模 プロジェクトが実施されたことが反映していると考えら れる. 検討の結果,労働者が自社の安全管理や安全状態に対 して感じる認識(以下安全認識と記す)に影響があると 期待された要因を「労働者の周りの人々・組織」「システ ム・安全プログラム・規則」「仕事環境」「労働者個人の資 質・状況」に分けることができた. 1)労働者の周りの人々・組織 (1)上司やマネジメント

彼らを表す言葉にはsupervisor,manager, manage-mentがある.supervisorは現場の指揮を直接執り,現 場の作業者・部下と同じ作業をすることもある.一方, managerはより対外的な仕事を行うとともに,担当する 部署の問題解決に取り組み,責任を持って決定を行う者, という役割分担が見られる2).しばしば,supervisor managerを同様に使っている報文も散見されるが,本稿 では以下supervisorを上司,managerをマネジメントと 訳することとする. 現場の労働者は様々な外的要因によって大なり小なり 影響を受けることは容易に理解できる.社会関係資本理 論(socialcapitaltheory)では,「組織環境を規定する 社会的な要素は,個人の振る舞いや,個人が自分の労働 環境に対して持つ認識に影響する」としており3),社会 的な要素として直接の監督者である上司,同僚やマネジ メントの示す原則(policy)などがある4).上司やマネ ジメントは労働者に直接に指示を与え,またその労働者 を評価する立場にあることから,外的要因のなかでも主 要な位置を占めると考えられる.この前提から,上司・ マネジメントの影響については精力的に検討されてきて いる. その影響を示すものとして,ダブルワーカー(本業と 副業,2つの仕事を行っている労働者)を対象にした研 究がある.ここでは本業で上司から受けた影響は副業で は現れず,逆も然りである,という結果が得られた5) つまり,労働者が安全規則に従うかどうか,安全活動に 取り組むかどうかは,各職場での上司から強く影響を受 けており,一方の職場で受けた上司からの影響は他方の 職場での安全活動に参画する度合いとは無関係であっ た.このことは,労働者が生来持っている資質や個人の 考え方よりも,職場環境の影響が大きい,ということを 示している. またWatsonらは,現場労働者の視点から見た安全に 対するマネジメントの態度が,労働者の行動に大きな影 響を与える,という結果を得た6).労働者はマネジメン トをよく観察しており,マネジメントの本音は,組織全 体が何を好意的に評価しているかを示す,と認識されて いる.マネジメントが安全についてどのように述べてい るかという言葉・表現よりも,実践しているかどうかと いう点が,現場労働者にとって重要であることが結論付 けられている. 労働者が安全規則に従うことによってかかる手間や時 間は,生産性の観点からしばしばコストと認識される. 安 全 規 則 の 遵 守 と 生 産 性 の 両 立(safety-production compatibility)が出来ているかどうか,出来ない場合に はどちらを優先するか,労働者の判断には上司やマネジ メントの態度・見解が強い影響を与える.消防士や刑務 所の刑務官,工場労働者,医療関係者など日常的な作業 でリスクにさらされている労働者を対象にした調査で は,マネジメントの安全に対する取り組みに信頼が置か れた場合,その職場では安全性と生産性が両立している という認識が醸成される,という結果が得られた7).こ の認識が高い場合,労働者は安全作業行動(SafeWork Behaviour)を採ることも示されている.化学産業にお ける調査においても,マネジメントの安全に関する取り 組み,作業の中での安全行動の優先順位,そして生産圧 力(生産目標を達成するために,あるいは納期に間に合 わせるために,安全手順を省いても良いと組織が奨励し ていると感じられる雰囲気)が相互に顕著に関係してい た8).建設産業においても,マネジメントの態度が組織 の安全に関する風土に強い影響を与えており,またマネ ジメントの意識の高さと現場労働者が安全規則に従おう とする意識の高さには相関が見られることが明らかにな った9).この調査はアンケートによって情報収集してお り,マネジメントの態度について「(マネジメントは) 安全は生産性と同様に重要と考えている」,「(マネジメ ントは)安全手順が守られていないことに対して懸念を 示す」,「(マネジメントは)安全に対する課題に対して 0 5 10 15 20 第1期 第2期 第3期 第4期 第5期 国数 [カ国] 図3 対象となった国の数

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は迅速に取り組む」等を労働者に5段階で評価させるこ とで,労働者の認識を評価した.現場労働者は,上司が 何を考えているか,について非常に敏感であり,上司の 様々な振る舞いから考えを推し量る.安全に作業するた めに時間をかけて構わない環境であると労働者が認識し ている場合,上司は自分たちのことを考えてくれている, 自分たちを支援してくれていると感じていた.一方,実 際に安全に作業を実施できるかどうかは顧客との契約内 容とプロジェクトの進行具合によると考えている10).消 防士などの危険作業に従事する職場での研究において も,マネジメントが安全な職場環境を提供しようとする 意志がある、と労働者が感じられることと、リスクに対 する労働者の懸念とは負の相関がある,すなわち,労働 者は職場の危険がより少ない,と感じている11).一方, 大企業では上位のマネジメント層(topmanagement) が労働者の安全行動や安全に対する意識向上に寄与する が,中規模企業では上位のマネジメント層は安全行動を 促進することに繋がらないという相関が得られてい る12).大企業では中規模企業と比較してラインによる管 理が強固であり,上位のマネジメント層の考えが下達す るシステムになっているためと考えられている. 上司・マネジメントの言動から受ける印象だけではな く,上司との双方向のコミュニケーションの機会が,労 働者の安全行動やリスクを避けようとする安全認識に影 響を与えることは十分に想像できる.実際,上司と部下 との係わり,コミュニケーションが労働者に与える影響 について多くの研究がなされている13-15).イギリスの郵 便配送事務所を対象に,労災発生率の高い事務所と低い 事務所で比較したところ,労災発生率の低い現場の上司 は,安全に関する話題を高頻度で話す傾向にあった.ま た,安全に関する話題を高頻度で取り上げる上司はそう でない上司と比較して,事故発生時により徹底した事故 調査を行い,再発防止のための措置を取っていた16).建 設業者を対象とした研究では,直接の上司と安全につい て情報交換を行っている現場の労働者は,安全行動を取 る,という相関が見られた17) そのほか,上司の性格と事故発生率の相関や18),部下 や作業環境に関する上司の態度・支援12,19-26),上司の価 値観27),上司への信頼の影響が労働者の安全行動に影響 するかどうか,などが評価されている28)Zoharらは, 現場労働者と上司がどのくらい安全に関する話をする か,など,安全に関係したコミュニケーションの頻度を 労働者より聴取して,その結果を現場労働者ではなくそ の上司が自らモニタリングできるようにフィードバック し,同時に組織で上位のマネジメントにも同じ情報を提 供したところ,フィードバックされた上司によるコミュ ニケーションの頻度が劇的に増え,労働者の安全行動が 顕著に向上した結果を得た.この研究は,労働者の安全 を上司の責任とすることで劇的な効果が見られた例であ る29)2)同僚 上司やマネジメントと同等,場合によってはそれ以上 に労働者の振る舞いに影響を与えるのが同僚の価値観や 態度である.上司よりも長時間一緒にいることも多く, また,作業によっては協力しながら進めなければならな いことから,労働者が持つ同僚の価値観や態度について の認識は,労働者が安全行動を取るかどうかを決める上 で,重要な要因と考えられてきた.訓練ビデオを見て被 験者に作業を行わせるという心理学的な実験では,より 多くの保護具をつけた作業者が訓練ビデオ中に現れれ ば,被験者の保護具着用率が増えるという結果が得られ ているが,これも同僚の態度が労働者の行動に影響を与 える例といえる30) 高リスク産業とされる海上油田基地の作業員に対する 調査では,事故数(自己申告),ニアミス件数を予測す る上で,同僚および協力会社への「信頼」が相関すると いう結果が得られた.この相関は上司への信頼よりも強 く,特に「信頼」より「不信」の強さが予測指標として 良い結果を与えている31).同様に海上油田基地を対象に した研究では,労働者が持つ「人が行っている危険作業 を制止させる習慣(MindfulSafetyPractices, MSP)」に ついて検討が行われた.その結果は,事業所全体の組織 風土よりも,一緒に働く小集団によって形成される風土 により強い影響を受けるというものであった.MSPは, 事故が起こる可能性はあるものの必ずしも起きるとは限 らない事象を止めさせようとする習慣であり(例:同僚 が道具を間違った方法で使っている状況を目にしたとき に止める),確実な作業が必要な産業,即ち安全に関る 重大な決定を,適時に,正確に実施することが求められ る産業で,特に必要とされる32).同僚の影響は運輸業 , 原子力産業24),製造業 ,鉱業 ,ほか様々な業種で見ら れる23).また,若年層労働者に対しては,上司よりも同 僚の影響が比較的強く影響するという結果が得られてい る19)3)組織の安全文化・風土

安 全 文 化(SafetyCulture)・ 安 全 風 土(Safety

Cli-mate)という言葉の定義には依然として研究者が一致し て認める定義が見当たらず,また両者の差異も必ずしも 明確でない.一般に安全風土は,安全について労働者が 持つ『認識』を指すものとして用いられている.一方, どちらかといえば安全文化は共通の価値観や信念,態度 や行動などを指しているといわれている33).いずれの語 も集団・組織全体の安全に対する信念・認識・価値観・ 規範の総体を表すものという基本的な概念は共通しつつ も,各研究論文で個別に定義されながら使用されてい る.これらの語が広く認知されたのは1986年のチェル ノブイリ事故報告書であることはよく知られている.さ らにその後,2007年に公開されたTexasCityのBP社製 油所での爆発事故報告書(BakerPanelReport)でも触 れられたこと,また組織の安全文化・風土の水準が事故 発生の予測に利用できるのではないかとの産業界の期待 もあり,多くの研究がなされるようになった.この動向

が図1で2008年から見られる当該分野の研究論文数増

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研究論文の対象は大きく分けると「①どのような要素 が研究対象の安全文化・風土に影響を与えるか・相関が あるか」「②安全文化はどのような要素で構成されている のか・表すことができるのか」であった.①はすでに当 該報文の著者の既報,あるいは他著者により作成された 既存の安全文化測定のための質問群を用いて,安全文化 ・風土スコアを測定するとともに,安全文化を測定する のに用いられていない組織の別の要素(組織からサポー トを受けているという労働者の認識34),安全活動や安全 方針35),組織から公平に扱われているという感覚36),等) との関係を検討するものである.②は安全文化を測定す るための適切な質問群を作成する・あるいは質問群作成 に繋がるよう,主にインタビューを利用して安全行動を 促す要素の抽出や,安全文化・風土を評価できるような 評価軸を見出そうとする基礎的な研究を指す,①の基盤 となる研究である.このような研究では,インタビュー を実施し,得られた知見に基づいて新規に評価軸・質問 項目を作成するほか37),既往の研究で提案された質問群 を研究対象となる産業の特性に合わせて修正し,適切な 質問群を改めて整備する38-42)などがある.新しく作成し た質問群は,通常複数回の試行アンケートを実施し,協 力者からのフィードバックや統計分析による評価軸間の 独立性を確認し,事故遭遇頻度や休業との相関を用いて 質問群の有効性を確認している. 安全実績とは,安全帯の着用率(安全行動)や災害発 生率などで表される事故そのもの,あるいは事故に至る 可能性のある観察された事象であり,数値で表し客観的 な比較が可能なものである.一方,安全文化・風土の研 究ではいわゆる工学技術のような明快な数値解がない. 安全文化・風土の水準の測定はシステムの有無など客観 的な指標もあるが,多くのデータはインタビューや質問 紙による自己申告であることから,これらの研究では「安 全文化・風土に対する労働者の認識」が,同じく自己申 告である「労働者の態度・振舞い」を規定し,あるいは 影響を与え,それが事故発生(この場合の事故は,研究 によって主観的な認識(ヒヤリハットも含む)と公的に 記録されている事故に分かれる)に繋がる,という前提 に基づいている43,44).その前提に対し,「安全文化・風 土は本当に将来の安全成績(safetyperformance)を予 測することができるのか?」という問いは散発的に議論 されてきた. 一般的には,好ましい安全文化は事故の発生や労働者 の不安全行動を低減する効果があると広く考えられてい る.例えば,OHSAS18001で認証を受けた組織の安全 文化・風土の測定結果は,マネジメントの取り組みやコ ミュニケーションが労働者のルール遵守・安全活動への 参加,そして怪我や物損などの安全実績に効果があった ことを示している45) しかし,安全文化・風土と実際の事故発生の関係が必 ずしも明確でない場合もある.CooperとPhillipsは安全 文化・風土が労働者の行動に影響し,労働者の行動が事 故に結びつく,という繋がりは,これまで期待されてい たほどは強くは無い,と結論づけている46).また,航空 機のメンテナンス業を対象にした研究では,墜落事故防 止のための規則遵守の様子を研究者が観察した実地調査 の結果と,労働者の認識を聴取したアンケートから導出 された安全文化・風土の間に相関は見られなかった47) 一方,Christianらによる90報の既往の文献のメタ分析 では安全文化・風土が直接事故に相関しているという結 果を得ており48),さらにMearnsらは安全風土と公的に 収集された事故統計とは相関があるとしている49).これ らの結果から,研究対象となる産業や組織内での作業集 団50),また安全文化・風土の測定方法によって,客観的 に得られる事故発生率と安全文化・風土のスコアとの相 関の有無・強弱は変わりうるものであるといえる. (4)その他の人的な要因 マネジメントや上司,同僚や組織内で共有されている 安全文化・風土のほか,労働者に影響を与えるものとし て家族,協力会社,発注者がある.家族は特に若年層の 労働者に与える影響因子としてよく検討されている.若 年労働者がリスクをとろうとする指向は同僚の影響が強 いという結果がある一方19),家族経営の農場で働く若年 労働者は,親が安全を重要視していると考えている場合 には作業上の失敗も親に対してよくコミュニケーション するという結果を得ている51) 労働者の家庭と安全に対する態度との関係では,家庭 の た め に 仕 事 が 犠 牲 に な る 場 合(family-to-work conflict)には安全に関するルールを遵守しようとする 意欲が低下し,安全に関する会議や活動への参加意欲が 低下するが,仕事のストレスが家庭に悪影響し,また仕 事のために家族がなおざりになる場合(work-to-family conflict),労働者の安全規則の遵守や安全活動への参画 に影響は与えず,安全には影響はないという結果が得ら れている52) 発注者については,建設プロジェクトにおける安全文 化・風土に影響を与える発注者の行為として, 『事業所の安全プログラムへの参加』 『安全に関するデータの確認と分析』 『安全を担当するチームの指名』 『安全な業者の選択』 『安全をどのように示すか,ということの明確化』 『装備を定期的にチェックする』 などは,安全風土の向上に資することが明らかになっ た53) 2)システム・安全プログラム・規則 組織の上司や同僚といった個人,あるいは集団からの 影響で醸成される認識とは異なり,安全管理システムや, 安全教育や安全活動などの安全プログラム,規則やさら には福利厚生スキーム等の組織が具備している仕組み は,組織が構成員をどのように扱っているかが如実に現 れることから,労働者が抱く組織に対する認識に直接影 響する. 事故後の管理や職場復帰指針, 安全訓練の与える影響 についての検討では,怪我をした職員の職場復帰支援は

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安全文化・風土に良い影響を与えたことがわかった54) 即ち,失敗などにより事故が発生したにもかかわらず支 援が受けられることは,職員を大切に思うという組織の メッセージと受け取られていることを示している.また, 労働者の健康増進のための投資(法定検診以外の健康チ ェック,健康に関する教育コース等)は安全水準を高め ているという結果が得られているが55),その理由は社会

交換理論(socialexchangetheory)を基に説明されてい る.社会交換理論とは,労働者に対して組織がサービス を提供する場合,それに対して労働者が何らかの形で返 報しようとする態度を持つことを示している56).社会交 換理論は,組織-労働者のほか,上司-現場の労働者の 関係を説明する際にも用いられる. 安全プログラム(safetyprogram)は様々な定義がな されているが,職場での災害を防止するための行動計画, 方針を基に,安全手順の整備57),訓練58),監査,安全に ついて議論する会合の実施59)などを含むほか,高い安 全成績の部署に対する褒賞・表彰制度,専任の安全担当 者の設置,事故調査・分析の実施なども含まれる場合が ある.安全プログラムは労働者が感じる組織の安全文化 ・風土に強い影響を与えている35).安全プログラムの構 成要素が労災発生に与える個別の影響のほか,要素間の 影響の強弱・有用性比較の研究は多数実施されてい る60).例えばオーストラリアの建設業界で実施されてい

るSWMS(Safetworkmethod statements)はリスクが 高い作業を行う前に作成が義務付けられている手順書で あるが,労働者に対する有効性についての調査では,手 順書作成は安全に作業を行う上で,中でも例外的な作業 を実施する上では必要なものであるという認識を得てい る61).訓練については,実際に作業を行う労働者に対す る訓練の効果のほか62),上司に対する訓練が現場労働者 に対して効果があるという結果が得られている63).安全 訓練は安全に作業を行う上で必須であるが,訓練が個人 の考え方に影響するかどうかを調査した研究では,訓練 によって知識が増えたから安全行動をとるようになった というよりは,訓練が心理的に労働者に働きかけ,安全 行動に対して前向きな態度を形成したと結論付けてい る64) 一方,10代の労働者へのインタビューでは,多くが 安全訓練は必要であると考えているものの,一部の対象 者は訓練項目の多くが常識の範疇にあり退屈である,最 悪の場合,効果が無いと考えていた.半数以上の対象者 が怪我を経験していたが,その経験は訓練に対する認識 には反映されておらず,そもそも彼らは怪我を軽いもの と考えている65).安全訓練の重要性をいかに知らしめる か,特に若年労働者では大きな課題である. 安全成績の良い部署等への表彰が,事故を報告する意 欲を失わせるかどうか,という可能性について検討した 例では,表彰と報告意欲の間に殆ど相関が見られていな い66).一方,失敗に対して罰する文化があれば事故報告 の意欲は失われる12).事故に結びつく失敗について適切 に状況把握するためには,罰する文化の醸成を避ける方 策が必要であると考えられる.失敗に対して罰する文化 の存在により報告意欲が失われる点は,景気が悪くなる と見かけ上事故が減る,という事象を説明できている. 即ち,景気が悪くなると解雇などの恐れが強くなること から,事故報告の意欲が失われ,結果として景気が悪く なると事故が減るように見える67) 適切な安全プログラムは組織の安全に対する文化・風 土に良い効果を与える.しかし,場合によっては安全プ ログラムの取り組みは労働者の協力を得られずに短期的 に終わってしまう.ノルウェーの石油会社における大規 模な安全プログラムでは,感動的なキックオフ大会で熱 狂を生み,労働者が感じる職場の安全風土に大きな変化 があったが,生産圧力が高くなると,安全プログラム(安 全訓練,装備・設備の監査,安全ミーティングなど)へ の優先順位が下がり,効果が薄れ,活動への満足度も下 がっていった.安全プログラム立ち上げ当初は熱狂が生 まれる場合もあるが,組織の安全水準を高めるには長期 的な取り組みが必要である68) 規則は安全に作業をする上で守らねばならないもので あり,違反には罰則を伴う場合もあるが,規則違反の多 い鉱業の事業所を対象にした研究では,規則がそもそも 知られていない,あるいは規則が現実に即していない, 規則がたくさんあって覚えられない,規則は融通が利か ない,などの意見が得られた.その一方で,規則を決め る過程に参加したいと考える労働者も多く,遵守できる 規則を策定する上で,作業する労働者自身の参画が有効 であるとの知見が得られている69).労働者が安全対策に おいて裁量がある場合(作業手袋の選択など),災害発 生率を低減する効果がある54) 3)仕事環境 快適な職場環境は労働者の意欲に繋がることは容易に 推測できるが,中でも労働者の安全ルール遵守や安全行 動の実施,事故発生率と関連すると考えられる要因とし て,清潔さ38),騒音,照明35),不安全な姿勢をとってし まうような設備70),保護具や安全用具の提供71),職場に ある危険源など72),多くの要因が検討されている.職場 のレイアウトが上司と部下の顔が互いに簡単に見えるよ うに設えてある場合,上司-部下の安全についての情報 交換の頻度が増し,それが安全行動に繋がっていた73) 職場が危険であることは,一般的には仕事満足度の低 下に繋がると考えられる.また,職務内容が決まってお らず変化が多い,あるいは下請けで携わる業務が変更さ れやすい状況では安全規則を学ぶ意義を感じ難い.一方, 労働者自身が職務内容にリスクを感じている場合,安全 規則や操作を学ぼうとする意欲に繋がる74) 仕事環境の中でも労働者の行動に直接影響を与えると 考えられるものとしてpressuretoperform(あるいは pressure forproduction, production-safetyconflict等 ) と呼ばれる生産性と安全性のバランスがあげられる.作 業量が余裕をもって実施できる量よりも多い,また,安 全行動をとるために十分な時間を取ることが許されな い,などの状況下では労働者は不安全行動をとってしま

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う8,75,76).割当てられた作業の実行と安全作業を両立で きる,と労働者自身が考えているならば,安全行動を取 るとともに,マネジメント層への信頼が醸成される7) 4)労働者個人の資質・状況 組織の価値観の総体である安全文化・風土が広く検討 されている理由の一つは,災害発生が個々の労働者の資 質によるものではなく,組織要因のためである,個人の 資質に帰すべきではない,という考え方の存在がある. しかし,依然として個々の労働者の資質,性格が労働災 害に対する影響についても継続的な研究は行われてい る.年齢,勤続期間はアンケート調査で必ず取得される データであるが,これらで表される過去の経験,性 格77),知識57,74),学歴 78)と安全行動の関係,さらには 肥満との関係79)なども研究対象である.職務に携わる 期間が長いほど事故の遭遇率は低いと考えられるが,研 究では,職務経験があっても転職するなどして入ってき た新しい現場についての「慣れ・知見(familiarity)」 があるとは限らないことから,その現場固有の問題にす ぐには対処が期待できないことが示されている80,81).勤 続期間が長い場合,測定される文化・風土に対する研究 対象集団の認識のブレ(偏差)が小さくなるという結果 が得られている82).勤続期間が長くなり,考え方が同僚 ・上司の影響を受けて,あるいは自らが同僚・上司とし て影響を及ぼしてだんだんと染まっていく,集団全体が 同じ考えに収束していく,という過程があるものと考え られる. 労働者の性格と労働災害の関係については,Big5 と 呼 ば れ る 性 格 の5分 類( 開 放 性(Opennessto ex-perience),勤勉性(Conscientiousness),外向性( Ex-troversion), 協 調 性(Agreeableness), 情 緒 不 安 定 性 (Neuroticism))を用いた研究がある.その分類におい ては,勤勉性が高い群に分類された人は,注意深く作業 をするため事故に遭遇する率が低いとされている.状況 認識能力が高ければ安全行動を取る傾向にあるが,仮に それが低くても勤勉性が高い場合,安全行動をとるとい う結果が得られている83).さらにKotzeらの研究では, 認識能力は事故に巻き込まれることと相関はないが,勤 勉性は関係しているという結果が得られている84).建設 業を対象にした研究では,運命論的考え方(出来事はあ らかじめ決まっていて人間の努力は効果がないという考 え方)や勤勉性は事故や仕事による肉体的な症状あるい は精神的な症状を呈することに殆ど影響しなかった85) 一方で,労働者の性格は,その労働者の安全行動をあら かじめ予想できる,という結論を得た研究もある.例え ば,静かで情緒が安定し変化によく適応できる者は安全 な労働者,一方衝動的で話好きであり人の話を聞かない 者は不安全な労働者である,と評価されている86) 労働者がもつリスク認知は,その労働者が安全行動を とるうえで影響を与えると考えられる.実際,リスク認 知が低い場合は不安全行動をとり,認識されるリスクが 大きければ安全行動を取る,という点は研究で裏付けら れている26).また、トラック運転手に対する調査では、 彼らのリスク認知は高く,安全を促進する責任があるの は自分である感じていることがわかった87) このことを利用して,労働者教育や啓発では恐怖心を 喚起することで安全行動を促す手法が良く採られる.悲 惨な事故事例を呈示し,被害を強調することで危険な行 動を避けるよう促すことがこれに該当する.しかし,リ スクが余りに高いと感じさせると教育の効果は減じ る88).恐怖を与えると,人は危険を制御しようとするよ りは,恐怖を制御する(メッセージを過小評価するなど) 意識が強くなる.研究の結果,文字情報ではなく視覚的 に訴える恐怖を伴った安全情報は,とくに対応策を伴っ ていない場合にはより強い恐怖を与えた.一方,対応策 についての情報を伴っていれば恐怖が下がり,啓発用ポ スターなどに対する肯定的な態度をとる,という結果で あった.労働者が適切に教育メッセージを受け止め,現 場で危険性を制御する行動を取らせるためには,そのリ スクが制御可能である,との認識が必要である. 一方漁師を対象とした研究では,認識しているリスク が大きいからといって安全行動を取るのではなく,認識 しているリスクが自分にとって制御可能かである,とい う感覚が安全行動を取る上で重要という結果であっ た89).同様に,製造業ではリスク認識とリスク管理可能 性は共に安全行動をとる上で重要であるとの結果が得ら れている90) なお,逆の結果を呈する報告もなされている.すなわ ち,リスクが十分高いと感じていても不安全行動を取る こともある.リスクが高い職業に対するインタビューで は安全を犠牲にして職務を行う価値がある,というコメ ントも得ている91).使命感を伴っている場合には,リス クを度外視した行動を取る可能性がある. しかし,一般にはリスクが高いと感じられる場合には 仕事満足度が低い92).鉱山労働者を対象にした研究では, 仕事満足度が低い場合,事故や怪我の遭遇率が高かっ た72) 5)その他 その他,移民を対象とした認識の調査や安全文化・風 土のスコアについての国際比較が行われている.国民性 を表す軸として,Hofstedeが提唱した権力距離(Power Distance,権限集中をより受け入れる考え方),個人主 義(Individualism),勇猛さ(Masculinity),不確実性 許容度(UncertaintyAvoidance),長期的性向(Long-term

orientation)を利用し,移民の出身国の国民性を基に検 討が行われている93).不確実なものを避けようとする国 民性はあらかじめ決まった対応をより好むため,そのよ うな性質を持った国民は安全文化も高いことが示されて いる94) 4 考察 労働者の事故遭遇の機会を低減し,より安全な職場に するためのアプローチの一つである,労働者の認識につ いての調査,それに影響を与える要素について国際的に 公表されている研究を概観した.労働者が安全に労働を

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行うことは,労働者が実りある人生をおくるための要素 としてだけではなく,企業の実績にも良い効果があると されている.スペインのOHSAS18001認証を受けた131 社の企業に対する調査では,マネジメントの取り組みが 間接的に安全行動や安全成績に影響し,その結果従業員 満足度が向上するため企業の競争力(商品の質,生産性, 顧客満足度,起業イメージ,イノベーションの観点から 測定)が上がる,という相関が得られている45).また, 4年間にわたる製造業のデータを用いた分析の結果,職 場の安全水準を上げる指導は長期的に見れば十分に経済 的であることが示されている95).逆に,従業員の怪我が 多い場合,顧客満足度も低くなり,安全文化・風土が高 い場合,顧客満足度が高いことも示されている96) 概観した中で,労働者の認識に影響を与えるものとし て,これまで研究者が取り組んできた項目は大きく分け て「労働者の周りの人々・組織」「システム・安全プログ ラム・規則」「仕事環境」「労働者個人の資質・状況」があ った.研究の結果は多岐に渡っており,概観した論文中, 同じ研究課題であっても同じ結論には必ずしも至ってい ない.安全文化・風土の水準が,安全実績と相関してい るかどうかへの問いは対象・測定内容によって肯定にも 否定にもなりうる.また,リスクの高い業務は仕事満足 度に対して否定的な方向に働き,低い仕事満足度は安全 への取り組にマイナスの影響を与える,という結果があ る一方で,リスクの高い業務についた場合にはより知識 を得ようとして安全への取り組みに対して前向きにな る,という結果を提示した研究も存在する.労働災害が 発生しやすい組織を判断するために,災害統計のような 発生後の後追い指標ではなく,事故が起こる前に判断で きる先行指標の確立は多くの研究者が取り組んでいる課 題であるが,全産業・全事業所に統一的に適用できる指 標の確立は依然として困難であると思われる. 5 結論 本稿では,国外での実施された労働者の認識に関する 先行研究を収集し,安全に関する労働者の認識に影響を 与える因子について分析した. 先行研究はキーワードを用いたスクリーニング検索か ら得られた315報から本目的に合致するものを選択した 結果132報を分析に供した.分析は,3回のレビューを 通じて各報文を通読し,研究対象を基に分類し,項目と 分類を見直し,確認を行った.その結果,大きく分けて 「労働者の周りの人々・組織」「システム・安全プログラ ム・規則」「仕事環境」「労働者個人の資質・状況」の4分 類が得られた. 「労働者の周りの人々・組織」では,上司やマネジメ ント,同僚,組織の安全文化・風土のほか,家族や協力 会社,元請企業の影響について論じる研究が分類された. 近年の研究動向から,安全文化・風土の報告数は突出し ていたが,そのほか上司や同僚など,労働者の身近にい る人の影響について多く取り上げられていた.上司やマ ネジメントの振る舞いは現場労働者から観察されてお り,労働者は本意を汲み取って自らの行動に反映するこ とが多くの研究から示されていることから,彼らの態度 が労働者の安全認識に大きな影響を与えることが示唆さ れた.  「システム・安全プログラム・規則」では,安全プロ グラム全体のほか,規則や訓練,手順や職場復帰プログ ラム・健康福祉プログラムや失敗報告システムなど各種 システムなどが取り上げられており,とくに安全訓練に ついて関心が高かった.システムの整備は組織からのメ ッセージである一方,整備に際して労働者の参画が得ら れればより効果が期待できることがわかった. 「仕事環境」では,職場の危険源の有無や生産性と安 全性の両立についての多く検討がなされていた.また職 務内容も労働者の安全行動を採ろうとする意識に影響す ることが明らかになった. 「労働者個人の資質・状況」では,仕事満足度やリス ク認識,性格,年齢が研究対象として関心が高かった. リスク認識は安全な行動をとるかどうかを判断する上で 重要な要素である.安全行動をとるためには,自分がリ スクを制御可能かどうかという判断を持つと共に,制御 する方法についての教育が適切に提供されていることが 重要であると考えられる. 労働者の意識に影響を与える度合い・安全行動に結び つく強さなどは相反する結果が得られている論文も見ら れているが,労働者の安全意識に働きかけるアプローチ としてはこれらの視点が有効であると考えられる. 6 謝辞 本研究は,平成27年度厚生労働科学研究費補助金(労 働安全衛生総合研究事業27150101H27-労働-一般- 002)により実施いたしました.ここに謝意を表します.      文

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The influential factors of worker’s attitudes toward safety in a workplace

by

Mieko Kumasaki*

1

, Ken Okada*

2

, Yoshitada Shimizu*

3

, Takuro Shoji*

4

and Ryoji Makino*

5 For safety and health management in the workplace, workers’ active participation is essential. The participation is promoted by workers’ perception, their sense of value, motivation, response toward safety measures, and so on. And the knowledge of the influential factors can be shared across all industry sectors.

This study collected previous studies on workers’ safety perceptions and analyse them to obtain influential factors. The analysis and categorization resulted in four influential factors: people and organization around the worker, system/ safety programme/rules, work environment, workers’ characters and their circumstances. The extent of which the influential factors function for workers is variable depending on organizations, industrial sectors, and research meth-ods they adopt, but these factors are considered to be helpful to design approaches to motivate workers to work safely.

Key Words: workers’ perception, influential factors, previous studies *1 Yokohama National University

*2 Research Institute of Science for Safety and Sustainability, Explosion Safety Research Group *3 Kanagawa Institute of Industrial Science and Technology

*4 University of Occupational and Environmental Health, Japan

参照

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