1.まえがき ディジタル化され,かつネットワーク化された家電機 器のことを情報家電と言う1),2) 。情報のディジタル化が進 展して,家電機器が高機能化し,これらをネットワーク 化することでより高度なサービスを実現する環境が整い つつある。このようなサービスの例として,留守中に玄 関の防犯カメラに映った映像が不審なときに携帯電話に その映像を送るとともに居間のテレビの電源を自動的に 入れて人がいるように見せかけたり,居間で見ているテ レビ番組で紹介された料理の材料が台所の冷蔵庫にある かどうかをネットワークを介して調べて不足分を表示す るなど,家電を状況に応じて作動させることが考えられ ている。こうしたサービスを実現するには,家庭内の端 末が相互に接続できる必要がある。ところが家庭内には, TV受信機や DVD のようなディジタル AV 機器,パソコ ンやプリンタのような PC 周辺機器,エアコン,照明機 器のような白物家電や住宅設備などの各種家電機器があ り,それぞれの種類,分野ごとに異なった規格に基づい て動作している。 情報家電を連携動作させるネットワークは放送と通信 が融合したユビキタス社会を家庭に展開するのに不可欠 なインフラである。このため過去 10 年以上にわたって 研究開発が進められ,総務省や経済産業省などの国もそ の普及に向けて積極的に支援してきた。家電機器を接続 して連携させるホームネットワークということばも定着 した。日,米,欧や韓国などの業界団体を中心にホーム ネットワークの標準化を目指した提案もなされている。 これまでのところネットワーク化が本格化したとは言い がたいが,2006 年になって国内では UWB(Ultra Wide Band Wireless System,超広帯域無線システム)や広帯域 PLC(Wide Band Power Line Communication,広帯域電力 線搬送通信)の使用解禁,無線 LAN の周波数帯域の拡 大など,情報家電ネットワーク化に大きな役割を果たす と思われる注目される動きが続いている。 本論文では情報家電のネットワーク化に関する国内外 での研究開発の現状と,伝送媒体およびホームネット ワークの標準化動向について報告し,当面および将来の 技術課題について述べる。 2.情報家電のネットワーク化に関する国の検討 1998年 2 月に当時の郵政大臣の諮問を受けた電気通信 技術審議会は,宅内高度情報化委員会での検討を基に, 「宅内の高度情報化の将来像と研究開発の推進方策」3)を 答申した。その中で,ホームネットワークへの要求条件 として以下の点を挙げた。 ①可能な限り伝送媒体の統合を図り,マルチメディア情 報を扱える伝送容量,リアルタイム性を持たせる。
情報家電のネットワーク化の現状と将来展望
奥 田 治 雄 *
Technical Trends of the Networking Information Appliances
Haruo OKUDA*
An information appliance (IA) is digitalized and networked home appliance or it’s service. A network of the IA is in-dispensable infrastructure for realizing ubiquitous society in home. Studies for the networking the IA have been carried out for more than ten years. The administrative organs have been supporting the R & D actively. In 2006, there are some new developments for contributing to popularize the networking the IA in Japan. Those are approval of UWB and wide band PLC to use for networking in home, and wireless LAN to expand frequency band to meet the demand. This review paper presents the existing condition of the networking the IA and recent advances in transmission media and home net-work systems. Finally, the present and the future technical problems are discussed.
Vol. 41, No. 1, 2007
*電気電子工学科 教授
②無線方式を含め,部屋間の配線や伝送が容易である。 ③享受するサービスの自由な選択,追加,削除ができ, そのための作業が簡易である。 ④宅内機器の外部からの遠隔制御が簡易,安全,確実 で,今後想定される新サービスに対して柔軟に対応で きる。 答申ではさらに,研究開発・標準化すべき項目として ①宅内ネットワーク:伝送媒体,伝送プロトコルの統一 と大容量化,無線リンクの構築 ②接続ユニット:外部から宅内へのネットワーク接続技 術(プロトコル変換,情報選択・変換) ③サーバー:プライバシー確保,著作権保護技術 ④端末:家庭用ユニバーサルコントローラ などをあげ,その推進を唱えている。 ケーブルテレビ,ADSL や光ファイバなどの普及によ りインターネットのブロードバンド化の進展は著しいも のの,上記の要求条件や研究開発項目は今日でも大きく は変わっていない。 その後,総務省と経済産業省は共同で「情報家電ネッ トワーク化に関する検討会」を立ち上げ,普及の加速化 を目指している。検討会では情報家電ネットワークを 「主に屋内においてネットワーク接続可能なディジタル 家庭電化製品を相互接続し,屋外とも接続する各種ネッ トワークから構成される」と定義し,2005 年 7 月に中間 とりまとめ4) を公表した。図 1 にとりまとめに例示され た情報家電ネットワークのサービス・アプリケーション の一部を示す。サービス・アプリケーションを大きくコ ンテンツ系とコントロール系に分け,前者には映像・音 声配信,携帯・ TV 会議,遠隔医療,e-Learning,後者 には家電自動調節,家電自動 ON-OFF,省エネ制御,防 犯などを挙げている。その上で,機器やネットワーク間 での互換性が重要な課題であることを指摘している。さ らに,構想の具体化に向けた研究開発・実証方法として 以下の項目を挙げた。 ①情報家電を安心・安全に利用するためのプラット フォームの確立・検証 ②制御系サービスモデルの検証 ③コンテンツ配信モデルの検証 これらは,情報家電ネットワーク化を推進するに当 たって未だ検証すべき課題が多いことを示している。 3.ホームネットワークの伝送媒体 ホームネットワークの伝送媒体は大きく有線系と無線 系に分けられる。ここでは有線系,無線系ネットワーク の物理層,データリンク層を合わせて伝送媒体と言うこ ととする。 3.1 伝送媒体に求められる要件 ホームネットワークで提供する主なサービスと要求性 図 1 情報家電ネットワークのサービスアプリケーションの例
能を表 1 にまとめた。ホームネットワークで扱うデータ は,マルチメディア情報から制御情報まで容量に大きな 幅がある。ビデオ,DVD,TV 等の映像情報は 1ch あた り 現 行 TV で 26 Mbps,HDTV(ハイビジョン)で 1425 Mbps,ラジオや CD などの音声情報は 64 kbps1.5 Mbps程度である。一方,家電機器などの制御情報は数 十 kbps と少ない。伝送媒体の特性は主に伝送容量と伝 送距離で評価できる。図 2 に後述する各種伝送媒体の特 性をまとめた。 伝送媒体の導入においてはコスト,取り扱いの難易, 工事の難易,規格や周辺機器の普及状況なども検討対象 になる。有線系伝送媒体では,トポロジー(スター, ループ,たこ足など)が自由で,つないだらすぐに使え (プラグアンドプレイ),電源が入ったままケーブルを接 続でき(活線挿抜),コネクタが小さく,ケーブルが細 くて柔らかいなど,接続が容易にできることが望ましい。 3.2 有線系伝送媒体 有線系の伝送媒体の主なものにはイーサネット,PLC (電力線搬送通信),HomePNA (Home Phoneline Network Alliance),IEEE1394,USB (Universal Serial Bus) がある。 これらの特徴を表 2 に示す。ネットワーク層で使われる プロトコルは,イーサネット系の IP プロトコル (TCP/IP), IEEE1394系の AV プロトコル (IEC61883),USB 用の USB プロトコルがある。 ①イーサネット5) イーサネットは,1973 年に発明された DIX (DEC,Intel, 表 1 ホームネットワークで提供する主なサービスと要求性能 サービス 伝送速度 等時性 コンテンツ保護(個人の コンテンツを除く) 映像情報の伝送 HDTV 28 Mbps 要 必要 DVD,SDTV 26 Mbps 要 必要 音声情報の伝送 ホームシアター用 5 Mbps 要 必要 音声通話 100 kbps 要 不要 インターネット接続 映像ストリーム 10 Mbps 望まれる 必要な場合有り Web閲覧 1 Mbps 不要 一般に不要 オンラインゲーム 1 Mbps 不要 必要な場合有り PC周辺機器接続 数 10数 100 Mbps 不要 不要 家電制御 64 kbps 不要 不要 図 2 各種伝送媒体の伝送距離と伝送速度 (実線:有線系,破線:無線系)
Xerox) 規格が起源で,開発当初は同軸ケーブルを用いた LANで使用された。 その後, 物理媒体が追加されて IEEE802.3として標準規格となり,TCP/IP プロトコルと 組み合わせてオフィスや家庭のネットワークとして広く 普及している。通信速度が 10 Mbps の 10BASE-T から 100 Mbpsの 100BASE-TX,1 Gbps の 1000BASE-T,10 Gbps の 10GBASE-T へと進化している。通信方式の変更など, 度重なる拡張がなされて,利用の簡便さも向上している。 イーサネット規格を表 3 に示す。 イーサネットは広範囲の伝送速度をカバーしていて, 比較的低速の制御系から音声,映像伝送まで適用可能で ある。ただし,等時性(一定量のデータを規程時間内で 転送すること。アイソクロナスとも言う)は保証してい ない。このため,途切れのない映像伝送を実現するには アプリケーション側でバッファリングやジッタ吸収など の対策が必要である。 イーサネットのケーブルは 10BASE-T にはカテゴリ 3 の UTP (Unshielded Twisted
Pair),100BASE-TX/1000BASE-Tにはカテゴリ 5 以上の UTP ケーブルの適用が望まし
い。図 3 にカテゴリ 5 の UTP ケーブルの断面,図 4 に
表 2 有線系伝送媒体の特徴
方式 イーサネット PLC HomePNA IEEE1394 USB
伝送速度 [bps] 10 M/100 M/1 G/10 G 9.6 k45 M 10 M/240 M 100 M/200 M/400 M/ 12 M/480 M 800 M/1.6 G 伝送距離 [m] 2.550 200 150 4.5,50 5 ケーブル UTPなど 電力線 電話線 STP,POF など STP 等時性 , コピー保護 (DTCP-USB
(DTCP-IP で対応)(DTCP-IP で対応)(DTCP-IP で対応) (DTCP) で対応)
主な用途 IPデータ伝送 家電制御, IPデータ伝送 映像・音声伝送 PC周辺機器接続
IPデータ伝送
表 3 イーサネット規格
10BASE-T 100BASE-TX 1000BASE-T 10G BASE-T 規格 IEEE802.3 IEEE802.3u IEEE802.3ab IEEE802.3an
伝送速度 [bps] 10 M 100 M 1 G 10 G
伝送距離 [m] 100 100 100 100
ケーブル UTP Cat3 UTP Cat5/STP UTP Cat5a UTP Cat6a/UTP Cat7 コネクタ RJ-45 RJ-45 RJ-45 RJ-45
接続形態 スター型 スター型 スター型 スター型
UTP: Unshielded Twisted Pair
図 3 イーサネット用ケーブルの構造(UTP カテ
ゴリ 5)
RJ-45コネクタの形状例を示す。 ② PLC PLCは電力線を使って搬送波で変調したディジタル データを送る伝送媒体である。既存のインフラを利用す るため既築の住宅でも配線工事が不要であるというメ リットがある。ただし,電力線はもともと高周波電流を 流すことを想定していないため電波が漏れやすく,放送 やアマチュア無線など他の無線通信業務に有害な混信を 与える可能性がある。このため国内では使用できる周波 数が電波法で 10 kHz450 kHz に規制され,家電制御など 10 kbps以下の低速データ伝送に使われるのみであった。 2006年 10 月に総務省は電波法施行規則の一部を改正し, 屋内において広帯域電力線搬送通信が解禁されることに なった6)。新しい PLC は 2 MHz から 30 MHz の周波数帯 を使用し,他の業務との混信を減らすための共存条件が 策定された。通信状態において許容される伝導妨害波の 電流を図 5 に示す。この改正より PLC が高速の伝送媒体 として適用可能になった。 PLCは今のところ利用する伝送プロトコルや変調方式 が統一されておらず,複数の方式が提案されている状況 である。今後,相互接続性や電波干渉が課題になると考 えられる。 ③ HomePNA7) HomePNAは 1998 年に米国で設立された業界団体が策 定した,電話線をそのまま利用する伝送媒体である。部 屋間に電話線が引かれていれば配線工事が不要というメ リットがあるため,集合住宅やホテルで利用されること が多い。 当初の HomePNA1.0 は伝送速度が 1 Mbps であったが, 1999年に策定された HomePNA2.0 では 10 Mbps となり, 2001年に ITU-T から正式承認を受けた。 4 MHz から
10 MHzの周波数帯域において QAM (Quadrature Ampli-tude Modulation) 変調によってデータを伝送する。2003 年 に策定された HomePNA 3.0 では使用する帯域を 4 MHz か ら 28 MHz に広げ,最大 240 Mbps までの伝送が可能に なった。 HomePNAの伝送フレームは,イーサネットフレーム を挟み込んだ構成になっているため,イーサネットと互 換性がある。ユーザから見れば,イーサネットと同じよ うに扱える。 ④ IEEE13948) IEEE1394は 1995 年に PC の周辺機器接続用として開 発された伝送媒体である (IEEE1394-1995)。アイソクロナ ス転送をサポートしており,映像や音声など高速で等時 性が求められるデータ転送に適している。また,ケーブ ルの活線挿抜やプラグアンドプレイといった機能も持つ。 コンテンツの保護のために DTCP (Digital Transmission Content Protection)9) も組み込まれている。DTCP は機器を 接続する場合に,コンテンツ毎に指定される「コピーフ リー」,「1 回だけコピー可」,「コピー禁止」等の情報に 基づいてコピーを制限する方式で,機器間の認証や,転 送されるコンテンツの暗号化,長期的な安全確保のため のシステム更新などを行う。 IEEE1394( 以下, IEEE を略す) の規格はその後, 1394a-2000,1394b-2002 と拡張された。伝送速度はそれぞ れ 100 M/200 M/400 Mbps,100 M/200 M/400 M/800 M/1.6 G/ 3.2Gbpsで,1 本のケーブルによる伝送距離はそれぞれ 4.5 m,最長 100 m である。2003 年からイーサネットの 1000BASE-Tの物理層を用いて 800 Mbps の 1394b-2002 の データを伝送することのできる P1394c の策定が始まっ た。 IEEE1394各方式の規格を表 4 に示す。 使用するケーブルには電源の供給が可能なものもある。 1394a-2000用ケーブルの断面を図 6(a) に示す。2 組の信 号線と電源線の 6 芯からなり, 電源線では最大 60 W (40 V,1.5 A) の電力を供給できる。同図 (b) は電源線を省 いた 4 芯のもので,ディジタルビデオカメラと PC の接 続などに用いられる。コネクタ,ソケットも芯数に応じ て 6 ピン用,4 ピン用がある。それらの例を図 7 に示す。 ⑤ USB10) USBは,PC を中心とする周辺機器を統一したインタ フェースで接続することが出来るようにすることを目的 にした伝送媒体である。PC をホストとして接続すること を前提にしており本来はネットワークを指向したもので 図 5 PLCで許容される伝導妨害波の電流
はないが,ハブを通して複数のデバイスを接続でき,簡 易なネットワークを構成できる。PC の標準インタフェー スとなったため大きく普及している。最初のバージョン である USB 1.0 は 1996 年に発表され,これを改良した USB 1.1が 1998 年に登場した。その後,上位バージョン の USB 2.0 が開発され伝送速度が 12 Mbps から 480 Mbps へと大幅に向上した。USB 2.0 は USB 1.1 との互換性を備 えており,デバイスを混在させることも可能である。2001 年には PC をホストとせずに USB 対応機器同士で接続す
るための ON-The-Go (OTG) 規格が USB 2.0 の補則として 規格化されている。USB 用コネクタの形状例を図 8 に示 す。 イーサネット,IEEE1394,USB はそれぞれに特徴を もった独立したネットワークである。それらの比較を表 5に示す。今後 IEEE P1394c の進展によっては,これら の融合が進み同じケーブルで様々なサービスが享受でき る可能性がある。 3.3 無線系伝送媒体 無 線 系 の 伝 送 媒 体 の 主 な も の に は 無 線 L A N (IEEE802.11),Bluetooth,ZigBee,IrDA (Infrared Data As-sociation),ワイヤレス USB がある。これらの特徴を表 6 に示す。 無線系ネットワークは配線が不要という大きなメリッ トがあり,簡単に設置できる一方,情報が漏洩し易くセ 表 4 IEEE1394の規格 1394-1995 1394b-2002 1394a-2000 伝送速度 [bps] 100 M/200 M/ 400 M/800 M/ 100 M/200 M/ 100 M 100 M/200 M/ 400 M/800 M/ 400 M 1.6G 400 M 400 M 1.6G 伝送距離 [m] 4.5 4.5 50 100 100 100 ケーブル STP STP POF UTP-5 HPCF MMF コネクタ 専用 専用 PN/SMI RJ-45 PN LC 接続形態 バス, バス, バス, バス, バス, バス, スター型 スター型 スター型 スター型 スター型 スター型
STP: Shielded Twisted Pair UTP: Unshielded Twisted Pair POF: Plastic Optical Fiber HPCF: Hard Polymer Clad Fiber MMF: Multi-mode Fiber
図 6 IEEE1394用ケーブルの構造
図 7 IEEE1394用コネクタの例
キュリティには注意を払う必要がある。 ①無線 LAN (IEEE802.11)11) 無線 LAN はイーサネットと互換性を持つ伝送媒体で, 既築の住宅にも PC 周辺機器のネットワークを容易に構 築できることから急速に普及している。 無線 LAN は 1990 年に IEEE に 802.11 委員会が設立さ れ検討が始まった。1999 年に 2.4 GHz 帯を使用し,伝送 速度が最大 11 Mbps の IEEE802.11b(以下,IEEE を略 す)が標準化された。同じ年には,5 GHz 帯を利用して 最大 54 Mbps の伝送が可能な 802.11a も標準化された。 その後,2.4 GHz 帯を使用して 802.11b と互換性を持ち, 伝送速度が最大 54 Mbps の 802.11g も標準化された。 2006年 10 月には屋内使用に限定されていた 5GHz 帯の帯 域を拡大し,屋外での使用も可能とする電波法施行規則 の一部改正が総務省から示されると共に,2.4 GHz 帯につ いては帯域幅を現在の 4 倍に広げる案がアナウンスされ た12)。 さらに,より高速の伝送が可能な 802.11n 方式も Draft ver1.0が 2006 年 1 月に策定された。802.11n は複数のアン テナ素子や送受信回路を用いて空間多重伝送する MIMO (Multiple Input Multiple Output) 技 術 な ど を 利 用 し , 100200 Mbps の伝送を図る。すでに Draft ver1.0 に準拠 したルータや無線 LAN カードが市販され(図 9),複数 の HDTV ストリームなどの伝送が可能になっている。 無線 LAN の比較を表 7 に示す。 ② Bluetooth13) Bluetoothは携帯電話,PDA,ノート PC などのモバイ ル端末とディジタルカメラやプリンタ,AV 機器などの 周辺機器を無線で接続することを主目的に開発された。 2.4 GHz帯を使用し,比較的低速データの伝送に使われ る。電波の強度により 3 つのクラスがあり,それに対応 して伝送距離が異なる。最大強度のクラス 1 (100mW) の 表 6 無線系伝送媒体の特徴
IEEE802.11b/g/a Bluetooth ZigBee IrDA ワイヤレス USB
周波数帯 [Hz] 2.4 G, 5.2 G 2.4 G 2.4 G 赤外線 3.1 G10.6 G (850900 nm) 伝送速度 [bps] 11 M, 54 M 1 M 250 k 4 M 480 M 最大伝送距離 100 100 (Class 1) 69 1 10 (屋内)[m] 10 (Class 2) 1 (class 3) 変調方式 DSSS FFHSS O-QPSK GFSK/FHSS 等時性 , 主な利用分野 IPデータ伝送 携帯電話, ホームオート PC周辺機器, 映像, IPデータ伝送 メーション, 携帯電話, マルチメディア ファクトリー 携帯型ゲーム機 オートメーション
DSSS: Direct Sequence Spread Spectrum FHSS: Frequency Hopping Spread Spectrum O-QPSK: Offset Quadrature Phase Shift Keying
表 5 イーサネット,IEEE1394,USB の比較
イーサネット IEEE1394 USB
基本トポロジー スター バス,スター ツリー
伝送速度 [bps] 10 M/100 M/1G/10 G 100 M/200M/400 M/800 M/1.6 G 12 M/480 M 伝送媒体 UTP, MMファイバ, STP, UTP, POF, STP
SMファイバ,電話線, MMファイバ,
電力線 同軸
伝送距離は半径 100 m,最小のクラス 3 (1mW) では半径
1 mである。音声とデータを同時伝送することができる。
Bluetoothは 業 界 団 体 の Bluetooth SIG (Special Interest Group) により規格化され,2003 年に伝送速度が 1 Mbps の Ver 1.2 が策定された。最新の Ver.2.0+EDR (Enhanced Data Rate) の伝送速度は最大 3 Mbps である。物理的,論 理的な仕様を規定したコア仕様だけでなく,その上で流 れるデータのプロトコルを規定するプロファイル仕様が ある。アプリケーションに対応して LAP (LAN Access Pro-file),BIP (Basic Imaging Profile),A2DP (Advanced Audio Distribution Profile) など,多くのプロファイルが規定され ている。 ③ ZigBee14) ZigBeeはもともと赤外線リモコンのようなホームオー トメーションやファクトリーオートメーションへの応用 を 目 指 し て IEEE の 802.15.4 委 員 会 で 検 討 さ れ た 。 2.4 GHz帯を使用して伝送距離は 969 m,伝送速度は 250 kbpsと低速であるがセンサネットワークなどユビキ タスシステムへの応用が期待されている。省電力化が図 られ,電池によって数ヶ月以上動作することが想定され ている。ネットワーク層以上については ZigBee Allience が検討し 2004 年に仕様が確定している。 ④ IrDA15) IrDAは赤外線を利用した近距離のデータ通信を行なう ための技術仕様を策定する業界団体であるが,同団体が 定めた赤外線通信の規格も指す。通信可能距離が 1 m, 通信速度 115.2 kbps までの Ver.1.0 仕様と,1 m 以内で 4 Mbpsまでの 1.1 仕様,0.2 m 以内で 115.2 kbps までの 1.2 仕様(低消費電力版)がある。デスクトップ型 PC と ノート PC などを接続するのに使われる。最近は携帯電 話や携帯型ゲーム機で使われることが多い。伝送に使う 光の直進性により送・受信間に遮蔽物があると通信でき ないという欠点があるが,このことが逆にセキュリティ の問題が少ないという利点にもなっている。 ⑤ワイヤレス USB
ワイヤレス USB は UWB(Ultra Wide Band,超高帯域
無線システム)16)をベースとした USB の無線規格である。 UWBは,PC や周辺機器,携帯機器などを 10 m 以内 の短距離で高速に無線接続する技術で,3.1 GHz10.6 GHzまでの広い帯域を利用する。他のシステムが使って いる周波数帯と重なることから,干渉や妨害の恐れが指 摘されていたが,国内では出力を図 10 に示す電力マス ク(平均電力の上限値)まで落とすことと,屋内での使 用に限定することで共用が可能になる見通しが得られた。 2006年 8 月に電波法施行規則が改正されて国内での使用 が解禁された。今後の技術進展に対応するため電力マス クは暫定的なものになっている。変調方式は複数が提案 されており,電力マスクの制限を満たしていれば方式は 限定されない。 ワイヤレス USB 規格は,無線部分を除くと USB 2.0 と 互換性がある。最大到達距離は 10 m 程度で,伝送速度 表 7 無線 LAN の技術基準の概要 802.11b 802.11a 802.11g 802.11n (draft) 周波数帯 [GHz] 2.4 5.2 2.4 2.4/5 伝送速度 [bps] 11 M 54 M 54 M 100–200 M, 600 M (MIMO) 伝送距離 リンク速度 遅 速 中 — 同時使用チャネル数 4 4 3 — 屋外での使用 可 不可 可 — 電波干渉 弱 強 弱 —
図 9 IEEE101.11n (Draft) 準拠のルータと無線 LAN カード
は,3 m 以内であれば USB 2.0 と同じ 480 Mbps,3 m 以上 離れている場合は 110 Mbps 程度である。 4.情報家電の相互接続 ホームネットワークに繋がる機器の相互接続性を確保 するためにはシステム全体のアーキテクチャを標準化し た上で,伝送媒体,ネットワークプロトコル,ミドル ウェア,扱うデータの形式などを規定する必要がある。 ミドルウェアとはネットワークに繋がった機器を外部か らの信号によって制御し,サービスを提供するためのイ ンタフェース仕様などを定めたソフトウェアモジュール である。IP 系の Jini (JAVA Intelligent Network Infrastruc-ture)と UPnP (Universal Plug and Play), IEEE1394 系 の HAVi (Home Audio/Video Interoperability) などがあり,現 在は UPnP が広く使われている。
ホームネットワークの標準化はアプリケーションを想 定しながら業界団体により検討が進められている。主な
ものに,マルチメディアコンテンツの伝送を目的とした DLNA (Digital Living Network Alliance) や HANA (High-Def-inition Audio-Video Network Alliance),白物家電や住宅設 備の遠隔制御を目的とした ECHONET (Energy Conserva-tion and Homecare Network) がある。表 8 に標準化された ホームネットワークの概要を示す。いずれも既存の規格 を組み合わせ,不足している部分を新たに補う方法で標 準化している。 4.1 ホームネットワークのアーキテクチャ 1.で述べた「宅内の高度情報化の将来像と研究開発 の推進方策」に基づいて日本では宅内情報通信・放送高 度化フォーラムが設立され,ホームネットワークの標準 仕様の作成・提案と普及促進を目指してきた17) 。ITU-T は,このフォーラムや米国の Cable Labs の提案を基に, 2002年に図 11 のようなホームネットワークのアーキテ
クチャを J.190 “Architecture of MediaHomeNet that supports cable based services” として規格化した18)
。 このアーキテクチャはホームネットワークを大きく IP ドメインと固有プロトコルドメインに分け,後者はさら に,ディジタル AV,PC,電話・ FAX,くらし環境の 4 つのプレーンに分けている。各プレーンに分かれるまで のバックボーンに IP プロトコルを使うことと,家庭への 入り口や各プレーンの入り口にゲートウェイを置くこと がこのアーキテクチャの特徴である。ゲートウェイには 家庭内の IP 対応機器と家庭外のネットワークとの接続, 固有プロトコルを使用する機器と家庭外ネットワークの 接続および異なる固有プロトコルを使用する機器同士の 接続などの役割がある。具体的な機能には,通信ネット ワークのブリッジ機能(家庭外の通信ネットワークの終 図 10 UWBの暫定電力マスク 表 8 標準化されたホームネットワークの概要
DLNA HANA ECHONET
標準化団体 Digital Living Network Alliance High-Definition ECHONETコンソーシアム Audio-Video Network
Alliance
対象とする機器 映像・音響機器 映像・音響機器 住宅設備,白物家電
主な伝送媒体 イーサネット,無線 LAN, IEEE1394 Bluetooth,PLC,
Bluetooth イーサネット,IrDA,
小電力無線
ネットワーク TCP/IP,UDP/IP IEEE1394protocol UDP/IP,IrDA,
プロトコル LonTALKなど
機器検出,制御 UPnP CEA-931-A 専用
AVデータ形式 MPEG-2,JPEG,LPCM など MPEG-2など —
端,家庭内ネットワークへの変換,インタネットサービ スの終端,放送サービスの終端,マルチチューナ),ネッ トワーク管理機能(アドレシングおよびディレクトリ サービス,認証,暗号通信などのセキュリティ,帯域保 障,遅延保障など QoS,デスクランブル,CAS などコン テンツサービスの終端),ミドルウェア変換機能,アプ リケーション共通機能(著作権保護,決済,認証)など がある。 4.2 ホームネットワークの標準化 ① DLNA19) DLNAはホームネットワークでディジタル AV 機器同 士や PC を相互に接続し,動画,音楽,静止画像のデー タを相互利用する仕様を策定するために設立された業界 団体である。日,米,欧,韓国のメーカーが参加してい る 。 2003 年 に 設 立 さ れ た 前 身 の DHWG (Digital Home Working Group) が,2004 年に改称したもので,同時に DLNAガイドラインを発行した。 同ガイドラインは, UPnPをベースに相互接続のために最低限サポートすべ き仕様を追加して規定したものである。コンテンツを提 供するサーバーを DMS (Digital Media Server),再生する クライアントを DMP (Digital Media Player) と呼び,DMS と DMP の間の接続は UPnP のプロトコルなどを使用して 行う。伝送媒体はイーサネットまたは無線 LAN を利用 し,通信プロトコルは TCP/IP である。制御メッセージ の交換やファイル転送には HTTP (Hypertext Transfer Pro-tocol) を使い,メッセージは XML (Extensible Markup Lan-guage) で記述する。動画,静止画のデータ形式はそれぞ れ MPEG2,JPEG である。 アプリケーションには,DMS に収録されたコンテンツ (動画,静止画,音楽)を別の部屋の DMP で視聴するこ となどを想定している。 ② HANA20) HANAは HDTV 対応の次世代 AV ネットワーク規格策 定を目的に 2005 年に設立された業界団体である。米国 を中心に日韓のメーカーも参加して,セキュアな映像・ 音響ネットワークのための設計ガイドラインを作成して いる。接続対象には HDTV 機器,次世代 DVD プレー ヤー,PVR (Personal Video Recorder),CATV の STB (Set Top Box),ホームシアターなどを想定する。伝送媒体は IEEE1394である。IEEE1394 はアイソクロナス転送が可 能なことから大容量の HDTV コンテンツを高品質で伝送 できる。またコンテンツ保護のために IEEE1394 の DTCP の機能を利用する。 アプリケーションとして,複数チャンネルの高品位番 組を同時に視聴・一時停止・録画,1 台の STB を使って 家庭内のどこからでも視聴・一時停止・録画,PC と AV 機器間での個人のコンテンツの共有,1 台のリモコンで 全ての AV 機器を操作してコンテンツを利用することな どを想定している。 ③ ECHONET21) ECHONETは,住宅設備や白物家電の制御を主な目的 としたホームネットワークの機器連携の規格である。 1 9 9 7年 に 日 本 の 家 電 メ ー カ ー に よ り 設 立 さ れ た ECHONETコンソーシアムが規格を策定している。伝送 媒体として数 10 kbps 以下の電灯線,無線,赤外線など 様々なものが利用可能である。通信速度や技術の進展度 合が異なる映像・音響系とはゲートウェイを介して接続 する構成をとる。家の外と通信回線で接続でき,社会シ ステムと連携して高度なサービスを実現できる。戸建て や集合住宅以外に店舗や中小ビルなども対象とする。 アプリケーションには人の有無を感知して機器の自動 電源 ON/OFF,火災・ガス漏れの監視,在宅医療機器の 図 11 ITU-Tが規格化したホームネットワークのアーキテクチャ
監視・制御,体温・体重・脈拍の監視・制御などを例示 している。さらに外部の広域ネットワークを通して,機 器リモートメンテナンス,ホームヘルスケア,快適生活 支援,セキュリティサービス,省エネ,モバイル機器と の連携なども想定している。 5.今後の研究課題 これまで述べたような,ここ数年の研究開発や標準化 の進展は情報家電のネットワーク化に大きく貢献すると 考えられる。しかし課題が全て解決されたわけではなく, 逆に新しい研究課題も生み出している。 例えば PLC,UWB などによる既存の無線通信業務へ の妨害は,それらが多く使われるのに従って顕在化する と考えられ,干渉低減技術はなお重要な研究課題であ る。様々な伝送媒体が並存するなかで,これらをシーム レスにつなぐブリッジ技術も現状では十分と言えない。 応用面では,白物家電や住宅設備と AV 機器を連携さ せたアプリケーションは,昔からアイデアはあるものの 広くユーザに受け入れられるものとはなっていない。キ ラーアプリケーションといわれる魅力的な応用分野の開 拓が急がれる。アプリケーションの開拓においては情報 の漏洩や成りすましなどに対するセキュリティ確保や, 見えないものを制御する際の火災,ガス漏れ,漏水など への安全対策も不可欠である。また,ディジタル放送や 次世代 DVD などが普及して,高品質 AV 情報が容易に扱 えるようになることから,コピー回数の制限,コンテン ツの流通する範囲の制限などのコンテンツ保護機能もま すます求められることになるだろう。 6.あとがき 情報家電ネットワーク化の研究開発および標準化の動 向について述べた。 過去 10 年以上にわたって普及が図られた家庭内のネッ トワーク化がここ 12 年で大きく進展する兆しを見せて いる。その契機になったのは PLC,UWB などの新しい 伝送媒体の使用解禁と,DLNA のようなホームネット ワークの標準化である。これらに共通するキーワードは ブロードバンドと No New Wire である。既築住宅でも工 事を必要とせず(従ってコストがあまりかからず),知 識の少ない人でも容易にネットワークを構築して大容量 の情報を扱えるようになる。今後の研究開発の中心は ハード面から,サービス・アプリケーションや使い易さ, 安全・安心など,ソフト面をより重視したものになるで あろう。 参 考 文 献 1) 丹康雄監修,奥田ほか共著:“ホームネットワーク と情報家電”,オーム社 (2004.9). 2) 坂田史郎監修,金森ほか共著:“SIP/UPnP 情報家電 プロトコル”,秀和システム (2005.2). 3) 電気通信技術審議会答申「宅内の高度情報化の将 来 像 と 研 究 開 発 の 推 進 方 策 」( 諮 問 第 9 7 号 ) (1998.6). 4) 総務省,経済産業省「情報家電ネットワーク化に関 する検討会」中間とりまとめ (2005.7) 5) http://www.ieee802.org/3/ 6) 総務省令第 118 号電波法施行規則の一部を改正する 省令,総務省令第 119 号無線設備規則の一部を改正 する省令 (2006.8). 7) http://www.homepna.org/ 8) http://www.1394ta.org/index.html 9) http://www.dtcp.com/ 10) http://www.usb.org/home 11) http://www.ieee802.org/11/ 12) 総務省報道資料「屋内外で利用可能な免許を要し な い 5 G H z 帯 無 線 L A N の 導 入 等 に つ い て 」 (2006.12). 13) http://www.bluetooth.com/bluetooth/ 14) http://www.zigbee.org/en/index.asp 15) http://www.irda.org/ 16) 総務省令第 104 号電波法施行規則の一部を改正する 省令,総務省令第 105 号無線設備規則の一部を改正 する省令 (2006.8). 17) 奥田:“ホームネットワーク”,映情学誌,57, 5 (2003.5).
18) ITU-T Recommendation J.190 “Architecture of Media-HomeNet that supports cable based services” (2002.7). 19) http://www.dlna.org/en/consumer/home
20) http://www.hanaalliance.org/ 21) http://www.echonet.gr.jp/